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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1284877
審判番号 不服2013-11740  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-20 
確定日 2014-03-11 
事件の表示 特願2007-280854「リチウム2次電池用負極活物質組成物、これを利用して製造されるリチウム2次電池用負極及びリチウム2次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月12日出願公開、特開2008-135384、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年10月29日(パリ条約による優先権主張 2006年11月27日 (KR)大韓民国)の出願であって、平成23年 2月18日付けで拒絶理由が通知され、同年 5月18日付けで特許請求の範囲についての手続補正がされ、平成24年 3月26日付けで拒絶理由が通知され、同年 6月28日付けで明細書についての手続補正がされ、平成25年 2月19日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年 6月 20日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、特許請求の範囲についての手続補正がされたものである。
その後、当審において、平成25年 8月26日付けで前置報告書に基づく審尋がされ、同年11月26日付けで回答書が提出されている。


第2 平成25年 6月20日付けの手続補正による補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1. 補正の内容
1-1. 本件補正は、平成23年 5月18日付けの手続補正によって補正された(以下、「本件補正前」という。)特許請求の範囲の記載を、以下の(A)から(B)に補正するものである。
なお、下線は、補正箇所を示す。

(A)「【請求項1】
負極活物質;
ポリイミド前駆体化合物;
ガラス転移温度が50℃以下である高分子を含み、
前記負極活物質は、SnO、SnO_(2)、SiOまたはSiO_(x)(0<x<2)であり、
前記ポリイミド前駆体化合物の含量が4.95?15重量%であり、
前記高分子の含量が0.05?3重量%であることを特徴とするリチウム2次電池用負極活物質組成物。

(請求項2?5 略)

【請求項6】
前記高分子は重量平均分子量が10,000乃至1,000,000であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム2次電池用負極活物質組成物。
【請求項7】
前記高分子は重量平均分子量が10,000乃至500,000であることを特徴とする、請求項6に記載のリチウム2次電池用負極活物質組成物。

(請求項8?9 略)

【請求項10】
前記負極活物質組成物は、前記高分子を0.5乃至3重量%含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム2次電池用負極活物質組成物。
【請求項11】
電流集電体;
前記電流集電体に形成され、負極活物質、ポリイミドバインダー及びガラス転移温度が50℃以下である高分子を含む負極活物質層を含み、
前記負極活物質は、SnO、SnO_(2)、SiOまたはSiO_(x)(0<x<2)であり、
前記ポリイミドバインダーの含量が4.95?15重量%であり、
前記高分子の含量が0.05?3重量%であることを特徴とするリチウム2次電池用負極。

(請求項12?15 略)

【請求項16】
前記高分子は重量平均分子量が10,000乃至1,000,000であることを特徴とする、請求項11に記載のリチウム2次電池用負極。
【請求項17】
前記高分子は重量平均分子量が10,000乃至500,000であることを特徴とする、請求項16に記載のリチウム2次電池用負極。

(請求項18?19 略)

【請求項20】
電流集電体;前記電流集電体に形成され、負極活物質、ポリイミドバインダー及びガラス転移温度が50℃以下である高分子を含む負極活物質層を含む負極;
リチウムイオンを可逆的に挿入及び脱離できる正極活物質を含む正極;
電解液を含み、
前記負極活物質は、SnO、SnO_(2)、SiOまたはSiO_(x)(0<x<2)であり、
前記ポリイミドバインダーの含量が4.95?15重量%であり、
前記高分子の含量が0.05?3重量%であることを特徴とするリチウム2次電池。

(請求項21?24 略)

【請求項25】
前記高分子は重量平均分子量が10,000乃至1,000,000であることを特徴とする、請求項20に記載のリチウム2次電池。
【請求項26】
前記高分子は重量平均分子量が10,000乃至500,000であることを特徴とする請求項25に記載のリチウム2次電池。

(請求項27?28 略)」


(B)「【請求項1】
負極活物質;
ポリイミド前駆体化合物;
ガラス転移温度が50℃以下である高分子を含み、
前記ポリイミド前駆体化合物がポリアミック酸であり、
前記高分子がフッ化ポリビニリデンであり、
前記負極活物質は、SnO、SnO_(2)、SiOまたはSiO_(x)(0<x<2)であり、
前記ポリイミド前駆体化合物の含量が4.95?15重量%であり、
前記高分子の含量が0.05?3重量%であることを特徴とするリチウム2次電池用負極活物質組成物。
【請求項2】
前記高分子は重量平均分子量が10,000乃至1,000,000であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム2次電池用負極活物質組成物。
【請求項3】
前記高分子は重量平均分子量が10,000乃至500,000であることを特徴とする、請求項2に記載のリチウム2次電池用負極活物質組成物。
【請求項4】
前記負極活物質組成物は、前記高分子を0.5乃至3重量%含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム2次電池用負極活物質組成物。
【請求項5】
電流集電体;
前記電流集電体に形成され、負極活物質、ポリイミドバインダー及びガラス転移温度が50℃以下である高分子を含む負極活物質層を含み、
前記ポリイミドバインダーがポリアミック酸の脱水反応で形成された化合物であり、
前記高分子がフッ化ポリビニリデンであり、
前記負極活物質は、SnO、SnO_(2)、SiOまたはSiO_(x)(0<x<2)であり、
前記ポリイミドバインダーの含量が4.95?15重量%であり、
前記高分子の含量が0.05?3重量%であることを特徴とするリチウム2次電池用負極。
【請求項6】
前記高分子は重量平均分子量が10,000乃至1,000,000であることを特徴とする、請求項5に記載のリチウム2次電池用負極。
【請求項7】
前記高分子は重量平均分子量が10,000乃至500,000であることを特徴とする、請求項6に記載のリチウム2次電池用負極。
【請求項8】
電流集電体;前記電流集電体に形成され、負極活物質、ポリイミドバインダー及びガラス転移温度が50℃以下である高分子を含む負極活物質層を含む負極;
リチウムイオンを可逆的に挿入及び脱離できる正極活物質を含む正極;
電解液を含み、
前記ポリイミドバインダーは、ポリアミック酸の脱水反応で形成された化合物であり、
前記高分子は、フッ化ポリビニリデンであり、
前記負極活物質は、SnO、SnO_(2)、SiOまたはSiO_(x)(0<x<2)であり、
前記ポリイミドバインダーの含量が4.95?15重量%であり、
前記高分子の含量が0.05?3重量%であることを特徴とするリチウム2次電池。
【請求項9】
前記高分子は重量平均分子量が10,000乃至1,000,000であることを特徴とする、請求項8に記載のリチウム2次電池。
【請求項10】
前記高分子は重量平均分子量が10,000乃至500,000であることを特徴とする請求項9に記載のリチウム2次電池。」


1-2. 上記の本件補正は、以下の補正事項(1)?(4)からなる。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項2?5、8?9、12?15、18?19、21?24、27?28を削除し、本件補正前の特許請求の範囲の請求項6?7、10?11、16?17、20、25?26を、それぞれ、特許請求の範囲の請求項2?3、4?5、6?7、8、9?10に補正するとともに、本件補正前の引用関係を変更しないように、その請求項3は新たな請求項2を引用し、その請求項6は新たな請求項5を引用し、その請求項7は新たな請求項6を引用し、その請求項9は新たな請求項8を引用し、その請求項10は新たな請求項9を引用することとした(以下、「新たな」は省略する。)。

(2)請求項1において、「 前記ポリイミド前駆体化合物がポリアミック酸であり、前記高分子がフッ化ポリビニリデンであり、 」との発明特定事項を付加する。

(3)請求項5において、「 前記ポリイミドバインダーがポリアミック酸の脱水反応で形成された化合物であり、前記高分子がフッ化ポリビニリデンであり、」との発明特定事項を付加する。

(4)請求項8において、「 前記ポリイミドバインダーがポリアミック酸の脱水反応で形成された化合物であり、前記高分子がフッ化ポリビニリデンであり、」との発明特定事項を付加する。


2. 新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についての検討
2-1. 新規事項の追加の有無についての検討
ア. 本件補正の補正事項(1)?(4)のうち、補正事項(1)を除く、補正事項(2)?(4)が発明特定事項を付加する補正事項であるところ、補正事項(2)は、「 前記ポリイミド前駆体化合物がポリアミック酸であり、前記高分子がフッ化ポリビニリデンであり、」との発明特定事項を付加し、また、補正事項(3)?(4)は、「 前記ポリイミドバインダーがポリアミック酸の脱水反応で形成された化合物であり、前記高分子がフッ化ポリビニリデンであり、」との発明特定事項を付加するものである。

イ. ここで、これらの補正事項は、いずれも、本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の「…リチウム2次電池の負極活物質組成物を電流集電体に塗布して乾燥し、電流集電体及び前記電流集電体に形成される負極活物質層を含む負極を製造する。この時、乾燥過程でポリイミドの前駆体化合物であるポリアミック酸はポリイミドに転換されて本発明の負極活物質層にはポリイミドとして存在する。つまり、本発明の負極活物質層は負極活物質、ポリイミドバインダー及び高柔軟性高分子を含む。」(段落【0074】、「…」は記載の省略を表す。以下、同じ。)、「…高柔軟性高分子は常温近く或いは常温以下のガラス転移温度(Tg)を持つ物質が適する。より具体的に、前記高柔軟性高分子はガラス転移温度が50℃以下であるのが好まし…い。」(段落【0058】)、「前記高柔軟性高分子の代表的な例としては下記化学式10乃至14からなる群より選択される1種以上のものがある。ここで、…化学式13の高分子の例としてはフッ化ポリビニリデンがあ…る。」(段落【0062】)との記載を根拠している。

ウ. そうすると、本件補正は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。

エ. したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

2-2. 補正の目的の適否についての検討
(2-2-1)補正事項(1)について
補正事項(1)は、本件補正前の請求項2?5、8、9、12?15、18、19、21?24、27、28を削除し、残りの請求項に付された番号を連続番号に付け直すとともに、本件補正前の引用関係を変更しないように、本件補正前に記載の引用をしていた請求項の番号を、請求項の削除にともない、付け直す補正事項であるから、請求項の削除と、それに伴う、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(2-2-2)補正事項(2)?(4)について
ア. 補正事項(2)は、請求項1の発明特定事項である、「ポリイミド前駆体化合物」、「ガラス転移温度が50℃以下である高分子」について、それぞれ、「前記ポリイミド前駆体化合物がポリアミック酸であ」る、「前記高分子がフッ化ポリビニリデンであ」るとの限定を加える補正事項であるし、補正の前後で発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではない。

イ. また、補正事項(3)?(4)も、請求項5、請求項8の発明特定事項である、「ポリイミドバインダー」、「ガラス転移温度が50℃以下である高分子」について、それぞれ、「 前記ポリイミドバインダーがポリアミック酸の脱水反応で形成された化合物であ」る、「前記高分子がフッ化ポリビニリデンであ」との限定を加える補正事項であるし、補正の前後で発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではない。

ウ. そうすると、補正事項(2)?(4)は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。


2-3. 小括
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項?第5項の規定に適合する。

そして、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正後の請求項1?請求項10に記載された発明(以下、それぞれ「補正発明1」?「補正発明10」といい、それらを総称して「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、以下、「独立特許要件」という。)について、以下に検討する。


3. 独立特許要件についての検討
3-1. 補正発明
補正発明は、上記「1. 1-1.(B)」に記載したとおりである。

3-2. 刊行物の記載事項
(1) 原査定の拒絶の理由で引用され、審尋で引用した、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された、特開2002-270185号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1a)「【0001】…本発明は、化学エネルギーの電気エネルギーへの変換、特に、高分子バインダーの配合物と混合された酸化バナジウム銀(SVO)から成るカソードに関するものである。…」

(1b)「【0008】〔発明の概要〕…本発明は、アルカリ金属又はアルカリ金属イオン電気化学電池を活性化させる非水性有機電解液中において有用な2つの高分子バインダーから成る混合物を含んだ活性物質から作られた電極、及び、高温で放電可能な可撓性のある、脆くない電極(特に酸化バナジウム銀から成るもの)を提供する方法に関する。この第1バインダーは、好ましくはハロゲン化された高分子バインダーであり、より好ましくはPVDFなどのフッ素化された高分子材料である。第2バインダーはポリイミドであり、好ましくは電気化学電対を活性化させる前に、ポリアミック酸を加熱して誘導されたものである。好ましいバインダー混合物は、PVDFとPIである。」

(1c)「【0025】二次電気化学システムにおいては、炭素質の負電極が好ましい。カーボンは、リチウム種を可逆的に保持できる種々の形態のカーボン(例えば、コークス、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンブラックなど)のいずれかから成る。グラファイトは、リチウム保持容量がその比較的高いために好ましい。…
【0026】典型的な二次電池負電極は、約90?97重量パーセントのグラファイトと、約3?10重量パーセントの、第1のハロゲン化された高分子バインダーと第2のポリアミック酸とから成る本発明の混合物を混合することによって作製される。粘性のあるスラリー形態である、このような電極活性混合物は、…チタン、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、又は銅箔又はスクリーンなどの集電器上に塗布される。」

(1d)「【0018】本発明の最も好ましいバインダー配合は、第1バインダー成分としてのポリビニリデンフルオライド(PVDF)と、第2バインダー成分としてのポリアミック酸変換ポリイミド(PI)との混合物から成る。好ましいバインダー組成物は、約1重量%のPVDF:99重量%のPI?約99重量%のPVDF:1重量%のPIの範囲であり、より好ましい組成物は、約40重量%のPVDF:60重量%のPI?約60重量%のPVDF:40重量%のPIの範囲であり、特に好ましくは約50重量%のPVDF:50重量%のPIである。…」


(2) 原査定の拒絶の理由で引用され、審尋で引用した、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された、特開平10-188992号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。

(2a)「【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、…急激な温度変化を伴って使用した場合においても、放電容量の減少が極めて少なく、且つ生産性に優れた非水電解液電池を提供することを目的とする。さらに、充放電可能な二次電池とした場合においては、サイクル特性にも極めて優れた非水電解液電池を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明者らがイミド基を有するポリイミドについて鋭意検討を重ねた結果、イミド化が終了し且つ有機溶媒に溶解するポリイミドを得るに至った。
【0015】すなわち、本発明に係る非水電解液電池は、正極活物質及び負極活物質の少なくともいずれかが結着剤により一体化されてなる正極及び負極を備えてなり、正極及び負極の少なくともいずれかの結着剤が、イミド化を終了し且つ有機溶媒へ溶解性を示すポリイミドとフッ素系ポリマーとの混合体であることを特徴とするものである。」

(2b)「【0039】また、本発明に係る非水電解液電池の負極に使用する負極活物質としては、特に限定するものではないが、リチウムイオンを挿入脱離可能な材料を用いればよく、リチウム金属、リチウム合金(リチウムとアルミニウム、鉛、インジウム等との合金)、炭素質材料、もしくはポリアセチレン、ポリピロール等のポリマーが用いられる。」

(2c)「【0056】実施例1
先ず始めに、正極の結着剤として溶解性ポリイミドと、フッ素系ポリマーであるPVdFを使用し、溶解性ポリイミドを2.7重量部、PVdFを0.3重量部の割合で良く混合し、溶解性ポリイミドの組成比が90重量%である結着剤を得た。

【0058】…LiCoO_(2)を91重量%、導電剤としてグラファイトを6重量%、結着剤として溶解性ポリイミドとPVdFとの混合物を3重量%の割合で混合して正極合剤を作製し、これをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させてスラリー状とした。そして、このスラリーを正極集電体11である帯状のアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥後ローラープレス機で圧縮形成して正極2を作製した。

【0063】…直径18mm、高さ65mmの円筒型非水電解液二次電池を作製した。」

(2d)「【0066】実施例4
正極の結着剤として溶解性ポリイミドと、フッ素系ポリマーであるPVdFを使用し、溶解性ポリイミドを0.15重量部と、PVdFを2.85重量部の割合で良く混合し、目的とする結着剤を得た。結着剤中の溶解性ポリイミドの組成比は5重量%となる。これを正極の結着剤に用いた以外は、実施例1と同様の方法で円筒型非水電解液二次電池を作製した。」

(2e)「【0072】比較例3
正極結着剤としてポリアミド酸のみを使用し、…スラリー状とした。次に、このスラリーを正極集電体11である帯状のアルミニウム箔の両面に塗布し、温度を作用させながら乾燥し、この際にポリアミド酸を完全にポリイミド化し、…正極2を作製した。これ以外は、実施例1と同様の方法で円筒型非水電解液二次電池を作製した。」

(2f)「【0073】比較例4
正極結着剤としてポリアミド酸とフッ素系ポリマーであるPVdFを使用し、ポリアミド酸を0.15重量部と、前記PVdFを2.85重量部の割合で良く混合し、目的とする結着剤を得た。結着剤中の溶解性ポリイミドの組成比は90重量%となる。次に、LiCoO_(2)を91重量%、導電剤としてグラファイトを6重量%、結着剤としてポリアミド酸とPVdFの混合物を3重量%の割合で混合し、正極合剤を作製し、これを…スラリー状とした。次に、このスラリーを正極集電体11である帯状のアルミニウム箔の両面に塗布し、温度を作用させながら乾燥し、この際にポリアミド酸を完全にポリイミド化し、…正極2を作製した。これ以外は、実施例1と同様の方法で円筒型非水電解液二次電池を作製した。」

(2g)「【0074】電池の性能評価
実施例1?実施例7及び比較例1?比較例4で作製された円筒型非水電解液二次電池の電池性能を評価するために、各10個づつ温度変化衝撃試験とサイクル試験を行った。

【0078】…表1にその結果を示す。
【0079】
【表1】



【0086】…結着剤としてポリアミド酸とフッ素系ポリマーを用いた比較例4は、溶解性ポリイミドを同一の組成で用いた実施例4に比べて初期の放電容量が減少している。これは、ポリアミド酸を加熱、脱水環化した際に発生した水が正極活物質に悪影響を与えたためである。
【0087】(サイクル試験)次に、サイクル試験を次にように行った。…表2にその結果を示す。…
【0088】
【表2】



【0091】…結着剤としてポリアミド酸を用いた比較例3及び比較例4は、正極合剤スラリーを集電体に塗布して温度を作用させながら乾燥してポリアミド酸を完全にイミド化するため、その際に発生した水が正極活物質に対して悪影響を与える。したがって、10サイクル目の放電容量の劣化のみならず、サイクル特性も著しく悪化させている。」

(2h)「【0125】また、以上の実施例では本発明を正極の結着剤に適用した場合について説明したが、本発明は、特に正極のみに限定するものではない。」


(3) 原査定の拒絶の理由で引用され、審尋で引用した、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された、特開2002-117835号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。

(3a)「【0008】本発明は、…携帯機器に用いられるリチウムイオン二次電池の小型化、軽量化とともに、電池容量を高容量化することが可能なリチウムイオン二次電池用負極を提供することを目的とする。」

(3b)「【0009】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究の結果、溶液プロセスを用いて微細なスズ酸化物を炭素に分散させるとともに、非晶質性の高いケイ素酸化物を複合、焼成処理することにより得られる炭素とスズ酸化物とケイ素酸化物からなる複合材(以下、C-SnO_(2 )-SiO_(2) 複合材という。)が、スズ酸化物の結晶子サイズがケイ素酸化物を複合させない場合に比べて小さくなり、充放電試験におけるサイクル安定性に優れたものとなることを見出した。また、このC-SnO_(2) -SiO_(2) 複合材にバインダーとしてポリイミド樹脂を含むことによって、バインダー自身に容量を持たせ、高容量とすることができるリチウムイオン二次電池用負極となることを見出し、本発明を完成した。」

(3c)「【0015】このC-SnO_(2) -SiO_(2) 複合材のバインダーとしては、バインダー自身が充放電に寄与するポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等や、ポリビニリデンフロライドが好ましい。」

(3d)「【0021】次に、C-SnO_(2) -SiO_(2) 複合材及びポリイミド樹脂等のバインダーからなるリチウムイオン二次電池用負極の製造方法について説明する。…

【0025】以上のようにして形成したC-SnO_(2) -SiO_(2) 複合材を粉砕後、バインダーとしてポリイミド樹脂と混合し、銅箔に所定の厚みとなるように塗布し、リチウムイオン二次電池用負極とする。」

(3e)「【0026】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。

【0036】以上、実施例1乃至4及び比較例1乃至5の0-1.5V半電池充放電試験の結果を表1及び図1にまとめて示す。
【0037】
【表1】



(3f)
【図1】



(3g)「【0040】
【発明の効果】本発明は以上のように構成されており、炭素粉末、スズ酸化物、ケイ素酸化物を含む複合材料にバインダーとしてポリイミド樹脂を用い…ることで、リチウムとの合金化反応及び充放電に寄与するバインダーを使用することによって、高容量化を実現できるとともに、スズの添加量を抑制することができるため、小型化、軽量化をも実現することが可能となる効果を奏する。」


3-3. 刊行物1に記載された発明
ア. 刊行物1には、(1a)?(1c)によれば、高分子バインダーの配合物と混合された酸化バナジウム銀(SVO)から成るカソードを備えた、アルカリ金属又はアルカリ金属イオン二次電気化学電池において用いられる、約90?97重量パーセントのグラファイトと、約3?10重量パーセントの、第1のハロゲン化された高分子バインダーと第2のポリアミック酸とから成る混合物を混合することによって作製される負電極活性混合物が記載されている。

イ. そして、(1d)によれば、第1のハロゲン化された高分子バインダーと第2のポリアミック酸とから成る混合物は、第1バインダー成分としてのポリビニリデンフルオライド(PVDF)と、第2バインダー成分としてのポリアミック酸変換ポリイミド(PI)とから成る混合物が最も好ましく、その組成は、より好ましい組成物は、約40重量%のPVDF:60重量%のPI?約60重量%のPVDF:40重量%のPIの範囲であり、約50重量%のPVDF:50重量%のPIが特に好ましいとされている。

ウ. そうすると、刊行物1には、「高分子バインダーの配合物と混合された酸化バナジウム銀から成るカソードを備えた、アルカリ金属又はアルカリ金属イオン二次電気化学電池において用いられる、約90?97重量パーセントのグラファイトと、約3?10重量パーセントのポリビニリデンフルオライドとポリアミック酸変換ポリイミドとから成る混合物であって、その組成が約50重量%のポリビニリデンフルオライド:50重量%のポリアミック酸変換ポリイミドである、混合物を混合することによって作製される負電極活性混合物」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。


3-4. 補正発明と引用発明との対比・判断
(1) 補正発明1について
(1-1) 補正発明1と引用発明との対比
補正発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「高分子バインダーの配合物と混合された酸化バナジウム銀から成るカソードを備えた、アルカリ金属又はアルカリ金属イオン二次電気化学電池において用いられる」、「グラファイト」、「ポリビニリデンフルオライド」、「ポリアミック酸変換ポリイミド」、「負電極活性混合物」は、それぞれ、補正発明1における、「リチウム2次電池用」、「負極活物質」、「フッ化ポリビニリデン」、「ポリイミド前駆体化合物であるポリアミック酸」、「負極活物質組成物」に相当し、また、引用発明における「ポリビニリデンフルオライド」は、「ガラス転移温度が50℃以下である高分子」にも相当する。
したがって、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
負極活物質;
ポリイミド前駆体化合物;
ガラス転移温度が50℃以下である高分子を含み、
前記ポリイミド前駆体化合物がポリアミック酸であり、
前記高分子がフッ化ポリビニリデンである、リチウム2次電池用負極活物質組成物。

<相違点>
相違点1:負極活物質が、補正発明1では、SnO、SnO_(2)、SiOまたはSiO_(x)(0<x<2)であるのに対して、引用発明では、グラファイトである点。

相違点2:ポリアミック酸、フッ化ポリビニリデンが、補正発明1では、それぞれの含量が、4.95?15重量%、0.05?3重量%であるのに対して、引用発明では、それらの含量の合計が約3?10重量パーセントで、約50重量%ずつ含まれている点。


(1-2)相違点1についての判断
ア. 刊行物2には、(2b)に、負極活物質として、リチウムイオンを挿入脱離可能な材料を用いればよく、リチウム金属、リチウム合金、炭素質材料、ポリマーが用いられるとの記載があるだけであり、負極活物質がSnO、SnO_(2)、SiOまたはSiO_(x)(0<x<2)に特定されると解することはできないから、刊行物2に記載の事項を適用しても、相違点1は解消しない。

イ. 刊行物3には、(3a)?(3g)によれば、リチウムイオン二次電池用負極において、小型化、軽量化とともに、電池容量を高容量化するとの課題を解決するために、その負極活物質として、C-SnO_(2 )-SiO_(2) 複合材を用いるとの発明が記載されているところ、このような負極活物質を、引用発明に適用しても、前記複合材になるだけであり、SnO、SnO_(2)、SiOまたはSiO_(x)(0<x<2)に特定されると解することはできないから、相違点1は解消しない。

ウ. また、刊行物3には、(3e)のように、リチウムイオン二次電池用負極において、負極活物質として、SnO_(2)を用いたとの記載があるが、一比較例にとどまり、また、その負極活物質組成物には、フッ化ポリビニリデンとポリアミック酸とを含有させているというわけでもないから、負極活物質として、SnO_(2)を引用発明におけるグラファイトに換えて用いることの、動機付けを欠く。

エ. よって、引用発明における負極活物質に、刊行物2?3記載の発明を適用しても相違点1は解消しないし、また、刊行物3の(3e)に一比較例として記載されている、SnO_(2)を用いることは、動機付けを欠くため、相違点1は解消できない。


(1-3) 相違点2についての判断
ア. 引用発明では、ポリアミック酸、フッ化ポリビニリデンの含量の合計が約3?10重量パーセントで、約50重量%ずつ含まれているところ、刊行物1の(1d)によれば、このような約50重量%ずつ含まれている混合比が最適混合比とされている。

イ. そして、引用発明のように、ポリアミック酸、フッ化ポリビニリデンの含量の合計が約3?10重量パーセントの範囲内で、約50重量%ずつ含まれていると、本願発明1のように、ポリアミック酸、フッ化ポリビニリデンのそれぞれの含量を、4.95?15重量%、0.05?3重量%とすることはできず、すなわち、それぞれの含量が、4.95重量%、3重量%の場合でも、62.3:37.7であり、これをもって約50重量%ずつ含まれているとすることは合理性を欠くから、相違点2は解消できない。

ウ. ここで、刊行物2の(2a)?(2f)の記載によれば、刊行物2には、サイクル特性等に優れた非水電解液電池の提供のために、正負極の活物質組成物に、結着剤として、ポリアミック酸やフッ化ポリビニリデンではなくて、溶解性ポリイミドとフッ化ポリビニリデンとの混合体であって、その溶解性ポリイミドを適量含む、混合体を含有させるとの発明が記載されている一方で、正負極の活物質組成物における結着剤中にポリアミック酸を100重量%、あるいは、5重量%含有させると、比較例3?4のように、ポリアミック酸がイミド化する際に発生する水が活物質に悪影響を与えるとの記載があるだけであるから、ポリアミック酸とフッ化ポリビニリデンとを含む、引用発明において、刊行物2記載の発明に基づき、ポリアミック酸、フッ化ポリビニリデンの含量を変更することも、動機付けを欠き、相違点2を解消することはできない。

エ. また、刊行物3には、(3c)に、バインダーとしては、ポリイミドやフッ化ポリビニリデンが好ましいとの記載があるが、(3e)?(3f)の記載に照らし、バインダーとしては、具体的には、ポリイミドのみ、あるいは、フッ化ポリビニリデンのみを用いることが記載されているだけであり、刊行物3の記載事項を適用しても、相違点2を解消することはできない。


(1-4) 小括
したがって、補正発明1は、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。


(2) 補正発明2?4について
補正発明2?4は、補正発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記「(1) 補正発明1について」と同様の検討により、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(3) 補正発明5?7について
補正発明5は、補正発明1を「リチウム2次電池用負極」の発明として記載したものであり、補正発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記「(1) 補正発明1について」と同様の検討により、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
また、補正発明6?7は、補正発明5の発明特定事項を全て含むものであるから、補正発明5と同様、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4) 補正発明8?10について
補正発明8は、補正発明1を「リチウム2次電池」の発明として記載したものであり、補正発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記「(1) 補正発明1について」と同様の検討により、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
また、補正発明9?10は、補正発明8の発明特定事項を全て含むものであるから、補正発明8と同様、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。


(5) 独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、補正発明1?10は、刊行物1?3に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、他に補正発明1?10について、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由も発見しない。

よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。


4. むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。


第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?10に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものである。

そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-02-25 
出願番号 特願2007-280854(P2007-280854)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
P 1 8・ 575- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山下 裕久  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 小川 進
小柳 健悟
発明の名称 リチウム2次電池用負極活物質組成物、これを利用して製造されるリチウム2次電池用負極及びリチウム2次電池  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  

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