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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1284911
審判番号 不服2012-1521  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-26 
確定日 2014-02-20 
事件の表示 特願2005-218759「肌質改善用経口剤」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月 8日出願公開、特開2007- 31375〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第30条第1項の規定の適用を申請した平成17年7月28日の特許出願であって、平成17年7月29日付けで新規性の喪失の例外証明書が提出され、平成20年4月25付けで審査請求とともに手続補正がなされ、拒絶理由通知に応答して平成23年9月2日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成23年10月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年1月26日に拒絶査定不服審判が請求され、平成24年1月26日付け(1月27日受付け)で手続補足書が提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1,2に係る発明は、平成23年9月2日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「【請求項1】
オルニチンまたはその塩を有効成分として含有する、肌質改善が、顔色の改善、顔または体のしみの改善、顔のしわの改善、顔のかさつきの改善、顔の脂っぽさの改善、および頬または顎の肌荒れの改善からなる群から選ばれる1以上のものである肌質改善用経口剤。」

3.特許法第30条第1項の規定の適用の可否
本願は、特許法30条第1項の規定の適用を申請してなされたものであり(願書参照)、新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書(以下、「新規性の喪失の例外証明書」ともいう。)として、平成17年7月29日付け(同日受付)で、「日経ヘルス 2005 7」,2005年7月1日発行,No.88,表紙、7頁,14頁,裏表紙(計4枚)の刊行物のコピーを物件として提出しているが、この文献(雑誌)について何の説明もしていない(文献名の説明もされていないため、前記文献名は、提出された物件を見て当審で認定した。)。

当該文献(刊行物)には、第14頁に次の記載がある(下線は、当審で付した。)。
(i)「サプリメント
次にヒットするサプリはどれだ?今、注目の3大アンチエージング成分
主にアスリートが使ってきたオルニチンとクレアチンには「アンチエージング効果」が期待できるという。」(右上部参照)
(ii)「取材・文/編集部 岩田るみ 写真/中澤浩一 デザイン/近江デザイン事務所」(右上部参照)
(iii)「まずは「オルニチン」。アミノ酸の一種だが、通常のアミノ酸と違ってたんぱく質の材料にならず、単独で存在する。加齢とともに衰えがちな、体内の成長ホルモンを分泌させる働きがある。
成長ホルモンは筋肉や骨を強くするため、オルニチンはこれまで、アスリートやボディビルディングが愛用してきた。しかし、ハリのある肌を保つ作用や基礎代謝を上げて体脂肪を減らす効果も期待できるため、今度は女性にも人気が出そうだ。」(右側中央部の説明文参照)
(iv)「注目成分 その1
成長ホルモン分泌を促す
オルニチン
アミノ酸の一種だが、たんぱく質の材料にはならないので、食品のたんぱく質からはとれない。成長ホルモンの分泌を促して丈夫な骨や筋肉を作る。細胞分裂を促し、体と肌を若々しく保つ。
主な作用
皮膚を若く保つ
肌の細胞分裂に不可欠な成分「ポリアミン」を作るのに使われる。
基礎代謝を上げ、体脂肪が燃える体に
成長ホルモンの働きで代謝アップ。体脂肪が燃える体づくりに貢献
こんな人にお薦め
美肌を保ちたい人、筋肉量を増やしたい人、
体脂肪を減らしたい人
量の目安 1日800mg」(左上部参照)

これらの記載からすると、オルニチンを「サプリメント」で使用すること、オルニチンが「ハリのある肌を保つ作用」を有し、「皮膚を若く保つ」、「肌の細胞分裂に不可欠な成分を作るのに使われ」「細胞分裂を促して体と肌を若々しく保つ」こと、それゆえ「美肌を保ちたい人」に薦められることが理解できるので、次の発明(以下、「刊行物A発明」とも言う。)が開示されているものと認められる。
<刊行物A発明>
「オルニチンを有効成分として含有する、ハリのある肌を保ち、皮膚を若く保ち、肌の細胞分裂に不可欠な成分を作るのに使われ、細胞分裂を促して体と肌を若々しく保ち、美肌を保ちたい人に用いるサプリメント。」

ところで、平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下、単に「特許法」ともいう。)第30条第4項において、「第1項・・の適用を受けようとする者は」、「その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し」、かつ、「第29条第1項各号の一に該当するに至った発明が第1項・・の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面を特許出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならない」とされている。

しかし、本件の新規性の喪失の例外証明書には、公開の事実に当たる客観的証拠資料としての刊行物のコピーが示されているにすぎず、「特許を受ける権利を有する者が公開し、そのものが特許出願をしたこと」について何等説明されていない。そして、文の作成者が「取材・文/編集部 岩田るみ」であることの記載はあるが、該者は本願出願の発明者ではない。
そうすると、本件の新規性の喪失の例外証明書は、特許法第30条第4項にいう、「第1項・・の適用を受けようとする者は」、「第29条第1項各号の一に該当するに至った発明が第1項・・の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する」ものであると言うことができない。
よって、本願は、特許法第30条第1項の適用を受けることはできない。

また、平成23年9月2日付け手続補正で補正された請求項1に係る発明は、
「【請求項1】 オルニチンまたはその塩を有効成分として含有する、肌質改善が、顔色の改善、顔または体のしみの改善、顔のしわの改善、顔のかさつきの改善、顔の脂っぽさの改善、および頬または顎の肌荒れの改善からなる群から選ばれる1以上のものである肌質改善用経口剤。」(下線は、原文のとおり。)
であるところ、当該手続補正書と一緒に提出された平成23年9月2日付け意見書において、「顔色の改善、顔または体のしみの改善、顔のしわの改善、顔のかさつきの改善、顔の脂っぽさの改善、および頬または顎の肌荒れの改善」といった具体的な肌質改善について、引用文献6(即ち新規性の喪失の例外証明書の刊行物)に基づいて当業者が容易に想到し得たものではないと主張しているところ、その主旨は、刊行物A発明と本願発明が同じ発明ではないことが前提とされているものと認められる。なるほど、新規性喪失の例外証明書の刊行物には、「顔色の改善、顔または体のしみの改善、顔のしわの改善、顔のかさつきの改善、顔の脂っぽさの改善、および頬または顎の肌荒れの改善」との明示的記載はされていないから、同一発明ではないとの解釈もできる(後記「5.」も参照)。
そうすると、当該補正された発明は、上記新規性喪失の例外証明書の刊行物に記載された発明を更に特定するものと言え、該刊行物に記載された発明であるとは云えず、特許法第30条第1項でいう「特許法第29条第1項各号の一に該当するに至った発明」にはあたらないから、この理由によっても、本願は、特許法第30条第1項の適用を受けることはできないことになる。

ところで、請求人は、審判請求理由において、「発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書を同日付で手続補足書にて提出いたしました。」、「公開者と出願人との関係を証明するもの」である旨、「引用した文献6は先行技術とならない」(当審注:引用した文献6とは、新規性喪失の例外証明書の刊行物を指す。)旨を主張し、平成24年1月26日付け(1月27日受付け)の手続補足書を提出している。
しかし、特許法第30条第4項の証明する書面は、「特許出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならない」ものと法律で定められているのであり、それを徒過して提出されても採用できないものである。ただ、該手続補足書は、証明書として提出されたものではないので、却下される対象ではないが、下記のとおり同補足書に記載されている内容を勘案すべき理由はない。

この点について、審判請求人は、「拒絶査定において審査官殿に「発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」(平成22年3月)Q3.2.0-2g,Q3.2.0-2h等を参照するようにと拒絶査定の中でご提示いただきましたが、平成23年改正前の特許法第30条の適用対象となる特許出願の場合であっても、平成23年10月1日以降、「証明する書面」の考え方については、「平成23年改正法対応手引き」の[3.1]に記載の考え方が適用されることから、「平成23年改正法対応手引き」[3.1]の「(改正前の第30条適用出願の「証明する書面」の取扱い)」の箇所を参照して「証明書」を作成しております。」と主張している。
しかし、本願は、平成17年7月28日に出願されたものであり、平成23年法律第63号改正附則第第2条第1項により、「なお従前の例によるによる」とされているとおり、平成23年法律第63号による改正前の特許法が適用される。なるほど、審判請求人の指摘するとおり、「平成23年改正法対応手引き」[3.1]の「(改正前の第30条適用出願の「証明する書面」の取扱い)」の箇所には、「平成23年10月1日以降は、「証明する書面」の考え方を改正前の第30条にも適用することとします。」とされているけれども、かかる記載は、続いて説明があるように、出願後30日以内に提出された書面A(一定の書式に従った出願人による証明書)に記載した事項の範囲内であれば、それらの事項が事実であることを裏付けるための書面B(客観的証拠資料や第三者による証明書)を、意見書又は上申書等を通じて提出できると説明されているだけで、書面Aの提出が意見書又は上申書等を通じて提出できるとされているわけではない。本件の場合、新規性喪失の例外証明書(平成17年7月29日付け)の刊行物コピーは書面Bに該当し、手続補足書の証明書(平成24年1月26日付け)は書面Aに該当するので、出願日から30日経過後に提出された手続補足書の証明書(平成24年1月26日付け)の内容は勘案できない。ちなみに、平成22年3月の「発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」の第27頁「4.7 第4項に規定された「証明する書面の考え方」のQ4.7-aとその回答A4.7-a(書面Aは「証明する書面」の一部として提出するものですので、出願日から30日経過後にそのような書面を提出することはできません(Q2.3-b参照)。また、出願日から30日経過後に上申書等で、特許を受ける権利を有するものと公開者との関係を単に説明するだけでは、発明の新規性喪失の例外規定を受けることはできません。)も参考になる。
なお、特許法第30条第1項を申請していること、また、新規性の喪失の例外証明書の刊行物は、取材を受けて公開されたものであること(守秘義務があったとは理解し難い)についても、留意することができる。
よって、前記審判請求人の主張は採用できない。

4.引用例
原査定の拒絶理由通知において新規性喪失の例外の適用について認められないとの説明をした上で原査定の拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である「日経ヘルス,2005年7月1日,2005.7,p.14」(以下、「刊行物A」ともいう。)は、前記「3.」の新規性の喪失の例外証明書の刊行物に相当するものであり、前記「3.」において摘示した技術事項(i)?(iv)が記載され、前記「3.」において認定した「刊行物A発明」が記載されているものと認められる。

5.対比、判断
そこで、本願発明と刊行物A発明を対比する。
(a)刊行物A発明の「サプリメント」は経口により摂取するものと認められることから、本願発明の「経口剤」に相当する。
(b)刊行物A発明の「ハリのある肌を保ち、皮膚を若く保ち、肌の細胞分裂に不可欠な成分を作るのに使われ、細胞分裂を促して体と肌を若々しく保ち、美肌を保ちたい人に用いる」は、肌質が改善されることを意図しているものと認められるから、本願発明の「肌質改善用」に相当する。

してみると、両発明は、
「オルニチンを有効成分として含有する、肌質改善用経口剤。」
で一致し、次の点で一応相違している。
<相違点>
A.「肌質改善」について、本願発明では、「顔色の改善、顔または体のしみの改善、顔のしわの改善、顔のかさつきの改善、顔の脂っぽさの改善、および頬または顎の肌荒れの改善からなる群から選ばれる1以上のものである」と規定しているのに対し、刊行物A発明ではそのような表現では規定されていない点

そこで、この相違点Aについて検討する。
刊行物A発明は、「ハリのある肌を保ち、皮膚を若く保ち、肌の細胞分裂に不可欠な成分を作るのに使われ、細胞分裂を促して体と肌を若々しく保ち、美肌を保ちたい人に用いる」とされているものの、「顔色の改善、顔または体のしみの改善、顔のしわの改善、顔のかさつきの改善、顔の脂っぽさの改善、および頬または顎の肌荒れの改善」のような表現では言及されていない。
しかし、「顔色の改善、顔または体のしみの改善、顔のしわの改善、顔のかさつきの改善、顔の脂っぽさの改善、および頬または顎の肌荒れの改善」の肌質改善作用は、皮膚の若さや美肌の状態を示す具体的な指標として広く知られている。
例えば、原査定において提示された
特開2005-27589号公報【0032】「・・・、スキンケア用として肌の手入れに使用することができる。例えば、美白用および美肌用などに使用することができる。
美白用とは、例えば、肌を美しく白くするために、具体的には色ムラのない、すなわちシミ、ソバカスがない、くすんでいない、美しい肌色にするために使用することをいう。・・・・
美肌用とは、例えば、皮膚にハリ、つや、柔らかさ、なめらかさ、透明感を与え、きめを細かくし、かつ整えるために使用することをいう。したがって、本発明の組成物は、例えば、老化、紫外線暴露、ホルモンバランスの変化および活性酸素傷害などにより生じるシワやたるみの防止・改善用、皮膚弾性向上用、皮膚保湿用、ニキビもしくは吹き出物の防止・改善用、または肌荒れの防止・改善用などに使用することができる。」、
特開2004-346471号公報【0006】「真珠末は真珠の粒の真珠層を粉砕するか、或いはあこや貝内面の真珠層を削り取る事によって生産されており、漢方薬では肌に潤いを与え、顔色を良くする解毒作用があると言われて賞用されている。真珠末が美肌・美容効果を有する伝統的な美容食品として数多くの国で愛用されてきたのは、・・・・・(後略)。」、
特開2004-254632号公報【0017】「本発明の美容食品は、肌のハリ、ツヤ、潤い(しっとり感)を与え、化粧のノリを良くし、ニキビ・吹き出物などの肌荒れの軽減やシミ・ソバカスを目立ち難くする美白作用など美肌・美容効果が期待できる。また便秘改善、疲労回復、腰痛の軽減が期待でき、さらには冷えや肩こりの改善、顔色の改善、むくみの改善などの健康促進効果も期待でき、経口摂取により身体全体、特に肌を総合的に維持する美容食品として利用できる。」、
特開2005-52212号公報【0002】「【従来の技術】女性の肌の若さを表す指標として、肌の表面層(表皮および真皮)に含まれる水分量と肌の弾力性は最も重要な特性であり、睡眠不足や過労による肌あれの状態や化粧品の効果の調べるために使用されている。・・・(後略)。」、
特開2000-201649号公報【0006】「【発明が解決しようとする課題】皮膚は内臓諸器官の保護、体温調節、分泌など多彩な機能を営む臓器で、その重量・面積とも身体中最大のものである。また、特に顔面、手、腕、足、脚などの皮膚は美容とも大いに関係する。健康で美しく年齢を重ねたいとの願い、皮膚の若さと瑞々しさを何時までも保持し続けたいことの願いは万人に共通するものであるが、・・・後略。真皮にはコラーゲンの線維が縦横に絡み合いながら走っているので、皮膚は弾力性、柔軟性を呈する。皮膚は老化に伴い粗鬆化するが(弾力性や柔軟性の低下)、これに皮下組織や筋肉の支持力の低下が加わってシワやタルミの発生が加速される。・・・(後略)。」、
等を参照することができる(下線は、当審で付した。)。

してみれば、刊行物A発明において、オルニチンが、これら「顔色の改善、顔または体のしみの改善、顔のしわの改善、顔のかさつきの改善、顔の脂っぽさの改善、および頬または顎の肌荒れの改善」の作用の少なくとも1つを有するかどうかを確認し、肌質改善の指標として採用することに、当業者に格別の創意工夫が必要であったとは認められない。
よって、本願発明は、周知技術を勘案し刊行物A発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、請求項2について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-13 
結審通知日 2013-12-18 
審決日 2014-01-07 
出願番号 特願2005-218759(P2005-218759)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深草 亜子  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 穴吹 智子
増山 淳子
発明の名称 肌質改善用経口剤  

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