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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05B
管理番号 1283601
審判番号 不服2012-25973  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-27 
確定日 2014-01-06 
事件の表示 特願2007-237230「工作機械における工作物を機械加工するシーケンスのシミュレーションに関する装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月27日出願公開、特開2008- 71350〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年9月12日(パリ条約による優先権主張2006年9月15日、ドイツ)の出願であって、平成23年12月19日付け拒絶理由通知書に応答して平成24年3月26日付けで手続補正がなされ、平成24年8月17日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成24年12月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされ、その後、当審の平成25年3月1日付けの審尋に対して、同年6月5日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成24年12月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年12月27日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正前の本願発明
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである。

「工作機械の仮想イメージを作成するために用いられる工作機械データで、工作機械テーブル(203)を有する作業空間を備えた前記工作機械データを記憶する第1記憶手段(702)と、
少なくとも1つの工作物の仮想イメージを作成するために用いられる工作物データを記憶する第2記憶手段(706)と、
工作機械のスピンドルとヘッドとを備える工具及び締付け手段(403)の仮想イメージを作成するために用いられるリソースデータを記憶する第3記憶手段(707)と、
前記工作機械における前記工作物の機械加工と協働してシーケンスを実行するために用いられ、前記工作機械において実行可能なCNC部品プログラム(711)を記憶する記憶手段と、ユーザが前記工作機械の操作状態を変更するために手動で制御データを入力する入力手段とを備える制御データを提供する手段(710)と、
前記CNC部品プログラム(711)に応じたCNCデータを作成するために用いられるCNC制御手段(720)と、
PLC制御出力データを作成するために用いられるPLC制御手段(723)と、
前記PLC制御出力データと前記工作機械データとに応じて、PLCシミュレーションデータとPLC制御入力データとを作成するために用いられるPLCシーケンスシミュレーション手段(725)と、
前記CNCデータと、前記PLCシミュレーションデータと、前記工作機械データと、前記工作機械データと、前記リソースデータとに応じて、前記工作機械における前記工作物を機械加工するために用いられる前記シーケンスに関する全体シミュレーションデータを作成し、前記全体シミュレーションデータが前記工作機械における前記工作物を機械加工するシーケンスのシミュレーションに適し、前記シーケンスのシミュレーションが、工作機械のスピンドルとヘッドとテーブルとに関してユーザが手動で入力した前記制御データにより決定される手動動作を含む全体シミュレーション手段(731)と、
前記工作機械における工作物を機械加工するための前記シーケンスを表示する表示手段(736)を備え、所定の前記CNC部品プログラムと、前記工作機械の前記PLC制御出力データと、工作機械のスピンドルとヘッドとテーブルとに関するユーザによる手動動作に従って前記全体シミュレーションデータを視覚化するための視覚化手段(735)と、
を備えることを特徴とする工作機械における工作物を機械加工するためのシーケンスをシミュレートする装置。」

なお、請求項1には「前記機械工作データとに応じて」という記載が1箇所だけ存在するが、請求項1では他に「機械工作データ」という用語は使用されていないことから、当該記載は、「前記工作機械データとに応じて」の誤記と認め、本件補正前の請求項1を上記のように認定した。

2.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。

「工作機械の仮想イメージを作成するために用いられる工作機械データで、工作機械テーブル(203)を有する作業空間を備えた前記工作機械データを記憶する第1記憶手段(702)と、
少なくとも1つの工作物の仮想イメージを作成するために用いられる工作物データを記憶する第2記憶手段(706)と、
工作機械のスピンドルとヘッドとを備える工具及び締付け手段(403)の仮想イメージを作成するために用いられるリソースデータを記憶する第3記憶手段(707)と、
前記工作機械における前記工作物の機械加工と協働してシーケンスを実行するために用いられ、前記工作機械において実行可能なCNC部品プログラム(711)を記憶する記憶手段と、ユーザが前記工作機械の操作状態を変更するために手動で制御データを入力する入力手段とを備える制御データを提供する手段(710)と、
前記CNC部品プログラム(711)に応じたCNCデータを作成するために用いられるCNC制御手段(720)と、
PLC制御出力データを作成するために用いられるPLC制御手段(723)と、
前記PLC制御出力データと前記工作機械データとに応じて、PLCシミュレーションデータとPLC制御入力データとを作成するために用いられるPLCシーケンスシミュレーション手段(725)と、
前記CNC部品プログラムに係る前記送り速度を前記ユーザにより手動で増加又は低下させるために、前記工作機械において前記CNC部品プログラムを実行中に、前記CNC部品プログラムに係る送り速度と変更された送り速度との比率であるオーバーライドの要素を入力するオーバーライド入力手段と、
前記CNCデータと、前記PLCシミュレーションデータと、前記工作機械データと、前記工作物データと、前記リソースデータとに応じて、前記工作機械における前記工作物を機械加工するために用いられる前記シーケンスに関する全体シミュレーションデータを作成し、前記全体シミュレーションデータが前記オーバーライドの要素と、ユーザが手動で入力した前記制御データにより決定される、前記工作機械のスピンドルとヘッドとテーブルの手動動作とを含む、前記工作機械における前記工作物を機械加工するシーケンスのシミュレーションに適した全体シミュレーション手段(731)と、
前記工作機械における工作物を機械加工するための前記シーケンスを表示する表示手段(736)を備え、所定の前記CNC部品プログラムと、前記工作機械の前記PLC制御出力データと、工作機械のスピンドルとヘッドとテーブルとに関するユーザによる手動動作とに従って前記全体シミュレーションデータを視覚化するための視覚化手段(735)と、
を備えることを特徴とする工作機械における工作物を機械加工するためのシーケンスをシミュレートする装置。」(下線は補正箇所を示す。)

なお、請求項1には「前記機械工作データとに応じて」という記載が1箇所だけ存在するが、請求項1では他に「機械工作データ」という用語は使用されていないことから、当該記載は、「前記工作機械データとに応じて」の誤記と認め、本件補正後の請求項1を上記のように認定した。

3.補正の目的
本件補正のうち、「前記工作機械データと、前記工作機械データと、」という記載事項を「前記工作機械データと、前記工作物データと、」にした点及び「ユーザによる手動動作に従って」という記載事項を「ユーザによる手動動作とに従って」とした点については、特許法第17条の2第5項第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。

また、本件補正のうち、ユーザが工作機械の操作状態を変更するために手動で制御データを入力する入力手段の一つとして、「前記CNC部品プログラムに係る前記送り速度を前記ユーザにより手動で増加又は低下させるために、前記工作機械において前記CNC部品プログラムを実行中に、前記CNC部品プログラムに係る送り速度と変更された送り速度との比率であるオーバーライドの要素を入力するオーバーライド入力手段」を備えさせ、全体シミュレーションデータが「前記オーバーライドの要素と、ユーザが手動で入力した前記制御データにより決定される、前記工作機械のスピンドルとヘッドとテーブルの手動動作とを含む」ようにした点については、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「入力手段」の一つをオーバーライド入力手段として限定するとともに、当該オーバライド手段により入力されるオーバーライドの要素も、全体シミュレーションデータに含まれるよう限定していることから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか。)について以下に検討する。

4.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-316405号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア.「本発明は、工作機械の操作訓練装置に関するものであり、特に、プログラマブル・ロジック・コントローラ(以下、PLCと称す)及び数値制御装置(以下、CNC装置と称す)により制御される工作機械の操作訓練装置に関するものである。」(段落【0001】を参照)
イ.「制御手段とは、予めPLCの内部に記憶されたシーケンスプログラムに則って工作機械の各部の動作をシーケンス制御したり、CNC装置の内部に格納されている数値制御信号に基づいて各軸の位置制御を可能としている。加えて、制御信号によって制御された仮想モデルに応答して出力された工作機械の動作に基づく動作応答信号(フィードバック信号に相当)をPLCに返している。これにより、PLC及びCNC装置は、工作機械の動作の各ステップ毎に動作応答信号を認識し、動作応答信号に対応したシーケンス制御及び数値制御が行える。」(段落【0016】を参照)
ウ.「機械要素情報とは、コンピュータ内の仮想空間に工作機械の仮想モデルを構築するための種々のデータが記憶されたものである。具体的には、工作機械を構成するシリンダ、バルブ、テーブル、サーボモータ、及びNC軸の各部について形状やサイズなどが定義された形状定義データと、各部の連結または接続状態を定義し、互いの位置関係や各部の従属関係を示す連結状態データと、各部の動作に関する動作モード(直進、及び回転動作など)、動作内容(基準位置、動作限界範囲、移動量、動作速度、加速度、回転数)、及びシーケンス制御に基づく動作順序などを定義した動作データを含んで構成されている。」(段落【0017】を参照)
エ.「操作盤2は、工作機械を操作し、制御するための命令や、設定した数値、及び実行プログラムなどを入力する操作キー部、及び工作機械の動作状況を表示する状況表示部などから構成される操作部と、マニュアルモードの際に手動でパルスを発生させ、各軸を原点位置まで復帰させるための手動パルス発生装置と、操作部及び手動パルス発生装置からの操作によって工作機械を動作させる操作信号8を送出するための操作基板(図示しない)とから構成されている。」(段落【0030】を参照)
オ.「PLC3は、操作盤2からの操作信号8などに基づいて、予めプログラムされたシーケンスプログラム9に従って、工作機械の各部の動作をシーケンス制御するシーケンス制御信号10を訓練用コンピュータ7に送出している。さらに、PLC3は、訓練用コンピュータ7から送出された動作応答信号11を受け、動作応答信号11に応じてシーケンスの次ステップの制御を行っている。」(段落【0031】を参照)
カ.「CNC装置4は、操作盤2からの操作信号などに基づいて、予めプログラムされた数値制御プログラム12に従って、工作機械の各軸(X,Y,Z軸)の移動量を数値制御する数値制御信号13を訓練用コンピュータ7に送出している。」(段落【0032】を参照)
キ.「工作機械を構成する各部の形状及びサイズなどを定義した形状定義データ21、各部の連結及び接続状態を示す連結状態データ22、及び各部の動作内容等を定義した動作データ23を含む機械要素情報24を記憶するRAM25と、記憶した機械要素情報24に基づいて工作機械の仮想モデル6を構築する仮想モデル構築手段26と、仮想モデル6を制御信号10,13に基づいて制御し、工作機械の動作をシミュレートする仮想制御手段27と、制御された仮想モデル6に基づいて工作機械の動作に対応する動作応答信号11を出力する動作応答手段28と、仮想モデル6を三次元化して表示する表示制御手段29及びCRT30」(段落【0033】を参照)
ク.「表示制御手段29は、CRT30に表示する仮想モデル6を回転させる回転33、仮想モデル6のサイズを変更する拡大縮小34、工作機械の各部を抽出して表示する抽出35の画像処理が可能である。」(段落【0034】を参照)
ケ.「実機制御部5から送出された実機と同一の信号10,13に応じて仮想モデル6の動きを制御し、実機によって送られる同一の動作応答信号11が実機制御部5に送り返される。これにより、実機制御部5に対して、訓練用コンピュータ7内で仮想的に構築された仮想モデル6は、実機と同様に振る舞うことができる。」(段落【0042】を参照)
コ.「表示制御手段29の各種の画像処理(回転33、拡大縮小34、及び抽出35)によって、上述した立体的な認識がより簡便になる。通常の実機を用いた操作訓練では、カバーなどに覆われて、加工工具の動きなどを肉眼で確認することができなかった。しかしながら、本実施形態の操作訓練装置1によれば、例えば、カバーなどの不要な部分を除き、必要な各部のみを抽出して表示することができる。」(段落【0044】を参照)
サ.「仮想モデル6の仮想NC軸(図示しない)が操作信号8に基づいて移動する。このとき、送り量選択スイッチ63の選択を誤って選択したとしても、制御された仮想モデル6によって送出される動作応答信号11により、仮想NC軸が、例えば加工対象の仮想ワークに衝突した状況が再現されるだけで、実機の場合のような工作機械に重大な損傷を与えることがない。」(段落【0051】を参照)

そうすると、刊行物記載の事項を本願補正発明に照らして整理すると、刊行物には以下の発明が記載されていると認めることができる。(以下、「刊行物記載の発明」という。)

「工作機械の仮想モデルを構築するために用いられる種々のデータで、工作機械を構成するテーブル、サーボモータ及びNC軸等各部についての形状定義データ21、連結状態データ22及び工作機械における各部の動作内容等を定義した動作データ23を含む機械要素情報24を記憶するRAM25と、
工作機械を操作し、制御するための命令、設定した数値、実行プログラム等を入力する操作キー部と、
機械要素情報24に基づく仮想モデル6を制御する数値制御信号13を出力するCNC装置4と、
仮想モデル6を制御する制御信号10を出力するPLC3と、
シーケンス制御信号10と機械要素情報24とに応じて、仮想モデル6を制御し工作機械の動作をシミュレートし、工作機械の動作に対応する動作応答信号11を出力する仮想モデル構築手段26、仮想制御手段27及び動作応答手段28と、
数値制御信号13と、機械要素情報24と、作業者が手動で入力した制御命令、設定した数値、実行プログラム等により決定される工作機械の動作とに応じて、仮想モデル6を制御し工作機械の動作をシミュレートする仮想モデル構築手段26、仮想制御手段27及び動作応答手段28と、
CRT30とカバーなどに覆われた部分を除いて加工工具等必要な各部のみを抽出して動きも表示できるようにした表示制御手段29と、
を備えるPLC及びCNC装置により制御される工作機械の操作訓練装置」

5.対比
ここで、本願補正発明と刊行物記載の発明とを対比する。

刊行物記載の発明の「仮想モデル」が本願補正発明の「仮想イメージ」に相当することは自明であり、刊行物記載の発明の「仮想モデルを構築する」ことは、本願補正発明の「仮想イメージを作成する」ことに相当する。
また、上記4.ウ.、4.キ.及び4.コ.の記載からみて、「機械要素情報24」は、工作機械を構成するテーブル、サーボモータ及びNC軸等の各部の形状及びサイズ、各部の連結及び接続状態並びに各部の動作内容のデータを有するものであり、これらのデータから、三次元化された仮想モデル6を、カバーなどに覆われた部分を除いて加工工具等必要な各部のみを抽出して動きも表示できるようにしていることから、上記「機械要素情報24」には、本願補正発明の「工作機械テーブルを有する作業空間を備えた工作機械データ」が含まれているとともに、本願補正発明の「工作機械のスピンドルとヘッドとを備える工具及び締付け手段の仮想イメージを作成するためのリソースデータ」に対して、「工作機械の工具及び工作物テーブルの仮想イメージを作成するためのリソースデータ」という限度で含まれているものと認められる。
さらに、刊行物記載の発明の「RAM25」は記憶手段の一つであるから、刊行物記載の発明は、本願補正発明の「第1記憶手段」、「第2記憶手段」、「第3記憶手段」及び「CNC部品プログラムを記憶する記憶手段」に対して、それらを兼ね備えた1個の「記憶手段」を有することを限度として一致するものである。
次に、上記4.ウ.の記載からみて、刊行物記載の発明の「動作データ23」は、工作機械において工作物の機械加工を行う際の工作機械各部の動作内容やシーケンス制御の動作順序を含むデータであるから、当該「動作データ23」には、本願補正発明の「工作機械における工作物の機械加工と協働してシーケンスを実行するために用いられ、前記工作機械において実行可能なCNC部品プログラム」に相当するものも含まれていると認められる。
刊行物記載の発明の「工作機械を操作し、制御するための命令、設定した数値、実行プログラム」には、本願補正発明の「工作機械の操作状態を変更するための制御データ」が含まれており、「工作機械を操作し、制御するための命令、設定した数値、実行プログラム等を入力する操作キー部」は、この制御データの入力を、工作機械のユーザが操作キー部を用いて手動で行うことを意図していることも、当業者には自明の事項に過ぎない。
上記4.カ.及び4.キ.の記載からみて、刊行物記載の発明の「CNC装置4」は、「機械要素情報24に基づく仮想モデル6を制御する数値制御信号13」を作成して出力しているものであるから、本願補正発明の「CNC部品プログラムに応じたCNCデータ」に相当するものを作成して出力しているものと認められ、本願補正発明の「CNC制御手段」に相当する。
上記4.オ.の記載からみて、刊行物記載の発明の「PLC3」は、本願補正発明の「PLC制御手段」に相当するものである。
刊行物記載の発明の「シーケンス制御信号10」は、PLC3から出力されて工作機械の各部の動作をシーケンス制御するものであるから、本願補正発明の「PLC制御出力データ」に相当する。また、刊行物記載の発明の「機械要素情報24」には、本願補正発明の「工作機械データ」も含まれている。さらに、刊行物記載の発明において、仮想制御手段27で仮想モデル6を制御し工作機械の動作をシミュレートする際に、本願補正発明の「PLCシミュレーションデータ」に相当するものを作成することも、自明の事項である。また、刊行物記載の発明の「動作応答信号11」は、工作機械の動作に対応してPLC3へ入力されるものであるから、本願補正発明の「PLC制御入力データ」に相当する。そして、刊行物記載の発明の「仮想モデル構築手段26」、「仮想制御手段27」及び「動作応答手段28」を合わせて構成されるシミュレーション手段は、本願補正発明の「PLCシーケンスシミュレーション手段」に相当するものを含んでいるものと認められる。
刊行物記載の発明の「数値制御信号13」は、本願補正発明の「CNCデータ」に相当する。また、刊行物記載の発明の「機械要素情報24」には、本願補正発明の「工作機械データ」及び「リソースデータ」も含まれている。そして、刊行物記載の発明の「仮想制御手段27」は、仮想モデル6を制御し工作機械の動作をシミュレートしているから、PLCシミュレーションデータも考慮した工作機械の機械加工動作のシーケンスの全体シミュレーションデータを作成しているものと認められる。さらに、当該「仮想制御手段27」は、作業者が手動で入力した制御命令、設定した数値、実行プログラム等により決定される工作機械の動作のデータも取り込んでいるので、本願補正発明の「ユーザが手動で入力した制御データにより決定される、工作機械のスピンドルとヘッドとテーブルの手動動作」に対して、「ユーザが手動で入力した制御データにより決定される工作機械の手動動作」という事項を限度として、本事項の動作データを含んでいるものと認められる。そして、刊行物記載の発明の「仮想モデル構築手段26」、「仮想制御手段27」及び「動作応答手段28」を合わせて構成されるシミュレーション手段は、本願補正発明の「全体シミュレーション手段」に相当するものを含んでいるものと認められる。
刊行物記載の発明の「CRT30」は、仮想モデル6を三次元化して、工作機械の動作内容も含めて表示するものであるから、本願補正発明の「工作機械における工作物を機械加工するためのシーケンスを表示する表示手段」に相当する。また、「表示制御手段29」は、動作データ23を含む機械要素情報24と、PLC3からのシーケンス制御信号10と、操作盤2からの操作信号8とに従って、仮想モデル6の画像処理を行い三次元表示させるものであるから、本願補正発明の「所定のCNC部品プログラムと、工作機械のPLC制御出力データと、工作機械のスピンドルとヘッドとテーブルとに関するユーザによる手動動作とに従って全体シミュレーションデータを視覚化するための視覚化手段」に対して、「所定のCNC部品プログラムと、工作機械のPLC制御出力データと、工作機械に関するユーザによる手動動作とに従って全体シミュレーションデータを視覚化するための視覚化手段」という事項を限度として一致するものである。

そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。

<一致点>
「工作機械の仮想イメージを作成するために用いられる工作機械データで、工作機械テーブルを有する作業空間を備えた前記工作機械データを記憶する記憶手段と、
工作機械の工具及び工作物テーブルの仮想イメージを作成するために用いられるリソースデータを記憶する記憶手段と、
前記工作機械における前記工作物の機械加工と協働してシーケンスを実行するために用いられ、前記工作機械において実行可能なCNC部品プログラムを記憶する記憶手段と、ユーザが前記工作機械の操作状態を変更するために手動で制御データを入力する入力手段と、
前記CNC部品プログラムに応じたCNCデータを作成するために用いられるCNC制御手段と、
PLC制御出力データを作成するために用いられるPLC制御手段と、
前記PLC制御出力データと前記工作機械データとに応じて、PLCシミュレーションデータとPLC制御入力データとを作成するために用いられるシミュレーション手段と、
前記CNCデータと、前記PLCシミュレーションデータと、前記工作機械データと、前記リソースデータとに応じて、前記工作機械における前記工作物を機械加工するために用いられる前記シーケンスに関するシミュレーションデータを作成し、前記シミュレーションデータが、ユーザが手動で入力した前記制御データにより決定される、前記工作機械の手動動作を含む、前記工作機械における前記工作物を機械加工するシーケンスのシミュレーションに適したシミュレーション手段と、
前記工作機械における工作物を機械加工するための前記シーケンスを表示する表示手段を備え、所定の前記CNC部品プログラムと、前記工作機械の前記PLC制御出力データと、工作機械に関するユーザによる手動動作とに従って前記シミュレーションデータを視覚化するための視覚化手段と、
を備える工作機械における工作物を機械加工するためのシーケンスをシミュレートする装置。」

そして、両者は次の点で相違する。

<相違点1>
本願補正発明が、手動で制御データを入力する入力手段の一つとして、「CNC部品プログラムに係る送り速度をユーザにより手動で増加又は低下させるために、工作機械において前記CNC部品プログラムを実行中に、前記CNC部品プログラムに係る送り速度と変更された送り速度との比率であるオーバーライドの要素を入力するオーバーライド入力手段」を備え、全体シミュレーションデータに「オーバーライドの要素を含む」ようにしているのに対し、刊行物記載の発明では、オーバーライド入力手段については記載されておらず、シミュレーションデータにオーバーライドの要素を含むか否か不明である点。
<相違点2>
本願補正発明が、「少なくとも1つの工作物の仮想イメージを作成するために用いられる工作物データを記憶する第2記憶手段(706)」を備え、全体シミュレーションデータ作成に際して「工作物データ」も用いているのに対し、刊行物記載の発明では、工作物データについては不明である点。
<相違点3>
本願補正発明が、工作機械の仮想イメージを作成するためのリソースデータにより、「スピンドルとヘッドを備える工具」及び「締付け手段」の仮想イメージを作成するものであるが、刊行物記載の発明では、具体的な構成が不明である点。
<相違点4>
本願補正発明が、種々のデータの記憶手段を、「第1記憶手段」、「第2記憶手段」、「第3記憶手段」、「CNC部品プログラムを記憶する記憶手段」と分けているのに対し、刊行物記載の発明では、「RAM25」の1個の記憶手段としている点。
<相違点5>
本願補正発明が、「CNC部品プログラムを記憶する記憶手段」と「入力手段」とを合わせて「制御データを提供する手段」としているのに対し、刊行物記載の発明では、そのようになっていない点。
<相違点6>
本願補正発明が、「PLCシーケンスシミュレーション手段」及び「全体シミュレーション手段」の2つのシミュレーション手段を作成しているのに対し、刊行物記載の発明では、「仮想モデル構築手段26」、「仮想制御手段27」及び「動作応答手段28」を合わせて構成される1個のシミュレーション手段としている点。
<相違点7>
本願補正発明が、全体シミュレーション手段におけるユーザが手動で入力した制御データにより決定される工作機械の手動動作、及び、視覚化手段における工作機械のユーザによる手動動作について、「スピンドルとヘッドとテーブル」で行っているのに対し、刊行物記載の発明では、具体的にどの部分を手動動作するかは不明である点。

6.相違点の判断
ここで、上記相違点について検討する。

<相違点1>について
工作機械の数値制御において、加工プログラムの実行中に送り速度を変更させるオーバーライドの要素を入力する手段を設け、当該オーバーライドの要素の入力による送り速度の変更をシミュレーションデータにも反映させる技術は、従来周知である(下記公報の記載を参照)。

特開平5-324043号公報:加工終了指令が無いときは加工負荷演算部17はオーバーライド指令部16から送り速度のオーバーライド指令SOBと切削速度のオーバーライド指令SOCを入力し(ステップS4)、入力した切削速度指令SVCとそのオーバーライド指令SOCにより現時点における切削速度vを演算し(ステップS8)、入力した送り速度指令SVBとそのオーバーライド指令SOBにより現時点における送り速度Fを演算する(ステップS9)技術(段落【0007】-【0008】の記載参照)。
特開平11-296214号公報:主軸オーバーライドスイッチ103及び送りオーバーライドスイッチ104をオペレータが加工の状況などに従って随時調節し、運転のシミュレーションでは各ブロックの送り速度や主軸回転数を管理して各ブロック毎に送りと周速を求める技術(段落【0024】及び【0067】の記載参照)。
特開平4-68406号公報:数値制御装置21が設けられた工作機械設備1のシミュレーション加工において、作業者がティーチングボックス36の上限速度値下降キー41又は上限速度値上昇キー40を押すことにより、ガントリロボット17の送り駆動速度を適宜変更する技術(公報第6頁右上欄第7行-第7頁右上欄第3行の記載参照)。

そして、刊行物記載の発明は、一般的な数値制御工作機械であって、数値制御加工プログラム実行中に送り速度を変更する制御を行うことは当然行い得る事項であるから、上記工作機械の数値制御において周知の技術を適用し、加工プログラムの実行中に送り速度を変更させるオーバーライドの要素を入力する手段を操作盤2に設け、CNC装置4の数値制御プログラム12の送り速度をユーザが手動で増加又は低下させられるようにし、当該オーバーライドの要素の入力による送り速度の変更をシミュレーションデータである仮想モデル6に反映させることも、当業者が容易に想到し得る程度のものであって、上記のような適用を阻害する要因があるものとも認められない。

<相違点2>について
工作機械の数値制御技術において、工作物の形状・寸法・材質等の工作物データを記憶しておき、加工制御を行う際に適宜読み込んで用いる技術は、特に文献を示すまでもなく従来周知のものに過ぎない。そして、刊行物にも、上記4.サ.のようにシミュレーション制御に際して仮想ワークを考慮する技術事項が記されていることから、上記周知の技術を、刊行物記載の発明のような数値制御工作機械のシミュレーション技術に適用することも、当業者が容易に想到し得る程度のものである。

<相違点3>について
工作機械において、スピンドルを有するヘッドに工具を取り付けた構造や、締付け構造を有するテーブルに工作物を取り付ける構造は、従来周知の技術であって、刊行物記載の発明において、これら周知の技術を適用し、仮想モデル6に「スピンドルとヘッドを備える工具」及び「締付け手段」を用いることも、当業者が容易に選択可能な事項と認められる。

<相違点4>?<相違点6>について
数値制御コンピュータの技術において、所定の機能を実現させるための各手段の配置構成の設定は、当業者が必要に応じて適宜定める設計的事項である。例えば、記憶される事項毎に記憶手段を個別に配するか、1個の記憶手段にまとめて記憶させるようにするかは、単なる選択的事項の範疇である。また、「CNC部品プログラムを記憶する記憶手段」と「入力手段」とを合わせて「制御データを提供する手段」とすることも、当業者が適宜成し得る設計変更である。さらに、刊行物記載の発明の「仮想モデル構築手段26」、「仮想制御手段27」及び「動作応答手段28」を合わせて構成されるシミュレーション手段は、「PLC3」からのシーケンス制御信号10に対して動作応答信号11を出力して仮想モデルのシミュレーションを行い、「CNC装置4」からの数値制御信号13も含めて仮想モデルの動作全体のシミュレーションも行うものであるから、明確に「PLCシーケンスシミュレーション手段」及び「全体シミュレーション手段」のように2つの手段としては記載されてはいないものの、両手段の機能を有しており、相違点6については、表現的な相違に過ぎず、実質的には相違しないと認められる。

<相違点7>について
数値制御工作機械において、マニュアルモードを設定して、各スピンドル、ヘッド又はテーブルの移動について手動操作可能とすることも、周知の技術に過ぎない。そして、刊行物記載の発明について、マニュアルモードに移行させたときに「スピンドルとヘッドとテーブル」の手動動作を行うようにすることも、上記周知の技術を勘案して、当業者が容易に成し得たものと認められる。

したがって、本願補正発明は、刊行物に記載の発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

7.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について

1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、平成24年3月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項より特定される、上記第2.1.に補正前の本願発明として記載したとおりのものである。

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、上記第2.4.に記載したとおりである。

3.対比
本願発明は、上記第2.2.に補正後の本願発明として記載した発明、すなわち本願補正発明から、「前記CNC部品プログラムに係る前記送り速度を前記ユーザにより手動で増加又は低下させるために、前記工作機械において前記CNC部品プログラムを実行中に、前記CNC部品プログラムに係る送り速度と変更された送り速度との比率であるオーバーライドの要素を入力するオーバーライド入力手段」を備えさせるとともに、全体シミュレーションデータに「前記オーバーライドの要素と、ユーザが手動で入力した前記制御データにより決定される、前記工作機械のスピンドルとヘッドとテーブルの手動動作とを含む」ようにしたとの限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2.6.に記載したとおり、刊行物に記載の発明及び周知の技術思想に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、刊行物に記載の発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-23 
結審通知日 2013-07-30 
審決日 2013-08-19 
出願番号 特願2007-237230(P2007-237230)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G05B)
P 1 8・ 121- Z (G05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金丸 治之  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 栗田 雅弘
長屋 陽二郎
発明の名称 工作機械における工作物を機械加工するシーケンスのシミュレーションに関する装置及び方法  
代理人 牛木 護  

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