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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1284595
審判番号 不服2013-5217  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-19 
確定日 2014-02-06 
事件の表示 特願2006-195869「高強度アルミニウム合金板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月 7日出願公開、特開2008- 24964〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成18年7月18日の出願であって、平成24年5月2日付けで拒絶理由が通知され、同年同月31日付けで意見書と手続補正書が提出され、平成25年2月22日付けで拒絶査定がなされ、同年3月19日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願の請求項1?3に係る発明(以下、「本願発明1?3」という。)は、平成24年5月31日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
Mg:2.0?3.3mass%、Mn:0.1?0.5mass%、Fe:0.42?1.0mass%を含有し、残部が不可避的不純物とAlからなり、不可避的不純物のうちSi:0.20mass%未満である化学組成を有し、金属間化合物の平均円相当径1μm以下、金属間化合物の面積率2.08%以上、再結晶粒の平均粒径10μm以下、引張強さ220MPa以上、球頭張出高さ34mm以上であることを特徴とする肌荒れ性および成形性に優れた高強度アルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1に記載の高強度アルミニウム合金板を製造する方法であって、請求項1に記載の化学組成の溶湯を、双ベルト鋳造機に注湯して、厚さ6?15mmの薄スラブをスラブ厚さ1/4の位置における冷却速度50?200℃/secで連続的に鋳造してコイルに巻き取った後、冷延率60?98%の冷間圧延を行って、最終焼鈍を連続焼鈍炉により昇温速度100°C/min以上、且つ保持温度400?520℃で保持時間5分以内として行うことを特徴とする製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法おいて、前記最終焼鈍を、前記連続焼鈍炉に替えてバッチ焼鈍炉により300?400℃に保持して行うことを特徴とする製造方法。

第2.原査定の拒絶理由
ア 原査定の拒絶の理由は、おおむね次の理由を含むものである。
イ 本願発明1に係るアルミニウム合金板の製造は、本願発明2の発明特定事項を満たすことによるものと解されるが、本願と出願人及び発明者の一部が同一である特開2004-76155号公報(以下、「刊行物1」という。)の表4の合金番号1、表5の試料番号1、表6の試料番号1は、Feの含有量を除き、本願発明2の条件を満たす方法により製造されていると認められるにもかかわらず(連続焼鈍(CAL)の保持時間は、0?2minが通常である。必要であれば、特開平10-130768号公報の【0023】等参照)、本願発明1に特定される組織と異なる組織となっているところ、Feの含有量が0.42%の上下であることが、上記組織を作り分ける要件とはいえない。
すなわち、本願発明1を実施、製造するには、開示された条件を満たしても、製造できない場合が存在するのであり、開示された他に、何らかの製造条件が必要であることは明らかであって、その必要な具体的な条件が発明の詳細な説明に記載されているとはいえないから、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないし、本願発明2の範囲まで発明の詳細な説明を拡張ないし一般化できないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第3.当審の判断
1.本願発明2について
特許請求の範囲の請求項2を独立形式で書き改めると、本願発明2は次のとおりのものである。
「Mg:2.0?3.3mass%、Mn:0.1?0.5mass%、Fe:0.42?1.0mass%を含有し、残部が不可避的不純物とAlからなり、不可避的不純物のうちSi:0.20mass%未満である化学組成を有し、金属間化合物の平均円相当径1μm以下、金属間化合物の面積率2.08%以上、再結晶粒の平均粒径10μm以下、引張強さ220MPa以上、球頭張出高さ34mm以上であることを特徴とする肌荒れ性および成形性に優れた高強度アルミニウム合金板を製造する方法であって、前記化学組成の溶湯を、双ベルト鋳造機に注湯して、厚さ6?15mmの薄スラブをスラブ厚さ1/4の位置における冷却速度50?200℃/secで連続的に鋳造してコイルに巻き取った後、冷延率60?98%の冷間圧延を行って、最終焼鈍を連続焼鈍炉により昇温速度100°C/min以上、且つ保持温度400?520℃で保持時間5分以内として行うことを特徴とする製造方法。」
2.本願発明2における金属間化合物について
ア 本願発明2は、その発明特定事項からみて、「金属間化合物の平均円相当径1μm以下」とすることを含む製造方法である。
イ そこで、上記アの「金属間化合物の平均円相当径1μm以下」とするためにはどのような事項が必要であるかについて、本願の発明の詳細な説明の記載をみてみると、
(ア)「〔Mn:0.1?0.5mass%〕
Mnは、Fe,Siと共存させることにより、鋳造時において微細なAl-(Fe・Mn)-Si系化合物を晶出させ、強度を高め、成形性を改善する。Mn含有量が0.1mass%未満ではその効果が十分ではない。0.5mass%を超えると合金の鋳造時に平均粒径が1μmを超えるAl-(Fe・Mn)-Si系晶出物が生成して成形性が低下する。したがって、Mn含有量は0.1?0.5mass%とする。・・・。」(【0014】)
(イ)「〔Fe:0.2?1.0mass%〕
Feは、Mn,Siと共存させることにより、鋳造時において微細なAl-(Fe・Mn)-Si系化合物を晶出させ、強度を高め、成形性を改善する。Feの含有量が0.2mass%未満の場合、これらの効果が期待できない。Fe含有量が1.0mass%を超えると、鋳造時に粗大なAl-(Fe・Mn)-Si系晶出物が生成して、成形性が低下する。したがって、Fe含有量は0.2?1.0mass%の範囲である。・・・。」(【0015】)
(ウ)「〔Si:0.20mass%未満〕
Siは、不可避的不純物の一種である。ただし、微量のSiはFe,Mnと共存すると、鋳造時において微細なAl-(Fe・Mn)-Si系化合物を晶出させ、強度を高める効果が得られる。Siの含有量が0.20mass%以上であると、鋳造時に粗大なAl-(Fe・Mn)-Si系晶出物が生成して成形性が低下する。したがって、Si含有量は0.20mass%未満とする。・・・。」(【0016】)
(エ)「〔任意成分:Ti〕
任意元素のTiは、主としてAl-Ti系またはAl-Ti-B系の結晶粒微細化剤として添加され、鋳塊割れを防止する。しかし、Ti含有量が0.10mass%を超えると、鋳造時に比較的粗大なAlTi系金属間化合物が晶出するため、成形性を低下させる。したがって、好ましいTi含有量は、0.10mass%以下である。・・・。」(【0017】)
(オ)「〔スラブ厚さ1/4位置における冷却速度を50?200℃/sec〕
上述のように回転ベルト裏面から強制水冷しているため、スラブ厚さ1/4の位置における冷却速度を50?200℃/secとすることができる。これにより、Al-(Fe・Mn)-Siなどの金属間化合物を微細且つ均一に晶出させることができる。これは、最終板における金属間化合物の平均円相当径1μm以下、金属間化合物の面積率1.2%以上とするための必要条件である。」(【0023】)
(同旨の記載は、【0019】にもなされている。)
(カ)「〔スラブ厚さ6?15mm〕
本発明において、鋳造するスラブの厚さは6?15mmに限定する。・・・この厚さであるとスラブ鋳造時の凝固冷却速度も速く、金属間化合物の平均円相当径を1μm以下、面積率1.2%以上に制御することが可能であり、それにより最終板における再結晶粒径の10μm以下の肌荒れ性、成形性に優れたアルミニウム合金板とすることが可能になる。」(【0024】?【0025】)
との記載がなされている。
ウ そうすると、
組成に関し、「〔Mn:0.1?0.5mass%、Fe:0.2?1.0mass%、Si:0.20mass%未満、Ti:0.10mass%以下(なお、上記(イ)の記載から明らかなように、Feは、0.2?1.0mass%の範囲内の特定の数値を境にして、金属間化合物の平均円相当径が変化するとの説明はなされていない。)」(以下、「事項A」という。)であること、
スラブに関し、「スラブ厚さ1/4位置における冷却速度を50?200℃/secとし、スラブ厚さ6?15mm」(以下、「事項B」という。)であること、
が、「金属間化合物の平均円相当径1μm以下」とするためには必要な事項であると、本願の発明の詳細な説明では説明されているといえる。
2.刊行物の記載
刊行物1には、次の事項が記載されている。
(サ)「【発明の実施の形態】
本発明のアルミニウム合金板の組成の限定理由を説明する。なお、各成分の含有量の単位は質量%である。
・・・
〔Fe:0.05を超え1.5%以下、Mn:0.05?1.5%、
Fe+Mn>0.3%〕
Feは、Feの固溶量を増加して転位の回復を抑制し、耐焼付軟化性を付与するためのものである。さらにFeとMnを共存させることによって、多数の金属間化合物たとえば、Al-Fe系、Al-Fe-Mn系等の晶出を促し、再結晶核の個数を増加させ、再結晶粒のサイズを微細にする。Fe含有量が0.05%以下であっても、Mn含有量が0.05%未満であっても、上記の効果が少なくなる。一方、Fe含有量およびMn含有量のいずれか一方でも上限値1.5%を超えると、粗大晶出物が生成して成形性が劣り好ましくない。
本発明で規定するサイズおよび個数の金属間化合物を晶出させるためには、FeとMnが共存する必要がある。この共存効果を得るにはFeおよびMnの合計含有量Fe+Mnを0.3%より大とする必要がある。Fe+Mn合計含有量は、好ましくは0.35%以上、より好ましくは0.4%以上である。また、Fe含有量およびMn含有量の個々の上限値の限定理由で説明した観点から、2%>Fe+Mnであることが好ましい。」(【0010】?【0013】)
(シ)「〔円相当径で1?6μmの金属間化合物が5000個/mm^(2)以上〕
円相当径で1?6μmの金属間化合物は再結晶粒の核になり得るもので、再結晶粒の微細化に寄与する。1μm未満の金属間化合物は再結晶粒の核となり得ない。また、1?6μmの金属間化合物の個数が5000個/mm^(2)未満では本発明による微細再結晶粒が得られない。好ましくは6000個/mm^(2)以上である。」(【0022】)
(ス)「鋳造に際しての溶湯の冷却速度はスラブ厚さの1/4の位置で40?90℃/secの範囲として微細な金属間化合物を多数形成させる。本発明の組成範囲内において溶湯の冷却速度が40℃/sec未満であると、化合物のサイズが大きくなり、円相当径で1?6μmの化合物密度が5000個/mm^(2)未満となり、また90℃/secを超えると、化合物のサイズが小さくなり、円相当径で1?6μmの化合物密度が5000個/mm^(2)未満になる。金属間化合物の円相当径平均サイズは、2?3μmである。」(【0027】)
(セ)「得られたシートスラブは、所望により熱間圧延を施こし、冷間圧延して所望厚さの板とし、これを最終焼鈍して再結晶させる。この間冷間圧延の前、または途中で焼鈍してもよいが、最終焼鈍処理に供される圧延板の圧延率は85%以上とする。最終焼鈍は連続焼鈍(CAL)あるいはバッチ焼鈍によって行なう。連続焼鈍は、コイルを巻き戻しながら連続的に焼鈍するものであって、板の昇温速度を5℃/秒以上とし、400?520℃の温度に1秒?10分間程度保持して再結晶させる。・・・。板の再結晶粒径の平均値は、前記金属間化合物のサイズおよび数ならびに最終焼鈍前の圧延率が相俟って20μm以下になる。・・・。」(【0028】)
(ソ)「・・・
〔実施例2〕
表4記載の組成の溶湯を脱ガス鎮静後、双ベルト鋳造法を採用して溶湯の冷却速度75℃/secで厚さ7mmのスラブを鋳造した。このスラブを冷間圧延し、厚さ1mmの板(圧延率86%)とした。次いでこの板を連続焼鈍(CAL)した。焼鈍後の板の金属間化合物サイズ、個数、再結晶粒径、Feの固溶量および0.2%耐力(YS)、抗張力(UTS)、伸び(EL)を測定した。・・・以上の工程ならびに測定結果を表5及び表6にまとめて示す。
・・・
【表4】

【表5】

【表6】

」(【0034】)
3.刊行物1の教示
ア 刊行物1の(ソ)には、実施例2に関し、「表4記載の組成の溶湯を・・・双ベルト鋳造法を採用して溶湯の冷却速度75℃/secで厚さ7mmのスラブを鋳造し・・・このスラブを冷間圧延し、厚さ1mmの板(圧延率86%)とし・・・次いでこの板を連続焼鈍(CAL)」する製造方法が記載されている。
イ 上記アの「表4記載の組成」として、「合金番号A」の組成は、「Mg:3.3質量%、Fe:0.20質量%、Mn:0.22質量%、Cu:0.00質量%、Si:0.08質量%、Zr:0.00質量%、Ti:0.01質量%、B:0.002質量%、Fe+Mn:0.42質量%」である。
ウ また、表5をみると、上記イの「合金番号Aである試料番号1」のものは、430℃でCAL、すなわち、連続焼鈍されているということができる。
エ さらに、表6をみると、「試料番号1」のものは、金属間化合物(円相当径で1?6μm)の密度(個/mm^(2))が6435、再結晶の粒径が9μm、UTSが235MPaである。
オ ここで、連続焼鈍時の昇温速度や保持時間について同(ソ)には記載がないが、同(セ)に記載されているように昇温速度は5℃/秒以上であり、1秒?10分間程度保持されているといえる。
カ 以上を踏まえると、刊行物1には、
「Mg:3.3質量%、Fe:0.20質量%、Mn:0.22質量%、Cu:0.00質量%、Si:0.08質量%、Zr:0.00質量%、Ti:0.01質量%、B:0.002質量%、Fe+Mn:0.42質量%の組成の溶湯を双ベルト鋳造法を採用して溶湯の冷却速度75℃/secで厚さ7mmのスラブを鋳造しこのスラブを冷間圧延し、厚さ1mmの板(圧延率86%)とし、次いでこの板を昇温速度を5℃/秒以上で430℃で1秒?10分間程度保持して連続焼鈍(CAL)し、金属間化合物(円相当径で1?6μm)の密度が6435個/mm^(2)で、再結晶の粒径が9μm、UTSが235MPaとするものが製造ができる」との教示(以下、「刊行物1の教示」という。)が記載されていると認められる。

4.本願の発明の詳細な説明と刊行物1の教示との対比
ア 上記1.のウで述べたように、本願の発明の詳細な説明では、「金属間化合物の平均円相当径1μm以下」とするために、組成に関しては、事項A、スラブに関しては、事項Bであることが必要であることが説明されている。
イ そこで、組成に関する事項A、及びスラブに関するBについて、刊行物1の教示とを対比する。
ウ 組成について
該教示の「Mg:3.3質量%、Fe:0.20質量%、Mn:0.22質量%、Cu:0.00質量%、Si:0.08質量%、Zr:0.00質量%、Ti:0.01質量%、B:0.002質量%、Fe+Mn:0.42質量%の組成」は、「質量%」と「mass%」とは単に表記が異なるだけで同じものであるから、上記事項Aに記載された条件を満足する。
そして、事項Aのなお書きとして述べたように、本願の発明の詳細な説明において、Feは、0.2?1.0mass%の範囲の範囲内の特定の数値を境にして、金属間化合物の平均円相当径が変化するとの説明はなされていないから、本願発明2のFeの範囲の下限値0.42mass%を境にして、金属間化合物の平均円相当径が変化し、Feが0.42?1.0mass%であることが、「金属間化合物の平均円相当径1μm以下」とするとはいえない。
さらに、刊行物1の(サ)の「Fe含有量およびMn含有量のいずれか一方でも上限値1.5%を超えると、粗大晶出物が生成して成形性が劣り好ましくない。」との記載や本願の発明の詳細な説明の(イ)の「Fe含有量が1.0mass%を超えると、鋳造時に粗大なAl-(Fe・Mn)-Si系晶出物が生成して、成形性が低下する。」との記載をみると、Feの含有範囲が0.42mass%以上では、0.42mass%未満の場合に比べて金属間化合物の平均円相当径がむしろ大きくなるということができる。
エ スラブについて
該教示の「双ベルト鋳造法を採用して溶湯の冷却速度75℃/secで厚さ7mmのスラブを鋳造」するものであるから、上記事項Bに記載された条件を満足する。
オ そうすると、刊行物1の教示は、本願の発明の詳細な説明に記載された「金属間化合物の平均円相当径1μm以下」とするためには必要な事項A及びBを満足しているにもかかわらず、「金属間化合物(円相当径で1?6μm)の密度が6435個/mm^(2)」を得るためのものとなっている。
このことは言い換えると、本願発明の詳細な説明の記載に従っても「金属間化合物の平均円相当径1μm以下」とはならず、「金属間化合物(円相当径で1?6μm)の密度が6435個/mm^(2)」となることを示している。
カ そこで、刊行物1の教示における他の教示事項により、金属間化合物の形状等が変化するか否かについて念のために検討する。
カ-1 刊行物1の教示における他の教示事項には、「スラブを冷間圧延し、厚さ1mmの板(圧延率86%)とし、次いでこの板を昇温速度を5℃/秒以上で430℃で1秒?10分間程度保持して連続焼鈍(CAL)」することが示されている。
そこで、「スラブを冷間圧延し、厚さ1mmの板(圧延率86%)と」すること、及び「昇温速度を5℃/秒以上で430℃で1秒?10分間程度保持して連続焼鈍(CAL)」することについて順に検討する。
カ-2 「スラブを冷間圧延し、厚さ1mmの板(圧延率86%)と」することについて
本願発明2では、「冷延率60?98%の冷間圧延を行って」おり、この「スラブを冷間圧延し、厚さ1mmの板(圧延率86%)と」する教示は、本願発明2の発明特定事項に含まれるから、この教示によって、「金属間化合物(円相当径で1?6μm)の密度が6435個/mm^(2)」であることが「金属間化合物の平均円相当径1μm以下」へと変化するとはいえない。
カ-3 「昇温速度を5℃/秒以上で430℃で1秒?10分間程度保持して連続焼鈍(CAL)」することについて
本願発明2の連続焼鈍に関する発明特定事項は、「最終焼鈍を連続焼鈍炉により昇温速度100°C/min以上、且つ保持温度400?520℃で保持時間5分以内として行う」ことである。
ここで、上記教示の「昇温速度を5℃/秒以上で430℃で1秒?10分間程度保持して連続焼鈍(CAL)」は、「昇温速度を5℃/秒以上」とは、「昇温速度を300℃/min以上」であるから、昇温速度、保持温度について、本願発明2の発明特定事項に含まれるが、保持時間については不明である。
そこで、本願発明2において、「保持時間5分以内」とすることについてみてみると、本願の発明の詳細な説明の【0028】には、「<保持時間5分以内>・・・連続焼鈍の保持時間は5min以内に限定する。連続焼鈍の保持時間が5minを超えると、再結晶粒の成長が顕著となり、再結晶粒の平均粒径が10μmを超えてしまい、成形性及び肌荒れ性が低下する。」と記載され、最終焼鈍の「保持時間を5分以内」とする技術的意義は、再結晶粒の平均粒径を10μm以下とするためということができる。
一方、刊行物1の教示における再結晶の平均粒径は9μmであって本願発明2で特定される範囲に含まれるから、該教示における保持時間は5分以内である蓋然性がきわめて高く、このことは、原査定の拒絶理由において連続焼鈍(CAL)の保持時間は、0?2minが通常であること(特開平10-130768号公報の【0023】等参照)とも一致する。
仮に、刊行物1の教示における保持時間が5分以内でないとしても、刊行物1の(セ)には「板の再結晶粒径の平均値は、前記金属間化合物のサイズおよび数ならびに最終焼鈍前の圧延率が相俟って20μm以下になる」と記載され、最終焼鈍時には金属間化合物のサイズ及び数は既に与えられたものと扱われているから、金属間化合物のサイズ及び数、言い換えると、平均円相当径及び金属間化合物の面積率は保持時間によって変化しないとみることが自然である。
キ そうすると、刊行物1の教示における製造法に係る他の教示事項のいずれによっても、「金属間化合物(円相当径で1?6μm)の密度が6435個/mm^(2)」であることが「金属間化合物の平均円相当径1μm以下」へと変化しないと言い得る。
ク ここで、上記刊行物1の教示の妥当性を念のためみておくと、出願人が本願の出願人と同じでしかも本願の発明者が発明者として含まれる特開2005-307300号公報の特許請求の範囲には、
「【請求項1】
質量%で、
Mg:2.0?8.0%、
Si:0.06?0.2%、
Fe:0.1?0.5%、
Mn:0.1?0.5%、および
残部Alおよび不可避的不純物から成り、
円相当径1?5μmの金属間化合物の密度が5000個/mm^(2)以上、平均結晶粒径20μm以下であることを特徴とする高温高速成形性に優れ且つ成形後のキャビティの少ないアルミニウム合金板。
・・・
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載のアルミニウム合金板の製造方法であって、
請求項1から3までのいずれか1項記載の組成の合金溶湯を準備し、
上記合金溶湯を双ベルト鋳造機により鋳造時冷却速度20?150℃/secで鋳造して厚さ5?15mmのスラブとし、
引き続き上記スラブをコイルとして巻き取り、
上記コイルから解き出したスラブを冷延率70?96%で冷間圧延し、
得られた冷間圧延板を5℃/sec以上の昇温速度で420?500℃に加熱する焼鈍を行なう、
ことを特徴とする高温高速成形性に優れ且つ成形後のキャビティの少ないアルミニウム合金板の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1及び6)
と記載されており、この請求項6に係る発明を独立形式で記載すると、上記刊行物1の教示とほぼ同じ教示を得ることができ、上記刊行物1の教示が妥当であることがわかる。
コ してみると、本願発明の詳細な説明の記載に従って製造したとしても「金属間化合物の平均円相当径1μm以下」とはならず、「金属間化合物(円相当径で1?6μm)の密度が6435個/mm^(2)」となることになり、本願発明2を実施するためには、同詳細な説明に開示された他に、何らかの製造条件が必要であることは明らかであって、その必要な具体的な条件が発明の詳細な説明に記載されているとはいえないから、本願発明2を実施するに当たり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を強いるものであって、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。また、本願発明2の範囲まで発明の詳細な説明を拡張ないし一般化できないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4.請求人の主張について
請求人は、意見書及び審判請求書において、一貫して、「従来発明1に規定される製造方法(当審注:「刊行物1の教示」のこと)は、そのFeの含有量が本願発明1に特定される下限値より低いから、本願発明2,3に規定される製造方法の範囲外となり、したがって、本願発明2,3によって製造された本願発明1に特定される組織は、当然のことながら従来発明1に特定される組織と異なる」旨の主張しているので、検討する。
上記第3.の4のウにおいて述べたように、本願の発明の詳細な説明の記載によれば、「金属間化合物の平均円相当径1μm以下」とするための組成は、事項Aを満足すればよく、しかも、同事項のなお書きに示したように、Feは、0.2?1.0mass%の範囲にあればよくて、この範囲内の特定の数値を境に、例えば0.42mass%を境にして、金属間化合物の平均円相当径が変化するとの説明はなされていないし、本願の発明の詳細な説明の(イ)の「Fe含有量が1.0mass%を超えると、鋳造時に粗大なAl-(Fe・Mn)-Si系晶出物が生成して、成形性が低下する。」との記載をみると、Feの含有範囲が0.42mass%以上では、金属間化合物の平均円相当径がむしろ大きくなるということができるから、上記の従来発明1のFeの含有量が本願発明1に特定される下限値より低いから組織が異なる、との請求人の主張は、本願の発明の詳細な説明の記載に基づかないものであって採用することはできない。

第5.むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定を満たしておらず、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-21 
結審通知日 2013-11-26 
審決日 2013-12-09 
出願番号 特願2006-195869(P2006-195869)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C22C)
P 1 8・ 536- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河口 展明  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 大橋 賢一
山田 靖
発明の名称 高強度アルミニウム合金板およびその製造方法  
代理人 石田 敬  
代理人 亀松 宏  
代理人 中村 朝幸  
代理人 古賀 哲次  
代理人 永坂 友康  
代理人 青木 篤  

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