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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1283584
審判番号 不服2012-18577  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-24 
確定日 2014-01-06 
事件の表示 特願2001-526868「表面被覆用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月 5日国際公開、WO01/23480、平成15年 3月18日国内公表、特表2003-510443〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、特許法第184条の3第1項の規定により、2000年 9月25日(パリ条約による優先権主張:1999年 9月28日(US)米国)の国際出願日にされたものとみなされる特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成14年 3月28日 翻訳文提出
平成19年 9月25日 出願審査請求
同日 手続補正書
平成22年12月 8日付け 拒絶理由通知
平成23年 3月14日 意見書・手続補正書
平成23年 7月 4日付け 拒絶理由通知
平成24年 1月12日 意見書・手続補正書
平成24年 5月14日付け 拒絶査定
平成24年 9月24日 本件審判請求
平成24年10月 2日付け 手続補正指令(方式)
平成24年11月 8日 手続補正書(審判請求理由補充書)

第2 本願に係る発明について
本願に係る発明は、平成24年 1月12日付けで手続補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし22に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下の事項により特定されるものである。
「樹脂系、および疎水性のシリカエーロゲルを含む表面被覆用組成物であり、該組成物は、基体に付着された後に、(a)少なくとも6ヶ月間、耐湿性、(b)50wt%エタノール/水溶液に耐性であり、そして(c)光沢度50以下の光沢レベル、であることを特徴とする表面被覆用組成物。」

第3 原審の拒絶査定の概要
原審において、平成23年7月4日付け拒絶理由通知書で概略以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「 理 由

1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・・(中略)・・
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

(理由1)
請求項1?6,8?17,19?20 引用文献1,2
・備考
引用文献1には、アクリル系等の樹脂と、疎水化処理されたシリカエアロゲルとの混合物からなる塗料組成物が開示され、シリカエアロゲルの含有量は組成物全体に対して0.1?10重量%含有すること(特許請求の範囲,段落【0011】,【0007】)が記載されている。
・・(中略)・・
本願発明と引用文献1,2に記載された発明とは、本願発明が「(a)少なくとも約6ヶ月、耐湿性、(b)50wt%エタノール/水溶液に耐性であり、そして(c)光沢度50以下のレベル」であると特定しているのに対し、引用文献1?2には明記されていない点で、一応相違している。
しかしながら、本願明細書には、本願発明の(a)?(c)の条件を満たすために必要な要件は、「疎水性の金属酸化物」を用いることであると記載しているので、同様に「疎水性のシリカエーロゲル」を含む引用文献1,2に記載の発明も、本願発明の(a)?(c)の要件を満たしていると認められる。

よって、本願発明は、引用文献1,2に記載された発明である。
・・(中略)・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平11-29745号公報
・・(後略)」

<拒絶査定>
「この出願については、平成22年12月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由3?4、及び、平成23年7月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由1?3によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
・・(中略)・・
(平成23年7月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由1?2)
出願人は、意見書において、「引用文献1に教示される高光沢膜と異なり、本願発明は比較的艶消しの被覆に関するものであり、引用文献1は、本願発明の構成を開示していない。」旨を主張している。

しかしながら、本願発明と引用文献1に記載された発明とは、「樹脂系、およびシリカエーロゲルを含む表面被覆用組成物」である点で共通しており、本願発明において、(a)?(c)の物性を示すために必須の事項は「シリカエーロゲルを含む」ことであるから、本願発明と引用文献1に記載された発明も、同様に「光沢度50以下の光沢レベル」である点で一致しているといわざるをえない。
仮に、光沢度が異なるとしても、本願明細書において、引用文献1等の従来技術とは異なるどのような手段を採用することにより光沢度が下がり、同時に(a)?(c)の物性を満足するのかを明確に説明していない以上、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が適当な手段を用いて光沢度を50程度とすることも、容易になし得ることといえる。

したがって、平成23年7月4日付け拒絶理由通知書に記載したように、本願請求項1?22に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるか、または、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
・・(中略)・・
<引用文献一覧>
1.特開平11-29745号公報」

第4 当審の判断
当審は、
上記拒絶査定の理由と同一の理由により、本願は、特許法第49条第2号に該当するから、拒絶すべきものである、
と判断する。以下詳述する。

1.刊行物に記載された事項
本審決で引用する刊行物は、以下のとおりである。

刊行物:
1.特開平11-29745号公報(原査定における「引用文献1」)
(以下、上記刊行物を「引用例」という。)

上記引用例には、以下の事項が記載されている。

(a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 樹脂とシリカエアロゲルとの混合物から成ることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】 上記樹脂が粉体塗料であることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
・・(中略)・・
【請求項5】 上記シリカエアロゲルの含有量が、組成物全量に対して0.1重量%?10重量%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の塗料組成物。
・・(中略)・・
【請求項7】 上記シリカエアロゲルは、疎水化処理されたものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項8】 請求項1乃至7のいずれかに記載の塗料組成物を静電塗装し、これを焼き付けることによって、樹脂中にシリカエアロゲルを分散させた塗膜を形成することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項9】 基材の表面に、請求項1乃至7のいずれかに記載の塗料組成物による塗膜を形成して成ることを特徴とする塗装品。
【請求項10】 金属基板の表面に、請求項1乃至7のいずれかに記載の塗料組成物による塗膜を形成して成ることを特徴とする照明器具用反射板。」

(b)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塗料組成物、この塗料組成物を用いた塗膜形成方法、この塗料組成物によって塗膜を形成した塗装品及び照明器具用反射板に関するものである。」

(c)
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、反射率の高い塗膜を得ることができる塗料組成物、塗膜形成方法及び塗装品を提供することを目的とし、また赤外領域においても反射率が高く、照明器具の器具効率を高めることができると共に温度上昇を抑制することができる照明器具用反射板を提供することを目的とするものである。」

(d)
「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の塗料組成物は樹脂1とシリカエアロゲル2の混合物として調製されるものであり、この塗料組成物によって基材3の表面に形成される塗膜4は、図1に示すように樹脂1のマトリックス中にシリカエアロゲル2の粒子が分散して存在している。シリカエアロゲル2は透明であって光屈折率が空気並に小さく、シリカエアロゲル2と樹脂1のマトリックスとの間の屈折率差は大きい。従って、樹脂1のマトリックスとシリカエアロゲル2との界面において光は広い角度で全反射を起こし、反射率が高い塗膜4を得ることができるものである。」

(e)
「【0013】本発明で用いるシリカエアロゲルはシリカの多孔質骨格からなるものであり、米国特許第4402827号公報、同4432956号公報、同4610863号公報で提供されているように、アルコキシシラン(シリコンアルコキシド、アルキルシリケートとも称される)の加水分解、重合反応によって得られたシリカ骨格からなる湿潤状態のゲル状化合物を、アルコールあるいは二酸化炭素等の溶媒(分散媒)の存在下で、この溶媒の超臨界点以上の超臨界状態で乾燥することによって製造することができる。また、米国特許第5137297号公報、同5124364号公報で提供されているように、ケイ酸ナトリウムを原料として同様に製造することができる。ここで、特開平5-279011号公報、特開平7ー138375号公報に開示されているように、アルコキシシランの加水分解、重合反応によって得られたゲル状化合物を疎水化処理剤を用いて疎水化処理することによって、シリカエアロゲルに疎水性を付与することが好ましい。この疎水化処理工程は、ゲル状化合物を超臨界乾燥する前に、あるいはゲル状化合物の超臨界乾燥中に行うことができる。疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン等の有機シラン化合物を挙げることができ、これら以外にも、酢酸、ギ酸、コハク酸等のカルボン酸や、メチルクロリド等のハロゲン化アルキルなどの有機化合物を挙げることができる。このように、疎水性を付与した疎水性シリカエアロゲルは、湿気や水等が侵入し難くなり、屈折率や光透過性等の性能が劣化し難くなるものである。
【0014】上記のシリカの多孔質骨格からなるシリカエアロゲルの屈折率は、シリカエアロゲルの原料配合比によって自由に変化させることが可能であるが、樹脂成分との屈折率差を大きく設定し、またシリカエアロゲルの透明性等の性能を確保するためには、1.008?1.18の範囲に屈折率を調整したシリカエアロゲルを用いるのが好ましい。屈折率をこのように非常に小さくすることによって、樹脂成分(樹脂の屈折率は一般に1.3?1.7の範囲)との屈折率差が大きくなり、樹脂成分とシリカエアロゲルとの界面において広い角度で光を全反射させることができ、光の反射率が高くなるものである。
【0015】ここで、シリカエアロゲルの含有量は、塗料組成物全量に対して0.1重量%以上、10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以上、5重量%以下である。シリカエアロゲルの含有量が0.1重量%未満では、高い反射率の塗膜を得ることが難しく、またシリカエアロゲルの含有量が10重量%を超えると、機械的強度等の塗膜性能が悪くなるおそれがあるので、好ましくない。またシリカエアロゲルの粒径は、樹脂として粉体塗料を用いる場合には、粉体塗料との混合性の点から、一般的な粉体塗料の平均粒径である数十μmと同程度の、平均粒径数十μmのものが好ましい。」

(f)
「【0032】
【発明の効果】上記のように本発明に係る塗料組成物は、樹脂とシリカエアロゲルとの混合物から成るものであり、樹脂とシリカエアロゲルは屈折率差が大きく、樹脂とシリカエアロゲルとの界面において光が全反射を起こして反射率が高い塗膜を得ることができるものである。
【0033】また請求項2の発明は、上記樹脂として粉体塗料を用いるようにしたので、粉体塗料は有機溶剤等を含まず、疎水化処理をしたシリカエアロゲルが有機溶剤等の作用で収縮して白濁するようなことがなくなるものである。・・(中略)・・
【0034】また請求項5の発明は、上記シリカエアロゲルの含有量を、組成物全量に対して0.1重量%?10重量%に設定したので、機械的強度等の塗膜性能を低下ささせることなく高い反射率の塗膜を得ることができるものである。・・(中略)・・
【0035】また請求項7の発明は、上記シリカエアロゲルとして、疎水化処理されたものを用いるようにしたので、シリカエアロゲルが吸湿や吸水して、屈折率や光透過性等の性能が劣化することを防止することができるものである。・・(中略)・・
【0036】本発明に係る塗装品は、基材の表面に、上記の塗料組成物による塗膜を形成したものであり、光の反射率の高い塗膜を有する塗装品を得ることができるものである。本発明に係る照明器具用反射板は、金属基板の表面に、上記の塗料組成物による塗膜を形成したものであり、塗膜は可視光域から赤外光域の全範囲において反射率が高く、可視光域の高い反射率によって照明器具の器具効率を高めることができると共に、赤外光域の高い反射率によって、反射板の温度上昇を抑制することができるものである。」

2.本願発明についての検討

(1)引用例に記載された発明
上記引用例には、
「樹脂とシリカエアロゲルとの混合物から成ることを特徴とする塗料組成物」が記載されており(摘示(a)の【請求項1】参照)、当該「シリカエアロゲル」として「疎水化処理されたもの」を使用することも記載されている(摘示(a)の【請求項7】参照)。
してみると、上記引用例には、上記(a)の摘示事項からみて、
「樹脂と疎水化処理されたシリカエアロゲルとの混合物からなる塗料組成物」
に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものといえる。

(2)対比・検討

ア.対比
本願発明と上記引用発明とを対比すると、引用発明における「樹脂」及び「疎水化処理されたシリカエアロゲル」は、それぞれ、本願発明における「樹脂系」及び「疎水性のシリカエーロゲル」に相当し、また、引用発明における「塗料組成物」は、当該組成物の塗工・硬化により基体の表面に被覆層を設けるためのものであることが明らかであるから、本願発明における「表面被覆用組成物」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「樹脂系、および疎水性のシリカエーロゲルを含む表面被覆用組成物」
の点で一致し、下記の点で一応相違するかに見える。

相違点:本願発明では、「組成物は、基体に付着された後に、(a)少なくとも6ヶ月間、耐湿性、(b)50wt%エタノール/水溶液に耐性であり、そして(c)光沢度50以下の光沢レベル、である」のに対して、引用発明では、そのような各物性につき特定されていない点

イ.検討

(ア)引用例の他の記載事項について
上記相違点につき検討するにあたり、引用例に記載された摘示(a)以外の事項につき検討する。

(ア-1)引用発明に係る課題について
上記引用例には、引用発明に係る課題として、「反射率の高い塗膜を得ることができる塗料組成物、塗膜形成方法及び塗装品を提供することを目的と」することが記載されており(摘示(c)参照)、また、「シリカエアロゲル2は透明であって光屈折率が空気並に小さく、シリカエアロゲル2と樹脂1のマトリックスとの間の屈折率差は大きい」から、「樹脂1のマトリックスとシリカエアロゲル2との界面において光は広い角度で全反射を起こし、反射率が高い塗膜4を得ることができるものである」と記載されている(摘示(d)参照)。
してみると、上記各記載(特に当審が付した下線部)からみて、引用発明における「反射率」とは、入射角度に対応する出射角度をもって入射光が反射する正反射光(鏡面反射光)のみならず、散乱・乱反射により不特定の出射角度で出射する散乱・拡散光をも含む全光線反射率(又は拡散反射率)を意味するものと理解するのが自然である。

(ア-2)疎水化シリカエアロゲルの使用効果について
上記引用例には、引用発明における「疎水化処理されたシリカエアロゲル」の使用による効果として、「疎水性を付与した疎水性シリカエアロゲルは、湿気や水等が侵入し難くなり、屈折率や光透過性等の性能が劣化し難くなるものである」ことが記載されており(摘示(e)参照)、「シリカエアロゲルとして、疎水化処理されたものを用いるようにしたので、シリカエアロゲルが吸湿や吸水して、屈折率や光透過性等の性能が劣化することを防止することができるものである」ことも記載されている(摘示(f)参照)。
してみると、上記各記載からみて、引用発明において「疎水化処理されたシリカエアロゲル」を使用した場合、塗膜の湿気・水などによる屈折率や光透過性等の性能の劣化に対する耐性が向上するであろうことが、当業者に自明である。

(イ)相違点に係る検討
上記(ア)で説示した引用例の記載事項に基づき上記相違点について検討すると、引用発明においても、「樹脂と疎水化処理されたシリカエアロゲルとの混合物」により「塗料組成物」を構成しているのであるから、上記相違点に係る「(a)」、「(b)」及び「(c)」の各物性を有するものと認められる。
また、上記(ア)(ア-2)でも示したとおり、引用発明において「疎水化処理されたシリカエアロゲル」を使用したことにより、耐湿性及び耐水性が向上するのであるから、該「シリカエアロゲル」を使用する引用発明についても、上記「(a)」及び「(b)」の各物性が向上しているであろうことは、当業者に自明である。
なお、上記(ア)(ア-1)で説示したとおり、引用発明は、「反射率」が高い塗膜を与える塗料組成物ではあるが、当該「反射率」はいわゆる全光線反射率(又は拡散反射率)であり、光沢度の基礎となるいわゆる正反射率(又は鏡面反射率)とは異なる物性であるから、引用発明における「反射率」が高いからといって、本願発明でいうところの「光沢度」(又は鏡面光沢度)が高くなり、50を超える光沢レベルになるものとは認められない。(さらに、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、本願発明の表面被覆用組成物が、光沢度50以下の光沢レベルを達成できることを認識することができる記載又は示唆もない。)
してみると、上記相違点に係る事項は、引用発明においても達成されているものと認められるから、上記相違点に係る事項は、実質的な相違点であるとはいえない。

(ウ)検討のまとめ
したがって、本願発明は、上記引用発明と同一であり、上記引用例に記載された発明である。

(3)審判請求人の主張について
なお、審判請求人は、平成24年11月8日付け手続補正書(方式)(審判請求理由補充書)において、上記引用発明との対比につき、
「引用文献1は、上記(5)ア(ア)の[0005]、[0010]?[0011]等に記載されるように、照明設備における反射率を向上させるために必要な、高反射率被覆または膜を記載する。その膜は樹脂(熱硬化性または熱可塑性粉末被覆材料)、シリカエアロゲル(すなわち、シリカエーロゲル)および無機成分(シリカまたは酸化チタンのような白色顔料)を含む組成物から製造される。エアロゲルは、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルクロロシラン、メチルトリクロロシラン、等のような化学剤の処理により、疎水性を付与され、そして超臨界乾燥を用いて製造される。50μmの平均粒径を有し、0.1?10wt%の量で組成物内に存在する。曇りを避けるために、引用文献1は、溶媒(水または有機)の使用を避け、基体、たとえば照明設備の金属板、もしくは液晶バックライトのためのプラスチックシート上に、被覆を形成するための粉末技術に依存する。
引用文献1により教示される高光沢膜と異なり、本願発明は比較的つや消しの被覆に関し、表面被覆組成物をつや消しする(さらには耐湿および耐化学品性を向上させる)のに適した方法を提供する。このために、本願発明は光沢度50以下の表面被覆を特定するが、このような構成は引用文献1には開示されていない。」
と主張する(「3.本願発明が特許されるべき理由」、「(5)特許されるべき理由」、「イ 本願発明との対比」の「(ア)平成23年7月4日付け拒絶理由通知書に記載された理由1(第29条第1項第3号)について」の欄)。

しかるに、上記(2)イ.の(ア)(ア-1)及び(イ)でもそれぞれ説示したとおり、引用発明における「反射率」が、いわゆる全光線反射率(又は拡散反射率)であり、光沢度の基礎となるいわゆる正反射率(又は鏡面反射率)とは異なる物性であるから、引用発明における「反射率」が高いからといって、正反射率に基づく本願発明でいうところの「光沢度」(又は鏡面光沢度)が高くなり、50を超える光沢レベルになるものとは認められず、いわゆる「つや消し」が達成できないものではない。
(むしろ、引用発明の塗料組成物で形成された塗膜は、「樹脂1のマトリックスとシリカエアロゲル2との界面において光は広い角度で全反射を起こ」すのであるから、測定時の入射光は広い角度に拡散・乱反射することにより、正反射率が低くなって、(鏡面)光沢度が例えば50以下の低い光沢レベルで検知される蓋然性が高いものとも認めることができる。)
してみると、審判請求人の上記手続補正書における主張は、上記引用例の記載に基づかないものであるか、技術的根拠を欠くものであって、当を得ないものであるから、採用する余地がないものであり、当審の上記(2)の検討結果を左右するものではない。

(4)当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願発明は、上記引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではない。

第5 むすび
したがって、本願は、他の請求項に係る各発明につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-26 
結審通知日 2013-07-30 
審決日 2013-08-22 
出願番号 特願2001-526868(P2001-526868)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
P 1 8・ 537- Z (C09D)
P 1 8・ 536- Z (C09D)
P 1 8・ 113- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 橋本 栄和
菅野 芳男
発明の名称 表面被覆用組成物  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 田崎 豪治  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 小林 良博  

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