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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02K
管理番号 1284428
審判番号 不服2013-13823  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-18 
確定日 2013-12-10 
事件の表示 特願2012-229361「揺動型アクチュエータ」拒絶査定不服審判事件〔、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年10月16日の出願であって,平成25年4月16日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成25年7月18日に拒絶査定不服審判請求されるとともに同日付けで手続補正書が提出されたものである。
そして,当審において,平成25年9月6日付けで審尋を行ったところ,請求人は平成25年11月6日付けの意見書をもってこれに回答した。

第2 平成25年7月18日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を,
「【請求項1】
所定の内部空間を有するハウジングと、
該ハウジング内に軸回転自在に支持されて外部への出力部を備えたシャフトと、
該シャフトに固定支持されて該シャフトの軸と垂直な揺動面をもって所定の回転角度範囲で円心揺動する平盤状の揺動アームと、
該揺動アームの揺動方向に沿って並設し、かつ互いに異なる磁極面を前記揺動面上に配設した2個の永久磁石と、
該永久磁石の両端側の磁極面とそれぞれエアギャップをもって対面配置した2個の電磁コイルと、
該各電磁コイルの外周囲の前記揺動行程の両端部付近において、並設した一方側の永久磁石を、エアギャップをもって挟むようにして対向配置した一対の磁性体の補極と、から成り、
該補極は、前記ハウジングと一体形成であると共に、前記一対の補極と永久磁石の対向位置が、前記並設した永久磁石の揺動外側の縁辺部であることを特徴とした揺動型アクチュエータ。」(下線は,当審が補正箇所を明示するために付したものである。)にするものである。

2.補正の適否
本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「補極」について,それが「ハウジングと一体形成であると共に、一対の補極と永久磁石の対向位置が、前記並設した永久磁石の揺動外側の縁辺部である」点を限定するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,特許法第17条の2第3項,第4項に違反するところはない。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)刊行物の記載事項
ア.原査定の拒絶の理由に引用された特開2012-175735号公報(以下「刊行物1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献2に示す上記従来の構成では、図11で説明したように、ロータリーソレノイドの磁気回路が磁性体のケースを利用して構成されるため、磁路が長いだけでなく、磁気抵抗が著しく大きく、効率の悪い磁気回路となっている。このため、所定の特性を得るためにマグネットのグレードを高くしたり、マグネットの厚みを必要以上に大きくし、パーミアンス係数を上げてマグネットの減磁に対処することになる。このような構成は材料費の高騰やロータリーソレノイドの大型化を招く問題を有している。
【0014】
本発明は、上記のような課題を解決するものであり、ロータリーソレノイドに最適な磁気回路を提供し、材料費の低廉化と装置の小型化を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明のロータリーソレノイドは、磁性体から成るスイングヨークと固定ヨークを配置して、最短距離で磁気回路を構成し、例えば残留磁束密度等のグレードが低い材質のマグネットを使用しても、磁路を最適に設計することが可能で、従来と同等以上の特性を維持できる構造を提供するものである。」
・「【発明の効果】
【0026】
本発明のロータリーソレノイドは、上記の構成を採ることより最適な磁気回路が構成されるため、以下の効果を奏する。
(1)グレード(残留磁束密度等)の低いボンドマグネット等で、従来と同様の出力特性が得られる。または、従来と同じグレードのマグネットの場合には、厚み等を大幅(半分近く)に小さく設計できるため、マグネットの材料費を大きく低減できる。
(2)マグネットの材質や形状変更で、スイング部の慣性モーメントが低減されるため、ロータリーソレノイドとしての応答時間を短くできる。または、電磁コイルの通電電流が低減でき効率アップとなる。
(3)外周ケース部を磁性体で構成する必要がないので、安価な樹脂材料等で構成できる。
(4)スイングヨークを直接出力軸に固定することで、部品数が低減できる。
(5)マグネットに樹脂を配合したボンドマグネットとして、2個のマグネットを一体に成形できる。」
・「【0029】
図1は第一の実施形態によるロータリーソレノイドを示すものであり、箱状の外周ケース部10の上面より突出した出力軸20をスイング角±θとして反復的にスイング運動させるものである。外周ケース部10は、上ケース11と下ケース12とを側面部で結合させる構造で、樹脂材料にて成形されており、両ケース11,12の出力軸20の貫通部位には軸受部13がケースに一体に形成され、出力軸20を回動自在に支持する構成になっている。出力軸20の下端部は下ケース12上で支持され、出力軸20の上部は上ケース11の軸受部13から外部に導出されている。
【0030】
下ケース12の内側上面には、磁性体からなる固定ヨーク30が固定され、さらにこの固定ヨーク30上の中央部には電磁コイル40が固定されている。電磁コイル40は中心に磁性体からなる主磁極41を有し、主磁極41の回りにコイルボビン42を介してマグネットワイヤ43が巻回されて構成されている。主磁極41の下端部は固定ヨーク30に
固定され、磁気的に結合されている。固定ヨーク30は、図4に示すような対称多角形状に形成されており、固定ヨーク30の左右には、電磁コイル40の外周位置の両側に位置すると共に折り曲げ加工により出力軸20の軸線と平行で上方に立ち上げられた突起部31,32が形成されている。この突起部31,32は電磁コイル40の主磁極41とほぼ同じ高さとなるように設定されている。
【0031】
上記した出力軸20には、外周ケース部10の内部における上側位置に、該出力軸20と直交するようスイングヨーク50が固定されている。スイングヨーク50は磁性板により構成され、図5に示すように、出力軸20の中心を通る中央線に対して左右対称な形状になっている。スイングヨーク50の下面は出力軸20に直交する平面部となっており、この平面部に2個のマグネット51,52が上記中央線に対して対称な位置に固着されている。2個のマグネット51,52は各々出力軸20と平行な方向つまり上下方向に単極着磁され、かつ着磁の向きが互いに逆になるように設定されている。具体的には、図2に見られるように、一方(右側)のマグネット51の下側の磁極がN極に、他方(左側)のマグネット52の下側の磁極がS極にそれぞれ設定されている。さらに、これらマグネット51,52は、互いに異なる磁極がエアギャップを介して電磁コイル40に対向するよう並置され、マグネット51,52の磁化方向に主磁極41の上面及び突起部31,32の上端面に対向するように配置されている。
【0032】
外周ケース部10の左右内側面には、スイングヨーク50の外側面に対応して、スイングヨーク50の回動範囲を規制するストッパ14,15が固定されている。ロータリーソレノイドのスイング角が±θに規制されているとしたとき、図5に示すように出力軸20の中心を通る中央線に対して、2個のマグネット51、52の内側縁は±θの角度で配置されている。また、前記固定ヨーク30における両突起部31,32の前後方向の配置角度は、図4に示すように、出力軸20の中心と主磁極41の中心とを結ぶ直線に対して、それぞれほぼ2θの角度を有するように設定されている。図3は、スイングヨーク50の停止位置、つまりにスイングヨーク50が右側のストッパ14に当接した停止位置でのマグネット51,52と突起部31,32との位置関係を示すものである。スイングヨーク50における左側のマグネット52はその内側縁部と主磁極41のセンタとが上下方向にほぼ一致し、また右側のマグネット51の外側縁部と突起部31の端面の幅方向のセンタとが上下方向にほぼ一致するように配置され、最大の磁気吸引反発力が得られるようになっている。スイングヨーク50が左側のストッパ15に当接した停止位置でも、同様に、スイングヨーク50における右側のマグネット51の内側縁部と主磁極41のセンタとが上下方向にほぼ一致し、左側のマグネット52の外側縁部と突起部32の幅方向のセンタとが上下方向にほぼ一致するように配置される。」
・「【0035】
図2は、この移動位置で無通電状態とした場合の自己保持状態での磁束のルートを示すものである。最短の磁気回路を構成するために専用の固定ヨーク30を配置し、その両端は立ち上げて突起部31,32を形成しているため、右側のマグネット51のN極から出た磁束は、狭い空隙g1を介して主磁極2を経由して、固定ヨーク30の底面から、突起部32の端面4に至り、狭い空隙g2を介して左側のマグネット52のS極に入り、スイングヨーク50を介してマグネット51に戻る磁路が形成される。このように非常に短く磁気抵抗の低い磁気回路構成にすることができる。この磁路で2カ所の空隙g1,g2に生じる磁束ベクトルはほぼ同一方向に傾いている。磁束はゴムのような特性と等価で、最短距離で短く縮む性質がある。図2中のこの磁束の傾きによりマグネット51,52を取り付けたスイングヨーク50は図中の大矢印のように左方向に移動する応力が残った状態で、ストッパ15により自己保持される。」
・「【0046】
また、上記実施形態では、固定ヨーク,電磁コイル,スイングヨーク等を収容する外周ケース部を樹脂成形体により構成したが、外周ケース部内では最短距離で集中する磁気回路を構成しているため、外部への漏れ磁束は殆ど問題にならない。特に微弱な磁束に対しても磁気シールド機能が要求される環境においては、樹脂成形体の材料に磁性粉を混入させたり、樹脂成形体の外周にシールド層を形成するだけで対応することが可能である。
さらには、外周ケース部を磁性材料にて形成することも可能である。この場合、外周ケース部とスイングヨーク及びマグネットとの間隙は、固定ヨークの突起部とマグネット間の間隙(g2)に比較して大幅に大きいため、磁束は専らマグネットと突起部との間を通ることになり、上述した実施形態の場合と同様の作用効果が得られる上、磁性体ケースによるシールド効果が発揮されることになる。なお、外周ケース部を磁性材料で形成する場合は、ストッパは非磁性材料で構成される。」

・図1,2より,外周ケース部10は,所定の内部空間を有する点,スイングヨーク50は平盤状である点,マグネット51,52はスイングヨーク50のスイング方向に沿って並設されている点が把握できる。
・段落【0032】には,スイングヨーク50が右側のストッパ14に当接した停止位置について,「右側のマグネット51の外側縁部と突起部31の端面の幅方向のセンタとが上下方向にほぼ一致するように配置され」と記載され,また,「左側のストッパ15に当接した停止位置でも,同様に」と記載されているから,これと図3の記載内容をあわせれば,電磁コイル40の外周囲の揺動行程の両端部付近において、磁性体の突起部31,32が配置されるとともに,突起部31,32の配置位置は、並設したマグネット51,52の外側縁部であるといえる。

以上の記載を整理し,本願補正発明にならって表現すると,刊行物1には,次の発明が記載されていると認めることができる(以下,この発明を「刊行物1記載の発明」と言う。)。
「所定の内部空間を有する外周ケース部10と、
該外周ケース部10内に回動自在に支持される出力軸20と、
該出力軸20に固定されて該出力軸20の軸と直交する平面部をもって所定のスイング角でスイングする平盤状のスイングヨーク50と、
該スイングヨーク50のスイング方向に沿って並設し、かつ互いに異なる磁極面を前記平面部上に配設した2個のマグネット51,52と、
該マグネット51,52の磁極面とエアギャップをもって配置した1個の電磁コイル40と、
該電磁コイル40の外周囲の前記揺動行程の両端部付近において,配置した磁性体の突起部31,32と、から成り、
該突起部31,32は、固定ヨーク30に形成されると共に、前記突起部31,32の配置位置が、前記並設したマグネット51,52の外側縁部であるロータリーソレノイド。」

イ.原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-174409号公報(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0005】
【発明の実施の形態】 以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る可動磁石型ロータリアクチュエータの一実施形態を示すもので、同図において、(a)は上側駆動コイルを省略した平面図で、(b)はその要部側断面図であり、断面コ字状のケース11と取付板12からなるケースAのほぼ中央部にはケースAと共に磁気回路を形成する1組のコア14,14′が一定間隙をおいて対設され、このコア14,14′に駆動コイル13,13′が巻装されている。また、ケースAの一端部にはシャフト15が上下の軸受16により回動自在に取着けられ、このシャフト15にはV字形支持部材15aがコア14,14′間を回動自在に固定されている。そして、図1(b)に示す如く、この支持部材15aの両腕15a1,15a2にはコア14,14′間を通過する位置に永久磁石17,17′が成形固着されていて、上下磁極が反対になるように着磁されている。なお、18,18′は支持部材15aの左右ストッパである。
【0006】 上記構成の本発明は次のように作動する。すなわち、まず、駆動コイル13,13′に通電すると、断面コ字形ケース11,コア14′,コア14,取付板12,ケース11の磁気回路が閉成して、例えば、永久磁石17′がコア14,14′に吸引されて支持部材15aがストッパ18で停止し、通電を断っても、図1(b)に示される位置に保持される。次いで、駆動コイル13,13′に前と逆方向に通電すると、前述の磁気回路における磁束方向が逆になり、図示しないが、永久磁石17′とは反対方向に着磁されている永久磁石17の方がコア14,14′に吸引され、ストッパ18′で停止する。通電を止めても、その位置保持状態を継続する。
【0007】 本形態によれば、上下1組の駆動コイルと左右2個の永久磁石17,17′とで構成したので、構造が簡素化され、駆動コイルの配線等が容易になったため、安価で、高信頼性の可動磁石型ロータリアクチュエータが得られる。」

(2)対比
本願補正発明と刊行物1記載の発明とを対比する。
後者の「外周ケース部10」は,前者の「ハウジング」に相当し,以下同様に,「回転自在」は「軸回転自在」に,「出力軸20」は「シャフト」に,「固定」は「固定支持」に,「直交する」は「垂直な」に,「平面部」は「揺動面」に,「スイング角」は「回転角度範囲」に,「スイング」は「円心揺動」に,「スイングヨーク50」は「揺動アーム」に,「スイング方向」は「揺動方向」に,「マグネット51,52」は「永久磁石」に,「電磁コイル40」は「電磁コイル」に,「突起部31,32」は「補極」に,「外側縁部」は「揺動外側の縁辺部」に,「ロータリーソレノイド」は「揺動型アクチュエータ」に,それぞれ,相当する。
また,出力軸に出力部を備えることは自明であるから,後者の「回動自在に支持される出力軸20」は,前者の「軸回転自在に支持されて外部への出力部を備えたシャフト」に相当する。
後者の「マグネット51,52の磁極面とエアギャップをもって配置した1個の電磁コイル40」と「永久磁石の両端側の磁極面とそれぞれエアギャップをもって対面配置した2個の電磁コイル」とは,「永久磁石の磁極面とエアギャップをもって配置した電磁コイル」という概念で共通する。
後者の「電磁コイル40の外周囲の揺動行程の両端部付近において,配置した磁性体の突起部31,32と、から成」る態様と,前者の「各電磁コイルの外周囲の揺動行程の両端部付近において、並設した一方側の永久磁石を、エアギャップをもって挟むようにして対向配置した一対の磁性体の補極と、から成」る態様とは,「電磁コイルの外周囲の揺動行程の両端部付近において、配置した磁性体の補極と、から成」るという概念で共通する。
後者の「突起部31,32は、固定ヨーク30に形成されると共に、突起部31,32の配置位置が、並設したマグネット51,52の外側縁部である」という態様と,「補極は、ハウジングと一体形成であると共に、一対の補極と永久磁石の対向位置が、並設した永久磁石の揺動外側の縁辺部である」という態様とは,「補極は、補極の配置位置が、並設した永久磁石の揺動外側の縁辺部である」という概念で共通する。

そうすると,両者の一致点及び相違点は,次のとおりである。
[一致点]
所定の内部空間を有するハウジングと、
該ハウジング内に軸回転自在に支持されて外部への出力部を備えたシャフトと、
該シャフトに固定支持されて該シャフトの軸と垂直な揺動面をもって所定の回転角度範囲で円心揺動する平盤状の揺動アームと、
該揺動アームの揺動方向に沿って並設し、かつ互いに異なる磁極面を前記揺動面上に配設した2個の永久磁石と、
該永久磁石の磁極面とエアギャップをもって配置した電磁コイルと、
該電磁コイルの外周囲の前記揺動行程の両端部付近において、配置した磁性体の補極と、から成り、
該補極は、前記補極の配置位置が、前記並設した永久磁石の揺動外側の縁辺部である揺動型アクチュエータ。

[相違点1]
電磁コイルについて,本願補正発明では,永久磁石の両端側の磁極面とそれぞれエアギャップをもって対面配置した2個の電磁コイルであるのに対し,刊行物1記載の発明では,永久磁石の磁極面とエアギャップをもって配置した1個の電磁コイルである点。

[相違点2]
補極について,本願補正発明では,各電磁コイルの外周囲の前記揺動行程の両端部付近において、並設した一方側の永久磁石を、エアギャップをもって挟むようにして対向配置した一対の磁性体の補極であるのに対し,刊行物1記載の発明では,一対の補極ではない点。

[相違点3]
補極について,本願補正発明では,ハウジングと一体形成されているのに対し,刊行物1記載の発明では,固定ヨークに形成される点。
される点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
[相違点1] について
刊行物2には,永久磁石の両端側に2個の駆動コイルを配置し,通電を断つと永久磁石がコアに吸引されて支持部材の位置を保持するロータリーアクチュエータ(以下,「刊行物2記載の技術的事項」という。)が開示されている。
刊行物1記載の発明と刊行物2記載の技術的事項とは同じ技術分野に属するものであるから,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の技術的事項を適用することで,単に,永久磁石の両端側の磁極面とそれぞれエアギャップをもって2個の駆動コイルを対面配置することは,当業者であれば,格別の創作能力を要さずになし得たことということができる。

[相違点2]について
刊行物1には,「上記従来の構成では、図11で説明したように、ロータリーソレノイドの磁気回路が磁性体のケースを利用して構成されるため、磁路が長いだけでなく、磁気抵抗が著しく大きく、効率の悪い磁気回路となっている。」(段落【0013】),「本発明は、上記のような課題を解決するものであり、ロータリーソレノイドに最適な磁気回路を提供し、材料費の低廉化と装置の小型化を図るものである。」(段落【0014】),「上記課題を解決するために、本発明のロータリーソレノイドは、磁性体から成るスイングヨークと固定ヨークを配置して、最短距離で磁気回路を構成し、例えば残留磁束密度等のグレードが低い材質のマグネットを使用しても、磁路を最適に設計することが可能で、従来と同等以上の特性を維持できる構造を提供するものである。」(段落【0015】)と記載されている。すなわち,刊行物1には,従来,磁性体のケースを利用して磁気回路を構成していたものを,スイングヨークと固定ヨークとにより最短距離で磁気回路を構成する点に特徴を有することが開示されているから,刊行物1記載の発明においては,突起部(補極)が形成された固定ヨークは必須の構成要素であるといえる。
一方,刊行物2には,「駆動コイル13,13′に通電すると、断面コ字形ケース11,コア14′,コア14,取付板12,ケース11の磁気回路が閉成して、例えば、永久磁石17′がコア14,14′に吸引されて支持部材15aがストッパ18で停止し、通電を断っても、図1(b)に示される位置に保持される。」(段落【0006】)と記載されており,ケースを利用して磁気回路を構成するものである。このようなケースを利用する磁気回路は,刊行物1に記載された従来の構成と同様のものである。
そして,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の技術的事項を組み合わせることは,刊行物1記載の発明における突起部(補極)が形成された固定ヨークを利用した磁気回路を,ケースを利用した効率の悪い磁気回路と認識されている従来の構成に戻すような変更をすることになる。
また,刊行物2には,刊行物1記載の発明の突起部(補極)に相当する構成を備えておらず,突起部(補極)を永久磁石を挟んで対向配置することや,磁路をより最短に形成することについての示唆を有していない。
以上を踏まえると,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の技術的事項を組み合わせたとしても,補極を永久磁石を挟むようにして対向配置することは,当業者にとって容易であるとはいえない。
そして,そのような配置により,「単一の補極を配置した場合に比べより磁気回路を最短に形成することができる。そのため、永久磁石4の残留磁束がより効果的に作用して強力な磁気吸着力を得ることができ、無通電時においても保持力をもった停止状態を形成することができる。」(段落【0037】)という効果が,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項から予測されるものであるとはいえない。

[相違点3]について
すでに相違点2に関して述べたとおり,刊行物1の開示の限りでは,突起部(補極)が形成された固定ヨークは,磁気回路を形成する上で必須の構成要素であるのだから,刊行物1記載の発明の突起部(補極)を固定ヨークに形成することに替えて,ハウジングに一体形成することが,当業者にとって容易であるとはいえない。

そして,刊行物2を主引用例としても,上記相違点2,3と同様の相違点を有することになるから,上記と同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって,本件補正発明は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないとすることはできないから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
なお,補正後の請求項2ないし5については,補正前の請求項2を削除したことに伴い,補正前の請求項3ないし6を繰り上げて,記載の整理を図ったものである。
よって,本件補正は,特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明について
本件補正は,上記のとおり特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから,本願の請求項1ないし5に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものである。
請求項1に係る発明は,上記のとおり当業者が容易に発明をすることができたものではないのだから,請求項1にさらに他の発明特定事項を付加したものである請求項2ないし5に係る発明も,同様に当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-11-28 
出願番号 特願2012-229361(P2012-229361)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 祐介  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 槙原 進
平城 俊雅
登録日 2014-01-17 
登録番号 特許第5456136号(P5456136)
発明の名称 揺動型アクチュエータ  
代理人 水野 博文  

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