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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1283061
審判番号 不服2013-1154  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-22 
確定日 2013-12-26 
事件の表示 特願2007- 98831「光学用フィルムおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月15日出願公開、特開2007-297615〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年4月4日(先の出願に基づく優先権主張 平成18年4月6日)の出願であって、平成24年1月12日付けで拒絶理由が通知され、同年3月23日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年6月19日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年8月24日に意見書が提出されたが、同年10月18日付けで拒絶査定がなされ、平成25年1月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年2月28日付けで前置報告がなされ、当審で同年6月3日付けで審尋がなされ、同年8月2日に回答書が提出されたものである。


第2.平成25年1月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成25年1月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成25年1月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求と同時にされた補正であり、平成24年3月23日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1および請求項3の内容について、
「 【請求項1】
バリアフライト型スクリューと、濾過精度が25μm以下であるポリマーフィルターとを備えた押出機を用い、当該押出機のシリンダおよびダイスの温度を、アクリル系樹脂のガラス転移温度プラス145℃未満の温度に設定して、溶融押出法によりアクリル系樹脂を成形し、
上記アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されていることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。
【請求項3】
ミキシングセクション付スクリューと、濾過精度が25μm以下であるポリマーフィルターとを備えた押出機を用い、当該押出機のシリンダおよびダイスの温度を、アクリル系樹脂のガラス転移温度プラス145℃未満の温度に設定して、溶融押出法によりアクリル系樹脂を成形し、
上記アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されていることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。」
を、
「 【請求項1】
バリアフライト型スクリューと、濾過精度が25μm以下であるポリマーフィルターとを備えた押出機を用い、当該押出機のシリンダおよびダイスの温度を、250℃以上275℃以下の温度に設定して、溶融押出法によりアクリル系樹脂を成形し、
上記アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されていることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。
【請求項3】
ミキシングセクション付スクリューと、濾過精度が25μm以下であるポリマーフィルターとを備えた押出機を用い、当該押出機のシリンダおよびダイスの温度を、250℃以上275℃以下の温度に設定して、溶融押出法によりアクリル系樹脂を成形し、
上記アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されていることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。」
とする、補正事項を含むものである。

2.本件補正の目的について
上記した特許請求の範囲についての本件補正は、本件補正前の請求項1および請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「アクリル系樹脂のガラス転移温度プラス145℃未満の温度」を「250℃以上275℃以下の温度」に限定する補正事項を含むものであり、請求項1および請求項3についてする本件補正は、本件補正前の請求項1および請求項3に記載された発明と本件補正後の請求項1および請求項3に記載される発明の産業上の利用分野及び解決すべき課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という場合がある。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、以下に記載のとおりの請求項1にかかる発明(以下、「本願補正発明1」という。)および請求項3にかかる発明(以下、「本願補正発明3」という。)を含むものである。

本願補正発明1
「バリアフライト型スクリューと、濾過精度が25μm以下であるポリマーフィルターとを備えた押出機を用い、当該押出機のシリンダおよびダイスの温度を、250℃以上275℃以下の温度に設定して、溶融押出法によりアクリル系樹脂を成形し、
上記アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されていることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。」

本願補正発明3
「ミキシングセクション付スクリューと、濾過精度が25μm以下であるポリマーフィルターとを備えた押出機を用い、当該押出機のシリンダおよびダイスの温度を、250℃以上275℃以下の温度に設定して、溶融押出法によりアクリル系樹脂を成形し、
上記アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されていることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。」

(2)刊行物及びその記載事項
以下、
特開2004-168882号公報を「刊行物A」
特開2004-346199号公報を「刊行物B」
沢田慶司著,プラスチック押出成形の最新技術,日本,株式会社ラバーダイジェスト社発行,1993年 6月25日,16-17頁を「刊行物C」
特開2004-175864号公報を「刊行物D」という。

A.刊行物Aの記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物A(平成24年1月12日付け拒絶理由通知で引用した引用文献1。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

A1「【請求項1】
(i)下記一般式(1)で表されるラクトン環構造単位を5重量%以上含有する共重合体。
【化1】

(式中、R^(1) は水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基から選ばれる基である。)
【請求項2】
前記(i) ラクトン環構造単位と(ii)メタクリル酸アルキルエステル成分単位とを有する共重合体、前記(i) ラクトン環構造単位と前記(ii)メタクリル酸アルキルエステル成分単位と(iii) 下記一般式(2)で表されるアリルアルコール系成分単位とを有する共重合体、および前記(i) ラクトン環構造単位と前記(ii)メタクリル酸アルキルエステル成分単位と前記(iii) 下記一般式(2)で表されるアリルアルコール系成分単位と(iv)その他のビニル系単量体単位とを有する共重合体から選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の共重合体。
【化2】

(式中、R^(1 )は水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基から選ばれる基である。)

・・・

【請求項5】
ガラス転移温度が115℃以上であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の共重合体。」

なお、以下、一般式及びその説明の記載を省略する。

A2「【0041】
本発明の共重合体(A)は、機械的特性、成形加工性にも優れており、溶融成形可能であるため、押出成形、射出成形およびプレス成形などが可能であり、フィルム、管、ロッドや希望する任意の形状と大きさを有する成形品に成形して使用することができる。
【0042】
そして、本発明の共重合体(A)は、その優れた耐熱性を活かして、電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、光学機器部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨などの種々の用途に用いることができる。
【0043】

・・・

偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、ピックアップレンズ、タッチパネル用導光フィルム、」
A3「【0044】
【実施例】
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに詳細に説明する。
[実施例1]共重合体<A-1>
窒素吹き込み管、冷却管、撹拌装置、滴下漏斗、および水浴を備えた1リットルの四つ口フラスコに、窒素パージを行いながら、メタリルアルコール20重量部、溶媒としてベンゼン100重量部、および重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.5部を仕込んだ。次いで、浴温を65℃にて撹拌しながら、メタクリル酸メチル80重量部を滴下漏斗により連続的に3時間で添加した。引き続き3時間重合を行った後、重合反応液を室温まで冷却した。次いで、この重合反応液を約10倍量のn-ヘキサン中に投入して重合物を沈殿させ、これを濾過して分別した。
【0045】
続いて、得られた重合物を80℃にて熱風乾燥させることにより、原重合体<B-1>を白色粉末として得た。このときの収率は65%であった。
【0046】
次いで、この原重合体<B-1>を、スクリュウ径30mm、L/Dが25のベント付き同方向回転2軸押出機(池貝鉄工製 PCM-30)のホッパー口より供給して、樹脂温度250℃、スクリュウ回転数100rpmで溶融押出し、ペレット状のラクトン環構造単位を含有する共重合体<A-1>を得た。」

B.刊行物Bの記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物B(平成24年1月12日付け拒絶理由通知で引用した引用文献2。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

B1「【0043】
本発明に用いることのできる押出機としては、例えば単軸押出機、同方向回転二軸押出機、異方向回転二軸押出機、タンデム型押出機等が代表例として挙げられる。成形に供される樹脂組成物に水などの揮発性成分が含まれていると、光学フィルム押出時にフィルム外観性が悪化するため、これら押出機は揮発性成分を除去するための真空ベント、ホッパドライヤー等が具備されたものが適宜使用される。また、シリンダ径、L/D、圧縮比、スクリューデザインは一般的に生産速度、フィルムの寸法などに応じて最適化すればよく、特に光学フィルムの製造の際には、吐出速度を安定化させるとともに、摩擦発熱の抑制や樹脂温度を分解温度以下に維持することを目的に最適化すればよい。」

B2「【0044】
本発明の製造方法においては、吐出速度を安定化させ、光学フィルムの流れ方向の厚み精度を向上させる為に、昇圧機能および計量機能を備えたギアポンプを押出機と組み合わせて用いることが好ましい。また、後述するフィルターシステムに溶融樹脂を通過させて異物をろ過する場合、容器内の圧力損失が押出機の押出圧力を上回る場合などでは、ギアポンプで昇圧することが必要となる。ただし、溶融樹脂がギアポンプ内で滞留し、熱分解あるいは黄変する可能性があるため、滞留を防止できるような構造であることが望ましい。
【0045】
また、溶融樹脂に含まれる繊維、金属、砂、樹脂あるいは添加物等の凝集物などに代表される異物を除去する目的、および押出機やギアポンプ内で発生した樹脂劣化物を除去する目的で、Tダイ溶融押出工程内にフィルターを設置することが好ましく、そのようなフィルターは一般的にはスクリーンメッシュと呼ばれるステンレス等の合金からなる金網の単層体を用いて異物をろ過するものでもよいが、特に光学フィルムを製造する場合には、フィルムの外観に対する要求が非常に厳しいため、上記スクリーンメッシュによるろ過では異物が除去しきれない場合がある。このような場合には、上記ステンレス等の合金からなる金網を積層し、各層を焼結したフィルター、ステンレス鋼の微細繊維を複雑に編み込んだ金網にて繊維間の接点を焼結したフィルター、金属粉末を焼結したフィルター(以下、これらを総称して焼結金属フィルタ-と述べる。)などを用いることが好ましく、該焼結金属フィルターはスクリーンメッシュに対して、高いろ過効率および低いろ過抵抗が得られることが一般的に知られている。該焼結金属フィルターは、例えば特開平07-124426号公報、特開平08-10521号公報、特開平10-337415号公報、特開平11-76721号公報などに開示されている。また、焼結金属フィルターをチューブ状やディスク状の形状として容器に多数組み込んだフィルターシステムに溶融樹脂を通過させて異物をろ過する方法が例えば特開平08-10522号公報などに開示されており、焼結金属フィルターを単独で用いるよりも、さらに高いろ過効率および低いろ過抵抗が得られるため、本発明の製造方法にて好適に使用することができる。ただし、溶融樹脂がフィルターシステム内で熱分解あるいは黄変する可能性があるため、フィルターシステム内の滞留時間には注意する必要があり、また、フィルターシステムは、デットスペース等に滞留が起こり難いような構造であることが望ましい。」

C.刊行物Cの記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物C(平成24年1月12日付け拒絶理由通知で引用した引用文献3。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

C1「一般に高押出量を達成するためには、スクリュのメタリング部深さを深く設計した方が有利であるが、深溝スクリュでは高速運転時における樹脂の溶融、混練りが不十分となる。一方、スクリュの溝深さを浅くした場合には、樹脂温度の上昇をもたらす。これを防ぐために、上にも説明したように深溝にしてスクリュL/Dを増大させる方法もあるが、最近はこのスクリュの溶融、混練能力を向上させるためのミキシングセクションを設けた,いわゆるミキシング型スクリュが急速に普及している。最近の押出成形用スクリュは総じて,ミキシング型スクリュ設計であるといっても過言ではない。以下,これらについて説明する。

・・・

図(d)のスパイラルバリヤスクリュは,主フライト間に主フライトの外径より1.0mmていどのやや小さい径のダムフライトを設けたものであり,このダムフライトの開始位置および終端までの長さは樹脂の種類と用途によって異なる。その作用としては,第一に樹脂の未溶融部分と溶融部分をダムフライトによって分離することにより,溶融化の促進と均質な溶融体を生成する働きがある。第二に固体材料(Solid bed)の破壊を防止することによって,押出変動,脱泡,かじりなどに対して有効な作用をもたせて押出物の均質化を図っている。」

D.刊行物Dの記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物D(平成24年1月12日付け拒絶理由通知で引用した引用文献4。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

D1「【0112】
・・・

さらに、点状欠陥の少ない成形体をえるために、通常、溶融樹脂を押出機で溶解後、ポリマーフィルターで異物などを除去することが望ましい。ポリマーフィルターの種類としては、メッシュ代表されるスクリーンチェンジャー、キャンドル型、ディスク型、リーフディスク型などが挙げられるが、樹脂のろ過面積を多く取れかつ滞留が少ないリーフディスク型が好ましい。また、ポリマーフィルターの目開きは、好ましくは20μm以下であり、さらに好ましくは15μm以下、特に好ましくは5μm以下であるのが望ましい。
また、得られる押出成形体の厚みムラを低減するために、押出機には、樹脂を定量供給するギアポンプを備え付けることが好ましい。ギアポンプには内潤式や外潤式などの種類があり、また、ギア形状としては、ストレート型やヘリカル型などがあるが、このうち、焼け樹脂を内部に貫流しない外潤式が好ましく、ギア形状としては計量の変動が少ないヘリカル型が好ましい。
【0113】
また、ギアポンプを取り付けた場合、ギアポンプに起因する異物、ゲルなどを除去するためにギアポンプの下流側にも、上記のポリマーフィルターを取り付けることが好ましい。このときのポリマーフィルターの目開きは、20μm以下であることが好ましい。ポリマーフィルターの形状としては、リーフディスク型が最も好ましく、また、内部のエレメントとしては、金属粉末焼結タイプが好ましい。
【0114】
本発明の押出成形体は、上述の成形用樹脂材料を押出成形して得られたものであって、たとえば、フィルム状もしくはシート状の薄肉平面形状、円管(パイプ)形状、糸状もしくは棒状形状あるいはブロック状形状など所望の形状を有する。
これらのうちでは、特にフィルム状もしくはシート状の薄肉平面形状のものが、光学部品として有用である。たとえば、フィルム状もしくはシート状の本発明の押出成形体は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、タッチパネルあるいは電子ペーパー等の平面表示装置の電極基板として用いられる透明導電基板、反射防止フィルム、偏光板、位相差フィルム、レンズフィルムあるいは拡散フィルム等の光学フィルムとして有用である。また、液晶ディスプレイ用のバックライトやフロントライトに使用される導光板、あるいはOHPなどに使用されるフレネルレンズなどにも有用である。」

(3)刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、フィルム、管、ロッドに溶融成形可能であり、電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、光学機器部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨などの種々の用途に用いることができるとの記載(摘示A2)、及び、重合体を、ベント付き同方向回転2軸押出機にて、樹脂温度250℃で溶融押出しするとの記載(摘示A3)があることをふまえ、摘示A1の記載からみて、刊行物Aには以下の発明(以下「刊行物A発明」という。)が記載されている。

(i) 一般式(1)で表されるラクトン環構造単位と(ii)メタクリル酸アルキルエステル成分単位とを有する共重合体、(i) 一般式(1)で表されるラクトン環構造単位と(ii)メタクリル酸アルキルエステル成分単位と(iii)一般式(2)で表されるアリルアルコール系成分単位とを有する共重合体、および(i)一般式(1)で表されるラクトン環構造単位と(ii)メタクリル酸アルキルエステル成分単位と(iii)一般式(2)で表されるアリルアルコール系成分単位と(iv)その他のビニル系単量体単位とを有する共重合体から選ばれた少なくとも1種である共重合体において、
該共重合体がガラス転移温度が115℃以上であり、
押出機にて、樹脂温度250℃で溶融押出し、
電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、光学機器部品、OA機器、家電機器、一般雑貨に用いるフィルム、管、ロッドに成形するフィルム、管、ロッドの製造方法。

(4)対比・判断
(4-1)本願補正発明1と刊行物A発明との対比・判断
刊行物A発明における「押出機にて、樹脂温度250℃で」「(i) 一般式(1)で表されるラクトン環構造単位と(ii)メタクリル酸アルキルエステル成分単位とを有する共重合体、(i) 一般式(1)で表されるラクトン環構造単位と(ii)メタクリル酸アルキルエステル成分単位と(iii)一般式(2)で表されるアリルアルコール系成分単位とを有する共重合体、および(i)一般式(1)で表されるラクトン環構造単位と(ii)メタクリル酸アルキルエステル成分単位と(iii)一般式(2)で表されるアリルアルコール系成分単位と(iv)その他のビニル系単量体単位とを有する共重合体から選ばれた少なくとも1種である共重合体」「電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、光学機器部品、OA機器、家電機器、一般雑貨に用いる」「フィルム、管、ロッド」は、それぞれ本願補正発明1における「当該押出機のシリンダの温度を、250℃以上275℃以下の温度に設定して」「アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されている」「光学用」「フィルム」に相当する。

以上をまとめると、本願補正発明1と刊行物A発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

〔一致点〕
押出機を用い、当該押出機のシリンダの温度を、250℃以上275℃以下の温度に設定して、溶融押出法によりアクリル系樹脂を成形し、
上記アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されていることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。

〔相違点1-1〕
本願補正発明1において、押出機のスクリューを「バリアフライト型」と特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定がない点。

〔相違点1-2〕
本願補正発明1において、押出機が「濾過精度が25μm以下であるポリマーフィルター」を備えていると特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定がない点。

〔相違点1-3〕
本願補正発明1において、押出機の「ダイスの温度を、250℃以上275℃以下の温度に設定」すると特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。

〔相違点1-1〕について
刊行物A発明は、偏光板保護フィルム、位相差フィルム等の光学フィルムにも使用可能(摘示A2)な点において、刊行物Bに記載の光学フィルムとその技術分野を同じくしており、刊行物B(摘示B1)には、光学フィルム製造において最適化するための部材の一つにスクリューデザインが挙げられている。そして、その最適化手段として、特に光学フィルムの製造の際には、吐出速度を安定化させるとともに、摩擦発熱の抑制や樹脂温度を分解温度以下に維持することが記載(摘示B1)されている。そして、刊行物Cには、樹脂温度の上昇を防ぐために、スクリュの溶融、混練能力を向上させたミキシングセクションを設けること、その一つとしてバリアフライト型(刊行物Cにおける「スパイラルバリヤスクリュ」)が記載され、そして、バリアフライト型スクリュとすることで、溶融化の促進と均質な溶融体を生成すること、押出物の均質化を図れることは、当該技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)において周知の技術的事項であることから、上記技術的事項を付加するため刊行物A発明において、押出機のスクリューを「バリアフライト型」とすることは、刊行物Bおよび周知技術により、当業者において容易になし得ることである。また、その効果も格段優れたものとはいえない。

〔相違点1-2〕について
刊行物A発明が、刊行物Bに記載の光学フィルムとその技術分野を同じくしていることは上記のとおりであり、さらに、刊行物Bには、溶融樹脂に含まれる異物を除去すること、特に光学フィルムを製造する場合には、フィルムの外観に対する要求が非常に厳しいため焼結金属フィルターを用いることが好ましいこと(摘示B2)が記載されており、刊行物A発明において、該フィルターを有する押出機とすることは当業者において容易になし得る事項である。そして、刊行物Bには、光学フィルムの外観に対する要求が非常に厳しいとの記載があるとおり、より高い濾過精度が要求されることは自明な事項であるから、「濾過精度が25μm以下」なる事項は、刊行物Bに記載されているに等しい事項ないし、刊行物Dに記載(摘示D1)のように光学フィルムの分野において通常求められる周知の水準と認められることからすると、刊行物A発明において、濾過精度が25μm以下であるポリマーフィルターを有する押出機とすることは、刊行物Bおよび周知技術により、当業者において容易になし得ることである。
また、その効果も格段優れたものとはいえない。

〔相違点1-3〕について
刊行物A発明は、250℃で樹脂を溶融混練するとの規定を有しており、成形品を得る際の各部位の温度を樹脂温度と同程度の温度とすることは当業者における周知技術であることからすると、刊行物A発明において、フィルムを成形する際のダイスの温度を樹脂の溶融温度と同じ250℃とすることは、当業者において適宜設定しうる事項である。また、その効果も格段優れたものとはいえない。

よって、本願補正発明1は、刊行物A発明と刊行物Bに記載された事項および周知技術に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4-2)本願補正発明3と刊行物A発明との対比・判断
刊行物A発明における「押出機にて、樹脂温度250℃で」「(i) 一般式(1)で表されるラクトン環構造単位と(ii)メタクリル酸アルキルエステル成分単位とを有する共重合体、(i) 一般式(1)で表されるラクトン環構造単位と(ii)メタクリル酸アルキルエステル成分単位と(iii)一般式(2)で表されるアリルアルコール系成分単位とを有する共重合体、および(i)一般式(1)で表されるラクトン環構造単位と(ii)メタクリル酸アルキルエステル成分単位と(iii)一般式(2)で表されるアリルアルコール系成分単位と(iv)その他のビニル系単量体単位とを有する共重合体から選ばれた少なくとも1種である共重合体」「電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、光学機器部品、OA機器、家電機器、一般雑貨に用いる」「フィルム、管、ロッド」は、それぞれ本願補正発明3における「当該押出機のシリンダの温度を、250℃以上275℃以下の温度に設定して」「アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されている」「光学用」「フィルム」に相当する。

以上をまとめると、本願補正発明3と刊行物A発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

〔一致点〕
押出機を用い、当該押出機のシリンダの温度を、250℃以上275℃以下の温度に設定して、溶融押出法によりアクリル系樹脂を成形し、
上記アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されていることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。

〔相違点3-1〕
本願補正発明3において、押出機のスクリューを「ミキシングセクション付き」と特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定がない点。

〔相違点3-2〕
本願補正発明3において、押出機が「濾過精度が25μm以下であるポリマーフィルター」を備えていると特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定がない点。

〔相違点3-3〕
本願補正発明3において、押出機の「ダイスの温度を、250℃以上275℃以下の温度に設定」すると特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。

〔相違点3-1〕について
刊行物Cには、「最近の押出成形用スクリュは総じて,ミキシング型スクリュ設計であるといっても過言ではない。」との記載があるところ、刊行物A発明は、押出機を用いていることから、その押出機がミキシング型スクリュ設計であることは記載されているに等しい事項であり、この点は実質的な相違点とはいえない。

〔相違点3-2〕について
この点は、上記「〔相違点1-2〕について」に記載のとおりであり、当業者において容易になし得ることである。
また、その効果も格段優れたものとはいえない。

〔相違点3-3〕について
この点は、上記「〔相違点1-3〕について」に記載のとおりであり、当業者において容易になし得ることである。
また、その効果も格段優れたものとはいえない。

よって、本願補正発明3は、刊行物A発明と刊行物Bに記載された事項および周知技術に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)請求人の主張について
請求人は、平成25年8月2日提出の回答書において、本願補正発明を、「バリアフライト型スクリューと、濾過精度が25μm以下であるポリマーフィルターとを備えた押出機を用い、当該押出機のシリンダおよびダイスの温度を、250℃以上275℃以下の温度に設定して、溶融押出法によりアクリル系樹脂を成形し、
上記アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されており、
上記アクリル系樹脂のガラス転移温度が、115℃以上180℃以下であり、
上記アクリル系樹脂は、剪断速度が100(1/s)である場合における樹脂温度270℃での粘度が250Pa・s以上1000Pa・s以下であることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。」
とする補正案を提示している。
しかし、刊行物A発明は、共重合体(A)のガラス転移温度が115℃以上であるとの事項を有しているし、刊行物Aの段落【0039】には、共重合体(A)の極限粘度が0.2?1.0dl/gであるとの記載があり、本願明細書段落【0032】の重量平均分子量が「1,000以上2,000,000以下の範囲」との記載から、両発明の分子量は重複すると認められることから、刊行物A発明においても、本願補正発明における「上記アクリル系樹脂は、剪断速度が100(1/s)である場合における樹脂温度270℃での粘度が250Pa・s以上1000Pa・s以下である」との規定を満たす蓋然性が高いといえることから、上記補正案が一見して特許可能であることが明白であるとはいえず、上記補正案を採用することはできない。
また、請求人は、同回答書において、一般に生産効率を上げるため可能な限り押出量を上げること、つまり、高い押出温度が選択されることから、本願補正発明程度の押出温度とすることは容易になし得ない旨の主張をしている。
しかし、刊行物A発明において、樹脂温度250℃で溶融押出していることは、上記「(3)刊行物Aに記載された発明」「(4)対比・判断」に記載したとおりであるから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。

(6)まとめ
したがって、本願補正発明1および本願補正発明3は、刊行物A発明と刊行物Bに記載された事項および周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。よって、本件補正は特許法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成24年3月23日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1にかかる発明(以下、「本願発明1」という。)および請求項3にかかる発明(以下、「本願発明3」という。)は、次のとおりのものである。

本願発明1
「バリアフライト型スクリューと、濾過精度が25μm以下であるポリマーフィルターとを備えた押出機を用い、当該押出機のシリンダおよびダイスの温度を、アクリル系樹脂のガラス転移温度プラス145℃未満の温度に設定して、溶融押出法によりアクリル系樹脂を成形し、
上記アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されていることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。」

本願発明3
「ミキシングセクション付スクリューと、濾過精度が25μm以下であるポリマーフィルターとを備えた押出機を用い、当該押出機のシリンダおよびダイスの温度を、アクリル系樹脂のガラス転移温度プラス145℃未満の温度に設定して、溶融押出法によりアクリル系樹脂を成形し、
上記アクリル系樹脂は、N-置換マレイミドが共重合されている、または、ラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、もしくは、グルタルイミド構造が導入されていることを特徴とする光学用フィルムの製造方法。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた平成24年6月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、

この出願の本願発明1および本願発明3は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前に当業者者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1:特開2004-168882号公報
引用例2:特開2004-346199号公報
引用例3:沢田慶司著,プラスチック押出成形の最新技術,日本,株式会社ラバーダイジェスト社発行,1993年 6月25日,16-17頁
引用例4:特開2004-175864号公報
というものである。

3.当審の判断
(1)引用例の記載事項
引用例1?4は、前記第2.3(2)の刊行物A?Dと同じであるから、引用例1?4には、前記2.3(2)A.?D.に記載した事項が記載されている。

(2)引用例に記載された発明
引用例1には、前記第2.3(3)に記載の刊行物A発明が記載されている。

(3)対比・判断
(3-1)本願発明1と刊行物A発明との対比・判断
本願補正発明1は、本願発明1における押出機のシリンダおよびダイスの温度に関して「アクリル系樹脂のガラス転移温度プラス145℃未満」なる事項を「250℃以上275℃以下」と限定したものである。
しかし、刊行物A発明は、共重合体のガラス転移温度が115℃以上であり、押出機にて、樹脂温度250℃で溶融押出しするとの規定を有しており、これは上記本願発明1の規定を満たしているから、この点は相違点とはならない。よって、本願発明1もまた引用例1(刊行物Aと同じ)に記載された発明と引用例2(刊行物Bと同じ)に記載された事項および周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-2)本願発明3と刊行物A発明との対比・判断
本願補正発明3は、本願発明3における押出機のシリンダおよびダイスの温度に関して「アクリル系樹脂のガラス転移温度プラス145℃未満」なる事項を「250℃以上275℃以下」と限定したものであるから、上記「(2-1)本願発明1と刊行物A発明との対比・判断」と同様の理由により、本願発明3もまた引用例1に記載された発明と引用例2に記載された事項および周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1および請求項3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないという原査定の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-28 
結審通知日 2013-10-29 
審決日 2013-11-12 
出願番号 特願2007-98831(P2007-98831)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08J)
P 1 8・ 121- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 行剛  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 加賀 直人
小野寺 務
発明の名称 光学用フィルムおよびその製造方法  
代理人 特許業務法人原謙三国際特許事務所  

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