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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B62D
管理番号 1284518
審判番号 不服2012-16665  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-27 
確定日 2014-02-05 
事件の表示 特願2008-316193号「トラックチェイン用のマスタリンク」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月12日出願公開、特開2009- 51504号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成15年 8月 5日(パリ条約による優先権主張 2002年 8月13日、米国)に出願した特願2003-287040号の一部を平成20年12月11日に新たな特許出願としたものであって、平成24年 4月23日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成24年 8月27日に拒絶査定に対する不服の審判が請求されると同時に手続補正がされ、その後当審において平成25年 5月 8日付けで拒絶の理由を通知したところ、平成25年 8月14日付けで意見書が提出されたものである。
そして、本願の各請求項に係る発明は、平成24年 8月27日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
トラックチェイン(10)のためのカートリッジアセンブリ(14)であって、
長手方向軸(42)を画定すると共に、その中に位置決めされるボア(44)を有するトラックピン(30)、
一対の端面(50)およびその中に画定される通路(56)を有し、該トラックピン(30)の周りに回転可能に位置決めされるブッシュ(32)、
第一の端部(60)、第二の端部(61)およびその中に画定されるボア(62)を有する軸受部材(34、36)であって、該軸受部材(34、36)が該トラックピン(30)の周りに位置決めされて、該軸受部材(34、36)の各々の第二の端部(61)が該ブッシュ(32)に隣接している該軸受部材(34、36)、
第一の端部(80)、第二の端部(81)およびその中に画定されるボア(82)を有するカラー(38、40)であって、該カラー(38、40)が該トラックピン(30)の周りに位置決めされて、該カラー(38、40)の各々の第二の端部(81)が該軸受部材(34、36)の各々の第一の端部(60)に隣接している該カラー(38、40)、
該軸受部材(34、36)の各々の該第二の端部(61)に位置決めされる第一シール構造(70)、および、
該カラー(38、40)の各々の該第二の端部(81)に位置決めされる第二シール構造(90)、を含み、
該第二シール構造(90)の荷重部材(94)の予荷重は、該軸受部材(34、36)の各々の該第一の端部(60)の一つおよび該カラー(38、40)の各々の該第二の端部(81)の間に位置決めされる環状軸方向予荷重部材(92)によって制御されることを特徴とするカートリッジアセンブリ(14)。」

2.引用文献及びその記載事項
(1) 当審の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2001-347974号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1-1) 「【請求項1】 内部を通って形成された通路を持つブシュと、
長手方向の軸線を持ち、前記ブシュの前記通路内に配置された履帯ピンと、
内部を通って形成された第1の内腔を持ち、前記履帯ピンが前記第1の内腔の内部に配置されるように前記履帯ピンに対して置かれた、第1のインサートと、
第1の開口が形成され、前記第1のインサートが(i)前記第1の開口内に位置して(ii)第1の内部リンクと前記履帯ピンとの間に挟まれるように、前記第1のインサートに対して置かれた、第1の内部リンクと、
第2の開口が形成され、前記履帯ピンが前記第2の開口内に配置されるように前記履帯ピンに対して置かれた、第1の外部リンクと、を含み、
前記第1のインサートは、前記長手方向軸線の周りに、前記履帯ピン、前記ブシュ、及び、前記第1の外部リンクに対して回転できる、ことを特徴とする、作業機械用の履帯チェーン・アセンブリ。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(1-2) 「【0009】図4A、図4B、及び、図4Cに示すように、カートリッジ・アセンブリ22は、内部を貫通して形成された通路26を持つブシュ24、履帯ピン28、内部を貫通して形成された内腔38を持つインサート36、及び、内部を貫通して形成された内腔54を持つインサート52を含む。インサート52は、実質的にインサート36と同一であり、従って、インサート36のみを本明細書において説明することを理解されたい。カートリッジ・アセンブリ22はまた、内部に形成された孔42を持つカラー40を含む。カートリッジ・アセンブリ22はまた、カラー40と実質的に同一である別のカラー56を含む。特に、カラー56はまた、内部に形成された孔58を含む。
【0010】ここで図15及び図16を参照すると、インサート36は、側壁62及び側壁64を持つリング部材176を含む。シール溝50は、シール溝50が内腔38の中心軸線180と同心になるように側壁62に形成される。側壁62にシール溝50を形成することによって上部壁セグメント246及び下部壁セグメント248が形成されることになり、シール溝50は、上部壁セグメント246と下部壁セグメント248との間に設けられることになる。上部壁セグメント246は、中心軸線180と実質的に平行な関係にあるリング部材176の主要外面252の直線上の延長250と内面300の直線上の延長254とが角度φを形成するように中心軸線180から離れるように傾斜している内面300を持つ。好ましくは、角度φは約5°である(角度φは、図15では明瞭に示すためにいくらか誇張して示されていることに注意されたい)。
【0011】側壁64はまた、内部に内腔38の中心軸線180と同心に形成されたシール溝66を持つ。リング部材176の上部壁セグメント258は、上部壁セグメント246について上記で説明したのと実質的に同一方式で中心軸線180から離れるように傾斜していることを理解されたい。シール溝50は、幅W1及び半径R1を持つ。半径R1がここで意味するのは、図15に示すように中心軸線180とシール溝50の内壁セグメント182との間の距離である。シール溝66もまた、幅W2及び半径R2を持つ。上記で説明したのと同様な方式で、半径R2がここで意味するのは、図15に示すように中心軸線180とシール溝66の内壁セグメント184との間の距離である。好ましくは、幅W1は、幅W2と実質的に等しい。半径R1が半径R2と実質的に等しいこともまた好ましい。
【0012】図4Aに戻って参照すると、シール溝50は、内部に配置された(i)環状スラスト部材76、及び、(ii)環状シール部材72を持つ。スラスト部材76及びシール部材72は、スラスト部材76がシール部材72を矢印186で示すような軸線方向に押し込むようにシール溝50に置かれる。上記で説明した方式で上部壁セグメント246を中心軸線180から遠ざかるように傾斜させることにより、環状スラスト部材76と環状シール部材72とをシール溝50内へ挿入することが、真っ直ぐつまり角度の付かない上部壁セグメントを持つ他のシール溝設計に比較して容易になることを理解されたい。特に、上部壁セグメント246の傾斜により、環状スラスト部材76と環状シール部材72とをシール溝50内に挿入するのに利用される機械類の能力が高められる。同様な方式で、シール溝66は、内部に配置された(i)環状スラスト部材78、及び、(ii)環状シール部材74を持つ。スラスト部材78及びシール部材74は、シール溝66に置かれ、スラスト部材78がシール部材74を矢印188で示す軸線方向に押し込むようになっている。上記で示す通り、リング部材176の上部壁セグメント258を中心軸線180から離れるように傾斜させたことはまた、環状スラスト部材78と環状シール部材74とをシール溝66内へ挿入するのに利用される機械類の能力を高める。
【0013】同様な方式で、インサート52の環状シール溝60は、内部に配置された(i)環状シール部材92、及び、(ii)環状スラスト部材190を持つ。スラスト部材190及びシール部材92は、シール溝60に置かれ、スラスト部材190がシール部材92を矢印192で示す軸線方向に押し込むようになっている。インサート52の環状シール溝84はまた、内部に配置された(i)環状スラスト部材194、及び、(ii)環状シール部材86を持つ。スラスト部材194及びシール部材86は、シール溝84に置かれ、スラスト部材194がシール部材86を矢印198で示す軸線方向に押し込むようになっている。両シール溝をインサートに形成したのは好ましいことではあるが、シール溝をカラー側壁に形成することもまた考慮される。その場合、シール部材及びスラスト部材は、カラー側壁に形成されたシール溝に配置される。この実施形態においては、インサートの1つの側壁がカラーのシール溝に配置されたシール部材の支持面として働く。スラスト部材がカラーと一体化できることもまた考慮される。加えて、スラスト部材がインサートと一体化できることもまた考慮される。
【0014】ここで図4A、図4B、及び、図4Cを参照すると、履帯ピン28は、ブシュ24の通路26内に挿入され、ブシュ24が履帯ピン28に対して矢印200及び204によって示される方向に回転できるようになっている(図4B参照)。インサート36は、(i)履帯ピン28の一部分32が内腔38を通って延び、(ii)シール溝50がブシュ24の端面68に対向する関係になるように、履帯ピン28及びブシュ24に対して置かれる。インサート36は、更に、シール部材72が環状スラスト部材76によってブシュ24の端面68に押しつけられるようにブシュ24に対して置かれる。インサート36が長手方向軸線30の周りをブシュ24及び履帯ピン28の双方に対して矢印200及び204が示す方向に回転できることを理解されたい(図4B参照)。
【0015】カラー40は、(i)履帯ピン28の一部分34が孔42内へ延び、(ii)カラー40の端面70がシール溝66と対向する関係になるように、履帯ピン28及びインサート36に対して置かれる。カラー40は、更に、環状シール部材74がスラスト部材78によってカラー40の端面70に押しつけられるようにインサート36に対して置かれる。カラー40が(i)履帯ピン28に対して回転できず、又は、(ii)履帯ピン28に対して軸線方向に動けないように、カラー40は、履帯ピン28に対して固定される。例えば、カラー40は、履帯ピン28にレーザ溶接することができる。上記で説明した方式でカラー40を履帯ピン28に装着することは、履帯チェーン14の端部の遊びに対する制御を高める。
【0016】インサート52及びカラー56は、インサート36及びカラー40に関して上記で説明したのと同様な方式で、履帯ピン28及びブシュ24に対して置かれる。特に、インサート52は、(i)履帯ピン28の一部分が内腔54を通って延び、(ii)シール溝84がブシュ24の端面88に対向する関係になるように、履帯ピン28及びブシュ24に対して置かれる。インサート52は、更に、シール部材86がスラスト部材194によってブシュ24の端面88に押しつけられるようにブシュ24に対して置かれる。インサート52がブシュ24及び履帯ピン28の双方に対して矢印200及び204が示す方向に回転できることを理解されたい(図4B参照)。
【0017】カラー56は、(i)履帯ピン28の一部分が孔58内へ延び、(ii)カラー56の端面90がシール溝60と対向する関係になるように、履帯ピン28及びインサート52に対して置かれる。カラー56は、更に、シール部材92がスラスト部材190によってカラー56の端面90に押しつけられるようにインサート52に対して置かれる。カラー56が履帯ピン28に対して回転できず、又は、履帯ピン28に対して軸線方向に移動できないように、カラー56は、履帯ピン28に対して固定される。例えば、カラー56は、履帯ピン28にレーザ溶接することができる。上記で説明した方式でカラー56を履帯ピン28に装着することはまた、履帯チェーン14の端部の遊びに対する制御を高める。
【0018】図4Aに示すように、履帯ピン28は、内部に形成された潤滑油リザーバ44を持つ。潤滑油リザーバ44は、潤滑流路46と流体連絡し、潤滑流路46は、履帯ピン28の外面48に通じる。1対のプラグ200が潤滑油リザーバ44内に位置し、オイルなどの潤滑油が潤滑油リザーバ44から漏れるのを防ぐ。カートリッジ・アセンブリ22を使用する間、潤滑油リザーバ44内に配置されたオイルは、潤滑流路46を通って履帯ピン28の外面48へ進む。一旦外面48に配置されると、オイルは、インサート36、ブシュ24、及び、インサート52が履帯ピン28に対して回転するのを容易にする。オイルはまた、シール部材72、74、86、及び、92を潤滑する。シール部材72、74、86、及び、92、スラスト部材76、78、109、及び、194、カラー端面70及び90、及び、ブッシュ端面68及び88は、全て協働してオイルをカートリッジ・アセンブリ22内に保持する一方、デブリ(例えば、砂や岩など)が入らないようにする。」(段落【0009】?【0018】)

(1-3) 上記記載事項と図4Aを参照すると、次の事項が記載されているといえる。
ブシュ24は一対の端面68、88を有している。
潤滑油リザーバ44は履帯ピンの軸方向の穴部から形成されている。
インサート36は、軸方向内側の側壁62と軸方向外側の側壁64とを備えており、インサート52も同様に、軸方向内側の側壁と軸方向外側の側壁とを備えており、各々のインサートの軸方向内側の側壁はブシュに隣接している。
カラー40は、軸方向内側の端面70と軸方向外側の端面とを備え、軸方向内側の端面はインサート36の軸方向外側の側壁に隣接しており、カラー56も同様に、軸方向内側の端面と軸方向外側の端面とを備え、軸方向内側の端面は、インサート52の軸方向外側の側壁に隣接している。
各々のインサートは、軸方向内側の側壁にシール溝50、84を備え、該シール溝には、内部に配置された環状スラスト部材と環状シール部材を持ち、また、軸方向外側の側壁にシール溝66、60を備え、該シール溝には、内部に配置された環状スラスト部材と環状シール部材を持つ。

上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が実質的に記載されている。
「作業機械用履帯チェーン・アセンブリのカートリッジ・アセンブリ22であって、
長手方向の軸線を持ち、内部に形成された潤滑油リザーバを持つ履帯ピンを備え、
潤滑油リザーバ44は履帯ピンの軸方向の穴部から形成され、
一対の端面68、88を有し、内部を貫通して形成された通路26を持ち、履帯ピンに対して回転できるようになっているブシュ24を備え、
内部を貫通して形成された内腔を持ち、履帯ピンが内腔の内部に配置されるように履帯ピンに対して置かれたインサート36、52で、インサート36、52は、軸方向外側の側壁と軸方向内側の側壁とを備えており、各々のインサートの軸方向内側の側壁はブシュに隣接しており、
内部に形成された孔42、58を持つカラー40、56で、履帯ピンがカラーの孔の内部に配置され、カラー40、56は、軸方向外側の端面と軸方向内側の端面とを備え、軸方向内側の端面はインサートの軸方向外側の側壁に隣接しており、
各々のインサートは、軸方向内側の側壁にシール溝50、84を備え、該シール溝には、内部に配置された環状スラスト部材と環状シール部材を持ち、また、軸方向外側の側壁にシール溝66、60を備え、該シール溝には、内部に配置された環状スラスト部材と環状シール部材を持つ、カートリッジアセンブリ。」

(2) 当審の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特開昭49-76237号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(2-1) 「本発明はシール、特に、いろいろな温度条件のもとで振動を受けるトラック(履帯)リンク仕掛けのようなリンク仕掛けのためのシールに関するものである。」(第4ページ左上欄第2?5行。)

(2-2) 「リンク(13)、(15)の重合した端部の間に間隙を設けるためにスラストリング(37)を用いることができる(第1図)。リンク(13)とスラストリングは一体的に形成することができる。」(第5ページ右下欄第2?5行。)

(2-3) 図3に記載のものでは、リンクとスラストリングとは別体となっており、図6に比較例として記載されたものでは、リンクとスラストリングとは一体となっているといえる。

(2-4) 上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、引用例2には、トラック(履帯)リンクにおいて、スラストリングによって、間隙(軸方向の間隙)を設けることが記載されているといえる。

(3) 当審の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特開昭54-111044号公報(以下「引用例3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(3-1) 「本発明は一般に端面シール組立体、特に履帯接手のような ・・・(中略)・・・ 端面シール組立体に関する。」(第5ページ左上欄第14?17行。)

(3-2) 「スペーサリング22はピン16に弛く装着され、両者の面28,34に当接し当該技術において公知の如く面28,34間の最小軸方向距離を制限する如く構成される。」(第6ページ左上欄第12?15行。)

(3-3) 上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、引用例3には、履帯において、スペーサーリングを設け、該スペーサーリング22は面28、34間の最小軸方向距離を制限することが記載されているといえる。

(4) 当審の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特公昭46-36971号公報(以下「引用例4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(4-1) 「軌道用ヒンジ継手」(第1ページ左欄第1行)

(4-2) 「かように夫々の弾性支持部材により各対の封鎖部材に予圧を加えた状態を維持するために間隔片26を封鎖装置14に関連させて設ける。この間隔片26は外側軌道リンク端部11と内側軌道リンク12との間隔を制御する作用を為す。内側軌道リンク端部12と回転自在の中央ブシュ17との間の間隔は上述したと同様の間隔片27により制御するものとする。」(第2ページ右欄第32?39行。)

(4-3) 上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、引用例4には、軌道用ヒンジ継手に関して、間隔片を設け、この間隔片は外側軌道リンク端部と内側軌道リンク端部との間の間隔(軸方向の間隔)を制御することが記載されているといえる。

(5) 当審の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2001-187590号公報(以下「引用例5」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(5-1)「【発明の属する技術分野】本発明は、一般的に土木機械で使用する履帯チェーンに関し、より詳細には、履帯チェーンの接合部を保持する方法および装置に関する。」(段落【0001】)

(5-2) 「【0018】4つ一組のスラストリング88は、シール84,86のそれぞれの内方に設けられている。スラストリング88は、組立あるいは作動中に、シールが粉砕しないように、シール84,86のために所定の最小の軸間隔を維持して設けられている。本発明の教示によって構成される無限履帯チェーン10は、軸方向の遊びを軽減し、レールゲージの寸法を維持するために構造的一体性あるいは耐過重能力を保つ構造をもたらす。」(段落【0018】)

(5-3) 上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、引用例5には、履帯チェーンにおいて、スラストリングを設け、該スラストリングがシールのために所定の軸間隔を維持して設けられることが記載されているといえる。

(6) 当審の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平8-290788号公報(以下「引用例6」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(6-1) 「・・・スチールのスペーサーリング44が、第1部材14を履帯継ぎ目12の第2部材16から所定の軸方向に分離した位置に保持するのに使用される。・・・」(段落【0005】)

(6-2) 上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、引用例6には、履帯において、スペーサーリングを設け、該スペーサリングが第1部材を履帯継ぎ目の第2部材から所定の軸方向に分離した位置に保持するのに使用されることが記載されているといえる。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「作業機械用履帯チェーン」は、本願発明の「トラックチェイン」に相当する。
以下、同様に「カートリッジ・アセンブリ」は「カートリッジアセンブリ」に、「履帯ピン」は「トラックピン」に、「履帯ピンの軸方向の穴部」は「ボア(44)」に、「ブシュ」は「ブッシュ」に、「内腔」は「ボア(62)」に、「インサート」は「軸受部材」に、インサートの「軸方向外側の側壁」及び「軸方向内側の側壁」は軸受部材の「第一の端部」及び「第二の端部」に、「カラー」は「カラー」に、「孔42」は「ボア(82)」に、カラーの「軸方向外側の端面」及び「軸方向内側の端面」はカラーの「第一の端部」及び「第二の端部」に、インサートの「軸方向内側の側壁にシール溝50、84を備え、該シール溝には、内部に配置された環状スラスト部材と環状シール部材」は「軸受部材(34、36)の各々の該第二の端部(61)に位置決めされる第一シール構造(70)」に、「環状スラスト部材」は「荷重部材」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の、インサートの「軸方向外側の側壁にシール溝66、60を備え、該シール溝には、内部に配置された環状スラスト部材と環状シール部材」と、本願発明の「カラー(38、40)の各々の該第二の端部(81)に位置決めされる第二シール構造(90)」とは、「軸受部材とカラーとの間の第二シール構造」である点で共通する。

以上のことから、本願発明と引用発明とは次の点で一致する。
「トラックチェインのためのカートリッジアセンブリであって、
長手方向軸を画定すると共に、その中に位置決めされるボアを有するトラックピン、
一対の端面およびその中に画定される通路を有し、該トラックピンの周りに回転可能に位置決めされるブッシュ、
第一の端部、第二の端部およびその中に画定されるボアを有する軸受部材であって、該軸受部材が該トラックピンの周りに位置決めされて、該軸受部材の各々の第二の端部が該ブッシュに隣接している該軸受部材、
第一の端部、第二の端部およびその中に画定されるボアを有するカラーであって、該カラーが該トラックピンの周りに位置決めされて、該カラーの各々の第二の端部が該軸受部材の各々の第一の端部に隣接している該カラー、
該軸受部材の各々の該第二の端部に位置決めされる第一シール構造、および、
軸受部材とカラーとの間の第二シール構造を含む
カートリッジアセンブリ。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
軸受部材とカラーとの間の第二シール構造の配置に関して、本願発明では「カラーの各々の該第二の端部に位置決めされる第二シール構造」を備えているのに対して、引用発明ではインサート(軸受部材)の軸方向外側の側壁のシール溝にシール構造を備えている点。

[相違点2]
軸受部材とカラーとの間の第二シール構造の予荷重に関して、本願発明では、「第二シール構造の荷重部材の予荷重は、該軸受部材の各々の該第一の端部の一つおよび該カラーの各々の該第二の端部の間に位置決めされる環状軸方向予荷重部材によって制御される」のに対して、引用発明では、「環状軸方向予荷重部材」を備えておらず、また、予荷重について明確ではない点。

4.判断
[相違点1]について
引用例1(引用例1の記載事項(1-2)の段落【0013】を参照。)には、シール溝をカラー側壁に形成すること、その場合、シール部材及びスラスト部材は、カラー側壁に形成されたシール溝に配置され、インサートの1つの側壁がカラーのシール溝に配置されたシール部材の支持面として働くことが記載されており、これはすなわち、カラーの軸方向内側の端面にシール溝を設け、このシール溝にシール部材及びスラスト部材を設けることを示しているといえる。
すると、引用発明において、シール溝をカラーの軸方向内側の端面(本願発明の「カラーの各々の第二の端部」に相当。)に形成し、シール部材及びスラスト部材をシール溝に配置することにより、本願発明の上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものといえる。

[相違点2]について
引用例2?6に記載されているように(引用例2?6の記載事項を参照。)、履帯または軌道(本願発明の「トラックチェイン」に相当。)において、スラストリング、スペーサーリングまたは間隔片(以下「スラストリング等」という。本願発明の「環状軸方向予荷重部材」に相当。)を用いることによって、軸方向の距離を維持することは、本願優先日前に周知の技術であったといえる。
また、スラストリング等を用いることによって、引用例2の負荷リング45、引用例3の負荷リング40、引用例4の弾性支持部材24、引用例5の図2、4においてシール84、86のうちで断面が略正方形に記載された部品、及び、引用例6の負荷リング46の各々の予荷重が、本願発明でいうところの「制御される」構成となっていることは明らかである。
すると、前記の「[相違点1]について」で記載したごとく引用発明において「カラーの各々の該第二の端部に位置決めされる第二シール構造」を設けた場合に、スラストリング等(本願発明の「環状軸方向予荷重部材」に相当。)を設けて、軸方向の距離を維持し、それにより環状スラスト部材(本願発明の「第二シール構造の荷重部材」に相当。)の予荷重を「制御される」構成とすることによって、本願発明の上記相違点2に係る構成とすることは、上記周知の技術から当業者が容易になし得たものといえる。

そして、本願発明により得られる作用効果も、引用発明及び引用例1に記載された事項並びに周知の技術から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。
以上のことから、本願発明は、引用発明及び引用例1に記載された事項並びに周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び引用例1に記載された事項並びに周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-09 
結審通知日 2013-09-10 
審決日 2013-09-24 
出願番号 特願2008-316193(P2008-316193)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 沼田 規好  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 平田 信勝
小関 峰夫
発明の名称 トラックチェイン用のマスタリンク  
復代理人 梅田 幸秀  
復代理人 伊藤 勝久  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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