• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B62D
管理番号 1283049
審判番号 不服2012-17291  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-05 
確定日 2013-12-26 
事件の表示 特願2007-192320「車体の衝撃エネルギー吸収方法、及びサイドメンバーならびに車両」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月12日出願公開、特開2009- 29174〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成19年7月24日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「【請求項1】
扁平な略多角形の横断面形状を有し、かつ該扁平な略多角形の長辺を含む広幅面に、内部へ向けて突設されるとともに軸方向と略平行な方向へ延在し、かつ実質的にV字状の横断面形状を有する溝部を少なくとも軸方向の一部に有する筒状の本体を備えるサイドメンバーを、前記軸方向が車体の前後方向と略一致するように、車体の所定の位置に装着し、該車体の衝突時に前記本体に前記軸方向の一方の端部から該軸方向へ負荷される衝撃荷重により、該本体を蛇腹状に座屈変形させることにより、衝撃エネルギーを吸収する方法で
あって、
前記溝部は、前記蛇腹状の座屈変形時に、下記(1)式に示す条件を満足することを特徴とする車体の衝撃エネルギー吸収方法。
Dy/Dz≧1.0 ・・・・・・・(1)
Dy:溝部の底部のY方向への変位
Dz:溝部の底部のZ方向への変位
Y方向:本体の軸方向と直交する面における、溝部の深さ方向に対して直交する方向
Z方向:本体の軸方向と直交する面における、溝部の深さ方向」

2.引用刊行物記載の発明
(1)これに対して、当審における、平成25年8月20日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平9-277953号公報(平成9年10月28日公開、以下「引用例1」という。)には、「衝撃吸収部材」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 長手方向(軸方向)に衝撃荷重を受けて、蛇腹状に座屈することで衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収部材において、座屈開始端の断面形状が4角形以上の多角形閉断面であり、他端の断面形状が座屈開始端の断面形状より多い辺を有する多角形閉断面であり、両端の間は両者の断面形状がなめらかに結ばれるように連続的に変化する断面形状を有し、かつ、板厚tと断面の周長Mの比t/Mが0.0025以上であることを特徴とする衝撃吸収部材。」

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車用の構造部材に関し、詳しくは、衝突時にエネルギーを吸収する必要のある自動車フレーム部材に好適な衝撃吸収部材に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車業界では、衝突時の乗員への傷害を低減し得る車体構造の開発が急務の課題となっている。このような衝突安全性に優れた車体構造として、衝突時の衝撃エネルギーを客室部以外の構造部材の変形で吸収させ、客室部の変形を最小限として生存空間を確保しようとする車体構造があり、広く採用されてきている。この場合、構造部材に衝撃エネルギーをいかに有効に吸収させるかが重要な課題である。一般に、自動車構造部材は、長手方向(軸方向)に衝撃荷重を受けたとき、蛇腹状に座屈することで衝突エネルギーを吸収する。高い衝撃吸収能を実現するためには、蛇腹状座屈を効率よく起こさせること、座屈時の荷重を高くすること、の2つが必要である。」

これらの記載事項によると、引用例1には、

「座屈開始端の断面形状が4角形以上の多角形閉断面であり、他端の断面形状が座屈開始端の断面形状より多い辺を有する多角形閉断面であり、両端の間は両者の断面形状がなめらかに結ばれるように連続的に変化する断面形状を有する自動車フレーム部材を用い、長手方向に衝撃荷重を受けて、蛇腹状に座屈することで衝突エネルギーを吸収する衝突エネルギー吸収方法。」の発明(以下「引用例1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)同じく、当審における、平成25年8月20日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開2002-284033号公報(平成14年10月3日公開、以下「引用例2」という。)には、「自動車用強度部材」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車のフロントサイドメンバ、リヤサイドメンバ、クロスメンバ、サイドシル等に用いられる自動車用強度部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車のフロント部エンジンルーム内には車軸方向左右に車体前後方向に延設された強度部材としてのフロントサイドメンバが設けられている。車両の前面衝突時にフロントサイドメンバに圧縮加重が加わると、フロントサイドメンバが長手軸方向に圧潰して衝突エネルギーを吸収する。また、自動車のフロント部に横から衝突を受けた場合には、フロントサイドメンバの曲げ変形によって衝突エネルギーを吸収する。同じように自動車のリヤ部にはリヤサイドメンバが、ボディーにはサイドシルが強度部材として設けられている。」

(3)同じく、当審における、平成25年8月20日付けで通知した拒絶の理由に引用した国際公開2005/010398号(2005年2月3日公開、以下「引用例3」という。)には、「衝撃吸収部材」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「本発明の目的は、隔壁の追加や板厚の増加による重量の増加や、軸方向での屈曲を招くことなく、衝撃荷重を負荷されると、軸方向へ安定して蛇腹状に座屈することによって所定の衝撃吸収量を確保できる衝撃吸収部材を提供することである。」(第3頁第26行から第29行)

・「また、この溝部14の底部の形状は平坦面でなくともよい。溝部14の断面形状の幾つかの例を図6(a)?図6(d)にまとめて示す。図6(a)は円弧を有する形状に形成された場合を示し、図6(b)は四角形状に形成された場合を示し、図6(c)は三角形状に形成された場合を示し、さらに、図6(d)は三角形の一部と円弧を有する形状とを組み合わせた形状に形成された場合を示す。」(第11頁第20行から第24行)

・「このように、本実施の形態の衝撃吸収部材10は、隔壁の増加や板厚の増加に起因した重量の増加や軸方向での屈曲を招くことなく、軸方向へ安定して蛇腹状に座屈することができ、これにより、所定の衝撃吸収性能を確保することができる。このため、この衝撃吸収部材10を、上述したクラッシュボックスに適用してフロントサイドメンバの先端に、例えば締結や溶接等の適宜手段によって装着すれば、車体の重量増加を殆ど伴うことなく、車体の安全性の向上と、軽衝突による車体の損傷を略解消することによる修理費の低減とを、ともに図ることができる。」(第14頁第15行から第22行)

(4)同じく、当審における、平成25年8月20日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開2006-207725号公報(平成18年8月10日公開、以下「引用例4」という。)には、「衝撃吸収部材」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【請求項1】
軸方向の一方の端部から該軸方向と略平行な方向へ向けて衝撃荷重を負荷されて座屈することにより衝撃エネルギを吸収するための筒体を備える衝撃吸収部材であって、前記軸方向の少なくとも一部における当該筒体の横断面形状は、複数の頂点を有する閉断面であり、該閉断面の外側にフランジを具備しないとともに、前記複数の頂点のうちの一部を直線で連結して得られる最大の輪郭からなる基本断面が凸多角形であり、該凸多角形のうちの少なくとも一つの辺の全域は該凸多角形の内部を通過する非直線に形成されることを特徴とする衝撃吸収部材。」

・「【0001】
本発明は、衝撃吸収部材に関する。具体的には、本発明は、例えば自動車等の車両の衝突時に発生する衝撃エネルギを吸収することができる衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、現在の多くの自動車の車体は、軽量化と高剛性とを両立するために、フレームと一体化したボディ全体により荷重を支えるモノコックボディによって構成される。自動車の車体は、車両の衝突時には、車両の機能の損傷を抑制し、かつキャビン内の乗員の生命を守る機能を有さなければならない。車両の衝突時の衝撃エネルギを吸収してキャビンへの衝撃力を緩和することによってキャビンの損傷をできるだけ低減するためには、例えばエンジンルームやトランクルームといったキャビン以外のスペースを優先的に潰すことが有効である。このような安全上の要請から、車体の前部、後部又は側部等の適宜箇所には、衝突時の衝撃荷重が負荷されると圧壊することによって衝撃エネルギを積極的に吸収するための衝撃吸収部材が設けられている。これまでにも、このような衝撃吸収部材として、フロントサイドメンバ、サイドシルさらにはリアサイドメンバ等が知られている。」

・「【0017】
したがって、本発明の目的は、これまでよりも短い全長でいっそう効率的に衝撃エネルギを吸収することができることから、例えば、いわゆるショートノーズのデザインが採用された自動車の車体を構成するクラッシュボックスやフロントサイドメンバ等にも適用することができる衝撃吸収部材を提供することである。」

3.対比
本願発明と引用例1記載の発明を対比すると、後者における「自動車フレーム部材」と前者における「サイドメンバー」は、「自動車用の構造部材」である点で共通し、後者における「座屈開始端の断面形状が4角形以上の多角形閉断面であり、他端の断面形状が座屈開始端の断面形状より多い辺を有する多角形閉断面であり、両端の間は両者の断面形状がなめらかに結ばれるように連続的に変化する断面形状を有する自動車フレーム部材」と前者における「扁平な略多角形の横断面形状を有し、かつ該扁平な略多角形の長辺を含む広幅面に、内部へ向けて突設されるとともに軸方向と略平行な方向へ延在し、かつ実質的にV字状の横断面形状を有する溝部を少なくとも軸方向の一部に有する筒状の本体を備えるサイドメンバー」とは、「筒状の本体を備える自動車用の構造部材」である点で共通する。

また、後者において「長手方向に衝撃荷重を受けて、蛇腹状に座屈することで衝突エネルギーを吸収する」ことは、前者において、「車体の衝突時に本体に軸方向の一方の端部から軸方向へ負荷される衝撃荷重により、本体を蛇腹状に座屈変形させることにより、衝撃エネルギーを吸収する」ことに相当する。

したがって、両者は、
「筒状の本体を備える自動車用の構造部材を用い、車体の衝突時に本体に軸方向の一方の端部から軸方向へ負荷される衝撃荷重により、本体を蛇腹状に座屈変形させることにより、衝撃エネルギーを吸収する車体の衝撃エネルギー吸収方法。」である点で一致し、次の点において相違する。

[相違点]
「筒状の本体を備える自動車用の構造部材」について、本願発明においては、「扁平な略多角形の横断面形状を有し、かつ該扁平な略多角形の長辺を含む広幅面に、内部へ向けて突設されるとともに軸方向と略平行な方向へ延在し、かつ実質的にV字状の横断面形状を有する溝部を少なくとも軸方向の一部に有する筒状の本体を備えるサイドメンバー」であり、「軸方向が車体の前後方向と略一致するように、車体の所定の位置に装着」されており、「溝部は、蛇腹状の座屈変形時に、下記(1)式に示す条件を満足する
Dy/Dz≧1.0 ・・・・・・・(1)
Dy:溝部の底部のY方向への変位
Dz:溝部の底部のZ方向への変位
Y方向:本体の軸方向と直交する面における、溝部の深さ方向に対して直交する方向
Z方向:本体の軸方向と直交する面における、溝部の深さ方向」ものであるのに対し、引用例1記載の発明においては、「座屈開始端の断面形状が4角形以上の多角形閉断面であり、他端の断面形状が座屈開始端の断面形状より多い辺を有する多角形閉断面であり、両端の間は両者の断面形状がなめらかに結ばれるように連続的に変化する断面形状を有する自動車フレーム部材」である点。

4.判断
相違点について検討すると、引用例2を参照すれば、車両の衝突時に圧縮加重が加わると、長手軸方向に圧潰して衝突エネルギーを吸収する部材として「フロントサイドメンバ」があることは周知であると認められ、引用例1記載の発明における「自動車フレーム部材」が「サイドメンバ」を想定していることは明かである。
また、引用例3には、クラッシュボックスではあるが、衝撃荷重を負荷されると、軸方向へ安定して蛇腹状に座屈することによって所定の衝撃吸収量を確保できる衝撃吸収部材について記載されており、第11頁第20?24行には、衝撃吸収部材の扁平な八角形の筒状本体の広幅面に設ける溝部の形状について、「溝部の底面形状は平坦面でなくともよい。・・・図6(c)は三角形状に形成された場合を示・・・す。」との記載があり、該溝部14の断面形状を「三角形状に形成」したものは、本願発明の「実質的にV字状の横断面形状を有する溝部」と格別な差異があるとは認められない。
そして、引用例1記載の発明における自動車用フレーム部材の、少なくとも蛇腹状に座屈する部分の断面形状として断面形状として、引用例3に記載された前記の形状を採用することは、いずれも衝撃荷重を受けたとき、座屈することで衝突エネルギーを吸収するものであること、サイドメンバ、サイドシル、センターピラー、ルーフレール等が衝撃吸収部材であるとして同等に扱えないとしても、引用例4に、クラッシュボックス、サイドメンバをともに衝撃吸収部材であるとしてその横断面形状を考えることが記載されている以上、当業者にとって容易に想到し得ることにすぎない。
また、引用例1記載の発明において、引用例3に記載された前記構成を採用しても、当業者が容易に想定し得る以上の格別な作用、効果を奏するとも認められない。また、本願の明細書においては、(1)式の「Dy/Dz≧1.0」を満足するための条件について、「実質的にV字状の横断面形状を有する溝部」とすること以外に記載されていない以上、上記引用例3の、底面形状が「三角形状に形成された」溝部を設けた衝撃吸収部材も、上記の(1)式を満足するものと認めざるを得ない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用例1記載の発明、および引用例2?4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-29 
結審通知日 2013-10-30 
審決日 2013-11-12 
出願番号 特願2007-192320(P2007-192320)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水野 治彦  
特許庁審判長 丸山 英行
特許庁審判官 平田 信勝
小関 峰夫
発明の名称 車体の衝撃エネルギー吸収方法、及びサイドメンバーならびに車両  
代理人 市原 政喜  
代理人 広瀬 章一  
代理人 剱物 英貴  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ