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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1283474
審判番号 不服2013-9673  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-27 
確定日 2014-01-09 
事件の表示 特願2006-100359「電池用包装材料」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月18日出願公開、特開2007-273398〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成18年3月31日の出願であって、平成24年1月18日付けで拒絶理由が通知され、同年3月23日付けで意見書と手続補正書が提出され、同年10月16日付けで拒絶理由通知が通知され、同年12月21日付けで意見書と手続補正書が提出され、平成25年2月22日付けで平成24年12月21日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、同年5月27日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、当審から同年7月16日付けで特許法第164条第3項の報告書を引用した審尋が通知され、同年9月20日に回答書が提出されたものである。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年5月27日付けの手続補正よって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
基材層と、少なくとも片面に化成処理層を備えた金属箔層と、酸変性ポリオレフィン層と、高融点ポリプロピレン層とエチレン・プロピレンランダムコポリマ層からなるヒートシール層とが、少なくとも順次積層された電池用包装材料において、
前記高融点ポリプロピレン層が前記エチレン・プロピレンランダムコポリマ層より前記金属箔層側に配され、融点が150℃以上であり、前記金属箔層と前記ヒートシール層との間にポリイミド又はポリエチレンテレフタレートからなる2軸延伸フィルムを介在させ、
前記エチレン・プロピレンランダムコポリマ層の融点が120℃以上150℃以下であることを特徴とする電池用包装材料。

第2.引用例
1.引用例1
本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶理由において引用文献1として引用された特開2002-245981号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載され、視認される。
(ア)「【請求項1】少なくとも基材層、接着層1、化成処理層1、アルミニウム、化成処理層2、接着層2、ヒートシール層からなり、ヒートシール層がホモポリプロピレン層とエチレンコンテントが5?10重量%であるエチレンリッチなランダムポリプロピレンからなる層との共押出しにより形成された層であることを特徴とするリチウム電池用包装材料。」(特許請求の範囲の請求項1)
(イ)「【発明が解決しようとする課題】・・・前記ヒートシール層としては、ヒートシール性、防湿性等において安定した特性を有するエチレンリッチなポリプロピレンが用いられるが、耐熱性に問題があり、リチウムイオン電池を過酷な条件、例えば、夏に日光照射するダッシュボードに放置される等の高温状態に曝されると、外装体のヒートシール層が軟化しヒートシールブレンドにおける剥離現象が発生することがあった。本発明の目的は、リチウムイオン電池包装に用いる材料として、リチウムイオン電池本体の安定した保護物性とともに、高温状態に曝されても安定した密封性を維持できるリチウムイオン電池外装体となる包装材料およびその製造方法を提供することである。」(【0003】?【0004】)
(ウ)「また、エンボス成形段階でキャストポリプロピレン層部分に白化やクラックが生じることがあった。また、パウチタイプの外装体等においては、積層体を折り曲げ加工したとき、キャストポリプロピレン層にクラックが入り、そのクラック部分からアルミニウムの腐食を促進させる場合があった。
本発明者らは、例えば、アルミニウムの両面に化成処理を施し、また、アルミニウムの内容物側の化成処理面に不飽和カルボン酸グラフトランダムプロピレン等の酸変性ポリプロピレン(以下、PPa(当審注:「PP」の誤記と認める。)と記載することがある)を接着樹脂層として設けること、及び、ヒートシール層をエチレンリッチなランダム重合タイプのポリプロピレンとすることにより前記課題を解決できることを確認した。・・・。
本発明者らは、リチウムイオン電池が高温において使用されても最内層が軟化熔融して密封系を破壊することのない材質について鋭意研究の結果、エチレンリッチポリプロピレンの融点が130から135℃であるのに対して、ヒートシール層として、ホモポリプロピレン樹脂層とエチレンリッチポリプロピレン樹脂層とを共押出し製膜した多層のヒートシール層とすることによって、後述する見かけの融点が高くなり、実験の結果、前記見かけの融点が145℃以上であれば、前記の耐熱試験によって高温状態におけるヒートシール層の軟化による密封性の破壊の発生が防止し得ることが明らかであり、前記課題である耐熱性の向上効果を示すことを見出し本発明を完成するに到った。・・・。」(【0008】?【0010】)
(エ)「また、アルミニウムとヒートシール層とを積層する第三の方法としては、アルミニウムの化成処理面に酸変性ポリプロピレンを接着樹脂として押出し、ホモポリプロピレン層とエチレンコンテントが5?10重量%のエチレンリッチなランダムポリプロピレン層との共押出しフィルムをサンドイッチラミネートする方法であり、得られる積層体は図1(c)の通りである。・・・酸変性ポリプロピレンを押出ラミネートする場合、得られる積層体を酸変性ポリプロピレンの軟化点以上に加熱する(後加熱)か、または、前記酸変性ポリプロピレンの押出し加工において、アルミニウムの面を酸変性ポリプロピレンの軟化点以上に加熱する(前加熱)ことによりリチウムイオン電池外装体としての耐内容物性、成形性に耐えられる接着強度のあるラミネートが可能になる。」(【0015】)
(オ)「前記最外層11(当審注:「前記基材層11」の誤記と認める。)延伸ポリエステルまたはナイロンフィルムからなるが、この時、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。・・・」(【0019】)
(カ)「・・・前記化成処理とは、具体的にはリン酸塩、クロム酸塩、フッ化物、トリアジンチオール化合物等の耐酸性皮膜を形成することによってエンボス成形時のアルミニウムと基材層との間のデラミネーション防止と、リチウムイオン電池の電解質と水分とによる反応で生成するフッ化水素により、アルミニウム表面の溶解、腐食、特にアルミニウムの表面に存在する酸化アルミが溶解、腐食することを防止し、かつ、アルミニウム表面の接着性(濡れ性)を向上させ、エンボス成形時、ヒートシール時の基材層とアルミニウムとのデラミネーション防止、電解質と水分との反応により生成するフッ化水素によるアルミニウム内面側でのデラミネーション防止効果が得られた。・・・。」(【0022】)
(キ)「本発明のリチウムイオン電池用包装材料の積層体10として、前記、基材層11、バリア層12、ヒートシール層14の他に、バリア層14とヒートシール層14との間に中間層を設けてもよい。中間層は、リチウムイオン電池用包装材料としての強度向上、バリア性の改善安定化などのために積層されることがある。」(【0030】)
(ク)「【実施例】本発明のリチウムイオン電池用包装材料について、実施例によりさらに具体的に説明する。化成処理は、いずれも、処理液として、フェノール樹脂、フッ化クロム(3)化合物、リン酸からなる水溶液を、ロールコート法により、塗布し、皮膜温度が180℃以上となる条件において焼き付けた。クロムの塗布量は、10mg/m^(2)(乾燥重量)である。本発明のリチウムイオン電池用包装材料について、実施例によりさらに具体的に説明する。また、エンボスは片面エンボスとし、成形部の凹部(キャビティ)の形状は、30mm×50mm、深さ3.5mmとして成形して成形性の評価をした。実施例中で用いた、酸変性ポリプロピレンは、軟化点105℃、融点146℃のランダムタイプポリプロピレンベース不飽和カルボン酸変性ポリプロピレンを用いた。エチレンリッチなランダムポリプロピレンは、いずれも、エチレンコンテント7%のランダムプロピレンで、融点132℃のものを用いた。また、タブ部に用いる接着性フィルムとしては、実施例、比較例ともに、厚さ50μmの酸変性ポリプロピレン(不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン)フィルムを用いた。
・・・
実施例4(エンボスタイプ)
アルミニウム40μmの両面に化成処理を施し、化成処理した一方の面にナイロン25μmをドライラミネート法により貼り合わせ、次に、化成処理した他の面に、酸変性PPを接着樹脂(製膜後の厚さ20μm)とし、最内層を形成するフィルムをサンドイッチラミネート法により積層した後、酸変性ポリプロピレンの軟化点以上となる条件で加熱して検体実施例4とした。。(当審注:読点が一つ余分)前記最内層を形成するフィルムは、融点155℃のホモポリプロピレン21μmと融点132℃のエチレンリッチなポリプロピレン9μmを共押出ししたTダイ法を用いて製膜した厚さ30μmのフィルムとした。」(【0032】?【0033】)
(ケ)「【発明の効果】本発明のリチウムイオン電池用包装材料のヒートシール層をホモポリプロピレン層とエチレンコンテントが5?10重量%であるエチレンリッチなランダムポリプロピレンからなる層との共押出しにより形成された層としたことによって、パウチの折り曲げ部、エンボス成形部での白化あるいはクラックの発生がなくなり、外装体としての密封性が、高温条件を含めて安定する効果が顕著であった。また、アルミニウムの両面に施した化成処理によって、エンボス成形時、及びヒートシール時の基材層とアルミニウムとの間でのデラミネーションの発生を防止することができ、また、リチウムイオン電池の電解質と水分との反応により発生するフッ化水素によるアルミニウム面の腐食を防止できることにより、アルミニウムとの内容物側の層とのデラミネーションをも防止できる顕著な効果を示す。」(【0038】)
(コ)「本発明のリチウムイオン電池用包装材料における積層体の構成を説明する断面図であり、・・・(c)は、酸変性ポリプロピレンを接着樹脂層として押出ラミネート法により積層する例である」図1(c)をみると、部材番号10において、部材番号11、16、15(1)、12、15(2)、13d、14a、14bの順に積層されていることが見て取れ、【符号の説明】には、
「10 積層体(リチウムイオン電池用包装材料)
11 基材層
12 アルミニウム(バリア層)
・・・
13d 接着樹脂層(押出)
・・・
15 化成処理層
16 接着層」
と記載され、【0024】及び【0027】には、共に、「ホモポリプロピレン層14a」及び「エチレンリッチなランダムポリプロピレン層14b」との記載がある。
2.引用例2
本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶理由において引用文献2として引用された特開2002-216715号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(サ)「【請求項1】少なくとも基材層、接着層1、化成処理層1、アルミニウム、化成処理層2、接着層2、ヒートシール層からなる積層体であって、基材層表面にシロキサングラフトポリマーが添加されたアクリル樹脂皮膜が形成されていることを特徴とするリチウムイオン電池用包装材料。」(特許請求の範囲の請求項1)
(シ)「・・・本発明者らは、エンボス成形性がよく、エンボス成形時またはヒートシール時において、基材層とバリア層とのデラミネーションの発生のない積層体であって、また、耐内容物性のあるリチウムイオン電池用の外装体として満足できる包装材料について鋭意研究の結果、以下に述べる各種のラミネート方法を用いて積層体とし、また、基材層表面にアクリル樹脂皮膜を形成することによって解決し得ることを見出した。・・・。
・・・
第3のラミネート方法は、基材層11と両面に化成処理したバリア層12の片面とをドライラミネートし、バリア層12の他の面に、酸変性ポリオレフィン16を押出してヒートシール層(ポリオレフィンフィルム)13をサンドイッチラミネートする場合、あるいは、酸変性ポリオレフィン樹脂16とヒートシール層(ポリオレフィン樹脂)13とを共押出しして積層体とし、得られた積層体を前記酸変性ポリオレフィン樹脂がその軟化点以上になる条件に加熱することによって、所定の接着強度を有する積層体とすることができた。・・・。」(【0008】?【0010】)
(ス)「本発明のリチウムイオン電池用包装材料の積層体10として、前記、基材層11、バリア層12、酸変性ポリオレフィン層17、ヒートシール層13(ポリプロピレンまたはポリエチレン)の他に、酸変性ポリオレフィン層16とヒートシール層13との間に、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等の2軸延伸フィルムからなる中間層を設けてもよい。中間層は、リチウムイオン電池用包装材料としての強度向上、バリア性の改善安定化、リチウムイオン電池外装体のヒートシール時のタブ4とバリア層12との接触による短絡を防止するなどのために積層されることがある。」(【0012】)
(セ)「【発明の効果】・・・また、アルミニウムの内面に設けた化成処理層、および、本発明によるヒートシール層のラミネート方法をによって、リチウムイオン電池の電解質と水分との反応により発生するフッ化水素によるアルミニウム面の腐食を防止できることにより、アルミニウムとの内容物側の層とのデラミネーションをも防止できる顕著な効果を示した。」(【0033】)

第3.引用例に記載された発明
ア 引用例1の(ア)には、「少なくとも基材層、接着層1、化成処理層1、アルミニウム、化成処理層2、接着層2、ヒートシール層からなり、ヒートシール層がホモポリプロピレン層とエチレンコンテントが5?10重量%であるエチレンリッチなランダムポリプロピレンからなる層との共押出しにより形成された層である・・・リチウム電池用包装材料」が記載されている。
イ 上記アの「リチウム電池用包装材料」に関し、引用例1の(ク)に「実施例4(エンボスタイプ)」として、「アルミニウム40μmの両面に化成処理を施し、化成処理した一方の面にナイロン25μmをドライラミネート法により貼り合わせ、次に、化成処理した他の面に、酸変性PPを接着樹脂(製膜後の厚さ20μm)とし、最内層を形成するフィルムをサンドイッチラミネート法により積層した後、酸変性ポリプロピレンの軟化点以上となる条件で加熱して検体実施例4とした。前記最内層を形成するフィルムは、融点155℃のホモポリプロピレン21μmと融点132℃のエチレンリッチなポリプロピレン9μmを共押出ししたTダイ法を用いて製膜した厚さ30μmのフィルムとした」ものが記載されている。
ウ そして、上記イの「実施例4(エンボスタイプ)」において、引用例1の上記(オ)の記載によれば、「ナイロン25μm」はフィルムであって「基材層11」ということができ、この「ナイロン」は「化成処理したアルミニウム」に「ドライラミネート法により貼り合わせ」ているから、アルミニウムの化成処理層とナイロンとの間に「接着剤層」があることは明らかであるし、「酸変性PP」は同(ウ)からみて「酸変性ポリプロピレン」であり、さらに、「エチレンリッチなポリプロピレン」は「エチレンリッチなランダムポリプロピレン」ということができるから、「融点155℃のホモポリプロピレン21μmと融点132℃のエチレンリッチなポリプロピレン9μmを共押出しした」ものは、「ヒートシール層」である。
エ また、引用例1の(コ)の視認事項において、部材番号10、11、16、15(1)、12、15(2)、13d、14a、14bが、それぞれ、「積層体(リチウムイオン電池用包装材料)」、「基材層」、「接着層」、「化成処理層」、「アルミニウム(バリア層)」、「化成処理層」、「接着樹脂層(押出)」、「ホモポリプロピレン層」、「エチレンリッチなポリプロピレン層」であり、
上記「実施例4(エンボスタイプ)」は、「サンドイッチラミネート法により積層」しているから、引用例1の(エ)の「アルミニウムの化成処理面に酸変性ポリプロピレンを接着樹脂として押出し、・・・サンドイッチラミネートする方法」との記載をみると、上記「接着樹脂層(押出)」は「酸変性ポリプロピレン」ということができる。
オ そうすると、ナイロン、両面に化成処理を施したアルミニウム、酸変性ポリプロピレン、ヒートシール層はこの順番に積層され、さらに、ヒートシール層ではホモポリプロピレン層がアルミニウム側にあることは明らかである。
カ そこで、上記イの「実施例4」に係る「リチウム電池用包装材料」を本願発明1に記載ぶりに則して整理して記載すると、引用例1には、
「ナイロンフィルムである基材層、接着剤層、アルミニウム40μmの表面の化成処理層、アルミニウム40μm、アルミニウム40μmの表面の化成処理層、酸変性ポリプロピレン、融点155℃のホモポリプロピレン21μmと融点132℃のエチレンリッチなランダムポリプロピレン9μmを共押出したヒートシール層とが、この順番に積層されたリチウム電池用包装材料において、前記ヒートシール層では前記ホモポリプロピレンが前記アルミニウム40μm側にあるリチウム電池用包装材料」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

第4.対比・判断
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
イ 本願明細書の【0048】には、「前記基材層12は、一般に、延伸ポリエステルまたはナイロンフィルムからなる・・・。」と記載されており、本願発明において基材層はナイロンフィルムである場合を含むといえるから、引用発明の「ナイロンフィルムである基材層」は、本願発明の「基材層」に含まれる。
ウ 本願明細書の【0052】には、「金属箔層13として好ましくは厚さが20?80μmのアルミニウムとする」と記載されており、本願発明において金属薄層は厚さが20?80μmのアルミニウムである場合を含むといえるから、引用発明の「40μmのアルミニウム」は、本願発明の「金属箔層」と「厚さが40μmのアルミニウム」である点で一致している。
エ 本願明細書の【0058】には、「化成処理層13aは、・・・特にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物、リン化合物、を含有する処理液で処理するのが最も好ましい」と記載されており、一方、引用発明の「化成処理層」は、引用例1の(ク)の記載をみると「フェノール樹脂、フッ化クロム(3)化合物、リン酸からなる水溶液を、ロールコート法により、塗布し」たものであるから、引用発明の「化成処理層」は本願発明の「化成処理層」に含まれる。
また、上記ウの検討を併せみると、引用発明は「化成処理層」が「厚さが40μmのアルミニウム」の両面に設けられているから、本願発明の「少なくとも片面に化成処理層を備えた金属箔層」と「両面に化成処理層を備えた厚さが40μmのアルミニウム」である点で一致している。
オ 本願明細書の【0061】には、「酸変性ポリオレフィン層16は・・・酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることができ、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂・・・であり」と記載されており、引用発明の「酸変性ポリプロピレン」は、引用例1の(ク)の記載をみると「実施例中で用いた、酸変性ポリプロピレンは、軟化点105℃、融点146℃のランダムタイプポリプロピレンベース不飽和カルボン酸変性ポリプロピレンを用いた」ものであるから、引用発明の「酸変性ポリプロピレン」は、本願発明の「酸変性ポリオレフィン層」と「酸変性ポリプロピレン」である点で一致している。
カ 引用発明の「融点155℃のホモポリプロピレン21μm」は、本願発明の「高融点ポリプロピレン層」に相当し、融点について、本願発明では「150℃以上」であるから「155℃」で一致している。
キ 引用発明の「融点132℃のエチレンリッチなランダムポリプロピレン」は、本願発明の「エチレン・プロピレンランダムコポリマ層」に相当し、融点について、本願発明では「120℃以上150℃以下」であるから「132℃」で一致している。
ケ 引用発明において「ヒートシール層ではホモポリプロピレンがアルミニウム側にある」から、ホモポリプロピレンがエチレンリッチなランダムポリプロピレンよりもアルミニウム側にあるということができる。
コ 以上の検討を踏まえると、両者は、
「ナイロンフィルムと、両面に化成処理層を備えた厚さが40μmのアルミニウムと、酸変性ポリプロピレンと、高融点ポリプロピレン層とエチレン・プロピレンランダムコポリマ層からなるヒートシール層とが、順次積層された電池用包装材料において、
前記高融点ポリプロピレン層が前記エチレン・プロピレンランダムコポリマ層より前記厚さが40μmのアルミニウム側に配され、融点が155℃であり、
前記エチレン・プロピレンランダムコポリマ層の融点が132℃である電池用包装材料」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点:本願発明は、「前記金属箔層と前記ヒートシール層との間にポリイミド又はポリエチレンテレフタレートからなる2軸延伸フィルムを介在させ」ているのに対し、引用発明はかかる事項を有していない点
サ 次に、この相違点について検討する。
サ-1 引用例1の(キ)には、「本発明のリチウムイオン電池用包装材料の積層体10として、前記、基材層11、バリア層12、ヒートシール層14の他に、バリア層14とヒートシール層14との間に中間層を設けてもよい。中間層は、リチウムイオン電池用包装材料としての強度向上、バリア性の改善安定化などのために積層されることがある。」と記載されているから、引用発明において、「リチウムイオン電池用包装材料としての強度向上、バリア性の改善安定化などのために」、「バリア層12、すなわち、アルミニウムとヒートシール層14との間に中間層を設け」ることが教示されているということができる。
サ-2 ここで、引用例2の記載をみてみると、引用例2の(サ)?(ス)には、「少なくとも基材層、接着層1、化成処理層1、アルミニウム、化成処理層2、接着層2、ヒートシール層からなる積層体であって、基材層表面にシロキサングラフトポリマーが添加されたアクリル樹脂皮膜が形成されている・・・リチウムイオン電池用包装材料」が記載され、「酸変性ポリオレフィン16を押出してヒートシール層(ポリオレフィンフィルム)13をサンドイッチラミネートする」ことや、「リチウムイオン電池用包装材料としての強度向上、バリア性の改善安定化」等のために「酸変性ポリオレフィン層16とヒートシール層13との間に、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等の2軸延伸フィルムからなる中間層を設けてもよい」ことが記載されている。
ここで、上記「接着層2」は、「酸変性ポリオレフィン16を押出し」たものということができる。
サ-3 そうすると、引用例2には、「基材層、接着層1、化成処理層1、アルミニウム、化成処理層2、接着層2、ヒートシール層が積層され、該接着層2が酸変性ポリオレフィンを押出したものでヒートシール層をサンドイッチラミネートしたリチウムイオン電池用包装材料」が記載されているといえ、この「リチウムイオン電池用包装材料」において、「リチウムイオン電池用包装材料としての強度向上、バリア性の改善安定化」等のために、接着層2である酸変性ポリオレフィン層16とヒートシール層13との間に、「ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等の2軸延伸フィルムからなる中間層」を設けてもよいことが教示されているといえる。
サ-4 ここで、引用発明は、アルミニウム、化成処理層、酸変性ポリプロピレンなる接着層、ヒートシール層を、上記第3.のエで述べたように「サンドイッチラミネート法により積層」したものであり、一方、引用例2の上記「リチウムイオン電池用包装材料」も、アルミニウム、化成処理層、接着層、ヒートシール層をサンドイッチラミネートしてなるものであるから、その構造も積層方法も同じということができる。
サ-5 してみれば、引用発明において、上記サ-1でみた引用例1の教示のもと、「アルミニウムとヒートシール層14との間に中間層」を設けるに当たり、上記サ-3でみた引用例2の教示を考慮して、その中間膜として「ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等の2軸延伸フィルムからなる中間膜」を設けること、すなわち、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項をなすことは当業者であれば、困難なくなし得ることである。
シ 次に、請求人が回答書で本願発明における格別な効果と主張する、本願明細書の【0019】、【0020】【0068】及び【0041】?【0042】に記載されている各効果について検討する。
シ-1 上記第3.のエで検討したように、引用発明は溶融した酸変性ポリオレフィンをアルミニウムとヒートシール層とで挟み込み積層するサンドイッチラミネート法で作成されており、このサンドイッチラミネート法は、本願明細書の【0044】に「本発明においては、・・・溶融した酸変性ポリオレフィンを金属箔層13とヒートシール層14とで挟み込み積層するサンドイッチラミネーション法を用いる。いずれの方法も、ドライラミネート法と比較して、耐内容物性、耐久性に優れる積層方法である。」の記載をみると、本願発明の製造方法に含まれるということができる。
そうすると、引用発明は本願発明と同じ製造法によって製造され、上述のとおり中間膜を設けることは当業者であれば困難なくなし得ることであるから、上記各効果は引用発明がすでに内在しているものか(引用例1の(イ)、(ウ)、(キ)、(ケ)等を参照。)、あるいは、引用例1?2の記載(引用例2の(ス)、(セ)等の記載を参照。)から予想できるものであって、格別なものでない。
ソ よって、本願発明は引用例1?2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5.むすび
以上のとおり、本願発明は引用例1?2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-05 
結審通知日 2013-11-12 
審決日 2013-11-25 
出願番号 特願2006-100359(P2006-100359)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤樫 祐樹吉田 安子  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 小川 進
山田 靖
発明の名称 電池用包装材料  
代理人 西田 信行  
代理人 佐野 静夫  
代理人 井上 温  

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