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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1284019 |
審判番号 | 不服2012-23653 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-11-29 |
確定日 | 2013-12-04 |
事件の表示 | 特願2008-541801「ミラーが設置されている入口空洞を含む光学機器」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月31日国際公開、WO2007/060376、平成21年 4月30日国内公表、特表2009-517699〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2006年11月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年11月28日、フランス国)を国際出願日とする出願であって、平成24年1月25日付けで拒絶理由が通知され、同年4月26日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、同年7月23日付けで拒絶査定がなされた。本件は、これに対して、同年11月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 その後、当審からの電話での問い合わせに対して、平成25年7月2日にファクシミリにより回答が提出された。 第2 本願発明について 1.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年4月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「空洞(2)内に設置される主鏡(3)と呼ばれる少なくとも一つのミラーを含む光学機器であって、前記主鏡が、前記空洞の入口から入射する放射流束の瞬時変動を受けることができる活性表面を備える光学機器において、 前記主鏡の直近に位置し、前記空洞の少なくとも一部分を形成するミラー周囲の堅固な内部ケーシング(20)を前記空洞が備え、 この内部ケーシングが、前記空洞の入口から入射する放射流束の瞬時変動を抑えるように熱慣性を有する材料から成り、 前記空洞の入口から入射する放射流速の瞬時変動に際し、前記内部ケーシングの熱慣性によって該空洞内の温度変動を制限し、その結果として、当該空洞内でミラーの温度変動が制限されるように前記主鏡の活性表面の側から熱制御を行なうことを特徴とする光学機器。」 2.引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2003-182700号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。) (a)「【0023】 【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の一形態を説明する。 実施の形態1.図1はこの発明の実施の形態1による宇宙航行光学機器の概略的な構成を示す断面図であり、(a)は軌道上での観測運用前の状態、(b)は(a)の状態における汚染物質の挙動を概略的に示し、(c)は軌道上での観測運用時を示している。また、この図では、宇宙航行光学機器として宇宙望遠鏡を例に挙げている。図において、1a?1cは当該宇宙望遠鏡の光学系を構成する光学部品であって、図示の例では観測対象物Aからの観測光Bを入射する反射光学系を構成する。2は光学部品1a?1cを収納する鏡筒(筐体)で、熱、汚染物質7、及び、放射線などの過酷な宇宙環境から内部の光学部品1a?1cを保護する。3は観測対象物Aからの観測光Bを光学部品1a?1cに導くために観測用の開口部(入射瞳)に設けられたトップドア(観測系側ドア部)であって、ヒンジ部4aによって鏡筒2に支持されて外部環境から鏡筒2内部を保護する。このトップドア3は、ヒンジ部4aを中心に回転して開閉自在に動作する。 【0024】また、5はトップドア4とは別に鏡筒2に設けられたサイドドア(汚染物質除去用ドア部)であって、鏡筒2の外表面のうち、軌道上、宇宙空間(およそ3K程度)と輻射熱結合している割合が最も大きく、外部からの熱入力が最も小さい部分に開口部を設け、これを覆うようにして設けられる。このサイドドア5は、ヒンジ部4bにより鏡筒2に支持されており、該ヒンジ部4bを中心に回転して開閉自在に動作する機構となっている。6は鏡筒2を被覆する断熱材(熱勾配形成手段)であって、MLI(Multi Layer Insulation)と呼ばれる宇宙用断熱材などで実現される。7は鏡筒2内に発生した汚染物質で、例えば、鏡筒2内に設けたCFRP構造物(carbon fiber reinforced plastics)及び有機材料などから真空環境下において発生する揮発性物質や水分などがある。 【0025】次に動作について説明する。軌道上での観測運用前では、図1(a)に示すように、宇宙望遠鏡の光学部品1a?1cからなる光学系の光軸を観測対象物Aからの観測光Bの光軸に指向させている。また、トップドア3も閉じた状態となっており、観測光Bは光学部品鏡面に受光されない。このとき、鏡筒2の内壁や光学部品鏡面などには、汚染物質が付着していると共に、鏡筒2内の気相にも汚染物質分子が浮遊している。これらの気相に浮遊する汚染物質分子が鏡筒2の内壁や光学部品鏡面などに衝突することで、さらに汚染物質の付着が進む。 【0026】そこで、この実施の形態1では、トップドア3を開いて観測光Bを光学部品鏡面に受光する前に、図1(b)に示すように、サイドドア5のみを開放する。この動作によって、光学部品1a?1cを含む鏡筒2の内部が、サイドドア5の開口部を介してある視野角で極低温の宇宙空間(3K程度)と空間的・熱的に結合することになる。鏡筒2の外周は断熱材6によって極低温の宇宙空間から熱的に切り離されており、内部は極低温より高温の状態にある。このため、サイドドア5のみを開放することで、鏡筒2内部と宇宙空間との間にサイドドア5の開口部を介して温度差(熱勾配)が生じる。 【0027】ここで、汚染物質(例えば、水分子や有機材料からの揮発性物質など)7は、真空環境下において高温部から低温部へ半球状に移動(浮遊)することが知られている。このような汚染物質7の挙動を考慮すれば、図1(b)に示す状態を実現することにより、宇宙望遠鏡内部、特に光学部品鏡面に付着した汚染物質7を宇宙空間に排出することができる(図1(b)中の破線の矢印の部分を参照)。 【0028】この図1(b)に示す状態を、宇宙望遠鏡に対して十分な時間維持したあと、図1(c)に示すように、トップドア3を開放することによって、観測光Bを光学部品1a?1cに受光し観測運用が開始される。 【0029】以上のように、この実施の形態1によれば、光学部品1a?1cを収納する鏡筒2と、該鏡筒2の外周部のうち、宇宙航行中に宇宙空間と輻射熱結合する割合が最も大きく外部からの熱入力が最も小さい部位に設けられ、内部を宇宙空間に開放するサイドドア5とを備えたので、鏡筒2内壁や光学部品鏡面に付着した汚染物質を宇宙空間に排出することができる。」 (b)「 」 上記引用文献1の記載事項において、図1の記載から、「光学部品1a」が「反射光学系」を構成する主鏡であることは当業者には明らかであるから、引用文献1には、以下の発明が記載されている。 「観測対象物Aからの観測光Bを入射する反射光学系を構成する主鏡である光学部品1aと、 観測用の開口部を有し、光学部品1aを収納して、熱、汚染物質7、及び、放射線などの過酷な宇宙環境から内部の光学部品1aを保護する鏡筒2と、 MLI(Multi Layer Insulation)と呼ばれる宇宙用断熱材などで実現される鏡筒2を被覆する断熱材(熱勾配形成手段)とを有する宇宙望遠鏡。」(以下「引用発明」という。) 3.対比 (1)本願発明と引用発明との対比 (a)引用発明の「観測対象物Aからの観測光Bを入射する反射光学系を構成する主鏡である光学部品1a」「を有する」ことは、本願発明の「空洞(2)内に設置される主鏡(3)と呼ばれる少なくとも一つのミラーを含」み、「前記主鏡が、前記空洞の入口から入射する放射流束の瞬時変動を受けることができる活性表面を備える」ことに相当する。 (b)引用発明の「鏡筒2」は「断熱材(熱勾配形成手段)」の内部にあること、 「鏡筒2」は「光学部品1a」を収納することから、「鏡筒2」は「光学部品1a」の直近で「光学部品1a」の周囲に位置すること、 「鏡筒2」は「光学部品1a」を「熱、汚染物質7、及び、放射線などの過酷な宇宙環境から内部の光学部品1aを保護する」ことから、「鏡筒2」は堅固であること は明らかであるから、引用発明の「観測用の開口部を有し、光学部品1aを収納して、熱、汚染物質7、及び、放射線などの過酷な宇宙環境から内部の光学部品1aを保護する鏡筒2」「を有する」ことは、本願発明の「前記主鏡の直近に位置し、前記空洞の少なくとも一部分を形成するミラー周囲の堅固な内部ケーシング(20)を前記空洞が備え」ることに相当する。 (c)引用発明の「宇宙望遠鏡」は、本願発明の「光学機器」に相当する。 (2)一致点 してみると、両者は、 「空洞(2)内に設置される主鏡(3)と呼ばれる少なくとも一つのミラーを含む光学機器であって、前記主鏡が、前記空洞の入口から入射する放射流束の瞬時変動を受けることができる活性表面を備える光学機器において、 前記主鏡の直近に位置し、前記空洞の少なくとも一部分を形成するミラー周囲の堅固な内部ケーシング(20)を前記空洞が備える光学機器。」で一致し、次の点で相違する。 (3)相違点 本願発明では、「この内部ケーシングが、前記空洞の入口から入射する放射流束の瞬時変動を抑えるように熱慣性を有する材料から成り、前記空洞の入口から入射する放射流速の瞬時変動に際し、前記内部ケーシングの熱慣性によって該空洞内の温度変動を制限し、その結果として、当該空洞内でミラーの温度変動が制限されるように前記主鏡の活性表面の側から熱制御を行なう」のに対して、引用発明では、「鏡筒2」がどのような材料から成るのかが不明であって、「光学部品1a」の熱制御を行うかどうかが不明である点。 4.判断 (1)上記相違点について まず、本願発明の発明特定事項について検討する。 (a)「この内部ケーシングが、前記空洞の入口から入射する放射流束の瞬時変動を抑えるように熱慣性を有する材料から成り」について すべての材料が、程度の大小はあるものの、熱慣性を有することは明らかであることから、該「熱慣性を有する材料」は何ら材料を特定していないことなるが、本願の明細書の全記載を参酌すれば、高い熱慣性を有する材料であることを特定しようとするものであると解するのが相当である。 さらに、この高い熱慣性が具体的にどの程度の熱慣性を意味するのかが不明であるが、本願の明細書の全記載を参酌すれば、アルミニウム、ベリリウムが有する熱慣性が、この高い熱慣性に含まれると解するのが相当である。 すると、本願発明の「この内部ケーシングが、前記空洞の入口から入射する放射流束の瞬時変動を抑えるように熱慣性を有する材料から成り」は、実質的に、「内部ケーシング」がアルミニウム、ベリリウムのような高い熱慣性を有することを特定するものであると認める。 (b)「前記空洞の入口から入射する放射流速の瞬時変動に際し、前記内部ケーシングの熱慣性によって該空洞内の温度変動を制限し、その結果として、当該空洞内でミラーの温度変動が制限されるように前記主鏡の活性表面の側から熱制御を行なう」について 本願の明細書の全記載及び平成25年7月2日のファクシミリによる回答を参酌すれば、「前記空洞の入口から入射する放射流速の瞬時変動に際し、前記内部ケーシングの熱慣性によって該空洞内の温度変動を制限し、その結果として、当該空洞内でミラーの温度変動が制限されるように前記主鏡の活性表面の側から熱制御を行なう」は、「内部ケーシングが、前記空洞の入口から入射する放射流束の瞬時変動を抑えるように熱慣性を有する材料から成」る構成がもたらす作用を記載したものであるから、結局、「前記空洞の入口から入射する放射流速の瞬時変動に際し、前記内部ケーシングの熱慣性によって該空洞内の温度変動を制限し、その結果として、当該空洞内でミラーの温度変動が制限されるように前記主鏡の活性表面の側から熱制御を行なう」は、実質的に、「内部ケーシングが、前記空洞の入口から入射する放射流束の瞬時変動を抑えるように熱慣性を有する材料から成」ることを特定するものであると認める。 以上のことから、本願発明の「この内部ケーシングが、前記空洞の入口から入射する放射流束の瞬時変動を抑えるように熱慣性を有する材料から成り、前記空洞の入口から入射する放射流速の瞬時変動に際し、前記内部ケーシングの熱慣性によって該空洞内の温度変動を制限し、その結果として、当該空洞内でミラーの温度変動が制限されるように前記主鏡の活性表面の側から熱制御を行なう」は、実質的に、「内部ケーシング」がアルミニウム、ベリリウムのような高い熱慣性を有することを特定するものであると認めるのが相当である。 次に、望遠鏡一般において、鏡筒をアルミニウムで形成することは特開平7-311347号公報(段落【0008】参照)に記載されるようにごく普通に用いられる周知技術であり、また、宇宙望遠鏡において、アルミニウム、ベリリウムで形成することが特開平11-30709号公報(段落【0006】?【0010】参照)に記載されるように周知技術である。 してみると、引用発明の「鏡筒2」を周知の材料であるアルミニウムやベリリウムで形成して、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。 (2)効果について そして、本願発明が奏し得る効果は、既に周知技術が奏していたものであって、格別なものではない。 (3)結論 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-07-05 |
結審通知日 | 2013-07-09 |
審決日 | 2013-07-25 |
出願番号 | 特願2008-541801(P2008-541801) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 荒井 良子 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 神 悦彦 |
発明の名称 | ミラーが設置されている入口空洞を含む光学機器 |
代理人 | 木村 高久 |