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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B21D
管理番号 1285078
審判番号 不服2013-10402  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-05 
確定日 2014-03-11 
事件の表示 特願2009- 79479「アルミニウム合金板の成形方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月14日出願公開、特開2010-227978、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は平成21年3月27日に出願され、原審において、平成24年10月4日付拒絶理由通知に対して平成24年12月10日に意見書と手続補正書が提出されたが、平成25年2月27日付で拒絶査定がなされたものである。本件審判は、該拒絶査定の取消しを求めて平成25年6月5日に請求されたものであり、請求と同時に手続補正書が提出され、当審による平成25年8月26日付審尋に対して平成25年10月28日に回答書が提出されている。

2.平成25年6月5日付手続補正の適否
2.1 補正の内容
平成25年6月5日付手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を以下のとおり補正するとともに、明細書の段落21を補正後の請求項1と整合させるべく補正しようとするものである。
(1)補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
連続した曲面の一部に凹部を有する形状のドア、ラゲージ、フェンダー、フード、トランクリッドから選択される自動車アウタパネルにアルミニウム合金板を成形する方法であって、第一のオス金型とメス金型とを用いて前記凹部以外の曲面を成形した後で、前記凹部を第二のオス金型とメス金型とを用いて部分的に成形するに際し、前記アルミニウム合金板の前記凹部への成形箇所を150?400℃の温度に部分的に加熱し、かつ、前記凹部以外の曲面を押え型により加圧した上で、前記凹部を張出加工にて成形し、前記凹部の成形に伴う面ひずみの発生を抑制することを特徴とするアルミニウム合金板の成形方法。
【請求項2】 前記凹部を張出加工にて成形する際に、前記第二のオス金型の成形面を加熱するとともに、前記第二のメス金型および押え型を冷却して、前記アルミニウム合金板の前記凹部への成形箇所を前記温度に部分的に加熱する、請求項1に記載のアルミニウム合金板の成形方法。
【請求項3】
前記押え型の加圧力を0.6MPa以上とする、請求項1または2に記載のアルミニウム合金板の成形方法。
【請求項4】 前記第二のメス金型および前記押え型を、100℃以下の温度で、かつ前記第二のオス金型の加熱温度150?400℃よりも100℃以上低い温度に保持または冷却する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板の成形方法。
【請求項5】
前記凹部以外の曲面を成形した後で、前記凹部を部分的に成形する工程を、同じプレス装置の中で連続的に行い、前記凹部以外の曲面を成形する第一のメス金型内に、前記凹部を張出加工にて成形する第二のオス金型を、分割して、かつ独立して進退可能に設けるとともに、前記第二のメス金型を前記第一のオス金型内に設け、第一のオス金型と第一のメス金型とを用いて前記凹部以外の曲面を成形した後で、成形面を150?400℃に加熱した前記第二のオス金型を前記第二のメス金型に近接させ、前記第一のオス金型と第一のメス金型とを前記押え型として用いて、前記凹部を張出加工にて部分的に成形する請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板の成形方法。
【請求項6】 前記自動車パネルがアウタパネルである請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板の成形方法。 」
(2)補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
連続した曲面の一部に凹部を有する形状のドア、ラゲージ、フェンダー、フード、トランクリッドから選択される自動車アウタパネルにアルミニウム合金板を成形する方法であって、第一のオス金型とメス金型とを用いて前記凹部以外の曲面を成形した後で、前記凹部を第二のオス金型とメス金型とを用いて部分的に張出加工にて成形するに際し、前記凹部以外の曲面を押え型により加圧した上で、前記第二のオス金型の成形面を150?400℃の温度に加熱して、前記アルミニウム合金板の前記凹部への成形箇所を150?400℃の温度に部分的に加熱するとともに、前記第二のメス金型および押え型を、100℃以下の温度で、かつ前記第二のオス金型の加熱温度150?400℃よりも100℃以上低い温度に保持または冷却して、前記凹部の成形に伴う面ひずみの発生を抑制することを特徴とするアルミニウム合金板の成形方法。
【請求項2】
前記押え型の加圧力を0.6MPa以上とする、請求項1に記載のアルミニウム合金板の成形方法。
【請求項3】
前記凹部以外の曲面を成形した後で、前記凹部を部分的に成形する工程を、同じプレス装置の中で連続的に行い、前記凹部以外の曲面を成形する第一のメス金型内に、前記凹部を張出加工にて成形する第二のオス金型を、分割して、かつ独立して進退可能に設けるとともに、前記第二のメス金型を前記第一のオス金型内に設け、第一のオス金型と第一のメス金型とを用いて前記凹部以外の曲面を成形した後で、成形面を150?400℃に加熱した前記第二のオス金型を前記第二のメス金型に近接させ、前記第一のオス金型と第一のメス金型とを前記押え型として用いて、前記凹部を張出加工にて部分的に成形する請求項1または2に記載のアルミニウム合金板の成形方法。」
なお、下線は補正箇所を明確化する目的で当審にて付したものである。

2.2 補正の適否の検討
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項2,4,6を削除して請求項3,5を新たな請求項2,3とすることに伴い、新たな請求項2,3において引用する請求項の番号を整理するほか、請求項1については、その発明特定事項である「凹部を第二のオス金型とメス金型とを用いて部分的に成形する」工程について、「張出加工にて」成形する旨の限定を加えるとともに、「アルミニウム合金板の凹部への成形箇所を150?400℃の温度に部分的に加熱」する工程について、「第二のオス金型の成形面を150?400℃の温度に加熱して、アルミニウム合金板の凹部への成形箇所を150?400℃の温度に部分的に加熱するとともに、第二のメス金型および押え型を、100℃以下の温度で、かつ第二のオス金型の加熱温度150?400℃よりも100℃以上低い温度に保持または冷却して」行う旨の限定を加えることによって、実質的に特許請求の範囲を減縮するものである。
また、本件補正は願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内で行うものである。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか、以下に検討する。

2.3 補正発明
補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、上記2.1(2)の【請求項1】に記載したとおりのものである。

2.4 刊行物に記載された発明または事項
本願の出願前に頒布された刊行物であって、原審の拒絶理由に引用された以下の刊行物には、以下の発明または事項が記載されていると認める。
刊行物1: 特開昭59-229242号公報
刊行物2: 実願昭57-94462号(実開昭59-1429号)の
マイクロフィルム
刊行物3: 特開平6-170453号公報

2.4.1 刊行物1
刊行物1には以下の記載がなされている。
a.(第1ページ右下欄第14行?第2ページ左上欄第10行)
「平面が大部分を占め部分的に張出し、絞り、曲げ等およびそれらの複合加工を行うプレス成形品においては部分的成形部位周辺に、軽微な面としての波打ち欠陥(以下面歪と略称する)が発生する。このようなプレス成形品の例としてはドアアウタパネル、ボンネット、トランクリッド、リヤフェンダなどの自動車用外板パネルが挙げられる。これらの成形品は表面が美麗に仕上がることが要求されるため、この歪の除去に対しては、材料面の対策として低降伏点材料が用いられているが、面歪の完全な除去は難しく、多少、波打ちが軽度になる程度の改善しか図られていないのが現状である。更に、減量化対策として、高強度鋼板の使用が増えている最近の状況下ではこの面歪問題は成形上の最大の課題となっている。」
b.(第2ページ左下欄第10行?右下欄第8行)
「本発明に従うと、大部分が平面状であり、局部的に張出し、絞り、曲げ乃至はそれらの複合した加工を含む成形加工を金属板に施すプレス成形用金型において、上記局部的に成形される部分に対応する金型部分の金型内部に加熱手段を設けて、成形加工の際に上記局部的に成形される部分を局部的に加熱するように構成したことを特徴とするプレス成形用金型が提供される。加熱手段は加熱最高温度が200?300℃程度のものでよく、(中略)上記局部的に加熱される部分に対応する金型部分に凹所を穿ち、該凹所に加熱手段を内蔵した加熱部材を嵌合してなることを特徴とするプレス成形用金型が提供される。」
c.(第2ページ右下欄第13?17行)
「更に、本発明の好ましい態様に従うと、加熱表面金型部材を嵌合する凹所の周辺の金型内に水、空気又はその他の冷却媒体を導通させる冷却管を配置し、上記加熱表面金型部材の周囲を冷却可能とするのが好ましい。」
d.(第3ページ左上欄第2?5行)
「以上に示した平面状の形状とは、局部的成形部位に比較して全体的に平面状に見えるという意味であり、大きな曲率半径を有する曲面も含むものである。」
e.(第3ページ右上欄第10行?左下欄第3行)
「第4図は本発明を実施するための金型の断面を第1図のX-Xに相当する方向で見たものである。この成形は全体的にはダイス1とポンチ2で成形される。面歪の発生する取手部はダイス1に設けられたエンボスポンチ3とポンチ2のキャビティ4で成形される。本実施例においては、エンボスポンチ3をダイス1と一体とせず、例えば石綿の如き断熱材7を介して嵌合し、且つエンボスポンチ3内にニクロム発熱体5をうめこんでいる。ニクロム発熱体は導線6により通電加熱する。
第1図の形状に第4図の金型を用いて第1表に示したJIS 5号試験片による引張り試験結果を示すI?IIIの鋼板(いずれも板厚は0.7mm)をプレス成形して面歪を測定した。」
f.(第3ページ右下欄第3?5行)
「本実施例の場合は、温度差45℃?130℃のかなり広い範囲で成形が可能となっている。」
g.(第3ページ右下欄第8?15行)
「第6図(イ)は本発明の他の態様に従う金型の断面を示し、第6図(ロ)は第6図(イ)の金型内に設けた冷却媒介の通路網の平面図を示している。この実施例の金型ではエンボスポンチ3の周辺の金型内部に通路網8を設け、この通路網8の一端Yより常温の水又は空気等の冷却媒体を流通し、他端Zよりそれを回収して、エンボスポンチ3の周囲を冷却するように構成している。」
h.(第4ページ左上欄第16?18行)
「以上の実施例は鋼板の場合について示したが、本発明の金型は熱膨張する他の金属材料、例えば、ステンレス、アルミ、銅等にも利用可能である。」
技術常識を考慮しつつ上記を整理すると、刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。
「大きな曲率半径を有する曲面の一部に凹部を有する形状のドアアウターパネル、ボンネット、トランクリッド、リヤフェンダなどの自動車用外板パネルに鋼板を成形する方法であって、ポンチとダイスとを用いて前記凹部以外の曲面を成形すると同時に、前記凹部をエンボスポンチとポンチのエンボスポンチとキャビティとを用いて部分的に張出し加工にて成形するに際し、前記凹部以外の曲面をポンチとダイスにより加圧した上で、前記エンボスポンチの成形面を200?300℃の温度に加熱して、前記鋼板の前記凹部への成形箇所を200?300℃の温度に部分的に加熱するとともに、前記ポンチのキャビティおよびダイスを、前記エンボスポンチの加熱温度200?300℃よりも45?130℃低い温度に冷却して、前記凹部の成形に伴う面歪の発生を抑制する、鋼板の成形方法。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)
また、刊行物1には、同様の成形方法が、アルミ等の他の金属材料にも利用可能であることが記載されている。(記載事項h参照。)
2.4.2 刊行物2
刊行物2には以下の記載がなされている。
a.(明細書第1ページ第15?18行)
「この考案は、張出し部分中に局部的な逆絞り部分を有する鈑金部品ワークをプレス加工するときに、上記逆絞り部分の周辺にしわ、ひずみ等が発生するのを防止するようにしたプレス型に関する。」
b.(同第2ページダイ1,2行)
「ワークとして第2図に示すような自動車のフロントドア・アウタA」
c.(同第4ページ第18行?第7ページ第3行)
「第3図および第4図は、この考案の一実施例を示す図である。これらの図は、このプレス型を複動形プレスに装備した一例の要部の概要を示す。11は下型の主体をなすポンチ、12はブランクホルダで、上記ポンチ11は、複動形プレスのボルスタFに固定され、部落ホルダ12は、ポンチ11のホルダ部11cを貫通するクツシヨンピン13により保持されている。11aはポンチ11のワーク加工基準面、11bは凹状のドアハンドル逆絞り部分Bの成形面である。上型は、主ダイ14および補助ダイ15とより成り、主ダイ14は、複動形プレスのアウタスライドSoの下面に着脱可能に固着してある。14aは主ダイ14のワーク加工基準面、14cは、前記ブランクホルダ12の上面と対向するダイフエース部である。ポンチ状の補助ダイ15は、複動形プレスのインナスライドSiの下面に着脱可能に固着し、主ダイ12の内部に設けられた開口部16および17を貫通して、主ダイ14と各別に上下方向に移動できるようにしてある。15bは、補助ダイ15の逆絞り部分成形面、AaはワークAのブランクを示す。
つぎに作用を説明する。
第3図は、主ダイ14および補助ダイ15が、ワーク加工開始前の上死点にある状態を示す。ブランクホルダ12は、上昇したクツシヨンピン13で保持されている。この状態でブランクAaをブランクホルダ12上に投入したのち、複動形プレスを作動させる。まず最初に、プレスのアウタスライドSoが矢印a方向に下降すると、このアウタスライドSo上に固着された主ダイ14も下降し、ダイフエース部14cとブランクホルダ12の上面とによつてブランクAaを挟持する。さらに主ダイ14が下降すると、ブランクホルダ12はクツシヨンピン13の保持力に抗して矢印e方向に押下げられ、ブランクAaがポンチ11のワーク加工基準面11aに押付けられる。アウタスライドSoが下死点に達すると(第4図)、主ダイ14とポンチ11の各ワーク加工基準面14a,11aでブランクAaを抑えた状態で作動が停止し、この間インナスライドSiのみが下死点まで矢印c方向に下降して、補助ダイ15の逆絞り部分成形面15bと、ポンチ11の同上成形面11bとにより、ドアハンドルの逆絞り部分B形状を形成する。すなわち、この逆絞り部分Bの周囲を抑えたのちにこの部分を成形することになる。」
d.(第3図及び第4図)
主ダイ14とポンチ11とにより形成される「張出し部分」が曲面状であることが理解される。
以上を整理すると、刊行物2には次の事項が記載されていると認められる。
「曲面状の張出し部分中に局部的な逆絞り部分を有する形状の自動車のフロントドア・アウタに鈑金部品を成形する方法において、ポンチと主ダイとを用いて前記逆絞り部分以外の張出し部分を成形した後で、前記逆絞り部分以外の張出し部分をポンチと主ダイにより加圧した上で、前記逆絞り部分を補助ダイとポンチとを用いて部分的に成形して、前記逆絞り部分の成形に伴うひずみの発生を抑制すること。」(以下、「刊行物2記載の事項」という。)
2.4.3 刊行物3
刊行物3には以下の記載がなされている。
a.(発明の詳細な説明、段落4,5)
「 【0004】
図2に示される製品1は、フランジ部1a,胴部1b,底部1cおよび張り出し部2を有している。製品1は、全体がアルミニウムまたはその合金に板材で形成された円形の底付きの容器をなしており、深絞り成形により成形される形状である。
【0005】
そして、この製品1の底部1cの中央には膨らませて突き出した張り出し部2が形成されており、この張り出し部2が張り出し成形により成形するに適した形状の部分である。」
b.(同、段落10?15)
「【0010】本発明は前記事情に基づいてなされたもので、深絞り成形に適した形状と張り出し成形に適した形状とが組合された形状をもつ製品を、一つの金型を用いた1度の温間成形により、アルミニウムまたはその合金材で成形することができる複合温間成形方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段と作用】前記目的を達成するために本発明のアルミニウムまたはその合金材の複合温間成形方法は、端面部に突出部を有するポンチと、ダイスと、しわ押え体と、前記ポンチに設けられ前記突出部により張り出し成形されるアルミニウムまたはその合金材の部分を加熱する加熱体と、前記ダイスと前記しわ押え体とで挟持される前記アルミニウムまたはその合金材の部分を加熱する加熱体とを具備する金型を用いて、前記アルミニウムまたはその合金材を成形することを特徴とする。
【0012】すなわち、本発明の複合温間成形方法は、全体が深絞り成形に適した形状であり、底部に張り出し成形に適した形状の張り出し部を持つ製品をアルミニウムまたはその合金材で温間成形するものである。
【0013】そこで、深絞り成形を行うためにポンチ、ダイスおよびしわ押え体を備え、ポンチの底面部に張り出し部を成形するために突出部を有する金型を使用する。さらに、温間深絞り成形を行うために加熱体によりダイスとしわ押え体とで挟持固定されるアルミニウムまたはその合金材の部分を加熱し、また温間張り出し成形を行うためにポンチの突出部により張り出し成形されるアルミニウムまたはその合金材の部分を加熱する。
【0014】さらに、説明を加える。
【0015】深絞り成形は、製品のフランジ部となる被加工材の部分(ダイスとしわ押え体で挟持される部分)を加熱し、製品の底部となる被加工材の部分(ポンチの端面部に相当する部分)を冷却すると、フランジ部となる被加工材の部分の材料強度が低くなってダイスの内部に流入しやすくなる。」
c.(同、段落20)
「【0020】しわ押え体のみに加熱部を設けた場合には、全体的な絞り成形性は向上するが、製品の底部となる被加工材の部分に部分的に形成される張り出しの成形性が室温での成形性と同じであるから、例えば鋼板では成形できる高さの高い形状がアルミニウム材料では成形が厳しくなる。」
d.(同、段落28?39)
「【0028】図中11は丸形をなすポンチ、12はポンチ11と組合されるダイス、13はしわ押え体である。ポンチ11の端面部の中央には、製品1の張り出し部2に対応する張り出し部11aが形成されている。
【0029】ポンチ11の端面部の中央の内部には加熱体の一例である電気ヒータ14が設けられており、突出部11aを介してアルミニウム板材21を加熱するようになっている。
【0030】また、ダイス12に15は加熱体1の一例である電気ヒータ15が設けられており、ダイス12としわ押え体13との間で挟持されるアルミニウム板材21の部分を加熱するようになっている。
【0031】アルミニウム板材21(アルミニウムまたはその合金材)で製品を成形する場合について説明する。
【0032】アルミニウム板材21をダイス12としわ押え13との間に配置し、その周縁部をダイス12としわ押え体13とで挟持固定する。ポンチ11を上昇してアルミニウム板材21の中央部をダイス12の内部に押し込む。また、ポンチ11の突出部11aでアルミニウム板材21の一部を張り出す。
【0033】そして、一方の電気ヒータ14でポンチ11の突出部11aを介してアルミニウム板材21を加熱するとともに、他方の電気ヒータ15でアルミニウム板材21を加熱する。
【0034】このように温間成形加工を行いポンチ11とダイス12とでアルミニウム板材21を深絞り成形して底部付きの容器を成形する。すなわち、ダイス12としわ押え13とで挟持されるアルミニウム板材21の部分で製品1のフランジ部1aを、ポンチ11とダイス12との間にあるアルミニウム板材21の部分で製品1の胴部1bを、ポンチ11の端面部で押されるアルミニウム板材21の部分で製品1の底部1cを形成する。
【0035】また、製品1の底部1cとなるアルミニウム板材21の部分の中央をポンチ11の突出部11aで張り出して製品1の張り出し部2を張り出し成形する。
【0036】ここで、しわ押え体13に設けた電気ヒータ15により、ダイス12としわ押え体13に挟持された製品1のフランジ部1aとなるアルミニウム板材21の部分を加熱するので、ポンチ11でアルミニウム板材21を深絞り成形する時にアルミニウム板材21の成形性が向上する。
【0037】ポンチ11の底部の中央に設けた電気ヒータ15により,製品1の張り出し部2に相当するアルミニウム板材21の部分を加熱するので、アルミニウム板材21の成形性(伸び)が向上する。
【0038】この結果、図2に示す製品1、すなわち全体的には絞り成形が適した形状であるものの、部分的に張り出し成形が適した形状をもった製品1を、アルミニウム板材21により、一種類の金型を用いた1度の温間成形で無理なく且つ精度良く成形することができる。
【0039】電気ヒータ14によりアルミニウム板材21を加熱する温度は、150?250℃である。電気ヒータ15によりアルミニウム板材21を加熱する温度は、150?250℃である。」
以上を整理すると、刊行物3記載には次の事項が記載されていると認められる。
「フランジ部と、深絞り成形される胴部と、底部に張り出し部を有する形状の製品にアルミニウム合金板材を成型する方法において、ポンチとダイスとを用いて胴部を成形すると同時に、前記張り出し部をポンチ端面の突出部を用いて部分的に張出加工にて成形するに際し、前記フランジ部をダイスとしわ押え体により加圧した上で、前記突出部を150?250℃の温度に加熱して、前記アルミニウム合金板材の前記張り出し部への成形箇所を150?250℃の温度に部分的に加熱するとともに、前記フランジ部を押える部分のダイスを150?250℃の温度に部分的に加熱し、かつ前記突出部以外のポンチ端面部を冷却すること。」(以下、「刊行物3記載の事項」という。)

2.5 対比
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、以下のとおりである。
後者の「大きな曲率半径を有する曲面の一部に凹部を有する形状のドアアウターパネル、ボンネット、トランクリッド、リヤフェンダなどの自動車用外板パネル」が、前者の「連続した曲面の一部に凹部を有する形状のドア、ラゲージ、フェンダー、フード、トランクリッドから選択される自動車アウタパネル」と同等の自動車部品を指していることは自明であり、後者の「ポンチ」、「ダイス」、「エンボスポンチ」、「キャビティ」が、前者の「第一のオス金型」、「メス金型」、「第二のオス金型」、「第二のメス金型」にそれぞれ相当することは明白である。
後者においても、凹部を成形する際に、「ポンチ」と「ダイス」とが「押え型」として機能していることは明らかである。
後者の「鋼板」は、金属板である限りにおいて、前者の「アルミニウム合金板」と共通し、両者の「成形方法」は、第一のオス金型とメス金型とを用いた凹部以外の曲面の成形と、第二のオス金型と第二のメス金型とを用いた凹部の成形とを行うものである限りにおいて共通する。
そうしてみると、両者は以下の点において一致及び相違すると認められる。
<一致点>
「連続した曲面の一部に凹部を有する形状のドア、ラゲージ、フェンダー、フード、トランクリッドから選択される自動車アウタパネルに金属板を成形する方法であって、第一のオス金型とメス金型とを用いて前記凹部以外の曲面を成形するとともに、前記凹部を第二のオス金型とメス金型とを用いて部分的に張出加工にて成形する際し、前記凹部以外の曲面を押え型により加圧して、前記第二のオス金型の成形面を加熱して、前記金属板の前記凹部への成形箇所を部分的に加熱するとともに、前記第二のメス金型および押え型を、前記第二のオス金型の加熱温度よりも低い温度に保持または冷却して、前記凹部の成形に伴う面ひずみの発生を抑制する、金属板の成形方法。」である点。
<相違点>
前者は、金属板がアルミニウム合金板である自動車アウタパネルの成形方法であって、凹部の成形が、凹部以外の曲面を成形した後で、第二のオス金型の成形面を150?400℃の温度に加熱して、アルミニウム合金板の凹部への成形箇所を150?400℃の温度に部分的に加熱するとともに、第二のメス金型および押え型を、100℃以下の温度で、かつ第二のオス金型の加熱温度150?400℃よりも100℃以上低い温度に保持または冷却して行われるのに対し、後者は金属板が鋼板である自動車アウタパネルの成形方法であって、凹部の成形が、凹部以外の曲面を成形すると同時に、第二のオス金型の成形面を200?300℃の温度に加熱して、鋼板の凹部への成形箇所を200?300℃の温度に部分的に加熱するとともに、第二のメス金型および押え型を、第二のオス金型の加熱温度よりも45?130℃低い温度に冷却または保持して行われる点。

2.6 相違点の検討
刊行物2記載の事項において、「曲面状の張出し部分中」、「局部的な逆絞り部分」、「自動車のフロントドア・アウタ」は「連続した曲面の一部」、「凹部」、「自動車用外板パネル」とも呼ぶことができ、また、刊行物2記載の事項における「ポンチ」、「主ダイ」、「補助ダイ」は本件発明の「第一のオス金型」、「メス金型」、「第二のオス金型」に相当することが明らかであるから、刊行物2には凹部以外の曲面を成形した後で、凹部を第二のオス金型とメス金型とを用いて部分的に張出加工にて成形することが記載されているということができる。
刊行物2には「鈑金部品」の材質について明記されていないが、自動車用外板パネルの材質として鋼板を用いることが一般的であることから、特記がない以上、刊行物2記載の事項は鋼板からなる自動車用外板パネルに適用可能と考えることが自然である。
また、刊行物2記載の事項は、刊行物1記載の発明と同様に、凹部を成形する時の歪みの発生を防止することを目的としている。
そうしてみると、連続した曲面の一部に凹部を有する形状の自動車アウタパネルに鋼板を成形する方法において、刊行物2記載の事項を刊行物1記載の発明に組合せ、刊行物1記載の発明のように金型を加熱冷却することに加えて、刊行物2記載の事項のように第一のオス金型とメス金型とを用いて前記凹部以外の曲面を成形した後で、前記凹部を第二のオス金型とメス金型とを用いて部分的に張出加工にて成形することによって、歪みの発生を防止するうえで更に万全を期すことは、当業者であれば容易に想到し、試みるものであり、かかる試みを阻害する事由は見当たらない。
しかしながら、自動車アウタパネルの材質がアルミニウム合金板からなる場合については、刊行物1にアルミ等の金属板にも利用可能であるとの記載はある(摘記事項h参照。)ものの、金属板がアルミニウム合金板である場合の第二のオス金型と金属板の加熱温度、及び第二のメス金型と押え型の冷却または保持温度については記載がなく、鋼板とアルミニウム合金板とでは成形性に差異があることも考慮すると、凹部を成形するに際して、刊行物1記載の発明の条件に基づいて金型の加熱温度及び冷却、保持温度を決定することが容易であったとも、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を組み合わせることが容易であるとも、いうことはできない。
また、刊行物3記載の事項は、胴部と張り出し部とを同時に成形するものであり、第二のメス金型及び押え型に相当する部材をもたず、これらを冷却または温度保持することもないため、刊行物1記載の発明と組み合わせて補正発明に至ることはできない。
そして、補正発明は上記相違点に係る発明特定事項を備えることにより、アルミニウム合金板について「面歪みの発生を防止する」という効果を生じる。

2.7 まとめ
以上のとおりであるから、補正発明と刊行物1記載の発明との相違点は、刊行物2及び刊行物3記載の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものということはできない。
したがって、補正発明は原査定の理由によって拒絶することはできず、また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しないから、出願の際に独立して特許を受けることができるものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定を満たすので、認容する。

3.本願の発明について
上記のとおり、平成25年6月5日付手続補正は認容されるから、本願の請求項1ないし3に係る発明は同手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、平成25年6月5日付手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、上記2.に示したとおり、出願の際に独立して特許を受けることができるものである。
また、本願の請求項2及び3に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項をすべて含むから、同様に、出願の際に独立して特許を受けることができるものである。
よって、結論のとおり審決する。
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審決日 2014-02-26 
出願番号 特願2009-79479(P2009-79479)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 村山 睦  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 菅澤 洋二
豊原 邦雄
発明の名称 アルミニウム合金板の成形方法  
代理人 竹中 芳通  
代理人 亀岡 誠司  
代理人 武仲 宏典  
代理人 坂谷 亨  

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