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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1284035
審判番号 不服2011-17406  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-11 
確定日 2014-01-29 
事件の表示 特願2001-526594「ポリエチレン成形材料、及びその製造方法並びにその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年4月5日国際公開、WO01/23446、平成15年3月18日国内公表、特表2003-510429〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成12年9月9日(パリ条約による優先権主張 1999年9月24日 ドイツ連邦共和国(DE))を国際出願日とする特許出願であって、平成22年1月14日付けで拒絶理由が通知され、同年6月21日に意見書とともに誤訳訂正書が提出されたが、平成23年4月8日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年8月11日に拒絶査定不服審判がなされると同時に手続補正書が提出され、同年10月24日付けで前置報告がなされ、それに基づいて当審で平成24年7月30日付けで審尋がなされ、同年10月30日に回答書が提出され、平成25年2月4日に拒絶理由が通知され、同年8月2日に意見書が提出されたものである。



第2 本願発明について

本願の請求項1?5に係る発明は、平成23年8月11日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
モノマーの重合を、20?120℃の温度、2?60バールの圧力で、遷移金属化合物と有機アルミニウム化合物から構成される高活性チーグラー触媒の存在下に、懸濁液中で行うポリエチレン成形材料の製造方法であって、 前記重合を3工程で、且つ各工程で製造されるポリエチレンの分子量を、それぞれ水素で調節して行い、
30?60質量%の、40?150cm^(3)/gの粘度数VN_(A)を有する低分子量エチレン単独重合体A、
30?65質量%の、150?800cm^(3)/gの粘度数VN_(B)を有する、エチレンと炭素原子数4?10の他のオレフィンとからなる高分子量共重合体B、及び
1?30質量%の、900?3000cm^(3)/gの粘度数VN_(C)を有する、超高分子量エチレン単独重合体又は共重合体C
を含み、
全体密度が0.940g/cm^(3)以上であり、
MFI_(190/5)が0.01?10dg/分の範囲にある3モード分子量分布を有し、
粘度数VN_(tot)が190?700cm^(3)/gの範囲にある
ポリエチレン成形材料を製造する方法。」



第3 当審における拒絶理由の概要

当審において、平成25年2月4日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、
「A.本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
B.本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開昭64-79204号公報
」というものである。



第4 当審拒絶理由の妥当性についての判断

(1)刊行物
刊行物1:特開昭64-79204号公報

(2)刊行物の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物1には、以下のことが記載されている。
(a)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、分子量分布の広いポリエチレンの製造方法に関する。さらに詳しくは、優れた溶融物性と加工性をもつ中空成形、および押出成形用途のポリエチレンの製造方法に関する。
〔従来の技術及び発明が解決しようとする課題〕
中空成形、および押出成形用途においては、分子量分布が比較的高く分子量分布の広いポリエチレンが必要とされる。・・・このような観点から、高分子量のポリエチレンと低分子量のポリエチレンを連続した2段以上の重合工程で順次製造する方法が考えられ、多段重合方法として提案されている。・・・
しかしながら、多段重合方法で製造されたポリエチレンは、上記のような優れた性質を有する反面、加工成形においていくつかの欠点も有している。それは、ポリマーの溶融張力が小さいこと、またダイスウェルが小さいことである。中空成形を行う場合、分子量、および分子量分布の特性に加えてポリマーの溶融物性即ち溶融張力およびダイスウェルの特性が重要となる。中空成形では、ダイスから円筒状溶融ポリマー(パリソン)を押出し、所定の長さになるとパリソン内部に空気などの気体を吹き込み、金型に密着させて成形物を得る。この際に、ポリマーの溶融張力が小さい場合は、パリソンが自重により垂れ下がる現象(ドローダウン)を生じたり、また大型な製品の成形を試みてもパリソンが自重によりダイスから切れ落ちる現象を生じることになる。一方、溶融ポリマーが成形機のダイスから押し出されるとバラス効果により膨潤が起こる。ダイス口径に対するパリソン径の比をダイスウェルと称し、膨潤度の指標とされる。中空成形ではこの一定長さのパリソンから瓶等が成形されるがダイスウェルが小さいポリエチレンでは製品の肉厚が薄くなり、一定重量の製品を得ることが困難となる。」(2頁右上欄17行?3頁左上欄8行)

(b)「〔実施例〕
以下に本発明を実施例により示すが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
実施例、参考例および比較例における重合体の性質は下記の方法によって測定した。
MI:ASTMD-1238条件Eによるメルトインデックス
N値:ASTMD-1238条件Fによる高負荷メルトインデックス(HLMI)とMIとの比HLMI/MI
分子量分布の一つの尺度として、この値が大きいほど分子量分布が広いことを示す。
密度:JIS K-6760による真密度
溶融張力:メルトテンションテスター(東洋精機(株)製)を用い、ノズル 径2.095mm、長さ8mmのオリフィスで190℃で降下速度10mm/minの条件でポリマーを押出し、モノフィラメント状に巻き取る際の張力
ダイスウェル:上記のメルトテンションテスターおよびオリフィスを用い、190℃で剪断速度15sec^(-1)の条件下で測定されるダイスウェル(SR-I)および剪断速度50sec^(-1)の条件下で測定されるダイスウェル(SR-II)
・・・
極限粘度〔η〕:140℃のオルトジクロロベンゼン中で測定しているが、極限粘度〔η〕と粘度平均分子量Mの間には以下の関係式がある。
〔η〕=3.56×10^(-4)M^(0.725)」(8頁左上欄12行?左下欄3行)

(c)「参考例1
a)固体触媒成分の製造
撹拌装置の付いた容器10lの触媒調製器に窒素雰囲気下、金属マグネシウム粉・・・とチタンテトラブトキシド・・・を加え、・・・ヨウ素を溶解したn-ブタノール・・・および、2-エチル-ヘキサノール・・・の混合物を・・・反応させた。・・・反応成物に・・・ヘキサン・・・を加え・・・ジエチルアルミニウムクロライドのヘキサン溶液を・・・加え・・・次にメチルヒドロポリシロキサン・・・を加え・・・反応させた。・・・i-ブチルアルミニウムジクロライドの・・・ヘキサン溶液を・・・加え・・・撹拌を行った。生成物にヘキサンを加え・・・洗浄を行った。・・・ヘキサンに懸濁した固体触媒成分のスラリーを得た。・・・元素分析したところ、Tiは2.1重量%であった。」(8頁左下欄8行?右下欄15行。なお、13頁右下欄の手続補正書の内容を取り込んで認定している。)

(d)「実施例1
[3段重合〕
(L成分の重合)
重合器3器を直列に連結して連続重合を行った。内容積300lの第1重合器にはヘキサンを150kg/Hr、エチレンを15.0kg/Hr、水素を480Nl/Hr、参考例1で得られた固体触媒成分を0.8g/Hrの速度で連続的に供給した。また液中のトリイソブチルアルミニウムの濃度を1.0mmol/kgヘキサンに、ブテン-1とエチレンの重量比を0.4g/gとなるようにトリイソブチルアルミニウムとブテン-1を連続的供給した。重合温度は85℃に調節した。
第1重合器で生成したポリマーを含むスラリーはフラッシュタンクおよびポンプを経て、第2重合へ連続的に導入された。
(H成分の重合)
内容積300lの第2重合器には、ヘキサンを27kg/Hr、エチレンを15.8kg/Hr、水素を90Nl/Hr、ブテン-1を液中のブテン-1とエチレンの重量比が0.5g/gとなるように各々連続的に供給した。温度は85℃に調節した。
第2重合器で生成したポリマーを含むスラリーはフラッシュタンク、ポンプを得て第3重合器へ連続的に供給された。
(U成分の重合)
内容積500lの第3重合器には、ヘキサンを8kg/Hr、エチレンを9.0kg/Hr、ブテン-1を液中のブテン-1とエチレンの重量比が1.7g/gとなるように各々連続的に供給した。水素は分子量調節のために微量を連続的に供給された。温度は50℃に調節した。
第3重合器で生成したポリマーを含むスラリーは遠心分離機でポリマーとヘキサンに分離し、ポリマーを乾燥した。
また、各重合器から排出されるポリマーを少量抜出したところ、第1重合器のポリマーの〔η〕は0.65、第2重合器のポリマーの〔η〕は1.78、最終製品のポリマーの〔η〕は2.45であった。また、各重合器の未反応ガスを分析した結果、第1、第2、第3の各重合器での生産比率は、41%、42%、17%であった。これらの事より、H、U各成分の〔η〕は、2.88、5.7であることがわかる。
また、各工程で生成するポリマー中のα-オレフィン含有量については、(L)工程では0.3重量%であり、(H)工程および(U)工程ではブテン-1の仕込量とエチレン分圧との関係よりそれぞれ0.4重量%および0.8重量%であった。」(9頁左下欄16行?10頁右上欄8行)

(e)「実施例2?17、比較例2?7
参考例1で調製した固体触媒を用いて、重合条件を種々変えたこと以外は実施例1で同様に3段重合を行った。反応条件を表-1に示す。実施例8?10、と12、13及び比較例6は重合順序を(U)成分→(L)成分→(H)成分と変更している。得られたポリエチレンの物性測定の結果を表-2に示した。なお、ラジカル発生剤による改質を行ったものについてはその添加量を示した。
・・・

・・・

」(11頁左上欄14行?13頁上欄)

(3)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、摘示eの実施例4、6及び7の記載、さらに、摘示b?dを総合すれば、「チタン成分を含有する固体触媒成分とトリイソブチルアルミニウムから構成される触媒の存在下、分子量調節のための水素を供給しながら、重合器3器を直列に連結してスラリー中で連続重合を行い、ポリエチレンを製造するに際し、
第1重合器は重合温度が85℃に調節され、生成比率35?41重量%の、極限粘度〔η〕(140℃のオルトジクロロベンゼン中で測定した値。以下同じ。)0.6?0.7であるポリエチレン単独重合体(L成分)が重合されてなり、
第2重合器は重合温度が85℃に調節され、生成比率42.5?52.5重量%の、極限粘度〔η〕2.7?2.8であり、α-オレフィン含有量0.1?0.3重量%のポリエチレン-ブテン-1共重合体(H成分)が重合されてなり、
第3重合器は重合温度が50℃に調節され、生成比率12.5?18重量%の、極限粘度〔η〕7.2?8.7であり、α-オレフィン含有量0.9?1.5重量%のポリエチレン-ブテン-1共重合体(U成分)が重合されてなり、
最終ポリマーの極限粘度〔η〕2.53?2.89、MI0.022?0.037、ダイスウェル(SR-1)1.58?1.63、密度0.951g/cm^(3)である、
ポリエチレンの製造方法。」の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているといえる。
なお、上記実施例4、6及び7は、いずれも表-2において、ラジカル発生剤の量が0ppmとなっているものであるから、最終的に得られたポリエチレンにラジカル発生剤を接触させ改質していないものである。

(4)対比
本願発明と刊行物発明とを対比する。
刊行物発明における「ポリエチレン単独重合体(L成分)」、「ポリエチレン-ブテン-1共重合体(H成分)」及び「ポリエチレン-ブテン-1共重合体(U成分)」は、本願発明における「低分子量エチレン単独重合体A」、「高分子量共重合体B」及び「超高分子量エチレン単独重合体又は共重合体C」に各々対応している。
そこで、刊行物発明における「ポリエチレン単独重合体(L成分)」と本願発明における「低分子量エチレン単独重合体A」とを比較すると、刊行物発明における「生成比率35?41重量%」は本願発明における「30?60質量%」と重複一致している。
そして、刊行物発明における「ポリエチレン-ブテン-1共重合体(H成分)」と本願発明における「高分子量共重合体B」とを比較すると、刊行物発明における「生成比率42.5?52.5重量%」は本願発明における「30?65質量%」と重複一致している。
また、刊行物発明における「ポリエチレン-ブテン-1共重合体(U成分)」と本願発明における「超高分子量エチレン単独重合体又は共重合体C」とを比較すると、刊行物発明における「生成比率12.5?18重量%」は本願発明における「1?30質量%」と重複一致している。
そして、刊行物発明における「最終ポリマー」は、摘示aから、「中空成形、および押出成形用途」に用いられることから、本願発明における「ポリエチレン成形材料」に対応していることは明らかである。
そこで、刊行物発明における「最終ポリマー」と本願発明における「ポリエチレン成形材料」とを比較すると、刊行物発明における「密度0.951g/cm^(3)」及び「MI0.022?0.037」は、本願発明における「全体密度が0.940g/cm^(3)以上」及び「MFI_(190/5)が0.01?10dg/分の範囲にある」と重複一致している。
また、刊行物発明における「チタン成分を含有する固体触媒成分とトリイソブチルアルミニウムから構成される触媒」が、チーグラー触媒であることは技術常識であるから、本願発明の「遷移金属化合物と有機アルミニウム化合物から構成される高活性チーグラー触媒」に相当することも明らかである。そして、重合温度については、本願発明と刊行物発明とで重複一致しているし、重合圧力は、本願発明で規定する「2?60バール」は引例を挙げるまでもなく通常の値にすぎないものと認められる。そして、刊行物発明における「スラリー」は本願発明における「懸濁液」に相当し、刊行物発明においても各重合器において分子量調節のために水素を供給していることから、本願発明における「各工程で製造されるポリエチレンの分子量を、それぞれ水素で調節して行」うことと一致する。
そうすると、両者は、「モノマーの重合を、20?120℃の温度、2?60バールの圧力で、遷移金属化合物と有機アルミニウム化合物から構成される高活性チーグラー触媒の存在下に、懸濁液中で行うポリエチレン成形材料の製造方法であって、 前記重合を3工程で、且つ各工程で製造されるポリエチレンの分子量を、それぞれ水素で調節して行い、
30?60質量%の低分子量エチレン単独重合体A、
30?65質量%のエチレンと炭素原子数4?10の他のオレフィンとからなる高分子量共重合体B、及び
1?30質量%の超高分子量エチレン単独重合体又は共重合体C
を含み、
全体密度が0.940g/cm^(3)以上であり、
MFI_(190/5)が0.01?10dg/分の範囲にある
ポリエチレン成形材料を製造する方法。」である点で一致し、以下の相違点1及び2で一応相違している。

<相違点1>
本願発明では、「低分子量エチレン単独重合体Aが、40?150cm^(3)/gの粘度数VN_(A)を有する」、「エチレンと炭素原子数4?10の他のオレフィンとからなる高分子量共重合体Bが150?800cm^(3)/gの粘度数VN_(B)を有する」、「超高分子量エチレン単独重合体又は共重合体Cが900?3000cm^(3)/gの粘度数VN_(C)を有する」及び「ポリエチレン成形材料の粘度数VN_(tot)が190?700cm^(3)/gの範囲にある」と各々規定されているのに対して、刊行物発明では、「ポリエチレン単独重合体(L成分)が極限粘度〔η〕0.6?0.7である」、「ポリエチレン-ブテン-1共重合体(H成分)が極限粘度〔η〕2.7?2.8であり」、「ポリエチレン-ブテン-1共重合体(U成分)が極限粘度〔η〕7.2?8.7であり」及び「最終ポリマーが極限粘度〔η〕2.53?2.89である」と各々規定されている点。

<相違点2>
ポリエチレン成形材料が、本願発明では、「3モード分子量分布を有し」と規定されているのに対して、刊行物発明では、その点が特に規定されていない点。

(5)相違点に対する判断
○相違点1について
本願発明における「粘度数」は、デカリン中135℃にて測定されるものであって、いわゆる「還元粘度」に相当するものであると認められるところ、刊行物発明における「極限粘度」とは、測定している溶媒の種類や温度も相違するものであることから、直接これらの数値を比較することは困難ではあるものの、両者共に重合体を溶媒に溶解した場合の粘度を測定することにより求められるものであって、結局のところ、当該重合体の分子量の指標として規定するものである点で共通するものであると認められる。
そして、本願発明と刊行物発明とは、本願明細書の記載及び刊行物1の摘示aの記載を比較すれば、その利用分野が中空成形に用いられるものであることで共通するものであるし、さらに発明の課題や効果からみても、多段重合方法で製造されたポリエチレンの欠点である、ポリマーのダイスウェル(膨潤率)が小さいことを改良するという点でも共通するものと認められることから、同様の課題のもと、同様の方法で同様のものを得ており、本願発明における3成分で規定する各粘度数及び全体の粘度数は、刊行物発明における3成分で規定する各極限粘度〔η〕及び最終ポリマーの極限粘度〔η〕と重複一致する蓋然性が高いといえる。
仮に、重複一致するものでないとしても、刊行物発明において、得られる成形材料の物性を勘案し、重合条件を適宜変更することにより、本願発明と一致する粘度数を有する、各成分及び最終ポリマーを得ることは、その技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば、容易になし得ることにすぎないし、そのことによりもたらされる効果についても、格別顕著であるとすることもできない。
そうすると、相違点1は実質的な相違点ではないか、あるいは当業者が容易になし得たものである。

○相違点2について
刊行物発明に係るポリエチレンは、ポリエチレン単独重合体(L成分)、ポリエチレン-ブテン-1共重合体(H成分)及びポリエチレン-ブテン-1共重合体(U成分)の3成分を含むものであって、しかも、(3)で述べたとおり、最終的に得られたポリエチレンにラジカル発生剤を接触させ改質していないものであると認められることから、刊行物発明においても、本願発明と同様に「3モード分子量分布を有し」ていることは明らかである。
そうすると、相違点2は実質的な相違点ではない。

(6)請求人の主張についての検討
○構成の相違について
請求人は、平成25年8月2日に提出した意見書の「(5)本願発明と刊行物1との対比(5-2)相違点(i)構成の相違」において、「本願発明のポリエチレン成形材料は、各エチレン重合体A、B及びCをそれぞれ、『含む』ことを特徴としています。すなわち本願発明の成形材料においては、エチレン重合体A、B及びCの成分が、そのまま、記載された量にて混合物として含まれています。
これに関し、刊行物1では、U成分、H成分及びL成分を得た後に、所定の触媒を用いて、所定の極限粘度を有するポリエチレンを製造しております。これについて、刊行物1の第7頁左上欄に、『上記のように得られるポリエチレンは、それ自身溶融張力及びダイスウェルは改善されたものである。しかし、製品の用途に応じて、ポリエチレン粉末にラジカル発生剤を接触させることにより、更なる改質が可能である。』として、更なる改質工程を示しています。
さらに具体的には、実施例1?17の全てにおいてU成分、H成分及びL成分を用いた重合が行われ、『最終ポリマー』を得ていることが開示されています。
すなわち、刊行物1では、成形材料として、3種類のポリエチレン成分を含む組成物ではなく、これらが架橋された『最終ポリマー』が開示されています。
従って、刊行物1の最終生成物であるポリエチレンは、本願発明のエチレン重合体A、B及びCに相当する個々の成分を『含む』ポリエチレン成形材料ではなく、『3モード分子量分布を有し、粘度数VN_(tot)が190?700cm^(3)/gの範囲にある』組成物についての開示はされていないと考えます。」と主張している。

しかしながら、刊行物1には、まさに請求人が摘示した部分の記載である「しかし、製品の用途に応じて、ポリエチレン粉末にラジカル発生剤を接触させることにより、更なる改質が可能である。」との記載からも、更なる改質をしてもよい、すなわち改質をしない場合も含まれることが明らかである。具体的には、刊行物1の請求項1に「ポリエチレンの製造方法」と記載されており、同じく請求項2に「ポリエチレンを製造し、得られたポリエチレンにラジカル発生剤を接触させることを特徴とするポリエチレンの製造方法」と記載されているとおり、ラジカル発生剤により改質をする場合としない場合とを分けて記載している。また、その実施例1?17においても、表-2には、ラジカル発生剤の量が記載されており、実施例1、2、5、8、11、12及び17ではラジカル発生剤が用いており、残りの実施例3、4、6、7、9、10及び13?16ではラジカル発生剤の量が0ppmであるから、ラジカル発生剤が用いられていない、すなわちラジカル発生剤による改質が行われていないことが明らかである。
そうすると、(3)でも述べたとおり、実施例4、6及び7は、いずれも表-2において、ラジカル発生剤の量が0ppmとなっているものであるから、引用発明は、最終的に得られたポリエチレンにラジカル発生剤を接触させ改質していないものであると認められ、結局のところ、刊行物1において3種類のポリエチレン成分を含む組成物が記載されているといえることは明らかである。
したがって、刊行物1には3種類のポリエチレン成分を含む組成物ではなく、これらが架橋された「最終ポリマー」のみが開示されているとする請求人の主張は、刊行物1の記載内容を曲解するものであって、到底受け入れられるものではない。
なお、刊行物発明とは関係ないものの、そもそも、刊行物1において、ラジカル発生剤により改質されたものが、なぜ本願発明で規定する「3モード分子量分布を有し、粘度数VN_(tot)が190?700cm^(3)/gの範囲にある」組成物を開示するものではないのかという点においても、請求人の主張の意味が不明であって、その内容を理解することができないものである。

○効果の相違について
また、請求人は、同じく「(5)本願発明と刊行物1との対比(5-2)相違点(ii)効果の相違」において、「本願発明の3モード分布を有するポリエチレン成形材料においては、優れた流動性、膨潤率(SR)が示されていると共に、優れた破壊靭性(FT)が得られています。一般にはSRとFTを良好に得ることは困難であるところ、本願発明では双方を向上させております。

一方、刊行物1のポリエチレンは、例えばインフレーションフィルムとして適するように粘弾的性質を改善され、高い柔軟性がが得ていると思われますが(刊行物1、第3ページ下から3行、実施例1、[ポリエチレンの改質]の欄、及び表2)優れた靭性を得るという思想ないし具体的開示は見受けられません。」と主張している。

しかしながら、(5)で述べたとおり、本願発明と刊行物発明とは差異がないといえることから、効果においても差異がないといえる。
仮に、本願発明における3成分で規定する各粘度数及び全体の粘度数が、刊行物発明における3成分で規定する各極限粘度〔η〕及び最終ポリマーの極限粘度〔η〕と重複一致するものでないとしても、刊行物発明において、本願発明と一致する粘度数を有する、各成分及び最終ポリマーを得ることが、当業者にとり容易になし得ることにすぎないことは、(5)で述べたとおりであるし、そのことによりもたらされる効果について検討しても、膨潤率(SR)については、刊行物発明においても「ダイスウェル(SR-1)1.58?1.63」であり、本願発明における膨潤率と差異がないといえるし、請求人の主張する破壊靭性(FT)の点についても、刊行物発明においても「生成比率12.5?18重量%の、極限粘度〔η〕7.2?8.7であり、α-オレフィン含有量0.9?1.5重量%のポリエチレン-ブテン-1共重合体(U成分)」すなわち超高分子量ポリエチレンを所定割合で含有するものであることから、当業者であれば予測の範囲内であるといえる。
したがって、請求人によるこの主張も受け入れられるものではない。

(7)まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
あるいは、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



第5 むすび

以上のとおり、当審において通知した拒絶理由は妥当なものであるから、本願は、この理由によって拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-20 
結審通知日 2013-08-27 
審決日 2013-09-17 
出願番号 特願2001-526594(P2001-526594)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08L)
P 1 8・ 113- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉備永 秀彦  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 塩見 篤史
小野寺 務
発明の名称 ポリエチレン成形材料、及びその製造方法並びにその使用方法  
代理人 江藤 聡明  

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