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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消す 前置又は当審の拒絶理由により拒絶すべきものである B60G
管理番号 1284935
審判番号 不服2013-7975  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-30 
確定日 2014-02-20 
事件の表示 特願2010-503296号「アーム素材およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月20日国際公開、WO2010/055747、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願の手続の経緯は次のとおり。
国際特許出願 平成21年10月19日
(優先権主張 平成20年11月12日)
拒絶理由通知 平成24年5月10日付け
意見書、補正書提出 平成24年7月23日(受付日)
最後の拒絶理由通知 平成24年10月16日付け
意見書、補正書提出 平成24年12月25日(受付日)
補正の却下の決定 平成25年1月17日付け
拒絶査定 平成25年1月17日付け
審判請求書提出 平成25年4月30日(受付日)
拒絶理由通知 平成25年6月25日付け
意見書提出 平成25年8月26日(受付日)
拒絶理由通知 平成25年9月9日付け
意見書提出 平成25年11月7日(受付日)

第2 平成25年1月17日付け補正の却下の決定について
1 補正の却下の決定の対象
平成25年1月17日付け補正の却下の決定は、平成24年12月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について却下の決定を行ったものである。
2 補正の却下の決定の理由及び補正の却下の決定に対する当審の判断
平成25年1月17日付け補正の却下の決定の理由は、引用文献4(玉虫 文一、外7名,「岩波理化学辞典 第3版」、日本、株式会社岩波書店、1971年 5月20日、第1353頁)を示し、アルミニウム合金に焼き入れすることは周知とし意見書における主張を採用せず、当該補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない、というものであったが、審判請求人は審判請求書において、「岩波理化学辞典 第3版」発行の1971年以降、修正され「岩波理化学辞典 第5版」(日本,株式会社岩波書店,1998年12月25日,第1388頁)では技術用語「焼入れ」の項には、「焼入れ硬化(quench hardening)ともいう。鋼をオーステナイト領域にまで加熱後、適当な冷却剤中で急冷し、マルテンサイト組織として硬化させる熱処理をいう。焼入れは鋼を硬化させるうえで最も有効な熱処理であり、その硬化の程度は炭素量の増加とともに急激に上昇する。マルテンサイト変態に伴って体積膨張が起こるので、焼割れが生じることがある。金属材料の高温相を低温に保持したり、過飽和固溶体を得るために高温から急冷する熱処理を焼入れと呼ぶこともあるが、これらの処理はそれぞれ急冷および溶体化処理とよんで区別するのが普通である。」と記載されており、マルテンサイト組織を有しないアルミニウムに対して熱処理することは前記説明のうちの後半に記載された「急冷および溶液化処理」とされ「焼入れ」とは区別されており、平成25年1月17日付け補正の却下の決定は出願当時の通常の「焼入れ」の定義によってなされていないこととなる。
よって、平成25年1月17日付け補正の却下の決定を取り消す。

第3 本願発明について
1.本願発明
第2のとおり、平成25年1月17日付けの補正の却下の決定は取り消されたので、本願の請求項1?3に係る発明は平成24年12月25日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
金属製の部材からなる本体を備え、
該金属製の部材は、対向して配置される一対の長辺を有する扁平かつ中空の閉断面形状を有するとともに、長手方向へ一体に構成され、さらに
前記本体は、少なくとも、前記一対の長辺と略平行な面内で屈曲する焼入れされた第1の屈曲部を一部に有することを特徴とする自動車の懸架装置のアーム素材。」

2.引用刊行物の記載事項
(刊行物1)
当審の拒絶理由で引用し、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2006/093006号(以下、「刊行物1」という。)には、「金属材の曲げ加工方法、曲げ加工装置および曲げ加工設備列、並びにそれらを用いた曲げ加工製品」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「要約:被加工材を上流側から逐次または連続的に押し出しながら、下流側で曲げ加工を行う金属材の押通し曲げ加工方法において、可動ローラダイスで前記金属材をクランプし、当該可動ローラダイスの位置または/および移動速度を制御しつつ、金属材の外周に配置した加熱手段および冷却手段を用いて、局部的に塑性変形が可能な温度域でかつ焼入が可能な温度域に加熱し、曲げモーメントを付与して急冷する曲げ加工方法、並びに曲げ加工装置および曲げ加工設備列である。金属材の曲げ方向が2次元的に異なる連続曲げや曲げ方向が3次元的に異なる連続曲げを加工する場合であっても、さらに高強度の金属材の曲げ加工が必要な場合であっても、形状凍結性がよく均一な硬度分布を有する金属材を効率的、かつ安価に得ることができる。これにより、一層、高度化する自動車部品の曲げ加工技術として、広く適用することができる。」(フロント頁(57)要約)
(イ)「【0011】前述の通り、自動車用部品の構造見直しにともない、多様な自動車用部品に適用するために多岐にわたる曲げ形状からなる金属材の加工技術が要求されるようになる。一方、金属材の軽量化も考慮すれば、引張強さ900MPa以上を選定するのが望ましく、さらに1300MPa級以上を選定するのがより望ましい。このような場合には、引張強さが500?700MPa程度の金属素管を出発材料として曲げ加工を行った後、熱処理によって強度を上げ、高強度の金属材を得ている。」(段落【0011】)
(ウ)「【0015】 上記課題を解決するため、本発明の曲げ加工方法は、支持手段で保持された被加工材を上流側から逐次または連続的に押し出しながら、前記支持手段の下流側で曲げ加工を行う金属材の押通し曲げ加工方法において、前記支持手段の下流側に設けられた可動ローラダイスで前記金属材をクランプし、当該可動ローラダイスの位置または/および移動速度を制御しつつ、前記可動ローラダイスの入り側であり前記金属材の外周に配置した加熱手段および冷却手段を用いて、前記金属材を局部的に塑性変形が可能な温度域でかつ焼入が可能な温度域に加熱し、前記加熱部に曲げモーメントを付与した後、急冷することを特徴としている。」(段落【0015】)
(エ)「【0019】 本発明の第2の形態の曲げ加工方法は、可動ローラダイスが上下方向へのシフト機構、左右方向へのシフト機構、上下方向に傾斜するチルト機構、および左右方向に傾斜するチルト機構のうち少なくとも1以上の機構を有している。これにより、金属材の曲げ形状が多岐にわたり、曲げ方向が二次元的に異なる連続曲げ(例えば、S字曲げ)の場合、さらに曲げ方向が三次元的に異なる連続曲げの場合であっても、効率的に曲げ加工することができる。」(段落【0019】)
(オ)「【0043】しかも・・・これにより、一層、高度化する自動車部品の曲げ加工技術として、広く適用することができる。」(段落【0043】)
(カ)「【0055】 図4に示す装置構成で、2対の支持ロール2を通過した金属材1を可動ローラダイス4でクランプし、当該クランプ位置または/および移動速度を制御しつつ、金属材1の外周に配置した高周波加熱コイル5および冷却装置6を用いて、金属材1を局部的に加熱し曲げ加工した後急冷する。この曲げ加工の際には、支持ロール2を通過した金属材1が高周波加熱コイル5にて加熱されることにより、可動ローラダイス4による金属材1の曲げ加工部の降伏点が低下し、変形抵抗が低下するので、金属材1の曲げ加工が容易となる。」 (段落【0055】)
(キ)「【0071】 図9は、本発明の曲げ加工装置が採用する可動ローラダイスの形状例を示す図であり、(a)は金属材が丸管などの閉断面材である場合に2ロールで構成した形状を示し、(b)は金属材が矩形管などの閉断面材、またはチャンネルなどの開断面材である場合に2ロールで構成した形状を示し、(c)は金属材が矩形管などの閉断面材、またはチャンネルなどの異型断面材である場合に4ロールで構成した形状を示している。」
(段落【0071】)
(ク)「【0072】 可動ローラダイス4のロール型式は、金属材1の断面形状に応じて設計することができ、図9に示すように、2ロールまたは4ロールで構成する他に、可動ローラダイスを3ロールで構成することができる。通常、曲げ加工を行う金属材の断面形状を丸形、矩形、台形または複雑な形状を有する閉断面形状、ロールフォーミングなどによる開断面形状、または押し出し加工による異型断面形状にすることができるが、金属材1の断面形状が実質的に矩形である場合には、図9(c)に示すように、可動ローラダイスを4ロールで構成するのが望ましい。」 (段落【0072】)
(ケ)「[35]上記請求項1?16のいずれかに記載の金属材の曲げ加工方法によって加工熱処理が施された、引張強さが900Mpa以上であることを特徴とする曲げ加工製品。」(請求の範囲)
(コ)図9(c)から、「矩形管」は「対向して配置される一対の長辺を有する中空の閉断面形状を有する」ことが看取される。また図8から「矩形管」は長さがあることが看取される。

以上の(ア)?(コ)の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
(引用発明)
「金属材を備え、該金属材は、対向して配置される一対の長辺を有する中空の閉断面形状を有する矩形管であり、さらに前記金属材は、焼き入れ可能な温度域に加熱し、曲げモーメントを付与した後、急冷することにより形成した曲げ形状を有する自動車部品。」

(刊行物2)
当審の拒絶理由で引用し、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-150225号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「L字状パイプ製品の製造方法」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
(サ) 「【0013】また、この間、図2に示す粗製品2の外曲面2bは、バルジ加工の内圧Pによりバルジ型3の外曲壁面3bに膨出され、図4に示すように、成形品6の屈曲部6cの外曲面6dとなる。この後、得られた成形品6をやや偏平状にプレス加工し、図1(D)に示すように、プレス品7とする。そして、図1(E)及び(F)に示すように、プレス品7に穴明け、トリム及びバーリングを施すことにより、中空のL型サスペンションアーム8を製造する。」(段落【0013】)

刊行物2には、前記(サ)の記載び図1(D)?(F)から、金属製の部材からなる本体を備え、該金属製の部材は、対向して配置される一対の長辺を有する扁平かつ中空の閉断面形状を有するとともに、長手方向へ一体に構成され、さらに前記本体は、少なくとも、前記一対の長辺と略平行な面内で屈曲する第1の屈曲部を一部に有する自動車の懸架装置のアーム素材が示されている。

3.対比・判断
(1)本願発明について
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「金属材」は本願発明の「金属製の部材からなる本体」に相当する。
引用発明の「対向して配置される一対の長辺を有する中空の閉断面形状を有する矩形管」は、本願発明の「対向して配置される一対の長辺を有する中空の閉断面形状を有するとともに、長手方向へ一体に構成され」を充足する。
引用発明の「焼き入れ可能な温度域に加熱し、曲げモーメントを付与した後、急冷することにより形成した曲げ形状を有する」は本願発明の「焼入れされた第1の屈曲部を一部に有する」ことに相当する。
そして、引用発明の「自動車部品」と本願発明の「自動車の懸架装置のアーム素材」は「自動車部品」である限りにおいて一致している。

本願発明と引用発明は下記の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「金属製の部材からなる本体を備え、該金属製の部材は、対向して配置される一対の長辺を有する中空の閉断面形状を有するとともに、長手方向へ一体に構成され、さらに前記本体は、少なくとも、焼入れされた第1の屈曲部を一部に有する自動車部品。」
(相違点)
本願発明では「金属製の部材」が「扁平」であり、「一対の長辺と略平行な面内で屈曲する」「自動車の懸架装置のアーム素材」であるのに対して引用発明では、金属材が「矩形管」であり、「曲げ形状」の曲げ方向が特定されておらず、「自動車部品」の用途が特定されていない点。

相違点について検討する。
刊行物1には、「金属材の曲げ方向が2次元的に異なる連続曲げや曲げ方向が3次元的に異なる連続曲げを加工する場合」(上記2.(ア)参照)、「本発明の第2の形態の曲げ加工方法は、可動ローラダイスが上下方向へのシフト機構、左右方向へのシフト機構、上下方向に傾斜するチルト機構、および左右方向に傾斜するチルト機構のうち少なくとも1以上の機構を有している。これにより、金属材の曲げ形状が多岐にわたり、曲げ方向が二次元的に異なる連続曲げ(例えば、S字曲げ)の場合、さらに曲げ方向が三次元的に異なる連続曲げの場合」(上記2.(エ)参照)と記載されており、また「金属材1の断面形状が実質的に矩形である場合には、図9(c)に示すように、可動ローラダイスを4ロールで構成するのが望ましい。」(上記2.(ク)参照)と記載されており、これらの記載を総合すると刊行物1の図9(c)の上下方向(長辺方向)に矩形管を曲げることが示されており、矩形管を「一対の長辺と略平行な面内で屈曲」しうることが示唆されている。
前記記載に照らせば、引用発明を「一対の長辺と略平行な面内で屈曲」する自動車部品とすることは、当業者が適宜なしうることといえる。
また、刊行物2には、製造方法は本願の明細書記載の方法とは異なるが、金属製の部材からなる本体を備え、該金属製の部材は、対向して配置される一対の長辺を有する扁平かつ中空の閉断面形状を有するとともに、長手方向へ一体に形成され、さらに前記本体は、少なくとも、前記一対の長辺と略平行な面内で屈曲する第1の屈曲部を一部に有する自動車の懸架装置のアーム素材が示されている。
引用発明と刊行物2記載の自動車の懸架装置のアーム素材とは、金属製の部材からなり、対向して配置される一対の長辺を有する扁平かつ中空の断面形状を有し、長手方向へ一体に形成された屈曲部を有する自動車の懸架装置のアーム素材である点で共通しており、引用発明に刊行物2記載の事項を適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
してみれば、一対の長辺と略平行な面内で屈曲した構成を取りうる引用発明を、扁平な断面形状の対向する一対の長辺に略平行な面内で屈曲する自動車の懸架装置とし、相違点に係る本願発明の構成とすることは、刊行物2に接した当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、本願発明の奏する効果を検討しても、引用発明及び刊行物1,刊行物2に記載された事項から、当業者が予測しうる範囲内のものであって、格別のものとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物1、刊行物2に示された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2、3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-12 
結審通知日 2013-12-17 
審決日 2014-01-06 
出願番号 特願2010-503296(P2010-503296)
審決分類 P 1 8・ 121- WZA (B60G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平野 貴也  
特許庁審判長 大熊 雄治
特許庁審判官 平田 信勝
小関 峰夫
発明の名称 アーム素材およびその製造方法  
代理人 剱物 英貴  
代理人 市原 政喜  
代理人 広瀬 章一  

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