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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 C21C |
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管理番号 | 1283415 |
審判番号 | 無効2012-800070 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2012-05-01 |
確定日 | 2014-01-31 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3685781号発明「ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3685781号は、平成14年11月19日に出願された特願2002-334665号の願書に添付した特許請求の範囲に記載された発明について、平成17年6月10日に特許権が設定登録されたものであり、その後、平成21年8月24日に訂正請求され、当該訂正を認容する平成22年1月25日付けの審決が、平成24年2月24日に確定している。 本件審判は、上記特許の無効を請求するものであり、その手続の経緯は、次のとおりである。 平成24年 5月 1日:審判請求書提出 7月19日:答弁書提出 8月13日:審理事項通知 9月13日:口頭審理陳述要領書提出(請求人、被請求人) 25日:上申書提出(請求人) 27日:口頭審理実施及び調書作成 10月 3日:審理終結通知 なお、審理終結通知と入れ違いに提出された平成24年10月4日付けの上申書(被請求人)の内容は、審理の再開を要するものではないと認める。 2.本件発明の認定 本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1?5」という。)は、平成21年8月24日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲において、請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。 【請求項1】 溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と、保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と、取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と、を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって、前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置との間には、取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と、取鍋を移動させる取鍋移送手段と、が設置されており、前記取鍋は、前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、前記搬送台車、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられることを特徴とする、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。 参考図(【図1】溶製設備の全体構成を示す平面概略図) 1:保持炉 2,3,9,10,14:ローラーテーブル(取鍋移送手段) 4:搬送台車 5:ローラーテーブル(取鍋移動手段) 8:黒鉛球状化処理装置 11:排滓処理装置 【請求項2】 溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と、保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と、取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と、黒鉛球状化処理終了後に取鍋内のスラグを取鍋から排出する排滓処理装置と、を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって、前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置と前記排滓処理装置との間には、取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と、取鍋を移動させる取鍋移送手段と、が設置されており、前記取鍋は、前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、前記搬送台車、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置及び排滓処理装置へ移動させられることを特徴とする、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。 【請求項3】 前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段は、ローラーが回転することによってローラー上に搭載された取鍋を移動させるローラーテーブル方式であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。 【請求項4】 前記搬送台車は1つの直線上を走行し、前記取鍋移送手段は、その取鍋の移動方向が当該搬送台車の走行方向に対して実質的に直行する方向に設けられていることを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。 【請求項5】 前記搬送台車は、レーザーセンサーによって、その位置が検出されることを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。 3.無効理由の概要 審判請求書によれば、請求人が主張する無効理由は、次の理由1?3であると認められる。 理由1:本件発明1,3,4は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 理由2:本件発明2は、甲第1号証及び甲第11号証に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 理由3:本件発明5は、甲第1号証及び甲第12号証に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 そして、理由1?3の証拠方法として、審判請求書、口頭審理陳述要領書及び上申書には、次の甲第1?20号証が添付されている。 甲第 1号証:特開平7-251240号公報 甲第 2号証:「鋳鉄鋳造品の高度化・信頼性向上に関する研究」 社団法人日本鋳造工学会 平成13年5月 104-112頁 甲第 3号証:「鋳造工場の自動化・省力化マニュアル」 財団法人素形材センター 平成7年3月31日 88-93頁 甲第 4号証:R Cairns The manufacture of ductile iron from 'high sulfur' cupola iron using magnesium cored wire technology The Foundryman September 1992 p272-275 甲第 5号証:「銑鉄鋳物生産技術標準マニュアル-溶解作業(キュポラ)-」 中小企業事業団情報・技術部 平成11年5月 62-64,107-112頁 甲第 6号証:"modern casting" A Publication of the American Foundrymen's Society, Inc. May 1999 p66-67 甲第 7号証:「ジャクトニュース」第490号 社団法人日本鋳造技術協会 平成9年10月20日 16-18頁 甲第 8号証:特開平9-182958号公報 甲第 9号証:特公昭57-59788号公報 甲第10号証:特開平4-71772号公報 甲第11号証:「鋳物工場の設備と生産システムの融合化・統合化」 社団法人日本鋳造工学会 平成11年1月11日 34-39頁 甲第12号証:「鋳造工場の自動化・省力化マニュアル」 財団法人素形材センター 平成7年3月31日 312-313頁 甲第13号証:甲第4号証、甲第6号証の部分翻訳 甲第14号証:特開平8-176637号公報 甲第15号証:実願昭49-86582号(実開昭51-15115号) のマイクロフィルム 甲第16号証:実願昭50-73297号(実開昭51-153702号) のマイクロフィルム 甲第17号証:「鋳造工学」第73巻(2001)第10号 685-688頁 甲第18号証:特公昭50-33969号公報 甲第19号証:特開2001-348608号公報 甲第20号証:特表平9-508176号公報 4.甲号証の記載 甲第1号証 摘示1-1 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、鋳物製造ラインにおいて、注湯機に溶湯を供給するための球状化処理容器搬送装置に関する。 【0002】 【従来の技術】一般の鋳造工場において、例えば球状化黒鉛鋳鉄製品(以下、FCDという)を製造する場合にあっては、ねずみ鋳鉄製品(以下、FCという)をベースとした溶湯を、あらかじめ粉体マグネシウム(以下、Mgという)を入れておいた球状化処理容器に受湯し、反応させる方法または、球状化処理容器に溶湯を受湯した後、純Mgもしくは鉄で被覆されたMg粉体を投入し、Mg反応をさせる方法で溶湯に含まれる黒鉛の球状化処理を施している。 【0003】図14は、前述のFCD製造に用いられる容器2の断面である。容器2は、保持炉または溶解炉より溶湯を受湯し、その内部でMg反応による処理を施し、鋳型へ注湯するために都合の良い構造を有している。また、容器2は溶湯に純Mgを投入する際に発生する激しい振動にも耐え得る構造を有している。この図14に示す容器2においては、2aが受湯口であり、ここから溶湯を受湯し、また、スラグを排出する。一方、2cが注湯口であり、ここから溶湯を出湯する。さらに、2bはMg投入口であり、ここからMgを投入する。このMg投入口2bの奥には孔あき仕切り板2eがあり、投入されたMgは、一旦孔あき仕切り板2eにより形成された空間2dに留まるようになっている。 摘示1-2 【0008】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、黒鉛の球状化処理を施す際、溶湯に純Mgを投入すると、激しい振動が発生するため、人間が操作を行う従来の技術では、大きな危険を伴っていた。また、従来では前述の処理容器の搬送に、大がかりなモノレール方式のものや、図17に示す例のような簡単な構造の搬送装置を用いた。しかし、図17に示すレール台車17のような簡単な構造の搬送装置では、図16のAでの搬送装置の方向転換を伴うような、複雑で緻密な鋳造ラインでは、直接受湯、直接注湯は困難を極めた。さらに前述の通り、容器2に溶湯を受湯する際には、溶湯の計量を必要としているが、一旦汎用取鍋12aに溶湯を受湯し、バネ秤19によって汎用取鍋12aと溶湯の重量を測定することにより、溶湯の計量を行っていた。このため、保持炉15から汎用取鍋12aへ、汎用取鍋12aから容器2へ、容器2から汎用取鍋12bへ、汎用取鍋12bから注湯機16へと溶湯の移動が多くなり、溶湯の温度低下を招き、不良品の発生率を高くしていた。 摘示1-3 【0009】この発明は、前述のような背景のもとになされたもので、鋳造ラインにおいて、保持炉または溶解炉から鋳型までの処理容器の搬送、あるいは処理容器の姿勢制御、並びに鋳造工程に係る処理等を、任意に自動で行うことを可能とした球状化処理容器搬送装置を提供することを目的とする。 摘示1-4 【0010】 【課題を解決するための手段】本発明は、前述のような課題を解決するために、球状化黒鉛鋳鉄製品を製造するための球状化処理容器が回転自在に取り付けられ、前記球状化処理容器の地上高及び回転姿勢を変更する昇降・回転姿勢変更手段と、前記球状化処理容器が載置され、前記球状化処理容器及びその内部に受湯される溶湯の重量を計量する計量手段と、本体底部に収納自在に設けられ、鋳造工場の所定経路の床面に敷設されたレールを追尾する追尾手段と、前記本体底部に収納自在に設けられ、前記所定経路途中の床面の旋回位置に敷設された回転自在な受け部に嵌合する旋回手段と、前記本体底部に取り付けられ、回転軸が変更可能な複数の車輪と、前記溶湯の受湯、球状化処理、注湯、前記球状化処理容器内のスラグ排出等の各工程を一括して処理する処理手段とを具備することを特徴とする。 摘示1-5 【0011】 【作用】本発明によれば、昇降・回転姿勢変更手段によって、保持炉または溶解炉からの直接受湯や注湯機への直接出湯が可能な地上高に球状化処理容器を持ち上げる。次に、計量手段によって球状化処理容器及びその内部に受湯される溶湯の重量を計量しつつ、FCをベースとした溶湯を所定量受湯する。さらに、処理手段は球状化処理容器に受湯した溶湯の量をもとに投入するMgの量を決定し、球状化処理容器内に投入する。また、Mg反応の際には昇降・回転姿勢変更手段によって、球状化処理容器を傾ける。その後、Mg反応の終了した溶湯を球状化処理容器から注湯機へ出湯する。保持炉または溶解炉から注湯機までの容器の搬送には、本体の車輪を駆動して移動するが、その際は本体底部に設けられた旋回手段を収納するとともに、同じく本体底部に設けられた追尾手段を出して鋳造工場の所定経路の床面に敷設されたレールを追尾することにより直線移動を確保する。本体が所定経路途中の床面の旋回位置で旋回する際には、追尾手段を収納するとともに、旋回手段を旋回位置に敷設された受け部に接地させる。そして、全車輪の回転軸を旋回手段方向へ向け、後輪を駆動する。これにより本体が定点旋回する。処理手段は、上述の各工程を一括して処理する。 摘示1-6 【0021】台車1が図9及び図10のST5に到着したならば、図11(オ)のように容器2のMg投入口2bよりMgを投入する。次に図11(カ)のように、昇降機3a及び3bにより容器2を上昇させ、その後に姿勢制御機構4により容器2のBを上方に向ける。ここで、容器2内においてMg反応が起こる。 摘示1-7 【0027】 【発明の効果】以上説明したように、本発明の球状化処理容器搬送装置によれば、処理容器の地上高および回転姿勢を変更する昇降・回転姿勢変更手段、及び溶湯の計量手段を具備しているため、保持炉または溶解炉から処理容器へ溶湯の直接受湯が可能であり、また処理容器から注湯機へ溶湯の直接出湯が可能である。さらに、追尾手段及び旋回手段を具備しているため、複雑かつ緻密な搬送経路を短時間で移動することが可能であり、溶湯の温度低下を防ぎ、不良品の発生率を低減することができる。また、本体が鋳造工場の所定経路を正確に追尾する手段と処理手段を具備しているために、溶湯の計量や受湯、投入Mg量の決定、出湯、スラグの排出、さらにはMg反応のような処理の際にも、人間が関与せずに安全に一括処理することができる。また、従来のような大がかりなモノレール式の搬送装置と比較すると、本発明の球状化処理容器搬送装置によれば、設備コストの低減も期待できる。その他、激しい振動を伴う純Mg反応にも耐え得る構造を有しているため、FCDの製造以外にも多くの種類の鋳造工程に用いることができる。 摘示1-8 【図9】 【図11】 摘示1-9 【図14】 甲第2号証 摘示2-1(107頁) 4)コンバータ法 大量の溶湯処理に向いて(700Kg-5,000Kg)おり、純Mgをもちいて処理するものであるが、Mgとの反応煙はかなり発生する。Fig.4.12にコンバータによる処理の過程を示した。 摘示2-2(109頁) 6)ワイヤーインジェクション法 ドイツで開発されたマグネシウム含有量の高い合金をもちいて、中空ワイヤーを使用して従来接種法としていたものを黒鉛球状化処理にワイヤーインジェクション法としてアメリカでは、球状化処理の自動化と環境保持を目的に用いられるようになり、ヨーロッパでもこの方法を採用する工場が増えてきている。・・・(中略)・・・図3.31にワイヤーインジェクション法の概要図を載せた。 甲第8号証 摘示8-1 【0012】台車2と注湯機11の間の取鍋移送機構としては、台車2上にローラコンベア9、注湯機11上にローラコンベア10を設けている。両ローラコンベア9および10は、図3に示すように、同一平面上に配設されている。そして、台車2上のモータ16および注湯機11上のモータ17を同時に回転させ、取鍋3を移送する。このとき、両ローラコンベア9および10を連結し、1台のモータ16あるいは17で同時に回転させてもよい。取鍋3の前進はリミットスイッチ19で停止させ、後退はリミットスイッチ18で停止させる。 摘示8-2 【図1】 甲第14号証 摘示14-1 【0020】次に図3に基づき第2発明の注湯方法について説明する。この方法では、まず図3(A)に示すように取り鍋1の溶湯収容槽1bに1ショット分を目標に溶湯3を出湯し、この溶湯量をロードセル4で計量する。この出湯された溶湯3は出湯口の閉鎖のタイムラグとか、ロードセル4の計量誤差等によって正確な1ショット分の溶湯量に対して誤差が生じているのが普通である。そこで、溶湯3の出湯量が計量されると、その出湯量に応じた割合の添加剤2の量が求められ、図3(B)に示すように求められた添加剤2の量をロードセル5で計量し、図3(C)に示すように、溶湯3に接触しない場所の反応槽1aに投入する。 摘示14-2 【図3】 甲第17号証 摘示17-1(685頁) ・・・(前略)・・・ 1.コンバータとは コンバータとは,キュポラから出銑された溶湯を脱硫及び球状化処理する設備であり,加炭,加けい等の成分調整にも適している. 炉体の構造を図1に示す. ・・・(後略)・・・ 摘示17-2(686頁) ・・・(前略)・・・ 3.3 設備レイアウト 図4に設備レイアウト,図5に3次元式コンバータの略図を示す. ・・・(後略)・・・ 摘示17-3(687頁) ・・・(前略)・・・ (2)注湯された炉体は旋回し,キャビンに運ばれ,前扉が閉じられる. チャンバ室の反応口を整備,Mgを充てんし,炉体を起立させ,反応を開始させる. ・・・(後略)・・・ 5.引用発明の認定 上記理由1?3は、いずれも甲第1号証を主引用例とするものであるところ、この甲第1号証には、保持炉から溶湯を受湯し、Mg粉末を一旦留めることができる球状化処理容器(摘示1-1,1-9)を用いて球状化黒鉛鋳鉄製品を製造するための鋳造ラインにおいて、球状化処理容器の昇降・回転姿勢変更手段と、溶湯の受湯、球状化処理、注湯等を一括処理する処理手段を具備し、本体底部に車輪が取り付けられた球状化処理容器搬送装置(摘示1-3,1-4)を設け、処理手段により、溶湯の量をもとに投入Mg量を決定し、球状化処理容器内に投入し、昇降・回転姿勢変更手段により、球状化処理容器を傾けて溶湯とMgを反応させ、保持炉から注湯機まで本体底部の車輪を駆動して球状化処理容器を搬送すること(摘示1-5)が記載されている。 すなわち、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「保持炉と、保持炉から溶湯を受湯し、Mg粉末を一旦留めることができる球状化処理容器と、球状化処理容器内にMg粉末を投入する処理手段と、球状化処理容器を傾けて溶湯とMg粉末を反応させる昇降・回転姿勢変更手段と、注湯機と、を備えた球状化黒鉛鋳鉄製品の鋳造ラインであって、前記保持炉と前記注湯機の間には、前記昇降・回転姿勢変更手段と前記処理手段を具備し、底部に車輪が取り付けられた搬送装置本体が設置されており、前記球状化処理容器は、前記搬送装置本体によって前記保持炉から前記注湯機へ搬送される、球状化黒鉛鋳鉄製品の鋳造ライン。」 6.発明の対比 本件発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「溶湯」「Mg粉末」「球状黒鉛化鋳鉄製品」「鋳造ライン」「底部に車輪が取り付けられた搬送装置本体」 が、それぞれ本件発明1の「溶解炉で溶解された元湯」「黒鉛球状化剤」「ダクタイル鋳物」「溶融鋳鉄の溶製設備」「搬送台車」に相当し、さらに、引用発明の「球状化処理容器内にMg粉末を投入する処理手段と球状化処理容器を傾けて溶湯とMg粉末を反応させる昇降・回転姿勢変更手段」が、本件発明1の「元湯に黒鉛球状化剤を添加する黒鉛球状化処理装置」に相当するから、本件発明1のうち、 「溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と、元湯に黒鉛球状化剤を添加する黒鉛球状化処理装置を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって、搬送台車が設置されているダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。」 の点は、引用発明と一致し、両者は次の点で相違する。 相違点1:本件発明1は、元湯を受けるのが「取鍋」であって、黒鉛球状化処理が、取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する「ワイヤーフィーダー法による」ものであるのに対し、引用発明は、溶湯を受湯するのが「球状化処理容器」であって、球状化処理が「球状化処理容器にMg粉末を投入し、該容器を傾けて溶湯とMg粉末を反応させる」ものである点。 相違点2:本件発明1は、搬送台車が、「取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有」し、さらに「保持炉と黒鉛球状化処理装置との間に、取鍋を移動させる取鍋移送手段が設置されており、取鍋は、搬送台車と取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、搬送台車、取鍋移動手段及び取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられる」のに対し、引用発明は、搬送装置本体が、「昇降・回転姿勢変更手段と処理手段を具備し、球状化処理容器は、搬送装置本体によって保持炉から注湯機へ搬送される」点。 7.相違点の判断 甲第2?7号証、甲第13号証及び甲第20号証の記載によれば、本件特許の出願前に、鋳鉄中の黒鉛球状化処理方法として、引用発明のような球状化処理容器を用いるコンバータ法(摘示2-1)も、本件発明1のような取鍋を用いるワイヤーインジェクション法(摘示2-2)も周知であったと認められる。 しかしながら、甲第1号証の記載によれば、引用発明は、球状化処理容器を用いる際に、溶湯計量や注湯のため使用していた汎用取鍋による温度低下(摘示1-2)を防止するため、球状化処理容器による直接受湯や直接出湯を可能にしたもの(摘示1-7)であるから、引用発明において、球状化処理容器に換え取鍋を採用することは阻害されているというべきである。 また、上記各号証に記載されるように、コンバータ法とワイヤーインジェクション法は、黒鉛球状化剤の形態も添加機構も異なるから、鋳造設備として置換しようとする動機づけもない。 してみると、引用発明において相違点1を解消することは、当業者が容易になし得たことではない。 次に、甲第8?10号証の記載によれば、本件特許の出願前に、台車に搭載した取鍋を他の場所へ移送するために台車上と台車外にローラコンベアを設置すること(摘示8-1,8-2)は周知であったと認められる。 しかしながら、上述したように、引用発明において、取鍋を採用することには阻害要因がある。 さらに、甲第1号証には、搬送装置本体が処理手段を具備し、Mg反応(黒鉛球状化処理)等を一括処理することが、引用発明の効果である(摘示1-7)と記載されているから、引用発明において、搬送装置本体以外の場所に黒鉛球状化処理装置を設けることも阻害されているというべきであり、そのような他の場所に設けた黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移送するために、搬送装置本体上にローラコンベアを設ける動機づけがない。 してみると、引用発明において相違点2を解消することも、当業者が容易になし得たことではない。 したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 そして、本件発明3,4も、それぞれ引用発明と対比すると、本件発明1と同様の相違点1,2を有するから、本件発明1と同様、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 次に、本件発明2も、引用発明と対比すると、本件発明1と同様の相違点1,2を有するが、甲第11号証には、球状化剤投入場とノロ掻き場を有する配湯レイアウトについて記載されているにすぎず、相違点1,2に係る技術的事項は記載されていない。 したがって、本件発明2は、甲第1号証及び甲第11号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、本件発明5も、引用発明と対比すると、本件発明1と同様の相違点1,2を有するが、甲第12号証には、レーザによる無人搬送車の車体位置検出について記載されているにすぎず、相違点1,2に係る技術的事項は記載されていない。 したがって、本件発明5は、甲第1号証及び甲第12号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 すなわち、理由1?3により本件特許を無効にすることはできない。 8.付言 請求人は口頭審理陳述要領書において、甲第1号証記載の「処理手段」は、球状化処理の制御をするものにすぎず、本件発明1の「黒鉛球状化処理装置」に相当する「Mg投入装置」は、甲第1号証記載の「停止点ST5」に別途存在するから、これを引用発明において認定すべきであると主張し、そのようなMg投入装置が周知であるとして甲第14?19号証を提出している。 そこで検討するに、甲第1号証には、停止点ST5に集煙フードがあり、ここで、Mg投入やMg反応を行うこと(摘示1-6,1-8)は記載されているが、この停止点ST5に、別途Mg投入装置があることは記載されていない。また、甲第14?16,18,19号証に記載されたMg投入装置は、いずれも上方が開放された取鍋用のもの(摘示14-1,14-2)あって、Mg投入口が閉鎖された甲第1号証記載の球状化処理容器(摘示1-1,1-9)に適用可能なものではない。そして甲第17号証に、Mg投入口が閉鎖されたコンバータ(摘示17-1)が記載されているが、このコンバータは静置型であって(摘示17-2)、Mgの充填も、事前にチャンバ室の反応口の整備をする(摘示17-3)との記載からみて、操作員による手作業である蓋然性が高い。 したがって、請求人の主張は採用できない。 なお、仮に、「停止点ST5」に別途存在する「Mg投入装置」を加えて引用発明を認定しても、該引用発明において、取鍋を採用することや、搬送装置本体上から処理手段等を除去することに阻害要因があることに変わりなく、上述した相違点1,2の判断に変更は要しない。 9.むすび 以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明1?5の特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-10-03 |
結審通知日 | 2012-10-05 |
審決日 | 2012-10-16 |
出願番号 | 特願2002-334665(P2002-334665) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(C21C)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 木村 孔一 |
特許庁審判長 |
山田 靖 |
特許庁審判官 |
大橋 賢一 佐藤 陽一 |
登録日 | 2005-06-10 |
登録番号 | 特許第3685781号(P3685781) |
発明の名称 | ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備 |
代理人 | 阿部 寛 |
代理人 | 石橋 良規 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 石戸 孝則 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 大森 鉄平 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 石川 泰男 |