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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G01C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01C
管理番号 1284169
審判番号 不服2012-18245  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-19 
確定日 2014-02-18 
事件の表示 特願2005-376746「慣性センサ素子」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月12日出願公開、特開2007-178248、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本件出願」という。)は、平成17年12月28日にされた特許出願である。そして、平成23年7月25日付け手続補正書により明細書、特許請求の範囲及び図面についての補正がされた。さらに、平成24年4月23日付け手続補正書により明細書及び特許請求の範囲についての補正がされたが、この補正は、同年6月8日付けの決定(以下、「補正の却下の決定」という。)をもって却下され、同日付けで拒絶査定がされた。査定の謄本は、同年同月19日に送達された。
これに対して、同年9月19日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされた。そして、特許法第162条の規定による審査において、同年11月21日付けで同法第164条第3項の規定による報告がされた。
当審は、同法第134条第4項の規定に基づき、平成25年7月16日付けで請求人を審尋し、同報告に対する意見を求めた。これに対して、請求人は、同年9月20日付けで回答書を提出した。

第2 本件補正の適否(1)
1.本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1ないし5についての補正と明細書の段落0009ないし0013についての補正とを含む。

(1)請求項1ないし5についての補正
請求項1ないし5についての補正は、本件補正前(平成23年7月25日付け手続補正書による補正の後をいう。以下同じ。)の請求項1ないし5を、以下のように補正するものである。なお、下線は、請求人が付したものであり、補正箇所を示す。

(本件補正前)
「【請求項1】
X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成されるH型構造の慣性センサ素子であって、
軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部から延出する2つ一対の検出脚部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記検出脚部とは反対側に前記基部から延出する2つ一対の励振脚部と、
前記各励振脚部の前記基部側に向く端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部と、
前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣と、
を備え、
前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、
前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、
前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、
前記基部の軸線方向と平行となる直線上に位置する、
ことを特徴とする慣性センサ素子。
【請求項2】
X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成される音叉型構造の慣性センサ素子であって、
軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部の一方の端側から延出する検出脚部と、
前記検出脚部と向かい合って、前記基部の他方の端側から延出する励振脚部と、
前記検出脚部及び前記励振脚部の前記基部側に向く各端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部と、
前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣と、
を備え、
前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、
前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、
前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、
前記基部の軸線方向と平行となる直線上に位置する、
ことを特徴とする慣性センサ素子。
【請求項3】
X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成される三脚音叉型構造の慣性センサ素子であって、
軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部の中央から延出する検出脚部と、
前記検出脚部と向かい合って、前記基部の両端から延出する励振脚部と、
前記検出脚部及び前記励振脚部の前記基部側に向く各端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部と、
前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣と、
を備え、
前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、
前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、
前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、
前記基部の軸線方向と平行となる直線上に位置する、
ことを特徴とする慣性センサ素子。
【請求項4】
X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成される略王の字型構造の慣性センサ素子であって、
軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部の中央からこの基部を挟んで延出する検出脚部と、
前記検出脚部と向かい合って、前記基部の両端からこの基部を挟んで延出する励振脚部と、
前記検出脚部及び前記励振脚部の前記基部側に向く各端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部と、
前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣と、
を備え、
前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、
前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、
前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、
前記基部の軸線方向と平行となる直線上に位置する、
ことを特徴とする慣性センサ素子。
【請求項5】
X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成される音片型構造の慣性センサ素子であって、
軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部から延出する検出脚部と、
前記検出脚部とは反対側に前記基部から延出する励振脚部と、
前記検出脚部及び前記励振脚部の前記基部側に向く各端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部と、
前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣と、
を備え、
前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、
前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、
前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、
前記基部の軸線方向と平行となる直線上に位置する、
ことを特徴とする慣性センサ素子。」

(本件補正後)
「【請求項1】
X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成されるH型構造の慣性センサ素子であって、
軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部から延出する2つ一対の検出脚部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記検出脚部とは反対側に前記基部から延出する2つ一対の励振脚部と、
前記各励振脚部の前記基部側に向く端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部と、
前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣と、
を備え、
各々の前記励振脚部における前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、隣り合う前記励振脚部において前記基部の軸線方向と平行となる一つの直線上に位置する、
ことを特徴とする慣性センサ素子。
【請求項2】
X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成される音叉型構造の慣性センサ素子であって、
軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部の一方の端側から延出する検出脚部と、
前記検出脚部と向かい合って、前記基部の他方の端側から延出する励振脚部と、
前記検出脚部及び前記励振脚部の前記基部側に向く各端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部と、
前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣と、
を備え、
前記励振脚部及び前記検出脚部における前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、隣り合う前記励振脚部と前記検出脚部において前記基部の軸線方向と平行となる一つの直線上に位置する、
ことを特徴とする慣性センサ素子。
【請求項3】
X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成される三脚音叉型構造の慣性センサ素子であって、
軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部の中央から延出する検出脚部と、 前記検出脚部と向かい合って、前記基部の両端から延出する励振脚部と、
前記検出脚部及び前記励振脚部の前記基部側に向く各端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部と、
前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣と、
を備え、
前記検出脚部及び各々の前記励振脚部における前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、前記検出脚部と前記検出電極と隣り合う一方の前記励振脚部とにおいて前記基部の軸線方向と平行となる一つの直線上に位置する、
ことを特徴とする慣性センサ素子。
【請求項4】
X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成される略王の字型構造の慣性センサ素子であって、
軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部の中央からこの基部を挟んで延出する検出脚部と、
前記検出脚部と向かい合って、前記基部の両端からこの基部を挟んで延出する励振脚部と、
前記検出脚部及び前記励振脚部の前記基部側に向く各端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部と、
前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣と、
を備え、
前記検出脚部及び各々の前記励振脚部における前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、前記検出脚部と前記検出電極と隣り合う一方の前記励振脚部とにおいて前記基部の軸線方向と平行となる一つの直線上に位置する、
ことを特徴とする慣性センサ素子。
【請求項5】
X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成される音片型構造の慣性センサ素子であって、
軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部から延出する検出脚部と、
前記検出脚部とは反対側に前記基部から延出する励振脚部と、
前記検出脚部及び前記励振脚部の前記基部側に向く各端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部と、
前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣と、
を備え、
前記検出脚部及び前記励振脚部における前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、前記検出脚部及び前記励振脚部のそれぞれにおいて前記基部の軸線方向と平行となる一つの直線上に位置する、
ことを特徴とする慣性センサ素子。」

(2)段落0009ないし0013についての補正
段落0009ないし0013についての補正は、補正前の段落0009ないし0013の記載を、本件補正後の請求項1ないし5の記載と整合させるものである。

2.新規事項の追加についての判断
請求項1ないし5についての補正、及び明細書の段落0009ないし0013についての補正は、本件出願の願書に最初に添付した明細書の段落0021、0030、0036、0042及び0049並びに図面の図1、2、6、7、8及び10に記載された事項に基づくものであるから、本件出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、本件補正は、いわゆる新規事項の追加には該当せず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

3.本件補正の目的についての判断
請求項1についての補正は、「前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置と」の位置関係を、「各々の前記励振脚部における前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、隣り合う前記励振脚部において前記基部の軸線方向と平行となる一つの直線上に位置する」ものに限定する補正である。
そうすると、請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものである。また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
請求項2ないし5についても同様の補正がされたが、請求項2ないし5についての補正も、本件補正前の各請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものである。そして、請求項2ないし5に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、本件補正の前後を通じて同一である。
したがって、本件補正のうち、特許請求の範囲についての補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正が特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか(すなわち、本件補正後の請求項1ないし5に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。
なお、以下では、本件補正後の請求項1ないし5に記載された発明を、対応する請求項の番号を用いて、「本件補正発明1」、「本件補正発明2」などという。

第3 本件補正の適否(2)-独立特許要件についての判断
1.刊行物に記載された事項
以下に掲げる刊行物1ないし5は、いずれも本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である。刊行物1ないし3は、原査定の拒絶の理由、補正の却下の決定及び審尋に引用され、刊行物4は、補正の却下の決定及び審尋に引用され、刊行物5は、補正の却下の決定に引用された。

刊行物1:特開平10-41772号公報
刊行物2:特開2003-207338号公報
刊行物3:特開昭57-60718号公報
刊行物4:特開昭57-15520号公報
刊行物5:特開平7-139953号公報

(1)刊行物1
ア.刊行物1の記載
刊行物1には、以下の記載がある。
(ア)段落0001
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電圧を印加することにより振動する水晶振動子の製造方法に関する。本水晶振動子は、その振動を利用した角速度検出装置又は計測技術に適用され得る。」
(イ)段落0033
「【0033】図4は、上記エッチング後の図2の中間体1’の振動子対応領域3bを抜出して示す斜視図であり、図5は図4の中間体1’をA-A線矢印に沿って切った中間体1’の断面図である。水晶ウエハ1の金属マスク3及び4の形成されていない領域はエッチング液によって除去され、水晶ウエハ1のこの領域は主表面1aから裏面1bまで貫通する。一方、マスク3及び4直下の水晶ウエハ1の領域は残存し、水晶振動子が水晶ウエハ1から切出される。以下、本実施の態様に用いた金属マスク3の振動子対応領域3bのパターン形状及びこのマスクパターン3によって水晶ウエハ1から切出された水晶振動子の形状について説明する。」
(ウ)段落0039
「【0039】金属マスク3の基部対応領域5は、X軸と角度θ1a及びθ1bを成す振動片対応領域6及び7の線分13及び17の他端同士を接続する線分18(所定部分)を一端に有している。線分18は、前述のX軸に平行な仮想直線BLの一部であり、基部対応領域5は、仮想直線BLを境界として振動片対応領域6及び7から離れる方向に広がっている。すなわち、基部対応領域5は、X軸に平行な線分18,19及びY’軸に平行な線分11及び15によって囲まれており、長方形を成している。」
(エ)段落0042
「【0042】水晶のエッチングの際には、X軸の正方向へのエッチングの速度と負方向へのエッチングの速度とが異なる。また、水晶は3回回転対称の結晶であり、Z軸に垂直であって、X軸と±120度の角度を成す2つのX軸を有する。これらの軸をそれぞれX1軸及びX2軸とする。これらのエッチング速度の違いにより、振動片対応領域6及び7の下に形成された水晶振動片6a及び7aは、振動片対応領域6及び7の線分11及び14直下からX軸の正方向に突出した突出部20及び21をそれぞれ有する。一方、水晶振動片6a及び7aの突出部20及び21にそれぞれ対向する平面20a及び21aは、Y’Z’平面に平行である。また、上記エッチング速度の違いにより、水晶振動片6aは、振動片対応領域6の根元の線分13の直下からX1軸の正方向に突出した突出部22を有し、水晶振動片7aは、振動片対応領域7の根元の線分17直下にX2軸に垂直な平面22aを有する。これらの突出部(エッチング残り)20?22の高さtxは略同一であり、高さtxは、厚みDの8%以内である。換言すれば、上記エッチングは、主表面1aに垂直であって線分11及び14をそれぞれ含む平面からそれぞれの側面までの最大離隔距離txが、主表面1aと裏面1bとの間の距離Dの8%以下になるまで行われる。」
(オ)段落0049
「【0049】図6は、電極23?34を有する水晶振動子100を固定台101上に固定した角速度検出装置を示す斜視図であり、図7は図6の水晶振動子100をA-A線矢印に沿って切った水晶振動子100の断面図である。この角速度検出装置は、電極23?34の一部に水晶振動片6a及び7aをX軸方向に振動させる駆動電圧を印加するとともに電極23?34の一部からの水晶振動片6a及び7aのZ軸方向の振動に対応した信号を検知する電気回路102を備える。水晶振動片6a及び7aのZ’軸方向の振動は、水晶振動片6a及び7aのX軸方向の振動速度及び水晶振動片6aと7aの長手方向を中心にこれらに働く回転力との積、コリオリの力に対応して発生するので、電気回路102は角速度検出装置に働いた角速度を検出することができる。」
(カ)段落0082
「【0082】また、これらの角度を近似的に設定し、図15に示す金属マスク603を水晶振動子中間体600上に形成してもよい。このマスク603は、基部対応領域405から同一方向に延びた振動片対応領域606及び607を備えており、振動片対応領域606及び607の直下にそれぞれ第1及び第2水晶振動片606a,607aが形成される。」
(キ)段落0085から0086まで
「【0085】以上のように、上述の実施の態様に係る水晶振動子の方法は、水晶からなる基部5a及び基部5aから同一方向に延びており電圧が印加されることによって振動可能な第1及び第2水晶振動片6a及び7aを備えた水晶振動子100の製造方法を対象とする。
【0086】図1乃至図7を用いて説明した方法は、水晶のZ軸に沿った軸(Z’軸)に直交した主表面1aを有する水晶ウエハ1を用意する工程(図1)と、基部対応領域5及びこの基部対応領域5から水晶ウエハ1の所定のX軸に直交する軸(Y’軸)に沿って同一方向に延びた第1及び第2振動片対応領域6,7を有するマスク3を主表面1a上に形成する工程と、マスク3の形成された水晶ウエハ1をエッチングすることにより、マスク3の基部対応領域5及び第1及び第2振動片対応領域6,7直下にそれぞれ基部5a及び第1及び第2水晶振動片6a,7aを形成する工程とを備える。」
(ク)図15
図15には、振動片対応領域606は、基部対応領域405に近づくにつれて2段階に広がる、線分450cと線分450、及び線分313aと線分13からなる部分を有し、振動片対応領域607は、基部対応領域405に近づくにつれて2段階に広がる、線分317aと線分17、及び線分451cと線分451からなる部分を有することが図示されている。

イ.刊行物1に記載された発明(引用発明1)
(ア)刊行物1には、「水晶は3回回転対称の結晶であり、Z軸に垂直であって、X軸と±120度の角度を成す2つのX軸を有する。これらの軸をそれぞれX1軸及びX2軸とする。」が記載されている(上記ア.(エ))から、「水晶は、X軸と±120度の角度を成す2つのX1軸及びX2軸を有する3回回転対称の結晶であ」るとの技術事項が読み取れる。
(イ)刊行物1には、基部対応領域5から水晶ウエハ1の所定のX軸に直交する軸(Y’軸)に沿って同一方向に延びた第1及び第2振動片対応領域6,7を有するマスク3及び4を用いること(上記ア.(キ))、水晶ウエハ1の金属マスク3及び4の形成されていない領域をエッチング液によって除去することで形成すること(上記ア.(イ))、水晶からなる基部5a及び基部5aから同一方向に延びており電圧が印加されることによって振動可能な第1及び第2水晶振動片6a及び7aを備えた水晶振動子100であること(上記ア(オ))が記載されているから、「基部対応領域5から水晶ウエハ1の所定のX軸に直交する軸(Y’軸)に沿って同一方向に延びた第1及び第2振動片対応領域6,7を有するマスク3及び4を用い、水晶ウエハ1の金属マスク3及び4の形成されていない領域をエッチング液によって除去することで形成され、水晶からなる基部5a及び基部5aから同一方向に延びており電圧が印加されることによって振動可能な第1及び第2水晶振動片6a及び7aを備えた水晶振動子100」との技術事項が読み取れる。
(ウ)刊行物1には、「基部対応領域5は、X軸に平行な線分18,19及びY’軸に平行な線分11及び15によって囲まれており、長方形を成している。」が記載されている(上記ア.(ウ))から、「基部5aは、X軸に平行な線分を含む長方形であ」るとの技術事項が読み取れる。
(エ)刊行物1には、「この角速度検出装置は、電極23?34の一部に水晶振動片6a及び7aをX軸方向に振動させる駆動電圧を印加するとともに電極23?34の一部からの水晶振動片6a及び7aのZ軸方向の振動に対応した信号を検知する電気回路102を備える。」が記載されている(上記ア.(オ))から、「水晶振動片6a及び7aは、駆動電圧の印加によりX軸方向に振動され、Z軸方向の振動を検知され」るとの技術事項が読み取れる。
(オ)刊行物1の図15には、2つの振動片対応領域は、基部対応領域に近づくにつれて2段階に広がる部分を有することが図示されており(上記ア.(ク))、2つの振動片対応領域を有するマスクを用いてエッチングされ形成される2つの水晶振動片(上記ア.(カ))の形状も同様であるから、「水晶振動片は、基部に近づくにつれて2段階に広がる部分を有」するとの技術事項が読み取れる。
(カ)上記ア.(エ)の記載から、「エッチング速度の違いにより、水晶振動片6aは、振動片対応領域6の根元の線分13の直下からX1軸の正方向に突出した突出部22を有する」との技術事項が読み取れる。

(キ)以上のことを踏まえて、前記技術事項を総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「水晶は、X軸と±120度の角度を成す2つのX1軸及びX2軸を有する3回回転対称の結晶であり、
基部対応領域5から水晶ウエハ1の所定のX軸に直交する軸(Y’軸)に沿って同一方向に延びた第1及び第2振動片対応領域6,7を有するマスク3及び4を用い、水晶ウエハ1の金属マスク3及び4の形成されていない領域をエッチング液によって除去することで形成され、水晶からなる基部5a及び基部5aから同一方向に延びており電圧が印加されることによって振動可能な第1及び第2水晶振動片6a及び7aを備えた水晶振動子100であって、
前記基部5aは、X軸に平行な線分を含む長方形であり、
前記第1及び第2水晶振動片6a及び7aは、駆動電圧の印加によりX軸方向に振動され、Z軸方向の振動を検知され、基部に近づくにつれて2段階に広がる部分を有し、
エッチング速度の違いにより、前記第1水晶振動片6aは、前記振動片対応領域6の根元の線分13の直下から前記X1軸の正方向に突出した突出部22を有する
水晶振動子100。」

(2)刊行物2
ア.刊行物2の記載
刊行物2には、以下の記載がある。
(ア)段落0009から0010まで
「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、所定平面に沿って形成されている振動片であって、所定平面に略平行な一対の面と、一対の側面とを備えている振動片、この振動片を固定する固定部、振動片の付け根部分において一方の側面側に設けられている一方のテーパー部、および振動片の付け根部分において他方の側面側に設けられている他方のテーパー部を備えており、他方のテーパー部の固定部からの高さが、一方のテーパー部の固定部からの高さよりも小さいことを特徴とする。
【0010】また、本発明は、前記の振動子を備えていることを特徴とする、振動型ジャイロスコープに係るものである。」
(イ)段落0016から0017まで
「【0016】本発明者は、この理由を検討したところ、以下の知見に至った。即ち、例えばエッチング処理後には、振動片11の側面11aや11bに突起な稜線が生成することがある。例えば水晶からなるウエハーをエッチングして振動片11を形成すると、図3に示すように、一方の側面(+X面)11a上に細長い突起26が残留する。この突起26の高さは、例えば25?30μm程度であり、突起26の幅は100μm程度になることがある。こうした突起26は-X面11b側には形成されない。
【0017】一方、-X面11b側には、図4に拡大して示すように、細長い稜線29が形成されていた。この稜線29は、-X面11b上を細長く延びていた。稜線29の両側には、略平面状の傾斜面28A、28Bが、角27へと向かって延びていた。」
(ウ)段落0021
「【0021】この理由は、以下のように考えられる。図5において、稜線29の末端位置9Aの高さはDであり、9Bの高さはCである。高さDはAに近く、他方のテーパー部3B上において稜線29は短い。これに対して、稜線29の末端位置が9Bにある場合には、他方のテーパー部3B上において稜線29が長くなり、ゼロ点温度ドリフトに比較的に大きい影響を与えるものと思われる。ここで、本発明に従い、他方のテーパー部13Bを相対的に低くすることによって、稜線29の末端位置の偏差ないしバラツキが小さくなり、この結果、振動子ごとのゼロ点温度ドリフトのバラツキを低減できたものと思われる。」
(エ)段落0027から0029まで
「【0027】このエッチャントは限定されないが、以下のものが好ましい。エッチャントは、ふっ酸を含有していることが好ましく、ふっ酸水溶液か、あるいはふっ酸とフッ化アンモニウムとを任意の割合で混合した水溶液が好ましい。エッチャントの濃度は、40重量%以下が好ましく、エッチャントの温度は、40?80℃が好ましい。
【0028】振動子の材質は特に限定しないが、水晶、LiNbO3、LiTaO3、ニオブ酸リチウム-タンタル酸リチウム固溶体(Li(Nb,Ta)O3)単結晶、ホウ酸リチウム単結晶、ランガサイト単結晶等からなる圧電単結晶を使用することが好ましい。
【0029】特に好ましくは、振動子が、所定平面内に3回回転対称のa軸を有し、かつ所定平面に垂直な方向にc軸を有する圧電性単結晶からなる。これは特に好ましくは水晶である。」

イ.刊行物2に記載された技術事項(技術事項2)
上記ア.(ア)から(エ)までの記載と、図3から5までに示された事項とを総合すると、刊行物2には、以下の技術事項(以下、「技術事項2」という。)が記載されている。

「所定平面に沿って形成されている振動片であって、前記所定平面に略平行な一対の面と、一対の側面とを備えている振動片、この振動片を固定する固定部、前記振動片の付け根部分において一方の前記側面側に設けられている一方のテーパー部、および前記振動片の付け根部分において他方の前記側面側に設けられている他方のテーパー部を備えている振動型ジャイロスコープ用振動子において、
3回回転対称のa軸を有し、かつ所定平面に垂直な方向にc軸を有する圧電性単結晶からなる水晶ウエハーをエッチャント(エッチング液)でエッチングして振動片11を形成すると、振動片の一方の側面(+X面)11a上に細長い突起26が残留し、-X面11b側に、細長い稜線29が形成されるところ、他方のテーパー部13Bを相対的に低くすることによって、他方のテーパー部3B上にある稜線29の末端位置の偏差ないしバラツキを小さくし、この結果、振動子ごとのゼロ点温度ドリフトのバラツキを低減する。」

(3)刊行物3
ア.刊行物3の記載
刊行物3には、以下の記載がある。
(ア)第2頁左上欄第11行から右上欄第4行まで
「次に第3図より本発明の実施例について説明する。第3図は改良された音叉形状を示す。すなわち、図に示す矢印方向を水晶x面の+方向とすると、エッチング加工により溝底部5は結晶性により、左側が大きく右側が小さくその自然面が残る。そこで左側の肩11を高くし、右側の肩12を低くして図に示す点線位置を基部6の下面に平行となるように左肩を10?50μ上げ、右肩を10?50μ下げて設計した。そうすることによつて第4図に示すように、音叉を先端からみた時、矢印方向から力が加わっても剛性は左側と右側とでほゞ同じ値となり、ねじれが起こらない。従つて特定の部分に応力の集中が起らず、衝撃に強い水晶振動片を得ることができる。」

イ.刊行物3に記載された技術事項(技術事項3)
上記ア.(ア)の記載と、第3図及び第4図に示された事項とを総合すると、刊行物3には、以下の技術事項(以下、「技術事項3」という。)が記載されている。
「音叉形状の水晶振動子において、エッチング加工により、溝底部5に、左側が大きく右側が小さくその自然面が残ることに鑑み、左肩を10?50μ上げ、右肩を10?50μ下げて設計することで、左側と右側の剛性を同じにし、ねじれが起こらないようにする。」

(4)刊行物4
ア.刊行物4の記載
刊行物4には、以下の記載がある。
(ア)第1頁左下欄第7行から第11行まで
「(1) 腕部と基部で構成される音叉型水晶振動子において、腕部の片側に形成されるエッチング残りの20%?60%を、前記腕部の他の片側に相対的に延長して設けたことを特徴とする音叉型水晶振動子。」
(イ))第2頁右上欄第18行から左下欄第7行まで
「第4図に示すように、エッチング残り5がある場合の音叉型水晶振動子の振動変位が中心線Oで左右対称とならないのは、エッチング残り5のために、腕部1がエッチング残り5の側へ屈曲するときと、その反対側へ屈曲するときとで屈曲の容易さに差が生じるためである。つまり、左、右対称振動を得るためには、腕部1の屈曲の容易さを等しくすることで解決されることになり、したがって、エッチング残り寸法を他の片側に延長して設ければよいことになる。」

イ.刊行物4に記載された技術事項(技術事項4)
上記ア.(ア)から(イ)までの記載と、第4図に示された事項とを総合すると、刊行物4には、以下の技術事項(以下、「技術事項4」という。)が記載されている。

「腕部と基部で構成される音叉型水晶振動子において、左、右対称振動を得るために、腕部の屈曲の容易さを等しくするように、腕部の片側に形成されるエッチング残りの20%?60%を、前記腕部の他の片側に相対的に延長して設ける。」

(5)刊行物5
ア.刊行物5の記載
刊行物5には、以下の記載がある。
(ア)請求項5
「【請求項5】 振動に関与しない固定部に固定された基部と、該基部の一端から平行に並んで突出した少なくとも2本の振動片とを有する角速度検出素子において、
前記各振動片の並びに沿った方向と前記振動片の長手方向とに直交する方向をY軸と規定したときに、該Y軸と直交する前記基部の主面における所定領域を、前記各振動片の股部から前記振動片の長手方向と平行に前記基部側に所定距離だけ入り込んだ振動数調整領域として有し、
該振動数調整領域に該当する範囲の前記基板主面には、剛性を増減させる剛性増減処置が施されていることを特徴とする角速度検出素子。」
(イ)段落0007
「【0007】本発明は、上記問題点を解決するためになされ、直交する2方向の固有振動数が近接するよういずれかの固有振動数を独立して調整可能な振動数調整方法と、両方向の固有振動数が近接した角速度検出素子を提供することを目的とする。」
(ウ)段落0016
「【0016】上記した角速度検出素子の振動数調整方法において、振動数調整領域の剛性を増減する工程を、振動数調整領域に当たる基部主面を削り取る又は質量体を接合する工程か、振動数調整領域に設けられた振動数調整体を削り取る又は質量体を接合する工程とした。振動数調整領域の剛性を増減する工程をこのような工程とすることで、日常的な処置、例えば切削,エッチング,半田付け,金属やセラミック等の接着などを経て、Y軸方向の固有振動数のみの調整(増減)が可能となる。」

イ.刊行物5に記載された技術事項(技術事項5)
上記ア.(ア)から(ウ)までの記載を総合すると、刊行物5には、以下の技術事項(以下、「技術事項5」という。)が記載されている。

「振動に関与しない固定部に固定された基部と、該基部の一端から平行に並んで突出した少なくとも2本の振動片とを有する角速度検出素子において、
前記各振動片の並びに沿った方向と前記振動片の長手方向とに直交する方向をY軸と規定したときに、該Y軸と直交する前記基部の主面における所定領域を、エッチング等することで固有振動数を調整する。」

2.本件補正発明2について
(1)対比
事案に鑑み、本件補正発明2と引用発明1とを対比すると、以下のとおりである。
ア.引用発明1における「水晶は、X軸と±120度の角度を成す2つのX1軸及びX2軸を有する3回回転対称の結晶であ」ることは、X軸、X1軸及びX2軸という3つの軸を有する3回回転対称の結晶である水晶を意味しており、引用発明1におけるX軸、X1軸及びX2軸は、本件補正発明2におけるX1軸、X2軸及びX3軸にそれぞれ対応するものである。また、引用発明1における水晶は、電圧が印加されることによって振動可能であり、圧電材料として用いられる材料であるから、引用発明1における「水晶」は、本件補正発明2における「X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶」であるといえる。

イ.引用発明1における「基部対応領域5から水晶ウエハ1の所定のX軸に直交する軸(Y’軸)に沿って同一方向に延びた第1及び第2振動片対応領域6,7を有するマスク3及び4を用い、水晶ウエハ1の金属マスク3及び4の形成されていない領域をエッチング液によって除去することで形成され」ることは、本件補正発明2における「水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成される」ことに相当する。

ウ.引用発明1における「基部5a及び基部5aから同一方向に延びており電圧が印加されることによって振動可能な第1及び第2水晶振動片6a及び7a」は、その形状から音叉型構造の水晶振動子であり、角速度検出装置に用いられる素子であるから(上記1.(1)ア.(ア))、本件補正発明2における「音叉型構造の慣性センサ素子」に相当するといえる。

エ.引用発明1における「前記基部5aは、X軸に平行な線分を含む長方形であ」ることは、本件補正発明2における「軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部」であることに相当する。

オ.引用発明1において、X軸に直交する軸(Y’軸)に沿って同一方向に延びた第1及び第2振動片対応領域6,7を有するマスクによって形成される第1及び第2水晶振動片6a及び7aは、基部5aがX軸に平行であることを踏まえると、基部5aと直交する方向に延出するするものである。また、引用発明1における「第1及び第2水晶振動片6a及び7aは、駆動電圧の印加によりX軸方向に振動され、Z軸方向の振動を検知され」ることは、一方又は他方の水晶振動片が駆動又は検知のための部材であることを意味するから、引用発明1における「第1及び第2水晶振動片6a及び7a」は、本件補正発明2における「軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部の一方の端側から延出する検出脚部と、前記検出脚部と向かい合って、前記基部の他方の端側から延出する励振脚部」に相当するといえる。

カ.引用発明1における「第1及び第2水晶振動片6a及び7aは、・・・基部に近づくにつれて2段階に広がる部分を有」することは、上記オ.の相当関係を踏まえると、本件補正発明2における「前記検出脚部及び前記励振脚部の前記基部側に向く各端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部」を有することに相当するといえる。

キ.引用発明1における「突出部」は、エッチング残り(1.(1)ア.(エ))であり、本件補正発明2における「ウェットエッチングにより形成される残渣」に相当する。また、引用発明1における「振動片対応領域6の根元の線分13」は、基部対応領域に近づくにつれて広がる部分である(1.(1)ア.(ク))ことを踏まえると、引用発明1における「エッチング速度の違いにより、前記第1水晶振動片6aは、前記振動片対応領域6の根元の線分13の直下から前記X1軸の正方向に突出した突出部22を有する」ことは、本件補正発明2における「前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣」を備えることに相当するといえる。

ク.以上のことをまとめると、本件補正発明2と引用発明1との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点1)
「X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成される音叉型構造の慣性センサ素子であって、
軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部の一方の端側から延出する検出脚部と、
前記検出脚部と向かい合って、前記基部の他方の端側から延出する励振脚部と、
前記検出脚部及び前記励振脚部の前記基部側に向く各端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部と、
前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣と、
を備える慣性センサ素子。」

(相違点1)
本件補正発明2は、「前記励振脚部及び前記検出脚部における前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、隣り合う前記励振脚部と前記検出脚部において前記基部の軸線方向と平行となる一つの直線上に位置する」という位置関係があるのに対し、刊行物1には、前記位置関係について記載されておらず、引用発明1に前記位置関係があるとはいえない点。

(2)相違点1についての判断
ア.技術事項2ないし5について、以下に再掲する。
(技術事項2)
「所定平面に沿って形成されている振動片であって、前記所定平面に略平行な一対の面と、一対の側面とを備えている振動片、この振動片を固定する固定部、前記振動片の付け根部分において一方の前記側面側に設けられている一方のテーパー部、および前記振動片の付け根部分において他方の前記側面側に設けられている他方のテーパー部を備えている振動型ジャイロスコープ用振動子において、
3回回転対称のa軸を有し、かつ所定平面に垂直な方向にc軸を有する圧電性単結晶からなる水晶ウエハーをエッチャント(エッチング液)でエッチングして振動片11を形成すると、振動片の一方の側面(+X面)11a上に細長い突起26が残留し、-X面11b側に、細長い稜線29が形成されるところ、他方のテーパー部13Bを相対的に低くすることによって、他方のテーパー部3B上にある稜線29の末端位置の偏差ないしバラツキを小さくし、この結果、振動子ごとのゼロ点温度ドリフトのバラツキを低減する。」
(技術事項3)
「音叉形状の水晶振動子において、エッチング加工により、溝底部5に、左側が大きく右側が小さくその自然面が残ることに鑑み、左肩を10?50μ上げ、右肩を10?50μ下げて設計することで、左側と右側の剛性を同じにし、ねじれが起こらないようにする。」
(技術事項4)
「腕部と基部で構成される音叉型水晶振動子において、左、右対称振動を得るために、腕部の屈曲の容易さを等しくするように、腕部の片側に形成されるエッチング残りの20%?60%を、前記腕部の他の片側に相対的に延長して設ける。」
(技術事項5)
「振動に関与しない固定部に固定された基部と、該基部の一端から平行に並んで突出した少なくとも2本の振動片とを有する角速度検出素子において、
前記各振動片の並びに沿った方向と前記振動片の長手方向とに直交する方向をY軸と規定したときに、該Y軸と直交する前記基部の主面における所定領域を、エッチング等することで固有振動数を調整する。」

イ.技術事項2について
技術事項2における振動片の-X面11b側に、エッチングにより形成される細長い稜線29は、本件補正発明2における「残渣」に相当するが、技術事項2は、他方のテーパー部3B上にある稜線29(残渣)の末端位置に関するものであるのに対し、本件補正発明2は、「前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置」に関するものであり、関心としている残渣の位置が異なるものであるから、技術事項2から残渣の基部から離れる先端の位置に関わる位置関係を当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ.技術事項3について
技術事項3における、溝底部5の左側が大きく右側が小さく残る自然面は、本件補正発明2における「残渣」に相当するが、技術事項3は、音叉形状の水晶振動子の左右の肩部の位置を設計するもので、本件補正発明2における「前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置」に関する位置関係について示唆するものではない。

エ.技術事項4について
技術事項4における、エッチング残りは、本件補正発明2における「残渣」に相当するが、技術事項4は、腕部の片側に形成されるエッチング残り(残渣)についてのものであって、テーパー部の残渣についてのものではなく、本件補正発明2における「前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置」に関する位置関係について示唆するものではない。

オ.技術事項5について
技術事項5は、エッチング等することで固有振動数を調整するものであって、本件補正発明2における「前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置」に関する位置関係について示唆するものではない。

カ.引用発明1への技術事項2ないし5の適用について
上記イ.ないしオ.のとおり、技術事項2ないし5は、本件補正発明2における「前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置」に関する位置関係について示唆するものではないことから、引用発明1に技術事項2ないし5を適用したとしても、本件補正発明2を得ることはできない。

キ.まとめ
よって、本件補正発明2は、引用発明1及び技術事項2ないし5に基づいて当業者が容易に想到することができたとはいえない。
そして、本件補正発明2は、前記位置関係を有することにより、「慣性センサ素子105(105´)の残渣Nを含めた全体の形状において、振動バランスが良好な形状となる。また、素子の形成においても、残渣Nの除去や整形を行う必要がないので、生産性を向上させることもできる。」(本件明細書段落0050参照。)という効果を奏するものである。

3.本件補正発明1、本件補正発明3ないし5について
(1)本件補正発明1ないし5の関係について
本件補正発明1ないし5は、
「X1軸、X2軸、X3軸を有する三回対称の圧電材料である水晶からウェットエッチングによって素子外形が形成される慣性センサ素子であって、
軸線方向がX1軸、X2軸、X3軸のうちいずれか1つの軸と平行となる基部と、
軸線方向が前記基部と直交する方向であって前記基部から延出する検出脚部と、
前記検出脚部とは反対側に前記基部から延出する励振脚部と、
前記検出脚部及び前記励振脚部の前記基部側に向く各端側において該基部に近づくにつれて広がるように2段階に拡幅するテーパ部と、
前記テーパ部にウェットエッチングにより形成される残渣と、
を備え、
前記励振脚部における前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、前記励振脚部において前記基部の軸線方向と平行となる一つの直線上に位置する、
ことを特徴とする慣性センサ素子。」との発明特定事項を共に有するものであり、それぞれ、H型構造の慣性センサ素子の発明、音叉型構造の慣性センサ素子の発明、三脚音叉型構造の慣性センサ素子の発明、略王の字型構造の慣性センサ素子の発明、音片型構造の発明の慣性センサ素子の発明である。

(2)本件補正発明1、本件補正発明3ないし5についての判断
そして、本件補正発明1、本件補正発明3ないし5は、本件補正発明2と同様に、いずれも「前記励振脚部における前記ウェットエッチングで得られる当該テーパ部において、前記基部の+X方向を向く辺における拡幅開始位置と、前記基部の+X方向を向く辺とは反対側の辺に形成される残渣の前記基部から離れる先端の位置とが、前記励振脚部において前記基部の軸線方向と平行となる一つの直線上に位置する」という位置関係を有するものであるから、上記「2.(2)相違点1についての判断」で説示したのと同様に、本件補正発明1、本件補正発明3ないし5についても、引用発明1及び技術事項2ないし5に基づいて当業者が容易に想到することができたとはいえない。

4.独立特許要件についての判断のまとめ
本件補正発明1ないし5は、いずれも引用発明1と技術事項2ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。すなわち、本件補正発明1ないし5は、いずれも特許出願の際独立して特許を受けることができるものであると認められる。したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

第4 本件出願に係る発明について
1.本件出願に係る発明
上記「第2」及び上記「第3」で述べたとおり、本件補正は適法と認められるから、本件出願に係る発明は、本件補正後の請求項1ないし5のそれぞれに係る発明、すなわち、本件補正発明1ないし5である。
そこで、以下では、本件補正発明1ないし5のそれぞれを、改めて「本件発明1」、「本件発明2」などという。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1ないし3を引用し、本願の請求項1ないし5に係る発明は、いずれも、刊行物1に記載された発明に、刊行物2及び刊行物3に記載された技術事項を適用することにより、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


刊行物1:特開平10-41772号公報(前掲)
刊行物2:特開2003-207338号公報(前掲)
刊行物3:特開昭57-60718号公報(前掲)

3.判断
上記「第3」で述べたとおり、本件発明1ないし5は、いずれも、刊行物1に記載された発明(引用発明1)と刊行物2、3に記載された技術事項(技術事項2、3)とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件出願については、原査定の拒絶の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-15 
結審通知日 2014-01-21 
審決日 2014-02-03 
出願番号 特願2005-376746(P2005-376746)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01C)
P 1 8・ 575- WY (G01C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 櫻井 健太目黒 大地岸 智史小野寺 麻美子  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 飯野 茂
中塚 直樹
発明の名称 慣性センサ素子  

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