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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A43B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A43B
管理番号 1283131
審判番号 不服2012-15401  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-08 
確定日 2014-01-21 
事件の表示 特願2009-515710号「靴用ソールの構成に使用される透湿性エレメント、その透湿性エレメントを備えたソール、およびそのソールを備えた靴」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月27日国際公開、WO2007/147421、平成21年11月26日国内公表、特表2009-540886号、請求項の数(21)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年6月20日を国際出願日とする出願であって、平成24年4月2日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月8日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、さらに、当審において平成25年6月11日付けで拒絶理由を通知したところ、同年12月12日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?21に係る発明は、平成25年12月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項よりそれぞれ特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「透湿性エレメント(10、210、310、410、510)を備えているソールであって、
その透湿性エレメント(10、210、310、410、510)が、
実質的に少なくとも1つの大きい貫通孔(12、512)を定める支持フレーム(11、211、311、411)と、
防水性で、かつ透湿性であり、前記支持フレーム(11、211、311、411)の上方に配置されて少なくとも前記大きい貫通孔(12、512)を覆う薄膜(17、117)と、
前記支持フレーム(11、211、311、411)と前記薄膜(17,117)との間に配置されて少なくとも前記大きい貫通孔(12、512)を覆う、前記薄膜に対する少なくとも1つの透湿性または多孔性の保護層(19、119)と
を備え、
前記薄膜(17、117)および前記少なくとも1つの保護層(19、119)は、相互に、かつ前記支持フレーム(11、211、311、411)に、少なくともそれらの周縁部で接合され、
前記少なくとも1つの保護層(19、119)は、このソールのトレッド(33、533)へ結合可能であるとともに、このソールの使用中に地面と接触可能であり、
前記支持フレーム(11、211、311、411)は、前記トレッド(33、533)を少なくとも一部に形成し、また、前記支持フレーム(11、211、311、411)は、前記大きい貫通孔(12、512)の範囲を定める周辺部分(13、213、313、413)によって、かつ前記周辺部分(13,213,313,413)と一体である、前記大きい貫通孔(12、512)を形成する部位に配置された構造的グリッド(14)によって構成され、
さらに、地面に接触するスタッド(22)が、前記構造的グリッド(14)に設けられ、かつ前記構造的グリッド(14)から突出しており、
地面に接触する衝撃吸収用スタッド(36)が、前記構造的グリッド(14)と前記保護層(19、119)とに結合され、かつ前記構造的グリッド(14)から突出しており、
前記支持フレーム(11、211、311、411)の少なくとも一部に形成された前記トレッド(33、533)は、前記透湿性エレメント(10、210、310、410、510)が靴のソールを構成するときに、前記周辺部分(13、213、313、413)および前記スタッド(22)を含む、前記支持フレーム(11、211、311、411)のうち地面に接触するすべての部分によって設けられている
ソール。」

第3 当審の拒絶理由
当審において平成25年6月11日付けで通知した拒絶理由の概要は、この出願の請求項1?21に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

刊行物1:国際公開第2006/010578号
刊行物2:特開2000-201702号公報
刊行物3:特表昭64-500491号公報
刊行物4:実願平3-17599号(実開平4-112606号)のマイクロフィルム
刊行物5:特開2000-232902号公報

第4 当審の判断
1.本願発明
1-1.刊行物の記載事項
(1)刊行物1(国際公開第2006/010578号)
当審の拒絶の理由に引用された刊行物1(翻訳文として刊行物1のパテントファミリーである特表2008?508004号公報を援用し、『』内に刊行物1の摘示箇所に対応する特表2008?508004号公報の記載を示す。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
刊1ア:「Technical Field
[0002] The present invention relates to a waterproof and breathable sole for shoes, particularly but not exclusively useful in sports shoes. The present invention also relates to a shoe provided with said sole.」(1頁2?5行)
『【技術分野】
【0001】
この発明は、特に運動靴に有用であるがこれに限定されない靴用の防水性・通気性底革に関するものである。この発明は前記底革で設けられた靴にも関するものである。」

刊1イ:「The aim of the present invention is to provide a waterproof and breathable sole for shoes and the related shoe that allow to utilize to the best possible extent the breathability of the membrane. 」(2頁28?30行)
『【0013】
この発明の目標は、膜の通気性を最大限利用することのできる、靴用の防水性・通気性底革とそれに関連した靴とを提供することにある。』

刊1ウ:「Ways to carrying out the Invention
With reference to Figures 1 and 2, a first embodiment of the sole according to the invention is generally designated by the reference numeral 10.
Said sole 10 is applied for example to a shoe, generally designated by the reference numeral 11 in Figure 1.
Said sole 10 schematically comprises a lower layer 12, which in this embodiment has two large through holes 13.
In particular, said lower layer 12 comprises a tread 14, which substantially forms the contour of said large through holes 13.
In particular, said large through holes 13 are formed on the entire forefoot and in the heel region.
A mesh 15, for example made of nylon, is arranged above said lower layer 12, so as to be substantially superimposed on both of the large through holes 13.
As shown in Figure 7, transverse elements 16 are provided at the large through holes 13, for example so as to form a large grid 17 that is rigidly coupled to the tread 14 and to the mesh 15.
Said transverse elements 16, in the case shown in Figure 7, are designed to avoid transverse deformations of the assembly, acting as tension elements in the deformations of the sole caused by use, and are structured so as to obstruct as little as possible the area of the large holes 13.
Above the mesh 15, at said large holes 13, there is a membrane 18 made of a material that is impermeable to water and permeable to water vapor (which is normally commercially available and is made for example of expanded polytetrafluoroethylene).
In this embodiment, the membrane 18 is preferably laminated with a supporting gauze 18a (shown in Figure 2).
Said supporting gauze 18a may be omitted in other embodiments. Moreover, in this embodiment, the membrane is coupled, in a known manner, to a protective element 19 (which is permeable to water vapor) that lies below it, such as for example a felt.
The coupling is for example provided by spot gluing, so as to avoid compromising the breathability of the membrane 18.
It should be noted that the protective element 19 is preferably provided when the mesh 15 is unable to protect the membrane 18 on its own.
The membrane 18 is perimetrically and hermetically joined to the rest of the sole, as described in greater detail hereinafter, so as to avoid the rise of liquids through the perimeter of the large through holes 13.
Above the membrane 18 and the tread 14 there is a perforated upper layer 20, such as for example a mid-sole, which is superimposed perimetrically on the membrane 18 and therefore has at least one additional large hole 21 at the large holes 13, so as to allow the outward breathability of the shoe.
From the technological standpoint, the sole 10 is provided as follows.
First of all, a "pack" 22 constituted by the mesh 15 and by the membrane 18 with the corresponding protective element 19 is prepared.」(4頁21行?6頁11行)
『【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1および図2によれば、この発明による底革の第1実施形態が参照符号10によって全体が表示されている。
【0020】
前記底革10は例えば靴へ適用されるが、その靴は、図1では参照符号11によって全体が表示されている。前記底革10は図式的には下部層12を備えてなり、この下部層12には、この実施形態では2つの大貫通孔13がある。
【0021】
さらに詳しく言えば、前記下部層12には接地体14が備わっており、この接地体14は前記大貫通孔13の輪郭を実質的に形成している。さらに詳しく言えば、前記大貫通孔13は前足全体とかかと領域とに形成されている。
【0022】
前記下部層12の上方には、例えばナイロンから作られたメッシュ15が、大貫通孔13の両方の上に実質的に重なるように配置されている。
【0023】
図7に示されたように、大貫通孔13の部分には、例えば、接地体14とメッシュ15とに一体に結合された大きい格子17を形成するように、横断要素16が設けられている。前記横断要素16は、図7に示された事例では、この組立品の横方向変形を防止して、使用により引き起こされる底革の変形における引張り要素として作用するように設計され、かつ、大孔13の面積をできるだけ少なくするよう塞ぐように構造化されている。
【0024】
メッシュ15の上方には、前記大孔13の部分に、水不透過性であって水蒸気透過性である材料から作られた膜18(通常は商業的に入手することができ、例えば発泡ポリテトラフルオロエチレンから作られたもの)がある。
【0025】
この実施形態では、膜18は、支持用ガーゼ18a(図2に示されている)で積層されているのが好ましい。前記支持用ガーゼ18aは、他の実施形態では省略することができる。
【0026】
さらにまた、この実施形態では、膜は、公知の方法で、その下に置かれている、例えばフェルトのような保護要素19(水蒸気透過性である)へ結合されている。この結合は、膜18の通気性が損なわれるのを防止するために、例えば点接着法によってもたらされる。保護要素19は、メッシュ15によってそれ自体の上における膜18を防止することができないときに設けられるのが好ましい、ことに留意すべきである。
【0027】
膜18は、大貫通孔13の周辺を経る液体の上昇を防止するために、これ以降にいっそう詳しく説明するように、底革の受け部へ周辺でかつ気密状に接合されている。膜18と接地体14との上方には例えば間底のような有孔上部層20があり、この上部層20は、膜18の上に周辺で重なっており、それゆえ、靴の外方通気が可能になるように、大孔13の部分に少なくとも1つの付加的大孔21がある。
【0028】
技術的観点からすると、底革10は次のようにして設けられる。まず、メッシュ15と対応保護構成要素19の備わった膜18とによって構成された「パック」22が用意される。例えば、前記メッシュ15は、周辺縫い合わせ封止によって、または、周辺接着あるいは点接着によって、保護構成要素19の備わった膜18へ一体に結合される。』

これら記載事項及び図示内容を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物発明1」という。)が記載されている。
「接地体14を備えている底革であって、
その接地体14が、
実質的に大貫通孔13を定め、靴を支持するフレーム状部分と、
防水性で、かつ透湿性であり、前記靴を支持するフレーム状部分の上方に配置されて少なくとも前記大貫通孔13を覆う膜18と、
前記靴を支持するフレーム状部分と前記膜18との間に配置されて少なくとも前記大貫通孔13を覆う、前記膜18に対する透湿性および多孔性のメッシュ15と
を備え、
前記薄18および前記メッシュ15は、相互に、かつ前記靴を支持するフレーム状部分に、それらの周縁部で接合され、
前記メッシュ15は、この底革の接地部分へ結合可能であるとともに、この底革の使用中に地面と接触可能であり、
前記靴を支持するフレーム部分は、前記接地部分を少なくとも一部に形成し、また、前記靴を支持するフレーム状部分は、前記大貫通孔13の範囲を定める周辺部分によって、かつ前記周辺部分と一体である、前記大貫通孔13を形成する部位に配置された横断要素16により形成された大きい格子17によって構成され、
さらに、前記靴を支持するフレーム状部分の少なくとも一部に形成された前記接地部分は、前記接地体14が靴の底革を構成するときに、前記周辺部分を含む、前記靴を支持するフレーム状部分のうち地面に接触するすべての部分によって設けられている
底革。」

(2)刊行物2(特開2000-201702号公報)
当審の拒絶の理由に引用された刊行物2には、図面とともに次の事項が記載されている。
刊2ア:「【技術分野】
【0001】
この発明は、特に運動靴に有用であるがこれに限定されない靴用の防水性・通気性底革に関するものである。この発明は前記底革で設けられた靴にも関するものである。」

刊2イ:「【0005】
【目的】本願発明は上述した問題点に鑑み為されたものであり、十分な通気性、通水性を確保するとともに目詰まりした異物が除去されやすい、新規な多孔性履物底を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本願発明は以下のように構成される。
【0007】すなわち、少なくとも上部(4a)を縮径凸状に形成した小塊体(4)の多数個を、所定の間隙をもって略面状に並べて連結形成したことを特徴とする。また、各小塊体(4)の上部(4a)を半球状とするとともに下部(4b)を柱状に形成したり、あるいは各小塊体(4)を球状に形成してもよい。さらに、各小塊体(4)は連結材(5)を介して連結するようにしてもよい。
【0008】なお、上記において、括弧付きで記した図面符号は、発明の構成の理解を容易にするため参考として付記したのもので、この図面上の形態に限定するものでないことはもちろんである。
【0009】
【作用】上記構成により、本願発明は以下のように作用する。すなわち、履物底の全面に渡って略面状に並べた連結させた各小塊体との間に上下に貫通した間隙が形成され、これが貫通孔となる。該小塊体の少なくとも上部は、縮径凸状に形成しているので、足裏との接触面積が小さく抑えられて通気性が良くなり、足裏の乾燥に寄与すると共に、足裏の適度な刺激としても機能する。
【0010】さらに、貫通孔から小石や砂等の異物が侵入しても、小塊体の上部が縮径凸状であるため、その頂部に砂や小石などの異物が在留せず、貫通孔から速やかに排出されることとなる。
【0011】また、小塊体の上側を半球状に下部を柱状に形成することで、足裏と接触感も良くなるとともに、接地面積が確保されより滑りにくい履物底となる。」

刊2ウ:「【0014】
【発明の実施の形態】以下、本願発明に係る多孔性履物底の実施形態の数例について、図面に基づき詳細に説明する。
【0015】[実施例1]図1は、実施例1の履物底の平面図であり、図3(A)は実施例1の履物底の部分断面図である。
【0016】本実施形態の多孔性履物底1(以下、「履物底1」と省略する。)は、小塊体4と当該小塊体4同士を連結する連結材5とから構成している。
【0017】小塊体4は、従来からの履物底1の素材である塩化ビニル、合成ゴム等から構成しており、本実施例では直径5mm程度の略球状体に形成して、これを小塊体4の中心間距離で1cm離隔させ、所定間隔で略平面状に配置している。
【0018】連結材5は、小塊体4同士を四方橋掛け状(又は方眼状)に連結するものであり、幅3mm、長さ5mmの四角柱体の稜線5bが上側(足裏側)となるように横臥させた格好に形成している。
【0019】なお、連結材5と小塊体4との連結は、小塊体4同士の中心を結ぶ線と連結材5の軸線が一致するように連結材5と小塊体4を一体に形成している。
【0020】連結された小塊体4は履物底1の形状にあわせて成型され、履物底1の周縁には適宜の幅の縁部2を形成している。
【0021】[実施例1の作用]上記構成により、実施例1の履物底1は、以下のように作用するものである。すなわち、履物底1の全面に渡って小塊体4と連結材5とによって区画される部分には、上下に貫通した貫通孔9が形成される。
【0022】また、小塊体4の上部が縮径凸状に形成されているので足裏との接触面積が小さく抑えられ、さらに連結材5についても稜線5bが上側(足裏側)となっているので、貫通孔9から小石や砂等の異物が侵入しても速やかに排出されることとなる。」

これら記載事項及び図示内容を総合すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物発明2」という。)が記載されている。
「少なくとも上部(4a)を縮径凸状に形成した小塊体(4)の多数個を、所定の間隙をもって略面状に並べて連結材(5)により連結形成した多孔性履物底であって、
各小塊体(4)の上部(4a)を半球状とするとともに下部(4b)を柱状に形成した多孔性履物底。」

(3)刊行物3(特表昭64-500491号公報)
当審の拒絶の理由に引用された刊行物3には、図面とともに次の事項が記載されている。
刊3ア:「【特許請求の範囲】
1.トウ区域と、アーチ区域と、ヒール区域とを有する複合靴底において、
その形状を着用者の体重に抗して維持可能な予め定めた硬度を有し、ヒール区域のの周縁の周りにおいて高さが高く、アーチ区域において不規則な形状の上方安定表面が着用者の足のために形成されている下方成形層と、
前記下方層よりも軟質で、該下方層の上方表面と面対面関係で重ねられ、その最上方表面が着用者の足の底面と補完的形状となるように変化した厚さを有する上方クッション層とを含む前記複合靴底。
・・・
18.衝撃吸収インサートが該靴底が摩耗したとき最大の衝撃を受ける区域の下方沿うから上方に延長する、請求の範囲第1項記載の複合靴底。
19.前記衝撃吸収インサートが上方層によって覆われている、請求の範囲第18項記載の複合靴底。」(1頁左下欄1行?2頁右上欄5行)

刊3イ:「第20図は衝撃緩衝挿入物を有する本発明の第4の実施例の斜視図」(5頁右上欄2?3行)

刊3ウ:「第122図はねじり剛性のための横安定材を示す斜視図」(6頁左下欄18?19行)

(4)刊行物4(実願平3-17599号(実開平4-112606号)のマイクロフィルム)
当審の拒絶の理由に引用された刊行物4には、図面とともに次の事項が記載されている。
刊4ア:「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 本底の表面形状と同一形状の軟質状ライナーを本底上面に備えてなる靴底構造において、前記本底の踵部内に空洞を設けると共に、該踵部の側面に前記空洞と連通する窓部を設け、前記空洞内に衝撃吸収材を配設したことを特徴とする靴底構造。」(2頁左欄1?6行)

(5)刊行物5(特開2000-232902号公報)
当審の拒絶の理由に引用された刊行物5には、図面とともに次の事項が記載されている。
刊5ア:「【特許請求の範囲】
【請求項1】発泡合成樹脂からなるミッドソールと補強板を有する靴底であって、前記補強板は、ミッドソールより硬い合成樹脂からなるとともに、つま先部踵部方向に少なくとも一本の突条が形成され、ミッドソールの接地面側の踏まず部ほぼ全域に前記突条を介して挿着一体化された構造を有することを特徴とする靴底。」(2頁左欄1?7行)

1-2.対比
本願発明と刊行物発明1とを対比する。
刊行物発明1の「接地体14」は、「実質的に大貫通孔13を定め、靴を支持するフレーム状部分と、防水性で、かつ透湿性であり、・・・前記大貫通孔13を覆う膜18と、・・・前記大貫通孔13を覆う、前記膜18に対する透湿性および多孔性のメッシュ15とを備え」ていることからして、透湿性といえるから、本願発明の「透湿性エレメント」に相当する。
刊行物発明1の「底革」は本願発明の「ソール」に相当し、以下同様に「大貫通孔13」は「大きい貫通孔」に、「靴を支持するフレーム状部分」は「支持フレーム」に、「膜18」は「薄膜」に、「メッシュ15」は「保護層」に、「底革の接地部分」は「ソールのトレッド」に、「横断要素16により形成された大きい格子17」は「構造的グリッド」に、それぞれ相当する。

以上によれば、本願発明と刊行物発明1とは、次の点で一致する。
「透湿性エレメントを備えているソールであって、
その透湿性エレメントが、
実質的に少なくとも1つの大きい貫通孔を定める支持フレームと、
防水性で、かつ透湿性であり、前記支持フレームの上方に配置されて少なくとも前記大きい貫通孔を覆う薄膜と、
前記支持フレームと前記薄膜との間に配置されて少なくとも前記大きい貫通孔を覆う、前記薄膜に対する少なくとも1つの透湿性または多孔性の保護層と
を備え、
前記薄膜および前記少なくとも1つの保護層は、相互に、かつ前記支持フレームに、少なくともそれらの周縁部で接合され、
前記少なくとも1つの保護層は、このソールのトレッドへ結合可能であるとともに、このソールの使用中に地面と接触可能であり、
前記支持フレームは、前記トレッドを少なくとも一部に形成し、また、前記支持フレームは、前記大きい貫通孔の範囲を定める周辺部分によって、かつ前記周辺部分と一体である、前記大きい貫通孔を形成する部位に配置された構造的グリッドによって構成され、
さらに、地面に接触するスタッドが、前記構造的グリッドに設けられ、かつ前記構造的グリッドから突出しており、
地面に接触する衝撃吸収用スタッドが、前記構造的グリッドと前記保護層とに結合され、かつ前記構造的グリッドから突出しており、
前記支持フレームの少なくとも一部に形成された前記トレッドは、前記透湿性エレメントが靴のソールを構成するときに、前記周辺部分を含む、前記支持フレームのうち地面に接触するすべての部分によって設けられている
ソール。」

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点)
本願発明では、「地面に接触するスタッドが、前記構造的グリッドに設けられ、かつ前記構造的グリッドから突出しており、
地面に接触する衝撃吸収用スタッドが、前記構造的グリッドと前記保護層とに結合され、かつ前記構造的グリッドから突出しており、
前記支持フレームの少なくとも一部に形成された前記トレッドは、前記透湿性エレメントが靴のソールを構成するときに、前記周辺部分および前記スタッドを含む、前記支持フレームのうち地面に接触するすべての部分によって設けられている」のに対して、
刊行物発明1では、本願発明の「地面に接触するスタッド」及び「地面に接触する衝撃吸収用スタッド」に係る構成を有しておらず、「前記支持フレームの少なくとも一部に形成された前記トレッド」が「前記スタッドを含む、前記支持フレームのうち地面に接触するすべての部分によって設けられている」構成を有していない点。

1-3.判断
上記相違点について検討する。
刊行物発明2の小塊体(4)は、「小塊体の上側を半球状に下部を柱状に形成することで、足裏と接触感も良くなるとともに、接地面積が確保されより滑りにくい履物底となる。」(刊2イ)ものであることから、仮に刊行物発明2の小塊体(4)の柱状に形成された下部(4b)を「地面に接触するスタッド」といえ、連結材(5)を「構造的グリッド」といえ、刊行物発明2が「構造的グリッド」に設けられた「地面に接触するスタッド」を有するといえるとしても、刊行物発明2は「十分な通気性、通水性を確保するとともに目詰まりした異物が除去されやすい、新規な多孔性履物底を提供する」(刊2ア)ことを目的としたものであって、刊行物2には本願発明の「地面に接触する衝撃吸収用スタッド」に係る構成は記載も示唆もされていない。
しかも、本願発明の「地面に接触する衝撃吸収用スタッド」は「前記構造的グリッド」だけでなく「前記保護層」とも結合されるものであるところ、仮に刊行物発明2の上記構成を刊行物発明1の横断要素16により形成された大きい格子17(構造的グリッド)に適用できたとしても、「前記構造的グリッド」だけでなく「前記保護層」とも結合された本願発明の「地面に接触する衝撃吸収用スタッド」に係る構成とはならない。

他方、刊行物3にはトウ区域と、アーチ区域と、ヒール区域とを有する複合靴底に衝撃吸収インサート、衝撃緩衝挿入物、ねじり剛性のための横安定材等を設けることが記載され、刊行物4には靴底構造の空洞内に衝撃吸収材を配設することが記載され、刊行物5には靴底に補強板を設けることが記載されているものの、刊行物3?5には本願発明の「地面に接触するスタッド」や「地面に接触する衝撃吸収用スタッド」に係る構成は記載も示唆もされていない。

以上によれば、刊行物1,3?5には本願発明の「地面に接触するスタッド」や「地面に接触する衝撃吸収用スタッド」に係る構成は記載も示唆もされておらず、刊行物2には本願発明の「地面に接触する衝撃吸収用スタッド」に係る構成は記載も示唆もされておらず、しかも、仮に刊行物発明2の上記構成を刊行物発明1の横断要素16により形成された大きい格子17(構造的グリッド)に適用できたとしても本願発明の「地面に接触する衝撃吸収用スタッド」に係る構成とはならないから、相違点に係る本願発明の発明特定事項は、刊行物1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
そして、本願発明は、本願発明の発明特定事項により本願明細書に記載された効果を奏するものである。

1-4.まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願の請求項2?21に係る発明
本願の請求項2?21に係る発明は、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加した発明である。
よって、本願の請求項2?21に係る発明は、本願発明について示した理由と同様の理由により、刊行物1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1?21に係る発明は、刊行物1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとすることができないから、当審において通知した拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
そして、「地面に接触する衝撃吸収用スタッド」を含む上記相違点に係る本願発明の発明特定事項は、原査定で引用された刊行物1に記載された発明及び原査定で認定された周知技術(底面に通気孔を有する靴において地面に接触するスタッドを設けること)に基いても、前記「1-3.判断」において示した理由と同様の理由により、当業者が容易に想到することができたものとはいえず、本願については、原査定の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-01-08 
出願番号 特願2009-515710(P2009-515710)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A43B)
P 1 8・ 113- WY (A43B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川上 佳  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 横林 秀治郎
関谷 一夫
発明の名称 靴用ソールの構成に使用される透湿性エレメント、その透湿性エレメントを備えたソール、およびそのソールを備えた靴  
代理人 野河 信太郎  

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