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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02K
管理番号 1284879
審判番号 不服2013-17451  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-10 
確定日 2014-03-12 
事件の表示 特願2008-115137「モーターのローター及び電動パワーステアリング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月12日出願公開、特開2009-268263、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成20年4月25日の出願であって、平成24年10月23日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成24年10月31日)、これに対し、平成24年11月28日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年6月21日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成25年6月26日)、これに対し、平成25年9月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1-3に係る発明(以下、請求項1記載の発明を「本願発明」という。)は、平成25年9月10日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
多角柱構造のローターヨークの側面に形成された複数の磁石固定部に、前記ローターヨークの軸方向に延びたセグメント磁石をそれぞれ固定して備えると共に、前記ローターヨークのうち隣り合った前記磁石固定部同士の境界部分から側方に突出して、各セグメント磁石を幅方向で挟む境界突部を備えたモーターのローターにおいて、
前記境界突部は、前記磁石固定部同士の境界部分毎、前記ローターヨークの軸方向に対をなして設けられると共に、前記境界突部の両側面は、互いに隣り合った前記磁石固定部から立ち上がり、
前記セグメント磁石の両側面と前記境界突部の両側面との間に所定のクリアランスを設け、
前記ローターヨークの軸方向で対をなした前記境界突部を前記セグメント磁石の軸方向の両端面よりも、前記ローターヨークの軸方向の中央側に配置して、それら対をなした前記境界突部のうち互いに離れた側の端面間の距離が、前記セグメント磁石の全長より短くなるようにし、
前記磁石固定部には、前記ローターヨークの軸方向の中間部分を両端部に対して凹ませて接着剤を受容する接着剤用凹所と、前記接着剤用凹所に対して凹んだ状態で前記ロータヨークの軸方向に延びた浅溝部とが形成され、
前記境界突部は、隣り合った前記磁石固定部の前記接着剤用凹所に挟まれた位置に配置されたことを特徴とするモーターのローター。
【請求項2】
前記ローターヨークの外側に嵌合して、前記複数のセグメント磁石を覆った円筒カバーを備えたことを特徴とする請求項1に記載のモーターのローター。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のローターを有するモーターを、車両におけるハンドルの操舵力を補助するための動力源として備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。」

上記補正は、補正前の請求項1を引用する補正前の請求項2を補正後の請求項1として、磁石固定部の接着剤受容部の構成を実施例に基づいて接着剤用凹所に対して凹んだ状態でロータヨークの軸方向に延びた浅溝部と限定するものであって、更に、補正前の請求項2を削除し、補正前の請求項3、4を補正後の請求項2、3に繰り上げる補正であるから、特許請求の範囲の限定的減縮であり、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮に該当する。


3.独立特許要件
上記補正は特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮に該当するから、本願発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。


(1)原査定の理由の概要
平成24年10月23日付の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」として、請求項1、3、5に対して引用例1?2、請求項2に対して引用例1?3、請求項4に対して引用例1?4を挙げている。(引用例1は特開2008-61480号公報、引用例2は特開2007-37289号公報、引用例3は特開平9-205747号公報、引用例4は特開2002-10543号公報)。


(2)当審の判断
(ア)引用例
原査定の拒絶の理由で引用した引用例1(特開2008-61480号公報)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

1-a「【請求項1】
回転子コアの表面に複数の永久磁石が貼り付けられた回転子を備えるマグネット型モータにおいて、
前記各永久磁石は、軸方向の一端側、他端側及び中央部において接着剤により前記回転子コアの表面に貼り付けられるとともに、隣接する前記永久磁石との間に該接着剤が充填され、
前記回転子コアには、前記永久磁石の円周方向の移動を阻止する回転防止突起が前記永久磁石と間隔を有して突設されていることを特徴とするマグネット型モータ。
【請求項2】
請求項1において、前記回転子コアには、軸方向の一端側、他端側及び中央部において周方向に環状溝が凹設され、前記接着剤は該環状溝に充填されることを特徴とするマグネット型モータ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記回転防止突起は、すべての隣接する前記永久磁石間の軸方向の一端側及び他端側において、隣接する前記永久磁石と間隔を有して突設されていることを特徴とするマグネット型モータ。」

1-b「本発明に係るマグネット型モータをパワーステアリング装置に具体化した実施形態を図面に基づいて以下に説明する。」(【0015】)

1-c「ロータ12の外観図、軸方向断面図、径方向断面図、軸方向一部拡大図を図3?6に示す。図3に示すように、ロータ12は、ロータコア20と複数の永久磁石13とを有している。各永久磁石13は、ロータコア20の軸方向の一端側20a、他端側20b及び中央部20cにおいて、接着剤30によりロータコア20の表面に貼り付けられている。具体的には、図4に示すように、ロータコア20の一端側20a、他端側20bに凹設された接着溝26、27と、中央部20cにおいて周方向に凹設された環状溝25に充填された接着剤30によりロータコア20の表面に貼り付けられている。また、図5、6に示すように、ロータコア20には、一端側20a、他端側20bにおいて周方向に環状溝23、24が凹設され、この環状溝23、24及び環状溝25に接着剤30が充填されることにより、隣接する永久磁石13との間の距離を一定に保っている。さらに、ロータコア20には、永久磁石13の円周方向の移動を阻止する回転防止突起21、22が突設されている。この回転防止突起21、22は、すべての隣接する永久磁石13間の軸方向の一端側20a及び他端側20bに突接されており、隣接する回転防止突起21、22の周方向の内側間隔Wは永久磁石13の周方向幅よりも大きく(図5参照)、回転防止突起21と回転防止突起22との軸方向内側間隔Lは永久磁石13の軸方向長さよりも小さく(図6参照)設定されている。また、回転防止突起21、22のロータコア20外周面からの突出高さは、後述する飛散防止カバーを装着することを考慮して、貼り付けられた永久磁石13よりも径方向外方へ突出しない高さに設定されている。
ロータコア20の外観図、径方向断面図、軸方向一部拡大図を図7?9に示す。図7?9に示すように、ロータコア20の軸方向の一端側20a、他端側20b及び中央部20cには、周方向に環状溝23、24、25が凹設されている。また、ロータコア20の軸方向の一端側20a、他端側20bには回転防止突起21、22が突設され、回転防止突起21、22の周方向両側には接着溝26、27が凹設されている。この接着溝26、27は、すべての隣接する回転防止突起21、22間に、平面視形状が略矩形の独立したくぼみとして形成され、貼り付けられた永久磁石13の軸方向端面13a、13bが接着溝26、27上に位置するように(図4参照)、ロータコア20の軸方向における接着溝26、27の位置及び大きさが設定されている。」(【0018】-【0019】)

上記記載事項及び図面を参照すると、ロータコアは円柱構造で、各永久磁石はロータコアの軸方向に延びている。
上記記載事項及び図面を参照すると、回転防止突起の両側面はロータコアの表面から立ち上がっている。
上記記載事項及び図面を参照すると、ロータコアの軸方向の中間部分を両端部に対して凹ませて接着剤を充填する環状溝25が形成され、回転防止突起は環状溝25より軸方向外側に配置されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「円柱構造のロータコアの表面にロータコアの軸方向に延びた複数の永久磁石が貼り付けられると共に、前記ロータコアのうちすべての隣接する永久磁石間の軸方向の一端側及び他端側に突接されて、各永久磁石の円周方向の移動を阻止する回転防止突起を備えたモータのロータにおいて、
前記回転防止突起は、すべての隣接する永久磁石間、前記ロータコアの軸方向の一端側及び他端側に突接されると共に、前記回転防止突起の両側面はロータコアの表面から立ち上がり、
隣接する回転防止突起の周方向の内側間隔は前記永久磁石の周方向幅よりも大きくされ、
軸方向の一端側及び他端側に突接された前記回転防止突起の軸方向内側間隔は前記永久磁石の軸方向長さよりも小さくなるようにし、
前記ロータコアの表面には、前記ロータコアの軸方向の中間部分を両端部に対して凹ませて接着剤を充填する環状溝25が形成され、
前記回転防止突起は、前記環状溝25より軸方向外側に配置されているモータのロータ。」
との発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。

同じく、原査定の拒絶の理由で引用した引用例3(特開平9-205747号公報)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

3-a「磁石挟持用突出部を用いて永久磁石を挟持する場合、磁石挟持用突出部の軸線方向の長さを長くすればするほど、より確実に永久磁石を挟持して、永久磁石の径方向外側への移動を阻止できる。しかしながら、磁石挟持用突出部の軸線方向の長さがあまり長くなると高調波の発生により回転子の回転にむらが発生する可能性が高くなることが分かった。そこで、回転子の回転をできるだけスムーズにして回転むらを減らすためには、1つの磁石挟持用突出部をシャフトの軸線方向に間隔をあけて配置した複数の突出部構成部分から構成するのが好ましい。このようにすると、磁石挟持用突出部の軸線方向の実質の長さを長くすることなく、永久磁石をしっかりと挟持することができて、高調波の発生を抑制して、回転むらを減少させることができる。」(【0012】)

3-b「コア2は2種類の形状の珪素鋼板を積層して構成されている。なおこの2種類の鋼板の形状については後に詳しく説明するが、これら2種類の鋼板を所定枚数づつ積層することにより、コア2は2つの第1のコア部分2a,2aと3つの第2のコア部分2b…とが交互に積層されて構造になっている。コア2は、中央部にシャフト1が圧入される貫通孔を有しており、その貫通孔にシャフト1が圧入されている。
コア2は、外周部に周方向に等しい間隔をあけて並ぶ複数の磁石挟持用突出部2c…を有している。磁石挟持用突出部2cは、周方向に並んで隣接する2つの磁石挟持用突出部2c,2cの間にシャフト1の軸線方向からの永久磁石3の挿入が可能でしかも径方向外側への永久磁石3の移動を阻止するように永久磁石3の外面3bと係合する形状を有している。この例では、シャフト1の軸線方向に沿って並ぶ2つの第1のコア部分2a,2aに形成された突出部構成部分2d,2dによって、1つの磁石挟持用突出部2cが構成されている。1つの磁石挟持用突出部2cを構成する突出部構成部分2dの数及び突出部構成部分2dの軸線方向の長さは、高調波が大きく発生することなく、しっかりと永久磁石3を固定できる値の範囲内に設定されている。この例では、永久磁石3が2つ永久磁石(分割永久磁石3A,3A)によって構成されているため、2つの突出部構成部分2dはそれぞれ分割永久磁石3A,3Aの軸線方向の中心部に位置するように設けられている。」(【0017】-【0018】)

3-c「本実施例では、磁石挟持用突出部2cを2つの突出部構成部分2d,2dによって構成したが、高調波の発生を気にしないですむ用途に用いる磁石回転子であれば、磁石挟持用突出部を軸線方向の長さが十分に長い1つの突出部構成部分によって構成してもよい。また本実施例では、永久磁石3を2つの分割永久磁石3A,3Aにより構成したが、永久磁石を1つの一体永久磁石により構成しても構わない。」(【0025】)


(イ)対比
本願発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「ロータコア」、「表面」、「永久磁石」、「回転防止突起」、「モータのロータ」、「充填する」、「環状溝25」は、それぞれ本願発明の「ローターヨーク」、「側面」、「セグメント磁石」、「境界突部」、「モーターのローター」、「受容する」、「接着剤用凹所」に相当する。

引用例1発明の「ロータコアの表面にロータコアの軸方向に延びた複数の永久磁石が貼り付けられる」は、複数の永久磁石がロータコアの表面に固定され、回転防止突起間のロータコアの表面は永久磁石が貼り付けられる磁石固定部となるから、本願発明の「ローターヨークの側面に形成された複数の磁石固定部に、前記ローターヨークの軸方向に延びたセグメント磁石をそれぞれ固定して備える」に相当する。
引用例1発明の「前記ロータコアのうちすべての隣接する永久磁石間の軸方向の一端側及び他端側に突接されて、各永久磁石の円周方向の移動を阻止する回転防止突起」は、回転防止突起周方向間は磁石固定部であるから、磁石固定部間、即ち磁石固定部同士の境界部分から回転防止突起は側方に突出すると共に、各永久磁石の円周方向の移動を阻止するから各永久磁石を幅方向で挟んでいることとなり、本願発明の「前記ローターヨークのうち隣り合った前記磁石固定部同士の境界部分から側方に突出して、各セグメント磁石を幅方向で挟む境界突部」に相当する。
引用例1発明の「すべての隣接する永久磁石間、前記ロータコアの軸方向の一端側及び他端側に突接されると共に、前記回転防止突起の両側面はロータコアの表面から立ち上がり」は、回転防止突起は、すべての磁石固定部同士の境界部分、即ち磁石固定部同士の境界部分毎から突接し、又、一端側及び他端側にあるからロータコアの軸方向に対をなして設けられ、又、回転防止突起周方向間は磁石固定部であるから、回転防止突起の両側面は、互いに隣り合った磁石固定部から立ち上がることとなるから、本願発明の「前記磁石固定部同士の境界部分毎、前記ローターヨークの軸方向に対をなして設けられると共に、前記境界突部の両側面は、互いに隣り合った前記磁石固定部から立ち上がり」に相当する。
引用例1発明の「隣接する回転防止突起の周方向の内側間隔は前記永久磁石の周方向幅よりも大きくされ」は、回転防止突起と永久磁石は周方向では接していないから、本願発明の「前記セグメント磁石の両側面と前記境界突部の両側面との間に所定のクリアランスを設け」に相当する。
引用例1発明の「前記ロータコアの表面には、前記ロータコアの軸方向の中間部分を両端部に対して凹ませて接着剤を充填する環状溝25」は、ロータコアの表面の回転防止突起間に磁石固定部が形成されるから、本願発明の「前記磁石固定部には、前記ローターヨークの軸方向の中間部分を両端部に対して凹ませて接着剤を受容する接着剤用凹所」に相当する。

したがって、両者は、
「ローターヨークの側面に形成された複数の磁石固定部に、前記ローターヨークの軸方向に延びたセグメント磁石をそれぞれ固定して備えると共に、前記ローターヨークのうち隣り合った前記磁石固定部同士の境界部分から側方に突出して、各セグメント磁石を幅方向で挟む境界突部を備えたモーターのローターにおいて、
前記境界突部は、前記磁石固定部同士の境界部分毎、前記ローターヨークの軸方向に対をなして設けられると共に、前記境界突部の両側面は、互いに隣り合った前記磁石固定部から立ち上がり、
前記セグメント磁石の両側面と前記境界突部の両側面との間に所定のクリアランスを設け、
前記磁石固定部には、前記ローターヨークの軸方向の中間部分を両端部に対して凹ませて接着剤を受容する接着剤用凹所が形成されたモーターのローター。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願発明は、多角柱構造のローターヨークであるのに対し、引用例1発明は、円柱構造のローターヨークである点。
〔相違点2〕
本願発明は、ローターヨークの軸方向で対をなした境界突部をセグメント磁石の軸方向の両端面よりも、前記ローターヨークの軸方向の中央側に配置して、それら対をなした前記境界突部のうち互いに離れた側の端面間の距離が、前記セグメント磁石の全長より短くなるようにするのに対し、引用例1発明は、軸方向の一端側及び他端側に突接された境界突部の軸方向内側間隔はセグメント磁石の軸方向長さよりも小さくなるようする点。
〔相違点3〕
本願発明は、接着剤用凹所に対して凹んだ状態でロータヨークの軸方向に延びた浅溝部が形成されるのに対し、引用例1発明は、この様な構成を有していない点。
〔相違点4〕
本願発明は、境界突部は、隣り合った磁石固定部の接着剤用凹所に挟まれた位置に配置されるのに対し、引用例1発明は、境界突部は、接着剤用凹所より軸方向外側に配置される点。


(ウ)判断
相違点1について
永久磁石型モータにおいて、回転子鉄心を多角柱構造とすることは周知の事項(必要があれば、原査定の拒絶の理由で引用した引用例2(特開2007-37289号公報)、特開2005-137037号公報等参照)であるから、引用例1発明においても、ローターヨークを多角柱構造とすることは当業者が適宜なし得ることと認められる。

相違点2について
引用例3には、「ローターヨーク(「コア」が相当)の軸方向で対をなした境界突部(「2つの突出部分」が相当)をセグメント磁石(「永久磁石」が相当)の軸方向の両端面よりも、前記ローターヨークの軸方向の中央側(「それぞれ分割永久磁石3A,3Aの軸線方向の中心部」が相当)に配置して、それら対をなした前記境界突部のうち互いに離れた側の端面間の距離が、前記セグメント磁石の全長より短くなるようにする」構成が示されており、永久磁石を分割永久磁石ではなく一つの一体永久磁石により構成しても良いこと(【0025】)も示されている。
引用例1発明は、軸方向の一端側及び他端側に突接された境界突部の軸方向内側間隔はセグメント磁石の軸方向長さよりも小さくなるとの特定はあるが、境界突部のうち互いに離れた側の端面間の距離とセグメント磁石の全長との長さ関係の特定は無い。引用例1の図3からは、境界突部のうち互いに離れた側の端面間の距離とセグメント磁石の全長が同じ長さと判断できるが、境界突部のうち互いに離れた側の端面間の距離が、セグメント磁石の全長より短くなることは示されてはいない。
しかし、引用例1発明の境界突部である回転防止突起は、セグメント磁石である永久磁石の円周方向の移動を防止するものであり、2つの境界突部である回転防止突起が軸方向の一端側及び他端側に突接されなくても、所定の距離を有していればセグメント磁石である永久磁石の周方向の移動を防止できるから、仮に境界突部のうち互いに離れた側の端面間の距離とセグメント磁石の全長が同じ長さであっても、引用例1発明の境界突部を引用例3記載のもののようにローターヨークの軸方向の中央側に配置して、境界突部のうち互いに離れた側の端面間の距離をセグメント磁石の全長より短くすることは当業者が容易に考えられることと認められる。

相違点3について
本願発明の浅溝部は、ロータヨークの軸方向に延びると共に、接着剤用凹所に対して凹んだ状態、即ち接着剤用凹所の底面よりも更に凹んだ(平成26年2月7日付FAX参照)状態に形成されている。この様な構成を有することにより、「この『2重溝構造』により、本願発明では、浅溝部によるアンカー効果が発揮され、単に接着剤用凹所を設けただけのものより、セグメント磁石を強固に固定することができます。しかも、浅溝部は、ロータヨークの軸方向に延びているので、単純なアンカー効果ではなく、セグメント磁石の幅方向への移動規制に特に効果を発揮します。つまり、浅溝部は、境界突部とは別の第2の移動規制手段として機能します。」(平成25年12月18日付回答書)という作用効果を奏する。
一方、引用例1発明は、接着剤用凹所(「環状溝25」が相当)を有するものの、浅溝部は有しておらず、『1重溝構造』である。また、引用例2も、接着溝のみを有する『1重溝構造』であり、前置報告書で周知例として挙げた特開2006-109590号公報も、充填溝のみを有する『1重溝構造』であり、その他の引用例にも、接着剤用凹所と浅溝部の『2重溝構造』は記載も示唆も無い。
そうであれば、引用例1発明において、接着剤用凹所に加えて浅溝部を設けて『2重溝構造』とし、第2の移動規制手段として機能させることは、当業者が容易に考えられたものとすることはできない。

相違点4について
本願発明の境界突部は、隣り合った磁石固定部の接着剤用凹所に挟まれた位置に配置されているから、接着剤用凹所の軸方向長さは、境界突部のうち互いに離れた側の端面間の距離以上となる(図3A参照)。
一方、引用例1発明は、境界突部は、接着剤用凹所(「環状溝25」が相当)より軸方向外側に配置されている。接着剤用凹所の軸方向長さを、仮に本願発明のように境界突部のうち互いに離れた側の端面間の距離以上とすれば、セグメント磁石の固着面が全て接着剤用凹所となり、セグメント磁石の接着に関し、円筒状のローターヨークの外周に直接(接着剤用凹所を設けずに)接着するものと差異は無くなるから、接着剤用凹所の存在する意味が無くなることとなり、本願発明のように接着剤用凹所を設けることには阻害要因が有る。その他の引用例にも、境界突部が隣り合った磁石固定部の接着剤用凹所に挟まれた位置に配置される点は記載も示唆も無い。
そうであれば、引用例1発明において、接着剤用凹所より軸方向外側に配置される境界突部を、隣り合った磁石固定部の接着剤用凹所に挟まれた位置に配置することは、当業者が容易に考えられたものとすることはできない。

したがって、本願発明は、引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできないから、上記補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。また、本願発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、本願発明の発明の特定事項を全て含む請求項2?3に係る発明についても、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。


4.むすび
以上のとおり、本願については、原査定の特許法第29条第2項の規定に基づく拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-02-28 
出願番号 特願2008-115137(P2008-115137)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 祐介  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 平城 俊雅
藤井 昇
発明の名称 モーターのローター及び電動パワーステアリング装置  
代理人 松浦 弘  

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