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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1283981
審判番号 不服2010-24586  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-01 
確定日 2014-01-20 
事件の表示 特願2008-327291「コナジラミエクジソン受容体核酸、ポリペプチド、およびそれらの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月23日出願公開、特開2009-159957〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2002年(平成14年)2月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年9月26日、米国)を国際出願日とする特願2003-530838号の一部を特許法第44条第1項の規定により平成20年12月24日に新たな特許出願としたものであって、平成21年8月25日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成22年6月29日付けで拒絶査定がされたところ、同年11月1日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

第2 平成22年11月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年11月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成22年11月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は以下のように補正された(下線部は補正前からの補正箇所を示す。)。

補正前:
「【請求項1】
対象となる遺伝子の発現を制御する遺伝子スイッチであって、
その発現が変調されるべき遺伝子と関連する応答エレメントを認識するDNA結合ドメイン、および
配列番号:1のエクジソン受容体のリガンド結合ドメインを含むリガンド結合ドメインを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に機能的に連結したプロモーターを含む第1遺伝子発現カセット
を含む、遺伝子スイッチ。」

補正後:
「【請求項1】
対象となる遺伝子の発現を制御する遺伝子スイッチであって、
その発現が変調されるべき遺伝子と関連する応答エレメントを認識するDNA結合ドメイン、および
配列番号:1のエクジソン受容体のリガンド結合ドメインを含むリガンド結合ドメインを含むキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に機能的に連結したプロモーターを含む第1遺伝子発現カセット
を含む、遺伝子スイッチ。」

2.補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1の発明特定事項である「ポリペプチド」を「キメラポリペプチド」に限定するものであって、補正前後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.に「補正後」として記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
ア.引用例1
原査定の拒絶の理由で引用例1として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるEur. J. Biochem. (1997) Vol. 248, p. 856-863(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は、当審で付与した。)。
(i) 「昆虫の変態は主に2種類のホルモンにより調節されている。そのうち、20-ヒドロキシエクジソン等のエクジステロイドは脱皮過程を誘導し、これに対して幼虫ホルモンは変態を抑制し、このようにして脱皮の性質を決定している。ステロイド類、チロイドホルモン類、レチノイド類、ビタミンD3を含む、発生に関わる多くの調節因子と同様に、エクジステロイド類は、リガンド誘導性の因子として働く核受容体に結合することによって、直接的に遺伝子の転写を制御する。核受容体類は、高度に保存されたDNA結合ドメイン(DBD)とリガンド結合ドメイン(LBD)を有する共通のモジュール構造を擁する転写因子のファミリーに属している。
昆虫においては、そのエクジステロイド受容体は、しばしばエクジソン受容体(EcR)とも呼ばれ、高等双翅目であるDrosophila melanogaster(キイロショウジョウバエ)で、最初にクローニングおよび機能解析をされた。しかしながら、より最近の研究は、活性な受容体がEcRタンパク質と、別の受容体ファミリーメンバーであるultraspiracle(USP)からなるヘテロダイマーであることを示した。さらに複数のEcRホモログが、他の2種の双翅目すなわちChironomus tentans(ユスリカ)とAedes aegypti(ネッタイシマカ)、および3種の鱗翅目、すなわちBombyx mori(カイコガ)、Manduca sexta(タバコスズメガ)、Choristoneura fumiferana(トウヒノシントメハマキ)から同定された。全ては、強いアミノ酸の相同性を、特にDBDとLBD領域内において共有する。」(856頁左欄1行?右欄8行)

(ii)「T. molitor(チャイロコメノゴミダマシムシ)EcRのゲノムDNAの分離。DBDは核内受容体スーパーファミリーの全てのメンバーにおいて、特に異なる種の相同なタンパク質の間で顕著に、最も保存された特徴を持つ。それゆえ、ショウジョウバエのEcRのcDNAの、DBDとその周辺のアミノ酸をコードする配列を含む、EcoRI-KpnIの637塩基の断片をTenebrio(ゴミダマシムシ)のゲノムライブラリの探索に使用した。約3ゲノム等量に対する低ストリンジェンシーでの探索で3つの陽性クローンを得た。・・・最終的に0.8k塩基のハイブリダイズするバンドが分離および再クローニングされた。・・・この0.8k塩基のゴミダマシムシのゲノム断片は、ゴミダマシムシのcDNAライブラリーの探索に使用された。
ゴミダマシムシのEcRのcDNAの分離。6つの強くハイブリダイズするクローンが、400000プラーク単位の探索から分離された。これらクローンの配列解析により、その5′端が異なる2つのタイプからなることが示された。」(857頁右欄40行?859頁左欄4行)

(iii)「ゴミダマシムシのEcRの推定アミノ酸配列と他の昆虫のEcRの比較は、DBDとLBDの両方における高度な同一性を示した(図2)。・・・そのDBDとLBDはキイロショウジョウバエEcRの各々のドメインに対し、89%と61%のアミノ酸同一性を示し、その他の昆虫EcRの相当するドメインに対しても類似の同一性を示した。」(第859頁右欄第8行?第860頁左欄第1行)

そして、第858頁の図1Aには、ゴミダマシムシEcRの核酸配列と該核酸にコードされるアミノ酸配列が並記され、DBDとLBDには下線が付記されている。また、第859頁の図2には、ゴミダマシムシと、他の5つの昆虫種(キイロショウジョウバエ、ネッタイシマカ、タバコスズメガ、カイコガ、トウヒノシントメハマキ)のEcRのアミノ酸配列が並記して比較されており、DBDとLBDには下線が付記されている。

そうすると、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ゴミダマシムシ由来のエクジソン受容体をコードするポリヌクレオチド」(以下、「引用発明」という。)

イ.引用例2
原査定の拒絶の理由で引用例2として引用された本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第01/02436号(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は、当審で付与した。)。
(i)「実施例6
L. cuprina(ヒツジキンバエ)エクジソン受容体のEcRポリペプチドをコードするcDNA分子のクローニングおよびキャラクタリゼーション
増幅プライマーデザインについての論理的説明
プライマーRdna3(配列番号23)およびRdna4(配列番号24)のヌクレオチド配列は、D. melanogaster(キイロショウジョウバエ)およびC. tentans(ミドリキユスリカ)エクジソン受容体のEcRポリペプチドサブユニットのDNA結合ドメインの間において保存されているアミノ酸配列から得た。・・・
増幅プライマーおよびPCR条件
L.cuprinaエクジソン受容体のEcRポリペプチドサブユニットのDNA結合ドメインをコードする、105塩基対のDNAフラグメントを、以下の縮重プライマー:
Rdna3(EcoRl部位を有する32マー): 5'-CGGAATTCCGCCTCTGGTTA (C/T) CA (C/T) TA (C/T) AA (C/T) GC 3' (即ち配列番号23);
および
Rdna4(BamHl部位を有する32マー): 5'-CGCGGATCC (G/A) CACTCCTGACACTTTCG (C/T) CTCA 3' (即ち配列番号24)
を用いるPCRによってL. cuprinaゲノムから増幅した。・・・
L. cuprinacDNAライブラリーの構築およびスクリーニング
・・・
調製したcDNAライブラリーを、それぞれのライブラリーから500,000プラークをハイボンドNメンブレン(Amersham)上に拾い上げ正副2つとし、プライマーRdna3およびRdna4(以上を参照のこと)を用いて産生した^(32)Pで標識した増幅産物に対して、ストリンジェンシーの低い条件下でこれをハイブリダイズさせることによってスクリーニングした。・・・
単離したcDNAクローンのヌクレオチド配列は、USBシークエンス バージョン2.5キットを用いて、得られた。得られたシークエンスデータは、561bpおよび1600bpのcDNAがL. cuprinaエクジソン受容体のEcRポリペプチドサブユニットの重要なDNA結合ドメインおよびホルモン結合ドメインを含むアミノ酸配列をコードする一方で、3400bpのcDNAがL. cuprinaエクジソン受容体のEcRポリペプチドサブユニットをコードする完全な2274bpオープンリーディングフレームを含むことを示した。従って、この3400bpのcDNAは全長のcDNAクローンである。」(56頁9行?58頁31行)

(ii)「実施例23
B. tabaci (タバココナジラミ)エクジソン受容体のEcRポリペプチドをコードするcDNA分子のクローニングおよび特徴付け
ハイブリダイゼーションプローブ調製 B. tabaci エクジソン受容体のEcRポリペプチドサブユニットのDNA結合ドメインをコードする101bpDNA断片を、本質的に本明細書中上に記載のように、縮重プライマーRdna3(配列番号:23)およびRdna4(配列番号:24)を用いるPCRにより、タバココナジラミゲノムから増幅した。・・・増幅されたハイブリダイゼーションプローブのヌクレオチド配列を自動蛍光色素ターミネーター配列決定を用いて得た。これを本明細書中配列番号:41として記載する。この遺伝子断片由来のアミノ酸配列を配列番号:42に提供する。」(87頁24行?88頁13行)

ウ.引用例3
原査定の拒絶の理由で引用例3として引用された本願優先日前に頒布された刊行物である特表平11-500922号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
(i)「1.a)第1リガンド結合ドメインを含む第1受容体ポリペプチドをコードする第1受容体発現カセット;
b)第2リガンド結合ドメインを含む第2受容体ポリペプチドをコードする第2受容体発現カセット;
c)標的ポリペプチドをコードする標的発現カセット
を含んでなる、トランスジェニック植物細胞または植物体およびその後代。・・・
7.a)該第1および第2受容体ポリペプチドを該植物体中で発現させ;
b)該植物体を該第1または第2受容体ポリペプチドのリガンド結合ドメインと相補的な1またはそれ以上の化学リガンドと接触させ、それによって、該化学リガンドの存在下、該受容体ポリペプチドが該標的ポリペプチドの発現を活性化するものである、
ことからなる、請求の範囲第1項に記載の植物体中での遺伝子発現を制御する方法。
8.該第1および第2受容体ポリペプチドが核内受容体のクラスIIエステロイドおよびチロイドホルモンスーパーファミリーである、請求の範囲第7項に記載の方法。
9.該第1受容体ポリペプチドがエクジソン受容体である、請求の範囲第8項に記載の方法。・・・
12.該第1受容体ポリペプチドが更に異種DNA結合ドメインを含む、請求の範囲第9項に記載の方法。
13.該DNA結合ドメインが酵母のGAL4タンパク質由来のDNA結合ドメインである、請求の範囲第12項に記載の方法。」(特許請求の範囲第1、7?9、12、13項)

(ii)「本発明では標的ポリペプチドの発現を活性化するためにキメラ受容体ポリペプチドを使用できる。受容体ポリペプチドの3つのドメインのうち1またはそれ以上を、それらのトランス活性化効果、DNA結合効果または化学リガンド結合効果に基づき異種源から選択できる。このキメラ受容体ポリペプチドのドメインは、類似の転写調節機能を持つ植物、昆虫および哺乳動物などの生物体から得ることもできる。本発明の一実施態様では、これらのドメインを核内受容体のステロイドおよびチロイドホルモンスーパーファミリーの他のメンバーから選択する。ここに与えたキメラ受容体ポリペプチドは、最適トランス活性化活性、選択した化学リガンドの相補的結合および特異的応答配列の認識を組み合わせるという有利点を提供する。このようにして、特定の目的に適したキメラポリペプチドを構築できる。」(15頁9行?15行)

(iii)「受容体発現カセットの5'調節領域は、更に、植物組織および細胞体中での発現を可能にするプロモーターを含む。」(14頁15行?16行)

(iv)「第1および第2の受容体ポリペプチドは互いに別個である。この植物細胞は、更に、標的ポリペプチドをコードする標的発現カセットを含み、ここで、第1または第2リガンド結合ドメインに相補的な化学リガンドの存在下で第1および第2受容体ポリペプチドにより、応答配列(RE)付きプロモーターを含む標的発現カセットの5'調節領域が活性化されると、標的ポリペプチドが発現する。」(10頁13行?17行)

(v)「受容体ポリペプチドは、リガンド結合ドメイン、DNA結合ドメインおよびトランス活性化ドメインから構成される。DNA結合ドメインは、受容体ポリペプチドを標的発現カセットの5'調節領域にその応答配列部位で結合させるものである。受容体ポリペプチドのリガンド結合ドメインは、存在するとき、相補的化学リガンドと結合する。化学リガンドが結合することにより、受容体ポリペプチドにコンホーメンション変化を生じさせ、トランス活性化ドメインが標的発現カセットのコード配列の転写に影響を及ぼすこととなり、その結果、標的ポリペプチドが生産される。」(13頁下から2行?14頁6行)

(vi)「実施例3:GAL4由来のDNA結合ドメインおよびEcR由来のリガンド結合ドメインを有する受容体発現カセットの構築
EcRのDNA結合ドメインをN-末端位置で融合させたGAL4のDNA結合ドメインで置き換えた受容体発現カセットを構築した。キイロショウジョウバエのEcRのDNAコード領域は、実施例1に記載したようにして得られた。GAL4のDNA結合ドメインのコード配列は、プラスミドpMA210、MaおよびPrashne,Cell,48:847(1987)からサブクローン化した。
GAL4-EcRキメラ受容体ポリペプチドをコードする受容体発現カセットは、GAL4のDNA結合ドメインをEcRのリガンド結合ドメインおよびカルボキシ末端に融合させることにより構築した。・・・
pSK+中のGAL4のDNA結合ドメインとpKS+中のEcR330-878部分にフランキングするポリリンカーのBamHI部位を用いて完全な融合物35S/GAL4-EcR330-878を創製した。これらのコード配列をフランキングEcoRI制限部位の使用により単子葉植物発現ベクターpMF6(実施例1に記載)にライゲートした。
この受容体発現カセットを35S/GAL4-EcR330-878と表す。」(36頁下から2行?37頁下から2行)

(vii)「

」(図3)

(viii)「受容体ポリペプチドのリガンド結合ドメインは、標的発現カセットの5’調節領域を化学リガンドの存在に応答して活性化する手段を提供するものである。キイロショウジョウバエ由来のエクジソン受容体(EcR)はリガンド結合ドメインに結合する相補的化学リガンドを同定した受容体ポリペプチドの一例である。ステロイドホルモンであるエクジソンは組織発生において協調変化(coordinate changes)を誘発する結果、変態を引き起こすものであり、さらに、エクジソンはEcRに結合することが示されている。Koelle等、Cell 67:59-77,1991。エクジソンの植物産生類似体であるムリステロンもまた、EcRのリガンド結合ドメインに結合する。非ステロイド性エクジソンアゴニストRH5849(Wing,Science 241:467-469(1988))およびテブフェノジドなどの他の化学物質、後者は殺虫剤MIMIC(登録商標)として知られている、もまたEcRのリガンド結合ドメインに対する化学リガンドとして働くものである。」(16頁2行?13行)

(ix)「実施例13:植物細胞における標的ポリペプチドの受容体ポリペプチドEcRおよびUSP活性化発現
実施例12の形質転換法を用いて、受容体発現カセット35S/EcR(実施例1)、受容体発現カセット35S/USP(実施例2)および標的発現カセット(EcRE)5-Bz1/Luc(実施例11)をトウモロコシ細胞に同時形質転換させた(図2参照)。形質転換細胞を化学リガンドとして10μMテブフェノジドまたは2μMムリステロンの存在下で約48時間インキュベーションした。ルシフェラーゼアッセイは、実施例12に記載のようにして行った。結果は、表1に与える。
表1:

」(44頁3行?下から12行)

(3)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
本願明細書の段落【0279】には、配列番号:1について、コナジラミの全長エクジソン受容体をコードする単離cDNAクローンのポリヌクレオチド配列であると記載されている。
そうすると、両者は、昆虫由来のエクジソン受容体をコードするポリヌクレオチドに関する発明である点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:エクジソン受容体が、本願補正発明では、配列番号:1のコナジラミ由来のものであるのに対し、引用発明では、ゴミダマシムシ由来のものである点。

相違点2:本願補正発明は、対象となる遺伝子の発現を制御する遺伝子スイッチであって、その発現が変調されるべき遺伝子と関連する応答エレメントを認識するDNA結合ドメイン、およびリガンド結合ドメインを含むキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に機能的に連結したプロモーターを含む第1遺伝子発現カセットを含む、遺伝子スイッチであるのに対し、引用発明では、そのような構造の遺伝子スイッチは特に記載されていない点。

(4)判断
ア.相違点1について
引用例1の記載事項(i)及び(ii)には、種々の昆虫のエクジソン受容体(以下、「EcR」という。)がクローニングされ、それらEcRの間でのDNA結合ドメイン及びリガンド結合ドメイン、特にDNA結合ドメイン間の配列相同性が高いことが記載されている。そして、引用例1の記載事項(ii)には、ショウジョウバエのDNA結合ドメインとその周辺の637塩基からなるcDNA断片をプローブとして、ゴミダマシムシのゲノムライブラリからゴミダマシムシEcRをコードするゲノム断片を取得し、さらに該ゲノム断片をプローブとしてゴミダマシムシのcDNAライブラリーから全長のEcRcDNAをクローニングしたことが記載されている。さらに、得られたゴミダマシムシEcRのDNA結合ドメインは、プローブとして用いたショウジョウバエEcRのDNA結合ドメインと、アミノ酸レベルで89%の同一性を有することが、引用例1の記載事項(iii)に記載されている。

また、引用例2の記載事項(i)には、DNA結合ドメイン間でのアミノ酸保存性の高いアミノ酸配列から作製した1対の縮重プライマーを用いて、PCRによりヒツジキンバエのゲノムDNAを増幅してヒツジキンバエEcRのDNA結合ドメインのcDNA断片を得て、この105塩基のcDNA断片をハイブリダイゼーションプローブとして、cDNAライブラリーからヒツジキンバエEcRの全長cDNAを取得したことが記載され、引用例2の記載事項(ii)には、同じ縮重プライマーを用いて、タバココナジラミのゲノムDNAを増幅して、タバココナジラミEcRのDNA結合ドメインの101塩基のハイブリダイゼーションプローブ(配列番号:41)を取得したことが記載されている。

引用例1及び2に記載されるように、本願優先日前において、種々の昆虫のEcRがクローニングされており、そのクローニング手法として、昆虫間のEcRのDNA結合ドメイン配列の配列相同性の高さに基づき、公知のDNA結合ドメインのcDNA断片をそのままハイブリダイゼーションプローブに用いるか、あるいは、各昆虫間のDNA結合ドメイン中でも特に保存されているアミノ酸配列から設計した縮重プローブを用いてPCRにより増幅した標的昆虫のEcRのDNA結合ドメインのcDNA断片を、ハイブリダイゼーションプローブに用いて、標的昆虫のcDNAライブラリーをスクリーニングしてEcR遺伝子をクローニングすることは、本願優先日前における周知技術であった。
このような技術水準の下、周知の昆虫であるコナジラミ由来のEcR遺伝子をクローニングすることは、当業者であれば容易に想起することであり、その際に、上記周知技術を考慮して、EcRにおいて高度に保存されているDNA結合ドメインを基にして作製したプローブやプライマーを用いて、コナジラミ由来のcDNAライブラリーをスクリーニングして、コナジラミ由来のEcR DNAをクローニングすることは、当業者であれば容易になし得ることである。
そして、そのような手法により、本願補正発明の配列番号:1のEcRは、当業者であれば困難なく取得できるものである。このことは、本願補正発明のコナジラミ由来のEcRのDNA結合ドメインの塩基配列である配列番号:1のヌクレオチド259?457からなる核酸配列(段落【0114】参照)と、引用例1の図1Aに記載のゴミダマシムシEcRのDNA結合ドメインの塩基配列である174塩基とは77.6%、引用例2のタバココナジラミのEcRのDNA結合ドメインの101塩基(配列番号:41)とは99%一致していることからもうかがえる。

イ.相違点2について
引用例3には、第1リガンド結合ドメインを含む第1受容体ポリペプチドをコードする第1受容体発現カセット、第2受容体ポリペプチドをコードする第2受容体発現カセット、標的ポリペプチドをコードする標的発現カセットを用いて宿主細胞を形質転換し、化学リガンドの存在下、標的ポリペプチドの発現を活性化することが記載されており(記載事項(i)の特許請求の範囲第1、7項参照)、第1受容体ポリペプチドは、エクジソン受容体であること(記載事項(i)の特許請求の範囲9項)、第1受容体ポリペプチドは更に異種DNA結合ドメインを含む、キメラ受容体ポリペプチドであること(記載事項(i)の特許請求の範囲第12項、記載事項(ii)及び(vi)参照)が記載されている。また、記載事項(iii)及び(vii)によれば、第1受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、プロモーターに機能的に連結されているものであるといえる。さらに、標的発現カセットは、応答配列付きプロモーターを含み(記載事項(iv)参照)、化学リガンドの存在下、DNA結合ドメインが標的ポリペプチドをコードする標的発現カセットに含まれる応答配列に結合し、転写に影響を及ぼした結果、標的ポリペプチドが生産されることが記載されている(記載事項(v))。
ここで、本願明細書の段落【0080】には、「用語『遺伝子スイッチ』とはプロモーターと結び付いている応答エレメントと、そして1つ以上のリガンドの存在下で、その中に応答エレメントおよびプロモーターが組み込まれている遺伝子の発現を変調させる、EcRに基づく遺伝子発現系との組み合わせを意味する。」と記載されている。
そうすると、引用例3には、エクジソン受容体のリガンド結合ドメイン及び、標的遺伝子のプロモーター中の応答エレメントを認識する、異種DNA結合ドメインを含むキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に機能的に連結したプロモーターを含む遺伝子発現カセットを含む、標的遺伝子の発現を制御する遺伝子スイッチが記載されているといえる。

ところで、新たな遺伝子がクローニングされた場合、その遺伝子と由来や機能が類似する公知の遺伝子における公知の用途に適用してみることは常套手段である。
そして、引用例3に記載されるように、本願優先日前に既に、エクジソン受容体のリガンド結合ドメイン及び、標的遺伝子のプロモーター中の応答エレメントを認識する、異種DNA結合ドメインを含むキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に機能的に連結したプロモーターを含む遺伝子発現カセットを含む遺伝子スイッチは知られていたのであるから、コナジラミ由来のEcR遺伝子がクローニングされたならば、それを用いて、本願補正発明の遺伝子スイッチを作製することは、当業者にとって格別の困難性を有することではない。

ウ.効果について
本願明細書の実施例2において、本願補正発明は、ステロイドリガンドであるポナステロンA及び非ステロイドリガンドであるGS-Eは、共に標的遺伝子をトランス活性化できることを確認しているので、この効果について検討する。
引用例3には、キイロショウジョウバエ由来のEcRがステロイドリガンド(エクジソン、ムスカリン)及び非ステロイドリガンド(RH5849、テブフェノジド)の両方に応答性を有することが記載されている(記載事項(viii)及び(ix)参照)。
また、原審の拒絶査定において、本願優先日前の技術水準を示す文献として参照された刊行物であるMol. Ther.(2000) vol.1, p.159-164には、キイロショウジョウバエ/カイコガのハイブリッドエクジソン受容体が本願の実施例と同じく、ステロイド性リガンドであるポナステロンA及び非ステロイド性リガンドであるGS-Eのいずれにも応答することが記載されている。
このように、本願優先日前において、既にステロイドリガンド及び非ステロイドリガンドのいずれにも応答するエクジソン受容体は知られていたのであるから、本願補正発明の遺伝子スイッチがステロイドリガンド及び非ステロイドリガンドのいずれにも応答する性質を有していたことは、従来技術からみて進歩性を認めるに足る顕著な効果であると評価することはできない。

エ.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成24年9月5日付け回答書において、本願補正発明の遺伝子スイッチはステロイドリガンド及び非ステロイドリガンドの両方に応答性であり、この効果は引用例1?3からは予測することができないものであると述べ、その根拠として、以下の点を主張する。
引用例1?3には、ステロイドリガンドに応答性のエクジソン受容体が非ステロイドリガンドに応答性を有することは記載されていない。また、拒絶査定で示された刊行物1は、ステロイドリガンド及び非ステロイドリガンドの両方に応答性を有する、キイロショウジョウバエ/カイコガのハイブリッドエクジソン受容体に関するが、他のエクジソン受容体のリガンド応答性については言及していないから、本願補正発明の遺伝子スイッチに用いるコナジラミエクジソン受容体のリガンド応答性を予測することはできない。
そして、米国特許第6610828号には、「ニセアメリカタバコガのエクジソンステロイド受容体(HEcR)は、驚くべきことにこれまでの報告おけるキイロショウジョウバエのエクジソン受容体(DEcR)とは異なり、非ステロイド性リガンドにより誘導され得ることを見出した。」と記載されるように、EcRのリガンド結合活性は、他の種のリガンド結合活性からは予測できないものである。
したがって、本願優先日において、いくつかのエクジソン受容体はステロイドリガンド及び非ステロイドリガンドの両方に応答し、いくつかのエクジソン受容体はステロイドリガンド及び非ステロイドリガンドの両方には応答しないということが知られているにすぎない。

しかしながら、審判請求人自身も認めるように、本願優先日前において、エクジソン受容体には、ステロイドリガンド及び非ステロイドリガンドの両方に応答するもの(前者)(例えば、引用例3及び刊行物1参照)及び、ステロイドリガンド及び非ステロイドリガンドの両方には応答しないもの(後者)が存在することが知られていた。このような技術的状況下において、新たなEcRがクローニングされたとき、そのリガンド応答性は、前者か後者のどちらかに属するものであることは、当業者が容易に予測することである。そして、本願補正発明の、コナジラミから得られたEcRのリガンド結合ドメインを用いて作製された遺伝子スイッチは、結局のところ、前者に分類されるものであったことが明らかになったにすぎず、このことを顕著な効果として評価できないことは、上記ウ.で述べたとおりである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

3.小括
以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用例1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成22年11月1日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成21年8月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1.に「補正前」として記載したとおりのものである。

2.本願発明の進歩性について
上記第2 2.で述べたとおり、本願補正発明は本願発明における「ポリペプチド」を「キメラポリペプチド」と限定したものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものであることが明らかである。

そして、上記第2 3.で述べたとおり、本願補正発明は引用例1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を包含する本願発明も同様に、引用例1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-26 
結審通知日 2013-08-27 
審決日 2013-09-09 
出願番号 特願2008-327291(P2008-327291)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 572- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 正展  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 冨永 みどり
田中 晴絵
発明の名称 コナジラミエクジソン受容体核酸、ポリペプチド、およびそれらの使用  
代理人 特許業務法人センダ国際特許事務所  

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