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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1284586
審判番号 不服2012-25885  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-27 
確定日 2014-02-06 
事件の表示 特願2008-272252「分子インプリントポリマーおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月 6日出願公開、特開2010-100708〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成20年10月22日を出願日とする特許出願であって、平成24年7月27日付けで拒絶理由が通知され、同年9月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成25年3月21日付けで前置報告がなされ、それに基いて当審において同年6月3日付けで審尋がなされ、これに対して回答がなかったものである。

第2.平成24年12月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年12月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成24年12月27日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合の補正であって、特許請求の範囲について、本件補正前の

「【請求項1】
ポリマー鎖内に、機能性モノマーとして4-ビニルピリジンを用いて形成された部位を有し、当該部位によってリン酸化合物を特異的に認識する、分子インプリントポリマーであって、
ポリマー鎖の形成に用いられるテンプレート分子と、当該テンプレート分子と相互作用を有する機能性モノマーと、架橋剤と、希釈剤とを用いた多段階膨潤重合法によって製造されたものであり、
テンプレート分子がリン酸ジフェニルまたはリン酸1-ナフチルであり、架橋剤がグリセロールジメタクリレートまたはエチレングリコールジメタクリレートであり、希釈剤がシクロヘキサノールまたは1-ヘキサノールであり、
機能性モノマーがテンプレート分子100重量部に対し20?1000重量部の範囲内である、分子インプリントポリマー。
【請求項2】
pH7以下の条件で用いられる、請求項1に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項3】
BET法により測定された比表面積が50?400m^(2)/g、細孔容量が0.05?1cm^(3)/g、平均細孔径が0.5?10nmである、請求項1または2に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項4】
架橋剤がテンプレート分子100重量部に対し100?10000重量部の範囲内である、請求項1?3のいずれかに記載の分子インプリントポリマー。
【請求項5】
希釈剤がテンプレート分子100重量部に対し200?20000重量部の範囲内である、請求項1?4のいずれかに記載の分子インプリントポリマー。
【請求項6】
テンプレート分子がリン酸ジフェニル、架橋剤がグリセロールジメタクリレート、希釈剤が1-ヘキサノールである、請求項1に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項7】
テンプレート分子と、当該テンプレート分子と相互作用を有する機能性モノマーと、架橋剤と、希釈剤とを用いた多段階膨潤重合法によって分子内インプリントポリマーを製造する方法であって、
テンプレート分子がリン酸ジフェニルまたはリン酸1-ナフチルであり、機能性モノマーが4-ビニルピリジンであり、架橋剤がグリセロールジメタクリレートまたはエチレングリコールジメタクリレートであり、希釈剤がシクロヘキサノールまたは1-ヘキサノールであり、
機能性モノマーがテンプレート分子100重量部に対し20?1000重量部の範囲内である、分子インプリントポリマーの製造方法。
【請求項8】
テンプレート分子がリン酸ジフェニル、架橋剤がグリセロールジメタクリレート、希釈剤が1-ヘキサノールである、請求項7に記載の分子インプリントポリマーの製造方法。」

を、

「【請求項1】
ポリマー鎖内に、機能性モノマーとして4-ビニルピリジンを用いて形成された部位を有し、当該部位によってリン酸化合物を特異的に認識する、分子インプリントポリマーであって、
ポリマー鎖の形成に用いられるテンプレート分子と、当該テンプレート分子と相互作用を有する機能性モノマーと、架橋剤と、希釈剤とを用いた多段階膨潤重合法によって製造されたものであり、
テンプレート分子がリン酸ジフェニルまたはリン酸1-ナフチルであり、架橋剤がグリセロールジメタクリレートまたはエチレングリコールジメタクリレートであり、希釈剤がシクロヘキサノールまたは1-ヘキサノールであり、
機能性モノマーがテンプレート分子100重量部に対し100?500重量部の範囲内であり、
架橋剤がテンプレート分子100重量部に対し500?5000重量部の範囲内であり、
希釈剤がテンプレート分子100重量部に対し500?4000重量部の範囲内である、分子インプリントポリマー。
【請求項2】
pH7以下の条件で用いられる、請求項1に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項3】
BET法により測定された比表面積が50?400m^(2)/g、細孔容量が0.05?1cm^(3)/g、平均細孔径が0.5?10nmである、請求項1または2に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項4】
テンプレート分子がリン酸ジフェニル、架橋剤がグリセロールジメタクリレート、希釈剤が1-ヘキサノールである、請求項1に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項5】
テンプレート分子と、当該テンプレート分子と相互作用を有する機能性モノマーと、架橋剤と、希釈剤とを用いた多段階膨潤重合法によって分子インプリントポリマーを製造する方法であって、
テンプレート分子がリン酸ジフェニルまたはリン酸1-ナフチルであり、機能性モノマーが4-ビニルピリジンであり、架橋剤がグリセロールジメタクリレートまたはエチレングリコールジメタクリレートであり、希釈剤がシクロヘキサノールまたは1-ヘキサノールであり、
機能性モノマーがテンプレート分子100重量部に対し100?500重量部の範囲内であり、
架橋剤がテンプレート分子100重量部に対し500?5000重量部の範囲内であり、
希釈剤がテンプレート分子100重量部に対し500?4000重量部の範囲内である、分子インプリントポリマーの製造方法。
【請求項6】
テンプレート分子がリン酸ジフェニル、架橋剤がグリセロールジメタクリレート、希釈剤が1-ヘキサノールである、請求項5に記載の分子インプリントポリマーの製造方法。」

と補正しようとするものである。

2.補正の適否について
(1)新規事項の追加の有無について
本件補正は、願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲並びに図面(以下、これらを合わせて「当初明細書等」という。)の記載からみて、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものではないことから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。

(2)補正の目的について
本件補正は、本件補正前の請求項1、7における「機能性モノマーがテンプレート分子100重量部に対し20?1000重量部の範囲内である」について、更にその数値範囲を「機能性モノマーがテンプレート分子100重量部に対し100?500重量部の範囲内」と減縮し(以下、「補正事項イ」という。)、本件補正前の請求項1、7に「架橋剤がテンプレート分子100重量部に対し500?5000重量部の範囲内であり、希釈剤がテンプレート分子100重量部に対し500?4000重量部の範囲内である」点をさらに限定する補正(以下、「補正事項ロ」という。)であり、その補正前の当該請求項に記載された発明と、その補正後の請求項に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のものであるので、当該補正事項イ及びロに係る補正は、同法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
上記補正事項イ、ロは、上記のとおり、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する補正であるか否か(いわゆる、独立特許要件の有無)について、以下に検討する。

(3-1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、平成24年12月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書並びに図面(以下、これらを総称して「本件補正明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「ポリマー鎖内に、機能性モノマーとして4-ビニルピリジンを用いて形成された部位を有し、当該部位によってリン酸化合物を特異的に認識する、分子インプリントポリマーであって、
ポリマー鎖の形成に用いられるテンプレート分子と、当該テンプレート分子と相互作用を有する機能性モノマーと、架橋剤と、希釈剤とを用いた多段階膨潤重合法によって製造されたものであり、
テンプレート分子がリン酸ジフェニルまたはリン酸1-ナフチルであり、架橋剤がグリセロールジメタクリレートまたはエチレングリコールジメタクリレートであり、希釈剤がシクロヘキサノールまたは1-ヘキサノールであり、
機能性モノマーがテンプレート分子100重量部に対し100?500重量部の範囲内であり、
架橋剤がテンプレート分子100重量部に対し500?5000重量部の範囲内であり、
希釈剤がテンプレート分子100重量部に対し500?4000重量部の範囲内である、分子インプリントポリマー。」

(3-2)刊行物
刊行物:Chromatography,2008年5月20日,Vol.29,Supplement 1,p53-54(平成24年7月27日付け拒絶理由通知書において提示された引用文献2)

(3-3)刊行物の記載事項
本願の出願日前に頒布された刊行物であることが明らかな「Chromatography,2008年5月20日,Vol.29,Supplement 1,p53-54」(以下、単に「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア.「リン酸化ペプチドの認識を指向した分子インプリントポリマーの調製とその応用」(表題)

イ.「【目的】
リン酸化ペプチドの認識を目的として、リン酸化合物に対する分子インプリントポリマー(molecularly imprinted polymer,MIP)を調製し、その保持能および分子認識能を評価するとともにリン酸化ペプチドの特異的認識に適用する。」(53頁21行?24行)

ウ.「【実験】
MIPの調製には多段階膨潤重合法を用いた。テンプレート分子にリン酸ジフェニル(DPP)あるいはリン酸1-ナフチル(1-NapP),機能性モノマーに4-ビニルピリジン(4-VPY),架橋剤にグリセロールジメタクリレート(GDMA)あるいはエチレングリコールジメタクリレート(EDMA),希釈剤にシクロヘキサノールあるいは1-ヘキサノールを用い,50℃で24時間重合した(Table)。また、比較のためにテンプレート分子を用いないで同1条件下で重合したノンインプリントポリマー(Non-imprinted polymer ,NIP)も調製した。得られたポリマーをステンレス製カラムに充填し、リン酸化合物に対する保持能および分子認識能をHPLCを用いて評価した。なお,分子認識能の評価にはNIPとの保持係数(k)との比で定義した選択係数(S=k_(MIP)/k_(NIP))を用いた。」(53頁25行?末行)

エ.「

」(54頁1?7行)

オ.「【結果及び考察】
調製したMIPは,それぞれのテンプレート分子に対して最も高い分子認識能を示した。また,MIPのリン酸化合物に対する保持能を,移動相pH3?6の範囲で評価したところ,いずれのMIPにおいても移動相pHが低くなるとともにリン酸化合物の保持が増加した。・・・次に,調製したMIPのアデノシン,AMP,ADPおよびATPに対する保持能および分子認識能を評価した。その結果,いずれのMIPにおいても,アデノシン<AMP<ADP<ATPの順となり,溶質のリン酸基の数が増すほど大きくなることがわかった。また,MIPはNIPと比較して,リン酸化合物を特異的に認識できることが明らかとなった(Figure)。
リン酸化合物に対して最も高い保持能および分子識別能を示したMIP2を,リン酸化ペプチドの特異的認識に適用した。

」(54頁8行?末行)

(3-4)引用文献に記載された発明
引用文献には、摘示ウ?オから、リン酸化合物に対して最も高い保持能および分子識別能を示したMIP2である、
「テンプレート分子にリン酸ジフェニル(DPP),機能性モノマーに4-ビニルピリジン(4-VPY),架橋剤にグリセロールジメタクリレート(GDMA),希釈剤に1-ヘキサノールを用い、多段階膨潤重合法で調製された、リン酸化合物に対して最も高い保持能および分子識別能を示した分子インプリントポリマー」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(3-5)補正発明と引用発明との対比
引用発明と補正発明とを対比すると、両者は、

「ポリマー鎖内に、機能性モノマーとして4-ビニルピリジンを用いて形成された部位を有し、当該部位によってリン酸化合物を特異的に認識する、分子インプリントポリマーであって、
ポリマー鎖の形成に用いられるテンプレート分子と、当該テンプレート分子と相互作用を有する機能性モノマーと、架橋剤と、希釈剤とを用いた多段階膨潤重合法によって製造されたものであり、
テンプレート分子がリン酸ジフェニルまたはリン酸1-ナフチルであり、架橋剤がグリセロールジメタクリレートまたはエチレングリコールジメタクリレートであり、希釈剤がシクロヘキサノールまたは1-ヘキサノールである、分子インプリントポリマー」

の点で一致し、以下の点で一応相違している。

<相違点1>
機能性モノマーの配合量に関し、補正発明においては「機能性モノマーがテンプレート分子100重量部に対し100?500重量部の範囲内であり」と特定されているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。

<相違点2>
架橋剤の配合量に関し、補正発明においては「架橋剤がテンプレート分子100重量部に対し500?5000重量部の範囲内であり」と特定されているのに対して、引用発明においては、この点の規定はない点。

<相違点3>
希釈剤の配合量に関し、補正発明においては「希釈剤がテンプレート分子100重量部に対し500?4000重量部の範囲内である」と特定されているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。

以下、相違点について検討する。

相違点1について
機能性モノマーの配合量に関して、本件補正明細書等においては「機能性モノマーの添加量についても特に制限されるものではないが、テンプレート分子100重量部に対し20?1000重量部の範囲内であることが好ましく、100?500重量部の範囲内であることがより好ましい。機能性モノマーの添加量がテンプレート分子100重量部に対し20重量部未満である場合には、分子認識能が低い傾向にあるためであり、また、1000重量部を超える場合には、非特異的な吸着が起こる傾向にあるためである。」(段落【0025】)と記載されているから、分子認識能が補正発明と同程度であって、非特異的な吸着がおこっていなければ、機能性モノマーの配合量は、補正発明の数値範囲内である蓋然性が高いといえる。
ここで、引用発明の分子インプリントポリマーは、摘示オの図からみて、リン酸化ペプチドに対して補正発明と同等の保持能および分子認識能を有していると認められることから、補正発明と同等に分子認識能が高く、補正発明と同等に非特異的な吸着もおこっていないものといえ、このことから、機能性モノマーの添加量は、テンプレート分子100重量部に対し100?500重量部の範囲内である蓋然性が高いといえる。
そうすると、相違点1は実質上の相違点ではない。

相違点2について
架橋剤の配合量に関して、本件補正明細書等においては「架橋剤の添加量については特に制限されるものではないが、テンプレート分子100重量部に対し100?10000重量部の範囲内で添加することが好ましく、500?5000重量部の範囲内で添加することがより好ましい。架橋剤の添加量がテンプレート分子100重量部に対し100重量部未満である場合には、粒子の耐圧性に問題があるためであり、また、10000重量部を超える場合には、分子認識能が低い傾向にあるためである。」(段落【0031】)と記載されているから、分子認識能が補正発明と同程度であり、粒子の耐圧性に問題がなければ、架橋剤の添加量は、補正発明の数値範囲内である蓋然性が高いといえる。
ここで、引用発明の分子インプリントポリマーは、摘示オの図においてHPLC(当審注:HPLCとは、カラムクロマトグラフィーの一種。移動相として高圧に加圧した液体を用いることが特徴)でのリン酸化ペプチドに対して補正発明と同等の保持能および分子認識能を有していることが示されていることから、引用発明においても分子認識能が高く、HPLCに利用される引用発明の粒子は耐圧性の高い粒子といえることから、架橋剤の添加量は、テンプレート分子100重量部に対し500?5000重量部の範囲内である蓋然性が高い。
そうすると、相違点2は実質上の相違点ではない。

相違点3について
希釈剤の配合量に関して、本件補正明細書等においては「希釈剤の添加量についても特に制限されるものではないが、テンプレート分子100重量部に対し200?20000重量部の範囲内で添加することが好ましく、500?4000重量部の範囲内で添加することがより好ましい。希釈剤の添加量がテンプレート分子100重量部に対し200重量部未満である場合には、認識サイトの数が少ない傾向にあるためであり、また、20000重量部を超える場合には、粒子の耐圧性が低い傾向にあるためである。」(段落【0017】)と記載されているから、認識サイトが補正発明と同程度で有り、粒子の耐圧性に問題がなければ、希釈剤の配合量は、補正発明の数値範囲内である蓋然性が高いといえる。
ここで、引用発明の分子インプリントポリマーは、摘示オの図においてHPLCでのリン酸化ペプチドに対して補正発明と同等の保持能および分子認識能を有していることが示されていることから、分子認識サイトの数が同程度であり、HPLCに利用される引用発明の粒子は耐圧性の高い粒子といえることから、希釈剤の添加量は、テンプレート分子100重量部に対し500?4000重量部の範囲内である蓋然性が高い。
そうすると、相違点3は実質上の相違点ではない。

したがって、補正発明は引用発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3-6)審判請求人の主張の検討
審判請求人は、平成24年12月27日提出の審判請求書において、以下のように主張している。

「引用文献2には、補正後の本願発明のような、分子インプリントポリマーにおけるテンプレート分子と機能性モノマーとの配合比率、架橋剤とテンプレート分子との配合比率、ならびに、希釈剤とテンプレート分子の配合比率について何ら開示、教示、示唆するものではありません。
このように補正後の本願発明は引用文献2に開示されたものではなく、引用文献2に対し新規性を有するものであって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものではないと思量致します。
補正後の本願発明によれば、テンプレート分子と機能性モノマーとの配合比率を特定範囲内とすることで、高い分子認識能を有し、非特異的な吸着が起こらない、分子インプリントポリマーを提供することができる、という効果が奏されます。
また補正後の本願発明によれば、架橋剤とテンプレート分子との配合比率を特定範囲内とすることで、粒子の耐圧性に問題が起こることのない、高い分子認識能を有する分子インプリントポリマーを提供できる、という効果が奏されます。
さらに、補正後の本願発明によれば、希釈剤とテンプレート分子との配合比率を特定範囲内とすることで、認識サイトの数が少ないということもなく、また、粒子の耐圧性に問題が起こることのない、分子インプリントポリマーを提供することができる、という効果が奏されます。
これらの本願発明により奏される効果は、引用文献2の記載から当業者が容易に予測し得る範囲を超えるものです。
以上のことから、たとえ当業者であっても引用文献2の記載から補正後の本願発明を到底容易には想到し得るものではなく、補正後の本願発明は引用文献2に対し進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定に該当するものではないと思量致します。」
以下、上記主張について検討する。

引用文献2には、文言としてテンプレート分子と機能性モノマーとの配合比率、架橋剤とテンプレート分子との配合比率、ならびに、希釈剤とテンプレート分子の配合比率についての記載がなくとも、上記第2.3.(3-5)において検討したとおり、引用文献2におけるMIP2として記載されている引用発明の分子インプリントポリマーの機能性モノマー、架橋剤、希釈剤の配合量は、補正発明で規定されている配合量である蓋然性が高いことから、補正発明は、引用文献2に記載されているといえ、請求人の主張は失当であり、採用できない。

3.補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
平成24年12月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成24年9月20日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書並びに図面(以下、これらを総称して「本件明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものであり、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「ポリマー鎖内に、機能性モノマーとして4-ビニルピリジンを用いて形成された部位を有し、当該部位によってリン酸化合物を特異的に認識する、分子インプリントポリマーであって、
ポリマー鎖の形成に用いられるテンプレート分子と、当該テンプレート分子と相互作用を有する機能性モノマーと、架橋剤と、希釈剤とを用いた多段階膨潤重合法によって製造されたものであり、
テンプレート分子がリン酸ジフェニルまたはリン酸1-ナフチルであり、架橋剤がグリセロールジメタクリレートまたはエチレングリコールジメタクリレートであり、希釈剤がシクロヘキサノールまたは1-ヘキサノールであり、
機能性モノマーがテンプレート分子100重量部に対し20?1000重量部の範囲内である、分子インプリントポリマー。」

第4.原査定の理由
原査定の理由とされた、平成23年6月24日付け拒絶理由通知書に記載した理由1は、以下のとおりである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・・・

理由1,2について
・・・
(2)請求項1?8について
引用例2には、リン酸化合物に対する分子インプリントポリマーとして、多段階膨潤重合法を用いて、テンプレート分子にリン酸ジフェニル又はリン酸1-ナフチル、機能性モノマーに4-ビニルピリジン、架橋剤にグリセロールジメタクリレート又はエチレングリコールジメタクリレート、希釈剤にシクロヘキサノール又は1-ヘキサノールを用いて、50℃で24時間重合したポリマーの発明が記載されている。
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.略
2.Chromatography,2008年5月20日,Vol.29,No.Supplement 1,p53-54
(以下、略)」

第5.当審の判断
1.刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明
原査定で引用された引用文献等2である「Chromatography,2008年5月20日,Vol.29,No.Supplement 1,p53-54」は、上記第2.3.(3-2)の刊行物と同じであるから、刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明は、上記第2.3.(3-3)及び(3-4)に記載したとおりである。

2.対比
本願発明は、上記第2.2.(2)で述べたとおり、補正発明における架橋剤と希釈剤の配合量の規定である「架橋剤がテンプレート分子100重量部に対し500?5000重量部の範囲内であり、希釈剤がテンプレート分子100重量部に対し500?4000重量部の範囲内である」ものであると限定することをなくすと共に、機能性モノマーの配合量に関する「機能性モノマーがテンプレート分子100重量部に対し100?500重量部の範囲内であり」について、補正発明における「100?500重量部」から「20?1000重量部」と条件を広げるものに相当する。

そうすると、上記第2.3.(3-5)で述べたとおり、補正発明は引用文献に記載された発明であるから、本願発明も引用文献に記載された発明である。

3.まとめ
よって、本願発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由1は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2013-11-26 
結審通知日 2013-12-03 
審決日 2013-12-16 
出願番号 特願2008-272252(P2008-272252)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08F)
P 1 8・ 575- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 美穂  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 塩見 篤史
大島 祥吾
発明の名称 分子インプリントポリマーおよびその製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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