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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M |
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管理番号 | 1284487 |
審判番号 | 不服2012-12988 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-07-06 |
確定日 | 2014-01-20 |
事件の表示 | 特願2006-538247「コンビナトリアル潤滑油組成物ライブラリ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月19日国際公開、WO2005/045205、平成19年 6月 7日国内公表、特表2007-514800〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、2004年10月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年10月31日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年6月27日に翻訳文が提出され、平成23年8月18日に手続補正がなされ、平成24年3月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。 2 本願発明 本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成24年7月6日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項11に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項11に記載されたとおりの次のものと認める。 「下記の工程からなるコンビナトリアル潤滑油組成物ライブラリの作製方法: (a)(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とを含む複数の異なる潤滑油組成物試料のライブラリを供給する工程、 ただし、各試料は複数の試験容器のそれぞれに入っている、 (b)各試料の貯蔵安定度、酸化安定度、または耐摩耗性を含む潤滑油組成物特性を測定して、各試料についての潤滑油組成物特性データを得る工程、但し、この潤滑油組成物特性データは、エンジン試験に関連する条件から誘導されるデータである、 そして (c)工程(b)の結果を出力する工程。」(以下「本願発明」という。) 3 刊行物の記載事項 原査定で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2002-541442号公報(以下,「刊行物A」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている)。 (1)「【請求項13】 別個のサイトまたは別個のウェルに配置した多数の配合物のアレイを作製するための自動マルチプルプロセッシングシステムであって, 各配合物は,機能,活性または性質が知られている少なくとも2種の物質の異なる混合物からなり,各混合物は少なくとも1種の物質の濃度または組成の点で異なっており,該アレイは,自動プロセッサの制御下で,多数のソースから別個のサイトに該物質を投入することにより形成されたものであり,そして,該アレイは,意図した機能,活性,化学的または物理的性質に関係する少なくとも1つの変数について各配合物をスクリーニングするための手段に接続可能であるか,または該手段によりアクセス可能であり, 配合物試験アレイ, 配合成分を貯蔵するためのレザバー手段, レザバー手段から配合物試験アレイに配合成分を投入するための手段,および 各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有するように,レザバー手段から配合物試験アレイの各ウェルまたは各サイトに投入される配合成分を制御するためのプロセッシング手段, を含んでなる上記システム。 【請求項14】 各配合物の1以上の性質をスクリーニングするための手段をさらに含む,請求項13に記載のシステム。」 (2)「【0001】 発明の背景 本発明は,一般的に,配合物を同時にまたは逐次にプロセッシングし,アッセイすることにより,…医薬品,…および工業用製品のための最適化された配合物を開発するための方法およびシステムの分野に関するものである。」 (3)「【0008】 発明の概要 ハイスループットのコンビナトリアル配合技術を,…マイクロアレイと共に用いて,ヘルスケア製品…の成分として用いられる物質の,あるいは上記製品の製造または使用に用いられる物質の,1以上の性質を改善する方法が開発された。」 (4)「【0011】 本明細書で使用する場合,組成物とは2種以上の成分の組合せをいう。成分ではなく組成物を,最適な配合物を決定するためのスクリーニングにかける。これは,特定の活性を有する化合物を同定するためのスクリーニング法ではなく,最も望ましい性質を有する配合物を同定するための,公知化合物の新規な配合物のスクリーニング法である。…「マイクロアレイ」とは,支持体上又は支持体中の別個のサイトに非常の少量の多数のサンプルを保持するための,アレイプレート,レザバー又はその他のサンプル保持手段をいう。サンプル配合物は,典型的には,1グラム(1000mg)未満である。好ましい実施形態では,サンプルは100マイクログラム未満である(個々の成分又は配合物全体のいずれか)。より好ましい実施形態では,サンプルは25マイクログラム未満である。「ハイスループット」とは,本明細書に記載のように作製され又はスクリーニングされるサンプルの数が,典型的には少なくとも10サンプル,より典型的には少なくとも50?100サンプル,そして好ましくは1000サンプルを越えることをいう。「自動化された」とは,作製されるサンプル数が100以上の範囲のハイスループットであること,又はサンプルを配合するソフトウェアを用いたサンプルの作製をいう。」 (5)「【0015】 A. 医薬用及び獣医用配合物 本明細書に記載するように,本発明の目標は,意図する目的について最適化された配合物を得ることである。代表的な目的として,製造,充填,分配,貯蔵及び投与の間の薬物及び/又は配合物の化学的及び/又は物理的安定性(活性成分並びに配合物全体及びその成分に関する場合);薬物取り込み;患者に投与後の薬物の半減期;薬学的性質;送達動態;及び薬物の有効性及び経済性を決定するその他の因子が挙げられる。ある場合には,薬物は,その吸収に対して負の影響を与える性質(例えば,疎水性又は低溶解度)を1つ有する。別の場合には,それは性質の組合せでもよい。従って,スクリーニング法は,典型的には配合物の少なくとも1種の成分,そしてより典型的には配合物の複数の成分を変化させ,配合物全体としての1種以上の性質に基づいて選択を行う。」 (6)「【0041】 D.消費者用および工業用製品 工業用製品とは,食器洗浄剤および洗剤などの家庭用洗浄剤製品から,車およびその他の機械用の油およびその他の潤滑剤,…ならびにコンクリートおよび充填剤などの建築工業で使用する材料まで,広範囲の物質を網羅する。」 (7)「【0055】 図1は当該プロセスのフローチャートであり,物質ソース,すなわち1種以上の濃度の1種以上の成分の選択に始まり,サンプルウェル若しくは別個のサイトに成分を混合若しくは投入し,物質アレイを形成し,1種以上のパラメーターについてアッセイし,その後の分析のためにデータを採取するものである。」 (8)「【0061】 実施例 本発明は,所望の性質を持つ薬物配合物のハイスループット配合およびスクリーニングのための,本明細書に開示したプロセスについての,以下に示す限定するわけでない実施例を参照することによって,さらに理解されるであろう。」 (9)「【図1】 」 4 刊行物に記載された発明 摘記(1)【請求項13】には, 「…別個のウェルに配置した多数の配合物のアレイを作製するための自動マルチプルプロセッシングシステムであって, … 配合物試験アレイ, 配合成分を貯蔵するためのレザバー手段, レザバー手段から配合物試験アレイに配合成分を投入するための手段,および 各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有するように,レザバー手段から配合物試験アレイの各ウェル…に投入される配合成分を制御するためのプロセッシング手段, を含んでなる上記システム。」 と記載されていて,該システムは,摘記(1)【請求項14】によれば,さらに 「各配合物の1以上の性質をスクリーニングするための手段」を有していてもよく, そしてそのようなスクリーニング手段は,摘記(7)【0055】及び摘記(9)【図1】によれば,アッセイしてデータを出力するものである。 したがって,以上の記載から,刊行物Aには,次のシステムに関する発明が記載されているといえる。 「別個のウェルに配置した多数の配合物のアレイを作製するための自動マルチプルプロセッシングシステムであって, レザバー手段から配合物試験アレイに配合成分を投入するための手段,および 各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有するように,レザバー手段から配合物試験アレイの各ウェルに投入される配合成分を制御するためのプロセッシング手段, に加えてさらに, 各配合物の1以上の性質をスクリーニングするための手段であって,1種以上のパラメーターについてアッセイし,その後の分析のためにデータを出力するための手段, を含んでなる上記システム。」 そして,上記「システム」に関する発明を『方法』の側面から表現すると,次に示す発明が記載されているといえる。 「別個のウェルに配置した多数の配合物のアレイを作製するための自動マルチプルプロセッシング方法であって, レザバー手段から配合物試験アレイに配合成分を投入する工程において, 各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有するように,レザバー手段から配合物試験アレイの各ウェルに投入される配合成分を制御し, さらに, 各配合物の1以上の性質をスクリーニングする工程において,1種以上のパラメーターについてアッセイし,その後の分析のためにデータを出力する工程, を含んでなる上記方法。」(以下,「引用発明」という。) 5 対比 引用発明と,本願発明とを対比する。 引用発明の「配合物」は本願発明の「組成物」と,また引用発明の「アレイ」は本願発明の「ライブラリ」とそれぞれ同義であり,さらに引用発明の自動マルチプルプロセッシング方法は,摘記(3)【0008】及び摘記(4)【0011】の記載からみて,ハイスループットのコンビナトリアル技術を用いるものであることから,引用発明の「多数の配合物のアレイを作製するための自動マルチプルプロセッシング方法」は,本願発明の「コンビナトリアル…組成物ライブラリの作製方法」に対応するものといえる。 そして,引用発明の「配合物のアレイ」に関しては,「各配合物は,少なくとも2種の物質の異なる混合物からなり,各混合物は少なくとも1種の物質の濃度または組成の点で異なっており,該アレイは,自動プロセッサの制御下で,多数のソースから別個のサイトに該物質を投入することにより形成されたもの」(摘記(1)【請求項13】)とされていて,さらにこれに対応する工程として,「レザバー手段から配合物試験アレイに配合成分を投入する工程」および「各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有するように,レザバー手段から配合物試験アレイの各サイトに投入される配合成分を制御する」ことを含むものであるから,引用発明のこの工程は,本願発明の「(a)…複数の異なる…組成物試料のライブラリを供給する工程」に対応するものといえる。 次に,引用発明における「各配合物の1以上の性質をスクリーニングする工程において,1種以上のパラメーターについてアッセイ」することは,摘記(1)【請求項13】に記載の「該アレイは,意図した機能,活性,化学的または物理的性質に関係する少なくとも1つの変数について各配合物をスクリーニングする工程」におけるものと解されることから,本願発明の「(b)…組成物特性を測定して,各試料についての…組成物特性データを得る工程」に対応し,また,引用発明の該工程でアッセイしてデータを出力することは,本願発明の「(c)工程(b)の結果を出力する工程」に対応する。 そこで,上記引用発明を,本願発明の(a)?(c)の各工程に対応させて書き換えると次のようになる。 「別個のウェルに配置した多数の配合物のアレイを作製するための自動マルチプルプロセッシング方法であって, (a)レザバー手段から配合物試験アレイに配合成分を投入する工程において, 各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有するように,レザバー手段から配合物試験アレイの各サイトに投入される配合成分を制御し, さらに, (b)各配合物の1以上の性質をスクリーニングする工程において,1種以上のパラメーターについてアッセイし, (c)その後の分析のためにデータを出力する工程, を含んでなる上記方法。」 ここで,このように書き換えられた引用発明と本願発明とを改めて対比する。 上記したように,引用発明の「配合物」は本願発明の「組成物」と,また引用発明の「アレイ」は本願発明の「ライブラリ」とそれぞれ同義であって,引用発明の「多数の配合物のアレイを作製するための自動マルチプルプロセッシング方法」は,本願発明の「コンビナトリアル…組成物ライブラリの作製方法」に相当するものであることを踏まえつつ,さらには,引用発明では,多数の配合物のアレイ(すなわち,多数のコンビナトリアル組成物)は別個のウェルに配置されているものであることから,本願発明でいう「各試料は複数の試験容器のそれぞれに入っている」に対応することをも考慮すると,引用発明と本願発明の一致点・相違点は次のとおりとなる。 <一致点> 下記の工程からなるコンビナトリアル組成物ライブラリの作製方法: (a)複数の異なる組成物試料のライブラリを供給する工程,ただし各試料は複数の容器のそれぞれに入っている, (b)各試料の組成物特性を測定して,各試料についての特性データを得る工程, そして, (c)工程(b)の結果を出力する工程。」 <相違点1> 「複数の異なる組成物試料」が,引用発明では「各配合物が共通に少なくとも1種の物質を含むが,異なる配合を有する」とされているにとどまるのに対して,本願発明では「(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とを含む潤滑油組成物」と特定されている点。 <相違点2> 組成物の特性データが,引用発明では,「1以上の性質」或いは「1種以上のパラメーター」とされているのに対して,本願発明では「貯蔵安定度,酸化安定度,または耐摩耗性を含む潤滑油組成物特性データ」であり,「この潤滑油組成物特性データは,エンジン試験に関連する条件から誘導されるデータである」とされている点 6 判断 上記相違点1及び2について検討する。 (1)相違点1及び2について 引用発明における「配合物(混合物)」として,刊行物Aにおいて実施例を伴って具体的かつ詳細に記載されているものは,医薬組成物に関するものである(例えば,摘記(8)【0061】など)。 しかしながら,まず摘記(2)【0001】で「医薬品,…工業用製品のための最適化された配合物を開発するための方法およびシステムの分野に関する」と記載され,さらに摘記(6)【0041】において「工業用製品とは,…車およびその他の機械用の油およびその他の潤滑剤,…まで,広範囲の物質を網羅する。」と記載されていることから,これらの記載を基に,車用の潤滑剤組成物に対して,引用発明を適用することについて示唆があるといえる上,医薬組成物と潤滑剤組成物とは,ともに通常は数種類以上の成分からなる混合物であって,この点で共通することもまた周知であるといえる。加えて,両者はともに各種性能の向上が引き続き求められ,配合成分の量比に応じてそれら各種性能が影響されるものであることも共通するものである。 したがって,引用発明に関する手法を自動車エンジン用の潤滑剤組成物に対して適用しようとすることは,当業者が容易に想到することといえる。 そして,自動車エンジン用潤滑剤組成物は,主要量の潤滑粘度の基油と少量の添加剤とを含むことは技術常識であるから,引用発明における配合物(混合物)として,自動車エンジン用の潤滑剤組成物を想定した場合に,それに応じて,該配合物の成分として,主要量の潤滑粘度を有する基油と少量の添加剤とを含むものとすることも当業者が当然の如く想到することである。 さらに,引用発明における「1以上の性質」或いは「1種以上のパラメーター」とは,摘記(1)【請求項13】の「意図した機能,活性,化学的または物理的性質に関係する少なくとも1つの変数」に対応する記載と解釈され,また,摘記(5)【0015】の 「本明細書に記載するように,本発明の目標は,意図する目的について最適化された配合物を得ることである。代表的な目的として,製造,充填,分配,貯蔵及び投与の間の薬物及び/又は配合物の化学的及び/又は物理的安定性…が挙げられる。…スクリーニング法は,典型的には配合物の少なくとも1種の成分,そしてより典型的には配合物の複数の成分を変化させ,配合物全体としての1種以上の性質に基づいて選択を行う。」 との記載から見て,「最適化が意図された性質」又はそれに密接に関連するパラメーターなどと解釈される。 ところで,自動車エンジン用の潤滑剤組成物においては,酸化安定性や貯蔵安定性,耐摩耗性といった性能が求められ,かつそれらを確認するエンジン試験の内容も,また該試験により得られたデータを用いて評価されていることも,何れも当業者により広く知られていることである(例えば,特開平10-60430号公報の【0061】?【0062】及び特表2003-500519号公報の【0083】?【0093】など参照) そうすると,引用発明に関する手法を自動車エンジン用の潤滑剤組成物に対して適用する際に,該潤滑剤組成物に関して最適化を意図する性質として,酸化安定性や貯蔵安定性或いは耐摩耗性といった性質を選択し,これらの性質に関するエンジン試験を行い,その結果をデータとして出力することは当業者が容易になし得ることである。 (2)効果について 一方,本願明細書の記載を見ても,本願発明により格別予想外の効果が奏されたものとすることもできない。 (3)まとめ したがって、本願発明は、当業者が、刊行物Aに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 7 むすび 以上のとおり、本願発明は、当業者が、刊行物Aに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-08-27 |
結審通知日 | 2013-08-30 |
審決日 | 2013-09-10 |
出願番号 | 特願2006-538247(P2006-538247) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C10M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 天野 宏樹 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
松浦 新司 菅野 芳男 |
発明の名称 | コンビナトリアル潤滑油組成物ライブラリ |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |