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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02G |
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管理番号 | 1283787 |
審判番号 | 不服2012-23789 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-11-30 |
確定日 | 2014-02-04 |
事件の表示 | 特願2007-218529「電線保持具」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月12日出願公開,特開2009- 55680,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成19年8月24日の出願であって,平成23年12月28日付けで拒絶理由が通知され,平成24年2月27日に意見書と手続補正書が提出され,同年8月29日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年11月30日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同時に手続補正書が提出されたものである。 そして,同年12月20日付けで審査官により作成された前置報告書について平成25年7月22日付けで審尋を行ったところ,審判請求人から同年9月24日に回答書が提出され,当審において,同年11月5日及び6日に電話応対を行うとともに同年11月6日付けで拒絶理由を通知し,同年12月5日に手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1-4に係る発明は,平成25年12月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載されている事項により特定されるとおりのものと認められるところ,その請求項1-4に係る発明は,次のとおりである。(以下,請求項1に係る発明を「本願発明1」という。) 「【請求項1】 電気機器や電気器具から引き出される配電線を曲げて所定の方向に送るために,クセを付けて曲げられた配電線を曲げたまま保持する電線保持具であって, 配電線の外径よりも大きい内径を有するチューブ状に形成され, 配電線を当該電線保持具内に挿入するための開口であって前記内径よりも幅が狭い筋状の開口部が当該電線保持具の軸方向の一端から他端まで設けられ, 前記軸方向の中程で90°以上の角度に折り曲げられ, 前記開口部は, 当該電線保持具の一端側から他端側に向かって捻られた形状に形成されるとともに,当該電線保持具の一端側と他端側とで180°異なる方向に向かって開口し,また,前記チューブの折り曲げ部分の外側を通って半周して開口する形状に形成されていることを特徴とする電線保持具。 【請求項2】 請求項1に記載の電線保持具において, 前記角度は,90°?130°であることを特徴とする電線保持具。 【請求項3】 請求項2に記載の電線保持具において, 前記角度は,約100°であることを特徴とする電線保持具。 【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載の電線保持具において, 前記開口部は, 当該電線保持具の中心軸に対し,前記角度をなす側に偏って設けられていることを特徴とする電線保持具。」 第3 原査定の理由の概要 この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1-4 ・引用文献等 1 ・備考 第1引用例には 湾曲線Lに沿ってケーブルを収容するケーブルサポートにおいて,スリット14を長手方向の一端から多端方向に向かってスパイラル状に形成することが記載されている。 また,電線を曲げて所定の方向に送るための方向に応じて,その角度を定めることは当業者が適宜設計変更し得るところと認められる。 なお,第1引用例もスリット14は,その途中の大部分においてケーブルサポートの中心軸に対し,偏って設けられているものである。 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開2007-215327号公報 第4 審尋で通知した理由の概要 請求項1についての補正は限定的減縮を目的としている。この場合,補正後の請求項1に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。 補正された本願請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)と,第1引用例に記載された発明とを比較すると, 第1引用例に記載された発明のケーブルも,一定の曲げの状態を保持しておかねばならないケーブルである点では,本願発明の電線と何ら相違するものではなく,また,ガイド保持部材12に関しても段落【0020】に「ガイド保持部材12が硬質の合成樹脂等からなる場合は,この後付け作業に際し,その収容空間20に可撓性のケーブル18を少し屈曲させながら,スリット14に沿って挿通していけば良い。」とあるように,硬質の材質からなることも明らかであるので,第1引用例に記載された発明のガイド保持部材12を,屈曲状態を保持しなければならない電線の保持具として用いることに何ら格別の困難性があるものとは認められない。(本願発明の「電線」と第1引用例の「ケーブル」に関して,本願発明の「電線」に関して具体的な硬さや大きさ等限定がないので,明確な相違は認められない。 クセ付けされ得るものであるか否かは,一般的なケーブルにおいては,多少なりとも曲がり癖がが生じることを考慮すれば,相違点であるものとも認められない。) よって,両者は,開口の形状が,本願発明では,チューブの折り曲げ部分の外側を通って半周して開口する形状であるのに対して,第1引用例に記載された発明のスリットは軸回りに1周以上周回する形状である点でのみ相違する。 上記相違点について検討するに, 開口をどの程度設けるかに関して,本願発明も第一引用例に記載された発明も一定の硬度を有する保持具内に,被保持具である電線(ケーブル)を挿入しなければならない発明であるので,保持具と電線(ケーブル)の大きさや,開口の大きさ,保持具やケーブルの強度等に応じて,電線を挿入しうる程度の開口の形状となすことは当然行うところであり,ケーブルの硬さに応じて開口の傾きを変更することは,当業者が容易に想到し得るところと認められるので,チューブの折り曲げ部分の外側を通って半周して開口する形状となすことは,保持具と電線の関係において当業者が適宜設計変更しうる構成に過ぎないものと認められる。 したがって,当該補正後の請求項1に係る発明は,本願発明は第1引用例より当業者が容易に想到し得るものと認められるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 よって,この補正は同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 そして,この出願は原査定の理由に示したとおり拒絶されるべきものである。 なお,出願人は特許請求の範囲の「クセを付けて曲げられた電線を曲げたまま保持する」点に関して,審判請求書において,「クセを付けて曲げられた電線を曲げたまま保持する」ことが記載されているものとは認められないとの認定は失当である旨の主張をしている。 上記主張についても検討するに,出願人も審判請求書のなかで 「電線保持具1に挿入する前から配電線10にクセ付けがされていないとすれば,電線保持具1を配電線10に取り付ける作業工程を示す第0017欄?第0019欄の記載において,作業工程の途中で,配電線10にクセを付けて折り曲げる工程の記載があるべきですが,そのような記載は一切ありません。」 と述べているように,電線保持具に保持する前に電線がクセを付けて曲げられていたものであるかは,明細書に何ら記載されているものではないので,配電線10が電線保持具1に挿入する前からクセ付けされていることは,明細書及び図面の記載を参酌しても読み取ることができるものではない。(図4は,クセがとれた図面であり,クセ付けされている図面ではない。) また,「クセを付けて曲げられた電線を曲げたまま保持する」との文言が「配電線が電線保持具に挿入する前からクセ付けされているかいなかは言及していません。」との主張に関しても,「クセを付けて曲げられた電線を曲げたまま保持する」との文言からは,配電線が電線保持具に挿入する前からクセ付けされていないものであるとは読み取ることができない。 よって,この点に関する主張も採用することはできない。 引用文献等一覧 1.特開2007-215327号公報 第5 当審の判断 1 引用例とその記載事項,及び,引用発明 原査定の拒絶の理由で引用され,また,審尋で通知した,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である下記の引用例1には,図面1-3とともに以下の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。) ア 引用例1:特開2007-215327号公報 (1a)「【請求項1】 所定の曲率半径で湾曲され,該湾曲線に略沿ってケーブルを収容する収容空間が形成された硬質のガイド保持部材と, 該ガイド保持部材の長手方向の一端から他端に亘って連続して形成され,かつ前記収容空間に連通するスリットと,を有し, 前記スリットを介して前記ケーブルを前記収容空間に収容可能とした, ことを特徴とするケーブルサポート。 【請求項2】 前記スリットは,前記ガイド保持部材にスパイラル状に形成されている, ことを特徴とする請求項1に記載のケーブルサポート。 【請求項3】 前記ガイド保持部材は,断面略弧状をなしている, ことを特徴とする請求項1又は2に記載のケーブルサポート。」 (1b)「【技術分野】 【0001】 本発明は,配線ケーブルを所定の曲率半径で湾曲させて案内保持するケーブルサポートに関する。 【背景技術】 【0002】 従来,ツイストペア線や同軸ケーブル,光ファイバーなどを使って,同じ建物の中にあるコンピュータやプリンタなどを接続し,狭い範囲でデータをやりとりするのにLANケーブル等が用いられている。そして,このLANケーブル等を配線するために,タイラップ(登録商標)等のケーブル結束具が用いられている。 【0003】 この場合,例えば図29に示すように,ケーブル140を配線する際,タイラップ等のケーブル結束具141を用いてケーブル140を小さい曲率半径で鋭く曲げると,折り曲げた図4のX点において,ケーブル140に物理的に応力集中が生じるばかりでなく,電気的な特性劣化を招く。 【0004】 これに対し,例えば図30に示すように,小さな曲率半径Rでスパイラル状に巻いた軟質パイプ150内に,ケーブル153を収容し,該ケーブル153に部分的な応力が集中しないようにしたスパイラルチューブ160が公知である(特許文献1参照)。 【0005】 すなわち,このスパイラルチューブ160は,スパイラル状に巻回された軟質パイプ150にスリット151が形成されていて,パイプ内にケーブル153を収容している。そして,軟質パイプ150内に収容されたケーブル153を外方に強く引くと,スリット151の開口部が拡開して該ケーブル153をスリット151から外に取り出すことができる。 【0006】 また,スパイラルチューブ160の長手方向の両端側を引っ張れば,スパイラル状に巻かれた軟質パイプ150を伸び縮みさせることができる。これにより,巻回されたケーブル153同士は直接接触することがなく,傷付け合わず,また,傷付いた部分同士が互いに接触しないというものである。 【特許文献1】実用新案登録第3084935号公報(第4-5頁,図1) 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかし,前述したケーブル結束具141やスパイラルチューブ160は,これらケーブル結束具自身141やスパイラルチューブ160自身の形状により,ケーブルの変形を強制的に防止することを目的とするものではなかった。例えば,ケーブル結束具141では,任意に変形させて折曲することも可能であるし,また,スパイラルチューブ160では,ケーブル153を軟質パイプ150で被覆することにより,ケーブル153自身が互いに傷付け合わないように保護するのが主な目的であった。 【0008】 このため,ケーブル配線方法によっては,例えばLANケーブル等の場合,ケーブル内のペア線の電気的特性を劣化させる等の原因となっていた。すなわち,例えばLANケーブルでは,所定の許容曲率半径よりも小さな曲率半径で曲げて配線すると,特性劣化の原因となるため,それよりも大きな曲率半径で配線することが推奨されている。一方,このような基準を知らない人が現場でケーブルの配線作業を行っている場合も多いのが実情である。 【0009】 更に,図30に示したスパイラルチューブ160では,その曲率半径Rが小さいため,ケーブル153の特性劣化を招く。更に,ケーブル配線が終了した後では,ケーブル153にスパイラルチューブ160を巻き付けるのは困難であるため,スパイラルチューブ160により保護することはできなかった。更にまた,LANケーブル等においては,小さい曲げによりケーブル内のペア線の「より」の位置関係が変化し,信号にノイズが重畳する等,電気的特性が劣化してしまう。LANケーブルのペア線の「より」は,元々ノイズ対策のためになされているものだからである。 【0010】 また,夫々の従来の技術では,施工業者及び配線担当者の作業能力に左右されるところが大きく,無意識のうちに特性を劣化させる施工をしているケースが見られる。これらは,ケーブル断線やノイズ等のマシントラブルの原因につながり,一方,配線施工上の問題にもかかわらず,システム設計を担当した通信機器メーカに責任が転嫁される場合が多い。 【0011】 本発明は,斯かる課題を解決するためになされたもので,その目的とするところは,ケーブル配線後にも該ケーブルに装着可能でかつケーブルの許容曲率半径よりも大きな曲率半径で配線することのできるケーブルサポートを提供することにある。」 (1c)「【発明を解決するための手段】 【0012】 本発明のケーブルサポートは,所定の曲率半径で湾曲され,該湾曲線に略沿ってケーブルを収容する収容空間が形成された硬質のガイド保持部材を有しているので,収容したケーブルをその許容曲率半径よりも大きい曲率半径で強制的に湾曲させることが可能となり,電気的なケーブル特性の劣化を防止することが可能となる。 【0013】 また,ガイド保持部材には,その長手方向の一端から他端に亘って連続して形成され,かつ前記収容空間に連通するスリットが形成されていて,このスリットを介して前記ケーブルを前記収容空間に収容することができるので,ケーブル配線後においても,ガイド保持部材をケーブルに容易に装着することが可能となる。 【発明の効果】 【0014】 本発明によれば,所定の曲率半径でケーブルを収容する収容空間が形成された硬質のガイド保持部材と,該ガイド保持部材の長手方向の一端から他端に亘って連続して形成されたスリットとを有し,前記スリットを介して前記ケーブルを前記収容空間に収容可能としたので,ケーブル配線後にも該ケーブルに装着することができ,かつケーブルの許容曲率半径よりも大きな曲率半径で配線することができるので,ケーブルの電気的特性の劣化や応力集中を防止することができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0015】 以下,図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。 図1は,本発明に係るケーブルサポートの正面図,図2は,そのI-I線に沿う断面図,図3は,ケーブルにケーブルサポートを取付けた状態の正面図である。 【0016】 図1において,ケーブルサポート10は,所定の曲率半径Rで湾曲されたガイド保持部材12と,このガイド保持部材12に形成されたスリット14を有している。ガイド保持部材12は硬質の部材からなり,図2に示すように,仮想断面が中空円筒状のガイド壁16を有する。このガイド保持部材12には,ガイド壁16により,湾曲線Lに沿ってケーブル18(図3参照)を収容する収容空間20が形成されている。また,この収容空間20とスリット14とは連通している。 【0017】 本実施形態では,ガイド保持部材12は,断面が所定の中心角θにて切断された略円弧状をなしている。ここで,例えばガイド壁16の仮想断面が中空円筒状で,かつその直径がケーブル18の直径と略等しく形成されている場合は,スリット14を介してケーブル18を収容空間20に収容するために,θ=180°以下となる。 【0018】 但し,ガイド壁16の仮想断面が中空円筒状で,かつその直径がケーブル18の直径よりも大きく形成されている場合は,ガイド保持部材12の断面の中心角θをθ=180°以上とすることができる。この場合は,大きな中心角でも,スリット14を介してケーブル18を収容空間20に収容することができるからである。なお,本実施形態では,ガイド保持部材12の断面形状が,略円弧状をなす場合を例として説明したが,これに限らず,例えば断面が楕円形状や,三角形又は四角形等の多角形状であっても良い。 【0019】 また,スリット14は,ガイド保持部材12の長手方向の一端Aから他端Bに亘って連続して形成されている。そして,このスリット14を介してケーブル18を,外部から湾曲線Lに沿って収容空間20に収容することができる。このため,例えばLANケーブル等の各種のケーブル18を施工した後にも,該ケーブル18に対してケーブルサポート10を簡単に装着することができる。 【0020】 よって,ケーブル敷設時にケーブルサポート10の装着を付け忘れた場合においても,該ケーブルサポート10をケーブル18に後付けすることができ,作業性の向上を図ることができる。そして,ガイド保持部材12が硬質の合成樹脂等からなる場合は,この後付け作業に際し,その収容空間20に可撓性のケーブル18を少し屈曲させながら,スリット14に沿って挿通していけば良い。 【0021】 この点に関し,若しも,外部から収容空間20にケーブル18を挿通可能なスリット14が形成されてないとすると,配線作業の最初にて,ケーブル18の一端側からケーブルサポート10を挿入しておく必要があるため,付け忘れた場合は配線作業のやり直しを行う必要が生じる。これに対し,本実施形態によれば,ケーブル18を,ケーブルサポート10のスリット14に沿って挿通することができるため,ケーブル18の配線後にもケーブルサポート10の後付けが可能となる。 【0022】 このスリット14は,図1に示したように,ガイド保持部材12の長手方向の一端Aから他端Bに亘って連続したスパイラル状に形成されている。これにより,ケーブル18の外被を覆うように該ケーブル18にケーブルサポート10を装着した場合に,ケーブルサポート10がケーブル18からみだりに離脱するおそれがない。これは,装着されたケーブルサポート10に対し,ケーブル18が離脱しようとしても,スパイラル状のガイド壁16がケーブル18の離脱を防止するからである。 【0023】 なお,スリット14の形状は,スパイラル状に限るものではなく,例えばガイド保持部材12の長手方向に沿って正弦波状や平面視凹凸状に形成しても良い。このような形状であっても,配線されたケーブル18に対し,ケーブルサポート10を離脱しないように後付けすることができるからである。 【0024】 また,ガイド保持部材12の材質は,例えば硬質の合成樹脂や硬質ゴム等の非導電性部材であることが好ましい。ガイド保持部材12の材質を,硬質の合成樹脂等としたのは,若しも軟質の弾性体等である場合は,ケーブル18の復元力等により該ケーブル18を所定の曲率半径で湾曲させておくことが困難となるからである。 【0025】 また,ガイド保持部材12の材質として,非導電性部材が好ましいとしたのは,若しも金属のような導電性部材を用いた場合は,これが他の部材に接触して電気的なショート(短絡)等のおそれが生じるからである。従って,そのようなおそれのないことが明らかな場合には,ガイド保持部材12の材質として鉄やアルミニウム等の金属を用いることもできる。 【0026】 更に,ガイド保持部材12は,ケーブル18の許容曲率半径よりも大きい曲率半径で湾曲されている。すなわち,ケーブル18の許容曲率半径は,該ケーブル18の種類によって異なっている。例えば,LANケーブルでは,ケーブル直径の略5倍以上の曲率半径で曲げて配線することが推奨されている。また,光ケーブルでは,例えば100mm以上の曲率半径で曲げて配線することが規定されている。 【0027】 これは,ケーブル18の許容曲率半径よりも小さい半径でケーブル18を折り曲げると,ケーブル18の電気的特性や光特性の劣化を招くからである。このため,このような基準を知らない人が現場でケーブルの配線作業を行う場合においても,本実施形態のケーブルサポート10を用いれば,そのような弊害を防止することができる。」 (1d)図1は,引用例1に記載された発明に係るケーブルサポートの正面図であり,図3は,ケーブルにケーブルサポートを取付けた状態の正面図であって,上記摘記(1a)-(1c)の記載を参酌すれば,同図から スリット14が,ガイド保持部材12の長手方向の一端Aから他端Bに亘って連続したスパイラル状に形成されるとともに,当該ガイド保持部材12の一端側から他端側とで略180°異なる方向に向かって開口し,また,所定の曲率半径Rで湾曲された前記ガイド保持部材12の前記一端Aと前記他端Bとの中央に位置する部分の外側を通らず1周半して開口する形状に形成されている構造を読み取ることができる。 イ 引用発明 引用例1の上記摘記(1a)-(1d)を総合勘案すれば,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「収容したケーブルをその許容曲率半径よりも大きい所定の曲率半径で強制的に湾曲させて案内保持する,電気的なケーブル特性の劣化や応力集中の防止を可能としたケーブルサポートであって, (ア)ケーブルサポート10は,所定の曲率半径Rで湾曲されたガイド保持部材12と,このガイド保持部材12に形成されたスリット14を有し, (イ)前記ガイド保持部材12は硬質の部材からなり,仮想断面が中空円筒状のガイド壁16を有するものであり, (ウ)前記ガイド保持部材12には,ガイド壁16により,湾曲線Lに沿ってケーブル18を収容する収容空間20が形成されており, (エ)前記収容空間20と前記スリット14とは連通するものであり, (オ)前記ガイド壁16の仮想断面は中空円筒状で,かつその直径が前記ケーブル18の直径よりも大きく形成されており,前記ガイド保持部材12の断面の中心角θはθ=180°以上とされており, (カ)前記スリット14は,ガイド保持部材12の長手方向の一端Aから他端Bに亘って連続したスパイラル状に形成されるとともに,当該ガイド保持部材12の一端側から他端側とで略180°異なる方向に向かって開口し,また,所定の曲率半径Rで湾曲された前記ガイド保持部材12の前記一端Aと前記他端Bとの中央に位置する部分の外側を通らず1周半して開口する形状に形成されており,当該スリット14を介して前記ケーブル18を,外部から前記湾曲線Lに沿って前記収容空間20に収容することができるものである, ケーブルサポート。」 2 本願発明1と引用発明との対比 ア 引用発明の「ケーブル」と,本願発明1の「『電線』,『配電線』」は,「線状部材」である点で一致する。したがって,引用発明の「ケーブルサポート」と,本願発明1の「電線保持具」とは,「線状部材保持具」である点で一致する。 イ 引用発明の「前記ガイド壁16の仮想断面は中空円筒状で,かつその直径が前記ケーブル18の直径よりも大きく形成されており」,「当該スリット14を介して前記ケーブル18を,外部から前記湾曲線Lに沿って前記収容空間20に収容することができる」,「前記ガイド保持部材12の断面の中心角θはθ=180°以上とされており」,「『前記スリット14は,ガイド保持部材12の長手方向の一端Aから他端Bに亘って』,『形成される』」及び「連続したスパイラル状」は,それぞれ本願発明1の「配電線の外径よりも大きい内径を有するチューブ状に形成され」,「配電線を当該電線保持具内に挿入するための開口」,「前記内径よりも幅が狭い筋状の開口部」,「当該電線保持具の軸方向の一端から他端まで設けられ」及び「捻られた形状」に相当する。 すなわち,本願発明1と引用発明の一致点と相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「線状部材保持具であって, 線状部材の外径よりも大きい内径を有するチューブ状に形成され, 線状部材を当該線状部材保持具内に挿入するための開口であって前記内径よりも幅が狭い筋状の開口部が当該線状部材保持具の軸方向の一端から他端まで設けられ, 前記開口部は, 当該線状部材保持具の一端側から他端側に向かって捻られた形状に形成されるとともに,当該線状部材保持具の一端側と他端側とで180°異なる方向に向かって開口している, 線状部材保持具。」 <相違点> ・相違点1:「線状部材保持具」が,本願発明1では,「電気機器や電気器具から引き出される配電線を曲げて所定の方向に送るために,クセを付けて曲げられた配電線を曲げたまま保持する電線保持具」であるのに対して,引用発明では,「収容したケーブルをその許容曲率半径よりも大きい所定の曲率半径で強制的に湾曲させて案内保持する,電気的なケーブル特性の劣化や応力集中の防止を可能としたケーブルサポート」である点。 ・相違点2:本願発明1では,電線保持具は「軸方向の中程で90°以上の角度に折り曲げられ」ているのに対して,引用発明では,ケーブルサポートは「所定の曲率半径Rで湾曲され」ている点。 ・相違点3:本願発明1では,開口は「前記チューブの折り曲げ部分の外側を通って半周して開口する形状に形成されている」のに対して,引用発明では,スリットは「所定の曲率半径Rで湾曲された前記ガイド保持部材12の前記一端Aと前記他端Bとの中央に位置する部分の外側を通らず1周半して開口する形状に形成されて」いる点。 3 相違点についての判断 ・相違点2について 引用例1には,ケーブルサポートが「所定の曲率半径Rで湾曲され」ている構造は記載されているが,軸方向の中程で折り曲げられた構造,すなわち,チューブ状のものを中程で折り曲げることで得られる,両端の直管部分と,これに挟まれた曲管部分とから構成される構造は記載も示唆もされていない。 また,引用発明は,「LANケーブルでは,所定の許容曲率半径よりも小さな曲率半径で曲げて配線すると,特性劣化の原因となる」という課題を解決するために,「所定の曲率半径Rで湾曲されたガイド保持部材12」を用いることで,収容したケーブルをその許容曲率半径よりも大きい所定の曲率半径で強制的に湾曲させて,電気的なケーブル特性の劣化を防止すること,すなわち,ガイド保持部材12自身の形状により,ケーブルの変形を強制的に防止することを目的とした発明であると解されるから,前記ガイド保持部材の構造として,「所定の曲率半径Rで湾曲され」ている構造に替えて,「軸方向の中程で90°以上の角度に折り曲げられ」た構造,すなわち,チューブ状のものを中程で折り曲げることで得られる,両端の直管部分と,これに挟まれた曲管部分とから構成された構造を採用すべき動機も見いだすことはできない。 したがって,上記相違点2について,本願発明1の構成を採用することは当業者にとって容易であったとは認めることができない。 ・相違点3について 引用例1の上記摘記(1c)の「【0022】このスリット14は,図1に示したように,ガイド保持部材12の長手方向の一端Aから他端Bに亘って連続したスパイラル状に形成されている。これにより,ケーブル18の外被を覆うように該ケーブル18にケーブルサポート10を装着した場合に,ケーブルサポート10がケーブル18からみだりに離脱するおそれがない。これは,装着されたケーブルサポート10に対し,ケーブル18が離脱しようとしても,スパイラル状のガイド壁16がケーブル18の離脱を防止するからである。」との記載,及び,上記摘記(1d)の「スリット14が,ガイド保持部材12の長手方向の一端Aから他端Bに亘って連続したスパイラル状に形成されるとともに,当該ガイド保持部材12の一端側から他端側とで略180°異なる方向に向かって開口し,また,所定の曲率半径Rで湾曲された前記ガイド保持部材12の前記一端Aと前記他端Bとの中央に位置する部分の外側を通らず1周半して開口する形状に形成されている構造を読み取ることができる。」との記載に照らして,引用発明は,「所定の曲率半径Rで湾曲された前記ガイド保持部材12の前記一端Aと前記他端Bとの中央に位置する部分の外側を通らず1周半して開口する形状に形成されて」いるというスリットの構造によって,装着されたケーブルサポート10に対し,ケーブル18が離脱しようとしても,スパイラル状のガイド壁16がケーブル18の離脱を防止することにより,ケーブルサポート10がケーブル18からみだりに離脱するおそれがないという効果を奏しているものと理解することができる。 そして,スリットの巻数が少ないと,ケーブルサポート10がケーブル18から離脱するおそれが増加することは当業者であれば直ちに予測できるところ,引用発明において,スリットの巻数を「1周半」から,これの1/3の「半周」に減らし,かつ,前記スリットが「チューブの折り曲げ部分の外側を通って」開口するように変更する動機を見いだすことはできない。 一方,本願発明1は,スリットの巻数が「半周」であることにより,本願明細書の【0024】に記載された「配電線10を簡単に嵌め込むことができる。」,及び【0025】に記載された「凹凸が少なく,また,この電線保持具1に配電線10が嵌め込まれると,配電線10は,電線保持具1の中心軸1aに対して偏って配置されるので,図2(b)に示すように,配電線10と電線保持具1の内壁との間に隙間4が生じる。そのため,この電線保持具1に海水が付着しても凹凸部分に海水がたまらないばかりか,隙間4を介して外部に流れ出してしまう。従って,この電線保持具1を用いると,海水が付着して塩が溜り,この溜まった塩により配電線10が傷む塩害を確実に防止することができる。」という効果を奏し,また,前記半周の巻数のスリットが,「チューブの折り曲げ部分の外側を通って」開口するという構造を備えることによって,本願明細書の【0017】-【0020】に記載された 「2.使用方法 上述のように構成された電線保持具1を用いて配電線10を曲げた状態に保持する場合,まず,この電線保持具1の曲げられた地点から見て軸方向の一方の側の開口部3に配電線10を宛がい,電線保持具1を配電線10に強く押し当て,開口部3をやや押し開いて,配電線10を電線保持具1内に嵌め込む。 【0018】 次に,この配電線10が取り付けられた部分の電線保持具1と配電線10とを把持しつつ,電線保持具1を配電線10に嵌め込む方向とは反対側に配電線10を引き寄せ,その引き寄せに伴って,電線保持具1が曲げられた部分の開口部3に配電線10を嵌め込んでいく。 【0019】 そして,この電線保持具1の曲げられた地点から見て軸方向の他方の側の開口部3に対向する位置まで配電線10を引き寄せ,この開口部3に対向する位置に配電線10が来たら,配電線10を開口部3に強く押し当て,開口部3を押し開いて配電線10を電線保持具1に嵌め込む。 【0020】 すると,図2(a)に示すように,カットアウト12から引き出された配電線10は,この電線保持具1により所定の方向に折り曲げられて保持される。」 という手順によって,配電線10を電線保持具1に簡単に嵌め込むことができるという効果を奏するものと認められる。 したがって,上記相違点3について,本願発明1の構成を採用することは当業者にとって容易であったとは認めることができない。 したがって,相違点1について検討するまでもなく,本願発明1は,引用例1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 4 請求項2-4に係る発明について 本願の請求項2-4に係る発明は,いずれも請求項1を引用し,これをさらに限定する発明であるところ,本願発明1が,上記のように,引用例1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことから,本願の請求項2-4に係る発明も,本願発明と同様に,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明及び本願の請求項2-4に係る発明はいずれも,引用例1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-01-17 |
出願番号 | 特願2007-218529(P2007-218529) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H02G)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 右田 勝則 |
特許庁審判長 |
鈴木 匡明 |
特許庁審判官 |
西脇 博志 加藤 浩一 |
発明の名称 | 電線保持具 |
代理人 | 名古屋国際特許業務法人 |