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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23B
管理番号 1285022
審判番号 不服2012-4354  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-06 
確定日 2014-02-19 
事件の表示 特願2008-542765「乳酸カリウム水溶液」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月 7日国際公開、WO2007/063098、平成21年 4月30日国内公表、特表2009-517063〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年11月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2005年11月30日,米国)を国際出願日とする特許出願であって,平成23年2月17日付けで拒絶理由通知書が出され,同年5月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年11月1日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成24年3月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に同日付けで手続補正がなされ,同年4月25日に請求理由を補正する手続補正書(方式)及び平成24年3月6日付け手続補正を補正する手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 平成24年3月6日付け手続補正について
平成24年4月25日提出の手続補正書(方式)により補正された平成24年3月6日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)は,補正前の請求項2?6を削除するものであって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定する特許請求の範囲の削除を目的とするものに該当する適法な補正である。

第3 本願発明
上記したように本件補正は適法なものなので,本願請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1からみて,以下の事項により特定される発明であると認める。
「【請求項1】
乳酸カリウム水溶液の調製の方法であって,65重量%未満の乳酸カリウム濃度を有する第1の乳酸カリウム溶液が,蒸発により,65重量%?85重量%の乳酸カリウム濃度を有する溶液へと濃縮され,次に取出される,上記方法。」

第4 引用刊行物記載の事項
原査定の拒絶理由に引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特表2005-504840号公報(以下,「刊行物1」という。)には,次の事項が記載されている。
なお,下線は当審にて付記したものである。
(刊1-1)「【要約】
本発明は,粉末形態の安定なアルカリ金属乳酸塩を製造する方法,前記製造の製品,前記安定なアルカリ金属乳酸塩粉末を含有させた食品用機能的プレミックス,そして前記安定なアルカリ金属乳酸塩粉末を含有させた食品に関する。本発明に従う方法では,アルカリ金属の乳酸塩を含有する濃縮物を混合装置/押出し加工機で冷却しながら処理することでアルカリ金属の乳酸塩の粉末を生じさせる。本発明に従う粉末形態のアルカリ金属乳酸塩は少なくとも48時間に渡って安定である。」

(刊1-2)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末形態の安定なアルカリ金属乳酸塩を製造する方法であって,アルカリ金属の乳酸塩を含有する濃縮物を混合装置/押出し加工機で冷却しながら処理することでアルカリ金属の乳酸塩の粉末を生じさせる方法。」

(刊1-3)「【実施例1】
【0019】
乳酸ナトリウム含有量が60-65%(質量/質量)の乳酸ナトリウム水溶液に蒸発を大気圧下または減圧下のいずれかで受けさせることで乳酸ナトリウム含有量が90%(質量/質量)の濃縮物を得た。追加的実験では,乳酸ナトリウム含有量が60-65%(質量/質量)の水溶液を担体と一緒にした。用いた担体はジャガイモ澱粉,小麦澱粉,トウモロコシ澱粉,タピオカおよび添加剤,例えばCapsul E,ヒマワリ油,Esterlac EFF,塩,レシチン,グリセロール,Tween 80,Span 80およグリセロールなどであった。前記濃縮物と前記担体をHaake Rheomix 600モデルの混合装置/押出し加工機で処理することで乳酸ナトリウム含有量が約42%(質量/質量)の粉末を得た。混合時間および加工温度はそれぞれ5から30分および90℃から130℃であった。この粉末は弾性のある個々の粒子で構成されていた。これらの粒子は少なくとも48時間(2から5日の桁)に渡って安定であった。
【0020】
この粉末の安定性を下記の如く試験した:各粉末のサンプルをアルミニウム製カップおよびプラスチック製バッグ(26x34cm)のそれぞれに5グラムおよび100グラム入れた。安定性試験を相対湿度が30,60および70%で温度が20℃になるように気候を制御した部屋の中で実施した。前記粉末のサンプルが目で見て明らかに水を吸収した時点で,前記粉末のサンプルが示す水吸収値(即ち安定性)を決定した。」

(刊1-4)「【実施例2】
【0021】
乳酸ナトリウム含有量が60-65%(質量/質量)の乳酸ナトリウム水溶液に蒸発を大気圧下または減圧下のいずれかで受けさせることで乳酸ナトリウム含有量が93-100%(質量/質量)の濃縮物を得た。この濃縮物を150-160℃の温度でAPV-Baker混合装置/押出し加工機に送った。前記押出し加工機の長さを短くする目的で,数多くの実験で,熱抽出装置のカラムを前記混合装置/押出し加工機に送り込む流れのための予備処理として用いた。前記熱抽出装置のカラムに導入した前記濃縮物は重力の影響下で空気/窒素に対して向流で冷却され,この工程の間に前記濃縮物が20-50℃冷えた。熱抽出装置のカラムを用いるか否かに拘らず,その生成物を混合装置/押出し加工機で最終温度が20-60℃になるように冷却し,この混合装置/押出し加工機の中の滞留時間を2から9分にした。次に,この生成物を円錐形製粉機で粉砕することで,粉砕された生成物の粒子サイズが600μm未満になるようにした。その粉砕された生成物を担体と一緒に空気または窒素雰囲気下のHobart混合装置で10から120分間混合した。用いた担体は米粉,コーンスターチ,豆澱粉,小麦澱粉,シリケートSipernat 22SまたシリケートZeothix 265であった。乳酸ナトリウム:担体の比率を粉末にした乳酸ナトリウムを基にして60:40にした。」

(刊1-5)「【0006】
本発明に従い,前記アルカリ金属の乳酸塩は好適には乳酸リチウム,乳酸ナトリウムまたは乳酸カリウム,特に乳酸ナトリウムである。本発明に従い,粉末形態の前記アルカリ金属乳酸塩は少なくとも48時間に渡って安定である。」

(刊1-6)「【0010】
本アルカリ金属乳酸塩粉末の安定性を更に向上させる目的で,本アルカリ金属乳酸塩を担体と一緒にしてもよい。前記混合装置/押出し加工機を用いて冷却しながら処理してアルカリ金属乳酸塩を含んで成る粉末を直接生じさせる前に前記担体と一緒にすることを実施してもよい。本方法で出発材料として用いる濃縮物は,濃縮度合が比較的低い,即ち60%(質量/質量)まで濃縮されたものであってもよい。前記アルカリ金属の乳酸塩を担体と一緒にする時期は,また,前記濃縮物を押出し加工機/混合装置で冷却しながら処理した後であってもよい。」

第5 刊行物1記載の発明
刊行物1には,「安定なアルカリ金属乳酸塩粉末を含有させた食品用機能的プレミックス」(刊1-1)を作るために使用するアルカリ金属乳酸塩粉末を,【請求項1】(刊1-2)のごとく作製することが記載されている
そして,「前記濃縮物と前記担体をHaake Rheomix 600モデルの混合装置/押出し加工機で処理することで乳酸ナトリウム含有量が約42%(質量/質量)の粉末」を作製する実施例(刊1-3)が記載されている。
このことからすると,当該「アルカリ金属乳酸塩粉末」を得るために,「Haake Rheomix 600モデルの混合装置/押出し加工機」に,「前記濃縮物」,すなわち,「乳酸ナトリウム含有量が90%(質量/質量)の濃縮物」(刊1-3)が材料として投入されていることが分かる。
さらに,その「乳酸ナトリウム含有量が90%(質量/質量)の濃縮物」を得るために,「乳酸ナトリウム含有量が60-65%(質量/質量)の乳酸ナトリウム水溶液に蒸発を大気圧下または減圧下のいずれかで受けさせることで乳酸ナトリウム含有量が90%(質量/質量)の濃縮物を得」(刊1-3)る方法が使用されていることが分かる。

そうすると,【実施例1】(刊1-3)の「乳酸ナトリウム含有量が90%(質量/質量)の濃縮物」を得る方法に注目して整理すると,刊行物1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「Haake Rheomix 600モデルの混合装置/押出し加工機で処理することで乳酸ナトリウム含有量が約42%(質量/質量)の粉末を得るのに使用される材料である,乳酸ナトリウム含有量が90%(質量/質量)の乳酸ナトリウムの濃縮物を得る方法であって,乳酸ナトリウム含有量が60-65%(質量/質量)の乳酸ナトリウム水溶液に蒸発を大気圧下または減圧下のいずれかで受けさせることで,乳酸ナトリウム含有量が90%(質量/質量)の濃縮物を得る方法。」

第6 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 調整の方法について
引用発明の「乳酸ナトリウム含有量が60-65%(質量/質量)の乳酸ナトリウム水溶液」から「乳酸ナトリウム含有量が90%(質量/質量)の濃縮物を得る方法」は,乳酸ナトリウム水溶液の調製の方法ということができ,本願発明の「乳酸カリウム水溶液の調製の方法」とは,「乳酸アルカリ金属塩水溶液の調製の方法」という点で共通する。

2 65重量%未満の濃度について
引用発明の「乳酸ナトリウム含有量が60-65%(質量/質量)」と,本願発明の「65重量%未満の乳酸カリウム濃度を有する第1の乳酸カリウム溶液」とは,上記「1 調整の方法について」に記したアルカリ金属の違いを除き,濃度において一致する。

3 蒸発について
引用発明の「蒸発を大気圧下または減圧下のいずれかで受けさせること」は,本願発明の「蒸発」に相当する。

4 濃縮後の濃度について
引用発明の「乳酸ナトリウム含有量が90%(質量/質量)の濃縮物を得る」ことと,本願発明の「65重量%?85重量%の乳酸カリウム濃度を有する溶液へと濃縮され」たものを得ることとは,濃縮された濃度が異なっており,また,前記したように乳酸塩を構成するアルカリ金属の種類が異なっているから,「所定の濃度の乳酸アルカリ金属塩濃度を有する溶液へと濃縮され」たものを得る点で共通する。

5 取出されることについて
引用発明の方法により得られた「乳酸ナトリウム含有量が90%(質量/質量)の濃縮物」は,「Haake Rheomix 600モデルの混合装置/押出し加工機で処理」するために当該混合装置/押出し加工機に投入されることとなる。引用発明の「乳酸ナトリウム含有量が90%(質量/質量)の濃縮物」は,該投入のため「蒸発を大気圧下または減圧下のいずれかで受けさせる」装置から,取出されることは自明なことである。よって,引用発明に明示的な特定事項はないものの,引用発明が,本願発明の「次に取出される」ことに相当する工程を具備することは明らかである。

6 小括
以上の事項を総合すると,両発明は,次の(一致点)並びに(相違点1)及び(相違点2)を有する。
(一致点)
「乳酸アルカリ金属塩水溶液の調製の方法であって,65重量%未満の乳酸アルカリ金属塩濃度を有する第1の乳酸アルカリ金属塩溶液が,蒸発により,所定の乳酸アルカリ金属塩濃度を有する溶液へと濃縮され,次に取出される,上記方法。」

(相違点1)
乳酸アルカリ金属塩のアルカリ金属が,本願発明では「カリウム」であるのに対して,引用発明では「ナトリウム」である点。

(相違点2)
蒸発により濃縮される所定濃度が,本願発明では「65重量%?85重量%」であるのに対して,引用発明では「90%(質量/質量)」である点。

第7 検討
1 相違点1について
刊行物1には,「本発明に従い,前記アルカリ金属の乳酸塩は好適には乳酸リチウム,乳酸ナトリウムまたは乳酸カリウム,特に乳酸ナトリウムである。本発明に従い,粉末形態の前記アルカリ金属乳酸塩は少なくとも48時間に渡って安定である。」(刊1-5)と記載されているように,乳酸カリウムにも適用し得ることが記載されている。
したがって,引用発明の「乳酸ナトリウム」を「乳酸カリウム」とすることは,刊行物1に記載の前記事項から当業者が適宜なし得たことといえる。

2 相違点2について
(1)本願発明の「65重量%?85重量%」とする数値の技術的意義について

本願発明の85重量%とする濃度の上限及び65重量%とする濃度の下限について,本願明細書の記載事項及び本願優先権主張日前の技術常識からみて,以下のような技術的意義があるものと理解される。

ア 本願発明の85重量%とする濃度の上限について
本願明細書の段落【0018】には,
「85重量%より高い濃度は,例えば,4℃のような低温が用いられる食肉製造において,適切さが比較的低く,かつ取り扱うのにより困難である粘性の溶液をもたらすが,該溶液は輸送の為にはなお適当である。」
と記載されており,粘性の観点から,85重量%という上限が定められていると理解される。

イ 本願発明の65重量%とする濃度の下限について
本願明細書の段落【0018】には,
「より高い濃度の溶液は,同じ量の乳酸カリウムについてより少ない容器スペースを必要とする故に,バルク量がより容易に輸送されうるという追加の利点を有する。」
と記載されており,粘度の観点からは,上記したように高濃度すぎても好ましくないが,バルク量が容易に輸送されるという観点から低濃度すぎても好ましくなく,65重量%という下限が定められていると理解される。

ウ 悪い味及び/又は悪い香りについて
なお,本願明細書には,以下のような記載がある。
「65?85%の濃度を有する乳酸カリウム溶液へと蒸発させることにより,該第1の乳酸カリウム溶液から悪い味及び/又は悪い香りを除去し,そして,任意的に該溶液を例えば65%未満へと又は約60%へと再度希釈する,精製の方法を提供することが,本発明の更なる目的である。」(本願明細書段落【0016】)
「該溶液は更に,以下の主要芳香化合物の存在の点で,非常に低いプロファイルを有する:アセトアルデヒド,エタノール,ジアセチル,2-ブタノン,2,3-ペンタジオン及び1(E)-ブテナール。これら化合物全てが合わせて,本発明の方法に従い得られる76?79重量%の乳酸カリウム溶液中に,10ppm未満の全含有量で存在する。」(本願明細書段落【0019】)

しかしながら,悪い香りや悪い味について,本願発明の「65重量%未満の乳酸カリウム濃度を有する第1の乳酸カリウム溶液」が,どのような成分を含むものか特許請求の範囲に何の特定もなされていない。したがって,「65?85%の濃度を有する乳酸カリウム溶液へと蒸発させることにより,該第1の乳酸カリウム溶液から悪い味及び/又は悪い香りを除去」(本願明細書段落【0016】)されたとする技術的意義は,特許請求の範囲の当該第1の乳酸カリウム溶液として,蒸発により除去できるような悪い香りや悪い味の原因物質が含まれる溶液を使用した場合のみに得られるものであって,特許請求の範囲に基づかないものである。

(2)判断
ア 85重量%とする濃度の上限について
刊行物1には,「本方法で出発材料として用いる濃縮物は,濃縮度合が比較的低い,即ち60%(質量/質量)まで濃縮されたものであってもよい。」(刊1-6)と記載され,ここでいう「本方法」とは「【請求項1】粉末形態の安定なアルカリ金属乳酸塩を製造する方法であって,アルカリ金属の乳酸塩を含有する濃縮物を混合装置/押出し加工機で冷却しながら処理することでアルカリ金属の乳酸塩の粉末を生じさせる方法。」を意味すると解される。
そうすると,前記「本方法で出発材料として用いる濃縮物」とは,前記請求項1でいう「混合装置/押出し加工機」に投入される濃縮物であると理解され,その濃縮物の濃縮度合いが比較的低い「60%(質量/質量)まで濃縮されたものであってもよい」ことが記載されていることが分かる。

また,例えば下記刊行物Aに記載のように乳酸アルカリ金属塩の水溶液は,濃度が高まると粘性が高くなることが本願優先権主張日前から周知の技術的事項として知られていた。

以上のことを総合すると,引用発明は,「濃縮物」が「90%(質量/質量)」であるが,上記(刊1-6)の記載によれば,濃縮物の濃縮度合いが比較的に低い「60%(質量/質量)まで濃縮されたものであってもよい」とされるものであり,乳酸アルカリ金属塩の水溶液には,濃度が高まると粘性が高くなるという周知の特性があることから,引用発明の「濃縮物」を「Haake Rheomix 600モデルの混合装置/押出し加工機で処理」する際の投入し易さ等のことを考慮して,粘度を抑えるべく,引用発明の「90%(質量/質量)」という濃縮率を下げ,本願発明のごとく上限を「85重量%」とすることに特段の困難性はない。

刊行物A:特開昭61-115050号公報
(刊A-1)「一般に乳酸およびそのアルカリ金属塩の水溶液の粘度は,濃度が50重量%以上となると急激に上昇する。第1図に各温度における乳酸水溶液の粘度と濃度の関係を,第2図に25℃および50℃での乳酸ナトリウム水溶液の粘度と濃度の関係を示す。特に上記濃度が60重量%以上の乳酸ナトリウム水溶液では粘度が高くなり,従って攪拌効率および冷却効率が低下することは避けられない。」(2頁左上欄14行?同頁右上欄2行)
イ 65重量%とする濃度の下限について
本願発明の下限である「65重量%」について,濃度が高ければ同じ量の乳酸カリウムについてより少ない容器スペースで済むことは,当業者にとって自明な事項であり,引用発明の「乳酸ナトリウム」の「濃縮物」は,「混合装置/押出し加工機」へ投入する際に移送する必要のあるものであるから,移送の際のバルク量を減らすべく,所定以上の濃度とする方がよいことは,当たり前のことである。
しかも,引用発明は,「乳酸ナトリウム含有量が約42%(質量/質量)の粉末」を「乳酸ナトリウム」の「濃縮物」から得ることを考えれば,水分量は少ない方がよいことは明らかであって,上記(刊1-6)記載の「60%(質量/質量)まで濃縮されたものであってもよい」ものとされていることをも考慮すれば,引用発明の「乳酸ナトリウム」の「濃縮物」の濃度の下限を65重量%とする程度のことは,当業者が適宜なし得る設計的事項といえる。

3 本願発明の効果について
本願発明の効果は,刊行物1及び上記周知の技術的事項から当業者が予測し得るものであって,格別顕著なものとはいえない。

4 請求人の主張について
なお,請求人は,平成23年5月20日付け意見書において,次のように主張する。
「引用文献1に記載の発明では,濃縮物の濃度をできる限り高くしている。混合装置/押出し加工機で粉末を生じさせる為に,濃縮物の濃度が高濃度であればあるほど好ましいことは明らかである。従って,引用文献1に記載の発明において濃縮物の濃度を65重量%?85重量%として悪い味及び/又は悪い香りを除去することを当業者は容易に想到しない。」(意見書2頁23?27行)

しかしながら,「悪い味及び/又は悪い香りを除去する」とする効果は,上記「第7 2(1)ウ 悪い味及び/又は悪い香りについて」で言及したように,特許請求の範囲の「第1の乳酸カリウム溶液」として,これらの悪い香りや悪い味の原因物質が含まれる材料を使用した場合のみに奏されるものであって,特許請求の範囲に基づかないものである。
念のため,本願発明が,請求人の主張するとおり特許請求の範囲の「第1の乳酸カリウム溶液」として「悪い香りや悪い味の原因物質が含まれる材料を使用した」ものであるとして検討すると,引用発明は,「乳酸ナトリウム含有量が60-65%(質量/質量)の乳酸ナトリウム水溶液に蒸発を大気圧下または減圧下のいずれかで受けさせる」ものであって,仮に引用発明において,「悪い香りや悪い味の原因物質が含まれる材料を使用した」とすれば,これらの原因物質が揮発して減少することは,当業者によって予測し得ることであって,格別顕著な作用効果とはいえない。

また,引用発明は,混合装置/押出し加工機で粉末を生じさせるためのものであるが,上記「第7 2 相違点2について」で言及したように,引用発明の「乳酸ナトリウム含有量が90%(質量/質量)の濃縮物」を「Haake Rheomix 600モデルの混合装置/押出し加工機で処理」する際の投入し易さや,該濃縮物を該混合装置/押出し加工機に投入すべく移送する際に,粘度を抑えたり,バルク量を減らす方が好ましいことから,引用発明において,「90%(質量/質量)」という濃度を下げ,本願発明のごとく上限を「65?85重量%」とすることに特段の困難性はなく,引用発明の「乳酸ナトリウム」の「濃縮物」が,混合装置/押出し加工機で粉末を生じさせるためのものであっても,本願発明のごとく構成する際の阻害要因とはならない。

第8 結語
以上のとおり,本願発明は,刊行物1記載された発明及び上記周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-11 
結審通知日 2013-09-19 
審決日 2013-10-02 
出願番号 特願2008-542765(P2008-542765)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 潤也  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 齊藤 真由美
安藤 倫世
発明の名称 乳酸カリウム水溶液  
代理人 松井 光夫  

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