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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B66B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B
管理番号 1283038
審判番号 不服2011-15249  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-14 
確定日 2013-12-13 
事件の表示 特願2004-511211「コーティングされた巻上ロープを設けたエレベータ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月18日国際公開、WO03/104131、平成17年 9月29日国内公表、特表2005-529043〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2003年5月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年6月7日、フィンランド共和国)を国際出願日とする出願であって、平成16年12月7日付けで国内書面が提出され、平成18年4月4日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成21年1月9日付けの拒絶理由通知に対して平成21年7月9日付けで意見書とともに明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成22年1月19日付けの拒絶理由通知に対して平成22年7月8日付けで意見書とともに特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたが、平成23年3月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年7月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けの手続補正書によって明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成24年2月20日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成24年5月18日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年7月14日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成23年7月14日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正について
(1)本件補正の内容
平成23年7月14日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年7月8日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(a)を、下記(b)と補正するものである。

(a)本件補正前の明細書の特許請求の範囲
「【請求項1】
コーティングされた巻上ロープを設けた望ましくは機械室を有しないエレベータであって、巻上機は駆動綱車を介して一連の巻上ロープに係合し、該一連のロープは実質的に円形の断面を有するコーティングされた複数の巻上ロープを含み、該巻上ロープは、円形および/または非円形の断面を有する実質的に強靭なスチールワイヤで撚り合わせた負荷支持部を有し、前記エレベータでは、前記一連の巻上ロープは、それぞれの経路を移動するカウンタウェイトおよびエレベータカーを支持しているエレベータにおいて、各巻上ロープのスチールワイヤの断面積は約0.015mm^(2)より大きく、約0.2mm^(2)より小さく、前記スチールワイヤの強度は約2000N/mm^(2)より大きく、スチールワイヤで構成された各巻上ロープのコアは直径が4?6mmであるとともに、該コアより柔軟で厚さが0.4?0.6mmの被覆でコーティングされ、これによって前記巻上ロープの表面が形成されていることを特徴とするエレベータ。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベータにおいて、前記巻上ロープの被覆は、実質的に硬質のゴム、ポリウレタンその他の非金属材料で作られていて、該材料の硬度は実質的に80ショアAより大きく、望ましくは、88?95ショアAであることを特徴とするエレベータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエレベータにおいて、前記被覆の厚さに対するスチールワイヤコアの直径の比は、実質的に4より大きく、望ましくは6?12であり、例えば8であることを特徴とするエレベータ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のエレベータにおいて、前記駆動綱車のロープ溝は実質的に半円の断面形状を有することを特徴とするエレベータ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のエレベータにおいて、該エレベータの駆動機械装置により駆動される駆動綱車の外径は、最大で約250mmであることを特徴とするエレベータ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のエレベータにおいて、前記巻上ロープにおける撚り糸および/またはワイヤ間の空間の少なくとも一部は、実質的に非流動性のゴム、ウレタンその他の媒体で充填されていることを特徴とするエレベータ。」

(b)本件補正後の明細書の特許請求の範囲
「【請求項1】
コーティングされた巻上ロープを設けた望ましくは機械室を有しないエレベータであって、巻上機は駆動綱車を介して一連の巻上ロープに係合し、該一連のロープは実質的に円形の断面を有するコーティングされた複数の巻上ロープを含み、該巻上ロープは、円形および/または非円形の断面を有する実質的に強靭なスチールワイヤで撚り合わせた負荷支持部を有し、前記エレベータでは、前記一連の巻上ロープは、それぞれの経路を移動するカウンタウェイトおよびエレベータカーを支持しているエレベータにおいて、各巻上ロープのスチールワイヤの断面積は約0.015mm^(2)より大きく、約0.2mm^(2)より小さく、前記スチールワイヤの強度は約2000N/mm^(2)より大きく、スチールワイヤで構成された各巻上ロープのコアは直径が4?6mmであるとともに、該コアより柔軟で厚さが0.4?0.6mmの被覆でコーティングされ、これによって前記巻上ロープの表面が形成され、
前記巻上ロープの被覆は、実質的に硬質のゴム、ポリウレタンその他の非金属材料で作られていて、該材料の硬度は88?95ショアAであることを特徴とするエレベータ。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベータにおいて、前記被覆の厚さに対するスチールワイヤコアの直径の比は、実質的に4より大きく、望ましくは6?12であり、例えば8であることを特徴とするエレベータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエレベータにおいて、前記駆動綱車のロープ溝は実質的に半円の断面形状を有することを特徴とするエレベータ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のエレベータにおいて、該エレベータの駆動機械装置により駆動される駆動綱車の外径は、最大で約250mmであることを特徴とするエレベータ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のエレベータにおいて、前記巻上ロープにおける撚り糸および/またはワイヤ間の空間の少なくとも一部は、実質的に非流動性のゴム、ウレタンその他の媒体で充填されていることを特徴とするエレベータ。」(なお、下線は審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

(2)本件補正の目的について
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2における発明特定事項である「前記巻上ロープの被覆は、実質的に硬質のゴム、ポリウレタンその他の非金属材料で作られていて、該材料の硬度は実質的に80ショアAより大きく、望ましくは、88?95ショアAである」を、「前記巻上ロープの被覆は、実質的に硬質のゴム、ポリウレタンその他の非金属材料で作られていて、該材料の硬度は88?95ショアAである」とショアA硬度の範囲を減縮したものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 独立特許要件についての検討
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2-1 引用発明
原査定の拒絶理由に引用された本件の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第01/68973号(以下、「引用文献」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。また、行数は公報各ページ左側に付された行数による。)

(a)「要約:
シーブ径を減少させた場合に、それに伴うロープの寿命・強度の低下を抑制して、安全性と信頼性を確保したエレベーターを提供する。そのため、ワイヤロープを構成する複数の素線それぞれが、樹脂材料で被覆され、ワイヤロープ全体が樹脂材料で被覆された構造のロープを用い、シーブ巻き掛け時に生じる素線相互の滑りによる摩耗、および、シーブとの接触による摩耗を低減させる。エレベーターのシーブを小径化した場合、懸念されるロープ寿命の低下を抑制、あるいは、向上させることができる。このため、モータ、巻き上げ機をはじめとした機器の小型、軽量化、エレベーター設置の省スペース化、および、ロープ寿命の増加によるシステムの安全性、信頼性の向上が図られる。」(要約欄)

(b)「技術分野
本発明はロープ式エレベータに係り、特に樹脂材料で素線を被覆すると共に、ロープ外周を樹脂材料で被覆したワイヤロープを用いたエレベータに関するものである。」(明細書第1ページ第5ないし8行)

(c)「背景技術
ロープ式エレベータはモーター、減速機、シーブ、そらせ車からなる駆動装置を備え、シーブに巻き掛けたメインロープ(以後ロープと呼ぶ)の一方に乗りかごの荷重を、シーブを介して他方にカウンタウェイトの荷重を作用させ、ロープ・シーブ間の摩擦により乗りかご、カウンタウェイトを昇降させる機構を有している。
ロープは一般に、鋼製の素線を撚り合わせて形成されるストランドを、さらに撚り合わせて形成される。この鋼製のロープは、エレベータを吊り上げて駆動するに必要な摩擦特性、耐摩耗・疲労特性などを満たしており、信頼性が高い。」(明細書第1ページ第10ないし18行)

(d)「 本発明の目的は、ロープの曲げ半径を減少させた場合に、それに伴うロープの寿命、強度の低下を抑制して、安全性と信頼性を確保したロープを提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、シーブ径を減少させた場合に、それに伴うロープの寿命、強度の低下を抑制して、安全性と信頼性を確保したエレベータを提供することにある。」(明細書第2ページ第22ないし27行)

(e)「 上記目的を達成するために、本発明によるロープは、樹脂材料で被覆した素線を複数本撚り合わせてストランドを構成し、前記ストランドを複数本撚り合わせてワイヤロープを構成し、構成されたワイヤロープの外周を樹脂材料で被覆した構成とする。
さらに、本発明は、乗りかごとカウンターウェイトが複数のロープにより連結され、ロープをモータにより駆動するシーブに巻きかけて摩擦駆動するエレベータにおいて、樹脂被覆された複数の鋼製素線を撚り合わせてストランドを構成し、複数のストランドを撚り合わせて1本のロープを構成し、ワイヤロープ全体の外周を樹脂材料で被覆すると共に、ワイヤロープの軸方向に対する垂直断面の形状が、略円形としたエレベータを提案する。」(明細書第3ページ第1ないし9行)

(f)「 本発明を、図面を参照して説明する。
荷重支持部材としてのワイヤロープは、鋼製の素線を撚り合わせて形成されるストランドを、さらに撚り合わせて形成される。ロープはその柔軟性から、シーブに巻き掛けられ、あるいは巻き込まれる形態で、動索としてエレベータをはじめとした広範な機械システムに使用されている。鋼から構成されるロープは消耗部品であるため、その長寿命化は機械システムの信頼性、安全性の向上に貢献する。(中略)
第1図を参照すると、荷重支持部材であるワイヤロープ1は、鋼製の素線2を撚り合わせてストランド3を構成し、さらに、ストランド3を撚り合わせて構成される。各素線2は、素線被覆4が施され、ロープ1全体は、中間被覆材6で覆われ、さらに最外層はロープ被覆5が施される。
シーブを小径化、あるいは、エレベータの場合、ロープ径dとシーブ径Dの比率D/dを従来の値である40以下とするためには、従来例で述べた寿命要因の中で、シーブ通過の曲げに起因するロープ1の疲労特性を改善しなければならない。そこで、ロープ1を構成する素線2に作用する曲げ応力に着目し、シーブを小径化した際に必要となる素線形状を検討した。動索としてのロープは、シーブへの巻き掛け時に、素線2に曲げ応力σbが作用する。ここで、最大発生曲げ応力σbmaxは、素線2の断面において最外層で生じ、その値は素線2の中心からの距離に比例する。すなわち、素線2の直径δに比例する。素線2の縦弾性率をEで表すと、最大発生曲げ応力σbmaxは次式で表される。
σbmax=Eδ/D
また、ロープ1の曲げ伸ばしにより、素線2の最外層に繰り返し作用する応力振幅σaは次式で表される。
σa=Eδ/2D
上式より、素線2の直径δを小径化することで、素線2に発生する応力を低減できる。ところで、従来のエレベータではシーブ径が500mmでそれに用いられている素線の直径が0.8mmのワイヤロープが用いられている。(中略)
例えば、従来の鋼製素線を用いたエレベータシステムでは、シーブ径Dが500mmで、ロープ径dが12mmであり、ロープ1を構成する素線の径δが0.8mmである。このシーブ径Dとロープ径dの比D/dは41.7である。それに対して、本実施例の構成のワイヤロープを用いた場合、シーブ径Dを200mmに小径化させ、ロープ径dを12mm、ロープ1を構成する素線の直径δを0.50mm程度で構成すると、D/dは16.7となる。また、シーブ径Dを100mmに小径化すると、ロープ径dは12mm、ロープ1を構成する素線の直径δを0.25mm程度で構成すると、D/dは8.3mm(審決注;「8.3」の誤記と認める。)となる。
疲労の観点から、素線2に生じる曲げ応力σbは、前述したように素線2の直径δを小径化することにより低減できる。一方で、素線2の小径化は、ロープの寿命要因である素線2の相互移動による摩耗を考慮すると、寿命に対して悪影響を及ぼす。この素線2の相互移動量、すなわち滑り距離は、ロープ径dの増加に伴い、増加する。相互移動の距離を低減するためには、ロープ径dは小径であることが望ましい。しかしながら、ロープ径dの減少は、同時にロープ1の破断強度を低下させるため、素線2の破断強度を増加させる必要がある。このため、ロープ1を構成する素線2は、破断強度が1,770MPa以上である素線で構成するとよい。」(明細書第3ページ第28行ないし第5ページ第27行)

(g)「 また、本実施例では、素線2の相互移動による摩耗を低減するため、素線2の表面に素線被覆4を施した。素線被覆4は、ポリエチレン、ポリアミド、4フッ化エチレン、ポリウレタン、エポキシ、塩化ビニルなどの樹脂から構成される。これら素線被覆4は、鋼と比較して弾性率が低いため、素線2相互が接触した際は接触面積が確保され、低面圧での摺動となる。この結果、素線2に局部的な集中接触が発生せず、素線2の摩耗を低減する。
素線2の摩耗を低減する目的である素線被覆4は、鋼より塑性流動圧力が低い材料、すなわち、軟質被覆材によって形成される。素線2相互の接触滑りによる摩擦力は、おおむね、接触面積Awと材料の持つせん断強さsの積Aw・sにより表される。ここで、接触面積Awは、(垂直荷重)/(材料の塑性流動圧力)にほぼ等しいため、母材である鋼の接触面積は小さい。従って、素線2相互の滑りに伴うせん断を、せん断強さの低い軟質被覆材で形成される素線被覆4が受け、垂直荷重を母材である鋼製素線2が支え、低摩擦を得る。ここでの素線被覆4を形成する軟質被覆材は、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤などを用いても効果が現れる。
素線2の直径δを減少させ、シーブ径Dの小径化を図る場合、素線2相互の滑りによる摩耗の他、ロープ1の最外層素線とシーブ溝との接触による摩耗も考慮しなければならない。このため、本実施例では、第1図に示すように素線2とシーブ溝との摩耗を低減するため、ロープ1の最外層表面に、ロープ被覆5を施した。この被覆材は、先に示した素線2の被覆材のうちの一つを用いればよい。一般に、摩耗は材料の持つ降伏圧力に対する接触面圧の比と密接な関係を持っており、これを低下させることにより、摩耗量を低減することができる。すなわち、前述したとおり、接触面圧の低下は摩耗量の低減に有効である。素線2が直接シーブ溝と接触する場合と比較して、ロープ1全体を閉じた状態で被覆し、接触させることにより、接触点での曲率半径が増加し、接触面積の増加、すなわち接触面圧の低減を図ることができる。また、接触点での曲率の他、材料の弾性率を低下させることにより、接触面積の増加、接触面圧の低下を図ることができる。」(明細書第5ページ第28行ないし第6ページ第25行)

(h)「 第3図は、本発明によるロープ1が、シーブ7に巻きかかった状態での断面の概略図である。エレベータの場合、ロープ1は、シーブ溝8に巻きかかり、図中省略した電動機により、シーブ7を回転させ、ロープ1とシーブ溝8との間で発生する摩擦力により、ロープ1が駆動される。シーブ溝8は、シーブ7に取り付けられたライニング9に形成されており、ライニング9はシーブ7からの着脱が可能である。ライニング9は、ロープ被覆5との間で発生する摩擦力、摩耗などを考慮して、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエチレンなどの樹脂から構成される。これらの樹脂材料を用いることにより、同様の樹脂材料であるロープ被覆材5との接触が、弾性的、あるいは粘弾性的な樹脂摩擦となり、エレベータ用に充分な摩擦力を確保することができる。なお、ライニング9の代わりに、樹脂材料のコーティングでも適正な摩擦力、耐摩耗性を確保できる。」(明細書第8ページ第9ないし19行)

(i)「 第7図は、本発明によるロープの第5実施例の断面概略図である。本実施例の第1実施例と異なる点は、各素線は被覆されておらず、各ストランド3をストランド被覆11により被覆し、その内部に、潤滑剤12を充填した点である。(中略)なおこれまでの実施例で、各ストランド間に先の被覆材と同じ材料を充填剤として充填することで寿命を延ばすことが可能となる。
第8図は、前述のワイヤロープを用いてエレベータを構成した第1実施例の斜視図である。また第9図は、同実施例の昇降路を上方より描いた平面図である。
エレベータの乗りかご51は、かご下プーリ52を介してロープ53により支持される。ロープ53の一端は、支持点54にて建屋に固定される。もう一端は、かご下プーリ52、シーブ56、つり合い重り57に設置されるつり合い重りプーリ58を経た後、支持点55にて建屋に固定される。そして、駆動機59によりシーブ56を回転させ、シーブ56とロープ53の間の摩擦力によりロープ53を駆動して、乗りかご51及び、つり合い重り57を上下方向に移動させる。駆動機59には、ブレーキ60を設ける。
第8図は、駆動機59を1個のモータよりなるギヤレス駆動機として描いてあるが、減速ギヤを用いるギヤド駆動機を用いてもよい。第9図に示すように、乗りかご51は、ガイド装置61および乗りかごレール62により、上下方向のみに移動可能なように規制されている。同様につり合い重り57も、図示はされていないが、ガイド装置及びつり合い重りレール63により上下方向のみに移動可能なように規制される。また、昇降路側に設置される乗り場側ドア73a、73bと相対するように、乗りかご51には、かご側ドア72a、72bを設置する。第8図及び第9図では、駆動機59は、乗りかご51の上方に張り出すように描いてあるが、より薄型のモータや減速機を用いて、乗りかご51と昇降路壁64の間隙に駆動機59を設置してもよい。
使用したロープ53を先の実施例のいずれかの構成とすることで、第8図中のかご下プーリ52、シーブ56、つり合い重りプーリ58は、従来のロープを用いた場合より小径とすることが可能となる。」(明細書第9ページ第13行ないし第10ページ第15行)

(j)「 第14図は、本発明のロープを用いたエレベータの第6実施例の斜視図である。本実施例では、直径寸法に対して厚さ寸法が小さい円筒形状からなる薄型の駆動機59、ブレーキ60、シーブ56を用いる。そして、駆動機59を昇降路と乗りかご51の間隙に配置することにより、昇降路頂部への駆動機設置空間を縮小することが可能である。本実施例の駆動機59は、永久磁石式ギヤレス同期モータにより構成することが好適である。ここで、シーブ56の直径が大きいと、同じ速度で乗りかご51を移動させるために必要な、シーブ56の回転速度が小さくなり、駆動機59が発生するトルクは増大する。このため、駆動機59を構成するモータの直径を過度に大きくしなければならなくなる。これに対し、本発明のロープを用いれば、シーブ56を小径とすることができ、駆動機59の径を適度に小さくして昇降路寸法を縮小することが可能となる。
第15図は、本発明のロープを用いたエレベータの第7実施例の斜視図である。この実施例では、乗りかご51は、吊点71にてロープ53により吊り上げられる。そしてロープ53は、シーブ56を介してつり合い重り57に接続される。この構成は、乗りかご51を吊り上げるのに縦枠やクロスヘッドを用いないため、乗りかご周辺の構造を簡略化できる長所を有する。さらに、クロスヘッドを不要にすることにより、乗りかごとクロスヘッドを含めた全高が縮小されるため、昇降路頂部に設ける余裕空間を小さく構成することが可能となる。ここで、該余裕空間には駆動機59を設置するため、駆動機59の高さ寸法が小さければ小さいほど該余裕空間もさらに小さくなる。そして、本発明のロープを用いれば、シーブ56が小径となり、連動して駆動機59を構成するモータの直径も小さくなるため、駆動機59の高さ寸法が縮小される。このことにより、昇降路頂部の余裕空間を小さくすることが可能となる効果が得られる。
第16図は、本発明のロープを用いたエレベータの第8実施例の斜視図である。この実施例は、つり合い重り57の内部に、駆動機59、ブレーキ60、シーブ56を設け、シーブ56によりロープ53を駆動して、乗りかご51およびつり合い重り57を上下方向に移動させるものである。本構成では、駆動機などを建屋側に設置する必要がないため、昇降路空間を従来以上に縮小することが可能となる。しかし、つり合い重り57の内部に駆動機59、ブレーキ60、シーブ56を設置するためには、これらの装置を小型化しなければならない。これに対し、本発明のロープを用いれば、シーブ56を小径化できるため、駆動機59及びブレーキ60が小型化され、これらをつり合い重り57を内部に設置することが可能となる。
第16図では、つり合い重り57の内部に駆動機59、ブレーキ60、シーブ56を設ける構成としたが、これらの装置を乗りかご51に設置する場合についても、本発明のロープを用いることにより同様の効果が得られる。
第17図は、本発明のロープを用いたエレベータの第9実施例の斜視図である。本実施例は、乗りかご51とつり合い重り57を頂部プーリ65とロープ53を介して連結すると共に、駆動ローラ74と抑えローラ75を用いてレール76を挟持し、駆動機59にて駆動ローラ74を回転させることにより、乗りかご51とつり合い重り57を上下方向に移動させるものである。本実施例も第16図の実施例と同様に、駆動機などを建屋側に設置する必要がないため、昇降路空間を縮小する効果をもつ。ここで、建屋側に懸垂荷重を負担させないためには、頂部プーリ65をレール76にて支持する構成が好適である。しかし、昇降路を拡大しないためには、頂部プーリ65の中心をレール76から水平方向にずらして設置する必要があり、レール76に懸垂荷重による曲げモーメントが働いて座屈を起こしやすくなる。これに対し、本発明のロープを用いると、頂部プーリ65が小径化できるため、頂部プーリ65とレール76の水平方向ずれが縮小され、曲げモーメントが低減され、レール76を軽量化することが可能となる。」(第15ページ第24行ないし第17ページ第14行)

(k)「 本発明は、以上説明したように構成されているため、エレベータのシーブを小径化した場合、懸念されるロープ寿命の低下を抑制、あるいは、向上させることができる。このため、モータ、巻き上げ機をはじめとした機器の小型、軽量化、エレベータ設置の省スペース化、および、ロープ寿命の増加によるシステムの安全性、信頼性の向上が図られる。」(明細書第19ページ第4ないし8行)

上記(a)ないし(k)及び図面の記載を参酌すると、以下のことが分かる。

(ア)上記(a)ないし(k)及び図面の記載から、引用文献には、ロープ被覆5を施されたロープ1を設けたエレベータが記載されていることが分かる。

(イ)上記(i)、(j)、(k)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエレベータは、モータ、巻き上げ機をはじめとした機器を小型、軽量化するものであり、機械室を有しないエレベータとすることができることが分かる。

(ウ)上記(a)ないし(k)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエレベータは、駆動機59はシーブ56を介して一連のロープ53に係合し、該一連のロープ53は実質的に円形の断面を有するロープ被覆5された複数のロープ53を含み、該ロープ53は、円形の断面を有する実質的に強靭な鋼製素線2で撚り合わせた負荷支持部を有し、前記エレベータでは、前記一連のロープ53は、それぞれの経路を移動するつり合い重り57および乗りかご51を支持しているエレベータであることが分かる。

(エ)上記(f)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエレベータにおいて、鋼製素線の直径をδとすると、その断面積は、π×(δ/2)^(2)であり、従来の鋼製素線を用いたエレベータシステムでは、ロープ1を構成する素線の直径δが0.8mmであるから、素線の断面積はπ×0.4×0.4=0.5024(mm^(2))であるのに対し、本実施例のワイヤロープを用いた場合、「素線の直径δを0.50mm程度で構成」した鋼製素線2の断面積は、π×0.25×0.25=0.196(mm^(2))であり、「素線の直径δを0.25mm程度で構成」した鋼製素線の断面積は、π×0.125×0.125=0.049(mm^(2))であることが分かる。そして、本実施例において、鋼製素線の断面積が上記0.049(mm^(2))と上記0.196(mm^(2))の間でも良いことは自明である。また、ロープ1を構成する素線2は、破断強度が1770MPa以上であることが分かる。

(オ)上記(f)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエレベータにおいて、ロープ1の最外層表面には、ロープ被覆5が施され、この被覆材は、素線2の被覆材と同じ材料、すなわち、ポリエチレン、ポリアミド、4フッ化エチレン、エポキシ、塩化ビニルなどの樹脂(つまり非金属材料)から構成されることが分かる。(なお、これらの樹脂が、鋼製素線2よりも柔軟であることは技術常識である。)したがって、ロープ被覆5によってロープ1の表面が形成されていることが分かる。
また、第1図を参酌すると、素線の直径δが0.50mmの場合、ロープ被覆5は、約0.56mmである。また、素線の直径δが0.25mmの場合、ロープ被覆5は、約0.27mmである。
また、第1図から、素線の直径δが0.50mmの場合、鋼製素線2を撚り合わせた部分(素線の上端から下端までの距離。本願補正発明における「コア」に相当すると考えられる。)は、約10mmである。また、素線の直径δが0.25mmの場合、鋼製素線2を撚り合わせた部分は、約5.0mmである。

(カ)上記(i)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエレベータにおいて、各素線を被覆しないことも可能であり、被覆材と同じ材料を充填剤として充填することも可能であることが分かる。

上記(a)ないし(k)、(ア)ないし(カ)及び図面の記載を参酌すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ロープ被覆5を施されたロープ53を設けた機械室を有しなくてもよいエレベータであって、駆動機59はシーブ56を介して一連のロープ53に係合し、該一連のロープ53は実質的に円形の断面を有するロープ被覆5を施された複数のロープ53を含み、該ロープ53は、円形の断面を有する実質的に強靭な鋼製素線2で撚り合わせた負荷支持部を有し、前記エレベータでは、前記一連のロープ53は、それぞれの経路を移動するつり合い重り57および乗りかご51を支持しているエレベータにおいて、各ロープ53の鋼製素線2の断面積は0.049mm^(2)ないし0.196mm^(2)であり、前記鋼製素線2の破断強度は1770MPa以上であり、鋼製素線2で構成された各ロープ53の鋼製素線2を撚り合わせた部分は直径が約5.0mmないし10mmであるとともに、該鋼製素線2を撚り合わせた部分より柔軟で厚さが例えば約0.56mmのロープ被覆5で被覆され、これによって前記ロープ53の表面が形成され、
前記ロープ53のロープ被覆5は、実質的にポリウレタンその他の非金属材料で作られている、エレベータ。」

2-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ロープ被覆5」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、本願補正発明における「被覆」及び「コーティング」に相当し、以下同様に、「ロープ被覆5を施された」は「コーティングされた」に、「ロープ53」は「巻上ロープ」及び「ロープ」に、「機械室を有しなくてもよい」は「望ましくは機械室を有しない」に、「駆動機59」は「巻上機」に、「シーブ56」は「駆動綱車」に、「円形」は「円形および/または非円形」に、「つり合い重り57」は「カウンタウェイト」に、「乗りかご51」は「エレベータカー」に、「鋼製素線2」は「スチールワイヤ]に、「破断強度」は「強度」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「鋼製素線2を撚り合わせた部分」は、本願補正発明における「コア」に相当する。
また、引用発明における「各ロープ53[巻上ロープ]の鋼製素線2[スチールワイヤ]の断面積は0.049mm^(2)ないし0.196mm^(2)であり」は、本願補正発明における「各巻上ロープのスチールワイヤの断面積は約0.015mm^(2)より大きく、約0.2mm^(2)より小さく」と、「各巻上ロープのスチールワイヤの断面積は所定の数値範囲内であり」という限りにおいて対応している。
また、1MPa=10^(6)Pa=10^(6)N/m^(2)=1N/mm^(2)であるから、引用発明における「前記鋼製素線2の破断強度は1770MPa以上であり」は、本願補正発明における「スチールワイヤの強度は2000N/mm^(2)より大きく」と、「スチールワイヤの強度は所定値より大きく」という限りにおいて対応している。
また、引用発明における「各ロープ53の鋼製素線2を撚り合わせた部分は直径が約5.0mmないし10mmである」は、本願補正発明における「各巻上ロープのコアは直径が4?6mmである」と、「各巻上ロープの鋼製素線を撚り合わせた部分は直径が所定の数値範囲内である」という限りにおいて対応している。
また、引用発明における「該鋼製素線2を撚り合わせた部分より柔軟で厚さが例えば約0.56mmのロープ被覆5で被覆され」は、本願補正発明における「該コアより柔軟で厚さが0.4?0.6mmの被覆でコーティングされ」と、「該鋼製素線を撚り合わせた部分より柔軟で所定の厚さの被覆でコーティングされ」という限りにおいて対応している。
また、引用発明における「前記ロープ53のロープ被覆5は、実質的にポリウレタンその他の樹脂で作られている」は、本願補正発明における「前記巻上ロープの被覆は、実質的に硬質のゴム、ポリウレタンその他の非金属材料で作られていて、該材料の硬度は88?95ショアAである」と、「前記巻上ロープの被覆は、実質的にポリウレタンその他の非金属材料で作られている」という限りにおいて対応している。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「コーティングされた巻上ロープを設けた望ましくは機械室を有しないエレベータであって、巻上機は駆動綱車を介して一連の巻上ロープに係合し、該一連のロープは実質的に円形の断面を有するコーティングされた複数の巻上ロープを含み、該巻上ロープは、円形および/または非円形の断面を有する実質的に強靭なスチールワイヤで撚り合わせた負荷支持部を有し、前記エレベータでは、前記一連の巻上ロープは、それぞれの経路を移動するカウンタウェイトおよびエレベータカーを支持しているエレベータにおいて、各巻上ロープのスチールワイヤの断面積は所定の数値範囲内であり、前記スチールワイヤの強度は所定値より大きく、スチールワイヤで構成された各巻上ロープのコアは直径が所定の数値範囲内であるとともに、該コアより柔軟で所定の厚さの被覆でコーティングされ、これによって前記巻上ロープの表面が形成され、
前記巻上ロープの被覆は、実質的にポリウレタンその他の非金属材料で作られている、エレベータ。」という点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点>
(1)スチールワイヤの断面積について、本願補正発明においては、「各巻上ロープのスチールワイヤの断面積は約0.015mm^(2)より大きく、約0.2mm^(2)より小さく」となっているのに対し、引用発明においては、「各ロープ53の鋼製素線2の断面積は0.049mm^(2)ないし0.196mm^(2)であり」となっている点(以下、「相違点1」という。)。

(2)スチールワイヤの強度について、本願補正発明においては、「スチールワイヤの強度は2000N/mm^(2)より大きく」となっているのに対して、引用発明においては、「前記鋼製素線2の破断強度は1770MPa以上であり」となっている点(以下、「相違点2」という。)。

(3)コアの直径について、本願補正発明においては、「各巻上ロープのコアは直径が4?6mmである」のに対して、引用発明においては、「各ロープ53の鋼製素線2を撚り合わせた部分は直径が約5.0mmないし10mmである」点(以下、「相違点3」という。)。

(4)被覆の厚さについて、本願補正発明においては、「該コアより柔軟で厚さが0.4?0.6mmの被覆でコーティングされ」ているのに対して、引用発明においては、「該鋼製素線2を撚り合わせた部分より柔軟で厚さが例えば約0.56mmのロープ被覆5で被覆され」ている点(以下、「相違点4」という。)。

(5)巻上ロープの被覆の硬度について、本願補正発明においては、「前記巻上ロープの被覆は、実質的に硬質のゴム、ポリウレタンその他の非金属材料で作られていて、該材料の硬度は88?95ショアAである」のに対して、引用発明においては、「前記ロープ53のロープ被覆5は、実質的にポリウレタンその他の非金属材料で作られている」点(以下、「相違点5」という。)。


2-3 判断
相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明における「各ロープ53の鋼製素線2の断面積は0.049mm^(2)ないし0.196mm^(2)であり」という事項は、本願補正発明における「各巻上ロープのスチールワイヤの断面積は約0.015mm^(2)より大きく、約0.2mm^(2)より小さく」という事項と、「各巻上ロープのスチールワイヤの断面積は0.049mm^(2)ないし0.196mm^(2)であり」という数値範囲において重複している。
また、エレベータ用ワイヤの技術分野において、スチールワイヤの断面積を、「0.049mm^(2)ないし0.196mm^(2)」と重複する数値範囲とすることは、周知技術(以下、「周知技術1」という。例えば、拒絶査定時に提示された文献である特表2002-505240号公報(平成14年2月19日公表)の段落【0029】等の記載を参照。なお、エレベータに用いるワイヤの直径を0.10?0.20ミリメートルとすることは、断面積にすると、0.01mm^(2)ないし0.04mm^(2)とすることに相当する。)である。
してみると、上記相違点1は、前述のとおり数値範囲において重複していることから、実質的な相違点ではないといえる。
仮に、相違点1が、実質的な相違点であったとしても、引用発明において、エレベータ用ワイヤの技術分野における上記周知技術を考慮して、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
1MPa=10^(6)Pa=10^(6)N/m^(2)=1N/mm^(2)であるから、引用発明における「前記鋼製素線2の破断強度は1770MPa以上であり」という事項は、本願補正発明における「スチールワイヤの強度は2000N/mm^(2)より大きく」という事項と、「スチールワイヤの強度は2000N/mm^(2)より大きく」という数値範囲において重複している。
また、高強度ワイヤロープの技術分野において、「スチールワイヤの強度を2000N/mm^(2)より大きくする」技術は、周知技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開平5-171580号公報の段落【0010】を参照。ここで、270kgf/mm^(2)は、270×9.8=2646N/mm^(2) に相当する。)である。
してみると、上記相違点2は、前述のとおり数値範囲において重複していることから、実質的な相違点ではないといえる。
仮に、相違点2が、実質的な相違点であったとしても、引用発明において、高強度ワイヤロープの技術分野における上記周知例2を考慮して、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(3)相違点3について
引用発明における「各ロープ53の鋼製素線2を撚り合わせた部分は直径が約5.0mmないし10mmである」という事項は、本願補正発明における「各巻上ロープのコアは直径が4?6mmである」という事項と、「各巻上ロープのコアは直径が5.0mmないし6mmである」という数値範囲において重複している。
また、各巻上ロープのコアは直径を4ないし6mmとすることには、格別臨界的意義がなく、該数値範囲は、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
してみると、上記相違点3は、前述のとおり数値範囲において重複していることから、実質的な相違点ではないといえる。
仮に、相違点3が、実質的な相違点であったとしても、引用発明において、各巻上ロープのコアの直径を4ないし6mmとすることにより、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とする程度のことは、当業者が容易に想到できたことである。

(4)相違点4について
引用発明における「該鋼製素線2を撚り合わせた部分より柔軟で厚さが例えば約0.56mmのロープ被覆5で被覆され」という事項は、本願補正発明における「該コアより柔軟で厚さが0.4?0.6mmの被覆でコーティングされ」という事項と、「該鋼製素線を撚り合わせた部分より柔軟で厚さが約0.56mmの被覆でコーティングされ」という数値範囲において重複している。
また、拒絶査定時に周知例を示す文献としてあげられた特開2001-207388号公報(特に段落【0008】を参照。)には、外側被覆の厚さを0.5?3.0mmとすることが記載され、特開昭60-19431号公報(特に特許請求の範囲、第3ページ右上欄第7ないし13行を参照。)には、被覆層の厚さを芯体の直径に対し5?20%に相当する厚さとすることが記載され、登録実用新案第3037451公報の実用新案登録請求の範囲の【請求項1】、段落【0006】、【0007】及び【0010】ないし【0012】等の記載を参照。)には、被覆の厚さをロープ仕上がり径の10?20%の厚さとすることが記載されているから、被覆ロープの技術分野において、直径が4?6mmであるロープのコアに対して、厚さが0.4?0.6mmの被覆でコーティングする技術は、周知技術(以下、「周知技術3」という。)であるといえる。
また、被覆の厚さを0.4?0.6mmとする数値範囲には、格別な臨界的意義が認められない。
してみると、相違点4は、前述のように数値範囲において重複していることから、実質的な相違点ではないといえる。
仮に、相違点4が、実質的な相違点であったとしても、引用発明において、被覆ロープの技術分野における上記周知技術3を考慮して、相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(5)相違点5について
引用発明における「前記ロープ53のロープ被覆5は、実質的にポリウレタンその他の樹脂で作られている」は、本願補正発明における「前記巻上ロープの被覆は、実質的に硬質のゴム、ポリウレタンその他の非金属材料で作られていて、該材料の硬度は88?95ショアAである」と、「前記巻上ロープの被覆は、実質的にポリウレタンその他の非金属材料で作られている」という限りにおいて一致している。
そして、被覆用のポリウレタン樹脂の硬度を本願補正発明の数値範囲と重複する数値範囲とすることは、周知技術(以下、「周知技術4」という。例えば、実願平1-49136号(実開平2-140999号)のマイクロフィルムの明細書第1ページ第16行ないし第2ページ第1行、第5ページ第20行ないし第6ページ第3行、第6ページ第13ないし17行、特開昭60-19431号公報の特許請求の範囲、第3ページ右上欄第7ないし13行及び同ページ右下欄第1ないし10行、特開平2-157070号公報の第3ページ左上欄第9ないし20行、特開平7-330857号公報の特許請求の範囲の請求項3、段落【0010】及び【表1】、登録実用新案第3037451公報の実用新案登録請求の範囲の【請求項1】、段落【0006】、【0007】及び【0010】ないし【0013】等の記載を参照。)にすぎない。
したがって、引用発明におけるロープ被覆のポリウレタン樹脂として、周知技術4のような硬度を有するポリウレタン樹脂を採用することにより、上記相違点5に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明及び周知技術1ないし4から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

以上のように、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 手続の経緯及び本願発明
平成23年7月14日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし6に係る発明は、平成22年7月8日付けの手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び国際段階における図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の〔理由〕1(1)の(a)の請求項2に記載したとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、前記第2の〔理由〕2の2-1に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2の〔理由〕2の2-2及び2-3において検討した本願補正発明におけるショアA硬度の範囲を拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらにショアA硬度の範囲を減縮したものに相当する本願補正発明が、前記第2の〔理由〕2の2-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-20 
結審通知日 2012-08-21 
審決日 2012-09-03 
出願番号 特願2004-511211(P2004-511211)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66B)
P 1 8・ 575- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大塚 多佳子林 茂樹  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 中川 隆司
金澤 俊郎
発明の名称 コーティングされた巻上ロープを設けたエレベータ  
代理人 香取 孝雄  

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