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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1283760
審判番号 不服2012-9612  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-24 
確定日 2014-01-15 
事件の表示 特願2008-283415「分析対象物を検出するための試薬及び方法ならびに分析対象物を検出するための試薬を含む装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月 5日出願公開、特開2009- 25318〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年9月12日(パリ条約による優先権主張 平成13年(2001年)9月14日)を出願日とする特願2002-266575号の一部を新たな特許出願とした特願2008-283415号であって、平成23年3月22日付けで拒絶理由が通知され、同年9月29日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成24年1月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成25年3月13日付けで前置報告書の内容について請求人の意見を求める審尋がなされ、同年7月19日付けで回答書が提出された。

第2 本願の請求項1に係る発明
平成24年5月24日付けの手続補正による特許請求の範囲の補正は、請求項3についての誤記の訂正を目的とする補正であり、適法な補正である。
よって、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年5月24日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素;並びに
下記構造:
【化1】

(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)、R^(8)及びR^(9)は、同一又は異なり、独立して、水素、カルボキシ及びスルホからなる群から選択される)で示される媒介物(当審注;以下、単に「【化1】で示される媒介物」という)又はその組み合わせ
を含む、分析対象物を検出するための試薬。」

第3 引用例
1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物である特表平6-503472号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下記「2 引用例1に記載された発明の認定」において直接引用した記載に下線を付した。)

(1)「1.レドックス系と、電気的導性粒子のペースト及びペースト化材料及び電荷移動仲介剤を含んで成る電極との間の電子移動を包含し、ここでのこの仲介剤が前記した一般式X(ここでその記号の定義は前記した通りである)の化合物である、生化学的方法。
2.前記仲介剤が、1,4-ジアミノ-2,3,5,6-テトラメチルベンゼン、N,N,N-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン-1,4-ビス(ジメチルアミノ)ベンゼン、1-ジメチルアミノ-4-モルホリノベンゼン、1,4-ジモルホリノベンゼン、1-モルホリノ-4-ピペリジノベンゼン、2,5-ジエチル-1,4-ビス(ジメチルアミノ)ベンゼン、1,4-ジピペリジノベンゼン、N-(4-モルホリノフェニル)ヘキサヒドロアゼビン、4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(=メチレングリーン)及びメルドーラブル-(=7-ジメチルアミノ-1,2-ベンゾフェノキサジニウム塩、例えば塩化物又は硫酸塩)である、請求項1に記載の方法。
3.前記仲介剤がペースト化材料の中で完全又は部分的に結晶状で存在している、請求項1又は2に記載の方法。」(特許請求の範囲請求項1、2)
(2)「発明の分野
本発明は流体サンプルの少なくとも一成分、特にグルコース含有水性媒体、例えば体液、特に全血サンプル中のグルコースの濃度を測定するための生化学的方法、及びかかる方法において用いるための電荷移動仲介剤に関する。」(第2頁右上欄2?6行)
(3)「上記の電極装置を含んで成る装置により実施できる、グルコース含有水性媒体のサンプル中のグルコース濃度を測定するための方法の基礎は、グルコースと酵素グルコースオキシダーゼ(COD)との反応である。この酸化反応により生成する電子は仲介剤へと移動し、そして最終的にこのセンサー電極中の導性物質、例えばグラファイト粒子により捕獲される。このグルコースの酵素触媒化酸化はグルコン酸及び「還元型」のグルコースオキシダーゼ、即ち、少なくとも1個の官能基が還元されたグルコースオキシダーゼをもたらす。この還元型酵素は、「還元型」の仲介剤から電気的導性センサー電極への電子の譲渡により生成される酸化型の仲介剤と反応し、そしてこれによりグルコースオキシダーゼは還元型の仲介剤と共に再生される。この過程の中で生ずる電流はサンプル中に存在しているグルコース濃度に比例する。
この反応は以下の式により図式的に説明されうる:
グルコース+グルコースオキシダーゼ-FAD+H_(2)O→
グルコン酸+グルコースオキシダーゼ-FADH_(2) (I)
グルコースオキシダーゼ-FADH_(2)+2CTMox^(+)→
グルコースオキシダーゼ-FAD+2CTMred+2H^(+) (II)
2CTMred →2CTMox^(+)+2C^(-) (III)
(ここで、FADはグルコースオキシダーゼの酸化型のフラビンアデニンジヌクレオチド部分を表わし、FADH2はグルコースオキシダーゼの還元型のフラビン-アデニンジヌクレオチド部分を表わし、CTMox+は酸化型の仲介剤を表わし、そしてCTMredは還元型の仲介剤を表わす)。
この反応を表現する簡単な手段は:
グルコース+GOD →グルコン酸+GOD^(-) (IV)
GOD-+CTMox^(+) →GOD+CTMred (V)
CTMred →CTMox^(+) +C^(-) (VI)
である。
上記の一般原理に基づく電極は知られているが、これらは仲介剤の減少により生ずる問題に悩まされ、それはその酸化型の比較的高い水溶解度に原因する。
有意な程度の仲介剤の消耗は例えば以下の欠点、
(i)サンプルの媒体への仲介剤の迅速なる損失、起因して、一定のサンプルにおいて1回の測定しか実施できないこと;
(ii)測定の再現性は仲介剤の減少の程度が予測しにくいため悪く、そしてこれは、問題の電極に対するサンプルの暴露の経過時間及び実際の測定の性能に依存すること;
(iii)低グルコース濃度での感度が非常に悪いこと;並びに
(iv)センサー電極と対照電極との適用電位がやや高めでなくてはならず、水性サンプル中に存在している別の酸化しうる物質に由来する妨害をもたらすこと;
をもたらしうる。
センサー電極、適当な対照電極及び適当なカウンター電極を含んで成る適当な装置を利用する上記の原理に基づく体液、特に全血中の特定のグルコース濃度の有効且つ再現性のある測定にとっての予め必須な条件は、十分によく規定された量の仲介剤がこの測定にわたって存在していることにある。
センサー電極の中に存在している仲介剤の量は本発明の非常に重要な特徴である。この量は電極装置の寿命にわたり、水性サンプル中の酸化型の仲介剤の濃度が測定の際の酵素反応を制限せしめないことを保障するほど十分に高いべきである。」(第3頁左上欄10行?右下欄7行)
(4)「本発明は水性媒体のサンプル、例えば体液のサンプル、例えば全血、血漿、血清、尿又は唾液のサンプル中の一定の化合物、例えばグルコース、セオフイリン、アルコール(エタノール)、ラクテート又はコレステロールの濃度を測定するための、一定の仲介剤の群を利用する上記した電気化学原理を基礎とする方法に関する。この仲介剤はその還元型において、水の中で例えば10mM以下の低い溶解度を有することを特徴とする。
・・・
この仲介剤は以下の特徴を有すべきである:
1)還元型における水中での低溶解度。
2)Ag/AgCL対照電極に対する-300?+400mVの酸化電位。
3)酵素反応及び電極反応における仲介剤の反応速度は全反応速度における律速段階となるべきでない。
4)これは安定でなくてはならない。
5)その他の反応に参加してはならない。」(第3頁左下欄9行?右下欄7行)
(5)「一般式IXの化合物

(式中、R^(19)、R^(20)、R^(21),R^(22)、R^(23)、R^(24),R^(25),及びR^(26)は同一又は異なっており、そしてそれぞれは水素、ニトロ、ハロゲン(好ましくはクロロ)、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ又はモルホリールを表わし、そしてR^(27)は水素、アルキル又はジアルキルアミノアルキルを表わす)」(第4頁右下欄下から5行?第5頁左上欄3行)
(5)「式IXの特定の好ましい化合物の例は、10-メチルフェノチアジン、4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(メチレングリーン)、3-ジメチルアミノフェノチアジン、3-ジメチルアミノ-10-メチルフェノチアジン、3-(モルホリン-4-イル)フェノチアジン及び2-クロロ-10-ジメチルアミノプロビルフェノチアジンである。」(第5頁左下欄16?21行)
(6)「本発明に従う方法において好ましい酵素はグルコースオキシダーゼであり、これは分類ECl.1.3.4のオキシドリダクターゼ酵素である。しかしながら、オキシドリダクターゼである。その他の酵素、例えばセオフィリンオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ラクテートオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、I7-アミノ酸オキシダーゼ又はグルコレートオキシダーゼが利用されうる。」(第6頁左上欄4?10行)
(7)「安定試験
一定の仲介剤を有するペーストの安定性は以下の方法を用いて決定できる:
該仲介剤をパラフィンに溶かす又は混合して、その後、グラファイトに結合させた酵素を加える。この混合物を均質にし、ペーストにする。このペーストをプラスト(plast)の電極ホルダーの中に充填し、通称スチックにする。これらのスチックを0及び10mMのグルコ-ス標準液を用いて試験し、グルコースに対するこれらのスチックの活性と特徴付ける。その後、このペースト含有スチックを一定の温度、例えば4、20、35及び54℃で保存する。一定の時間経過後、例えば1ケ月後、0及び10mMのグルコース標準液を用いてこのスチックを試験し、そして測定した活性値をはじめに測定した活性値と比較する。グルコースに対する測定値の変化が最も低いスチック中に存在しているかかる仲介剤が、問題の系(パスタ)において最も安定な仲介剤であると考えられる。
仲介剤の評価に関する標準方法
1)GOD-固定化グラファイト、パラフィン及び仲介剤を含むペーストを調製する。もしこの仲介剤がパラフィン中で高い溶解度を有するなら、mLのパラフィン当り10mgの仲介剤を利用する。もしこの仲介剤がパラフィン中で低い溶解度を有するなら、mLのパラフィン当り50mgの結晶を利用して、グラファイトを加える前に均質な混合物を獲得しておく。得られるペーストをスチックの中に充填する。
2)ペーストの活性は、循環電圧計の中で測定し、ここで電流は、電位の関数(CV運動曲線)として測定する。5種類の濃度のグルコース、即ち、0、5、10、15及び20mMを測定する。得られる結果に基づき、以下を評価する:
a)仲介剤がグラファイト電極により酸化及び還元されうるか、
b)仲介剤が還元型GODであることができるか、
c)利用すべき、電極にとっての最適電位、
d)グルコース濃度の関数としての直線性応答が問題の仲介剤の濃度を用いて獲得できるか、
e)仲介剤の濃度を最適化できるか。
3)最適電位での時間の関数として応答を測定する。グルコース濃度に対する安定な応答を示す時間間隔を評価する。
4)問題のペースト中の仲介剤の安定性を決定する。
サンプル相中の仲介剤の濃度はBioelectrochemisty and Bioenergetics 8(1981)、103-113に記述の方法を用いて決定 できる。」(第7頁左上欄10行?右上欄20行)
(8)「実施例1
以下の手順によりグルコースオキシダーゼ(GOD)(E.C.1.1.3.4.)をグラファイト粒子上に固定化した:10gのグラファイトを空気中100℃で24時間酸化させた。この表層酸化粒子を、0.1Mの酢酸緩衝液(pH4.76)100mL中の500mgの1-シクロへキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメト-P-トルエンスルホン酸塩で2時間活性化し、次いでほぼ中性のpHとなるまで蒸留水で洗い、そして乾かした。この活性化グラファイトを、80,000IUのGOD及び4%のグルタルアルデヒドを含む0.01のリン酸緩衝液(pH7.3)30mLと16時間4℃で混合し、乾かし、そして均一な粒子を得るために48メッシュに通した。
5%のメチレングリーン(4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン)を含むパラフィン油1gをGOD修飾化グラファイト2gと慎重に混ぜて均一なパスタを得た。
このパスタをプラスックロッドの中に充填し、それにおいて、新たによく規定された電極領域を導入するために、これは薄い断面スライスが切断されることが可能である。各測定の前、この電極表層は再生せしめた。利用できる有効電極面積は3mm^(2)である。
有効電極の試験において、Ag補助電極及びAg/AgCL対照電極が利用される。循環電圧計において、仲介剤の再酸化に由来する触媒電流-50mVで始まり、そして50?400mVで安定となることが観察された。この電流は利用したグルコースの濃度に比例した。
クロノアンペロメトリーは電位を適用してから30?60後に集積電流を利用して100mVで実施した。40mMのグルコースまでの直線性が得られた。電流は500mA/(sec^(2)mM)であった。このシグナルは溶液中の酸素濃度に影響されなかった。メチレングリーンを有さない対照パスタは、異なるグルコース濃度により影響されなかった。
実施例2
特定の仲介剤間の比較。
実施例1と同し手順を利用して表中のデーターが得られた。
以下の略後を用いている:メチレングリーンー=MG、メンド-ラブルー=MB、1-ジメチルアミノ-4-モルホリノベンゼン= MDMP、1.4.-ジモルホリノベンゼン=BMP、1.4-ジピベリジノベンゼン=BPP、1-モルホリノ-4-ピベリジノベンゼン=MPP。
・・・
実施例3
特定の仲介剤の安定性試験。
実施例1と同じ基礎的手順を利用してデーターを得た。進行を促進するために、特定の仲介剤を有するロッドを異なる温度で保存し、これは新たな分析学的性質を示すことができる。
実施例2と同し略語を用いた。
・・・
スライス間及びロッド間の再現性を考慮すると、全てのパスタは35℃で少なくとも70日以内は安定である。54℃でのデーターより、4℃で安定性は少なくとも2年であろうことが外挿できる。」(第7頁右下欄下から2行?第8頁右下欄3行)

2 引用例1に記載された発明の認定
上記記載を総合すれば、引用例1には、
「グルコースオキシダーゼ-FAD、及び電荷移動仲介剤としてフェノチアジン系化合物である4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンを含むグルコース濃度を測定するのためのペースト」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

3 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-334490号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

「【請求項1】 補酵素類であるジヒドロニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、ジヒドロニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADPH)又はそれらの類似体の電気化学的再生に適切な電極であって、該電極表面に、置換又は非置換の、3-フェニルイミノ-3H-フェノチアジン類及び3-フェニルイミノ-3H-フェノキサジン類の群から選択されるメディエーター化合物の1種又はそれ以上を含有するメディエーター機能が付与されていることを特徴とする電極。
【請求項2】 メディエーターが、式(IV)又は式(V):
【化1】

(式中、R_(1) 及びR_(2) は、メディエーターの酸化-還元(レドックス)電位を調節するか、メディエーターの溶解性を変化させるか、又はポリマー若しくは固体支持体にメディエーターを共有結合させる部位として機能する、置換基である)で示される、請求項1記載の電極。
【請求項3】 R_(1) 及びR_(2) が、同一でも異なっていてもよく、水素、低級アルキル、アリール、ハロ、ハロアルキル、カルボキシ、カルボキシアルキル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、芳香族及び脂肪族ケト、アルコキシ、アリールオキシ、ニトロ、ジアルキルアミノ、アミノアルキル、スルホ及びジヒドロキシボロンよりなる群から選択され、ここで脂肪族及び芳香族基は置換されているか又は非置換である、請求項2記載の電極。」

「【請求項7】 メディエーターが、 3-(4′-クロロ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-ジエチルアミノ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-エチル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-トリフルオロメチル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-メトキシカルボニル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-ニトロ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-メトキシ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
7-アセチル-3-(4′-メトキシカルボニルフェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
7-トリフルオロメチル-3-(4′-メトキシカルボニル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-ω-カルボニル-n-ブチル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-アミノメチル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-(2″-(5″-(p-アミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾリル))フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-β-アミノエチル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
6-(4′-エチルフェニル)アミノ-3-(4′-エチル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
6-(4′-〔2-(2-エタノ-ルオキシ)エトキシ〕エトキシフェニル)アミノ-3-(4′-〔2-(2-エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-〔2-(2-エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジンホウ酸、3-(3′,5′-ジカルボキシ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(4′-カルボキシ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、
3-(3′,5′-ジカルボキシ-フェニルイミノ)-3H-フェノキサジン、
3-(2′,5′-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジンジスルホン酸及び3-(3′-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジンスルホン酸からなる群から選択される、請求項1記載の電極。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】診断薬産業においては、酵素の有する選択性を、電流測定による検出の感度と結びつけた分析方法に関心が集まっている。ニコチンアミド補酵素(NAD及びNADP)の還元は、これらが、デヒドロゲナーゼによって触媒される反応において生成することから、特に重要である。デヒドロゲナーゼにより触媒される、次式:
【0002】
【化2】

【0003】の反応は、生物学的細胞中及び分析学的反応において重要な役割を果たしている。種々の基質から生成物への転換を選択的に触媒する、数百の異なるデヒドロゲナーゼが知られている。基質、例えばグルコースが酸化されると、酵素であるNAD^(+) 及び/又はNADP^(+ )は、それぞれNADH及びNADPHに還元される。これらの補酵素類は、それらがデヒドロゲナーゼ酵素と共に作用して、エネルギー移動酸化還元対を形成する能力のせいで、その反応における必要な因子である。ピリジンにリンクしたデヒドロゲナーゼは、2還元当量を基質からピリジンヌクレオチドの酸化型へと逆に転移させる。そのうち1つは還元されたピリジンヌクレオチド中に水素原子として見いだされ、もう1つは、電子である。基質から離れたもう1つの水素原子は、遊離のH+ として、媒体中に見いだされる。
【0004】補酵素NAD^(+) 及びNADP^(+) は、もしこれらを安価な使い捨ての分析器具で、経済的に使用しようとするならば、これらを再生、再酸化してもとの状態に戻すことが必須になるような、高価な化学薬品である。
【0005】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】NADHは、1ボルトオーダーの高い過電圧によってのみ、種々の塩基電極材において直接的に酸化される。しかし、この過電圧は、NADHから電極への電子の移動を媒介する機能物を電極表面に吸着させることにより、減少させることができる。このような媒介物(メディエーター)は、典型的に、過剰の過電圧を要さずに電気化学的に再酸化されて、電気化学的再生の副次的システムとしてそれ自体が有用となる材料から選択される。この目的に適切な種々のメディエーターが公知である。米国特許第4,490,464 号には、発明の背景として、フェナジンメトスルフェート(PMS);フェナジンエトスルフェート(PES);チオニン及び1,2-ベンゾキノンのようなメディエーターが記載されている。この特許は、NADH、NADPH又はそれらの類似体の酸化を触媒するために、ヘテロ原子を有するか又は有しない、少なくとも3個、好ましくは4個以上の縮合芳香族環からなる縮合芳香族環系を、メディエーターとして電極表面に付与することにより改質された電極についてさらに記載している。さらに詳細には、この特許はアルキルフェナジニウムイオン、フェナジニウムイオン、フェナジノン、フェノキサジニウムイオン、フェノキサジノン、フェノチアジニウムイオン又はフェノチアジノンのいずれか1つを含む構造的要素による、補酵素又はそれらの類似体との電子の交換について記載している。」

「【0023】ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型はNAD^(+) 、還元型はNADH)は、化学的酸化還元の機能を多くのデヒドロゲナーゼ酵素に提供する、補助因子である。この補助因子は、基質分子が酸化される一連の酵素反応の間に還元される。これらの酵素を基質濃度測定の手段として使用することを目的とする、アンペロメトリー(電流滴定)によるバイオセンサーは、この補助因子が電気化学的に再酸化されるときに発生する電流と、該濃度とを連関させたものである。このNADHは、グラファイト、熱分解炭素、ガラス状カーボン、白金、金又はこれらの物質から製造される複合体の電極上で、メディエーターなしで電気化学的に再酸化されうるが、この反応は、大きな過電圧及び電極の汚れなどをはじめとするいくつかの問題点を引き起こす。」

「【0028】本発明において有用なメディエーターは、一般式(IV)及び(V)で示されている。合成され、試験された該化合物類の構造は、アラビア数字で番号をつけて、表1の第1欄に示す。表1の第2?7欄は実施例III 及びIVに記載したメディエーターの評価の結果を要約したものである。」

「【0031】
【表3】


「【0039】3-(3′,5′-ジカルボキシフェニルイミノ)-3H-フェノチアジン(化合物18)
フェノチアジン(1.0g、5.0mmol)と5-アミノイソフタル酸(0.9g、5.0mmol)を、MeOH200ml中に溶解し、10℃に冷却し、1M のAgNO_(3) 30ml(30mmol)を加えた。10℃で30分攪拌した後、H_(2) O(40ml)を加え、更に5分間攪拌を続けた。固形の生成物をろ取し、H_(2) O(50ml)で洗浄した。固形物を、濃NH_(4) OH水溶液10mlを含むMeOH500mlに溶解し、20分間攪拌した後にろ過してAgを取り除いた。ろ液を、減圧下でもとの容量の約半分まで濃縮し、一晩5℃で冷蔵した。ついで、混合物をCelite(Celite Corp.)を通してろ過し、減圧下で固形物が分離しはじめるまで濃縮した。得られた溶液約100mlを、再びCeliteを通してろ過し、酢酸エチル900mlで希釈し、15分間放置した。分離した赤色の固形物をろ過により回収し、酢酸エチルで洗浄し、乾燥して化合物18(1.55g、82.5%)を得た。」

「【0047】実施例IV(プリント電極上のメディエーターの評価)
プリントされたセンサーカードと、グラファイト/炭素作用電極及び銀/塩化銀参照電極からなる、プリント電極の実験を実施した。グラファイト/炭素電極に用いたインキは、No.423SS(Acheson Colloids Co., Port Huron, MI)であり、銀/塩化銀参照電極には、15?25%AgClと混合したNo.427SS銀インキ(販売元上記と同じ)を用いた。電極の表面部分は、0.03cm^(2 )であった。
【0048】サイクリックボルタンメトリー実験を、プリント電極上で、グラファイト電極上で実施したと同様に実施した。図1では、0.6mMの化合物18の、pH=7.0の0.6mMPIPES緩衝液のみの中で測定した場合と、5mMNADHの存在下での場合とのサイクリックボルタモグラムを示した。NADHの存在下、電圧26mVにおける電流の増加は、NADHにより還元されたメディエーターの酸化によるものである。このメディエーターは、これがNADHを酸化してNAD+ にするときに還元され、ついで、電極において電気化学的に再酸化される。実際、このメデイエーターは、NADHを直接に酸化するのに必要な電位よりもかなり低い電位においてその電気化学的酸化を促進した。図2では、直接に(メディエーターなしに)プリント電極上で酸化した場合の、NADHの典型的サイクリックボルタモグラムを示した。より高いピーク電位(443mV)が明らかであった。
【0049】グルコース濃度を測定するバイオセンサーは、酵素であるグルコースデヒドロゲナーゼが、グルコースをグルコノラクトンに酸化する際にNAD+ を還元してNADHにすることを利用している。メディエーターによるNADHからNAD+ への電気化学的再酸化が、該グルコース濃度に比例する電流を生じさせる。
【0050】典型的グルコースバイオセンサーは、以下のようにして製造した。:25mMのKClを含有するpH=7.0のリン酸緩衝液100mM中メディエーター4mMの溶液を調製し、5%スルフィノール(Surfynol, Air Products and Chemicals, Inc., Allentown, PA)1.96g、NAD(0.32g)、グルコースデヒドロゲナーゼGDH(Toyobo)0.70g、pH=7.0の0.5M PIPES緩衝液1.44g及び脱イオン水5.5mlからなる同量の溶液で希釈した。混合物1.75μl をセンサー領域に塗布し、室温で放置して乾燥し、約20分乾燥した。この電極を小さなキャピラリー挿入部(gap)を有するフォーマット中に組み入れ、グルコース水溶液で処理して表1の6欄に記載した電位で電流を測定した。これを、グルコースを各0、50、100、200及び500mg/dl の濃度で含む試料に関して行い、グルコース濃度に対する電流の最小二乗法により得られた直線(lisine line)の傾斜が、各メディエーターの相対感度(μA/グルコースmg/dl)を表していた。傾斜が大きくなるにしたがって、メディエーターの性能は良好になる。これらの傾斜は、表1の最終欄に示した。
【0051】図3は、化合物18に関して、100mV及び300mVの電位においてグルコース濃度に対する電流をプロットしたものを示す。」

第4 本願発明と引用発明の対比、及び、当審の判断
1 ここで、本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「グルコースオキシダーゼ-FAD」が、本願発明の「フラビンタンパク質」に相当する。

(2)引用発明の「電荷移動仲介剤としてフェノチアジン系化合物である4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン」と、本願発明の「【化1】で示される媒介物」とは、「フェノチアジン系化合物の媒介物」である点で一致する。

(3)引用発明の「グルコース濃度を測定するのためのペースト」が、本願発明の「分析対象物を検出するための試薬」に相当する。

2 一致点
したがって、本願発明と引用発明とは、本願発明の選択式の記載も含めて、
「フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素;並びにフェノチアジン系化合物の媒介物を含む、分析対象物を検出するための試薬。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。

3 相違点
フェノチアジン系化合物の媒介物が、本願発明においては、【化1】で示される媒介物又はその組み合わせのであるのに対して、引用発明においては、4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンである点。

4 当審の判断
(1)相違点の検討
引用例2には、基質(例えばグルコース)濃度測定のバイオセンサーに用いられ、基質(グルコース)の酸化還元を触媒するデヒドロゲナーゼ酵素と共に作用する補酵素であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型はNAD^(+) 、還元型はNADH)のNADHから電極への電子の移動を媒介する媒介物(メディエーター)として、「3-(3′,5′-ジカルボキシフェニルイミノ)-3H-フェノチアジン(引用例2の表1の化合物18)」(以下「化合物18」という)が用いられることが記載されている(【0047】?【0050】の「実施例IV」参照)。
上記の化合物18は、本願明細書の【0031】の【化14】で示される「媒介物I」の物質であり、本願発明における【化1】で示される媒介物に包含される物質であるから、引用例2には、上記の媒介物として本願発明における【化1】で示される媒介物を用いることが記載されている。
なお、上記【化14】で示される「媒介物I」は、

である。
そして、引用例2の上記の【0047】?【0050】の「実施例IV」において、グルコース酸化の際のメディエータ(媒介物)としての「化合物18」について「このメデイエーターは、NADHを直接に酸化するのに必要な電位よりもかなり低い電位においてその電気化学的酸化を促進した。」と記載され、また、「グルコース濃度に対する電流の最小二乗法により得られた直線(lisine line)の傾斜が、各メディエーターの相対感度(μA/グルコースmg/dl)を表していた。傾斜が大きくなるにしたがって、メディエーターの性能は良好になる。これらの傾斜は、表1の最終欄に示した。」(【0050】)と記載されているところ、表1から、化合物18の上記傾斜が、他との比較で最も高いことを知ることができるから、化合物18がグルコース酸化の際のメディエータ(媒介物)として、性能が良好であることが記載されているといえる。
そうすると、引用発明においても、フェノチアジン系化合物の媒介物として、4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンに換えて、上記引用例2に記載の化合物18(3-(3′,5′-ジカルボキシフェニルイミノ)-3H-フェノチアジン)を採用して、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)本願発明の作用効果について
ア この点、請求人は、本願発明の作用効果について、平成25年7月19日付けで提出された回答書において、参考資料として実験成績証明書を添付して、
「実験成績証明書では、引用文献1に記載され、実施例でも使用されているフェノチアジンであるメチレングリーンを含むセンサと、本願発明に係るフェノチアジン媒介物を含むセンサとを、全血検体を用いて比較しました。結果から、実験1及び2のいずれにおいても、本願発明に係るフェノチアジン媒介物を含むセンサが良好な線形性(R^(2)=0.9998)を示したのに対し、メチレングリーンを含むセンサは、正確かつ精密な試験結果を提供しうるバイオセンサとしての使用に耐えうる、良好な線形性を示すものではありませんでした。
また、本願明細書には、引用文献2に係る発明に相当するNAD/媒介物の組み合わせに対して、本願発明に係るPQQ/媒介物の組み合わせが、改善された安定性を示すことが記載されています(本願明細書:図3)。
引用文献1のフェノチアジンを本願発明に係るフェノチアジン媒介物に置き換えることにより、あるいは引用文献2のNAD依存性の酵素を非NAD依存性である補因子ベースの酵素に置き換えることにより、本願発明の構成とすることで、それぞれ改善された優れた効果を奏することは、引用文献1、2及び本願の出願時の技術常識からは予測できるものではなく、そうしてみると、本願発明は、引用文献1、2及び本願の出願時の技術常識からは予測できない優れた効果を奏するものであると思料いたします。 」
と主張している。

イ しかしながら,上記の実験成績証明書で示された効果及び本願明細書の図3で示された効果は、いずれも、フェノチアジン媒介物として、本願明細書の【0031】の【化14】で示される「媒介物I」(引用例2の「化合物18」)を用いた場合に得られる効果であって、フェノチアジン媒介物として、本願発明の【化1】で示される媒介物を用いる場合に得られる一般化された効果を示したものということはできない。すなわち、本願発明の【化1】で示される媒介物には、引用例2の表1の「化合物18」の他に、表1の「化合物19」や「化合物21」、さらには、例えば、本願発明の【化1】においてR^(1)?R^(9)が全て水素である物質なども含まれるが、媒介物としてそれらの物質を用いた場合の効果は何ら検証されておらず、媒介物として上記の物質を用いた場合にも上記の実験成績証明書で示された効果及び本願明細書の図3で示された効果と同様の効果を奏するものか否かは全く不明である。よって、上記主張は、請求項1に係る発明の(請求項1に係る発明に一般化された)効果についての主張と言うことができないから、採用することができない。

ウ また、上記(1)に述べたように、引用例2から、化合物18がグルコース酸化の際のメディエータ(媒介物)として、性能が良好であることがわかっているのであるから、引用発明においても媒介物として化合物18を採用してみようと当業者が試みることは当然であり、それにより何らか別の効果が確認されたとしても、それは単に新たな効果が確認されただけのことであって、当該効果の有無に関わらず、当業者は上記の引用発明への化合物18の採用を試みるであろうから、上記新たな効果の確認は、上記の採用の容易性を否定することにはならない。すなわち、請求人によって主張された効果は、それによって、化合物18の引用発明への採用の容易性を覆す主張とはならない。

エ さらに、センサのグルコース濃度に対する出力電流の関係から得られる傾斜に関して、引用例2から化合物18のセンサが当該傾斜が大きく、性能の良さを表すものであることが認められるところ、当該傾斜の線形性については引用例2に記載がないが、傾斜の大きいことによって測定誤差やその他の設定の誤差などの影響を含みにくいものであることから、実験による傾斜の線形性についての良さも確認されやすいのではないかと予測されるところである。
すなわち、上記の実験成績証明書で示された効果が、引用発明に引用例2に記載の化合物18を採用したときに生じる、当業者が予測できないほどの格別顕著な効果であるということもできない。

オ 一方、本願明細書の図3で示される効果については、引用発明に引用例2に記載された化合物18を採用したときに生じる効果について検証するものではない。すなわち、引用発明は、「酵素としてグルコースオキシダーゼ-FAD、電荷移動仲介剤(媒介物)としてフェノチアジン系化合物を含む試薬」に関するものであって、引用発明に引用例2の化合物18を採用することの意味は、(媒介物としての)フェノチアジン系化合物の中から、特に化合物18を選択することを意味しているのであるから、引用発明に引用例2の化合物18を採用することによって生ずる効果を検証するためには、少なくとも、媒介物として化合物18以外のフェノチアジン系化合物を含む試薬を比較対象としなければ、上記の効果の検証はできないといえるところ、本願明細書の図3で示される検証においては、媒介物として化合物18以外のフェノチアジン系化合物を含む試薬についての効果(比較対象の効果)を示すものは何ら挙げられていない。
すなわち、そもそも、本願明細書の図3で示される効果は、引用発明と対比したときの本願発明の効果を示すものではないから、これを根拠とする請求人の本願発明の作用効果の主張は採用することができない。

(3)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-16 
結審通知日 2013-08-20 
審決日 2013-09-04 
出願番号 特願2008-283415(P2008-283415)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大竹 秀紀  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 藤田 年彦
岡田 孝博
発明の名称 分析対象物を検出するための試薬及び方法ならびに分析対象物を検出するための試薬を含む装置  
復代理人 田中 洋子  
代理人 津国 肇  
復代理人 伊藤 佐保子  

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