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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07F
管理番号 1283528
審判番号 不服2010-25161  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-08 
確定日 2014-01-07 
事件の表示 特願2006-530161「有機官能性シロキサン混合物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日国際公開、WO2004/101652、平成19年 2月22日国内公表、特表2007-503455〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年3月18日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年5月13日(DE)ドイツ〕を国際出願日とする出願であって、
平成17年12月13日付けで特許法第184条の5第1項の規定による書面及び特許法第184条の8第1項の規定による補正書〔条約第三十4条(2)(b)の規定に基づき2005年2月25日に提出された補正書〕の翻訳文が提出され、
平成21年12月4日付けの拒絶理由通知に対し、平成22年6月10日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、
平成22年6月29日付けの拒絶査定に対し、平成22年11月8日付けで審判請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ、
平成24年2月14日付けの審尋に対して、平成24年8月15日付けで回答書の提出がなされ、
平成24年9月20日付けの拒絶理由通知に対し、平成25年3月21日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。

第2 本願発明
1.本願の特許請求の範囲
本願の請求項1?12に記載された発明は、平成25年3月21日付けの手続補正(以下「第4回目の手続補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
一般式I
R_(x)SiO_((4-x)/2) (I)
[式中、
xは1、2又は3であり、
置換基Rは以下
(i)以下
【化1】

から選択される有機官能基、ここで、R’は、1?18個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖又は環式アルキル基である、及び
(ii)ヒドロキシル、メトキシ、エトキシ、2-メトキシエトキシ、イソプロポキシ、n-プロポキシ、イソブトキシ及び/又はn-ブトキシ基であるか、又は
(i)、(ii)及び
(iii)1?18個の炭素原子を有するアルキル、アルケニル、イソアルキル、シクロアルキル又はフルオロアルキル基、又は6?12個の炭素原子を有するアリール基である]
で示され、但し、ケイ素原子1個当たり1個以下の有機官能基(i)が結合しており、ケイ素に対する成分(ii)のモル比の割合が1?2であり、かつ一般式Iの化合物のためのオリゴマー化度が2?50の範囲内である、鎖状、分枝状及び/又は環式シロキサンを含有する混合物。
【請求項2】
アルコキシ基含分が、存在するシロキサン混合物の質量に対して0.001質量%を上回り、かつ60質量%未満である、請求項1記載の混合物。
【請求項3】
置換基Rが、以下
(i)1-アミノメチル、N-(2-アミノエチル)-1-アミノメチル、N,N-ジ(2-アミノエチル)-1-アミノメチル、N-[N’-(2-アミノエチル)-2-アミノエチル)]-1-アミノメチル、N-メチル-1-アミノメチル、N-(n-ブチル)-1-アミノメチル、N-シクロヘキシル-1-アミノメチル、ウレイドメチル又はN-フェニル-1-アミノメチル基、及び
(ii)ヒドロキシル、メトキシ、エトキシ、2-メトキシエトキシ、プロポキシ及び/又はブトキシ基から選択されているか、又は
(i)、(ii)及び
(iii)メチル、エチル、ビニル、プロピル、イソブチル、オクチル、ヘキサデシル、モノフルオロアルキル、オリゴフルオロアルキル、ペルフルオロアルキル又はフェニル基から選択されている、請求項1又は2記載の混合物。
【請求項4】
沸点が>200℃である、請求項1から3までのいずれか1項記載の混合物。
【請求項5】
引火点が>100℃である、請求項1から4までのいずれか1項記載の混合物。
【請求項6】
意図的な加水分解及び縮合により請求項1から5までのいずれか1項記載の混合物を製造するための方法において、成分Aとして、少なくとも1種の1-有機メチル官能性トリアルコキシシラン又は1-有機メチル官能性メチルジアルコキシシランを用いて、かつ所望であれば、成分Bとして、1?18個の炭素原子を有する少なくとも1種のアルキル-、アルケニル-、イソアルキル-、シクロアルキル-及び/又はフルオロアルキル-トリアルコキシシラン及び/又はフェニルトリアルコキシシラン及び/又は1?18個の炭素原子を有するアルキル-、アルケニル-、イソアルキル-、シクロアルキル-及び/又はフルオロアルキル-メチルジアルコキシシラン及び/又はフェニルメチルジアルコキシシランを用いて、かつ適当であれば、成分Cとしてテトラアルコキシシランを用いて、成分A、適当であればB及び適当であればCを、連続して、又は混合して、Si1モル当たり0.5?1.8モルの水、及び使用するアルコキシシランに対して0.1?10倍の質量の、(ii)のアルコキシ基に相当する少なくとも1種のアルコールを用いて、10?95℃の温度で意図的に加水分解及び縮合し、次いで、導入したアルコール及び反応の過程で遊離されたアルコールを大気圧又は減圧下で、120℃以下の液相温度での蒸留により生成物混合物から除去することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の混合物の製造法。
【請求項7】
成分A、B及びCを1:0:0?1:10:0又は1:0:0?1:0:10又は1:0:0?1:10:10のA:B:Cのモル比で使用する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
溶剤及び/又は希釈剤として使用するアルコールに相応するメトキシ又はエトキシ基を有するアルコキシシランを使用する、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
加水分解及び縮合を大気圧下で60?80℃の温度で実施する、請求項6から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
生成物混合物の蒸留後処理を50?120℃の範囲内の温度で大気圧及び/又は減圧下で実施する、請求項6から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
蒸留後処理の後に得られる生成物が、使用する成分A、B及びC5質量%未満及び遊離アルコール5質量%未満を含有する、請求項6から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
接着剤及びシーラントにおける接着促進剤としての、有機樹脂を変性及び架橋するための、インク及び塗料におけるバインダーとしての、ガラス繊維を被覆するための、充填された熱可塑性コンパウンドにおける接着促進剤としての、無機表面、有機表面及び金属表面を処理するための、表面を撥水性にするための、粉末状物質の表面変性のための、充填剤及び顔料のシラン処理のための、又はフォームシーラントを製造するための、請求項1から11までのいずれか1項記載の混合物の使用。」

2.本願明細書の発明の詳細な説明
平成17年12月13日付けの条約34条補正翻訳文のとおりの手続補正、及び第4回目の手続補正により補正された本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【0023】
本発明は更に、意図的な加水分解及び共縮合により本発明の鎖状及び環式シロキサンオリゴマーの混合物を製造するための方法において、成分Aとして、少なくとも1種の1-有機メチル官能性トリアルコキシシラン又は1-有機メチル官能性メチルジアルコキシシランを用いて、かつ所望であれば、成分Bとして、1?18個の炭素原子を有する少なくとも1種のアルキル-、アルケニル-、イソアルキル-、シクロアルキル-及び/又はフルオロアルキル-トリアルコキシシラン及び/又はフェニルトリアルコキシシラン及び/又は1?18個の炭素原子を有するアルキル-、アルケニル-、イソアルキル-、シクロアルキル-及び/又はフルオロアルキル-メチルジアルコキシシラン及び/又はフェニルメチルジアルコキシシランを用いて、かつ適当であれば、成分Cとしてテトラアルコキシシランを用いて、成分A、適当であればB及び適当であればCを、連続して、又は混合して、Si1モル当たり0.5?1.8モルの水、及び使用するアルコキシシランに対して0.1?10倍の質量の、(ii)のアルコキシ基に相当する少なくとも1種のアルコールを用いて、10?95℃の温度で意図的に加水分解及び縮合し、次いで、導入したアルコール及び反応の過程で遊離されたアルコールを大気圧又は減圧下で、120℃以下の液相温度での蒸留により生成物混合物から除去することを特徴とする、本発明の鎖状及び環式シロキサンオリゴマーの混合物を製造するための方法を提供する。…
【0027】
本発明の方法は一般に以下の様に実施される:
通常まず第一に、成分A、使用する場合には成分B及び使用する場合には成分Cを反応容器中に装入する。溶剤及び/又は希釈剤、例えばメタノール又はエタノールをアルコキシシラン混合物に添加することができる。有利に完全に混合、例えば撹拌しながら反応のために計量した水を添加することも適当である。水の添加の前又は後に、反応混合物を加熱し、次いで反応させ、生じる生成物混合物を上記のような蒸留により後処理することができる。生成物混合物の蒸留後処理を、有利に50?120℃の範囲内の温度で、大気圧及び/又は減圧下で実施する。ここで、所望であれば、若干例を挙げると、塩酸、硫酸、ギ酸、酢酸及びクエン酸を含む群からの酸を添加することが可能である。
【0028】
本発明の方法において、成分A、B及びCを有利に1:0:0?1:10:0、有利に1:0:0?1:4:0、又は1:0:0?1:0:10、有利に1:0:0?1:0:4、又は1:0:0?1:10:10、有利に1:0:0?1:4:4のA:B:Cのモル比で使用する。
【0029】
本発明の方法において、溶剤及び/又は希釈剤として使用するアルコールに相応するメトキシ又はエトキシ基を有するアルコキシシランを使用することは更に有利である。溶剤及び/又は希釈剤としても、メタノール又はエタノール又はメタノールとエタノールとの混合物を使用するのが有利である。しかしながら他のアルコール又はアルコール混合物を使用することも可能である。
【0030】
本発明の方法において、使用するアルコキシシランの加水分解及び縮合を、有利に大気圧下で10?95℃、更に有利に60?80℃の温度で実施する。反応は通常大気圧下で行われる。また、反応を減圧下又は過圧下で実施することもできる。反応混合物は有利に、生成物混合物の蒸留後処理を開始する2?8時間前に反応される。
【0031】
蒸留後処理の後、本発明の生成物は有利に成分A、B及びC5質量%未満及び殊に遊離アルコール5質量%未満、有利に1質量%未満を含有する。
【0032】
本発明の鎖状、分枝状及び環式シロキサンの混合物は、有利に以下の例示的な、しかしながら制限を与えない使用が可能である。
【0033】
従って本発明は、例えば、粉末状物質の表面変性のための、微粉末無機充填剤及び顔料のシラン処理のための、及び無機表面、有機表面及び金属表面、例えばコンクリート、アルミニウム、鋼及びプラスチック(2つの例を挙げると、PVC及びPMMAを含む)を処理するための、組成物としての、本発明の鎖状、分枝状及び環式シロキサンの混合物の使用を提供する。本発明の鎖状及び環式シロキサンオリゴマーの混合物は、例えば表面の疎水化のために有利に使用されることができる。
【0034】
本発明は更に、改善された機械的強度及び改善された電気絶縁特性を得ることを目的とした、充填された熱可塑性コンパウンド、例えばHFFR(ハロゲン不含の難燃剤)コンパウンドにおける接着促進剤としての、本発明の鎖状及び環式シロキサンオリゴマーの混合物の使用を提供する。
【0035】
本発明は更に、改善された使用特性、殊に制御された硬化特性、改善された機械的強度及び改善された耐湿性を達成することを目的とした、フォームシーラントを含む接着剤及びシーラントにおける接着促進剤としての、本発明の鎖状、分枝状及び環式シロキサンの混合物の使用を提供する。
【0036】
本発明は更に、有機樹脂を変性及び架橋するための、改善された使用特性を有するインク及び塗料におけるバインダーとしての、及びガラス繊維で強化されたプラスチックにおけるガラス繊維の改善された接着性を目的とし、かつ改善された機械的強度を得ることを目的としてガラス繊維を被覆するための、本発明の鎖状、分枝状及び環式シロキサンの混合物の使用を提供する。
【0037】
標準として使用されるモノマー有機アルコキシシランに対する、本発明のシロキサン混合物の特に有利な特性には、高められた沸点、高められた引火点、低下された蒸気圧、適用中に放出される加水分解アルコールの低下された量(VOC)、及び殊に、殊に意図的な適用を可能にする化学的な「多面的機能」が含まれる。」

第3 審判合議体による拒絶の理由
1.理由1?4について
平成24年9月20日付けの拒絶理由通知書(以下、「先の拒絶理由通知書」という。)に示した審判合議体による拒絶の理由は、
理由1として、『この出願の請求項1?12に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。』という理由と、
理由2として、『この出願の請求項1?12に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。』という理由と、
理由3として、『この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。』という理由と、
理由4として、『この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではなく、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。』という理由からなるものである。

2.補正前後の請求項1?12の対応関係
第4回目の手続補正による補正後の「請求項1?12」は、当該補正前の「請求項1?12」に各々対応する。

3.理由1?2で引用された刊行物について
先の拒絶理由通知書の「記」には、次の刊行物1?5が提示されている。
刊行物1:特開平10-60378号公報
刊行物2:特開昭63-83166号公報
刊行物3:特開平2-229837号公報
刊行物4:特開昭62-153356号公報
刊行物5:特開昭62-235361号公報

4.理由3?4で引用された記載不備について
先の拒絶理由通知書の「記」には、次の記載不備が指摘されている。
(1)請求項1及びその従属項の明確性要件について
先の拒絶理由通知書の「記」の『2.(1)』の項においては、次の不備1a?1eを指摘し、『したがって、本願請求項1?12の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。』としている。

不備1a:本願請求項1に記載された「(i)…、及び(ii)…であるか、又は(i)、(ii)及び(iii)…であるが、但し…2?50の範囲内である」という発明特定事項について、その「但し」以下の但し書きは、(i)+(ii)+(iii)のみを限定するものなのか、(i)+(ii)をも限定するのか明確ではない。

不備1b:本願請求項1に記載された「ケイ素原子1個当たり1個以下の有機官能基(i)が結合しており」という発明特定事項について、その「1個以下」には「ゼロ」も含まれるのか明確ではない。

不備1c:本願請求項1に記載された「ケイ素に対する成分(ii)のモル比の割合が1?2であり」という発明特定事項について、当該請求項1を引用する本願請求項2に記載された「アルコキシ基含分が、存在するシロキサン混合物の質量に対して0.001質量%を上回り、かつ60質量%未満である」という発明特定事項と整合性がない等、その意味内容が明確ではない。

不備1d:本願請求項1に記載された「一般式Iの化合物のためのオリゴマー化度が2?50の範囲内である」という発明特定事項について、混合物(組成物)全体の中の化合物一分子のみのオリゴマー化度が2?50の範囲内にあれば、他の分子のオリゴマー化度は特定されずともよいという意味なのか等、その意味内容が明確ではない。

不備1e:本願請求項1に記載された「鎖状、分枝状及び/又は環式シロキサンを含有する混合物」という発明特定事項について、一般に同一種類の化学物質のみからなる組成物は「混合物」とはいわないので、当該「混合物」とは、具体的にどのような2種以上の異なる化学物質を意図しているのか、その意味内容が明確ではない。

(2)請求項2?12の明確性要件について
先の拒絶理由通知書の「記」の『2.(2)』の項においては、次の不備2a?2dを指摘し、『したがって、本願請求項2?12の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。』としている。

不備2a:本願請求項1の「鎖状、分枝状及び/又は環式シロキサンを含有する混合物」との記載に対して、本願請求項5の「…記載の鎖状、分枝状及び環式シロキサンオリゴマーの混合物」との記載、並びに本願請求項2?4、6及び12の「…記載のシロキサン混合物」との記載は、その記載表現が統一されていないので、本願請求項2?6及び12の記載は明確ではない。

不備2b:本願請求項2に記載された「アルコキシ基含分が…60質量%未満である」という発明特定事項の「アルコキシ基含分」とは、置換基部分を意味するのか、アルコキシ基を有するシロキサン全体を意味するのか明確ではない。

不備2c:本願請求項6に記載された「成分A…を用いて、かつ成分B…を用いて、かつ成分C…を用いて」という発明特定事項について、当該請求項6を引用する本願請求項7に記載された「成分A、B及びCを1:0:0」という発明特定事項においては、成分B及びCを全く用いない場合が特定されているので、本願請求項6の「かつ成分B…かつ成分C」との記載及び「成分A、B及びCを、連続して、又は混合して」との意味するところが明確ではない。

不備2d:本願請求項6の「意図的な加水分解及び共縮合により…温度で意図的に加水分解及び縮合し」との記載における「共縮合」及び「縮合」の表記の違いの意図するところが明確ではない。

(3)択一的記載の明確性要件について
先の拒絶理由通知書の「記」の『2.(3)』の項においては、次の不備3a?3bを指摘し、『したがって、本願請求項7?12の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。』としている。

不備3a:本願請求項7に記載された「成分A、B及びCを…又は…又は…のA:B:Cのモル比で使用する」という発明特定事項については、実質的に3つの発明を一の請求項に記載しているという点において、特許を受けようとする発明が明確ではない。

不備3b:本願請求項12に記載された「接着剤及びシーラントにおける接着促進剤としての、有機樹脂を変性及び架橋するための、インク及び塗料におけるバインダーとしての、ガラス繊維を被覆するための、充填された熱可塑性コンパウンドにおける接着促進剤としての、無機表面、有機表面及び金属表面を処理するための、表面を撥水性にするための、粉末状物質の表面変性のための、充填剤及び顔料のシラン処理のための、又はフォームシーラントを製造するための」という発明特定事項についても、実質的に10個の発明を一の請求項に記載しているという点において、『発明を特定するための事項が選択肢で表現されており、その選択肢どうしが類似の性質又は機能を有しないために発明が不明確となる場合。』に該当し、特許を受けようとする発明の範囲が明確ではない。

(4)委任省令要件及び実施可能要件について
先の拒絶理由通知書の「記」の『2.(4)』の項においては、次の不備4a?4cを指摘し、『したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法施行規則第24条の2(委任省令)の「特許法第三十6条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」との規定で定めるところにより、当業者が本願請求項1?12に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。』としている。

不備4a:本願明細書の段落0009の「前記の課題」との記載における「課題」については、その前段に「課題」に相当する記載がないので、当該「課題」が具体的にどのような内容のものを意図しているのか不明確である。

不備4b:本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1?12に記載された発明の具体例に相当する実施例についての記載が皆無であることから、本願請求項1?12に記載された発明の各々が、具体的にどのような「作用効果」を奏し、どのような「課題」を解決して、どのような「技術上の意義」を有するのか、当業者といえども理解することができない。

不備4c:本願請求項1に記載された発明は、その「一般式I」において「xは1、2又は3」という整数の組成のシロキサンを含有する混合物に関するものであるところ、本願請求項1の「(ii)」で示されるようなヒドロキシル基又はアルコキシル基は、その部分的な加水分解縮合によって、一定割合のみが『Si-O-Si』のシロキサン結合を形成することになるため、上記「xは1、2又は3」という整数の組成割合を構成し得ないのが普通であるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1?12に係る発明の具体例に相当する実施例についての記載が皆無なので、当業者といえども過度の試行錯誤をしなければ、その「x」が整数ピッタリの本願請求項1?12に係る発明の実施をすることができない。

(5)サポート要件及び実施可能要件について
先の拒絶理由通知書の「記」の『2.(5)』の項においては、次の不備5a?5cを指摘し、『したがって、本願請求項1?12の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。』としている。

不備5a:本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1?12に係る発明の具体例に相当する実施例についての記載が皆無であるため、本願請求項1に記載された「成分(ii)のモル比の割合が1?2」であるシロキサン類をどのように加水分解縮合できるのか、その「オリゴマー化度」をどのように「2?50の範囲内」となるように調製し得るのか、その「シロキサン混合物」のシロキサンの分子構造を「鎖状、分枝状及び/又は環式」の何れの分子構造に調製し得るのか、本願請求項2に記載された「アルコキシ基含分」の数値範囲をどのように調整し得るのか、本願請求項4に記載された「沸点が>200℃」という性状、及び本願請求項5に記載された「引火点が>100℃」という性状を満たす混合物をどのように製造し得るのか、当業者といえども理解できないので、当業者といえども過度の試行錯誤をしなければ本願請求項1?12に係る発明の実施をすることができない。

不備5b:本願明細書の段落0027?0031の記載は単なる一般記載でしかなく、具体的にどのような「シロキサン」が合成され、得られた「シロキサン混合物」の具体的な組成がどのようなものであるか〔本願請求項1に列挙された(i)の選択肢の何れの有機官能基の場合について合成され、その「x」がどのような値になるものか〕、その合成のための具体的な温度や時間の条件や、得られたシロキサン混合物の「オリゴマー化度」や「沸点」や「引火点」などの性状がどのようなものであるのか等々についての具体的な記載は見当たらず、本願明細書の段落0032?0037の記載も単なる示唆でしかなく、本願優先権主張日前の技術水準を参酌したとしても、本願請求項1?5の「混合物」及び本願請求項6?7の「方法」の全てが、本願請求項12に列挙された「接着促進剤」や「架橋」や「バインダー」や「被覆」などの用途や、「撥水性」や「表面変性」などのための「処理」という用途に適用し得ると認識できる範囲内にあるとは認められない。

不備5c:化学物質関連の発明の用途発明ないし選択的効果は、その有用性をその化学構造だけから予測することが困難であり、試験して初めて判明するのが普通であるところ、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願請求項1?12に係る発明の具体例に相当する実施例についての開示がないので、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は用途発明としての「説明の具体化の程度」が不十分であって、実施可能要件を満たし得る程度の記載になっているとは認められず、本願請求項1?12の記載がサポート要件を満たし得る範囲内のものであるとも認められない。

第4 当審の判断
1.理由3?4について
(1)意見書の主張ないし説明について
理由3?4の拒絶の理由に対して、平成25年3月21日付けの意見書には『理由3、4のご指摘を鑑み、特許請求の範囲及び明細書を上記の補正の説明の通り補正いたしました。なお、請求項1の「ケイ素原子1個当たり1個以下の有機官能基(i)が結合しており」はゼロを含まないことは明確であり、「一般式Iの化合物のためのオリゴマー化度」は請求項1の混合物が含有する一般式Iの複数の化合物を意味しております。また、本願明細書の段落0009に記載の課題は、前段0008の記載を指しております。』との主張ないし説明がなされている。

(2)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
ア.不備1c及び不備2bについて
上記「不備1c」における『本願請求項2に記載された「アルコキシ基含分が、存在するシロキサン混合物の質量に対して0.001質量%を上回り、かつ60質量%未満である」という発明特定事項』が『本願請求項1に記載された「ケイ素に対する成分(ii)のモル比の割合が1?2であり」という発明特定事項』と整合性がないという記載不備、並びに
上記「不備2b」における『本願請求項2に記載された「アルコキシ基含分が…60質量%未満である」という発明特定事項の「アルコキシ基含分」とは、置換基部分を意味するのか、アルコキシ基を有するシロキサン全体を意味するのか明確ではない』という記載不備について、
第4回目の手続補正による補正後においても、上記「不備1c」及び「不備2b」に対応する本願請求項1及び2の記載部分に特段の変更はなく、上記意見書においても、この点に関して何らの説明がなされていないので、上記「不備1c」及び「不備2b」の記載不備については、これが解消しているとは認められない。
したがって、本願請求項1及び2並びにその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。

イ.不備3a及び不備3bについて
上記「不備3a」における『本願請求項7…実質的に3つの発明を一の請求項に記載している』という記載不備、及び上記「不備3b」における『本願請求項12…実質的に10個の発明を一の請求項に記載している』という記載不備について、
第4回目の手続補正による補正後においても、上記「不備3a」及び「不備3b」に対応する本願請求項1及び2の記載部分に特段の変更はなく、上記意見書においても、この点に関して何らの説明がなされていないので、上記「不備3a」及び「不備3b」の記載不備については、これが解消しているとは認められない。
したがって、本願請求項7及び12並びにその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。

(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
ア.不備4cについて
上記「不備4c」における『その「一般式I」において「xは1、2又は3」という整数の組成のシロキサンを含有する混合物』について『本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1?12に係る発明の具体例に相当する実施例についての記載が皆無なので、当業者といえども過度の試行錯誤をしなければ、その「x」が整数ピッタリの本願請求項1?12に係る発明の実施をすることができない』という記載不備について、
本願明細書の段落0027?0037の「本発明の方法は一般に以下の様に実施される:…」との記載は、一般的な記載であって、具体的な記載ではなく、上記意見書においても、この点に関して何らの説明がなされていないので、上記「不備4c」の記載不備については、これが解消しているとは認められない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願請求項1?12に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

イ.不備5aについて
上記「不備5a」における『本願請求項1に記載された「成分(ii)のモル比の割合が1?2」で、その「オリゴマー化度」が「2?50の範囲内」で、そのの分子構造が「鎖状、分枝状及び/又は環式」のシロキサン』の調製、『本願請求項2に記載された「アルコキシ基含分」が特定の数値範囲にある混合物』の製造、並びに『本願請求項4に記載された「沸点が>200℃」という性状、及び本願請求項5に記載された「引火点が>100℃」という性状を満たす混合物』の製造については、『当業者といえども過度の試行錯誤をしなければ本願請求項1?12に係る発明の実施をすることができない』という記載不備について、
本願明細書の発明の詳細な説明の記載に実施例レベルでの記載がなく、上記意見書においても、この点に関して合理的な説明がなされていないので、上記「不備5a」の記載不備については、これが解消しているとは認められない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願請求項1?12に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

(4)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア.不備5b及び不備5cについて
上記「不備5b」における『具体的にどのような「シロキサン」が合成され、得られた「シロキサン混合物」の具体的な組成がどのようなものであるか〔本願請求項1に列挙された(i)の選択肢の何れの有機官能基の場合について合成され、その「x」がどのような値になるものか〕、その合成のための具体的な温度や時間の条件や、得られたシロキサン混合物の「オリゴマー化度」や「沸点」や「引火点」などの性状がどのようなものであるのか等々についての具体的な記載』が見当たらず、『本願請求項1?5の「混合物」及び本願請求項6?7の「方法」の全てが、本願請求項12に列挙された「接着促進剤」や「架橋」や「バインダー」や「被覆」などの用途や、「撥水性」や「表面変性」などのための「処理」という用途に適用し得ると認識できる範囲内にあるとは認められない』という記載不備、並びに
上記「不備5c」における『化学物質関連の発明の用途発明ないし選択的効果は、その有用性をその化学構造だけから予測することが困難であり、試験して初めて判明するのが普通であるところ、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願請求項1?12に係る発明の具体例に相当する実施例についての開示がないので、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は用途発明としての「説明の具体化の程度」が不十分であって、本願請求項1?12の記載がサポート要件を満たし得る範囲内のものであるとは認められない。』という記載不備について、
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1?12に係る発明が、産業上利用することができる発明として実際に完成し、本願所定の課題ないし効果を奏し得ることを具体的に裏付ける記載が皆無であり、どのような「有機官能基」を有し、どのような「オリゴマー化度」を有し、どのような化学構造を有する「シロキサン」が実際に製造され、これが「接着促進剤」や「架橋剤」や「バインダー」や「被覆材」や「表面改質剤」などの用途に有効であることを具体的に裏付ける記載も皆無である。
このため、本願明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、本願請求項1?12に記載された発明が、本願明細書の段落0034に記載された「本発明は更に、改善された機械的強度及び改善された電気絶縁特性を得ることを目的とした、充填された熱可塑性コンパウンド、例えばHFFR(ハロゲン不含の難燃剤)コンパウンドにおける接着促進剤としての、本発明の鎖状及び環式シロキサンオリゴマーの混合物の使用を提供する」等の本願所定の課題を解決できると認識できる範囲にあると認めることはできない。
そして、上記意見書においても、この点に関して合理的な説明がなされておらず、本願出願時の技術水準における技術常識を参酌したとしても、本願請求項1?12の記載されたもの全てが本願所定の課題を解決できると認識できる合理的な範囲にあるとは認められない。
してみると、上記「不備5b」及び「不備5c」の記載不備については、これが解消しているとは認められない。
したがって、本願請求項1?12の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

2.理由1?2について
(1)本1発明
本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」という。)について、本願請求項1に記載された「一般式Iの化合物のためのオリゴマー化度が2?50の範囲内である…シロキサンを含有する混合物」という発明特定事項について、上記意見書の『請求項1の「一般式Iの化合物のためのオリゴマー化度」は請求項1の混合物が含有する一般式Iの複数の化合物を意味しております』との釈明を参酌するに、
当該「オリゴマー化度」は、シロキサン混合物における平均値としての「オリゴマー化度」を意味するものではなく、一般式Iの複数の化合物が「オリゴマー化度が2?50の範囲内」にあれば、他の分子のオリゴマー化度は特定されずともよいという意味であると解釈して、新規性及び進歩性の特許要件を以下に検討する。

(2)引用刊行物及びその記載事項
ア.刊行物1:特開平10-60378号公報
上記刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「(C)下記平均組成式(3)
R^(3)_(c)R^(4)_(d)(OR^(5))_(e)SiO_((4-c-d-e)/2) (3)
(式中、R^(3)は非置換又は置換一価炭化水素基、R^(4)は付加反応性又は縮合反応性の官能基を有する一価の有機基、R^(5)は非置換又は置換のアルキル基を示し、c,d,eは、0≦c≦3、0≦d≦3、0<e≦4、0<c+d+e≦4を満足する数である。)で示されるオルガノアルコキシシラン又はシロキサン」

摘記1b:段落0016及び0020?0026
「ここで、R^(2)の非置換又は置換一価炭化水素基としては、…例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、…トリフルオロプロピル基…などが例示される。…
本発明に使用される(C)成分のオルガノアルコキシシラン又はシロキサンは下記平均組成式(3)で示されるものである。…
R^(3)_(c)R^(4)_(d)(OR^(5))_(e)SiO_((4-c-d-e)/2) (3)
(式中、R^(3)は非置換又は置換一価炭化水素基、R^(4)は付加反応性又は縮合反応性の官能基を有する一価の有機基、R^(5)は非置換又は置換のアルキル基を示し、c,d,eは、0≦c≦3、0≦d≦3、0<e≦4、0<c+d+e≦4を満足する数である。)…
ここで、R^(3)の非置換又は置換一価炭化水素基としては、上記R^(2)と同様の炭素数1?8、特に1?4のもの、また脂肪族不飽和結合を有さないものが挙げられる。また、R^(4)の官能基を有する有機基としては、メタクリロキシプロピル基等のCH_(2)=CR-COO(CH_(2))_(n)-(Rは水素原子又はメチル基、nは1?10の整数)で示される基、ビニル基、アリル基等の炭素数2?10のアルケニル基、アミノプロピル基等のH_(2)N(CH_(2))_(n)-(nは1?10の整数)で示される基、メルカプトプロピル基等のHS(CH_(2))_(n)-(nは1?10の整数)で示される基、γ-グリシジルオキシプロピル基、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基等のG-(CH_(2))_(n)-(nは1?10の整数、ただし、Gは下記式で示される基である)などの付加反応性、縮合反応性の官能基を有する一価の基である。…


また、R^(5)のアルキル基としては、炭素数1?10、特に1?4のアルキル基、アルコキシ置換アルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等のアルコキシ置換アルキル基などが挙げられる。…
c,d,eは、0≦c≦3、好ましくは0≦c≦2、0≦d≦3、好ましくは0<d≦2、0<e≦4、好ましくは0<e≦3、0<c+d+e≦4、好ましくは0<c+d+e≦3を満足する数であり、(C)成分のオルガノアルコキシシラン又はシロキサンは1分子中に少なくとも1個の、好ましくは3個以上のケイ素原子に結合した非置換又は置換のアルコキシ基を有するものである。…
このようなオルガノシランとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が例示されるが、これはその部分加水分解によって得られるアルコキシシロキサンであってもよい。」

摘記1c:段落0028及び0031
「本発明は、(D)成分として下記平均組成式(4)で示されるエポキシ基含有オルガノハイドロジェンシラン又はシロキサンを配合する。…その重合度(分子中のケイ素原子の数)は3?300、特に4?150程度が好ましい。」

イ.刊行物2:特開昭63-83166号公報
上記刊行物2には、次の記載がある。
摘記2a:第2頁左下欄第6行?右下欄第15行
「本発明に使用される(B)成分は、本組成物の架橋剤となり、また本組成物に良好な表面被膜形成性と保存安定性を付与するために必須の成分であり、α-アミノメチルトリアルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物が使用される。…(B)成分を例示すると、ブチルアミノメチルトリメトキシシラン、ジブチルアミノメチルトリメトキシシラン…などが例示される。」

摘記2b:第3頁右上欄第1行?左下欄第2行
「かかる(C)成分は、…ビニルトリメトキシシランなどの3官能性アルコキシシラン類及びその部分加水分解縮合物、…メチルセルソルブシリケートなどのアルキルシリケート類およびその部分加水分解縮合物、

などの環状アルコキシシロキサン類、…などの直鎖状アルコキシシロキサン類などが例示される。」

ウ.刊行物3:特開平2-229837号公報
上記刊行物3には、次の記載がある。
摘記3a:請求項1
「(イ)一般式
(R’)_(a)SiO_((4-a)/2)(式中R’は同一または相異なり、水素原子および1価の置換または非置換炭化水素基から選ばれた1価の基を示し、一分子中の全R’のうち少なくとも2個はエポキシ基含有基で置換された1価の炭化水素基、aは1?3の整数を示す)で表される構造単位より成る重合度が10?5,000のポリオルガノシロキサンと、
(ロ)少なくとも1個の炭素原子を介してケイ素原子に結合した置換または非置換アミノ基およびケイ素原子に結合したアルコキシ基を有するシランおよび/またはシロキサンとを、(イ)中のエポキシ基含有基1個に対して(ロ)中のアミノ基が0.1?10個になるように配合した混合物またはこれらの部分反応生成物もしくは前記部分反応生成物と(イ)および/または(ロ)との混合物である硬化性物質0.1?100重量部」

摘記3b:第4頁右下欄第1行?第5頁右上欄第3行
「3,4-オキシシクロヘキシル基などが例示される。…ケイ素原子に結合する水酸基を含有していてもよい。しかして、合成の容易さ、取扱い易さ、最終的に形成される塗膜の機械的な強度などからして、前記ポリオルガノシロキサンの重合度は10?5,000程度好ましくは50?1,000の範囲で選ばれる。一方、(ロ)のシランやシロキサンは、少なくとも1個の炭素原子を介してケイ素原子に結合した置換または非置換アミノ基およびケイ素原子に結合したアルコキシ基を有するシラン、このシランの部分縮合によって得られたシロキサン、もしくは前記シランと環状ポリオルガノシロキサンとの平衡反応によって得られたポリシロキサンである。上記置換または非置換アミノ基を含むとしては、アミノメチル基…などが例示される。…また、上記シランやシロキサンは、前記置換または非置換アミノ基を含む基を一分子中に少なくとも1個有するものであり、さらにケイ素原子に結合したアルコキシ基を有するものが選ばれる。このアルコキシとしはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが例示されるが、合成の容易さからメトキシ基およびエトキシ基が一般的であり、また上記アルコキシ基は一分子中に少なくとも2個有することが好ましい。」

摘記3c:第7頁右上欄第17行?左下欄第5行
「シロキサン分子中の1/10のケイ素原子にγ-グリシドキシプロピル基とメチル基が結合し、他のケイ素原子にはメチル基がそれぞれ2個結合した重合度約50のポリジメチルシロキサン10重量部とN-β-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン10重量部とを混ぜ加熱して得た有機珪素化合物をイソプロピルアルコール80重量部に溶解し、ポリオルガノシロキサン溶液(S-1)を調製した。」

エ.刊行物4:特開昭62-153356号公報
上記刊行物4には、次の記載がある。
摘記4a:請求項1
「下記(イ)?(ホ)の化合物からなるコーティング剤組成物。…
(ハ)…又は

(R_(3)はC_(1?4)のアルキレン基、R_(4)はC_(1?4)のアルキル基)で表わされるエポキシ基含有シラン化合物、この化合物の単一重合体、または共重合体10?40重量部」

摘記4b:第3頁左下欄第2行?第5頁左下欄第8行
「更に(ハ)、(ニ)成分は、(イ)、(ロ)成分の重合を促進すると共に、加水分解により自己縮合しうる機能を持ち、更に(ホ)成分のエポキシ基を開環させる触媒としても働く、この時、エポキシ基の他の開環触媒を必要に応じて同時に併用してもその機能は失われることはない。
本発明に用いられる(ハ)成分のエポキシ基含有シラン化合物としては、…3,4-エポキシシクロヘキシルメチルトリブトキシシラン等が例示される。
又、(ニ)成分のアミノ基含有シラン化合物としては、アミノメチルトリメトキシシラン」

オ.刊行物5:特開昭62-235361号公報
上記刊行物5には、次の記載がある。
摘記5a:請求項1
「(A)式:…と、式:

〔式中、R^(2)は一価の置換もしくは非置換炭化水素基、bはその平均値が0.8?1.8の数、およびcは本化合物におけるOH基の占める比率が平均値で0.01重量%以上となる数である〕の単位を有する水酸基含有オルガノポリシロキサン〔A_(2)〕の混合物、
(B)メルカプトシラン化合物〔B1〕および/またはアミノシランとエポキシシランとの反応生成物(または混合物)〔B2〕、…
から成ることを特徴とするプライマー組成物。」

摘記5b:第3頁左上欄第16行?右上欄第15行
「上記アミノシランとしては、例えばアミノメチルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、…等が挙げられる。上記エポキシシランとしては、例えば…3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン…等が挙げられる。」

摘記5c:第4頁右上欄第13?20行
「実施例1…アミノシラン〔N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン〕とエポキシシラン(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)の反応生成物」

(3)刊行物1を主引用例とした場合の検討
ア.刊行物1に記載された発明
摘記1aの記載、及び摘記1bの「R^(2)の非置換…一価炭化水素基としては…メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基…が例示される。…R^(3)の非置換…一価炭化水素基としては、上記R^(2)と同様の…ものが挙げられる。また、R^(4)の官能基を有する有機基としては…H_(2)N(CH_(2))_(n)-(nは1…の整数)で示される基…などの…官能基を有する一価の基である。…また、R^(5)のアルキル基としては…メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基…などが挙げられる。…これはその部分加水分解によって得られるアルコキシシロキサンであってもよい。」との記載からみて、
刊行物1には、
『(C)下記平均組成式(3)
R^(3)_(c)R^(4)_(d)(OR^(5))_(e)SiO_((4-c-d-e)/2) (3)
(式中、R^(3)はメチル基、エチル基等のアルキル基、R^(4)はH_(2)NCH_(2)-で示される基、R^(5)はメチル基、エチル基等のアルキル基を示し、c,d,eは、0≦c≦3、0≦d≦3、0<e≦4、0<c+d+e≦4を満足する数である。)で示される、部分加水分解によって得られるオルガノアルコキシシロキサン。』
についての発明(以下、「刊1発明」という。)が記載されている。

イ.対比
本1発明と刊1発明とを対比すると、
刊1発明の「下記平均組成式(3)」は、刊1発明の『c、d、e』及び『R^(3)、R^(4)、(OR^(5))』と、本1発明の「x」及び「R」との間に、『x=c+d+e』及び『R=R^(3)+R^(4)+(OR^(5))』の対応関係が成り立つことから、本1発明の「一般式I」に相当し、
刊1発明の「R^(3)はメチル基、エチル基等のアルキル基」は、本1発明の「(iii)1?18個の炭素原子を有するアルキル、アルケニル、イソアルキル、シクロアルキル又はフルオロアルキル基、又は6?12個の炭素原子を有するアリール基である」のうちの「1?2個の炭素原子を有するアルキル基」等の場合に相当し、
刊1発明の「R^(4)はH_(2)NCH_(2)-で示される基」は、本1発明の「(i)…-(CH_(2))-NH_(2)…から選択される有機官能基」に相当し、
刊1発明の「(OR^(5))」は、その「R^(5)はメチル基、エチル基等のアルキル基を示し」との記載からみて、本1発明の「(ii)ヒドロキシル、メトキシ、エトキシ、2-メトキシエトキシ、イソプロポキシ、n-プロポキシ、イソブトキシ及び/又はn-ブトキシ基である」のうちの『メトキシ及び/又はエトキシ基』等の場合に相当し、
刊1発明の「0≦c≦3」は、刊1発明の「c=0」の場合が本1発明の「(i)…及び(ii)」の場合に、刊1発明の「0<c≦3」の場合が本1発明の「(i)、(ii)及び(iii)」の場合に、それぞれ相当し、
刊1発明の「0≦d≦3」は、その「0<d≦1」の範囲が、本1発明の「ケイ素原子1個当たり1個以下の有機官能基(i)が結合しており」に相当し、
刊1発明の「0<e≦4」及び「部分加水分解によって得られる」は、その「1≦e≦2」の範囲が、本1発明の「ケイ素に対する成分(ii)のモル比の割合が1?2であり」に相当し、
刊1発明の「0<c+d+e≦4」は、本1発明の「xは1、2又は3であり」に相当し、
刊1発明の「部分加水分解によって得られるオルガノアルコキシシロキサン」は、鎖状、分岐状又は環式のいずれかの構造にあることが自明であり、なおかつ、その「平均組成式(3)」を満たす組成の「混合物」の形態にあると認められるから、本1発明の「鎖状、分枝状及び/又は環式シロキサンを含有する混合物」に相当する。

してみると、本1発明と刊1発明は、『一般式I
R_(x)SiO_((4-x)/2) (I)
[式中、xは1、2又は3であり、置換基Rは以下
(i)以下
-(CH_(2))-NH_(2),
から選択される有機官能基、及び
(ii)メトキシ及び/又はエトキシ基であるか、又は
(i)、(ii)及び(iii)1?2個の炭素原子を有するアルキル基である]
で示され、但し、ケイ素原子1個当たり1個以下の有機官能基(i)が結合しており、ケイ素に対する成分(ii)のモル比の割合が1?2である、鎖状、分枝状及び/又は環式シロキサンを含有する混合物。』に関するものである点において一致し、
一般式Iの化合物のためのオリゴマー化度が、本1発明においては「2?50の範囲内」に特定されているのに対して、刊1発明においては「オリゴマー化度」の数値範囲が特定されていない点においてのみ一応相違する。

ウ.判断
上記相違点について検討するに、上記『2.(1)』に示したように、本1発明の「混合物」における「オリゴマー化度」の意味するところは、シロキサン混合物における平均値としての「オリゴマー化度」を意味するものではなく、少なくとも一部のシロキサン化合物が「オリゴマー化度が2?50の範囲内」にあれば良いものと解されるところ、
刊1発明の「部分加水分解によって得られるオルガノアルコキシシロキサン」の中には統計確率論的に「オリゴマー化度が2?50の範囲内」のシロキサン化合物が含まれていることが明らかであることから、この点について実質的な差異は認められない。
また、摘記1cの「重合度(分子中のケイ素原子の数)は…4?150程度が好ましい」との記載、摘記2bのオリゴマー化度が4である環状アルコキシシロキサン類の化学式についての記載、及び摘記3aの「重合度が10?5,000のポリオルガノシロキサン」との記載にあるように、本1発明の「2?50の範囲内」という「オリゴマー化度」の数値範囲は、ポリシロキサンの重合度として通常の数値範囲を示したにすぎないものと認められるから、刊1発明の「部分加水分解によって得られるオルガノアルコキシシロキサン」の重合度の数値範囲も、本1発明と同様な数値範囲にあると推認され、この点について実質的な差異は認められない。
したがって、本1発明は、刊行物1に実質的に記載された発明である。

また、よしんば「オリゴマー化度」の数値範囲の点において相違するとしても、摘記3bの「合成の容易さ、取扱い易さ、最終的に形成される塗膜の機械的な強度などからして、前記ポリオルガノシロキサンの重合度は10?5,000程度好ましくは50?1,000の範囲で選ばれる」との記載にあるように、シロキサンの技術分野において合成の容易さなどの要請に応じて「オリゴマー化度」の数値範囲の最適化をすることは、当業者にとって適宜設定可能な設計事項にすぎず、格別の創意工夫を要することではない。

したがって、本1発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)刊行物2?5を主引用例とした場合の検討
ア.刊行物2?5に記載された発明
(ア)刊2発明
摘記2aの「本発明に使用される(B)成分は…α-アミノメチルトリアルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物が使用される。…(B)成分を例示すると、ブチルアミノメチルトリメトキシシラン、ジブチルアミノメチルトリメトキシシラン…などが例示される。」との記載からみて、刊行物2には、
『ブチルアミノメチルトリメトキシシラン等の部分加水分解縮合物。』についての発明(以下、「刊2発明」という。)が記載されている。

(イ)刊3発明
摘記3aの「(イ)…に対して(ロ)…配合した混合物」との記載、及び摘記3bの「(ロ)の…シロキサンは、少なくとも1個の炭素原子を介してケイ素原子に結合した置換または非置換アミノ基およびケイ素原子に結合したアルコキシ基を有するシラン…の部分縮合によって得られたシロキサン、もしくは前記シランと環状ポリオルガノシロキサンとの平衡反応によって得られたポリシロキサンである。上記置換または非置換アミノ基を含むとしては、アミノメチル基…などが例示される。…アルコキシ…メトキシ基およびエトキシ基が一般的であり、また上記アルコキシ基は一分子中に少なくとも2個有することが好ましい。」との記載からみて、刊行物3には、
『アミノメチルトリメトキシシランの部分縮合によって得られたシロキサン、もしくは前記シランと環状ポリオルガノシロキサンとの平衡反応によって得られたポリシロキサンの混合物。』についての発明(以下、「刊3発明」という。)が記載されている。

(ウ)刊4発明
摘記4aの「(ハ)…で表わされるエポキシ基含有シラン化合物…の単一重合体」との記載、及び摘記4bの「本発明に用いられる(ハ)成分のエポキシ基含有シラン化合物としては…3,4-エポキシシクロヘキシルメチルトリブトキシシラン等が例示される。」との記載からみて、刊行物4には、
『3,4-エポキシシクロヘキシルメチルトリブトキシシラン等の単一重合体。』についての発明(以下、「刊4発明」という。)が記載されている。

(エ)刊5発明
摘記5aの「アミノシランとエポキシシランとの反応生成物(または混合物)〔B2〕」との記載、及び摘記5bの「上記アミノシランとしては、例えば…N-(β-アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン…等が挙げられる。上記エポキシシランとしては、例えば…3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン…等が挙げられる。」との記載からみて、刊行物5には、
『アミノシラン(例えばN-(β-アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン)とエポキシシラン(例えば3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン)との反応生成物の混合物。』についての発明(以下、「刊5発明」という。)が記載されている。

イ.対比・判断
ここで、刊3発明の「アミノメチルトリエトキシシランの部分縮合によって得られたシロキサン」は、次の一般式(A):

┌ O-CH_(3) ┐ O-CH_(3)
│ | │ |
R -│- Si - O -│- Si - R (A)
│ | │ |
└ O-CH_(3) ┘n O-CH_(3)

で示される化学構造(但し、Rは、-CH_(2)-NH_(2)で示されるアミノメチル基)を含むオリゴマー化度が2以上のシロキサンを含む混合物となるものであり、当該「混合物」の中に一定の量で含まれるオリゴマー化度が2(n=1)のシロキサンは、本1発明の「一般式I」において、xが3であり、ケイ素原子当たり1個の有機官能基(i)=アミノメチル基が結合し、ケイ素原子に対する成分(ii)=メトキシ基のモル比の割合が2であり、オリゴマー化度が2である場合の鎖状シロキサンに相当する。

同様に、刊2発明の「ブチルアミノメチルトリメトキシシラン等の部分加水分解縮合物」や、刊4発明の「3,4-エポキシシクロヘキシルメチルトリブトキシシラン等の単一重合体」や、刊5発明の「アミノシラン(例えばN-(β-アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン)とエポキシシラン(例えば3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン)との反応生成物の混合物」も、
オリゴマー化度が2以上のシロキサンの混合物となるものであって、刊2発明、刊4発明及び刊5発明のシロキサンとしては、上記一般式(A)において、Rがブチルアミノ基(刊2発明)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル基(刊4発明)、N-(β-アミノエチル)アミノメチル基(刊5発明)であって、そのオリゴマー化度が2(n=1)である場合のシロキサンが、その「部分加水分解縮合物」ないし「反応生成物」の組成中に一定の割合で含まれるものである。

また、刊3発明の『アミノメチルトリエトキシシランの平衡反応によって得られた環状ポリオルガノシロキサン』の化学構造は、次の一般式(B):

┌ R ┐
│ | │
┌─┼─ Si - O ─┼──┐ (B)
│ │ | │ │
│ └ O-CH_(3) ┘m │
└─────────────┘

で示される化学構造(但し、Rは、-CH_(2)-NH_(2)で示されるアミノメチル基)を含むオリゴマー化度がmの環状シロキサンを含む混合物となるものであり、当該「混合物」の中に一定の量で含まれるオリゴマー化度が2(m=2)の環状シロキサンは、本1発明の「一般式I」において、xが3であり、ケイ素原子当たり1個の有機官能基(i)=アミノメチル基が結合し、ケイ素原子に対する成分(ii)=メトキシ基のモル比の割合が1であり、オリゴマー化度が4である場合の環状シロキサンに相当する。

したがって、本1発明は、刊行物2?5の各々に記載された発明である。

(5)意見書の主張ないし説明について
理由1?2の拒絶の理由に対して、平成25年3月21日付けの意見書には『理由1、2につきまして、刊行物1?5に記載された化合物は、本願請求項1に記載の置換基(i)及び(ii)の双方を有していないか、あるいは1個のケイ素原子を有しており、本願発明の混合物とは相違し、また刊行物1?5には、本願発明の混合物は示唆されておらず、本願発明が新規性及び進歩性を有することは明らかであるものと思料いたします。』との主張ないし説明のみがなされている。

しかしながら、摘記1bの「R^(4)の官能基を有する有機基としては、メタクリロキシプロピル基等のCH_(2)=CR-COO(CH_(2))_(n)-(Rは水素原子又はメチル基、nは1…の整数)で示される基、…メルカプトプロピル基等のHS(CH_(2))_(n)-(nは1…の整数)で示される基、」との記載、
摘記4bの「3,4-エポキシシクロヘキシルメチルトリブトキシシラン等が例示される。」との記載、
摘記3bの「アミノメチル基」及び「メトキシ基」を有する「シラン」についての記載、
摘記2aの「ブチルアミノメチルトリメトキシシラン、ジブチルアミノメチルトリメトキシシラン…などが例示される。」との記載、及び
摘記5bの「N-(β-アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン」との記載にあるように、
本1発明の(i)の

から選択される有機官能基と、(ii)のメトキシ、エトキシ、ブトキシ基などのアルコキシ基を有する『置換メチルトリアルコキシシラン』は、刊行物1?5に記載されるように普通に知られており、これら『置換メチルトリアルコキシシラン』を縮合させた場合のシロキサン化合物が、オリゴマー化度が2以上の、本1発明の「一般式I」で示されるシロキサンになることも明らかであるから、上記意見書の主張ないし説明は妥当ではない。

第5 むすび
以上のとおり、本1発明は、新規性要件又は進歩性要件に違反するものであるから、特許法第29条の規定により特許を受けることができないものである。
また、本願請求項1?12の記載は、サポート要件及び明確性要件に違反するものであるから、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、本願明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件に違反するものであるから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、その余の理由及びその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-31 
結審通知日 2013-08-05 
審決日 2013-08-23 
出願番号 特願2006-530161(P2006-530161)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C07F)
P 1 8・ 537- WZ (C07F)
P 1 8・ 113- WZ (C07F)
P 1 8・ 121- WZ (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小久保 敦規  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 木村 敏康
武重 竜男
発明の名称 有機官能性シロキサン混合物  
代理人 二宮 浩康  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 高橋 佳大  
代理人 篠 良一  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 星 公弘  

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