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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1282969
審判番号 不服2013-8661  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-10 
確定日 2013-12-12 
事件の表示 特願2008-240827「紙容器」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月 2日出願公開、特開2010- 69766〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成20年9月19日の出願であって、平成25年2月5日付けで拒絶査定がなされ、同年5月10日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に同日付けで手続補正書が提出され、同年6月19日付けの審尋に対し、同年8月6日付けで回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成25年5月10日付で補正された特許請求の範囲、明細書及び及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1の記載は次のとおりである。
「紙基材層の外側に、ヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層が押出積層され、
他方、上記の紙基材層の内側に、該紙基材層の面に施したコロナ処理面を介して、ヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層、接着層、バリア層、接着層及びヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層の五層の押出コ-ティング膜からなるバリア性シーラントが積層された複合材料を使用して製函した紙容器であって、
更に、上記のヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層が、密度=1.20?1.30g/cm^(3) 、MFR =1?20g/10分を有するポリ乳酸樹脂からなり、且つ柔軟化改質剤を1?30%含むことからなり、
また、上記のバリア層は、エチレン-ビニルアルコール共重合体、6-ナイロン、6-66共重合ナイロン又はMXD-6メタキシリレンジアミンの何れか一種からなり、
また、上記のバリア層の両側の接着層は、酸変性樹脂からなること
を特徴とする複合材からなるバリア性を有する紙容器。」
(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

3.刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2008-155432号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
ア 「【請求項1】
生分解性樹脂を主成分とする樹脂組成物による生分解性樹脂層、接着性樹脂層、バリア性樹脂層、接着性樹脂層、および、生分解性樹脂を主成分とする樹脂組成物による生分解性樹脂層の順で共押出した多層積層樹脂フィルムからなり、更に、上記の生分解性樹脂層が、ポリ乳酸樹脂と柔軟化改質剤とを、前者65?95重両部、後者5?35重量部の配合割合で混練してなる混合樹脂を主成分とする樹脂組成物による生分解性樹脂層からなり、また、上記のバリア性樹脂層が、エチレン-ビニルアルコ-ル共重合体を主成分とするバリア性樹脂組成物によるバリア性樹脂層からなることを特徴とするバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルム。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂が、密度、1.10?1.30g/cm^(3) 、融点、150℃?170℃、メルトフロ-レイト(MFR)、1.0?20.0g/10分からなることを特徴とする上記の請求項1に記載するバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルム。
・・・(中略)・・・
【請求項7】
接着性樹脂層が、酸変性ポリオレフィン系樹脂を主成分とする接着性樹脂組成物による接着性樹脂層からなることを特徴とする上記の請求項1?6のいずれか1項に記載するバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルム。」

イ 「【0004】
本発明者は、・・・(中略)・・・まず、生分解性樹脂として、ポリ乳酸樹脂と柔軟化改質剤とを、前者65?95重両部、後者5?35重量部の配合割合で混練してなる混合樹脂を使用し、そして、その混合樹脂からなる生分解性樹脂を主成分とする樹脂組成物を調製し、また、バリア性樹脂として、エチレン-ビニルアルコ-ル共重合体を使用し、そして、それを主成分とするバリア性樹脂組成物を調製し、更に、上記の生分解性樹脂とエチレン-ビニルアルコ-ル共重合体とに接着性を有する接着性樹脂を使用し、そして、それを主成分とする接着性樹脂組成物を調製し、次いで、少なくとも、上記の三つの樹脂組成物を使用し、これらを共押出積層加工して、生分解性樹脂を主成分とする樹脂組成物による生分解性樹脂層、接着性樹脂組成物による接着性樹脂層、バリア性樹脂組成物によるバリア性樹脂層、接着性樹脂組成物による接着性樹脂層、および、生分解性樹脂を主成分とする樹脂組成物による生分解性樹脂層の順で共押出した少なくとも5層からなる多層積層樹脂フィルムを製造し、而して、該多層積層樹脂フィルムをヒ-トシ-ル性フィルムとして使用し、その多層積層樹脂フィルムを構成する一方の生分解性樹脂層の面に、例えば、他の基材シ-ト、その他等を積層して積層体を製造し、しかる後、該積層体を使用し、その他方の生分解性樹脂層の面を対向させて重ね合わせ、その外周周辺の端部をヒ-トシ-ルしてシ-ル部を形成して包装用袋を製造し、次いで、該包装用袋の開口部から、種々の飲食品、その他等の内容物を充填し、しかる後、その開口部をヒ-トシ-ルし、密閉して包装製品を製造したところ、上記の積層体を構成するヒ-トシ-ル性フィルムが、各層間において極めて強固に密接着し、その層間剥離(デラミ)等の現象は認められず、更に、ヒ-トシ-ル特性に優れ、その密閉性に優れている共に、その使用に際しては、極めて良好な易開封性を有し、更にまた、酸素ガスの透過を阻止する酸素バリア性にも優れて内容物の保存性、貯蔵性等を有し、かつ、生分解性を備え、使用後の廃棄処理適性に優れた極めて有用なバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムを製造し得ることを見出して本発明を完成したものである。」

ウ 「【0006】
本発明に係るバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムは、接着性樹脂層を介して、生分解性樹脂層とバリア性樹脂層とを積層することから、その各層間は極めて強固に密接着し、各層間での層間剥離(デラミ)等の現象は認められないものである。
また、本発明に係るバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムは、ポリ乳酸樹脂と柔軟化改質剤との混合物で生分解性樹脂層を構成することから、その柔軟化改質剤により、ポリ乳酸樹脂に柔軟性等を付与し、ポリ乳酸樹脂が、本来的に有している透明性、美麗性等を保持すると共に極めて良好なヒ-トシ-ル特性をも有し、更に、その耐衝撃性等が向上され、また、凝集破壊の機能が維持され、かつ、凝集破壊によって剥離する際に、糸引等の現象等を抑えることができるという利点を有するものである。
更に、本発明に係るバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムは、バリア性樹脂としてのエチレン-ビニルアルコ-ル共重合体を使用し、そのバリア性樹脂層を層間の中間層に有することから、特に、酸素ガス等の透過を阻止する酸素ガスバリア性が、安定し、その効果に富むものである。
すなわち、本発明に係るバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムは、ヒ-トシ-ル材として、ヒ-トシ-ル性に優れ、その密封性を十分に満足し得るものであって、内容物の品質の保護、保存期間の延長、その他等の要請を充足すると共に、更に、使用時に包装用容器等を容易に開封することができる易開封性を有するものである。
更に、本発明に係るバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムは、酸素ガス等の透過を阻止する酸素ガスバリア性に優れていると共に生分解性を備え、自然環境中で分解性を有するという利点を備えているものである。」

エ 「【0010】
次に、本発明において、上記のような本発明に係るバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムを使用して製造する本発明に係る積層体について説明すると、・・・(中略)・・・まず、例えば、所望の基材シ-ト11のコロナ処理等からなる裏面に、例えば、所望の文字、記号、絵柄、図形、その他等からなる印刷模様層12を形成した後、該印刷模様層12を含む基材シ-ト11の面に、上記の図1に示す本発明に係るバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムAを、それを構成する一方の生分解性樹脂を主成分とする樹脂組成物による生分解性樹脂層(1→1a、1´→1´a)の面を対向させて重ね合わせて積層して、本発明に係る積層体Bを製造することができる。」

オ 「【0034】
以上の説明で明らかなように、本発明に係るバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムは、バリア性材料等であると共にヒ-トシ-ル性材料としても作用し、アルミニウムレスでありながら酸素ガスおよび水蒸気の透過を阻止するガスバリア性等に優れ、また、ヒ-トシ-ル性等にも優れ、更に、強度等を有し、かつ、耐侯性、耐熱性、耐水性、ラミネ-ト強度、その他等の諸堅牢性に優れ、内容物の充填包装適性、保存適性等を有し、包装用材料として極めて優れた有用性を有し、かつ、包装外観を損ねることなく美粧性に優れ、更に、使用後に焼却廃棄処理する際に有害物質等を発生することなく、廃棄処理適性、環境適性等に極めて優れ、また、金属探知機等による金属片(異物)探知も容易であるという利点を有するものである。
而して、本発明に係るバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムは、これをバリア性材料あるいはヒ-トシ-ル性材料等として使用し、これと、プラスチックフィルム等の他の基材、紙基材、他の酸素ガスあるいは水蒸気等の透過を阻止するバリア性基材、セロハン、織布ないし不織布、ガラス板、その他等の種々の基材シ-トの1種ないし2種以上と任意に積層して、種々の形態からなる積層体を製造し、而して、該積層体を使用し、これを製袋して、種々の形態からなる包装用袋、包装製品等を構成する包装用材料、その他等の用途に適用し得るものである。」

カ 「【0042】
更にまた、本発明においては、通常、包装用容器は、物理的にも化学的にも過酷な条件におかれることから、包装用容器を構成する包装材料には、厳しい包装適性が要求され、変形防止強度、落下衝撃強度、耐ピンホ-ル性、耐熱性、密封性、品質保全性、作業性、衛生性、その他等の種々の条件が要求され、このために、本発明においては、上記のような諸条件を充足する材料を任意に選択して使用することができる。具体的には、例えば、・・・(中略)・・・その他等の公知の樹脂のフィルムないしシ-トから任意に選択して使用することができる。
その他、例えば、セロハン等のフィルム、合成紙等も使用することができる。」

キ 「【0049】
而して、本発明において、上記のように本発明に係る積層体を使用して、本発明に係る包装用袋を製袋する方法について説明すると、上記のような本発明に係る積層体を使用し、その内層のヒ-トシ-ル性材料としての本発明に係るバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムの面を対向させて、それを折り重ねるか、或いは、その二枚を重ね合わせ、更にその周辺端部をヒ-トシ-ルしてシ-ル部を設けて、種々の形態からなる包装用袋を製袋することができる。
而して、その製袋方法としては、上記の積層材を、その内層の面を対向させて折り曲げるか、あるいはその二枚を重ね合わせ、更にその外周の周辺端部を、例えば、側面シ-ル型、二方シ-ル型、三方シ-ル型、四方シ-ル型、封筒貼りシ-ル型、合掌貼りシ-ル型(ピロ-シ-ル型)、ひだ付シ-ル型、平底シ-ル型、角底シ-ル型、その他等のヒ-トシ-ル形態によりヒ-トシ-ルして、本発明に係る種々の形態の包装用袋を製造することができる。
その他、例えば、自立性包装袋(スタンディングパウチ)等も製造することが可能であり、更に、本発明においては、上記の積層材を使用してチュ-ブ容器等も製造することができる。
上記において、ヒ-トシ-ルの方法としては、例えば、バ-シ-ル、回転ロ-ルシ-ル、ベルトシ-ル、インパルスシ-ル、高周波シ-ル、超音波シ-ル等の公知の方法で行うことができる。
なお、本発明においては、上記のような包装用袋には、例えば、ワンピ-スタイプ、ツウ-ピ-スタイプ、その他等の注出口、あるいは開閉用ジッパ-等を任意に取り付けることができる。
【0050】
次にまた、包装用容器として、紙基材を含む液体充填用紙容器の場合には、まず、積層体として、紙基材を積層した積層体を製造し、これから所望の紙容器を製造するブランク板を製造し、しかる後該ブランク板を使用して胴部、底部、頭部等を製函して、例えば、ブリックタイプ、フラットタイプあるいはゲ-ベルトップタイプの液体用紙容器等を製造することができる。」

ク 「【0054】
(1).まず、下記の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、および、(ホ)の樹脂組成物を調製した。
(イ).第一層を構成する樹脂組成物
表面層を構成する樹脂組成物として、ポリ乳酸樹脂(PLA)(三井化学株式会社製、商品名、レイシアH400:密度=1.26g/cm^(3) 、メルトフロ-レイト(MFR)=2.7g/10分、融点166℃)70.0重量部と、ポリブチレンサクシネ-ト(三菱化学株式会社製、商品名、GS Pla AZ9IT:密度=1.26g/cm^(3 )、メルトフロ-レイト(MFR)=4.5g/10分、融点110℃)30.0重量部とを充分に混練して樹脂組成物を調製した。
(ロ).第二層を構成する樹脂組成物
接着性樹脂層を構成する樹脂組成物として、無水マレイン酸変性の接着性ポリエチレン(三井化学株式会社製、商品名、アドマ-SF600)100.0重量部を充分に混練して樹脂組成物を調製した。
(ハ).第三層を構成する樹脂組成物
バリア性樹脂層を構成する樹脂組成物として、エチレン-ビニルアルコ-ル共重合体(クラレ株式会社製、商品名、エバ-ルF101B:密度=1.19g/cm^(3)、メルトフロ-レイト(MFR)=1.6g/10分、融点=183℃、エチレンモル濃度=32モル%)100.0を充分に混練して樹脂組成物を調製した。
(ニ).第四層を構成する樹脂組成物
上記の(ロ)の第二層を構成する樹脂組成物と同じ樹脂組成物を使用した。
(ホ).第五層を構成する樹脂組成物
上記の(イ)の第一層を構成する樹脂組成物と同じ樹脂組成物を使用した。
(2).次に、上記で調製した5種の樹脂組成物を使用し、これらを、5種5層(実質的には3種5層)の上吹き空冷インフレ-ション共押出製膜機を用いて、・・・(中略)・・・3種5層の総厚60μmの共押出インフレ-ションフィルムからなる本発明に係るバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムを製造した。」
なお、上記イの記載における「前者65?95重両部」は、「前者65?95重量部」の誤記と認められる。

以上の記載から、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

「生分解性樹脂層、接着性樹脂層、バリア性樹脂層、接着性樹脂層及び生分解性樹脂層の順で共押出した5層の多層積層樹脂フィルムからなるバリア性を有するヒートシール性フィルムに、その多層積層樹脂フィルムを構成する一方の生分解性樹脂層の面に、他の基材シートを積層してなる積層体を使用し、その他方の生分解性樹脂層の面を対向させて重ね合わせ、その外周周辺の端部をヒートシールしてシール部を形成した包装用袋であって、上記の生分解性樹脂層が、密度、1.10?1.30g/cm^(3) 、融点、150℃?170℃、メルトフローレイト(MFR)、1.0?20.0g/10分からなるポリ乳酸樹脂と柔軟化改質剤とを、前者65?95重量部、後者5?35重量部の配合割合で混練してなる混合樹脂を主成分とする樹脂組成物による生分解性樹脂層からなり、また、上記のバリア性樹脂層がエチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とするバリア性樹脂組成物によるバリア性樹脂層からなり、接着樹脂層が酸変性ポリオレフィン系樹脂を主成分とする接着性樹脂組成物による接着性樹脂層からなる包装用袋。」

(2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2007-276791号公報(以下、「刊行物2」という)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
ア 「【請求項1】
筒状のカップ胴部材と、当該筒状のカップ胴部材の底部を密閉する底部材とからなる紙カップにおいて、上記の筒状のカップ胴部材と底部材とを、少なくとも、紙基材、バイオマス樹脂組成物層からなる接着性樹脂層、バイオマスプラスチック延伸フィルムの一方の面に無機酸化物の蒸着膜を設けた構成からなるバリア層、および、バイオマス樹脂組成物層からなる最内層を順次に積層した積層材で構成することを特徴とする紙カップ。
【請求項2】
前記の紙基材の外層に、更にバイオマス樹脂組成物層を形成することを特徴とする請求項1記載の紙カップ。
【請求項3】
前記のバイオマス樹脂組成物が、ポリ乳酸系樹脂からなり、前記のバイオマスプラスチック延伸フィルムが、ポリ乳酸系フィルムからなることを特徴とする請求項1又は2記載の紙カップ。」

イ 「【0011】
図1は本発明に係る紙カップ20の断面図である。
図1に示すように、本発明に係る紙カップ20を構成する、一実施例を示す積層体10は、表面側よりバイオマス樹脂組成物からなる層1と、紙基材層2と、接着性樹脂層としてバイオマス樹脂組成物からなる層3と、無機酸化物の蒸着膜4を形成した延伸バイオマスプラスチックフィルム層5(バリア層)と、アンカーコート層としてバイオマス樹脂組成物からなる層6と、最内層としてバイオマス樹脂組成物からなる層7を順次積層する基本構成からなる。なお、アンカーコート層6は、必須の層でなく、層間密着性のために必要に応じて、適宜設けられる層である。」

ウ 「【0034】
次に、本発明において、本発明にかかる紙容器を構成する最外層1としては、前述の最内層と同様な素材を同様に使用して形成することができ、例えば、熱によって溶融し相互に融着し得る各種のヒートシール性を有する生分解性を有する樹脂を使用することができる。
具体的には、例えば、ポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸、及び脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸から誘導される脂肪族ポリエステル等の樹脂を使用することができる。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「生分解性樹脂層」は、密度、1.10?1.30g/cm^(3) 、融点、150℃?170℃、メルトフローレイト(MFR)、1.0?20.0g/10分からなるポリ乳酸樹脂と柔軟化改質剤とを、前者65?95重量部、後者5?35重量部の配合割合で混練してなる混合樹脂を主成分とする樹脂組成物による生分解性樹脂層からなり、かつ、対向させて重ね合わせ、ヒートシールしてシール部を形成することができるものであるから、引用発明における「生分解性樹脂層」と本願発明における「ヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層」とは、所定の密度及び所定のMFRを有し、且つ柔軟化改質剤を含むヒートシール性ポリ乳酸樹脂層である点で共通する。
引用発明における「酸変性ポリオレフィン系樹脂を主成分とする接着性樹脂組成物による接着性樹脂層」は、本願発明における「酸変性樹脂からなる」「接着層」に相当する。また、引用発明において、「接着性樹脂層」はバリア性樹脂層の両側に設けられている。
本願発明における「エチレン-ビニルアルコール共重合体、6-ナイロン、6-66共重合ナイロン又はMXD-6メタキシリレンジアミンの何れか一種」という記載は択一的記載であることを考慮すると、引用発明における「エチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とするバリア性樹脂組成物によるバリア性樹脂層」は、本願発明における「エチレン-ビニルアルコール共重合体、6-ナイロン、6-66共重合ナイロン又はMXD-6メタキシリレンジアミンの何れか一種からな」る「バリア層」に相当する。
引用発明における「生分解性樹脂層、接着性樹脂層、バリア性樹脂層、接着性樹脂層及び生分解性樹脂層の順で共押出した5層の多層積層樹脂フィルムからなるバリア性を有するヒートシール性フィルム」は、本願発明における「ヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層、接着層、バリア層、接着層及びヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層の五層の押出コ-ティング膜からなるバリア性シーラント」に相当する。
引用発明における「基材シート」と本願発明における「紙基材層」は、「基材層」である点で共通する。
引用発明の包装用袋は、多層積層樹脂フィルムを構成する一方の生分解性樹脂層の面に、他の基材シートを積層してなる積層体を使用し、その他方の生分解性樹脂層の面を対向させて重ね合わせ、その外周周辺の端部をヒートシールしてシール部を形成して袋状としたものであるから、基材シートの内側に多層積層樹脂フィルムが積層されているといえる。
引用発明における「生分解性樹脂層、接着性樹脂層、バリア性樹脂層、接着性樹脂層及び生分解性樹脂層の順で共押出した5層の多層積層樹脂フィルムからなるバリア性を有するヒートシール性フィルムに、その多層積層樹脂フィルムを構成する一方の生分解性樹脂層の面に、他の基材シートを積層してなる積層体」は、本願発明における「紙基材層の内側に」「ヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層、接着層、バリア層、接着層及びヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層の五層の押出コ-ティング膜からなるバリア性シーラントが積層された複合材料」に相当する。
引用発明の「包装用袋」と本願発明の「製函した紙容器」は、バリア性を有する包装用容器である点で共通する。

してみれば、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
「基材層の内側に、ヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層、接着層、バリア層、接着層及びヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層の五層の押出コ-ティング膜からなるバリア性シーラントが積層された複合材料を使用した包装用容器であって、
更に、上記のヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層が、所定の密度、所定のMFRを有するポリ乳酸樹脂からなり、且つ柔軟化改質剤を含み、
また、上記のバリア層は、エチレン-ビニルアルコール共重合体からなり、
また、上記のバリア層の両側の接着層は、酸変性樹脂からなること
を特徴とする複合材からなるバリア性を有する包装用容器。」

[相違点1]
本願発明においては、基材層は「紙基材層」であり、包装用容器は「製函した紙容器」であり、前記紙基材層の面に施したコロナ処理面を介して、バリア性シーラントが積層されると限定されているのに対し、引用発明においては、基材層の材料は限定されておらず、包装用容器は「包装用袋」であり、基材層の面にコロナ処理を施すことは限定されていない点。

[相違点2]
本願発明においては、「紙基材層の外側に、ヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層が押出積層され」という限定がされているのに対し、引用発明においては、そのような限定はされていない点。

[相違点3]
本願発明においては、ヒ-トシ-ル性ポリ乳酸樹脂層のポリ乳酸樹脂について、「密度=1.20?1.30g/cm^(3) 」、「MFR=1?20g/10分」と限定され、柔軟化改質剤の配合割合について「1?30%」と限定されているのに対し、引用発明においては、ポリ乳酸樹脂については、「密度、1.10?1.30g/cm^(3) 」、「メルトフロ-レイト(MFR)、1.0?20.0g/10分」と限定され、柔軟化改質剤の配合割合については「ポリ乳酸樹脂と柔軟化改質剤とを、前者65?95重量部、後者5?35重量部の配合割合」と限定されている点。

5.判断
上記相違点1ないし3について検討する。

[相違点1]について
バリア層とヒートシール層を有する積層体を紙基材層に積層してなる複合材料を用いて製函した紙容器は、本願出願前に周知であり(例えば、特開2004-17993号公報)、刊行物1にも、包装用容器として、紙基材を積層した積層体を使用して紙容器を製函できることが記載されている(上記3.(1)キ【0050】)。
したがって、引用発明において、基材シートの材料は当業者が適宜に選択し得る設計的事項であり、引用発明において包装用袋とすることに代え、基材シートとして紙基材層を用いて製函した紙容器とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、シートやフィルムを積層するに際し、一方のシート又はフィルムにコロナ処理を施すことは、本願出願前に周知の事項であり(例えば、上記3.(1)エ)、バリア性を有するヒートシール性フィルムの積層を、紙基材層に施したコロナ処理面を介して行うことは、当業者が必要に応じて適宜になし得ることである。
したがって、上記相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

[相違点2]について
紙基材層にヒートシール性樹脂層を積層してなる複合材料を使用して紙容器を製造するに際し、前記複合材料の最内層及び最外層に組成を同じくするヒートシール性樹脂層を配置することは、例えば刊行物2に記載されており(上記3.(2)ア?ウ)、本願出願前に周知の事項であるから、引用発明において、基材シートとして紙基材層を採用した複合材料を使用して紙容器を製函する際に、複合材料の最内層のシーラント層に用いたのと同じ組成のポリ乳酸樹脂層を複合材料の外側すなわち紙基材層の外側に積層することは、当業者が容易に想到し得ることである。その際、ポリ乳酸樹脂層の積層方法は当業者が適宜に選択し得る事項であり、周知の積層方法である押出積層を選択することに格別の困難性は認められない。
したがって、上記相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

[相違点3]について
引用発明において、ポリ乳酸樹脂の密度及びMFR並びに柔軟化改質剤の配合割合は当業者が適宜に設定し得る設計的事項である。
また、ポリ乳酸樹脂の密度について、本願発明における「1.20?1.30g/cm^(3) 」という数値範囲は、引用発明における「1.10?1.30g/cm^(3) 」という数値範囲に含まれ、MFRについて、本願発明における「1?20g/10分」という数値範囲は、引用発明における「1.0?20.0g/10分」という数値範囲と実質的に同じであり、柔軟化改質剤の配合割合について、本願発明における「1?30%」という数値範囲は、引用発明における、「前者(ポリ乳酸樹脂)65?95重量部に対して、後者(柔軟化改質剤)5?35重量部」すなわち柔軟化改質剤の配合割合が5?35%であるという数値範囲と、5?30%の範囲で一致する。
さらに、本願明細書において、ポリ乳酸樹脂の密度及びMFR並びに柔軟化改質剤の配合割合については、「【0007】本発明において、ポリ乳酸樹脂層は、密度=1.20?1.30g/cm^(3)、MFR=1?20g/10分を有するポリ乳酸樹脂からなる。ポリ乳酸樹脂は硬く耐衝撃性に欠けるので、ポリ乳酸樹脂にはシーラント層としての機能を損なわない程度に柔軟化改質剤を添加するのが好ましい。柔軟化改質剤は1?30%添加することができる。柔軟化改質剤として、ポリブチレンサクシネート、アジピン酸エステル及びエステル系エラストマーの何れか又はそれらの複合体を利用することができる。」及び「【0013】ポリ乳酸樹脂層2a、2b、2cは、密度=1.20?1.30g/cm^(3)、MFR=1?20g/10分を有するポリ乳酸樹脂からなる。ポリ乳酸樹脂は硬く耐衝撃性に欠けるので、ポリ乳酸樹脂にはシーラント層としての機能を損なわない程度に柔軟化改質剤を添加するのが好ましい。柔軟化改質剤は1?30%添加することができる。柔軟化改質剤として、ポリブチレンサクシネート、アジピン酸エステル及びエステル系エラストマーの何れか又はそれらの複合体を利用することができる。ポリ乳酸樹脂への柔軟化改質剤の添加によって、ピンホールの発生が抑えられる。」と記載されているにとどまり、ポリ乳酸樹脂の密度及びMFR並びに柔軟化改質剤の配合割合について、本願発明において限定された数値範囲とすることによって、引用発明が奏する効果(上記3.(1)ウ)と比較して格別顕著な効果が奏されるとは認められず、前記数値範囲の限定に格別の技術的意義を見出せない。
以上のことから、上記相違点3は、設計上の微差に過ぎないというべきである。

そして、本願発明によって、当業者が予期し得ない格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

以上のとおりであるので、相違点1ないし3はいずれも当業者が容易に想到し得ることであり、これら相違点について総合判断しても、本願発明は引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、審判請求書及び回答書において、刊行物1の段落【0050】の記載(上記3.(1)キ)に関して、「単に、該刊行物1に記載の発明の『バリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルム』について、これを『紙容器』に適用した場合の一般的な技術的概念、一般的な技術的事項等を記載しているに過ぎないものである。刊行物1に記載された発明は、本願発明の紙容器としての構成を、全く、欠くものであり、かつ、かかる構成要件について、具体的に、全く、何ら記載/示唆していないものである」旨主張している。
請求人の上記主張について検討する。
刊行物1の段落【0050】の記載は、段落【0049】の、引用発明に係る積層体を使用して包装用袋を成袋する方法についての記載に続いて、「次にまた、包装用容器として、紙基材を含む液体充填用紙容器の場合には・・・」と記載されている文脈から見て、包装用袋と同様に、引用発明に係る「バリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルム」を紙容器に適用した場合の具体的な製函方法を開示していると解するのが妥当である。仮に、刊行物1の段落【0050】自体が請求人の言うように一般的な技術的概念、一般的な技術的事項等を記載しているに過ぎないとしても、当該段落【0050】を含む刊行物1全体の記載を見れば、ポリ乳酸樹脂層を備えたバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムを紙容器に適用し得ることを読み取ることができる。また、請求人が格別の効果と主張する本願明細書の段落【0009】に記載された点は、引用発明におけるバリア性を有するヒ-トシ-ル性フィルムを用いたことにより奏される効果と大差なく、前記ヒ-トシ-ル性フィルムを紙容器に適用したことによって引用発明からは予期し得ない格別顕著な効果がもたらされたとは認めることができない。よって、請求人の上記主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-11 
結審通知日 2013-10-15 
審決日 2013-10-30 
出願番号 特願2008-240827(P2008-240827)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊地 則義  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 熊倉 強
渡邊 真
発明の名称 紙容器  
代理人 立石 英之  
代理人 伊藤 英生  
代理人 後藤 直樹  
代理人 藤枡 裕実  
代理人 深町 圭子  
代理人 伊藤 裕介  

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