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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 A01N
審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 A01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A01N
管理番号 1283697
審判番号 不服2012-25440  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-21 
確定日 2014-02-04 
事件の表示 特願2008-503083「樹木の保護のための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月28日国際公開、WO2006/102285、平成20年 9月 4日国内公表、特表2008-535817、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,国際出願日である平成18年3月21日(パリ条約による優先権主張 平成17年3月22日(アメリカ合衆国))にされたとみなされる特許出願であって,平成19年11月20日に特許法184条の4第1項の規定による翻訳文が提出され(以下,184条の6第2項の規定により明細書とみなされたものを「本願明細書」という。),平成23年11月1日付けで拒絶理由が通知され,平成24年8月16日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,同年12月21日に拒絶査定不服審判が請求される(なお,平成25年2月14日に,請求書の請求の理由の欄を変更する補正がされている。)と同時に特許請求の範囲が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,平成25年3月21日付けで同法164条3項の規定による報告(以下「前置報告書」という。)がされ,同年4月30日付けで同法134条4項の規定による審尋がされ,同年9月20日に回答書が提出されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由及び審尋
1 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,要するに,本願の請求項1?3及び5に係る発明(平成24年12月21日付けの手続補正前のもの。)は,本願の優先日前の特許出願であって,その出願後に出願公開がされた下記の特許出願(以下「先願1」という。)の願書に最初に添付された特許請求の範囲又は明細書に記載された発明と同一であり,しかも,本願の発明者が先願1に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本願の出願時において,その出願人が先願1の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないという理由,及び,本願の請求項1?5に係る発明(同補正前のもの。)は,本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献2?4に記載された発明を主たる引用発明,同引用文献5?6に記載された発明を従たる引用発明として,これら引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないという理由を含むものである。
先願1: 特願2005-36807号(特開2006-219463号)
引用文献2: 再公表特許第95/20877号
引用文献3: 特開平9-77617号公報
引用文献4: 特開平7-173017号公報
引用文献5: 特開平10-152407号公報
引用文献6: 特開平8-208657号公報

2 審尋について(前置報告書の内容)
審尋は,前置報告書の内容を引用しつつ,請求人に対して,その内容についての意見を求めるものであるところ,前置報告書の内容は,要するに,本願の請求項1?3に係る発明(平成24年12月21日付けの手続補正後のもの。)は,上記1の進歩性否定の理由と同様の理由により特許出願の際独立して特許を受けることができないから,上記手続補正は特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反し,同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものであり,この出願は原査定の理由により拒絶されるべきものである,というものである。

第3 平成24年12月21日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の適否
1 本件補正の内容
本件補正は特許請求の範囲の全文を変更する補正事項からなるものであるところ,本件補正の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は,それぞれ以下のとおりである。
・ 本件補正前(出願当初)
「バークビートル (bark beetle) 及び/又はキクイムシ (wood borer) の樹木の寄生の予防/処置のための方法であって,大環状ラクトンを含んで成る組成物による樹木の処置を含んで成る方法。」
・ 本件補正後
「バークビートル(bark beetle)の幼虫及び/又はキクイムシ(wood borer)セラムビシドビートル(cerambycid beetle)の幼虫の樹木の師部領域における摂食又は発達の低下のための方法であって,アバメクチン及びエマメクチンベンゾエートから選択される大環状ラクトンを含んで成る組成物による樹木の処置を含んで成り,ここで該組成物が注入法を使用して樹木に適用されることを特徴とする,方法。」

2 本件補正の目的など
本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「樹木の処置」の目的について,「バークビートル (bark beetle) 及び/又はキクイムシ (wood borer) の樹木の寄生の予防/処置のため」から「バークビートル(bark beetle)の幼虫及び/又はキクイムシ(wood borer)セラムビシドビートル(cerambycid beetle)の幼虫の樹木の師部領域における摂食又は発達の低下のため」と限定し,補正前の「大環状ラクトン」について,「アバメクチン及びエマメクチンベンゾエートから選択される」旨を限定し,補正前の「樹木の処置」の手段について,「組成物が注入法を使用して樹木に適用される」旨を限定するものである。そして,本件補正の前後で,請求項1に記載の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。
よって,本件補正は,請求項1についてする補正については,平成18年法律第55号改正前の特許法17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。その他請求項についてする補正についても,同項各号に掲げるいずれかの事項を目的とするものであると認める。
また,本件補正は,いわゆる新規事項を追加するものではないと判断される。

3 独立特許要件違反の有無について
上記2のとおりであるから,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,要するに,本件補正が特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討する。

(1) 本願補正発明について
本願の請求項1に係る発明(本願補正発明)は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び本願明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「バークビートル(bark beetle)の幼虫及び/又はキクイムシ(wood borer)セラムビシドビートル(cerambycid beetle)の幼虫の樹木の師部領域における摂食又は発達の低下のための方法であって,アバメクチン及びエマメクチンベンゾエートから選択される大環状ラクトンを含んで成る組成物による樹木の処置を含んで成り,ここで該組成物が注入法を使用して樹木に適用されることを特徴とする,方法。」

(2) 引用発明
ア 審尋で引用された主たる引用発明に係る刊行物(引用文献2?4)のうち,引用文献2には,次の記載がある。(下線は本審決による。以下同じ。)
・ 2?4頁
「【特許請求の範囲】
1. 式(I)

[式中,R_(1)はアルキル,シクロアルキルまたはアルケニル;R_(2)は水素,アルキル,アルカノイルまたはアルキルシリル;R_(3)は水素または所望により置換されていてもよい水酸基;R_(4)は水素,水酸基またはアルコキシイミノ;炭素-炭素結合Xは一重結合または二重結合を示す(ただし,R_(4)がアルコキシイミノの場合,Xは一重結合を示し,R_(1)がメチルまたはエチル,R_(2),R_(3)およびR_(4)が水素の場合,Xは二重結合を示す。)]
で表される化合物またはその塩を有効成分として含有してなる松類の枯損防止用組成物。…
11.さらに界面活性剤を含有してなる請求項1記載の組成物。
12.マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)の感染を予防するための,またはマツノザイセンチュウ(Bursaphe1enchus xylophilus)またはマツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)を駆除するための組成物である請求項1記載の組成物。
13.請求項1における式(I)で表される化合物の有効量で松類の樹体を処理することよりなる松類の枯損防止方法。…
15.請求項11記載の組成物で松類の樹体を処理することよりなる請求項13記載の方法。
16.請求項11記載の組成物を松類の樹幹内に注入することよりなる請求項15記載の方法。」(なお,上記式(I)については,式中の説明も含め,以下単に「式(I)」とのみ記す。)
・ 7頁3行?下から3行
「発明が解決しようとする課題
…樹幹注入剤による単木処理方法は,環境保存上重要な神社,仏閣または公園の大径木や市街地内の松,あるいは一般庭園の松等のカミキリの後食防止薬剤の散布がしにくい場所,さらに,予防散布をしても感染の可能性のある場合に実施されており有効な方法である。しかしながら,樹幹注入剤による薬害の発生,効果の安定性と持続性等の点で問題がある。
このように,マツ材線虫病による起こるマツ類の枯損を防止するためのさらなる検討が求められている。かかる事情に鑑み,本発明の目的は,効果の安定した松類の枯損防止用組成物および防止方法を提供することである。
課題を解決するための手段
本発明者らは,これらの課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果,アベルメクチン系化合物またはその誘導体に線虫およびカミキリに対して強力な殺虫活性があることを見い出し,さらに研究を重ねた結果,本発明を完成した。」
・ 10頁9?21行
「式(I)の化合物およびその塩は,線虫(すなわち,マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus))またはカミキリ(マツノマダラカミキリ)に対して殺虫活性を有する。特に,中でも…アバメクチン(表1中の化合物番号2)およびエマメクチン ベンゾエート(表1中の化合物番号3)には,線虫およびカミキリの両者に対して卓越した殺虫活性がある。…当該化合物は線虫およびカミキリの両者に対して卓越した殺虫活性があり,より効果的に松類の枯損防止に対応することができる。つまり,当該化合物を有効成分とする本発明の組成物の樹幹注入により,カミキリの後食を防止し線虫の感染の危険を低減できる。さらに,万一線虫の感染が起きたとしても,線虫が樹体内で活動を開始する以前に殺滅することができる。」
また,14頁に掲記の表1中には,式(I)の化合物及びその塩の例であるアバメクチン及びエマメクチンベンゾエートの構造式を説明する記載がある。
イ 上記アの摘記,特に特許請求の範囲の記載などから,引用文献2には,次の発明(引用発明)が記載されていると認める。
「マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)の感染を予防するため,またはマツノザイセンチュウ(Bursaphe1enchus xylophilus)またはマツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)を駆除するための方法であって,有効成分であるアバメクチン又はエマメクチンベンゾエート,さらに界面活性剤を含有してなる松類の枯損防止用組成物を樹幹内に注入することよりなる樹体の処理からなる松類の枯損防止方法。」

(3) 対比
本願補正発明と引用発明を対比すると,本願補正発明も松類の枯損防止という作用効果を奏すると認められるから(例えば,本願明細書の表5に係る実施例参照。),両者は次の点で一致し,次の点で相違するといえる。
・ 一致点
アバメクチン及びエマメクチンベンゾエートから選択される大環状ラクトンを含んで成る組成物による樹木の処置を含んで成り,ここで該組成物が注入法を使用して樹木に適用されることを特徴とする,方法
・ 相違点
組成物による樹木(樹体)の処置の目的について,本願補正発明は「バークビートル(bark beetle)の幼虫及び/又はキクイムシ(wood borer)セラムビシドビートル(cerambycid beetle)の幼虫の樹木の師部領域における摂食又は発達の低下のため」であると特定するのに対し,引用発明はそのような特定事項を有しておらず,「マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)の感染を予防するため,またはマツノザイセンチュウ(Bursaphe1enchus xylophilus)またはマツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)を駆除するため」であると特定する点

(4) 相違点についての判断
審尋で引用された従たる引用発明に係る刊行物(引用文献5?6)に記載されている技術事項についてみると,引用文献5には,アベルメクチン(アバメクチン)類の殺虫性有効成分,精油類及び界面活性剤を含有してなる樹幹注入剤を樹幹に注入して病害虫を駆除する樹木の保護方法が開示されており,当該病害虫としてカミキリムシ類,キクイムシ,マツノザイセンチュウが例示されている(請求項1,請求項2,請求項9,【0007】など)。また,引用文献6には,アバメクチンあるいはエマメクチンベンゾエートを有効成分として含む組成物についての記載はなく,ミベルマイシン誘導体を有効成分として含む組成物がマツノマダラカミキリやヒラタキクイムシに対して強力な殺虫作用を有する旨の技術事項が開示されている(請求項1,【0121】?【0124】など)。
しかし,引用文献5?6には,アバメクチンもしくはエマメクチンベンゾエートの使用が,バークビートル(bark beetle)の幼虫又はキクイムシ(wood borer)セラムビシドビートル(cerambycid beetle)の幼虫の樹木の師部領域における摂食又は発達を低下させる旨の技術の開示はない。また,本願の優先日において,アバメクチンもしくはエマメクチンベンゾエートの使用により上記幼虫の樹木の師部領域における摂食又は発達が低下することについて,当業者に知られていたと認めるに足りる証拠は発見できない。
そうすると,上記相違点に係る本願補正発明の構成は,当業者が容易に想到しうるということはできない。
よって,本願補正発明は,引用文献2に記載された発明を主たる引用発明としたとき,その引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5) 審尋で引用された主たる引用発明に係るその他の刊行物(引用文献3?4)に基づく進歩性についての判断
本願補正発明と引用文献3あるいは引用文献4に記載された発明とを対比すると,両者の間には,少なくとも上記(3)で認定したような相違点を認めることができる。
そして,そのような相違点に係る本願補正発明の構成は,上記(4)で検討したことと同様に想到容易であるということはできないから,本願補正発明は,引用文献3あるいは引用文献4に記載された発明を主たる引用発明としたとき,それら引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(6) 小活
本願の請求項1に係る発明(本願補正発明)が審尋で引用された刊行物に記載された発明から想到容易であるといえないのは上述のとおりである。また,本願補正発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができないものとすべき他の理由を発見できない。
そうすると,請求項1の記載を引用する本願の請求項2及び3に係る発明についても同様に,特許出願の際独立して特許を受けることができないものとすべき理由を発見できないということができる。
よって,本件補正は,特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合する。

4 むすび
本件補正は,特許法17条の2第3項ないし第5項の規定に適合する。

第4 本願発明について
上記第3のとおり,本件補正は特許法17条の2第3項ないし第5項の規定に適合するから,本願の請求項1?3に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲及び本願明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
そして,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-01-20 
出願番号 特願2008-503083(P2008-503083)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A01N)
P 1 8・ 575- WY (A01N)
P 1 8・ 537- WY (A01N)
P 1 8・ 16- WY (A01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 斉藤 貴子杉江 渉  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 蔵野 雅昭
塩見 篤史
発明の名称 樹木の保護のための方法  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 福本 積  
代理人 石田 敬  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 中島 勝  
代理人 古賀 哲次  
代理人 池田 達則  
代理人 福本 積  
代理人 中島 勝  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 青木 篤  
代理人 池田 達則  

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