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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1283427
審判番号 不服2011-28206  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-28 
確定日 2014-01-08 
事件の表示 特願2005-133875「識別表示装置を備える診断システム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月15日出願公開、特開2005-346702〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成17年5月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年5月4日、独国)を出願日とする出願であって、平成20年2月29日付けで審査請求がされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成22年10月27日付けで拒絶理由通知(同年11月2日発送)がなされ、平成23年1月31日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年4月1日付けで最後の拒絶理由通知(同年4月6日発送)がなされ、同年7月29日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、同年8月19日付けで拒絶査定(同年8月31日謄本送達)がなされたものである。
これに対して、「原査定を取り消す、この出願に係る発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として、平成23年12月28日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。
そして、平成24年1月27日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされ、同年8月29日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋(同年9月4日発送)がなされ、同年12月4日付けで回答書の提出があったものである。

2.本願発明

本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記平成23年12月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「機械を作動させるための少なくとも1つの第1のコンピュータ(3)のデータまたは操作インターフェイスへ少なくとも1つの第2のコンピュータ(1,11)から、保護され認証されたアクセスをする電子システムにおいて、
前記第1のコンピュータ(3)と前記第2のコンピュータ(1)とは、前記第1のコンピュータ(3)の前記データを第2のコンピュータ(1)によってのみ受信することができるようにプログラミングされており、それにより、前記第2のコンピュータ(1,11)からのみ前記第1のコンピュータ(3)の前記データまたは前記操作インターフェイスへアクセスすることができ、
前記第2のコンピュータ(1,11)は、アクセスする資格を与えられた作業員についてのユーザ名とこれに付属するパスワードが保存された認証装置を有しており、
前記第2のコンピュータ(1,11)の、アクセスする資格を与えられた前記作業員であって、該第2のコンピュータ(1,11)の前記認証装置によって身元確認された前記作業員を認識可能にする表示が、前記第1のコンピュータ(3)の前記データまたは前記操作インターフェイスへのアクセスの前に、前記第1のコンピュータ(3)と接続された表示装置(16)に行われ、
身元確認された前記各作業員に一対一に割り当てられた身分証明写真が、身元確認の時に、前記第1のコンピュータ(3)の前記表示装置(16)に表示される
ことを特徴とするシステム。」

3.先行技術

(1)引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

(1-1)引用文献1

原審の拒絶査定の理由である上記平成23年4月1日付け拒絶理由通知書において引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平8-252908号公報(平成8年10月1日出願公開、以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

A 「【要約】
【課題】 印刷所と印刷機械メーカとの間において、オンラインで印刷機械の保守を行なうこと。
【解決手段】 データ通信手段14を介して、遠隔診断-遠隔保守ステーション17と接続されるウェブ輪転印刷機械2において、印刷機械2の制御装置8内か、あるいは制御装置8の近傍に、コンピュータ12を備えた光学的および音響的通信システム9が設置され、この光学的および音響的通信システム9は、光学的および/あるいは音響的な伝送媒体を介して、印刷機械2のそれぞれの部分機構3,4,5,6,7と接続され、印刷機械2から収集された光学的および/あるいは音響的データが、データ通信手段14を介して伝送されるようにコンピュータ12により処理され、その後この光学的および/あるいは音響的データが、遠隔診断-遠隔保守ステーション17のモニター23に表示される。」

B 「【請求項1】 少なくとも印刷機構(4)と折り機構(7)とを有して構成され、内部にモニター(23)が設置された遠隔診断-遠隔保守ステーション(17)と、データ通信手段(14;15,16,24)を介して接続されるウェブ輪転印刷機械(2,2’,2”)が好適である、複数の部分機構を備えた印刷機械において、
印刷機械(2,2’,2”)の制御装置(8)内か、あるいは制御装置(8)の近傍に、コンピュータ(12)を備えた光学的および音響的通信システム(9,9’,9”)が設置され、
この光学的および音響的通信システム(9,9’,9”)は、光学的および/あるいは音響的な伝送媒体を介して、印刷機械(2,2’,2”)のそれぞれの部分機構(3,4,5,6,7)、特に印刷機構(4)あるいは折り機構(7)と接続され、
印刷機械(2,2’,2”)から収集された光学的および/あるいは音響的データが、データ通信手段(14;15,16,24)を介して伝送されるように、コンピュータ(12)により処理され、
この光学的および/あるいは音響的データが、遠隔診断-遠隔保守ステーション(17)のモニター(23)に表示されることを特徴とする印刷機械。」

C 「【0002】
【従来の技術】1993年9月17日発行の”経済週間(Wirtschaft Woche)”という定期刊行物の38号の84ページと86ページとには、印刷所と印刷機械メーカとの間において、オンラインで印刷機械の保守を行なうことが既に開示されている。印刷機械メーカは、モニターが設置された遠隔診断-遠隔保守ステーションを所有している。印刷所では、ビデオカメラを用いて、印刷機械の映像が撮影される。そして、これらの映像が、印刷機械メーカ内の遠隔診断-遠隔保守ステーションへ伝送される。遠隔診断-遠隔保守ステーションでは、モニターに表示される印刷機械の映像が、専門家により評価される。そして、専門家により、電話回線を介して、印刷所の印刷機械の修理に関する指示あるいはアドバイスが与えられる。さらに、オンライン回線を介して、印刷機械の制御に介入することが可能である。」

D 「【0010】さらに、光学的および音響的通信システム9は、カラーモニター18、パーソナルカメラ19、移動電話20、キーボード21、およびマウス22を有して構成されているのが好適である。パーソナルカメラ19によって、作業員の映像が撮影され、パーソナルカメラ19の映像信号が、遠隔診断-遠隔保守ステーション17のモニター23上の一区画に表示されるのが好適である。データが人工衛星16によって伝送される場合には、遠隔診断-遠隔保守ステーション17は、地上受信ステーション24に接続される。ウェブ輪転印刷機械2の個々の部分機構3,…,7から出力されるデータは、印刷所1に設置されているPC12により処理された後に、伝送媒体14あるいは人工衛星16を介して、モニター23に表示可能となっており、この表示画像が、遠隔診断-遠隔保守ステーション17内の保守作業員により評価される。この評価を実施するために、遠隔診断-遠隔保守ステーション17において、PC23が使用されるのが好適である。このPC23は、PC12と同様の構成要素を有して構成されている。遠隔診断-遠隔保守ステーション17には、印刷機械に関する詳細データ、特に印刷機械の部分機構のグラフィカルな部分図および印刷機械の生産データ等が保存されており、作業員はこれらのデータをPC23を用いて呼び出すことが可能となっている。そして、電話、特にテレビ電話を介して、印刷所1の保守作業員と、遠隔診断-遠隔保守ステーション17内の作業員とが、ウェブ輪転印刷機械2のトラブルおよび故障に関する情報を交換する。同様に、データ伝送媒体14あるいは人工衛星16を介して、ウェブ輪転印刷機械と遠隔診断-遠隔保守ステーションとの間において、データが双方向的に送受信される。」

E 「【0013】図3に示されるように、印刷所1と遠隔診断-遠隔保守ステーション17とを通信手段により接続することで、印刷所1に設置されたウェブ輪転印刷機械2’,2”の保守に対する最適な接続形態が実現される。この際、データファイルの伝送が可能となり、ターミナルエミュレーションおよびテレビ会議を実施することも可能となる。また、訓練目的で、画像および音声を伝送することも可能である。ウェブ輪転印刷機械2’,2”から出力されたデータは、データ、画像、および音響伝送手段を介して、双方向的に、印刷所1から輪転印刷機械2’,2”のそれぞれの部分の専門の保守技術者まで伝送される。また、遠隔診断-遠隔保守ステーション17内の保守技術者は、人工衛星16あるいはデータ伝送媒体14を介して、遠隔操作により、ウェブ輪転印刷機械を制御することが可能である。すなわち、ソフトウエア(プログラム)を制御したり、データファイルを操作したり、印刷所1内のソフトウエアを起動するとともに利用したり、ウェブ輪転印刷機械2’,2”の故障の発生を抑えるとともに発生した場合はこれを排除したり、所定の操作を実行するために現場の作業員に指示を与えることも可能である。この場合、作業員をパーソナルカメラ19により、監督および指導することが可能である。」

ここで、上記引用文献1に記載されている事項を検討する。

(ア)引用文献1は、上記Aに記載されるように「印刷所と印刷機械メーカとの間において、オンラインで印刷機械の保守を行なう」ことを目的としたシステムであるところ、上記Bに「内部にモニターが設置された遠隔診断-遠隔保守ステーションと、データ通信手段を介して接続される印刷機械において、」「印刷機械・・・の近傍に、コンピュータ・・・を備えた光学的および音響的通信システム・・・が設置され、」「この光学的および音響的通信システム・・・は、・・・印刷機械・・・と接続され、」「印刷機械・・・から収集された光学的および/あるいは音響的データが、データ通信手段・・・を介して伝送されるように、コンピュータ・・・により処理され、」「この光学的および/あるいは音響的データが、遠隔診断-遠隔保守ステーション・・・のモニター・・・に表示される」と記載され、そして、上記Eの「遠隔診断-遠隔保守ステーション17内の保守技術者は、・・・遠隔操作により、ウェブ輪転印刷機械を制御することが可能である。すなわち、ソフトウエア(プログラム)を制御したり、データファイルを操作したり」することは、遠隔診断-遠隔保守ステーションから印刷機械を制御するための光学的および音響的通信システムへアクセスして、ソフトウエア(プログラム)を制御したり、データファイルを操作したりすることに他ならない。してみると、引用文献1には、
“印刷機械を制御するための光学的および音響的通信システムへ遠隔診断-遠隔保守ステーションからアクセスし、ソフトウエア(プログラム)を制御したりデータファイルを操作したりするシステム”
が記載されていると解される。

(イ)上記(ア)の検討内容、及び、上記Dの「データ伝送媒体14あるいは人工衛星16を介して、ウェブ輪転印刷機械と遠隔診断-遠隔保守ステーションとの間において、データが双方向的に送受信される」との記載からすると、引用文献1には、
“光学的および音響的通信システムと遠隔診断-遠隔保守ステーションとの間では、データが送受信され、遠隔診断-遠隔保守ステーションから光学的および音響的通信システムへアクセスすることができ”る態様
が記載されていると解される。

以上、(ア)及び(イ)で指摘した事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「印刷機械を制御するための光学的および音響的通信システムへ遠隔診断-遠隔保守ステーションからアクセスし、ソフトウエア(プログラム)を制御したりデータファイルを操作したりするシステムにおいて、
前記光学的および音響的通信システムと前記遠隔診断-遠隔保守ステーションとの間では、データが送受信され、前記遠隔診断-遠隔保守ステーションから前記光学的および音響的通信システムへアクセスすることができる
ことを特徴とするシステム。」

(1-2)引用文献2

原審の拒絶査定の理由である上記平成23年4月1日付け拒絶理由通知書において引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平10-149338号公報(平成10年6月2日出願公開、以下、「引用文献2」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

F 「【要約】
【課題】情報のセキュリティを向上させるとともに、ユーザの登録に要する時間を短縮するネットワークシステムを提供する。
【解決手段】VTX網1を介してユーザ(端末装置3)から登録の要求を受け付けたセンタのホスト装置2は、VTX網1から通知された発信番号を基にユーザを登録する。また、ユーザが情報を利用する際には、登録時の発信者番号と情報の利用を要求してきた発信者番号とを比較して、一致していなければ情報の利用を禁止する。」

G 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 発信側の回線番号を着信側に通知する公衆回線網にセンタと複数の端末装置が接続され、
センタが、登録されている端末装置に対して情報の利用を承認するネットワークシステムであって、
センタは、任意の端末装置から前記公衆回線網を介して登録の要求を受け付けたときに、通知された回線番号を基に該端末装置の登録を行う手段を有することを特徴とするネットワークシステム。」

上記F及び上記Gの記載からすると、引用文献2には、次の発明が記載されているものと認める。

「任意の端末装置(ユーザ)から公衆回線網を介して登録の要求を受け付けたセンタが通知された回線番号を基にユーザを登録し、ユーザがセンタの情報を利用する際には、センタが、ユーザ登録時の回線番号と情報の利用を要求してきた回線番号とを比較して、一致していなければ情報の利用を禁止するシステム。」

(1-3)引用文献3

原審の拒絶査定の理由である上記平成23年4月1日付け拒絶理由通知書において引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、「横田秀之,Windows Server 2003構築ガイド,NETWORK MAGAZINE 第9巻 第3号,日本,株式会社アスキー,2004年3月1日,第9巻 第3号,p.106-109」(以下、「引用文献3」という。)には、関連する図面(特に画面6)とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

H 「コンピュータBが招待のファイルを開き、セッションのパスワードを入力すると(画面5)、コンピュータAで接続の確認が要求される(画面6)。コンピュータAが了解すると、セッションが開始され、チャットなどで対話できるようになる。」(108頁左欄22行目?同頁中欄2行目)

J 108頁の画面6(「リモートアシスタンスでの支援者に対する許可」に関する画面例)には、“接続を要求しているユーザ名「hideyuki.yokota」を表示して、接続許可の有無を確認する画面例”が示されている。

上記H及び上記Jの記載からすると、引用文献3には、次の技術が記載されているものと認める。

「リモートアシスタンス機能を使用する際に、リモートアシスタンスを受ける側の画面に、リモートアシスタンスを行う支援者のユーザ名を表示して、当該支援者の接続可否を確認する」技術

(2)参考文献に記載されている技術的事項

(2-1)参考文献1

原審の拒絶査定において引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、「近藤大介,ウィンドウズXP RC1 日本語版 スポットレビュー 第2弾,PCfan 第8巻 第23号,日本,(株)毎日コミュニケーションズ,2001年9月15日,第8巻 第23号,p.14-17」(以下、「参考文献1」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

K 16頁の右上図には、「リモートアシスタンス」機能を説明する画面例が示されているが、当該画面例において、ユーザ「花子」がユーザ「太郎」を招待した場合に、サポートを受ける側(花子側)のPCに、「太郎」が操作しようとしている旨を伝える確認画面(16頁右上図参照)が表示される例が記載されている。

(2-2)参考文献2

原審の拒絶査定において引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、「横山哲也,Windows Server 2003 完全技術解説 1版,日本,日経BP社,2003年9月16日,第1版,p.678-684」(以下、「参考文献2」という。)には、関連する図面(特に、図25-39図等)とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

L 「25.9.4 リモートアシスタンスの確立
招待状が第三者にわたる可能性はゼロではない。また、招待状を発行してから、受諾されるまで時間的なずれがあるため、受諾された時点では支援されたくないケースもある。たとえば、たまたまその時に機密情報を含んだファイルを開いているような場合である。そこで、リモートアシスタンス依頼者は、招待の受諾後、最終確認を行う機会を持っている。
1)接続許可の提示
支援者が招待状を受け入れた時点で、依頼者のPCにメッセージが表示される(図25-39)。クライアントは接続するユーザーが依頼した支援者で間違いなく、支援を開始してもよければ、[はい]をクリックする。この操作は必ず依頼者が行わなければならない。」(683頁3?11行目)

(2-3)参考文献3

上記平成24年8月29日付けの審尋で援用した上記平成24年1月27日付けの前置報告において引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2004-21748号公報(平成16年1月22日出願公開、以下、「参考文献3」という。)には、関連する図面(特に、図4等)とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

M 「【0047】
受信側の認証情報通知式携帯電話機11の受信部16では、通信・通話データ受信装置32が、電話回線12を経て認証結果データを受信して(図4のSR1)認証結果処理装置34へ供給する。
通知結果処理部341は、通信・通話データ受信装置32から供給された認証結果データに基づいて個人データ登録部342を検索して(図4のSR2)認証結果データ対応の個人データ、例えば、受信された相手の住所、電話番号、顔写真等を表示装置36の表示画面に出力する(図4のSR3)。
表示画面に表示されている個人データを視認して通信・通話に入る(図4のSR4)。」

(2-4)参考文献4

上記平成24年8月29日付けの審尋で援用した上記平成24年1月27日付けの前置報告において引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2003-219023号公報(平成15年7月31日出願公開、以下、「参考文献4」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

N 「【0016】同じように着呼側に立った場合の通知内容として要求したい項目を設定する。相手の電話番号がわかれば応答しても良いという場合にはレベル1、相手の名前と似顔絵がわかれば応答しても良いという場合にはレベル2、相手の似顔絵さえわかれば応答しても良いという場合にはレベル3、相手の顔写真画像さえわかれば応答しても良いという場合にはレベル4、相手の電話番号、名前、似顔絵、顔写真画像の全てがわからなければ応答しないという場合にはレベル5である。ここではレベル3を設定している。
【0017】次に、本実施例の主要な動作を説明する。図4は、着呼側電話装置の動作を示すフローチャートである。着呼側は待ち受け状態から(S20)、加入者交換機100と所定の送受信をしたあと(S21,S22,S23)、通知項目として設定した発呼番号、名前、似顔絵データ、顔写真画像データの情報を受信する(S24)。そして、項目検出手段8にて要求項目である似顔絵データがあるか検出し、似顔絵データがあれば(S25→YES)、制御手段9は表示手段1に似顔絵を表示する(S26)とともに、着信報知を音声出力手段により行う(S27)。着呼者は表示手段1に表示された似顔絵から、誰からの電話であるかを容易に理解することができ、受話器をあげることにより通信応答となる(S28→YES)。一方、要求項目である似顔絵データがなかった場合(S25→NO)には、制御手段9は着信報知を行なわず、発呼者に対して、「おかけになった番号のお客様は都合により応答できません」というメッセージを送信する(S29)。」

なお、上記Nの記載は、レベル3(相手の似顔絵さえわかれば応答しても良いというレベル)を設定した場合の実施例であるが、当該電話システムがレベル4を設定された場合には、“着呼者は、表示手段に表示された「相手の顔写真画像」から通信を応答するか否かを決定する”ものであることは、当業者にとって自明の事項である。

(2-5)参考文献5

本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2005-64683号公報(平成17年3月10日出願公開、以下、「参考文献5」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

P 「【要約】
【課題】 ユーザの利便性を向上させ、さらにユーザにとって快適で安心なサービスを提供できるようにする。
【解決手段】 ユーザ20の個人関連情報であるPMDを記憶するPK22が、サービスシステム24と通信し、サービスシステム24を初めて利用するとき、サービスシステム24のサービスIDとなりすまし防止方法を記憶する。pBase23は、PK22と通信し、PMDを取得して記憶する。pBase23は、サービスシステム24と通信し、互いになりすまし防止処理を行った後、サービスシステム24にPMDを提供する。サービスシステム24によるPMDの読み出しまたは変更の処理は、ユーザ20により、予め設定されたアクセス許可情報に基づいて行われる。本発明は、サーバに適用できる。」

Q 「【0080】
図6は、PK22とサービスシステム24の間のなりすまし防止方法として、合言葉による認証が採用されている場合のなりすまし防止の処理の流れを説明するアローチャートである。この例では、PK22において、サービスシステム24がなりすましではないことを確認し、その後サービスシステム24において、PK22がなりすましではないことを確認する。そして、PK22とサービスシステム24において、それぞれがなりすましではないことが確認できた後、PMDの読み出し、または変更の処理を行う。」

R 「【0254】
また、例えば、ドア543付近に守衛室などがあり、ドア543から不正な侵入者が入らないように守衛が監視している場合、例えば、図36に示されるように、PK22から、守衛室のパーソナルコンピュータ562に対して、ID番号と顔写真のデータが含まれるPMDを送信し、パーソナルコンピュータ562に、PMDに対応する顔写真が表示されるようにすることで、さらにセキュリティを強化することができる。このようにすることで、PK22(ユーザ20)のPMDに対応した顔写真が、パーソナルコンピュータ562に表示されるので、例えば、不正な侵入者が、盗んだPK22を使ってドア543から侵入しようとしても、顔写真と違う人物である(ユーザ20ではない)ことが守衛に分かってしまうため、ドア543から侵入することができない。」

4.本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「印刷機械」、「光学的および音響的通信システム」、「遠隔診断-遠隔保守ステーション」、及び「システム」は、それぞれ本願発明の「機械」、「第1のコンピュータ」、「第2のコンピュータ」、及び「(電子)システム」に相当する。そして、引用発明の「ソフトウエア(プログラム)を制御したりデータファイルを操作したりする」との記載からすると、遠隔診断-遠隔保守ステーションは、光学的および音響的通信システムのデータまたは操作インターフェイスへアクセスするものであると解される。
してみると、引用発明の「印刷機械を制御するための光学的および音響的通信システムへ遠隔診断-遠隔保守ステーションからアクセスし、ソフトウエア(プログラム)を制御したりデータファイルを操作したりするシステム」と、本願発明の「機械を作動させるための少なくとも1つの第1のコンピュータ(3)のデータまたは操作インターフェイスへ少なくとも1つの第2のコンピュータ(1,11)から、保護され認証されたアクセスをする電子システム」とは、ともに“機械を作動させるための少なくとも1つの第1のコンピュータのデータまたは操作インターフェイスへ少なくとも1つの第2のコンピュータから、アクセスをする電子システム”である点で共通する。

(2)そして、上記(1)の検討内容を参酌すると、引用発明の「前記光学的および音響的通信システムと前記遠隔診断-遠隔保守ステーションとの間では、データが送受信され、前記遠隔診断-遠隔保守ステーションから前記光学的および音響的通信システムへアクセスすることができる」と、本願発明の「前記第1のコンピュータ(3)と前記第2のコンピュータ(1)とは、前記第1のコンピュータ(3)の前記データを第2のコンピュータ(1)によってのみ受信することができるようにプログラミングされており、それにより、前記第2のコンピュータ(1,11)からのみ前記第1のコンピュータ(3)の前記データまたは前記操作インターフェイスへアクセスすることができ」るとは、ともに“前記第1のコンピュータと前記第2のコンピュータとの間では、データが送受信され、前記第2のコンピュータから前記第1のコンピュータへアクセスすることができる”点で共通するといえる。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

(一致点)

機械を作動させるための少なくとも1つの第1のコンピュータのデータまたは操作インターフェイスへ少なくとも1つの第2のコンピュータから、アクセスをする電子システムであって、
前記第1のコンピュータと前記第2のコンピュータとの間では、データが送受信され、前記第2のコンピュータから前記第1のコンピュータへアクセスすることができる
ことを特徴とするシステム。

(相違点1)

第2のコンピュータから第1のコンピュータへのアクセスに関して、本願発明が、「保護され認証されたアクセス」であるのに対して、引用発明は、保護され認証されたアクセスであるか不明である点。

(相違点2)

第2のコンピュータから第1のコンピュータへのアクセスに際して、本願発明が、「前記第1のコンピュータ(3)の前記データを第2のコンピュータ(1)によってのみ受信することができるようにプログラミングされており、それにより、前記第2のコンピュータ(1,11)からのみ前記第1のコンピュータ(3)の前記データまたは前記操作インターフェイスへアクセスすることができ」るものであるのに対して、引用発明は、遠隔診断-遠隔保守ステーションからのみ光学的および音響的通信システムへアクセスすることができる構成になっているか不明である点。

(相違点3)

本願発明の第2のコンピュータが、「アクセスする資格を与えられた作業員についてのユーザ名とこれに付属するパスワードが保存された認証装置」を有しているのに対して、引用発明は、そのような認証装置を有しているか不明である点。

(相違点4)

本願発明が、「前記第2のコンピュータ(1,11)の、アクセスする資格を与えられた前記作業員であって、該第2のコンピュータ(1,11)の前記認証装置によって身元確認された前記作業員を認識可能にする表示が、前記第1のコンピュータ(3)の前記データまたは前記操作インターフェイスへのアクセスの前に、前記第1のコンピュータ(3)と接続された表示装置(16)に行われ、」「身元確認された前記各作業員に一対一に割り当てられた身分証明写真が、身元確認の時に、前記第1のコンピュータ(3)の前記表示装置(16)に表示される」ものであるのに対して、引用発明は、遠隔診断-遠隔保守ステーションから光学的および音響的通信システムへアクセスする作業員の認証に関して、記載がない点。

5.本願発明と引用発明の相違点についての当審の判断

上記相違点1ないし相違点4について検討する。

(1)相違点1及び相違点2について

引用発明は、上記引用文献1の上記Aに記載されるように、「印刷所と印刷機械メーカとの間において、オンラインで印刷機械の保守を行なう」ことを目的とし、同文献の上記Cに記載されるように、「遠隔診断-遠隔保守ステーションでは、モニターに表示される印刷機械の映像が、専門家により評価され・・・そして、専門家により、・・・オンライン回線を介して、印刷機械の制御に介入することが可能」であるように構成されたシステムである。
そして、オンラインでのアクセスを許可する際に、セキュリティを維持するように構成すること(本願発明の「保護され認証されたアクセス」とするように構成すること)については、引用文献等を示すまでもなく、当該技術分野において、当業者が普通に採用している周知慣用技術に他ならない。
してみると、引用発明においても、オンラインでのアクセスを許可する以上、その際のアクセスを保護され認証されたアクセスとするように構成すること、すなわち、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、オンラインで保守を行わせる際に、アクセス元(保守業者)を確認し、正規のアクセス元からのみアクセスを許可するように構成することは、当該技術分野において、従来から当業者が普通に採用している常とう手段である。
そして、上記引用文献2(上記F及び上記Gの記載を参照)に記載されるように、「任意の端末装置(ユーザ)から公衆回線網を介して登録の要求を受け付けたセンタが通知された回線番号を基にユーザを登録し、ユーザがセンタの情報を利用する際には、センタが、ユーザ登録時の回線番号と情報の利用を要求してきた回線番号とを比較して、一致していなければ情報の利用を禁止するシステム」は周知技術に過ぎない。
してみると、引用発明においても、当該周知技術を適用し、光学的および音響的通信システムのデータへのアクセスを遠隔診断-遠隔保守ステーションからのみ可能とするように構成すること、すなわち、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、相違点1及び相違点2は格別なものではない。

(2)相違点3について

一般に、共用で使用するコンピュータに対して、アクセス制限を施して、当該コンピュータを使用するユーザを管理することは、当該技術分野のみならず、広く行われていることである。そして、ユーザ名とこれに付属するパスワードを用いてアクセス者を管理する技術については、引用文献等を示すまでもなく、当該技術分野において、当業者が普通に採用している周知慣用技術に過ぎない。
一方、引用発明は、上記(1)でも述べたように、「印刷所と印刷機械メーカとの間において、オンラインで印刷機械の保守を行なう」ことを目的としたシステムであり、上記引用文献1の上記Eに「遠隔診断-遠隔保守ステーション17内の保守技術者は、・・・遠隔操作により、ウェブ輪転印刷機械を制御することが可能である。すなわち、ソフトウエア(プログラム)を制御したり、データファイルを操作」と記載されるように、遠隔診断-遠隔保守ステーションから光学的および音響的通信システムに対して、保守技術者がリモートアクセスして作業を行うものであり、当該保守技術者が使用する遠隔診断-遠隔保守ステーションのコンピュータにおいても、何らかのアクセス制限を施して、当該コンピュータを使用するユーザを管理するように構成することは、当業者が普通に採用し得た事項である。
してみると、引用発明の遠隔診断-遠隔保守ステーションにおいて、ユーザ名とパスワードを用いてアクセスする資格を与えられた作業員を認証するように構成すること、すなわち、上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、相違点3は格別なものではない。

(3)相違点4について

引用発明は、上記(2)でも述べたように、遠隔診断-遠隔保守ステーションから光学的および音響的通信システムに対して、保守技術者がリモートアクセスして作業を行うものである。
一方、上記引用文献3(上記H及び上記Jの記載を参照)、上記参考文献1(上記Kの記載を参照)、上記参考文献2(上記Lの記載を参照)に記載されるように、リモートアシスタンス機能を使用する際に、リモートアシスタンスを受ける側の画面に、リモートアシスタンスを行う支援者のユーザ名を表示して、当該支援者の接続可否を確認する技術は、当該技術分野において周知技術であった。
そして、上記参考文献3(上記Mの記載を参照)、上記参考文献4(上記Nの記載を参照)に記載されるように、アクセス者の身元確認の際に、顔写真を画面に表示させるように構成することについても、当該技術分野における周知技術であった。
してみると、引用発明においても、光学的および音響的通信システムのモニターに、リモートアクセスして作業を行う保守技術者の身分証明写真を表示するように構成すること、すなわち、上記相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、相違点4は格別なものではない。

(4)小括

上記で検討したごとく、相違点1ないし相違点4は格別のものではなく、そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、容易に発明できたものである。

6.審判請求人の主張等について

なお、審判請求人は、平成24年12月4日付け回答書において、

『本願発明では、「第2のコンピュータの、アクセスする資格を与えられた作業員であって、第2のコンピュータの認証装置によって身元確認された作業員を認識可能にする表示が、第1のコンピュータのデータまたは操作インターフェイスへのアクセスの前に、第1のコンピュータと接続された表示装置に行われ」ますが、それと同時に、「身元確認された各作業員に一対一に割り当てられた身分証明写真」が表示されます。機械(第1のコンピュータ)の運用者にとっては、この「身分証明写真」が実際に第1のコンピュータにアクセスしている者に一対一に割り当てられているのを確信できることが重要となります。すなわち、第1のコンピュータに表示される身分証明写真が、間違いなく第2のコンピュータによって身元確認された作業員の身分証明写真であることが保証されなければ、安全性を確実に担保することができなくなります。このために、本願発明では、アクセスする作業員は、身分証明写真を含む自身の個人データを、自分自身で変更することができないようになっています。これにより、例えば、身元確認の後で、身元確認された作業員が自身の身分証明写真を他の人間の身分証明写真に変更するを防止することができ、作業員が他の人間になりすまして、第1のコンピュータにアクセスすることを防止することができます。その結果、身元確認された作業員は、第1のコンピュータの表示装置に自身の個人データが表示されることに対して何の影響も及ぼすことができなくなり、作業員による不正操作が一層困難となります。
これに対して、追加引用文献1,2のいずれにも、このような作業員による個人データの変更が防止されなければならないことを示唆する記載は一切ありません。』
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

と主張し、

『このように、本願発明は、進歩性を有するものであると思料いたしますが、本請求人は、この点をより明瞭にするために、本願特許請求の範囲の請求項1,8をそれぞれ下記のように補正させていただくことを希望しております。
[請求項1]
機械を作動させるための少なくとも1つの第1のコンピュータ(3)のデータまたは操作インターフェイスへ少なくとも1つの第2のコンピュータ(1,11)から、保護され認証されたアクセスをする電子システムにおいて、
前記第1のコンピュータ(3)と前記第2のコンピュータ(1)とは、前記第1のコンピュータ(3)の前記データを第2のコンピュータ(1)によってのみ受信することができるようにプログラミングされており、それにより、前記第2のコンピュータ(1,11)からのみ前記第1のコンピュータ(3)の前記データまたは前記操作インターフェイスへアクセスすることができ、
前記第2のコンピュータ(1,11)は、アクセスする資格を与えられた作業員についてのユーザ名とこれに付属するパスワードが保存された認証装置を有しており、
前記第2のコンピュータ(1,11)の、アクセスする資格を与えられた前記作業員であって、該第2のコンピュータ(1,11)の前記認証装置によって身元確認された前記作業員を認識可能にする表示が、前記第1のコンピュータ(3)の前記データまたは前記操作インターフェイスへのアクセスの前に、前記第1のコンピュータ(3)と接続された表示装置(16)に行われ、
身元確認された前記各作業員に一対一に割り当てられた身分証明写真が、身元確認の時に、前記第1のコンピュータ(3)の前記表示装置(16)に表示され、
前記作業員の、保存されている個人データを当該作業員自身が変更することができない
ことを特徴とするシステム。』

との補正案を提示しているが、なりすまし者による身分証明写真の変更を防止する構成については、当業者に周知であり(必要であれば、上記参考文献5(特に、上記P、上記Q、及び上記R等)の記載を参照)、これを引用発明等に適用することも、当業者が適宜に採用し得る設計事項にすぎないものである。

したがって、仮に本願特許請求の範囲が、該補正案のとおりのものとなったとしても、本審決の結論に影響するものではない。

7.むすび

以上のとおり、本願発明は、本願の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-08 
結審通知日 2013-08-13 
審決日 2013-08-27 
出願番号 特願2005-133875(P2005-133875)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 慎太郎  
特許庁審判長 山崎 達也
特許庁審判官 仲間 晃
田中 秀人
発明の名称 識別表示装置を備える診断システム  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 石橋 政幸  
代理人 宮崎 昭夫  

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