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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 E05B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E05B
管理番号 1284430
審判番号 不服2013-13029  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-08 
確定日 2013-12-18 
事件の表示 特願2012-549579「貴重品保管装置」拒絶査定不服審判事件〔、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、2012年10月10日を国際出願日とする出願であって、平成24年12月19日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月14日付けで意見書が提出され、同年4月30日付けで拒絶の査定がなされ、同年7月8日に拒絶査定に対する審判の請求がなされ、その後、当審において、同年10月28日付けで拒絶の理由を通知したところ、これに対し、同年11月7日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、上記の平成25年11月7日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書、及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という。)。
「扉の施錠・解錠をそれぞれ設置された電気錠で行なう少なくとも1個以上の収納ボックスを備えた貴重品保管装置において、前記収納ボックスに設置され、あるいは該収納ボックスとは異なる場所に設置された、貸与された施設側の承認手段を用いて、施設側の承認データを読み取る施設側データ読み取り手段と、前記収納ボックスに設置された生体認証読み取り手段と、この生体認証読み取り手段で読み取った生体認証データおよび前記施設側データ読み取り手段で読み取った施設側承認データを処理記憶するとともに、前記生体認証データおよび施設側の承認データに基づいて、前記電気錠で施錠されている収納ボックスの扉の解錠信号を出して解錠し、該解錠した収納ボックス内に貴重品や、必要に応じて前記施設側の承認手段を収納して施錠された収納ボックスの扉を、前記生体認証読み取り手段で再度読み取り、貴重品預け入れ時の生体認証データと一致した場合にだけ解錠できる信号を、前記電気錠に出すコンピュータとからなることを特徴とする貴重品保管装置。」

第3.原査定の理由の概要
1.本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された特開2010-229764号公報(以下「引用例1」という。)又は特開2010-196436号公報(以下「引用例2」という。)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用例1又は引用例2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4.当審の判断
1.引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用例1には、次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同じ。)
・「扉の開閉を電磁錠で行う複数の収納ボックスを備え、非接触ICカードと生体認証を使って前記収納ボックスの使用管理を行う集合型貴重品保管庫において、前記収納ボックスが使用中であるか未使用であるかの状態と操作方法を利用者に表示するタッチパネルと、前記非接触ICカード中の利用情報を読み取り書き込むリーダライタと、指紋パターンを読み取る指紋リーダーと、前記指紋パターンに基づいて本人確認を行う認証手段と、当日の利用情報のみを有効と判定する判定手段と、前記非接触ICカード中に有効な利用情報がなければ新規な利用情報をリーダライタ経由で前記非接触ICカードに登録する登録手段と、有効な利用情報に対応する1つの収納ボックスのみを使用可能とする使用許可手段と、前記使用許可手段の指示に応じて前記収納ボックスの電磁錠を施錠・解錠して扉を開閉する手段とを具備することを特徴とする集合型貴重品保管庫。」(【請求項1】)
・「次に、図8を参照しながら、集合型貴重品保管庫の動作手順を説明する。集合型貴重品保管装置に利用客が接近すると、ステップ1で、人体センサーが感知して、ステップ2で、案内表示とともに音声案内動作を開始する。例えば、「ICカードを読み取り機にタッチしてください」と表示して音声案内する。音声案内に従って、利用者が、非接触ICカードをリーダライタ4の大ループアンテナ41に接近させると、非接触ICカードがリーダライタ4からの電波を受信して、微弱な電力が発生する。この電力により、ICチップ81が動作して、ICチップ81の記憶部に格納されている利用情報を送信する。利用情報がない場合は、無効な利用情報が送信される。ステップ3で、利用情報の読み取りに成功すると、リーダライタ4側で受信したデータが、制御装置6に伝送される。」(段落【0026】)
・「ステップ4で、制御装置6は、利用情報の有効性を判定する。日付が当日のものでないものや、該当する機番や収納ボックス番号がないものは、無効と判定される。有効な利用情報でない場合は、ステップ5で、タッチパネル31に収納ボックス2の空き状態を表示し、空いている収納ボックス2の1つを選択するように促すメッセージを表示して案内する。ステップ6で、利用者がタッチパネル31に触れて収納ボックス2の1つを選択すると、ステップ9で、指紋リーダー5に指先を押し付けるように促す。ステップ4で、有効な利用情報と判定された場合は、ステップ7で、利用中の収納ボックスがこの保管庫にあるかどうか判定する。ない場合は、ステップ8で、他の保管庫の収納ボックスを利用中であることを告げて、処理を終了する。」(段落【0027】)
・「同一保管庫を利用中の場合は、ステップ9で、指紋リーダー5に指先を押し付けるように促す。指紋リーダー5に利用者が指先を押し付けることにより、指紋の読取りが完了する。ステップ10で、読み取った指紋のデータが利用中の収納ボックスの利用者の指紋データと一致するかどうか判定する。一致しない場合は、ステップ11で、利用者が異なる旨の警告表示をして、処理を終了する。指紋データが一致すれば、ステップ12で、収納ボックス2の電磁錠を解錠して、その収納ボックス2の表示器22を点滅させる。新規利用者の場合は、指紋データと、ICチップ81の識別情報と、選択された収納ボックス2の番号とを関連付けて、制御装置6のメモリに登録してから、利用者が選択した収納ボックス2の電磁錠を解錠して、その収納ボックス2の表示器22を点滅させる。」(段落【0028】)
・「ステップ13で、利用者が、解錠された収納ボックス2に貴重品を出し入れして扉21を閉めると、ステップ14で、収納ボックス2の利用を継続するか終了するかを選択するように案内して、タッチパネル31から選択して入力させ、非接触ICカード8をリーダライタ4にタッチするように案内する。ステップ15で、非接触ICカード8中の利用情報を更新して、電磁錠が施錠され、処理が終わったことを案内して、処理を終了する。タッチパネル31で利用状態を選択しなかったり、非接触ICカード8をリーダライタ4にタッチしなかったりして立ち去ろうとした場合は、それらのことを行うように警告する。収納ボックス2が利用状態になった場合は、収納ボックス2のランプ22を連続点灯させ、空き状態になった場合は、収納ボックス2のランプ22を消灯させる。1つの収納ボックス2を使用中は、他の収納ボックス2を使用できないが、収納ボックス2の使用を終了すれば、他の収納ボックス2を使用することができるようになる。」(段落【0029】)
これらの記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「扉の開閉を電磁錠で行う複数の収納ボックスを備え、非接触ICカードと生体認証を使って前記収納ボックスの使用管理を行う集合型貴重品保管庫において、前記非接触ICカード中の利用情報を読み取り書き込むリーダライタと、指紋パターンを読み取る指紋リーダーとを具備し、利用者が、非接触ICカードをリーダライタに接近させると、ICチップが動作して、ICチップの記憶部に格納されている利用情報を送信して、リーダライタ側で受信したデータが、制御装置に伝送され、制御装置は、利用情報の有効性を判定し、有効な利用情報でない場合は空いている収納ボックスの1つを選択するように促して、利用者が収納ボックスの1つを選択すると、指紋リーダーに指先を押し付けるように促し、有効な利用情報と判定された場合は、利用中の収納ボックスがこの保管庫にあるかどうか判定して、同一保管庫を利用中の場合は、指紋リーダーに指先を押し付けるように促し、読み取った指紋のデータが利用中の収納ボックスの利用者の指紋データと一致するかどうか判定して、指紋データが一致すれば、収納ボックスの電磁錠を解錠し、新規利用者の場合は、指紋データと、ICチップの識別情報と、選択された収納ボックスの番号とを関連付けて、制御装置のメモリに登録してから、利用者が選択した収納ボックスの電磁錠を解錠して、利用者が、解錠された収納ボックスに貴重品を出し入れして扉を閉めると、電磁錠が施錠され、処理を終了する集合型貴重品保管庫。」

(2)引用例2
同様に引用された、本願の出願前に頒布された引用例2には、次の事項が記載されている。
・「図1(a)及び図1(b)を参照して、本発明の実施の形態に関わるロッカー装置1の外観構成を説明する。ロッカー装置1は、ロッカー装置1の本体を形成する筺体と、筺体の上半側を個々独立した複数の室に仕切って区画形成した複数のロッカーと、筺体の下半部に形成して内部に電源部2や制御部5を収装した機器設置部と、利用者と制御部5との間で情報のやり取りを行うためのユーザインターフェース部とを備える。」(段落【0032】)
・「各ロッカーは、扉7を有するボックスと、扉7の施錠に用いられる電気錠とを備え、利用者は扉7を開けてボックス内の棚板16の上に物品を収納して、電気錠の操作により扉を施錠することで、物品を保管することができる。各ロッカーの扉7には、扉7を開く際に手を掛ける取手8と、当該ロッカーを識別するためのロッカー番号が印字されたナンバーシール9と、当該ロッカーが使用中であるか空いているかを表示する表示ランプ10とが設けられている。例えば、ロッカーが使用中である場合に表示ランプ10を点灯させ、ロッカーが空いている場合に表示ランプ10を消灯させ、ロッカーが使用できないエラー状態である場合に表示ランプ10を点滅させる。」(段落【0033】)
・「ユーザインターフェース部には、液晶パネルのような表示装置とタッチパッドのような位置入力装置を組み合わせたタッチパネル6と、ID媒体に格納されているID情報を読取るID読取部の一例としてのICカードリーダ17と、利用者の身体的特徴の情報を読取る生体情報読取部の一例としての指紋リーダ4と、管理者操作ロック14とが設けられている。例えば、管理者操作ロック14を解除することにより、管理者による操作が可能となる管理者操作モードに移行させることができる。」(段落【0034】)
・「図4を参照して、図3の制御部5の詳細な構成を説明する。制御部5は、情報の処理演算機能を有するマイクロコンピュータ21と、情報を記憶するメモリ22とを備える。メモリ22は、タッチパネル6から入力された暗証番号の情報、指紋リーダ4により読取られた指紋の情報、及びICカードリーダ17により読取られたID情報を記憶する識別情報記憶部29と、所定のアプリケーションプログラムを記憶するプログラム記憶部30とを備える。マイクロコンピュータ21は、プログラム記憶部30に記憶されている所定のアプリケーションプログラムを読み出して実行することにより、アプリケーションプログラムに規定された情報処理を実行する。」(段落【0040】)
・「具体的に、マイクロコンピュータ21は、上記したアプリケーションプログラムに従って、指紋リーダ4により読取られた指紋の情報を予め登録する識別情報登録部25、識別情報登録部25により登録されたID情報及び指紋の情報と、登録後にICカードリーダ17により読取られたID情報及び登録後に指紋リーダ4により読取られた指紋の情報とをそれぞれ照合することにより利用者本人であることを認証する本人認証部26、及び指紋リーダ4が指紋の情報を正しく読取ったか否かを判断する読取成否判断部27して機能する。」(段落【0041】)
・「(イ)ロッカー装置の主電源を投入して制御部5の起動が完了すると、図5のS01段階において、タッチパネル6に、例えば「ICカードをICカードリーダ(17)に近づけてください。」という案内画面を表示し、ロッカー装置を所定の待機状態とする。待機状態において、ユーザがICカードをICカードリーダ17に近づけると、ICカードリーダ17はICカードに格納されているID情報を読取り、S03段階に進み、ICカードリーダ17により読み取れたID情報を受信する。なお、ロッカー装置は、その待機状態において、各ロッカーの扉7に取付けられた電気錠E_(1)?E_(n)を施錠して待機する。これを「施錠待機」と呼ぶ。」(段落【0052】)
・「(ロ)S05段階に進み、ICカードリーダ17により読み取れたID情報が、識別情報登録部25により既に登録されているID情報と同じであるか否か、具体的には、識別情報記憶部29に記憶されているID情報と同じであるか否かを判断する。識別情報登録部25により既に登録されているID情報と同じでない場合(S05でNO)、利用者が物品を預け入れる時、即ち「保管時」の処理フローを実行するためにS07段階に進む。一方、識別情報登録部25により既に登録されているID情報と同じである場合(S05でYES)、保管中の物品を取り出す時、即ち「取出時」の処理フローを実行するために図6のS41段階に進む。」(段落【0053】)
・「(ホ)一方、利用者により入力されたボックス番号は正しいと判断した場合(S09でYES)S13段階に進み、指紋リーダ4を用いて利用者の指紋の情報を読取り、読取った指紋の情報を登録する指紋登録処理フローを実行する。指紋登録処理フローについては、図7を参照して後述する。」(段落【0056】)
・「(へ)指紋の情報の登録が完了した後に、S15段階に進み、S09段階で受信したボックス番号の電気錠Eを解錠して、タッチパネル6に、例えば「扉番号***の扉を開いてください。」という案内と、扉7が開く様子を示すアニメーションや静止画面を併記して表示する。その後、S17段階に進み、扉7或いはボックスの開口部に取付けた開閉センサを用いて、扉7が開いている状態を検知する。扉7が開いている状態を検知した場合(S17でYES)S25段階に進み、タッチパネル6に、例えば、扉7が開いた状態で荷物をボックス内に入れている様子を示すアニメーションや静止画面を表示する。その後、S27段階に進む。」(段落【0057】)
・「(チ)S27段階において、扉7が閉じている状態を検知した時(S27でYES)、S33段階に進み、S09段階で受信したボックス番号の電気錠Eを施錠して、S35段階に進み、S03段階で受付けたID情報、S09段階で受信したボックス番号の情報、S13段階で登録した指紋の情報をリンクさせて登録する。すなわち、識別情報記憶部29に記憶する。S35段階を実行することで「保管時」の処理フローは終了する。」(段落【0059】)
・「次に、図6を参照して、「取出時」の処理フローを説明する。「取出時」の処理フローは、識別情報登録部25により既に登録されているID情報と同じである場合(S05でYES)に開始される。」(段落【0071】)
・「(ろ)指紋の情報が登録されている場合(S41でYES)、S43段階に進み、タッチパネル6に、例えば「登録した指を図に従って指紋リーダ(4)の読取り位置に置いて下さい。」という案内と、指紋リーダ4に指を置く様子を示すアニメーションや静止画面を併記して表示する。S45段階に進み、指紋リーダ4の読取り位置に指が置かれたか否かを判断する。指紋リーダ4の読取り位置に指が置かれた場合(S45でYES)、指紋の情報を読取り、S47段階に進む。」(段落【0073】)
・「(は)S47段階において、「保管時」において登録したID情報及び指紋の情報と、「取出時」にICカードリーダ17により読取られたID情報及び指紋リーダ4により読取られた指紋の情報とをそれぞれ照合する。ID情報及び指紋の情報の両方が照合した場合(S47でYES)、利用者本人であることを認証して、S63段階に進む。ID情報及び指紋の情報の少なくとも一方が照合しない場合(S47でNO)、利用者本人であることを認証せずに、S51段階に進む。」(段落【0074】)
・「(ほ)S63段階において、S03で受信したID情報にリンクして識別情報記憶部29に記憶されているボックス番号の電気錠Eを解錠して、タッチパネル6に、例えば「扉番号***の扉を開いてください。」という案内と、扉7が開く様子を示すアニメーションや静止画面を併記して表示する。その後、S65段階に進み、扉7或いはボックスの開口部に取付けた開閉センサを用いて、扉7が開いている状態を検知する。扉7が開いている状態を検知した場合(S65でYES)S67段階に進み、タッチパネル6に、例えば、扉7が開いた状態で荷物をボックス内から取り出している様子を示すアニメーションや静止画面を表示する。その後、S75段階に進む。」(段落【0076】)
これらの記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「複数のロッカーと、利用者と制御部との間で情報のやり取りを行うためのユーザインターフェース部とを備え、各ロッカーは、扉を有するボックスと、扉の施錠に用いられる電気錠とを備え、ユーザインターフェース部には、ID媒体に格納されているID情報を読取るICカードリーダと、利用者の身体的特徴の情報を読取る指紋リーダとが設けられており、制御部は、情報の処理演算機能を有するマイクロコンピュータと、情報を記憶するメモリとを備えて、マイクロコンピュータは、登録されたID情報及び指紋の情報と、登録後にICカードリーダにより読取られたID情報及び登録後に指紋リーダにより読取られた指紋の情報とをそれぞれ照合することにより利用者本人であることを認証するロッカー装置において、ユーザがICカードをICカードリーダに近づけると、ICカードリーダはICカードに格納されているID情報を読取り、ICカードリーダにより読み取れたID情報を受信して、ICカードリーダにより読み取れたID情報が、既に登録されているID情報と同じであるか否かを判断し、既に登録されているID情報と同じでない場合、利用者が物品を預け入れる時、即ち「保管時」の処理フローを実行するために、指紋リーダを用いて利用者の指紋の情報を読取り、読取った指紋の情報を登録し、指紋の情報の登録が完了した後に、電気錠を解錠し、扉が閉じている状態を検知した時、電気錠を施錠して、受付けたID情報、登録した指紋の情報をリンクさせて登録し、一方、既に登録されているID情報と同じである場合、保管中の物品を取り出す時、即ち「取出時」の処理フローを実行するために、既に登録されているID情報と同じである場合に開始され、指紋リーダの読取り位置に指が置かれた場合、指紋の情報を読取り、「保管時」において登録したID情報及び指紋の情報と、「取出時」にICカードリーダにより読取られたID情報及び指紋リーダにより読取られた指紋の情報とをそれぞれ照合して、ID情報及び指紋の情報の両方が照合した場合、利用者本人であることを認証して、電気錠を解錠するロッカー装置。」

2.引用発明1に関して
(1)対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、
後者における「電磁錠」は、その機能、作用等からみて、前者における「電気錠」に相当し、以下同様に、「集合型貴重品保管庫」は「貴重品保管装置」に、「非接触ICカード」は「施設側の承認手段」に、「リーダライタ」は「施設側データ読み取り手段」に、「指紋リーダー」は「生体認証読み取り手段」に、「『指紋のデータ』及び『指紋データ』」は「生体認証データ」に、「『利用情報』及び『(ICチップの)識別情報』」は「施設側承認データ」に、「制御装置」は「コンピュータ」に、それぞれ相当する。
また、後者における「集合型貴重品保管庫」は、扉の開閉を電磁錠で行う複数の収納ボックスを備えているから、「扉の施錠・解錠をそれぞれ設置された電磁錠で行なう少なくとも1個以上の収納ボックスを備えた」といえる。
また、後者における複数の収納ボックスを備えた集合型貴重品保管庫は、非接触ICカード中の利用情報を読み取り書き込むリーダライタを具備し、利用者が、非接触ICカードをリーダライタに接近させると、ICチップが動作して、ICチップの記憶部に格納されている利用情報を送信して、リーダライタ側で受信したデータが、制御装置に伝送されるから、後者における「リーダライタ」は、「収納ボックスに設置された、非接触ICカードを用いて、利用情報を読み取る」ものといえる。
また、後者における複数の収納ボックスを備えた集合型貴重品保管庫は、指紋パターンを読み取る指紋リーダーとを具備しているから、後者における「指紋リーダー」は、「収納ボックスに設置された」ものといえる。
また、後者における「制御装置」は、利用者が、非接触ICカードをリーダライタに接近させて、リーダライタ側で受信したデータである利用情報の有効性を判定し、有効な利用情報でない場合は空いている収納ボックスの1つを選択するように促して、利用者が収納ボックスの1つを選択すると、指紋リーダーに指先を押し付けるように促し、有効な利用情報と判定された場合は、利用中の収納ボックスがこの保管庫にあるかどうか判定して、同一保管庫を利用中の場合は、指紋リーダーに指先を押し付けるように促し、読み取った指紋のデータが利用中の収納ボックスの利用者の指紋データと一致するかどうか判定して、指紋データが一致すれば、収納ボックスの電磁錠を解錠し、新規利用者の場合は、指紋データと、ICチップの識別情報と、選択された収納ボックスの番号とを関連付けて、制御装置のメモリに登録してから、利用者が選択した収納ボックスの電磁錠を解錠して、利用者が、解錠された収納ボックスに貴重品を出し入れして扉を閉めると、電磁錠が施錠され、処理を終了するから、「この指紋リーダーで読み取った指紋データおよびリーダライタで読み取った利用情報(識別情報)を処理記憶するとともに、前記指紋データおよび利用情報(識別情報)に基づいて、電磁錠で施錠されている収納ボックスの扉の解錠信号を出して解錠し、該解錠した収納ボックス内に貴重品を収納して施錠された収納ボックスの扉を、前記リーダライタ、及び前記指紋リーダーで再度読み取り、貴重品預け入れ時の利用情報(識別情報)、及び指紋データと一致した場合に解錠できる信号を、電磁錠に出す」ものといえる。
したがって、両者は、
「扉の施錠・解錠をそれぞれ設置された電気錠で行なう少なくとも1個以上の収納ボックスを備えた貴重品保管装置において、前記収納ボックスに設置された、施設側の承認手段を用いて、施設側の承認データを読み取る施設側データ読み取り手段と、前記収納ボックスに設置された生体認証読み取り手段と、この生体認証読み取り手段で読み取った生体認証データおよび前記施設側データ読み取り手段で読み取った施設側承認データを処理記憶するとともに、前記生体認証データおよび施設側の承認データに基づいて、前記電気錠で施錠されている収納ボックスの扉の解錠信号を出して解錠し、該解錠した収納ボックス内に貴重品を収納して施錠された収納ボックスの扉を、解錠できる信号を、前記電気錠に出すコンピュータとからなる貴重品保管装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
施設側の承認手段が、本願発明は、「貸与された」ものであるのに対し、引用発明1は、そのようなものであるか明らかでない点。
[相違点2]
本願発明は、解錠した収納ボックス内に貴重品や、「必要に応じて施設側の承認手段を収納して」施錠された収納ボックスの扉を、「生体認証読み取り手段で再度読み取り、貴重品預け入れ時の生体認証データと一致した場合にだけ」解錠できる信号を、電気錠に出すのに対し、引用発明1は、解錠した収納ボックス内に貴重品を収納して施錠された収納ボックスの扉を、リーダライタ、及び指紋リーダーで再度読み取り、貴重品預け入れ時の利用情報(識別情報)、及び指紋データと一致した場合に解錠できる信号を、電磁錠に出す点。

(2)判断
そうすると、引用発明1は、上記相違点1、及び2に係る本願発明の発明特定事項を具備していない。
したがって、本願発明が、引用発明1であるとすることはできない。

また、引用発明1において、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を備えるものとなすことを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠も見当たらない。そして、本願発明は、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を具備することにより、本願明細書に記載の「従来のようにICカードやキーの所持が不要で、安全で、楽に使用することができる。また、貴重品保管したときの施設側の承認手段を持ち歩いても、収納ボックスの解錠には使用することができないため、盗難や紛失に気をつけた持ち歩きをしなくても安全で、気楽に使用することができる。」(段落【0014】)という作用効果を奏するものである。
したがって、上記相違点1を検討するまでもなく、本願発明は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3.引用発明2に関して
(1)対比
本願発明と引用発明2とを対比すると、
後者における「ロッカー」は、その機能、作用等からみて、前者における「収納ボックス」に相当し、以下同様に、「ロッカー装置」は「貴重品保管装置」に、「『ID媒体』及び『ICカード』」は「施設側の承認手段」に、「ICカードリーダ」は「施設側データ読み取り手段」に、「指紋リーダ」は「生体認証読み取り手段」に、「指紋の情報」は「生体認証データ」に、「ID情報」は「施設側承認データ」に、「物品」は「貴重品」に、「(マイクロコンピュータとメモリとを備えた)制御部」は「コンピュータ」に、それぞれ相当する。
また、後者における「ロッカー装置」は、複数のロッカーを備え、各ロッカーは、扉を有するボックスと、扉の施錠に用いられる電気錠とを備えているから、「扉の施錠・解錠をそれぞれ設置された電気錠で行なう少なくとも1個以上のロッカーを備えた」といえる。
また、後者におけるロッカー装置には、複数のロッカーと、利用者と制御部との間で情報のやり取りを行うためのユーザインターフェース部とが備えられ、ユーザインターフェース部には、ID媒体に格納されているID情報を読取るICカードリーダを設けているから、後者における「ICカードリーダ」は、「ロッカーに設置された、ID媒体(ICカード)を用いて、ID情報を読み取る」ものといえる。
また、後者におけるロッカー装置には、複数のロッカーと、利用者と制御部との間で情報のやり取りを行うためのユーザインターフェース部とが備えられ、ユーザインターフェース部には、利用者の身体的特徴の情報を読取る指紋リーダが設けられているから、後者における「指紋リーダ」は、「ロッカーに設置された」ものといえる。
また、後者における「制御部」は、情報の処理演算機能を有するマイクロコンピュータと、情報を記憶するメモリとを備えて、マイクロコンピュータは、登録されたID情報及び指紋の情報と、登録後にICカードリーダにより読取られたID情報及び登録後に指紋リーダにより読取られた指紋の情報とをそれぞれ照合することにより利用者本人であることを認証するものであって、ユーザがICカードをICカードリーダに近づけると、ICカードリーダはICカードに格納されているID情報を読取り、ICカードリーダにより読み取れたID情報を受信して、ICカードリーダにより読み取れたID情報が、既に登録されているID情報と同じであるか否かを判断し、既に登録されているID情報と同じでない場合、利用者が物品を預け入れる時、即ち「保管時」の処理フローを実行するために、指紋リーダを用いて利用者の指紋の情報を読取り、読取った指紋の情報を登録し、指紋の情報の登録が完了した後に、電気錠を解錠し、扉が閉じている状態を検知した時、電気錠を施錠して、受付けたID情報、登録した指紋の情報をリンクさせて登録し、一方、既に登録されているID情報と同じである場合、保管中の物品を取り出す時、即ち「取出時」の処理フローを実行するために、既に登録されているID情報と同じである場合に開始され、指紋リーダの読取り位置に指が置かれた場合、指紋の情報を読取り、「保管時」において登録したID情報及び指紋の情報と、「取出時」にICカードリーダにより読取られたID情報及び指紋リーダにより読取られた指紋の情報とをそれぞれ照合して、ID情報及び指紋の情報の両方が照合した場合、利用者本人であることを認証して、電気錠を解錠するから、「この指紋リーダで読み取った指紋の情報およびICカードリーダで読み取ったID情報を処理記憶するとともに、前記指紋の情報およびID情報に基づいて、電気錠で施錠されているロッカーの扉の解錠信号を出して解錠し、該解錠したロッカー内に物品を収納して施錠されたロッカーの扉を、前記ICカードリーダ、及び前記指紋リーダで再度読み取り、物品預け入れ時のID情報、及び指紋の情報と一致した場合に解錠できる信号を、電気錠に出す」ものといえる。
したがって、両者は、
「扉の施錠・解錠をそれぞれ設置された電気錠で行なう少なくとも1個以上の収納ボックスを備えた貴重品保管装置において、前記収納ボックスに設置された、施設側の承認手段を用いて、施設側の承認データを読み取る施設側データ読み取り手段と、前記収納ボックスに設置された生体認証読み取り手段と、この生体認証読み取り手段で読み取った生体認証データおよび前記施設側データ読み取り手段で読み取った施設側承認データを処理記憶するとともに、前記生体認証データおよび施設側の承認データに基づいて、前記電気錠で施錠されている収納ボックスの扉の解錠信号を出して解錠し、該解錠した収納ボックス内に貴重品を収納して施錠された収納ボックスの扉を、解錠できる信号を、前記電気錠に出すコンピュータとからなる貴重品保管装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点3]
施設側の承認手段が、本願発明は、「貸与された」ものであるのに対し、引用発明2は、そのようなものであるか明らかでない点。
[相違点4]
本願発明は、解錠した収納ボックス内に貴重品や、「必要に応じて施設側の承認手段を収納して」施錠された収納ボックスの扉を、「生体認証読み取り手段で再度読み取り、貴重品預け入れ時の生体認証データと一致した場合にだけ」解錠できる信号を、電気錠に出すのに対し、引用発明2は、解錠したロッカー内に物品を収納して施錠されたロッカーの扉を、ICカードリーダ、及び指紋リーダで再度読み取り、物品預け入れ時のID情報、及び指紋の情報と一致した場合に解錠できる信号を、電気錠に出す点。

(2)判断
そうすると、引用発明2は、上記相違点3、及び4に係る本願発明の発明特定事項を具備していない。
したがって、本願発明が、引用発明2であるとすることはできない。

また、引用発明2において、上記相違点4に係る本願発明の発明特定事項を備えるものとなすことを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠も見当たらない。そして、本願発明は、上記相違点4に係る本願発明の発明特定事項を具備することにより、本願明細書に記載の「従来のようにICカードやキーの所持が不要で、安全で、楽に使用することができる。また、貴重品保管したときの施設側の承認手段を持ち歩いても、収納ボックスの解錠には使用することができないため、盗難や紛失に気をつけた持ち歩きをしなくても安全で、気楽に使用することができる。」(段落【0014】)という作用効果を奏するものである。
したがって、上記相違点3を検討するまでもなく、本願発明は、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1、または引用発明2であるとすることはできないし、また引用発明1、または引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとものとすることはできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-11-27 
出願番号 特願2012-549579(P2012-549579)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (E05B)
P 1 8・ 121- WY (E05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 吉野 公夫
藤本 義仁
登録日 2014-01-10 
登録番号 特許第5449573号(P5449573)
発明の名称 貴重品保管装置  
代理人 三浦 光康  

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