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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C10C
管理番号 1283102
審判番号 不服2013-1786  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-30 
確定日 2014-01-15 
事件の表示 特願2011- 1499「木酢液及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 2日出願公開、特開2012-144584、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年1月6日の出願であって、平成24年8月8日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年10月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月26日付けで拒絶査定され、これに対し、平成25年1月30日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、さらに、当審において、同年4月25日付けで審査官により作成された前置報告書について、同年8月29日付けで審尋を行ったところ、同年11月18日に回答書が提出されたものである。

第2 本願に係る発明について

本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成25年1月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
発がん性物質であるベンツピレンの含有量が1ppt以下である木酢液。
【請求項2】
精製前の木酢液を精製した木酢液であり、精製前に含有する有機酸成分が精製後除去されず残存している請求項1記載の木酢液。
【請求項3】
オクタデシル基結合型シリカゲルを吸着剤としてベンツピレンを含有する精製前の木酢液を処理することを特徴とすると精製木酢液の製造方法。
【請求項4】
スラリー状にしたオクタデシル基結合型シリカをオープンカラムに充填し、その後、精製前の木酢液を前記カラムに通液することを特徴とする精製木酢液の製造方法。
【請求項5】
オクタデシル基結合型シリカは表面が親水化されていることを特徴とする請求項4記載の精製木酢液の製造方法。」
(以下、本願の請求項1ないし5に係る発明をそれぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)

第3 原査定の理由の概要

原査定の理由は、平成24年10月15日付け手続補正後の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、製造方法の発明に係る請求項5ないし7(平成25年1月30日付け手続補正後の請求項3ないし5)については、原査定において拒絶の理由の対象となっていない。


引用文献1.国際公開第2006/115276号
引用文献2.特開2006-230209号公報
引用文献3.特開2005-318856号公報

第4 当審の判断

当審は、上記原査定の理由と同一の理由の当否及び他の拒絶理由の存否につき、再度検討する。

1.各引用文献の記載事項

(1)引用文献1の記載事項

引用文献1には、以下の事項が記載されている。

ア.「課題を解決するための手段
[0005] 上記従来の課題を解決するために本発明の炭化水素油改質剤及びその製造方法並びにそれを用いた炭化水素油改質方法は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の炭化水素油改質剤は、木材及び/又は竹材を乾留して生成された木酢液及び/又は竹酢液からなる乾留副生液と、硫黄と、を含有した構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)木酢液や竹酢液からなる乾留副生液にはアルコール類、有機酸類等200種類以上の化合物が溶け込んでおり、炭化水素油に添加することで、これらの多種多用な化合物と硫黄とが炭化水素油中の炭化水素に作用して、燃料の炭化水素油を完全燃焼に近い状態で燃焼させることができるので、排気ガス中のHC,CO,NOx等の環境汚染物質を削減することができる。
(2)燃料に添加することで燃費を改善できるので、炭化水素油の消費量の削減と、温暖化ガスである二酸化炭素の発生量を削減することができる。
[0006] ここで、乾留副生液としては、木材や竹材、笹を製炭等のため乾留した際に発生するガスを冷却して得られる木酢液や竹酢液が用いられる。なかでも竹酢液が好適に用いられる。木酢液よりも抗酸化性に優れるとともに、品種による特性の差が小さく品質安定性に優れ、さらにタール分が少ないため乾留副生液に含まれるタール分が燃焼器内に付着する等の問題の発生を抑制することができるからである。なお、タール分等の不純物をデカンテーション,濾過,吸着等によって分離・除去し精製した乾留副生液を用いるのが好ましい。タール分に含有される人体に有害なベンツピレン等を除去することができ、またタール分が燃焼器内に付着する等の問題の発生を抑制することができるからである。
乾留副生液は、精製した無色透明なものを、褐色乃至は黒色に変色するまで熟成したものを用いるのが好ましい。理由は不明であるが、熟成されていない無色透明な乾留副生液を用いて製造された炭化水素油改質剤と比較して、改質効果の高い炭化水素油改質剤を確実に製造できるからである。
[0007] 乾留副生液は、竹材や木材を乾留した際に生じるガスの内、煙道出口の温度が80?200℃好ましくは80?150℃のガスを煙道で冷却したものが好適に用いられる。乾留時のガスの温度が80℃より低くなるにつれガス中の水蒸気の量が多く乾留副生液の純度が低下する傾向がみられ、150℃より高くなるにつれタールの発生量が増加する傾向がみられる。特に、200℃より高くなると、この傾向が著しいため好ましくない。」

イ.「発明の効果
[0026] 以上のように、本発明の炭化水素油改質剤及びその製造方法並びにそれを用いた炭化水素油改質方法によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)木酢液や竹酢液からなる乾留副生液にはアルコール類、有機酸類等200種類以上の化合物が溶け込んでおり、炭化水素油に添加することで、これらの多種多用な化合物と硫黄とが炭化水素油中の炭化水素に作用して、燃料の炭化水素油を完全燃焼に近い状態で燃焼させることができるので、排気ガス中のHC,CO,NOx等の環境汚染物質を削減することができ環境保全性に優れるとともに、燃費の改善効果に優れた炭化水素油改質剤を提供することができる。
(2)燃料に添加することで燃費を改善できるので、炭化水素油の消費量の削減と、温暖化ガスである二酸化炭素の発生量を削減することができ環境保全性に優れた炭化水素油改質剤を提供することができる。
・・・・・
[0029] 請求項4に記載の発明によれば、
(1)化石燃料に乾留副生液と硫黄とを混合して混合液を得た後、混合液から硫黄の固形分を除去することで、液状の炭化水素油改質剤を得ることができ、保存性に優れるとともに炭化水素油に添加したときの分散性に優れた炭化水素油改質剤の製造方法を提供することができる。」

ウ.「発明を実施するための最良の形態
[0033] 以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
伐採した竹材を約3ヶ月間自然乾燥した後、略定尺に切り分割したものを乾留し、乾留時に発生した排煙口の温度が80?150℃のガスを冷却して粗竹酢液を得た。この粗竹酢液を静置後デカンテーションによってタール分等の不純物を分離・除去し精製した。以下の工程では、精製した竹酢液からなる乾留副生液が褐色に変色するまで熟成したものを用いた。
紫外線透過性を有する合成樹脂製容器に入れた100容量部の化石燃料としての灯油に、褐色に変色した竹酢液からなる乾留副生液0.4容量部と、硫黄の粉末(関東化学製)1.5容量部と、を加えて混合液を作成し(以上、混合液作成工程)、該容器を密栓した後、振とうして、その後1週間、該容器を日中は太陽光が直接当たる屋外に静置した(以上、改質剤熟成工程)。なお、容器を屋外に放置した1週間は夏季であり、日中の最高気温が約30℃の好天が続いた。
1週間後、該容器の栓を開けたところ、混合液は灯油や竹酢液以外の弱い刺激性の臭気がした。混合液から硫黄華を分離することにより(以上、固形分除去工程)、実施例1の炭化水素油改質剤を得た。
次いで、ドラム缶に入れた100容量部の炭化水素油としてのレギュラーガソリンに、実施例1の炭化水素油改質剤0.1容量部を添加した後、3日間、ドラム缶を常温の倉庫に放置し炭化水素油を改質した(以上、炭化水素油熟成工程)。
・・・
[0044] (実施例8)
伐採したナラの木材を約3ヶ月間自然乾燥した後、略定尺に切り分割したものを乾留し、乾留時に発生した排煙口の温度が80?150℃のガスを冷却して粗木酢液を得た。この粗木酢液を静置後デカンテーションによってタール分等の不純物を分離・除去し精製した。以下の工程では、精製した木酢液からなる乾留副生液が褐色に変色するまで熟成したものを用いた。
紫外線透過性を有する合成樹脂製容器に入れた100容量部の化石燃料としての軽油に、褐色に変色した木酢液からなる乾留副生液0.1容量部と、硫黄華の粉末0.3容量部と、を入れて混合液を作成し(以上、混合液作成工程)、該容器を密栓した後、振とうして、その後1週間、該容器を日中は太陽光が直接当たる屋外に静置した(以上、改質剤熟成工程)。なお、容器を屋外に放置した1週間は夏季でありに日中の最高気温が約30℃の好天が続いた。
1週間後、該容器の栓を開けたところ、混合液は軽油や木酢液以外の弱い刺激性の臭気がした。混合液から硫黄華を分離することにより(以上、固形分除去工程)、実施例7の炭化水素油改質剤を得た。
次いで、ドラム缶に入れた100容量部の軽油に実施例7の炭化水素油改質剤を0.05容量部添加した後、3日間、常温の倉庫に放置し炭化水素油を改質した(以上、炭化水素油熟成工程)。
・・・・・
[0050] (実施例12)
伐採した竹材を約3ヶ月間自然乾燥した後、略定尺に切り分割したものを乾留し、乾留時に発生した排煙口の温度が80?150℃のガスを冷却して粗竹酢液を得た。この粗竹酢液を静置後デカンテーションによってタール分等の不純物を分離・除去し精製した。以下の工程では、精製した竹酢液からなる乾留副生液が褐色に変色するまで熟成したものを用いた。
紫外線透過性を有する合成樹脂製容器に入れた100容量部の化石燃料としての灯油に、褐色に変色した竹酢液からなる乾留副生液0.05容量部と、湯の華の粉末0.5容量部と、を入れて混合液を作成し(以上、混合液作成工程)、該容器を密栓した後、振とうして、その後、紫外線ランプ(UVL-56、長波長365nm、強度は210mm離れた距離で750μW/cm2)を210mm離れたところから照らして、該容器を80時間紫外線に暴露した(以上、改質剤熟成工程)。なお、このときの容器の表面の温度は30℃であった。
容器を紫外線に暴露した後、竹酢液から湯の華を分離することにより、実施例12の炭化水素油改質剤を得た(以上、固形分除去工程)。
次いで、灯油缶に入れた100容量部の灯油に実施例11の炭化水素油改質剤を0.1容量部添加した後、常温の倉庫に3日間放置し炭化水素油(灯油)を改質した(以上、炭化水素油熟成工程)。」

エ.「請求の範囲
[1]木材及び/又は竹材を乾留して生成された木酢液及び/又は竹酢液からなる乾留副生液と、硫黄と、を含有していることを特徴とする炭化水素油改質剤。
・・・・・
[4]木材及び/又は竹材を乾留して生成された木酢液及び/又は竹酢液からなる乾留副生液と硫黄とを化石燃料に混合して混合液を得る混合液作成工程と、前記混合液から前記硫黄の固形分を除去して炭化水素油改質剤を得る固形分除去工程と、を備えていることを特徴とする炭化水素油改質剤の製造方法。」

(2)引用文献2の記載事項

引用文献2には、以下の事項が記載されている。

オ.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹酢液及び/又は木酢液と、
竹酢液及び/又は木酢液の臭気を減じる消臭成分と
を含有してなることを特徴とする動物用飲料添加剤。」
【請求項2】
竹酢液及び/又は木酢液を、竹炭及び/又は木炭に吸着してなることを特徴とする動物用飲料添加剤。

カ.「【発明の効果】
【0015】
以上の様に構成された本発明の動物用飲料添加剤では、竹酢液及び/又は木酢液特有の臭気が減じられていることから、動物においても抵抗無く摂取され、その結果、動物における悪臭成分であるアンモニア、トリメチルアミン、メチルメルカプタン及び硫化水素等がペットの体内において分解され、糞尿からの悪臭の発生が顕著に抑えられると共に、体臭等も効果的に消去される」

キ.「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
上記本発明の動物用飲料添加剤に使用される竹炭及び/又は木炭は、広く市販されているものを使用することができる。特に、品質の安定性(即ち含有成分の一定性)や原料調達の容易性の観点からは、竹酢液が好適に使用される。
【0020】
かかる竹酢液は、竹炭を製造する際に生じる煙から得る事ができる。即ち、竹炭の製造に際して生じる煙は熱分解によって竹が放出するガラといろいろな成分を含んだ水蒸気が混ざり合ったものであり、この水蒸気を冷却して蒸留液を採取すると、水溶性の液体と油性の液体とに分れる。そのうち前者が粗竹酢液であり、後者がタール分である。
【0021】
かかる竹酢液は、全体の80%?90%を占める水分を除くと、一番多いのが酢酸で約3.7%であり、ほかに約200種類以上の化合物からなる微量成分が溶け込んでいる。より詳細には、水分を除くと主な成分は、酢酸、プロピオン酸、蟻酸などの有機酸類、メタノール、プロパノール、エタノールなどのアルコール類、2-メトキシフェノール(グアヤコール)、クレゾールなどのフェノール類、吉草酸エステルなどの中性物質、その他、カルボニル化合物、塩基成分などで構成されている。この内、フェノール類としては、2-メトキシフェノール(グアヤコール)、クレオソートなどの薬効成分も含まれているが、ベンツピレンなどの発がん性物質や、クレゾール、ホルムアルデヒド、蟻酸、メタノールなどの有害物質もごく微量ながら含まれている。
【0022】
依って、本発明において使用される竹酢液は、望ましくは、このような発ガン性物質であるベンツピレンなどの有害物質の混入のない、安全性の高い竹酢液を使用する。具体的には、長期間(望ましくは3年以上)沈降分離した上で、減圧下において約50?60℃の低温蒸留を3回以上繰り返すことにより、発ガン性物質であるベンツピレンなどの有害物質の混入のない、安全性の高い竹酢液を得ることができる。
・・・・・
【0024】
また、本発明の動物用飲料添加剤では、竹酢液及び/又は木酢液を、竹炭及び/又は木炭に吸着させて製造する事もできる。竹酢液及び/又は木酢液を吸着させ得るものとしては、その他にも活性炭、珪藻土多孔質セラミック、ゼオライト、活性白土、ケイ酸、カオリン及びベントナイト、シリカゲル又は多孔性重合樹脂(イオン交換樹脂や無官能基型合成吸着剤など)を使用する事も考えられる.併しながら、竹酢液及び/又は木酢液特有の臭気を除去するためには、竹炭及び/又は木炭が使用されるべきである。中でも竹炭は木炭と比べても微細孔が多く存在していることから、竹酢液及び/又は木酢液の吸着性が優れ,依ってこれら竹酢液及び/又は木酢液の臭気の除去にも優れたものとなる。」

(3)引用文献3の記載事項

引用文献3には、以下の事項が記載されている。

ク.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
木を乾留して得られた粗木酢液から有害物質を分離して精製した木酢精製液からなる乳酸菌増殖促進剤。」

ケ.「【発明の効果】
【0009】
本願発明の乳酸菌増殖促進剤を動物に投与すれば、腸内に存在する乳酸菌の増殖を促進することができる。」

コ.図1とともに、発明を実施するための最良の形態として以下のように記載されている。
【図1】

「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本願発明の乳酸菌増殖促進剤は、木を乾留して得られた粗木酢液から有害物質を分離して精製した木酢精製液からなるものである。
【0012】
本願発明に用いる木酢精製液の製造方法の一例を示す概略図を図1に示す。
【0013】
木としては、発明の効果の観点から、広葉樹の樹皮を含む木片であるのが好ましいが、森林保護、廃物の有効活用という観点から、従来有効な用途が考えられなかったスギ、ヒノキ、カラマツなどの間伐材を用いることもできる。なお、処理熱効率などの観点から、樹皮を細かく砕いたバーグ材が好ましい。さらに、昔より漢方薬の原料として使用されていたという理由から、広葉樹は、カシ、タブ、サクラ、カエデ、シイ、クス、イス、ナラ、キハダ、ヤマモモ、カシワ、ケヤキ、クワ、キリ、ミズキ、ソヤのいずれか一種を含有するのがより好ましい。
【0014】
乾留処理方法は、特に限定されないが、例えば、200?380℃で乾留処理する方法を例示することができる。
【0015】
乾留の際にはガスが発生するが、そのガスを集めて冷却すると、粗木酢液を得ることができる。
【0016】
この粗木酢液は3ヶ月以上放置すると、上層の軽質油、中間層の木酢液、下層の有害なタール分の三層に分離するため、この三層から中間層の木酢液を分離する。
【0017】
分離された木酢液は、有害物質を含むため、蒸留して精製する。蒸留方法としては、120℃以下で反復蒸留する方法を挙げることができるが、これに限定されない。木酢液から有害物質を除去すると、木酢精製液が得られる。なお、有害物質としては、3-4ベンツピレンを例示することができる。
【0018】
上述の製造方法により得られた木酢精製液の性質の一例を表1に示す。
【表1】



サ.「【実施例】
【0019】
(1)木酢精製液作成
(実施例1)
新鮮なカシ、シイ、タブ、サクラ及びカエデの樹皮を含む乾燥木片25トンを原料として乾留炉に投入し、350℃で、168時間乾留を行った。
【0020】
乾留の際に発生したガスを収集し、自然冷却により粗木酢液1aを得た。
【0021】
得られた粗木酢液1aを分離槽に3ヶ月以上静置し、上層の軽質油、中間層の木酢液、下層の有害なタール分の三層に分離した分離粗木酢液1bを得た。
【0022】
分離粗木酢液1bから中間層の木酢液を分離し、木酢液1cを得た。
【0023】
この木酢液1cから有害物質が検出されなくなるまで120℃以下で反復蒸留して精製し、約1トンの木酢精製液1dを得た。
【0024】
この木酢精製液1dは、無色透明の液体で、特異な焦臭と酸味があり、18℃におけるpHをデジタルpHメーターで測定したところ、3.7であった。また、5mlの木酢精製液1dに硫酸1mlを加えて加熱したところ、酢酸のにおいを発した。さらに、5mlの木酢精製液1dに水酸化ナトリウム試液を加えて中和し、塩化第二鉄試液を滴加したところ、液は赤褐色を呈し、煮沸したところ、赤褐色の沈殿を生じた。」

2.各引用文献に記載された発明

(1)引用文献1に記載された発明

上記摘記事項イ、エによると、引用文献1には、「木材及び/又は竹材を乾留して生成された木酢液及び/又は竹酢液からなる乾留副生液と、硫黄と、を含有していることを特徴とする炭化水素油改質剤」、及び「木材及び/又は竹材を乾留して生成された木酢液及び/又は竹酢液からなる乾留副生液と硫黄とを化石燃料に混合して混合液を得る混合液作成工程と、前記混合液から前記硫黄の固形分を除去して炭化水素油改質剤を得る固形分除去工程と、を備えていることを特徴とする炭化水素油改質剤の製造方法」(請求の範囲)が開示されており、これにより、「木酢液や竹酢液からなる乾留副生液にはアルコール類、有機酸類等200種類以上の化合物が溶け込んでおり、炭化水素油に添加することで、これらの多種多用な化合物と硫黄とが炭化水素油中の炭化水素に作用して、燃料の炭化水素油を完全燃焼に近い状態で燃焼させることができるので、排気ガス中のHC,CO,NOx等の環境汚染物質を削減することができ環境保全性に優れるとともに、燃費の改善効果に優れた炭化水素油改質剤を提供することができる。」(段落[0026])等の効果を得るものであることが認められる。
そして、この「木酢液及び/又は竹酢液からなる乾留副生液」の成分やその製造方法に着目すると、上記摘記事項アより、木酢液や竹酢液からなる乾留副生液にはアルコール類、有機酸類等200種類以上の化合物が溶け込んでいること(段落[0005])、乾留副生液としては、木材や竹材、笹を製炭等のため乾留した際に発生するガスを冷却して得られる木酢液や竹酢液が用いられ、乾留副生液に含まれるタール分等の不純物をデカンテーション、濾過、吸着等によって分離・除去し精製した乾留副生液を用いるのが好ましく、これにより、タール分に含有される人体に有害なベンツピレン等を除去することができること(段落[0006])、及び、乾留副生液は、竹材や木材を乾留した際に生じるガスの内、煙道出口の温度が80?200℃好ましくは80?150℃のガスを煙道で冷却したものが好適に用いられること(段落[0007]参照)が読み取れる。さらに、上記摘記事項ウには、乾留副生液の具体的な製造工程として、伐採した竹材やナラの木材を約3ヶ月間自然乾燥した後、略定尺に切り分割したものを乾留し、乾留時に発生した排煙口の温度が80?150℃のガスを冷却して粗竹酢液を得、この粗竹酢液を静置後デカンテーションによってタール分等の不純物を分離・除去し精製することが示されている(実施例1、8、12)。
そうすると、引用文献1には、木材あるいは竹材を乾留して得た粗木酢液あるいは粗竹酢液に含まれるタール分等の不純物を、デカンテーション(あるいは静置後デカンテーション)、濾過、吸着等によって分離・除去することにより得られた、「タール分等に含有されるベンツピレンが除去された精製木酢液あるいは精製竹酢液」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

(2)引用文献2に記載された発明

上記摘記事項オ、カより、引用文献2には、「竹酢液及び/又は木酢液と、竹酢液及び/又は木酢液の臭気を減じる消臭成分とを含有してなることを特徴とする動物用飲料添加剤」、及び「竹酢液及び/又は木酢液を、竹炭及び/又は木炭に吸着してなることを特徴とする動物用飲料添加剤」(【請求項1】、【請求項2】)が開示されており、これにより、「竹酢液及び/又は木酢液特有の臭気が減じられていることから、動物においても抵抗無く摂取され、その結果、動物における悪臭成分であるアンモニア、トリメチルアミン、メチルメルカプタン及び硫化水素等がペットの体内において分解され、糞尿からの悪臭の発生が顕著に抑えられると共に、体臭等も効果的に消去される。」(段落【0015】)といった効果を奏するものであることが認められる。
そして、当該「竹酢液及び/又は木酢液」に関し、その成分と製造方法に着目しながら、引用文献2の記載内容を仔細にみると、上記摘記事項キより、以下の事項が認められる。すなわち、動物用飲料添加剤に使用される竹炭及び/又は木炭は、広く市販されているものを使用することができ、特に、品質の安定性(即ち含有成分の一定性)や原料調達の容易性の観点からは、竹酢液が好適に使用されること(段落【0019】)、かかる竹酢液は、竹炭を製造する際に生じる煙、すなわち、熱分解によって竹が放出するガラといろいろな成分を含んだ水蒸気が混ざり合ったものから得ることができ、この水蒸気を冷却して蒸留液を採取すると、水溶性の液体と油性の液体とに分れ、そのうち前者が粗竹酢液であり、後者がタール分であること(段落【0020】)、かかる竹酢液は、全体の80%?90%を占める水分を除くと、一番多いのが酢酸で約3.7%であり、ほかに約200種類以上の化合物からなる微量成分が溶け込んでおり、より詳細には、水分を除くと主な成分は、酢酸、プロピオン酸、蟻酸などの有機酸類、メタノール、プロパノール、エタノールなどのアルコール類、2-メトキシフェノール(グアヤコール)、クレゾールなどのフェノール類、吉草酸エステルなどの中性物質、その他、カルボニル化合物、塩基成分などで構成されており、この内、フェノール類としては、2-メトキシフェノール(グアヤコール)、クレオソートなどの薬効成分も含まれているが、ベンツピレンなどの発がん性物質や、クレゾール、ホルムアルデヒド、蟻酸、メタノールなどの有害物質もごく微量ながら含まれていること(段落【0021】)、このような発ガン性物質であるベンツピレンなどの有害物質の混入のない、安全性の高い竹酢液を使用することが望ましく、具体的には、長期間(望ましくは3年以上)沈降分離した上で、減圧下において約50?60℃の低温蒸留を3回以上繰り返すことにより、発がん性物質であるベンツピレンなどの有害物質の混入のない、安全性の高い竹酢液を得ることができること(段落【0022】)、及び、本発明の動物用飲料添加剤では、竹酢液及び/又は木酢液を、竹炭及び/又は木炭に吸着させて製造する事もできるが、竹酢液及び/又は木酢液を吸着させ得るものとしては、その他にも活性炭、珪藻土多孔質セラミック、ゼオライト、活性白土、ケイ酸、カオリン及びベントナイト、シリカゲル又は多孔性重合樹脂(イオン交換樹脂や無官能基型合成吸着剤など)を使用する事も考えられること(段落【0024】)を把握することができる。
してみると、引用文献2には、竹炭を製造する際に生じる煙から得た粗竹酢液を、長期間(望ましくは3年以上)沈降分離した上で、減圧下において約50?60℃の低温蒸留を3回以上繰り返すこと、あるいは、竹酢液及び/又は木酢液をシリカゲルに吸着させ、その臭気を除去することにより得られた、「ベンツピレンなどの発がん性物質の混入のない、安全性の高い精製竹酢液」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

(3)引用文献3に記載された発明

上記摘記事項ク、ケより、引用文献3には、「木を乾留して得られた粗木酢液から有害物質を分離して精製した木酢精製液からなる乳酸菌増殖促進剤」(【請求項1】)が開示されており、これにより、動物に投与すれば腸内に存在する乳酸菌の増殖を促進することができることが理解できる(段落【0009】)。
そして、この「木酢精製液」の成分や製造方法については、上記摘記事項コ、サにおいて詳述されているところ、そこには、木酢液は、木を乾留処理する際に発生するガスを集め冷却して得た粗木酢液を3ヶ月以上放置すると、上層の軽質油、中間層の木酢液、下層の有害なタール分の三層に分離するため、この三層から中間層を分離して得られるものであり、この分離された木酢液は、3,4-ベンツピレンなどの有害物質を含むため、蒸留して精製し、木酢精製液を得ることが記載されており、この蒸留方法としては、有害物質が検出されなくなるまで120℃以下で反復蒸留し精製する方法が示されている(特に、段落【0017】、段落【0023】)。
そうすると、引用文献3には、木を乾留処理してして得た木酢液を、120℃以下で反復蒸留して精製することにより得られた、「3,4-ベンツピレンなどの有害物質が検出されなくなるまで精製した木酢精製液」の発明(以下、「引用発明3」という。)が開示されているといえる。

2.本願発明についての検討

(1)本願発明1について

ア 引用発明1ないし引用発明3との対比
本願発明1における「木酢液」は、本願明細書の段落【0002】によると、木材を乾留した際に生じる乾留液の上澄分であって、該木材としては、竹、松などの一般的な木材のみならず、椿科植物などの花をも含む植物一般を意味するものとされているから、当該「木酢液」は、竹酢液を含むものと解することができる。また、ベンツピレン(3,4-ベンツピレン)は、発がん性物質としてよく知られた物質であるから、これらを踏まえると、本願発明1と、引用発明1ないし引用発明3の各発明とは、発がん性物質であるベンツピレンの含有量を低減した木酢液である点で一致し、本願発明1は、当該ベンツピレンの含有量を「1ppt以下」と規定しているのに対して、引用発明1ないし引用発明3の各発明は、そのような含有量の規定を有していない点で相違するといえる。

イ 相違点の検討
本願発明1は、木酢液中のベンツピレン濃度を、1ppt以下という極低レベルまで低減するものであるが、このような極低レベルは、従来の検出限界を超越するものであり、当然のことながら、これを実現するための精製手法も認知されていなかったことから、本願発明1は、1ppt以下のベンツピレン濃度を測定するための高感度な分析手法について検証し、さらに、このような極低レベルまでベンツピレンを除去するための特別な精製手法(本願発明3ないし5にみられるオクタデシル基結合型シリカゲルを用いる手法)を確立してはじめて具現化されたものである。
このような本願発明1の背景を踏まえながら、引用発明1ないし3をみると、引用発明1ないし引用発明3の各発明は、上記「1.(1)?(3)」で説示したとおり、ベンツピレンを有害物質として認識し、確かにその低減を図ることを意図したものといえるが、当該低減のレベル(程度)は、オクタデシル基結合型シリカゲルを用いるような特別な精製手法による低減レベルではなく、上記各引用文献に記載されたような、蒸留法などの一般的な精製手法により達成し得るレベルを指すものであって、人体や動物への影響が懸念されるベンツピレン濃度レベルを想定したものと解するのが相当である。
そして、本願明細書において市販竹酢液サンプル5として記載された、蒸留精製品として市販されている竹酢液のベンツピレン濃度は60ppt程度であること(本願明細書の段落【0028】?【0032】参照)や、本願明細書中で引用されている特開2005-179245号公報(審判請求書においても再度引用)には、3,4-ベンゾピレン(3,4-ベンツピレンと同義である。)の検出限界は、0.05ppb、すなわち50pptである旨記載されていること(段落【0022】の表1参照)などを勘案すると、上述した蒸留法などの一般的な精製手法により当業者が期待するベンツピレン濃度は、数十pptレベルであるというべきであり、人体への影響を加味して規定される食品中のベンツピレン濃度レベルも同程度と解されるから(本願明細書の段落【0018】の記載を参酌した)、引用発明1ないし引用発明3が想定するベンツピレン濃度は低く見積もっても数十pptレベルであると解するのが妥当である。
また、引用文献1ないし3に開示された技術の目的や課題等を精査しても、引用発明1ないし引用発明3が、1ppt以下という極低レベルまでベンツピレン濃度を低減すべき課題を見い出すことはできない。
加えて、木酢液の分野において、木酢液中の有害物質を1ppt以下という極低レベルまで低減しようとする課題はもとより、そのための特別な精製手法の存在を認めるに足る証拠も見当たらない。
このように、引用発明1ないし引用発明3の各発明において想定され、目標とされるベンツピレン濃度は、本願発明1が規定する極低レベルとは異なるし、木酢液の分野において、有害物質をこのような極低レベルまで低減する要請も確認できないことに加え、蒸留法などの一般的な木酢液の精製手法を繰り返すなどして常用の手法を駆使しても、本願発明1のようにベンツピレン濃度を1ppt以下とし得る確証もないから、引用発明1ないし引用発明3において、本願発明1のような極低レベルのベンツピレン濃度に想到することは当業者にとって困難なことといわざるを得ない。
したがって、本願発明1は、引用発明1ないし引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本願発明2と、引用発明1ないし引用発明3の各発明との間には、上述した「(1)本願発明1について」の「ア 引用発明1ないし引用発明3との対比」におけるものと同じ相違点が存在するため、上記「(1)本願発明1について」の「イ 相違点の検討」における説示が妥当するから、本願発明2は、引用発明1ないし引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)検討のまとめ
以上のとおり、本願発明1及び本願発明2は、引用発明1ないし3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定と同一の理由により、本願を拒絶すべきものであるということはできない。

3.他の拒絶理由の存否

さらに、本願発明3ないし5を含む本願に係るすべての発明につき再度検討しても、拒絶すべき他の理由を発見することはできない。

4.当審の判断のまとめ

以上のとおりであるから、当審は、本願につき拒絶すべき理由を発見することができない。

第5 むすび

したがって、本願は、特許法第49条各号の規定に該当するものではなく、本件審判請求につき理由があるから、同法159条第3項で準用する同法第51条の規定により、本願に係るすべての発明は、特許すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-12-26 
出願番号 特願2011-1499(P2011-1499)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C10C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 橋本 栄和
日比野 隆治
発明の名称 木酢液及びその製造方法  
代理人 福森 久夫  

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