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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1283949
審判番号 不服2012-20761  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-22 
確定日 2014-01-24 
事件の表示 特願2006-501506「燃料電池スタック」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月 2日国際公開、WO2004/075324、平成18年 8月10日国内公表、特表2006-518538〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年 2月19日(パリ条約による優先権主張 2003年 2月20日 (DE)ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成22年 9月 2日付けで拒絶理由が通知され、平成23年 1月 5日付けで特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がされ、次いで、同年 8月 9日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年12月 6日付けで特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がされたが、平成24年 6月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がされたものである。
その後、当審において、平成24年12月10日付けで前置報告書に基づく審尋を行い、期間を指定して回答書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もなかった。


第2 平成24年10月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成24年10月22日付けの手続補正を却下する。

【理由】
I.補正の内容
平成24年10月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の記載を、以下の(A)から(B)とする補正を含む(下線部は補正部分である。)。

(A)「【請求項1】
積層された多数の板状の燃料電池要素(2)を備え、この燃料電池要素の間にそれぞれ板状のセパレータ(3)が配置され、燃料ガス(13)を供給するために少なくとも一つの内部の供給通路(4)が設けられ、排ガス(14)を排出するために少なくとも一つの内部の排出通路(5)が設けられ、この供給通路と排出通路が積層方向に延びている燃料電池スタック(1)において、
各々の前記板状のセパレータは第1の表面上に、
前記第1の表面上に供給された前記燃料ガス(13)を案内するための、平行に延びる多数の縦方向流路(6)と、
前記縦方向流路(6)の第1の端部と前記供給通路(4)を接続する分配領域(7)と、
前記縦方向流路(6)の第2の端部であって、前記第1の端部と反対方向にある端部である第2の端部と前記排出通路(5)を接続する捕集領域(8)と
を備え、
各々の前記板状のセパレータは、前記第1の表面の反対側の第2の表面上に、
前記縦方向流路(6)と平行に延びた、前記第2の表面上に供給された酸化剤用の複数の流路であって、前記酸化剤(15)を外部から供給するために燃料電池スタック(1)の側面に開放している酸化剤用の流路を備える、酸化剤ガイド
を備え、
各々の前記板状のセパレータ上の前記縦方向流路と前記酸化剤用の流路は互いにずれている、
ことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
少なくとも1つの前記供給通路(4)と少なくとも1つの前記排出通路(5)が前記燃料電池スタック(1)の同一の側(11)の範囲に配置されていることを特徴とする、請求項1記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
少なくとも1つの前記供給通路(4)と少なくとも1つの前記排出通路(5)が前記燃料電池スタックに斜めに対向して配置されていることを特徴とする、請求項1記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
前記分配領域(7)が前記供給通路(4)から出発して前記縦方向流路(6)の前記第1の端部に沿って縮小し、前記捕集領域(8)が前記排出通路(5)から出発して前記縦方向流路(6)の前記第2の端部に沿って縮小していることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一つに記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記分配領域(7)と前記捕集領域(8)が前記燃料電池要素に対称に形成されていることを特徴とする、請求項1?4のいずれか一つに記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記分配領域(7)と前記捕集領域(8)によって付加的な冷却面が形成されていることを特徴とする、請求項1?5のいずれか一つに記載の燃料電池スタック。
【請求項7】
前記分配領域(7)および/または前記捕集領域(8)によって熱交換面が形成され、この熱交換面によって前記燃料ガス(13)と前記酸化剤(15)の間で熱エネルギーが伝達されることを特徴とする、請求項1?6のいずれか一つに記載の燃料電池スタック。」

(B)「【請求項1】
積層された多数の板状の燃料電池要素(2)を備え、この燃料電池要素の間にそれぞれ板状のセパレータ(3)が配置され、燃料ガス(13)を供給するために1つのみの内部の供給通路(4)が設けられ、排ガス(14)を排出するために1つのみの内部の排出通路(5)が設けられ、前記1つの供給通路(4)と前記1つの排出通路(5)は燃料電池スタックに斜めに対向する角に配置されており、かつ、積層方向に延びている燃料電池スタック(1)において、
各々の前記板状のセパレータは第1の表面上に、
前記第1の表面上に供給された前記燃料ガス(13)を案内するための、平行に延びる多数の縦方向流路(6)と、
前記縦方向流路(6)の第1の端部と前記供給通路(4)を接続する分配領域(7)と、
前記縦方向流路(6)の第2の端部であって、前記第1の端部と反対方向にある端部である第2の端部と前記排出通路(5)を接続する捕集領域(8)と
を備え、
各々の前記板状のセパレータは、前記第1の表面の反対側の第2の表面上に、
前記縦方向流路(6)と並行に延びた、前記第2の表面上に供給された酸化剤用の複数の流路であって、前記酸化剤(15)を外部から供給するために燃料電池スタック(1)の側面に開放している酸化剤用の流路を備える、酸化剤ガイド
を備え、
各々の前記板状のセパレータ上の前記縦方向流路と前記酸化剤用の流路は互いにずれている、
ことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
前記1つの供給通路(4)と前記1つの排出通路(5)が前記燃料電池スタック(1)の同一の側(11)の範囲に配置されていることを特徴とする、請求項1記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記分配領域(7)が前記供給通路(4)から出発して前記縦方向流路(6)の前記第1の端部に沿って縮小し、前記捕集領域(8)が前記排出通路(5)から出発して前記縦方向流路(6)の前記第2の端部に沿って縮小していることを特徴とする、請求項1または2に記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
前記分配領域(7)と前記捕集領域(8)が前記燃料電池要素に対称に形成されていることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一つに記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記分配領域(7)と前記捕集領域(8)によって付加的な冷却面が形成されていることを特徴とする、請求項1?4のいずれか一つに記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記分配領域(7)および/または前記捕集領域(8)によって熱交換面が形成され、この熱交換面によって前記燃料ガス(13)と前記酸化剤(15)の間で熱エネルギーが伝達されることを特徴とする、請求項1?5のいずれか一つに記載の燃料電池スタック。」


II.補正の適否
このような本件補正は、本件補正前の請求項1の記載を引用する請求項3に記載された発明(以下、「補正前の発明」という。)における、「前記縦方向流路(6)と平行に延びた、前記第2の表面上に供給された酸化剤用の複数の流路であって、前記酸化剤(15)を外部から供給するために燃料電池スタック(1)の側面に開放している酸化剤用の流路」を、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正後の発明」という。)における、「前記縦方向流路(6)と並行に延びた、前記第2の表面上に供給された酸化剤用の複数の流路であって、前記酸化剤(15)を外部から供給するために燃料電池スタック(1)の側面に開放している酸化剤用の流路」とする補正事項aと、
同様に、補正前の発明における、「燃料ガス(13)を供給するために少なくとも一つの内部の供給通路(4)が設けられ、排ガス(14)を排出するために少なくとも一つの内部の排出通路(5)が設けられ、少なくとも1つの前記供給通路(4)と少なくとも1つの前記排出通路(5)が前記燃料電池スタックに斜めに対向して配置されている」を、補正後の発明における、「燃料ガス(13)を供給するために1つのみの内部の供給通路(4)が設けられ、排ガス(14)を排出するために1つのみの内部の排出通路(5)が設けられ、前記1つの供給通路(4)と前記1つの排出通路(5)は燃料電池スタックに斜めに対向する角に配置されて」いるとする補正事項bと、
を含むものである。

そこで、以下、このような補正事項a、bの適否について検討する。

(1) 補正事項aについて
(1-1) 補正の目的についての検討
補正事項aは、上述のとおり、補正前の発明における、「前記縦方向流路(6)と平行に延びた、前記第2の表面上に供給された酸化剤用の複数の流路」を、補正後の発明における、「前記縦方向流路(6)と並行に延びた、前記第2の表面上に供給された酸化剤用の複数の流路」とするものである。
ところで、本件補正前の請求項1は、平成23年 1月 5日付けの手続補正によって補正されていた請求項1における、「前記縦方向流路(6)と並行に延びた、前記第2の表面上に供給された酸化剤用の複数の流路」という記載(以下、「元の記載」という。)を、最後の拒絶理由を受けた際に、誤記の訂正を目的として、「 前記縦方向流路(6)と平行に延びた、前記第2の表面上に供給された酸化剤用の複数の流路」という記載に補正されたものであった。
そうすると、補正事項aは、当該記載を元の記載に戻すものであり、訂正されていた記載を誤記に戻すものであるから、請求項の削除、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明の、いずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。

(1-2) 小括
したがって、補正事項aを含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



(2) 補正事項bについて
(2-1) 補正の目的についての検討
補正事項bは、補正前の発明における、「少なくとも一つの内部の供給通路(4)」、「少なくとも一つの内部の排出通路(5)」、「少なくとも1つの前記供給通路(4)と少なくとも1つの前記排出通路(5)が前記燃料電池スタックに斜めに対向して配置されている」を、それぞれ、補正後の発明における、「1つのみの供給通路(4)」、「1つのみの排出通路(5)」、「前記1つの供給通路(4)と前記1つの排出通路(5)は燃料電池スタックに斜めに対向する角に配置されて」いるに特定するものである。
このような補正事項bは、供給通路(4)と排出通路(5)のそれぞれの個数を、いずれも、「1つのみ」に限定するとともに、それらの通路が燃料電池スタックに斜めに対向して配置されている場所を、「角」に特定するものであるから、発明を特定するために必要な事項を限定するもの、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。

(2-2) 独立特許要件についての検討
上記(2-1)で検討したとおり、補正事項bは、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
そこで、以下、補正事項bにより特定される発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、検討する。

(ア)補正発明
本件補正による補正後の請求項1?6に係る発明は、上記「I.(B)」に示すとおりのものであり、そのうちの本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記「I.(B)」の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。


(イ) 刊行物及びその記載事項
原査定、及び、前置報告書に基づく審尋にて示した、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である、特開昭59-12572号公報(以下、「引用文献1」という。)、及び、国際公開第01/13449号(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている(「…」は記載の省略を表す。)。

[1] 引用文献1:特開昭59-12572号公報

(1A)「本発明の目的は良好な電池作動を行うと共に簡単な構成の電池スタックと関連マニホルドを提供することである。」(第2頁右上欄末行?同頁左下欄第2行)

(1B)「第1図は本発明による電池スタック(1)を示し、スタック(1)は上部及び下部サブスタック(1a)及び(1b)を含む。…
特に、トップセパレータプレート(3)は、ユニポーラ型であつてその裏面(3b)の内部通路(20)を経て上端単位セル(2a)の陰極に燃料ガスを運ぶ。バイポーラプレート(4)は単位セル(2a)の下にあり且次に続く単位セル(2b)の上にある。このプレートは、その上面(4a)には単位セル(2a)の陽極に酸化ガスを運ぶ通路(21)及びその下面(4b)には単位セル(2b)の陰極に燃料ガスを運ぶ通路(20)を含む。プレート(5)(6)は同様のバイポーラ型であり、各裏面(5b)(6b)に夫々続いている単位セルの陰極に燃料ガス供給用の通路(20)と各表面(5a)(6a)に夫々続いている単位セルの陽極に酸化ガス供給用の通路(21)を有する。一方、プレート(7)はユニポーラ型であつて、その上面(7a)にサブスタック(1a)の最下端セル(2d)の陽極に酸化ガス供給用の通路(21)を有する。単位セル(2a)?(2d)と関連セパレータプレート(3?7)は従つて4セルのサブスタック(1a)を構成する。
セパレータプレート(9?13)は夫々セパレータプレート(3?7)と同じ構成である。従って下部サブスタック(1b)も又プレート(9?13)と単位セル(2e?2h)により一体構成された4セルを含む。
熱制御プレート(8)はサブスタック(1a)の下に配置され、サブスタックの熱発生面即ちユニポーラプレート(7)の裏面(7b)と連繋している上面(8a)に冷却ガス供給通路(23)をもつ。同様の熱制御プレート(14)はサブスタック(1b)の冷却のためユニポーラプレート(13)の裏面に連繋している。
本発明によれば電池スタック(1)は更に燃料ガス及び排出燃料ガスを通路(20)の内部的に配設された入口及び出口に連結するための内部マニホルドシステム(31)を備えている。かゝるマニホルドシステムは、燃料ガス通路(20)の配置を酸化ガス通路(21)と反対もしくは対向関係にすることができ、一方酸化ガス通路の入口端(21a)(図では見えない)及び出口端(21b)を夫々共通面(101a)及び(101b)においてスタック(1)の外方に開口せしめることを可能とし、従つてこのマニホルド(31)から隔離された共通外部入口及び出口側各酸化ガスマニホルド(41)及び(42)に近づきうる。その代り前記通路(20)(21)の配置は、冷却通路(23)をかゝる通路(20)(21)に対し横切り特に直交させることを可能とし、且その外部入口(23a)及び出口(24b)(見えない)をマニホルド(41)(42)(31)から隔離された共通入口及び出口側の各冷却用マニホルド(43)(44)と対向するスタック面(101c)及び(101d)上に形成することを可能とする。」(第2頁左下欄末行?第3頁右上欄第12行)

(1C)「第2図は第1図バイポーラプレート(4)の単一構成の詳細を示す。このプレート(4)はその裏面(4b)に長手方向内部溝(4c)(4d)を含む。これらの溝はマニホルドシステム(31)の一部を構成し、入口及び出口側各マニホルド(32)(33)及び(34)(35)と内部燃料ガス通路(20)間を連通している。特に溝(4c)は通路(20)の入口端(20a)及び管(32)(33)の各孔(32a)(33a)と連通し、一方溝(4d)は通路(20)の出口端(20b)及び孔(34a)(35a)を経て管(34)(35)と連通している。
バイポーラプレート表面(4a)の酸化ガス通路(21)は、プレート端面に延長し且つ燃料ガス通路(21)と同一方向である。これは第2図矢印(A)(B)で示すように夫々燃料ガスと酸化ガスの所望対向流を可能とする。
バイポーラプレート(5)(6)及び(10?12)は、バイポーラプレート(4)と同様構成であり、従つてその表面及び裏面に同様の面通路構成を含む。一方ユニポーラプレート(3)(9)は、バイポーラプレート(4)の裏面(4b)と同様の裏面をもつが、上面は基本的に平坦で通路を有しない。これに反しプレート(7)(13)は平坦裏面及びプレート(4)の表面(4a)と同様の表面とをもつ。」(第3頁左下欄第13行?同頁右下欄第14行)

(1D)「スタック(1)の作動に際し、燃料ガスは分配プレート(16)の中心室(16e)を経てマニホルドシステム(31)に供給される。ついで燃料ガスは溝(16c)(16d)を経て入口管(32)(33)に入る。各入口管は、夫々孔(32a)(33a)を経由してスタックの構成プレートを貫通流下するガスを運ぶ。このガスがスタックを流下するにつれ、各プレート面(3b)(4b)(5b)(6b)(9b)(10b)(11b)(12b)において、ガスの一部は長手方向入口溝〔即ち(4c)など〕に連通する。このような連通したガスはついで各プレートの通路(20)に入口溝から通過し、電気化学反応を行う。かゝる反応の結果排出されたガスはついで、夫々長手方向出口溝〔即ち(4d)など〕を経て出る。各出口溝から排ガスは、収集プレート(15)の各スロット(15c)(15d)に送られてかゝるスロットからスタック外通路への孔(15e)に送るために、出口管(34)(35)のいづれか一方もしくは両方に連通している。
燃料ガスの供給中、酸化ガスは同時に入口マニホルド(41)からスタック面(101a)に共通の通路(21)の入口孔(21a)に供給される。このガスは通路(20)の燃料ガスと全く反対方向の通路(21)を通過し、電気化学反応を行う。酸化排気ガスは共通面(101b)を経てセルから出て行き共通出口マニホルド(42)により集められる。酸化ガス及び燃料ガスがスタックを通過する際、電気化学反応によりスタックで発生する熱は、共通入口マニホルド(43)から共通スタック面(101c)の入口(23a)に供給された冷却ガスにより発散される。冷却ガスはついで共通スタック面(101d)の出口(23d)から通路(23)を出て共通出口マニホルド(44)に入る。」(第3頁右下欄第15行?第4頁右上欄第5行)

(1E)「




[2] 引用文献2:国際公開第01/13449号
(「()」内の当審仮訳は、パテントファミリーである特表2003 -507858号公報を参考にした。)
(2A)「 The present inventions provide a number of advantages over conventional bipolar plates and fuel cells. For example, the fuel and oxidant channels in conventional bipolar plates are formed on opposing surfaces of the plate, as is illustrated in FIGURE 1. The thickness of conventional bipolar plates, as measured from the surface on the fuel side which contacts anode of one MEA to the surface on the oxidant side which contacts the cathode of another MEA, is therefore equal to the combined depths of the opposing channels and the thickness of the material that separates the channels. The thickness of the present bipolar plate is far less because the fuel and oxidant channels are not aligned. Thus, the thickness of the bipolar plate need not be equal to, and is actually less than, the combined depths of the opposing channels and the thickness of the material that separates the channels. In one preferred embodiment, the fuel and oxidant sides of the bipolar plate each include an alternating series of channels and ridges, with the ridges on the fuel side forming the oxidant channels and the ridges on the oxidant side forming the fuel channels. Here, the thickness of the bipolar plate is the sum of the depth of only one channel and the thickness of the material that forms the ridges. This is significantly less than the thickness of a conventional bipolar plate. The result is a fuel cell with a power density (kW/L) that is approximately twice that of conventional fuel cells.
The present bipolar plate is also significantly lighter than conventional bipolar plates. Referring again to FIGURE 1, conventional bipolar plates include a large solid area of plate material located between adjacent channels that extends from the surface on the fuel side which contacts anode of one MEA to the surface on the oxidant side which contacts the cathode of another MEA. The present bipolar plate does not include this large area because the fuel channels and oxidant channels are not aligned and, accordingly, channels are located in the area that is occupied by plate material in conventional bipolar plates. The result is a fuel cell with a specific power (kW/kg) that is two to three times that of conventional fuel cells.」(第3頁第15行?第4頁第21行)
(当審仮訳: 本発明は、従来のバイポーラ・プレートおよび燃料電池に勝るいくつかの利点を提供する。例えば、従来のバイポーラ・プレートにおける燃料チャネルおよび酸化剤チャネルは、図1に示すように、プレートの対向する表面上に形成されていた。したがって、1つのMEAのアノードに接触する燃料側の表面から、別のMEAのカソードに接触する酸化剤側の表面まで測定した、従来のバイポーラ・プレートの厚さは、対向するチャネルの深さと、チャネルを分離する材料の厚さとを組み合わせた厚さに等しい。本バイポーラ・プレートの厚さは、燃料チャネルと酸化剤チャネルが整合しないのではるかに小さい。したがって、バイポーラ・プレートの厚さは、対向するチャネルの深さと、チャネルを分離する材料の厚さとを組み合わせた厚さに等しい必要はなく、実際にそれよりも小さい。1つの好ましい実施形態では、バイポーラ・プレートの燃料側および酸化剤側はそれぞれ交互に配置された一連のチャネルと隆起部を含み、燃料側の隆起部は酸化剤チャネルを形成し、酸化剤側の隆起部は燃料チャネルを形成する。ここで、バイポーラ・プレートの厚さは、ただ1つのチャネルの深さと、隆起部を形成する材料の厚さと和である。これは従来のバイポーラ・プレートの厚さよりもかなり小さい。その結果、従来のバイポーラ・プレートの約2倍の電力密度(kW/L)をもつ燃料電池となる。
本バイポーラ・プレートはまた、従来のバイポーラ・プレートよりもかなり軽量である。再び図1を参照すると、従来のバイポーラ・プレートは、1つのMEAのアノードに接触する燃料側の表面から、別のMEAのカソードに接触する酸化剤側の表面まで延びる、隣接するチャネル間に配置されたプレート材料の大きい固体区域を含む。本バイポーラ・プレートは、燃料チャネルと酸化剤チャネルが整合せず、したがって、従来のバイポーラ・プレート中のプレート材料によって占有される区域内にチャネルが配置されるので、この大きい区域を含まない。その結果、従来のバイポーラ・プレートの2?3倍の比出力(kW/kg)をもつ燃料電池となる。)

(2B)「…The exemplary bipolar plate 12 includes an oxidant side 16, having an alternating series of oxidant channels 18 and oxidant side ridges 20, and a fuel side 22 having an alternating series of fuel channels 24 and fuel side ridges 26. The exemplary bipolar plate 12 is configured such that adjacent oxidant channels 18 and fuel channels 24 are offset from one another in a direction transverse to fuel and oxidant paths defined thereby. Referring more specifically to FIGURE 3, the exemplary bipolar plate 12 has a corrugated construction. There is essentially no overlap between adjacent oxidant channels 18 and fuel channels 24 and the adjacent channels are separated by side walls 28.
The offsetting of the oxidant and fuel channels provides a number of advantages over conventional bipolar plates and fuel cells in which the fuel and oxidant channels are aligned with one another. For example, the thickness of the present bipolar plate is far less than conventional plates because the thickness of the present bipolar plate (FIGURE 3) is less than the sum of the combined depths of two opposing channels and the thickness of the material that separates the opposing channels, which is the case in conventional bipolar plates (FIGURE 1) . As a result, fuel cells incorporating the present bipolar plate will have a power density (kW/L) that is significantly greater than that of conventional fuel cells. The present bipolar plate is also significantly lighter than conventional bipolar plates because it lacks the large solid area located between opposing channels that is found in conventional bipolar plates . The reduced weight results in fuel cells having a specific power (kW/kg) that is significantly greater than conventional fuel cells.」(第5頁第27行?第6頁第25行)
(当審仮訳:…例示的なバイポーラ・プレート12は、酸化剤チャネル18および酸化剤側隆起部20が交互に連なっている酸化剤面16と、燃料チャネル24および燃料側隆起部26が交互に連なっている燃料面22とを含む。例示的なバイポーラ・プレート12は、隣接する酸化剤チャネル18と燃料チャネル24が、それによって形成された燃料と酸化剤の通路が互いに横方向にずれるように構成されている。図3をより詳細に参照すると、例示的なバイポーラ・プレート12は波形の構造を有している。本質的に、隣接する酸化剤チャネル18と燃料チャネル24の間には重なる部分がなく、隣接するチャネルは側壁28によって分離されている。
酸化剤チャネルと燃料チャネルがずれていることにより、燃料チャネルおよび酸化剤チャネルが互いに並んでいる従来のバイポーラ・プレートおよび燃料電池に優るいくつかの利点がもたらされる。例えば、本発明のバイポーラ・プレートの厚さは従来のプレートよりもずっと薄いが、その理由は、本発明のバイポーラ・プレート(図3)の厚さが、従来のバイポーラ・プレート(図1)の場合のように2つの対向するチャネルの深さを合わせたものとこの向き合っているチャネルを分離する材料の厚さとの合計よりも薄いからである。その結果、本発明のバイポーラ・プレートを組み込んだ燃料電池は、従来の燃料電池よりも著しく大きい出力密度(kW/L)を有することになる。また本発明のバイポーラ・プレートは従来のバイポーラ・プレートよりも著しく軽いが、その理由は、従来のバイポーラ・プレートに見られる向き合っているチャネル間に位置付けられた広い中実な領域が欠如しているからである。重量が減少したことにより、従来の燃料電池よりも著しく大きい比出力(kW/kg)を有する燃料電池が得られる。)

(2C)「




(ウ) 引用文献1に記載された発明
ア. (1A)?(1B)には、
良好な電池作動を行うと共に簡単な構成の電池スタックと関連マニホルドを提供するための、第1図に示す電池スタック(1)として、上部サブスタック(1a)と下部サブスタック(1b)とを含む電池スタック(1)であって、
上部サブスタック(1a)において、トップセパレータプレート(3)は、ユニポーラ型であつてその裏面(3b)の内部通路(20)を経て上端単位セル(2a)の陰極に燃料ガスを運び、バイポーラプレート(4)は上端単位セル(2a)の下にあり且次に続く単位セル(2b)の上にあり、このバイポーラプレートは、その上面(4a)には上端単位セル(2a)の陽極に酸化ガスを運ぶ通路(21)及びその下面(4b)には単位セル(2b)の陰極に燃料ガスを運ぶ通路(20)を含み、プレート(5)(6)はバイポーラプレート(4)と同様のバイポーラ型であり、各裏面(5b)(6b)に夫々続いている単位セル(2c)(2d)の陰極に燃料ガス供給用の通路(20)と各表面(5a)(6a)に夫々続いている単位セル(2b)(2c)の陽極に酸化ガス供給用の通路(21)を有し、一方、プレート(7)はユニポーラ型であつて、その上面(7a)にサブスタック(1a)の最下端セル(2d)の陽極に酸化ガス供給用の通路(21)を有することから、上部サブスタック(1a)は、単位セル(2a)?(2d)と関連セパレータプレート(3?7)とで構成される4セルのサブスタックであり、
下部サブスタック(1b)における、セパレータプレート(9?13)は夫々セパレータプレート(3?7)と同じ構成であり、従って下部サブスタック(1b)もプレート(9?13)と単位セル(2e?2h)により一体構成された4セルのサブスタックであり、
更に燃料ガス及び排出燃料ガスを通路(20)の内部的に配設された入口及び出口に連結するための内部マニホルドシステム(31)を備え、そのマニホルドシステムは、燃料ガス通路(20)の配置を酸化ガス通路(21)と反対もしくは対向関係にすることができ、
一方酸化ガス通路の入口端(21a)及び出口端(21b)を夫々共通面(101a)及び(101b)において電池スタック(1)の外方に開口せしめることを可能としている、
電池スタック(1)
が記載されている。

イ. (1C)によれば、第1図におけるバイポーラプレート(4)の構成は、第2図に示すとおり、バイポーラプレート(4)の裏面(4b)には、長手方向内部溝(4c)(4d)があり、溝(4c)は通路(20)の入口端(20a)及び入口側マニホルド(32)(33)の各孔(32a)(33a)と連通し、一方溝(4d)は通路(20)の出口端(20b)及び孔(34a)(35a)を経て出口側マニホルド(34)(35)と連通しており、バイポーラプレート表面(4a)の酸化ガス通路(21)は、プレート端面に延長し且つ燃料ガス通路と同一方向とされている構成であり、また、バイポーラプレート(5)(6)及び(10?12)は、バイポーラプレート(4)と同様構成である。

ウ. そして、(1D)によれば、第1図の電池スタック(1)において、燃料ガスは第3図の分配プレート(16)の中心室(16e)を経てマニホルドシステム(31)に供給され、各プレート面(3b)(4b)(5b)(6b)(9b)(10b)(11b)(12b)において、ガスの一部は長手方向入口溝〔即ち(4c)など〕に連通し、このような連通したガスはついで各プレートの通路(20)に入口溝から通過し、電気化学反応を行い、かゝる反応の結果排出されたガスはついで、夫々長手方向出口溝〔即ち(4d)など〕を経て出て、各出口溝から排ガスは、出口管(34)(35)のいづれか一方もしくは両方に連通し、第4図の収集プレート(15)のスタック外通路への孔(15e)に送られ、そのような燃料ガスの供給中、酸化ガスは入口マニホルド(41)からスタック面(101a)に共通の通路(21)の入口孔(21a)に供給され、この酸化ガスは通路(20)の燃料ガスと全く反対方向の通路(21)を通過し、電気化学反応を行い、酸化排気ガスは共通面(101b)を経てセルから出て行き共通出口マニホルド(42)により集められる。

エ. ここで、(1B)?(1D)では、バイポーラプレート(4)における(4a)、(4b)、および、通路(21)における(21a)についての名称が統一して使用されていないので、便宜上、(4a)、(4b)の名称は、それぞれ、表面(4a)、裏面(4b)に、(21a)の名称は、入口端(21a)に、統一して使用することとした。

オ. また、(1E)の第1?2図によれば、上部サブスタック(1a)と下部サブスタック(1b)は、いずれも、積層された複数の板状の単位セル(2a)?(2d)、(2e)?(2h)と、それら単位セルの間にそれぞれ配置された、複数の板状のバイポーラプレート(4)?(6)、(10)?(12)とを備えていること、入口側マニホルド(32)(33)、及び、出口側マニホルド(34)(35)は、いずれも、電池スタック(1)の角に配置されており、かつ、積層方向に延びていること、および、板状のバイポーラプレート(4)の裏面(4b)の複数の通路(20)は互いに平行であり、また、その表面(4a)の複数の通路(21)も互いに平行であることが見て取れる。

カ. そして、これらの記載事項及び図示内容を本件補正発明の記載ぶりに照らして整理すると、引用文献1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 良好な電池作動を行うと共に簡単な構成の電池スタックと関連マニホルドを提供するための、上部サブスタック(1a)と下部サブスタック(1b)とを含む電池スタック(1)であって、上部サブスタック(1a)と下部サブスタック(1b)は、いずれも、積層された複数の板状の単位セル(2a)?(2d)、(2e)?(2h)と、それら単位セルの間にそれぞれ配置された、複数の板状のバイポーラプレート(4)?(6)、(10)?(12)とを備えており、
上部サブスタック(1a)においては、バイポーラプレート(4)は単位セル(2a)の下にあり且次に続く単位セル(2b)の上にあり、このバイポーラプレートは、その表面(4a)には単位セル(2a)の陽極への酸化ガス供給用の通路(21)及びその裏面(4b)には単位セル(2b)の陰極への燃料ガス供給用の通路(20)を含み、バイポーラプレート(5)(6)の各裏面(5b)(6b)に夫々続いている単位セル(2c)(2d)の陰極への燃料ガス供給用の通路(20)と各表面(5a)(6a)に夫々続いている単位セル(2b)(2c)の陽極への酸化ガス供給用の通路(21)を有し、
下部サブスタック(1b)における、バイポーラプレート(10)?(12)は夫々バイポーラプレート(4)?(6)と同じであり、従って下部サブスタック(1b)でもバイポーラプレート(10)?(12)は単位セル(2e)?(2h)と一体構成されており、
更に燃料ガス及び排出燃料ガスを通路(20)の内部的に配設された入口及び出口に連結するための内部マニホルドシステム(31)であって、そのシステムにおける入口側マニホルド(32)(33)、及び、出口側マニホルド(34)(35)は、いずれも、電池スタック(1)の角に配置されており、かつ、積層方向に延びている、内部マニホルドシステム(31)を備えており、
バイポーラプレート(4)の構成は、
そのバイポーラプレートの裏面(4b)には、長手方向内部溝(4c)(4d)があり、溝(4c)は互いに平行である複数の燃料ガス供給用の通路(20)の入口端(20a)及び入口側マニホルド(32)(33)の各孔(32a)(33a)と連通し、一方溝(4d)は互いに平行である複数の燃料ガス供給用の通路(20)の出口端(20b)及び孔(34a)(35a)を経て出口側マニホルド(34)(35)と連通しており、
そのバイポーラプレートの表面(4a)には、互いに平行である複数の酸化ガス供給用の通路(21)が入口端(21a)から出口端(21b)まで延長されており、且つ燃料ガス供給用の通路(20)と同一方向とされており、
酸化ガス通路の入口端(21a)及び出口端(21b)は夫々電池スタック(1)の共通面(101a)及び(101b)において外方に開口されており、
バイポーラプレート(5)(6)、(10)?(12)は、バイポーラプレート(4)と同様構成である、
電池スタック(1)。」


(エ) 本件補正発明と引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比するに、引用発明の「積層された複数の板状の単位セル(2a)?(2d)、(2e)?(2h)」、「板状のバイポーラプレート(4)?(6)、(10)?(12)」、「入口側マニホルド(32)(33)」「出口側マニホルド(34)(35)」、「互いに平行である複数の燃料ガス供給用の通路(20)」、「互いに平行である複数の酸化ガス供給用の通路(21)」、「電池スタック(1)」は、それぞれ、本件補正発明の「積層された多数の板状の燃料電池要素(2)」、「板状のセパレータ(3)」、「燃料ガス(13)を供給するための内部の供給通路(4)」、「排ガス(14)を排出するための内部の排出通路(5)」、「燃料ガス(13)を案内するための、平行に延びる多数の縦方向流路(6)」、「酸化剤用の複数の流路」、「燃料電池スタック」に相当する。
そして、引用発明における、「バイポーラプレート(4)の構成は、そのバイポーラプレートの裏面(4b)には、長手方向内部溝(4c)(4d)があり、溝(4c)は互いに平行である複数の燃料ガス供給用の通路(20)の入口端(20a)及び入口側マニホルド(32)(33)の各孔(32a)(33a)と連通し、一方溝(4d)は互いに平行である複数の燃料ガス供給用の通路(20)の出口端(20b)及び孔(34a)(35a)を経て出口側マニホルド(34)(35)と連通しており、バイポーラプレート(5)(6)、(10)?(12)は、バイポーラプレート(4)と同様構成である」ことは、本件補正発明における、「各々の前記板状のセパレータは第1の表面上に、前記第1の表面上に供給された前記燃料ガス(13)を案内するための、平行に延びる多数の縦方向流路(6)と、前記縦方向流路(6)の第1の端部と前記供給通路(4)を接続する分配領域(7)と
、前記縦方向流路(6)の第2の端部であって、前記第1の端部と反対方向にある端部である第2の端部と前記排出通路(5)を接続する捕集領域(8)とを備え」ることに該当し、また、引用発明における、「バイポーラプレート(4)の構成は、そのバイポーラプレートの表面(4a)には、互いに平行である複数の酸化ガス供給用の通路(21)が入口端(21a)から出口端(21b)まで延長されており、且つ燃料ガス供給用の通路と同一方向とされており、酸化ガス通路の入口端(21a)及び出口端(21b)は夫々電池スタック(1)の共通面(101a)及び(101b)において外方に開口されており、バイポーラプレート(5)(6)、(10)?(12)は、バイポーラプレート(4)と同様構成である」ことは、本件補正発明における、「各々の前記板状のセパレータは、前記第1の表面の反対側の第2の表面上に、前記縦方向流路(6)と並行に延びた、前記第2の表面上に供給された酸化剤用の複数の流路であって、前記酸化剤(15)を外部から供給するために燃料電池スタック(1)の側面に開放している酸化剤用の流路を備える、酸化剤ガイドを備え」ることに該当することは明らかである。

そうすると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
積層された多数の板状の燃料電池要素(2)を備え、この燃料電池要素の間にそれぞれ板状のセパレータ(3)が配置され、燃料ガス(13)を供給するための内部の供給通路(4)が設けられ、排ガス(14)を排出するための内部の排出通路(5)が設けられている燃料電池スタック(1)において、
各々の前記板状のセパレータは第1の表面上に、
前記第1の表面上に供給された前記燃料ガス(13)を案内するための、平行に延びる多数の縦方向流路(6)と、
前記縦方向流路(6)の第1の端部と前記供給通路(4)を接続する分配領域(7)と、
前記縦方向流路(6)の第2の端部であって、前記第1の端部と反対方向にある端部である第2の端部と前記排出通路(5)を接続する捕集領域(8)と
を備え、
各々の前記板状のセパレータは、前記第1の表面の反対側の第2の表面上に、
前記縦方向流路(6)と並行に延びた、前記第2の表面上に供給された酸化剤用の複数の流路であって、前記酸化剤(15)を外部から供給するために燃料電池スタック(1)の側面に開放している酸化剤用の流路を備える、酸化剤ガイド
を備える、
燃料電池スタック。

<相違点>
相違点A
燃料ガス(13)を供給するための内部の供給通路(4)、および、排ガス(14)を排出するための内部の排出通路(5)が、本件補正発明では、いずれも「1つのみ」で、かつ、「前記1つの供給通路(4)と前記1つの排出通路(5)は燃料電池スタックに斜めに対向する角に配置されており、かつ、積層方向に延びている」のに対して、引用発明では、いずれも、燃料電池スタックの角に配置されており、かつ、積層方向に延びているものの、「1つのみ」に限定されてはいないし、燃料電池スタックの角のうち、「斜めに対向する角」に配置に限定されてはいない点。

相違点B
各々の板状のセパレータ上の縦方向流路と酸化剤用の流路は、本件補正発明では、「互いにずれている」のに対して、引用発明では、同一方向とされているものの、互いにずれているか否かは明らかでない点。


(オ) 相違点についての判断
ア. まず、相違点Aにつき検討するに、引用発明では、良好な電池作動を行うと共に簡単な構成の電池スタックと関連マニホルドを提供するため、燃料ガスを供給するための内部の供給通路、および、排ガスを排出するための内部の排出通路が、いずれも、燃料電池スタックの角に配置されており、かつ、積層方向に延びているところ、燃料電池スタックにおいて、燃料ガスの供給通路、および、排ガスの排出通路を1つずつとし、それぞれの通路を燃料電池スタックの角のうち、斜めに対向する角に配置することは周知の技術事項である(特開平7-296831号公報(原査定時の引用文献5)の【0014】、【図3】、実願平2-17410号(実開平3-109266号)のマイクロフィルムの第5?8頁、第1?2図、特開平6-188022号公報の【0021】、【図4】、特開平6-290795号公報の【0018】、【図1】、特開平11-16590号公報の【0008】?【0009】、【0013】、【図5】参照。)し、その技術事項により、燃料ガスを板状の燃料電池要素上に均一に流すことが可能であることは、当業者にとっては、自明の事項である(必要であれば、特開平6-188022号公報の【0021】、【図4】参照。)。

してみると、引用発明において、燃料電池スタックの角に配置されており、かつ、積層方向に延びている、燃料ガスを供給するための内部の供給通路、および、排ガスを排出するための内部の排出通路を、構成のさらなる簡単化のために、斜めに対向する角に配置されている、1つずつに限定して、相違点Aを解消することは、当業者が容易になし得る技術事項にすぎない。

イ. 次に、相違点Bにつき検討するに、引用文献2の(2A)?(2C)によれば、従来のバイポーラ・プレートにおける燃料チャネルおよび酸化剤チャネルは、引用文献2の図1に示すように、プレートの対向する表面上に形成されていたため、1つのMEAのアノードに接触する燃料側の表面から、別のMEAのカソードに接触する酸化剤側の表面まで測定した、従来のバイポーラ・プレートの厚さは、対向するチャネルの深さと、チャネルを分離する材料の厚さとを組み合わせた厚さに等しく、また、従来のバイポーラ・プレートは、1つのMEAのアノードに接触する燃料側の表面から、別のMEAのカソードに接触する酸化剤側の表面まで延びる、隣接するチャネル間に配置されたプレート材料の大きい固体区域を含んでいたのに対して、引用文献2の図3に示すような、バイポーラ・プレート12において、燃料と酸化剤のチャネルが互いに横方向にずれるように構成すると、バイポーラ・プレートの厚さは、ただ1つのチャネルの深さと、隆起部を形成する材料の厚さと和だけにでき、これによって、従来のバイポーラ・プレートの厚さよりもかなり小さくなり、その結果、バイポーラ・プレート12を組み込んだ燃料電池は、従来の燃料電池よりも著しく大きい出力密度(kW/L)を有するし、また、従来のバイポーラ・プレートが含んでいたプレート材料の大きい固体区域がなくなるので、従来のバイポーラ・プレートよりもかなり軽量にでき、その結果、バイポーラ・プレート12を組み込んだ燃料電池は、従来の燃料電池よりも著しく大きい比出力(kW/kg)を有することとなるということが公知の技術事項である。

ここで、上記の公知の技術事項における、「バイポーラ・プレート」、「燃料チャネル」、「酸化剤チャネル」が、それぞれ、本件補正発明における、「板状のセパレータ(3)」、「縦方向流路(6)」、「酸化剤用の複数の流路」に相当することは明らかである。

してみると、引用発明では、各々の板状のセパレータ上の縦方向流路と酸化剤用の流路は同一方向とされているところ、このようなセパレータに上記の公知の技術事項を適用して、引用文献2の図3に示すように、板状のセパレータにおいて、隣接する酸化剤用の複数の流路と縦方向流路が互いに横方向にずれるように構成して、相違点Bを解消することも、当業者が容易になし得る技術事項にすぎない。

ウ. そして、本件補正発明による、燃料電池要素において燃料ガス濃度が極めて均一に分布することができる等の効果についても、引用文献1?2の記載、及び、周知の技術事項からみて、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。


(カ) 補足 - 審判請求書での主張に対して
(A)請求人の主張
請求人は、平成24年10月22日付けの審判請求書において、「
1)引用文献5(特開平7-296831号公報)に開示される供給通路と排出通路の対向配置に、引用文献1(特開昭59-12572号公報)に開示される平行な燃料ガス及び酸化ガス流路を組み合わせるためには、引用文献5は直交流システムを開示するので、引用文献5の図3に示す酸化ガス流路12aを90度回転させるように配置を変更することが必要であるが、その場合、引用文献5における供給流路1a/B1及び排出流路1a/B2(図3に示すように、両方共にセパレータを貫通する貫通穴である)が、回転された酸化ガス流路12aをさえぎって分断する。そのため、引用文献5が本願発明に最も近い発明であると考慮して、更に引用文献1を参考にすることにより、当業者が本件補正発明を容易に想到することは出来ない。

2)引用文献1(特開昭59-12572号公報)では、図1及び2に示すように、入口側マニホルド32、33(32a、33a)と出口側マニホルド34、35(34a、35a)を備え、入口側マニホルド32と33(32a、33a)は溝4cで連通されており、出口側マニホルド34と35(34a、35a)は溝4dで連通されている。引用文献1では、燃料ガスは2つの入口側マニホルド32と33から供給され、溝20を経て出口側マニホルド34と35から排出される(引用文献1の3ページ左下欄13行目から右下欄4行目)。引用文献1を本願発明に最も近い発明であると考えたとしても、1つのみの供給通路と1つのみの排出通路が対向配置させるようにするためには、引用文献1の図2において、2つの供給流路32aと33aのいずれかを、斜めに対向する角に配置された対応する排出流路35a又は34aと共に除外する必要があるが、引用文献1ではこれらの複数の供給通路と排出通路の構成が任意に変更可能であるとは示唆されていないので、これらの通路のいずれかを対向配置になるように削除することは引用文献1の開示内容と明らかに反する。よって、引用文献1の開示に引用文献5を参考にしても、当業者が本件補正発明を容易に想到することは出来ない。

3)本件補正発明は、対向流システムにおいて、1つの供給通路と1つの排出通路が燃料電池スタックに斜めに対向する角に配置することにより、燃料電池要素において燃料ガス濃度が極めて均一に分布することができるという格別な効果がある(本願明細書の段落0031)。この効果は、このような配置を有しない対向流システムを採用する引用文献1では得られないし、また、直交流システムを採用する引用文献5ではこのような効果について開示されていない。」旨主張している。

(B)当審の見解
しかし、請求人の上記主張は、以下の理由により、採用できない。
ア. 上記主張のうち、1)の主張は、上記「(オ)ア.」において、周知の技術事項が示されている文献の一つとして掲げた、特開平7-296831号公報(以下、「前記公報」という。)に記載されている技術事項について、前記公報に記載されているのは、直交流システムについての開示であるので、対向流である、引用発明に組み合わせることはできないというものである。
しかし、前記公報に記載されているのは、その請求項1の記載等からして明らかな如く、燃料ガスと空気の混合を完全に防止するため、酸化剤ガスの分配は外部マニホールド方式とし、燃料ガスの分配は内部マニホールド方式とするという発明であり、その図3に示す、酸化剤ガスと燃料ガスを直交流にするという技術事項は、前記公報の【0010】?【0017】の記載からして明らかな如く、好ましい実施の形態にすぎず、前記公報記載の発明は直交流以外の実施の形態も含まれていると解される。
よって、前記公報の記載をその図3に示す直交流システムについての開示のみであることを根拠とする、1)の主張は当を得た主張ではない。

イ. 上記主張のうち、2)の主張は、上記「(イ)[1]」の引用文献1について、燃料ガスは2つの入口側マニホルド32と33から供給され、溝20を経て出口側マニホルド34と35から排出されることが記載されているところ、引用文献1ではこれらの複数の供給通路と排出通路の構成が任意に変更可能であるとは示唆されていないので、これらの通路のいずれかを対向配置になるように削除することは引用文献1の開示内容と明らかに反するというものである。
しかしながら、引用文献1には、上記「(イ)(1D)」にも示したとおり、「…反応の結果排出されたガスはついで、夫々長手方向出口溝〔即ち(4d)など〕を経て出る。各出口溝から排ガスは、…出口管(34)(35)のいづれか一方もしくは両方に連通している。」(第4頁左上欄第6?12行)との記載があり、出口管(34)(35)のいづれか一方を削除できることが開示されている上、そもそも、引用文献1記載の発明は、上記「(イ)(1A)」にも示したとおり、「良好な電池作動を行うと共に簡単な構成の電池スタックと関連マニホルドを提供する」ことを目的としているものであるから、引用文献1には、燃料ガスは2つの入口側マニホルド32と33から供給され、溝20を経て出口側マニホルド34と35から排出されることが記載されているところ、これらの通路のいずれかを対向配置になるように削除して構成のさらなる簡単化を図ることは、引用文献1の開示内容には反しないと解される。
よって、2)の主張も当を得た主張ではない。

ウ. 上記主張のうち、3)の主張は、本願明細書【0031】における、「図6では、供給通路と排出通路を形成するために設けられた切欠きがセパレータ3と燃料電池要素の対向する角の範囲に設けられている。この配置構造は、燃料電池要素において燃料ガス濃度がきわめて均一に分布する点が有利である。というのは、各縦方向流路に関して、進む距離と圧力分布が同じであるからである。」との記載に基づき、格別の効果があるというものである。
しかしながら、上記「(オ)ウ.」で指摘したとおり、本件補正発明による効果は、引用文献1?2の記載、及び、周知の技術事項からみて、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。
よって、3)の主張も当を得た主張ではない。


(キ) 小括
よって、補正事項bにより特定される発明は、引用発明、引用文献2記載の発明および周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、補正事項bを含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、「改正前」という。)の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


III. まとめ
以上のとおり、補正事項aを含む本件補正は、改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に、そうでないとしても、補正事項bを含む本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 原査定の理由についての検討
I.本件発明
本願の平成24年10月22日付けの手続補正は、上記「第2 III.」のとおり、却下されることとなった。
したがって、本願の発明は、平成23年12月 6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、本願の請求項1に係る発明は、上記「第2 I.(A)」に【請求項1】として示すとおりのものである(以下、本願の請求項1に係る発明を「本件発明」という。)

II.原査定の理由の概要
原審における拒絶査定の理由の一つは、概略、以下のものである。

本件発明は、その優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1?2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:特開昭59-12572号公報
刊行物2:国際公開第01/13449号


III. 刊行物に記載された事項
刊行物1は、上記「第2 II.(2-2)(イ)[1]」の「引用文献1」と同じ文献であり、その記載事項は、上記「第2 II.(2-2)(イ)」に記載の「(1A)」?「(1E)」と同様である。
刊行物2は、上記「第2 II.(2-2)(イ)[2]」の「引用文献2」と同じ文献であり、その記載事項は、上記「第2 II.(2-2)(イ)」に記載の「(2A)」?「(2C)」と同様である。

IV. 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、上記「第2 II.(2-2)(ウ)」で検討したとおり、上記「第2 II.(2-2)(ウ)カ.」記載のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。


V. 本件発明と引用発明との対比
本件発明と引用発明1とを対比するに、上記「第2 II.(2-2)(エ)」と同様の検討により、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違するといえる。

<一致点>
積層された多数の板状の燃料電池要素(2)を備え、この燃料電池要素の間にそれぞれ板状のセパレータ(3)が配置され、燃料ガス(13)を供給するために少なくとも一つの内部の供給通路(4)が設けられ、排ガス(14)を排出するために少なくとも一つの内部の排出通路(5)が設けられ、この供給通路と排出通路が積層方向に延びている燃料電池スタック(1)において、
各々の前記板状のセパレータは第1の表面上に、
前記第1の表面上に供給された前記燃料ガス(13)を案内するための、平行に延びる多数の縦方向流路(6)と、
前記縦方向流路(6)の第1の端部と前記供給通路(4)を接続する分配領域(7)と、
前記縦方向流路(6)の第2の端部であって、前記第1の端部と反対方向にある端部である第2の端部と前記排出通路(5)を接続する捕集領域(8)と
を備え、
各々の前記板状のセパレータは、前記第1の表面の反対側の第2の表面上に、
前記縦方向流路(6)と平行に延びた、前記第2の表面上に供給された酸化剤用の複数の流路であって、前記酸化剤(15)を外部から供給するために燃料電池スタック(1)の側面に開放している酸化剤用の流路を備える、酸化剤ガイド
を備えている、
燃料電池スタック。

<相違点>
相違点1
各々の板状のセパレータ上の縦方向流路と酸化剤用の流路は、本件発明では、「互いにずれている」のに対して、引用発明では、同一方向とされているものの、互いにずれてはいない点。


VI. 相違点についての判断
相違点1は、上記「第2 II.(2-2)(エ)」の相違点Bと同じであり、上記「第2 II.(2-2)(オ)イ.」と同様の検討により、引用発明に引用文献2記載の公知の技術事項を適用して、相違点1を解消することも、当業者が容易になし得る技術事項にすぎない。


VII. 小括
よって、本件発明は、引用発明および引用文献2記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-29 
結審通知日 2013-08-30 
審決日 2013-09-13 
出願番号 特願2006-501506(P2006-501506)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 康  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 小川 進
木村 孔一
発明の名称 燃料電池スタック  
代理人 松浦 憲三  

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