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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02B
管理番号 1285154
審判番号 不服2013-12046  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-26 
確定日 2014-03-17 
事件の表示 特願2007-531690「内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月30日国際公開、WO2006/032410、平成20年 5月 1日国内公表、特表2008-513659、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下、「本願」という。)は、2005年9月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年9月21日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成19年3月20日に国内書面が提出され、同年5月1日に特許法第184条の4第1項の規定による明細書、請求の範囲及び要約書の日本語による翻訳文が提出され、同年5月22日に手続補正書が提出され、平成22年12月15日付けで拒絶理由が通知され、平成23年3月18日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月10日付けで再び拒絶理由が通知され、同年10月17日に意見書及び手続補正書が提出され、平成24年4月24日付けでみたび拒絶理由が通知され、同年8月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年2月20日付けで拒絶査定がされ、同年6月26日に拒絶査定に対する審判請求がされ、同年8月8日に審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成24年8月7日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲、平成23年3月18日及び平成23年10月17日提出の手続補正書によって補正された明細書及び出願当初の図面から、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1の記載は以下のとおりである。

「 【請求項1】
内燃機関であって、
- 燃焼室(5)がピストン(2)とシリンダヘッド(1)との間に画定された、少なくとも一つのシリンダと、
- 前記シリンダヘッド(1)内に配置され、複数の噴射孔を有する噴射ノズル(3)を有する燃料噴射装置(6)と、
- 最大窪み深さ(TM)を有する窪みの基底(13)を有するとともに、内部に窪み角(α)を有する圧縮突起部(10)が前記噴射ノズル(3)に対向して配置された、前記ピストン(2)に設けられたピストンの窪み(4)とを有し、
- 上死点の前20°CAから上死点の後35°CA迄の範囲内で行なわれる燃料噴射の間に、燃料円錐角(β)を有して前記噴射孔から噴射される燃料噴霧(8)が、前記ピストンの窪み(4)に衝突するように前記噴射孔が形成される内燃機関であって、
- 窪みの縁の最上部に揃えられた水平面の下方で、前記ピストンの窪み(4)が窪み体積(MV)を有し、窪み体積(MV)に対する最大窪み深さ(TM)の比率(TM/MV)が0.05?0.35/cm^(2)の範囲内にあるように前記ピストンの窪み(4)が形成され、
- 前記ピストンの窪み(4)が最大窪み直径(DM)を有する環状の窪みの縁(12)によって囲まれ、前記ピストン(2)がピストン直径(DK)を有し、最大窪み直径(DM)に対するピストン直径(DK)の比率(DK/DM)が1.05?1.4の範囲内にあり、
- 前記噴射孔及び圧縮突起部(10)が、前記窪み角(α)に対する前記燃料円錐角(β)の比率(β/α)が1.15?1.3の範囲内にあるように、形成され、
- 前記最大窪み深さにおける直径(Dmin)のピストン直径(DK)に対する比率(Dmin/DK)が0.3?0.39の範囲内にあり、
- ピストンの窪み輪郭(11)が前記窪みの基底(13)と前記窪みの縁(12)との間に窪みの基底曲率半径(RK)を有し、最大窪み直径(DM)に対する窪みの基底曲率半径(RK)の比率(RK/DM)が0.1?0.35の範囲内にあり、
- 前記ピストンの窪み輪郭(11)が前記圧縮突起部(10)と前記窪みの基底(13)との間に突起曲率半径(RH)を有し、最大窪み直径(DM)に対する突起曲率半径(RH)の比率(RH/DM)が0.45?1.1の範囲内にあり、
- 圧縮突起部(10)は、その最大突出領域(10a)がピストンヘッド(7)から圧縮スペース(H)だけ奥まって形成され、最大窪み深さ(TM)に対する圧縮スペース(H)の比率(H/TM)が0.1?0.45の範囲内にあることを特徴とする内燃機関。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)


第3 引用文献
1 引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-184365号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(a)「【要約】
【課題】 エンジンの潤滑油に混入される煤煙の量を低減させ、同時に所望されないエミッションの増加を防ぐ。
【解決手段】 ピストン8 は、中心軸を有する所定のスプレープルーム40を形成するように配置された一つ以上の噴射オリフィス21を介して燃焼室4 へ燃料を周期的に噴射するように構成される燃料噴射システムを有する内燃機関の燃焼室内を往復移動する。このピストンはピストンクラウン32を有し、このピストンクラウンは燃焼ボウル30を含む。この燃焼ボウルは最大深さLを有する上方に開いたキャビティによって形成され、ボウル直径BDを有し、スプレープルームの中心軸に同軸の中心軸を有する回転面として形成される。この回転面は、中央に配置された隆起床部分42及び上方にラッパ状に広がる外側ボウル部分48を含む。」(第1ページ【要約】欄)

(b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、圧縮点火(ディーゼル)内燃機関で使用するためにデザインされた噴射ノズル及びピストンに関する。」(段落【0001】)

(c)「【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主な目的は、エンジンの潤滑油に混入される煤煙の量を低減させ、同時に他のタイプの所望されないエンジンのエミッションの増加を防ぐようにデザインされた燃焼ボウルを含む内燃ピストンを提供することによって、従来技術の欠点を克服することである。
【0015】本発明の別の目的は、燃焼ボウルを含む内燃ピストンを提供することであり、この内燃ボウルの形状は、燃料混合物プルームが所望の形状に発達するようにデザインされる、断面が大きい半径を有する床部分によって特徴付けられ、さらに断面が小さな半径を有し、ピストン/シリンダーヘッドの境界面で最終的且つ急峻な半径を有する外部分によって特徴付けられ、ここでこれらの半径はプルームを方向付けるための手段を提供するように選択され、所望の環状(トロイド状)フローパターンを形成し、有効なエア/燃料の混合を達成する。
【0016】本発明の別の目的は、上に述べたようなピストンを提供することであり、ここで燃焼ボウルは、スプレープルームが初期段階で燃焼室の壁部、特に燃焼シリンダーにぶつからずに発達するように形成され、プルームをシリンダーヘッドに向けて方向付ける動作を提供してよりよい混合を達成する。
(中略)
【0018】本発明のまた別の目的は、ピストン及び噴射器のデザインを提供することであり、この噴射器のデザインは、エンジン潤滑油に混入される煤煙の量及びエンジンの排気に混入される所望されないエミッションの量を最小化するように機能する。さらに詳細には、本発明のピストンボウル及び噴射器は、ピストンによって掃引されるシリンダー壁部の内側を被覆する潤滑油によって燃焼室内に生成される燃焼生成物同士間の接触量を最小化するように構成され、給気と燃料との優れた混合を促進して燃料の完全な燃焼及び所望されないエミッション副生物、例えばCO及び煙の低下を促進する。」(段落【0014】ないし【0018】)

(d)「【0028】
【課題を解決するための手段】本発明によると、上記の目的及び他のより詳細な目的は、中心軸を有する所定のスプレープルームを形成するように配置された一つ以上の噴射オリフィスを介して燃焼室へ燃料を周期的に噴射するように構成される燃料噴射システムを有する内燃機関の燃焼室内を往復移動するピストンを提供することによって達成され、このピストンは、ピストン直径CD及び燃焼室の一方の壁部を形成するように配置される上面を有するピストンクラウンを有し、このピストンクラウンは燃焼ボウルを含み、この燃焼ボウルは最大深さLを有する上方に開いたキャビティによって形成され、ボウル直径BDを有し、スプレープルームの中心軸に同軸の中心軸を有する回転面として形成され、この回転面は、BDの約80%に等しい直径を有し、直径方向の断面が凹形の曲線形状であり、燃焼ボウルの中心軸に隣接した点から燃焼ボウルの外周に隣接した点までの比較的長い曲率半径R_(1) を有する中央に配置された隆起床部分及び断面が凹形の曲線形状であり、R_(1) よりも実質的に小さいR_(2) の曲率半径を有する上方にラッパ状に広がる外側ボウル部分を含み、燃焼ボウルは以下の寸法関係によって特徴付けられる。
A.BD/CDの比は0.54以上0.75以下であり、好ましくは0.70である。
B.BD/Lの比は6.2より大きく7.0以下であり、好ましくは6.67である。
C.BD/R_(1) の比は1.3以上3.4以下であり、好ましくは1.42である。
D.R_(2) /R_(1) の比は1.4より大きく0.32以下であり、好ましくは0.152である。
【0029】燃料噴射器は、さらにスプレープルームの形成によって特徴付けられ、このスプレープルームは燃焼ボウルの中心軸に同軸である中心軸に対してほぼ対称であり、また、この燃料噴射器は6?10個のオリフィスを含み、このオリフィスを介して燃料は燃焼室へ噴射されてスプレープルームを形成し、各オリフィスは0.127?0.332mmの直径を有し、さらに燃焼ボウルの中心軸に垂直な平面から7°以上の角度SAに方向付けられる中心軸を有する。」(段落【0028】及び【0029】)

(e)「【0037】本発明は、燃料の燃焼室への噴射角度が深くなる、即ち、燃焼室の中心軸に沿ってより角度を付け、半径方向にはあまり角度を付けないと潤滑油に混入する煤煙の量が減少するという発見に少なくとも部分的に起因する。また、本発明をさらに理解するには、エンジン内の煤煙の生成のメカニズムの理解が必要となる。細かい炭素粒子の形態の煤煙は、ディーゼル燃料の燃焼の副生物として燃焼室に形成される。生成された煤煙の大部分は、典型的にはディーゼルエンジンの排気システムから放出される前に焼却される。この形成及び焼却プロセス中、燃焼室内の煤煙がエンジンシリンダーの壁部を被覆する潤滑油に混入される可能性がある。煤煙を外壁部から排除して混入量を減少させることが本発明の重要な特徴である。同時に、煤煙がエンジンの排ガスの煙として放出されないように、形成された煤煙の可能な限り最大限の焼却を促進するように煤煙の混入を減少させ、他のエミッション、例えばCO及びHCを許容可能な低レベルで維持することが本発明の重要な特徴である。以下にさらに十分に説明されるように、これらの特徴は、相補的に形成された燃焼ボウルを有するピストンに組み合わされた燃焼室への燃料噴射の比較的深い角度を提供するための噴射器の固有の組み合わせを提供することによって達成される。」(段落【0037】)

(f)「【0041】図1に例示される本発明の内燃機関2は4サイクル圧縮点火(ディーゼル)エジンであり、燃料のエンジンの各燃焼室への直接噴射を用いる。上に述べられたように、シリンダキャビティ6の外端部、即ち上端部はエンジンヘッド10によって閉じられ、このエンジンヘッドは吸気経路12、排気経路14及び燃料噴射のための開口部を除いてエンジンシリンダーキャビティを完全に閉じるように構成される。典型的には、吸気経路12は、その一方だけが図1に例示される一対のポペットバルブ16によって燃焼室に選択的に連通する。同様に、排気経路14は、その一方だけが図1に例示される一対のポペットバルブ18によって燃焼室14に選択的に連通する。バルブ16及び18の開閉は、機械的カム又は水圧作動システム又はピストン8の往復移動の綿密に制御された時間シーケンスにおける他の動力システムによる。本発明では、バルブ16及び18の開閉のシーケンスは、クランクシャフトの二つの連続回転(720°)で再び起こる繰り返しパターンであり、4サイクルエンジンの四つの行程、即ち、吸入、圧縮、爆発及び排気を定める。
【0042】図1に示される最上のTDC位置では、ピストン8は上方への圧縮行程を終えたばかりであり、この行程中吸気経路12から燃焼室4へ入ることを許容された給気は圧縮されて、したがってその温度はエンジンの燃料の点火温度よりも高温になる。この位置は、一般的に、ピストン8の4行程を完了するために要求される720°の回転を開始するゼロ点と見なされる。燃焼室へ入る給気量は、典型的には、エンジンの吸気マニホールドに圧力ブーストを設けることによって増加する。この圧力ブーストは、例えば、エンジンの排気によって動力を供給されるタービンによって駆動される図示されないターボチャージャー又はエンジンのクランクシャフトによって駆動される図示されないコンプレッサによって提供され得る。
【0043】図1に例示される位置から、ピストン8は下方に移動して爆発行程を開始する。ピストン8のこの下方移動の際に、又はこの下方移動の前に、ヘッド10内に含まれる噴射器キャビティ19に取り付けられる燃料噴射器20によって、燃料を非常に高圧で燃焼室へ噴射する。噴射器20はその下端部に噴射器ノズル22を含み、このノズルは、ノズルリテーナ31によって図示されない噴射器アセンブリの残りに保持される。以下にさらに詳細に述べられるように、燃料は噴射器ノズル22の下端部に形成された複数の小さな噴射オリフィスを介して非常に高圧(12,000?30,000psi、好ましくは約22,000psi)で燃焼室4に入り、燃焼室4内で燃料と高圧の圧縮給気との完全な混合を引き起こす。噴射器20はカム作動ユニット噴射器タイプ、例えば同じ譲受人に譲受された米国特許第5,299,738号及び第5,445,323号に例示されるようなタイプでもよい。この出願の譲受人であるカミンスエンジン社はデザイン番号3329311として適切なタイプの噴射器を製造した。このタイプの噴射器は、典型的には中心ボア24を含む噴射器ノズル22を含む。ボア24内では、図1に示されるように位置した場合に配置される下部プランジャ26がピストン8の往復移動と共にタイミングの合った同期往復移動を行い、噴射器ノズル22内に噴射キャビティ28を形成する。米国特許第5,299,738号でより詳細に述べられるように、燃料は噴射室28で計量され、一方プランジャ26は図1に例示される引っ込んだ位置のままである。ピストン8の下方移動の場合、下部プランジャ26も同様に前進するため、噴射室28に計量された燃料は非常に高圧で、例えば12,000?30,000psi、好ましくは約22,000psiで噴射オリフィス21を通過する。」(段落【0041】ないし【0043】)

(g)「【0045】エンジンの潤滑油中への煤煙の混入を減少させ、低エミッション、特に排ガス中のCO及び煙を低く維持するために、ピストン8の上面には対称キャビティが設けられ、このキャビティは燃料噴射の初期段階中に燃焼室4内のガスフローのパターンを形成し、方向付け、これを制限するための燃焼ボウルを形成する。この燃焼ボウルの形状は、燃焼の初期に燃焼室内のガスフローの適切な制限を提供し、爆発行程及びそれに続くピストン8の排気行程中のガスの膨張の適切な制限を提供するようにデザインされる。燃焼ボウル30がこの結果を達成する方法は、図2?4でさらに詳細に述べられる。
(中略)
【0047】フィルム38が燃焼室4内の燃焼ガスに接触する程度まで、燃焼の自然な過程として形成された煤煙が潤滑フィルム内に混入し、最終的にピストンリングの下で作用し、ここでエンジン潤滑油に混合する可能性が発生する。本発明の重要な目的は、燃焼ボウル30内の燃料の完全且つ効率的な燃焼をできる限り促進し、同時に燃焼室4内のガスのフローを形成しこれを制限してフィルム38内の煤煙の混入の可能性を最小化させることによって、フィルム38に実際に到達し混入する煤煙の量を最小化することである。
【0048】図1を参照すると、燃焼ボウル30は最大深さLを有する上方に開いたキャビティによって特徴付けられ、最大直径BDを有する回転面として形成される。燃焼室の中心軸は燃料噴射器20の中心軸に一致し、より詳細には燃料噴射器によって燃料室に噴射された燃料のパターンの中心軸に一致する。この燃料噴射パターン又はプルーム40は、上に述べたように複数の噴射オリフィス21を介して燃焼室に入るように構成され、各オリフィスの中心軸は比較的急峻な角度SAで配置され、この角度は中心軸39に対して垂直な平面から7°?40°の範囲である。より詳細且つ所望される範囲は15°?20°である。
【0049】燃焼室内で燃料と給気との混合物のパターンを適切に形成するのを助けるために、燃焼ボウルを形成する回転面は中央に配置された隆起床部分42を含み、この床部分は直径方向の断面が凹形、且つ曲線形状である。この曲線形状は、燃焼ボウルの中心軸39に隣接する点44から燃焼ボウルの外周に隣接する点46までの比較的大きな曲率半径R_(1) を有する。燃焼ボウル30を形成する回転面は、さらに上方にラッパ状に広がる外側ボウル部分48を含み、このボウル部分は断面が凹形の曲線形状であり、R_(1) よりも実質的に小さい曲率半径R_(2) を有する。隆起の床部分の頂部は切り取られて平坦な中心部分49を形成し、この中心部分は噴射器ノズル22に直接位置合わせされ軸39に垂直に方向付けられる。
【0050】本発明の目的を達成するために、燃焼ボウル30及びその中に含まれるピストンは幾つかの主要な寸法臨界に適合するかどうか決定される。特に、上に述べた寸法は以下の寸法関係の少なくとも一つ、好ましくは全てに適合すべきである。
A.BD/CDの比は0.54以上0.75以下であり、好ましくは0.70である。
B.BD/Lの比は6.2より大きく7.0以下であり、好ましくは6.67である。
C.BD/R_(1) の比は1.3以上3.4以下であり、好ましくは1.42である。
D. R_(2) /R_(1) の比は0.14より大きく0.32以下であり、好ましくは0.152である。
【0051】外側ボウル部分48は上方に延出し、外周ゾーン50でピストン8の最上面に交差し、この外周ゾーンは図1に例示される半径方向の断面が比較的急峻な曲率半径R_(3) を有する。燃焼ボウルの中央隆起床部分の比較的ゆるやかな曲率半径R_(1) はプルーム40を上方にゆるやかに折り曲げる効果を有するが、燃料と給気との適切な混合を可能とする。この中央隆起床部分42は直径FDを有し、この直径は燃焼ボウル30の全体的な直径BDの約80%である。したがって、燃料と給気は上方にラッパ状に広がる外側ボウル部分48に当たる前に完全に混合され、この外側ボウル部分48では比較的小さな曲率半径R_(2) がフローを環状パターンに再方向付けし、この環状パターンは公知の "メキシカンハット" 構造を有する公知の燃焼ボウルのデザインよりもより本発明の目的を達成することが分かった。これらの改良された結果は、燃焼ボウルの寸法的特性を上記に示した制限内で維持することに起因する。」(段落【0045】ないし【0051】)

(h)「【0052】上に述べたように、ピストン8は、図1において、クランクシャフトが0°位置にある場合の位置として示され、その時ピストン8は下方への爆発行程を開始している。図1に例示されるタイプの4サイクル圧縮点火(ディーゼル)エンジンでは、ピストン8は圧縮行程を終えたばかりであり、これによって給気の温度は噴射器20から燃焼室へ入った燃料が自己点火するレベルヘ上昇し、圧力がさらに増大してピストン8が爆発行程中にクランクシャフトに力を加える。
【0053】図2?4を参照すると、ピストン8はその爆発行程中の降下の様々な段階で例示される。特に、図2は、クランクシャフトが図1に示される上死点から5°移動した場合のピストン8の位置を例示する。この段階でプルーム40は外側且つ下方へ放射状に広がり、燃焼ボウルの一部に入る。
【0054】図3では、ピストン8は、爆発行程において、クランクシャフトが図1に示される上死点から15°回転した場合の位置までさらに進行する。この図において、プルーム40はさらに燃焼ボウルへ進んで上方にラッパ状に広がる外側ボウル部分48に係合し、燃焼室4内の燃焼ガス及び給気の第1環状フローが開始される。
【0055】図4は、爆発行程中のさらに進んだ段階のピストン8を示し、ここでクランクシャフトは図1に例示される位置から30°回転したものと思われる。この段階で、プルーム40はさらに前進して図3に例示されるものに対応する膨張した第1環状部分40a及び40aの下に形成される第2環状フローパターン40bを形成する。矢印40a’及び40b’によって例示されるように、対応する環状部分はほぼ反対方向に回転するガスフローを含む。40a及び40bの反対方向に回転する環状フロー経路は、上に述べた相補的形状の燃焼ボウル30の深い角度の燃料噴射プルーム40の相補的な相互作用による。」(段落【0052】ないし【0055】)

(i)「【0056】図5を参照すると、図1の線5-5に沿って切り取ったノズルの先端の切取拡大断面図が示される。この図において、合計六つのオリフィスのうち四つの噴射オリフィス21が見えており、これらの噴射オリフィスは燃料噴射器20の中心軸の周りに等しく角度を付けて配置される。合計六つの噴射オリフィスのこの構成は、図1?4に例示されるプルーム40の形成に対応する。本発明の重要な態様は、各オリフィス21の中心軸を7°以上40°以下の比較的急峻な角度SAに方向付けることを含む。この角度は15°?20°であることが好ましい。このように比較的深い噴射角度によってプルームが形成され、このプルームは、本発明の均一に形成された燃焼ボウルによって形成され、制限され、方向付けられ、エンジンの潤滑油内の煤煙の混入量を低減させ、同時に低レベルのエミッション、特に一酸化炭素及び煙を維持する。」(段落【0056】)

(2)ここで、上記(1)(a)ないし(i)及び図面から、次のことが分かる。

(j)上記(1)(a)ないし(i)及び図面から、引用文献1には、燃焼室32がピストン8とエンジンヘッド10との間に画定されたシリンダーキャビティ6と、前記エンジンヘッド10内に配置され、複数の噴射オリフィス21を有する噴射器ノズル22を有する燃料噴射器20と、最大深さLを有するキャビティの底部を有するとともに、内部に隆起床部分42が前記噴射器ノズル22に対向して配置された、前記ピストン8に設けられたピストンのキャビティとを有する内燃機関が記載されていることが分かる。

(k)上記(1)(g)(特に段落【0048】)、(h)及び(i)並びに図2及び図3から、引用文献1に記載された内燃機関において、クランクシャフトが上死点から5°ないし30°回転したピストン8の位置(すなわち、上死点の後5°CAないし30°CAまでの範囲)において、燃料噴射器により、オリフィスの中心軸の角度がSA(すなわち、燃料円錐角βが180°-2SA)が好ましくは15°ないし20°となる複数の噴射オリフィス21を介して、燃料噴射パターン又はプルーム40が燃焼室に入るように構成されていることが分かる。

(l)上記(1)(g)及び図面から、引用文献1に記載された内燃機関において、以下の寸法関係の少なくとも一つに適合することが好ましいことが分かる。
A.BD/CDの比は0.54以上0.75以下であり、好ましくは0.70である。
B.BD/Lの比は6.2より大きく7.0以下であり、好ましくは6.67である。
C.BD/R_(1) の比は1.3以上3.4以下であり、好ましくは1.42である。
D.R_(2) /R_(1) の比は0.14より大きく0.32以下であり、好ましくは0.152である。

(m)上記(1)(a)及び(c)ないし(h)並びに図面から、引用文献1に記載された内燃機関は、エンジンの潤滑油に混入される煤煙の量を低減させ、同時に所望されないエンジンのエミッションの増加を防ぐものであることが分かる。

(3)引用文献1記載の発明
上記(1)及び(2)より、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる。

「内燃機関であって、
燃焼室32がピストン8とエンジンヘッド10との間に画定されたシリンダーキャビティ6と、
前記エンジンヘッド10内に配置され、複数の噴射オリフィス21を有する噴射器ノズル22を有する燃料噴射器20と、
最大深さLを有するキャビティの底部を有するとともに、内部に隆起床部分42が前記噴射器ノズル22に対向して配置された、前記ピストン8に設けられたピストン8のキャビティとを有し、
上死点の後5°CAないし30°CAまでの範囲で行われる燃料噴射の間に、燃料円錐角(β=180°-2SA)を有して前記オリフィス21から噴射されるプルーム40が、前記ピストン8のキャビティに衝突するように前記噴射孔が形成される内燃機関。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

2 引用文献2
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-147240号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(a)「【要約】
【課題】 燃料噴霧Fがキャビティ4内の突起部14と直接的に干渉すると、スモークやHCの排出量が増し、排気性能の低下を招く。
【解決手段】 燃焼室6内へ所定の噴霧角Fθで放射状に燃料を噴射する燃料噴射弁12を備える。ピストン3の冠面3aの略中央部に略円柱状のキャビティ4を凹設する。キャビティ4の底面16の略中央部に、上方へ略円錐状に張り出した突起部を形成する。シリンダ中心線Pに直交する基準水平面Qに対し、突起部14の傾斜面13のなす角度αを、圧縮上死点付近で燃料噴射弁12から噴射される燃料噴霧Fの下縁F2のなす角度α1よりも大きく設定する。」(第1ページ要約欄)

(b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、直接噴射式のディーゼルエンジンの燃焼室構造に関する。」(段落【0001】)

(c)「【0002】
【従来の技術】ディーゼルエンジンの燃焼室構造として、エンジン排気中の煤濃度を低減させるとともに、エンジン潤滑油に混入される煤の量を低下させることを目的としたものが、特開平10-184365号公報に記載されている。
【0003】この従来例に係るディーゼルエンジンの燃焼室構造では、ピストン冠面の上方に形成される燃焼室の中央上部に、燃料を放射状に噴射する燃料噴射弁が配設されるとともに、ピストン冠面の略中央部にキャビティが凹設されている。このキャビティ底部の略中央部には上方へ張り出した突起部が形成されており、キャビティの外表面は滑らかに湾曲する断面略ω状をなしている。キャビティをこのような形状とすることにより、燃焼室内での空気と燃料の混合を促進させて煤の排出量を低減するとともに、エンジンの潤滑油に混入される煤の量を低減させるようになっている。」(段落【0002】及び【0003】)

(d)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】このようなキャビティを、冷却損失を低減する等のために浅皿化する場合、つまりキャビティの深さを浅くする場合、上記の従来例では、噴射された燃料がキャビティの周壁面に至る前に突起部と干渉,付着して、スモークやHC(ハイドロカーボン)の排出量が増加し、排気性能の低下を招くおそれがある。
【0005】本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、キャビティの浅皿化による冷却損失の低減化を図りつつ、燃料噴霧が突起部等と干渉することによるスモークやHCの排出量の増加を抑制し、良好な燃焼性能を実現し得る新規なディーゼルエンジンの燃焼室構造を提供することを一つの目的としている。」(段落【0004】及び【0005】)

(e)「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、シリンダ内にピストンが摺動可能に配設されるとともに、このピストンの冠面の上方に燃焼室が形成され、この燃焼室が、上記ピストン冠面の略中央部に略円柱状に凹設されたキャビティを含み、かつ、上記燃焼室の中央上部に、この燃焼室内へ直接的かつ放射状に所定の噴霧角で燃料を噴射する燃料噴射弁が配設されたディーゼルエンジンの燃焼室構造に関する。
【0007】上記のキャビティは、冷却損失の低減化等を図るために、好ましくは十分に浅皿化される。具体的には請求項5に係る発明のように、上記キャビティのシリンダ直径に対する口径比が0.6より大きく設定されるとともに、上記キャビティの深さがシリンダ直径の1/8より小さく設定される。
【0008】上記キャビティの底面の略中央部には、上方へ略円錐状に張り出した突起部が形成されている。つまり、突起部は、キャビティ内に生成される旋回成分を阻害することのないように、キャビティの底面の略中央部に円錐状に形成されており、この突起部によって、旋回成分を阻害することなくキャビティ内の空気利用率を向上することができる。
【0009】そして、請求項1に係る発明では、シリンダ中心線に直交する基準水平面に対し、上記突起部の傾斜面のなす角度が、圧縮上死点付近で燃料噴射弁から噴射される燃料噴霧の下縁のなす角度よりも大きく設定されていることを特徴としている。つまり、燃料噴霧の下縁が突起部の傾斜面よりも緩い角度に設定されており、燃料噴霧が噴射方向へ向かうに従って突起部から遠ざかることとなる。
【0010】言い換えると、請求項2に係る発明のように、圧縮上死点付近で燃料噴射弁から噴射される燃料噴霧が上記突起部と直接的に干渉しないように、上記燃料噴霧の主噴射方向及び噴霧角が設定されている。
【0011】従って、キャビティを十分に浅皿化した場合であっても、燃料噴霧がキャビティの底面に形成された突起部と直接的に干渉するおそれがなく、このような干渉に起因するスモークやHCの増加が抑制され、排気性能の低下を招く虞はない。」(段落【0006】ないし【0011】)

(f)「【0027】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例に係るディーゼルエンジンの燃焼室構造を示している。エンジン本体の一部をなすシリンダブロック1には、各気筒毎に円筒状のシリンダ2が形成されており、各シリンダ2にはピストン3が摺動可能に配設されている。略円形をなすピストン3の上面すなわち冠面3aの上方には、燃焼室6が形成されている。つまり、燃焼室6は、シリンダブロック1の上部に固定されるシリンダヘッド5の下面と、シリンダ2の周壁面と、ピストン3の冠面3aとにより画成されている。そして、ピストン冠面3aの略中央部には、略円柱状のキャビティ4が凹設されており、このキャビティ4も燃焼室6の一部を構成している。
【0028】シリンダヘッド5には、エンジン外部から燃焼室6へ吸気を供給する吸気通路7と、燃焼室6からエンジン外部へ排気を排出する排気通路8と、が形成されているとともに、吸気通路7を開閉する吸気弁9及び排気通路8を開閉する排気弁10が配設されている。また、シリンダヘッド5には、燃焼室6の内部へ直接的に燃料を噴射する燃料噴射弁12が固設されている。この燃料噴射弁12は、シリンダ中心線Pに沿う起立姿勢で燃焼室6の略中央上部に配設されており、燃焼室6に臨んだ先端部には、少なくとも6個以上の噴孔11が周方向に間欠的に配設されている。これらの各噴孔11から燃料噴霧Fが所定の噴霧角Fθで放射状に噴射される。この燃料噴射弁12には、図示しない燃料噴射ポンプが接続している。この燃料噴射ポンプの圧力の他、燃料噴射弁12による各気筒の燃料噴射量や燃料噴射時期等は、図外のコントロールユニットからの制御信号によって電気的に制御される。
【0029】図2は、圧縮上死点付近における燃焼室6の詳細な構造を示す図1の要部拡大図である。ピストン冠面3aに凹設されたキャビティ4は、直径D1で深さH1の略円柱形状をなしている。このキャビティ4の底面16には、その略中央部に、上方へ向けて略円錐形状に張り出した突起部14が一体的に形成されており、この突起部14の外表面は、断面山形の傾斜面13をなしている。つまり、ピストン3,キャビティ4,突起部14及び燃料噴射弁12が全てシリンダ中心線Pを中心として配置されている。
【0030】また、キャビティ4(燃焼室6)の内部に適度な旋回成分が与えられるように、吸気通路7の向き等が設定されている。そして、この旋回成分が比較的弱いキャビティ4の中央部に、上記の突起部14が設けられている。つまり、突起部14は、旋回成分を弱めることなくキャビティ4内の空気利用率を増加させて燃焼性能の向上を図るためにキャビティ4の中央部に円錐状に配設されている。」(段落【0027】ないし【0030】)

(g)「【0031】各噴孔11から噴射される燃料噴霧Fは、所定の主噴射方向F1を中心とした所定の噴霧角Fθの範囲で放射状に噴射される。この主噴射方向F1の開き角γは、例えば約160°に設定され、上記の噴霧角Fθは、例えば約20゜に設定される。
【0032】このような構成により、エンジンの吸気行程ではピストン3の下降に伴って吸気弁9が開弁され、吸気通路7を通して外気が燃焼室6へ導入され、この燃焼室6内にシリンダ中心線P回りの旋回成分が与えられる。そして、ピストン3が下死点まで下降した後、吸気弁9が閉弁され、続くエンジンの圧縮行程では、ピストン3の上昇とともに、燃焼室6内の吸入空気が圧縮されて、旋回流が増速される。そして、圧縮上死点前後において、圧縮により十分高温となった燃焼室6のキャビティ4内へ、燃料噴射ポンプにより加圧された燃料を、燃料噴射弁12の先端部の噴孔11より噴射する。これにより、燃料噴霧が適宜に自己着火して燃焼が進行する。そして、ピストン3が下降する膨張行程の後、エンジンの排気行程では、ピストン3が再び上昇し、同時に排気弁10が開弁して、燃焼室6内の既燃ガスが排気通路8を通じてエンジン外部に排出される。
【0033】次に、本実施例の特徴的な構成及び作用効果について列記する。先ず第1に、圧縮上死点付近で噴射される燃料噴霧Fが突起部14の傾斜面13と直接的に干渉することのないように、主噴射方向F1の向きや噴霧角Fθ等が設定されている。
【0034】より具体的には、シリンダ中心線Pに直交する基準水平面Q、あるいは基準水平面Qと平行なキャビティ4の底面16に対し、突起部14の傾斜面13のなす角度αを、所定の噴射角θ1で噴射される燃料噴霧Fの下縁F2のなす角度α1よりも大きく設定している。
【0035】この角度α1は、基準水平面Qに対して主噴射方向F1がなす角度(180-γ)/2に、この主噴射方向F1と下縁F2とのなす角度Fθ/2を加算した値となる。つまり、本実施例では、次式が成立するように設定されている。
【0036】
【数1】α>(180-γ+Fθ)/2
これにより、燃料噴霧Fが突起部14から遠ざかる形となり、この燃料噴霧Fの突起部14への直接的な干渉が確実に回避され、このような干渉に起因するHCやスモークの増加等による排気性能の悪化を確実に抑制することができる。」(段落【0031】ないし【0036】)

(h)「【0043】第4に、圧縮上死点付近で噴射される燃料噴霧Fが、シリンダヘッド5の下面やシリンダ2の周壁面と直接的に干渉することのないように、主噴射方向F1の向きや噴霧角Fθ等が設定されている。より具体的には、燃料噴霧Fの上縁F3が、水平又はやや下向きに傾斜するように設定されており、この上縁F3の延長線が、圧縮上死点付近におけるキャビティ4の周壁面15と交差するように設定されている。つまり、圧縮上死点付近における燃料噴霧F全体が、キャビティ周壁面15又は周壁面15と底面16とを滑らかに接続する湾曲したコーナー部17を指向するように設定されている。
【0044】この結果、燃料噴霧Fがシリンダヘッド5,シリンダ2,キャビティ4の底面16や突起部14に直接的に干渉することがなく、このような干渉に起因する排気性能の低下をより確実に防止することができる。」(段落【0043】及び【0044】)

(2)ここで、上記(1)(a)ないし(h)及び図面から、次のことが分かる。

(i)上記(1)(a)ないし(h)及び図面から、引用文献2には、ディーゼルエンジンであって、燃焼室6がピストン3とシリンダヘッド5との間に画定されたシリンダ2と、シリンダヘッド5内に配置され、複数の噴孔11を有する燃料噴射弁12と、深さH1を有するキャビティ4の底面16を有するとともに、内部に略円錐状に張り出した突起部14が前記燃料噴射弁12に対向して配置された、前記ピストン3に設けられたキャビティ4とを有し、圧縮上死点付近で行われる燃料噴射の間に、開き角γを有して前記噴孔11から噴射される燃料噴霧Fが、キャビティ周壁面15又は周壁面15と底面16とを滑らかに接続する湾曲したコーナー部17に衝突するように前記噴孔11が形成されるディーゼルエンジンが記載されていることが分かる。

(j)上記(1)(g)及び図2から、引用文献2に記載されたディーゼルエンジンにおいて、突起部の窪み角が(90-α)×2で表されることが分かる。

(k)上記(1)(g)の段落【0036】に記載された
【数1】α>(180-γ+Fθ)/2
から、
γ>180-2α+Fθ
すなわち
γ>{(90-α)×2}+Fθ
となる。
つまり、突起部の窪み角(90-α)×2と燃料噴霧Fの開き角γは、
γ>{(90-α)×2}+Fθを満たす関係にあるといえる。

(3)引用文献2記載の発明
上記(1)及び(2)より、引用文献2には、次の発明が記載されているといえる。

「ディーゼルエンジンであって、
燃焼室6がピストン3とシリンダヘッド5との間に画定されたシリンダ2と、
シリンダヘッド5内に配置され、複数の噴孔11を有する燃料噴射弁12と、
深さH1を有するキャビティ4の底面16を有するとともに、内部に略円錐状に張り出した突起部14が前記燃料噴射弁12に対向して配置された、前記ピストン3に設けられたキャビティ4とを有し、
圧縮上死点付近で行われる燃料噴射の間に、開き角γを有して前記噴孔11から噴射される燃料噴霧Fが、キャビティ周壁面15又は周壁面15と底面16とを滑らかに接続する湾曲したコーナー部17に衝突するように前記噴孔11が形成されるディーゼルエンジンであって、
前記噴孔11及び突起部14が、突起部の窪み角(90-α)×2と燃料噴霧Fの開き角γとの関係が、γ>{(90-α)×2}+Fθを満たす関係にあるように形成される、
ディーゼルエンジン。」(以下、「引用文献2記載の発明」という。)

3 引用文献3
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-106442号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(a)「【要約】
【目的】 キャビティの壁面に衝突した噴霧の強い拡乱を生ずることがなく、キャビティ内の空気を有効に利用して、急激燃焼を抑制してNOxの発生量を大幅に低減し、なおかつ、噴霧の重なりを防止し、キャビティ内の空気を有効に利用して、吐煙の発生を抑制し、NOxの排出量を大幅に低減する。
【構成】 ピストン頂面(11)に浅皿形状のキャビティ(12)を形成し、このキャビティ(12)の外周壁(13)をピストン頂面に対して130?145度の傾斜角αで外方に拡がった拡開形状とする一方、ノズル噴口(14)(15)を大小交互の噴口径でかつシリンダ方向に異角の噴口として円周方向に配置して、小噴口(14)はキャビティ底部(16)に向けて噴射させ、大噴口(15)は小噴口(14)側よりも上方のキャビティ外周(13)部に向けて噴射させる。」(第1ページ【要約】欄)

(b)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、主として中・大型機関に用いられる直接噴射式ディーゼル機関であって、特にピストン頂面に浅皿形状のキャビティを形成して、このキャビティに向けて燃料を噴射させるものに関する。」(段落【0001】)

(c)「【0002】
【従来の技術】図7は、従来におけるこの種直接噴射式ディーゼル機関の燃焼室の構造を示したものである。図において、1はピストンであり、このピストン1の頂面に、その中央部が隆起した浅皿形状の燃焼室キャビティ2を形成している。このキャビティ2の外周壁3は、開口面に向かって拡開するような傾斜状とされているが、この傾斜角αが、ピストン頂面に対して120度程度以下とされている。噴口は、大噴口と小噴口を円周方向に交互に配置したもので、大噴口より噴射される噴霧は、燃焼室キャビティ外周壁3に衝突するようなするどい角度となっており、また小噴口も燃焼室キャビティ底部のR形状部寄りの位置に向け噴射させるようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】近時、直接噴射式ディーゼル機関においてNOxの排出を大幅に低減することが求められている。かかるNOxの発生は、燃焼温度を下げることによって大きく改善できることが知られており、従来、この燃焼温度を下げる手段として、噴射時期を遅らせることが行われて来た。しかし、そのように噴射時期を遅らせる方法のみでは、最近のNOx排出規制に対応することが出来ず、燃焼温度を低下させるための他の手段が求められている。そして、このような手段の1つとして、燃焼を出来るだけゆるやかに行なって急激燃焼を抑えることが考えられるが、他方、燃焼温度が低くなると、一般にディーゼル機関特有の吐煙の発生量が増加する傾向にあり、これら2つの課題を同時に満足させることが必要となる。
【0004】ところが、上記図7に示した従来の燃焼室においては、まず、キャビティ2の外周壁3の傾斜角αが120度程度と小さく、また、この外周面に向けて大噴口から噴射される噴霧の角度がするどい角度となっており、噴霧が直角に近い状態で外周壁3に衝突し、このために噴霧が拡乱し急激燃焼が行われる。また小噴口から噴射される噴霧も、キャビティ底部R形状部寄りの位置に向けて噴射されるため底部R形状部に直角に衝突し急激燃焼が行われるという問題がある。このため、噴射時期を遅らせ燃焼初期の急激燃焼を抑制するのであるが、これによると噴射後期がおくれ、吐煙の発生量が増加するので、噴射圧力を高め微粒化をはかるとか、過給圧を高め空気量を増加し、燃焼を促進する手段がとられている。しかしこれらの吐煙対策はNOxの発生量を増加するため、総合的にNOxの発生はある程度でサチュレートする不都合がある。
【0005】この発明は、このような従来の欠点を解消して、キャビティの壁面に衝突した噴霧の強い拡乱を生ずることがなく、キャビティ内の空気を有効に利用して、急激燃焼を抑制してNOxの発生量を大幅に低減し、なおかつ、噴霧の重なりを防止し、キャビティ内の空気を有効に利用して、吐煙の発生を抑制し、NOxの排出量を大幅に低減できるようにした直接噴射式ディーゼル機関を提供するものである。」(段落【0002】ないし【0005】)

(d)「【0006】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、この発明では、図1?図4で示すように、ピストン頂面(11)に浅皿形状のキャビティ(12)を形成し、このキャビティ(12)の外周壁(13)をピストン頂面に対して130?145度の傾斜角αで外方に拡がった拡開形状とする一方、ノズル噴口(14)(15)を大小交互の噴口径でかつシリンダ方向に異角の噴口として円周方向に配置して、小噴口(14)はキャビティ底部(16)に向けて噴射させ、大噴口(15)は小噴口(14)側よりも上方のキャビティ外周壁(13)部に向けて噴射させることを特徴とするものである。
【0007】上記において、キャビティ外周壁(13)に向けて噴射する大噴口(15)は、望ましくはその噴口角βを、ピストン頂面(11)に対して145?155度とし、他方、キャビティ底部(16)に向けて噴射する小噴口(14)の噴口角γは、同じくピストン頂面(11)に対して120?130度とする。
【0008】また、噴口数は、多すぎると噴霧相互が重なりあって、燃焼不良を起しやすく、他方、少なすぎると燃焼室キャビティ空間の空気を有効利用できないことになり、結局、図2のように噴霧(14a)(15a)が重ならない範囲で多くとることとすると、10?12とすることが望ましく、また、大噴口(15)と小噴口(14)を円周方向に交互に配置する。大噴口(15)と小噴口(14)との噴口比は、1:0.4?0.6 が望ましい。
【0009】ピストン直径Dに対するキャビティ開口部の直径dは、前記のような外周壁(13)の傾斜角αによって、ピストンの下降に伴って到達距離が長くなることになり、この意味で、d/Dは大きい方が良いが、燃焼室頂部の熱負荷が増大するためd/D=0.85程度とすることが望ましい。」(段落【0006】ないし【0009】)

(e)「【0011】
【実施例】上記のような大小の噴口(14)(15)を備えたディーゼル機関において、燃焼室キャビティ(12)の開口角度αの変更に伴うNOxと吐煙の排出量を測定したところ、図5のとおりであり、開口角度αをあまり大きく過ぎると、NOxは大幅に低下するが吐煙の排出量が急激に増大し、結局本発明のように130 ?145 度において最も良好な結果が得られた。このときの大噴口(15)の噴口角βは150度であり、小噴口(14)の噴口角γは125 度であった。
【0012】また、燃焼室キャビティ(12)の開口角度αを135 度とし、大小の噴口(14)(15)の噴口角β、γをそれぞれ150 度、125 度として、総噴口面積を一定としたときの噴口数に対するNOx及び吐煙の排出量を測定したところ、図6のとおりであり、10?12の範囲で最も望ましい結果を得られた。」(段落【0011】及び【0012】)

(2)ここで、上記(1)(a)ないし(e)及び図面から、次のことが分かる。

(f)上記(1)(a)ないし(e)及び図面から、引用文献3には、直接噴射式ディーゼル機関であって、燃焼室がピストン1とシリンダとの間に画定されたシリンダと、ノズル噴口14,15を有する噴射ノズルを有する燃料噴射装置と、キャビティ底部16を有するとともに隆起した中央部が前記噴射ノズルに対向して配置された、前記ピストン1に設けられたキャビティ2とを有し、上死点付近で行われる燃料噴射の間に、大小の噴口14,15の噴口角β,γを有して前記噴口から噴射される燃料噴霧が、前記キャビティ2に衝突するように前記噴口が形成される直接噴射式ディーゼル機関が記載されているといえる。

(g)上記(1)(d)の段落【0009】の記載及び図面から、引用文献3に記載された直接噴射式ディーゼル機関において、ピストン直径Dに対するキャビティ開口部の直径dの比d/D=0.85程度(キャビティ開口部の直径dに対するピストン直径Dの比D/d=1.18程度)とするのが望ましいことが分かる。

(3)引用文献3記載の発明
上記(1)及び(2)より、引用文献3には、次の発明が記載されているといえる。

「直接噴射式ディーゼル機関であって、燃焼室がピストン1とシリンダとの間に画定されたシリンダと、ノズル噴口14,15を有する噴射ノズルを有する燃料噴射装置と、キャビティ底部16を有するとともに隆起した中央部が前記噴射ノズルに対向して配置された、前記ピストン1に設けられたキャビティ2とを有し、上死点付近で行われる燃料噴射の間に、大小の噴口14,15の噴口角β,γを有して前記噴口から噴射される燃料噴霧が、前記キャビティ2に衝突するように前記噴口が形成される直接噴射式ディーゼル機関であって、
キャビティ開口部の直径dに対するピストン直径Dの比D/dが1.18程度である、
ディーゼルエンジン。」(以下、「引用文献3記載の発明」という。)

4 引用文献4
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-227650号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(a)「【要約】
【課題】 燃料またはすすによって潤滑性が損なわれるという問題を克服するために、非常に多様な噴射状態を可能にする燃焼を生じさせるエンジンを提供する。
【解決手段】 直噴内燃エンジンは、シリンダヘッド2を備えた少なくとも1つのシリンダ1と、このシリンダ内で滑動するピストン5と、ガス吸気手段および排気手段3,4と、シリンダヘッド2を向いているとともに凹形の窪み8の中心に配置された突起7を有しているピストン5の上面SPによって一方の側の境界が定められた燃焼室とを有している。このエンジンは、シリンダ1の直径をCDとし、噴射ノズル6からの燃料ジェットの起点と上死点(TDC)に対して50°のクランクシャフト角に相当するピストンの位置との間の距離をFとしたとき、2tan^(-1)(CD/2F)以下のナッペ角a_(1)で燃料を噴射する少なくとも1つの噴射ノズル6を有している。」(第1ページ【要約】欄)

(b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、直噴内燃エンジンおよびこのようなエンジンの使用を可能にする方法に関する。」(段落【0001】)

(c)「【0013】
【発明が解決しようとする課題】燃焼システムは、140°から160°の範囲にあるナッペ角を備えた噴射ノズルを一般に用いているので、これらの噴射の調節範囲は、燃料またはすすによって潤滑性が損なわれるという問題を制限するために狭められている。
【0014】本発明の目的は、この制限を克服するために、非常に多様な噴射状態を可能にする燃焼を生じさせるエンジンを提供することにある。」(段落【0013】及び【0014】)

(d)「【0015】
【課題を解決するための手段】本発明による直噴内燃エンジンは、シリンダヘッドを備えた少なくとも1つのシリンダと、このシリンダ内で滑動するピストンと、ガス吸気手段および排気手段と、シリンダヘッドに向いているとともに凹形の窪みの中心に配置された突起を有しているピストンの上面によって一方の側の境界が定められた燃焼室とを有する直噴内燃エンジンにおいて、シリンダの直径をCDとし、噴射ノズルからの燃料ジェットの起点と、上死点(TDC)に対して50°のクランクシャフト角に相当するピストンの位置との間の距離をFとしたとき、2tan^(-1)(CD/2F)以下のナッペ角で燃料を噴射する少なくとも1つの噴射ノズルを有していることを特徴とする。
【0016】比較的狭いナッペ角を備えた噴射ノズルを用いることは、シリンダ壁の濡れ具合に著しく関係する、噴射された燃料が広範囲にわたって分散することに関連する欠点を防ぐ一方で、燃料噴射回数の選択のための範囲を広くする。このタイプの噴射ノズルは、均質燃焼と呼ばれる燃焼モードに良く適している。
【0017】一実施態様によれば、突起の頂角は、噴射ノズルのナッペ角と実質的に一致して選択されており、窪みは、上死点に対して±30°までのピストンの任意の位置について、噴射された燃料が、窪みの外側に向いた窪みの曲線形状に沿うことによってシリンダヘッドに向かう方向に方向転換するとともに、シリンダの壁に達することなく気化するように形成されている。
【0018】比較的狭いナッペ角を備えた噴射ノズルと特有の形状の窪みとを組み合わせて用いることは、一般に許容される範囲より広い角度の範囲内でも、上死点の近傍における燃料噴射のための通常の運転を可能にする。」(段落【0015】ないし【0018】)

(e)「【0028】本発明による、直噴内燃エンジンの作動範囲を拡げる方法は、少なくとも1つのシリンダと、このシリンダ内で滑動するピストンと、ガス吸気手段および排気手段と、窪みの中心にシリンダヘッドに向いている突起を有しているピストンの上面によって一方の側の境界が定められた燃焼室とを有する直噴内燃エンジンの作動範囲を拡げる方法において、シリンダの直径をCDとし、噴射ノズルからの燃料ジェットの起点と、上死点(TDC)に対して50°のクランクシャフト角に相当するピストンの位置との間の距離をFとしたときに2tan^(-1)(CD/2F)以下のナッペ角を有している噴射ノズルによって各シリンダ内へ燃料を噴射することを特徴とする。
【0029】ピストンは、突起の頂角が噴射ノズルのナッペ角と実質的に一致しており、窪みの壁が、上死点に対して±30°までのピストンの任意の位置が有利に用いられるように、噴射された燃料が前記窪みの外側に向かって導かれると共にシリンダの壁に達することなく気化するように形成されている。
【0030】本発明は、シリンダ壁上に液体燃料が付着することを防ぐことを可能にするとともに、エンジン性能の向上と汚染の抑制とを可能にする。」(段落【0028】ないし【0030】)

(f)「【0034】図1および図2を参照すると、燃料噴射ノズルを備えた、例えばディーゼル型の内燃エンジンは、シリンダヘッド2を備えた、軸XX’に沿っている少なくとも1つのシリンダ1と、本例ではそれぞれ1つまたは2つ以上の吸気弁3および1つまたは2つ以上の排気弁4である、吸気手段および燃焼済みガスの排気手段と、シリンダ1の中で滑動するピストン5と、好ましくはシリンダの軸XX’上に一列に配列されているマルチジェットのノズルのような燃料噴射ノズル6とを有している。」(段落【0034】)

(g)「【0042】燃焼室は、シリンダヘッド2によって一方の側の境界が定められ、ピストン5の上面SPによって反対側の境界が定められている。
【0043】この面は、噴射ノズル6から来る燃料のナッペの軸と同様に同軸であり、噴射ノズル6からの燃料ジェットのナッペの軸とやはり同軸である碗状部分、すなわち窪み8の中心でシリンダヘッド2を向いている突起7を有している。この窪み8の凹部は、このシリンダヘッド2に向けられており、前記のピストン5の水平部9上に実質的に開いている。
【0044】もちろん、この窪みの軸はシリンダの軸と同軸ではないかもしれないが、重要なのは、燃料ジェットのナッペの軸、突起の軸、および窪みの軸が同軸に配置されていることである。
【0045】先端が切断されたこの突起7は、実質的に直線の側面11によって窪み8の底の方向に延びた実質的に水平な頂部10を有している。突起7の頂角a_(2)が噴射ノズル6のナッペ角a_(1)と実質的に適合しているので、燃料は、ピストン5が上死点(TDC)の近傍にあるときに、突起7の側面11に実質的に沿って噴射される。
(中略)
【0048】窪み8の形状は、選択されたナッペ角a_(1)に適合している。窪み8の形状は、(例えば、上死点(TDC)に対して±30°までのピストン5の任意の位置用の)従来型の作動モードにおいて、シリンダヘッドに向かって(窪みの外側に向かって窪みの凹部に沿って)噴射された燃料の方向転換の所望の効果と、シリンダ壁を濡らさずに燃料を気化させることとを達成することができるように構成されている。
(中略)
【0051】頂部10までの窪み8の底部で採寸された突起7の高さHは、窪み8の深さLより小さいことが有利である。
(中略)
【0055】窪み8の中心に位置し、燃料ジェットのナッペの軸とも同軸である突起は、頂部10が僅かに丸くされ、また底面が図1および図2のそれよりも小さい円錐形状で、図1および図2に示された突起よりもさらに先細りの形状を有している。
【0056】この頂部は、窪みの底部の方向に向かって実質的に直線の側面11によって延長され、そして、曲率半径がR1の第1の曲線部12、窪みの底部を形成している実質的に水平な平面壁15、曲率半径がR2の第2の曲線部13、窪みの側壁を形成している傾斜壁14、および肩部17によって側壁14に繋げられた、ピストン5の上面SPの水平部9に通じている傾斜面16によって延長されている。
(中略)
【0058】図3の例では、突起7の頂角a_(2)が燃料が実質的に側面11に沿って噴射され、この突起7が、ピストン5の水平部9と平面壁15との間で採寸された深さである、窪み8の深さLの少なくとも40%より高い高さHを有しており、この高さは、図3の例では、窪みの深さLの60%よりも高い。」(段落【0042】ないし【0058】)

(2)ここで、上記(1)(a)ないし(g)及び図面から、次のことが分かる。

(h)上記(1)(a)ないし(g)及び図面から、引用文献4には、内燃エンジンであって、燃焼室がピストン5とシリンダヘッド2との間に画定されたシリンダ1と、前記シリンダヘッド2内に配置され、複数の噴射ノズルを有する燃料噴射ノズル6と、窪み8の深さLを有する窪み8の底部を有するとともに、窪み8の中心に水平な頂部を有する頂角a_(2)の突起7が前記燃料噴射ノズル6に対向して配置された、前記ピストン5に設けられたピストン5の窪み8とを有し、上死点付近で行われる燃料噴射の間に、ナッペ角a_(1)を有して前記噴射ノズルから噴射される燃料ジェットが、前記ピストン5の窪み8に衝突するように前記噴射ノズルが形成される内燃エンジンが記載されているといえる。

(i)上記(1)(g)及び図面から、引用文献4に記載された内燃エンジンにおいて、突起7は、その高さHがピストン5の水平部9からL-Hだけ奥まって形成され、窪み8の深さLに対するL-Hの比率(L-H)/Lが、0.6より小さく、図3の例では0.4より小さいことが分かる。

(3)引用文献4記載の発明
上記(1)及び(2)より、引用文献4には、次の発明が記載されているといえる。

「内燃エンジンであって、燃焼室がピストン5とシリンダヘッド2との間に画定されたシリンダ1と、前記シリンダヘッド2内に配置され、複数の噴射ノズルを有する燃料噴射ノズル6と、窪み8の深さLを有する窪み8の底部を有するとともに、窪み8の中心に水平な頂部を有する頂角a_(2)の突起7が前記燃料噴射ノズル6に対向して配置された、前記ピストン5に設けられたピストン5の窪み8とを有し、上死点付近で行われる燃料噴射の間に、ナッペ角a_(1)を有して前記噴射ノズルから噴射される燃料ジェットが、前記ピストン5の窪み8に衝突するように前記噴射ノズルが形成される内燃エンジンであって、
突起7は、その高さHがピストン5の水平部9から(L-H)だけ奥まって形成され、窪み8の深さLに対する(L-H)の比率(L-H)/Lが、0.6より小さい、
内燃エンジン。」(以下、「引用文献4記載の発明」という。)


第4 対比・判断
1 本願発明と引用文献1記載の発明との対比
本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「燃焼室32」は、その技術的意義又は機能からみて、本願発明における「燃焼室(5)」に相当し、以下同様に、「ピストン8」は「ピストン(2)」に、「エンジンヘッド10」は「シリンダヘッド(1)」に、「シリンダーキャビティ6」は「シリンダ」に、「噴射オリフィス21」は「噴射孔」に、「噴射器ノズル22」は「噴射ノズル(3)」に、「燃料噴射器20」は「燃料噴射装置(6)」に、「最大深さL」は「最大窪み深さ(TM)」に、「キャビティの底部」は「窪みの基底(13)」に、「隆起床部分42」は「圧縮突起部(10)」に、「ピストン8のキャビティ」は「ピストンの窪み(4)」に、「プルーム40」は「燃料噴霧(8)」に、それぞれ相当する。
また、引用文献1記載の発明における「上死点の後5°CAないし30°CAまでの範囲で行われる」は、本願発明における「上死点の前20°CAから上死点の後30°CA迄の範囲内で行われる」に、「上死点の後5°CAないし30°CA迄の範囲内で行われる」という限りにおいて共通する。
また、

したがって、本願発明と引用文献1記載の発明は、
「内燃機関であって、
燃焼室がピストンとシリンダヘッドとの間に画定されたシリンダと、
前記エンジンヘッド内に配置され、複数の噴射孔を有する噴射ノズルを有する燃料噴射装置と、
最大窪み深さを有する窪みの基底を有するとともに、内部に圧縮突起部が噴射ノズルに対向して配置された、前記ピストンに設けられたピストンの窪みとを有し、
上死点の後5°CAないし30°CA迄の範囲内で行われる燃料噴射の間に、燃料円錐角を有して前記噴射孔から噴射される燃料噴霧が、前記ピストンの窪みに衝突するように前記噴射孔が形成される内燃機関。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
(1)本願発明においては、「窪み角を有する圧縮突起部」が配置されているのに対し、引用文献1記載の発明においては、本願発明における「圧縮突起部」に相当する「隆起床部分」が、「窪み角」を有するか否か明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)本願発明においては、燃料噴射が「上死点の前20°CAから上死点の後35°CA迄の範囲内で行なわれる」のに対し、引用文献1記載の発明においては、燃料噴射が「上死点の後5°CAないし30°CAまでの範囲で行われる」点(以下、「相違点2」という。)。

(3)本願発明においては、「- 窪みの縁の最上部に揃えられた水平面の下方で、前記ピストンの窪み(4)が窪み体積(MV)を有し、窪み体積(MV)に対する最大窪み深さ(TM)の比率(TM/MV)が0.05?0.35/cm^(2)の範囲内にあるように前記ピストンの窪み(4)が形成され、- 前記ピストンの窪み(4)が最大窪み直径(DM)を有する環状の窪みの縁(12)によって囲まれ、前記ピストン(2)がピストン直径(DK)を有し、最大窪み直径(DM)に対するピストン直径(DK)の比率(DK/DM)が1.05?1.4の範囲内にあり、- 前記噴射孔及び圧縮突起部(10)が、前記窪み角(α)に対する前記燃料円錐角(β)の比率(β/α)が1.15?1.3の範囲内にあるように、形成され、- 前記最大窪み深さにおける直径(Dmin)のピストン直径(DK)に対する比率(Dmin/DK)が0.3?0.39の範囲内にあり、- ピストンの窪み輪郭(11)が前記窪みの基底(13)と前記窪みの縁(12)との間に窪みの基底曲率半径(RK)を有し、最大窪み直径(DM)に対する窪みの基底曲率半径(RK)の比率(RK/DM)が0.1?0.35の範囲内にあり、- 前記ピストンの窪み輪郭(11)が前記圧縮突起部(10)と前記窪みの基底(13)との間に突起曲率半径(RH)を有し、最大窪み直径(DM)に対する突起曲率半径(RH)の比率(RH/DM)が0.45?1.1の範囲内にあり、- 圧縮突起部(10)は、その最大突出領域(10a)がピストンヘッド(7)から圧縮スペース(H)だけ奥まって形成され、最大窪み深さ(TM)に対する圧縮スペース(H)の比率(H/TM)が0.1?0.45の範囲内にある」のに対し、
引用文献1記載の発明においては、本願発明における「ピストンの窪み」に相当する「ピストン8のキャビティ」が、そのような範囲内にあるように形成されているかどうか明らかでない点(以下、「相違点3」という。)。

2 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用文献1記載の発明における「隆起床部分」は、頂部が切り取られて平坦な中心部分49を形成している(段落【0049】を参照。)が、その下の部分は隆起斜面を形成しており、この隆起斜面の勾配が本願発明における「窪み角」に相当するといえる。
そして、本願発明においては、「窪み角」の範囲については特に限定されていないのであるから、上記相違点1にかかる本願発明の発明特定事項は、引用文献1記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
引用文献1記載の発明における「上死点の後5°CAないし30°CAまでの範囲」は、本願発明における「上死点の前20°CAから上死点の後35°CA迄の範囲内」に内包されるから、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。

(3)相違点3について
相違点3についてさらに詳細に検討すると、引用文献1記載の発明は、本願発明における以下の(a)ないし(g)の発明特定事項に相当する構成を有していない。
(a)「窪み体積(MV)に対する最大窪み深さ(TM)の比率(TM/MV)が0.05?0.35/cm^(2)の範囲内にあるように前記ピストンの窪み(4)が形成され」
(b)「最大窪み直径(DM)に対するピストン直径(DK)の比率(DK/DM)が1.05?1.4の範囲内にあり」
(c)「前記窪み角(α)に対する前記燃料円錐角(β)の比率(β/α)が1.15?1.3の範囲内にある」
(d)「前記最大窪み深さにおける直径(Dmin)のピストン直径(DK)に対する比率(Dmin/DK)が0.3?0.39の範囲内にあり」
(e)「最大窪み直径(DM)に対する窪みの基底曲率半径(RK)の比率(RK/DM)が0.1?0.35の範囲内にあり」
(f)「最大窪み直径(DM)に対する突起曲率半径(RH)の比率(RH/DM)が0.45?1.1の範囲内にあり」
(g)「最大窪み深さ(TM)に対する圧縮スペース(H)の比率(H/TM)が0.1?0.45の範囲内にある」

そこで、引用文献2ないし4記載の発明について検討する。
引用文献2記載の発明には、本願発明における「窪み角(α)に対する燃料円錐角(β)の比率(β/α)」に対応する「突起部の窪み角と燃料噴霧の開き角との関係」が示されているが、その比率が「1.15?1.3の範囲内にある」とは限定されていない。
また、引用文献2記載の発明は、「燃料噴霧Fが、キャビティ周壁面15又は周壁面15と底面16とを滑らかに接続する湾曲したコーナー部17に衝突する」ものであるから、燃料噴霧の衝突箇所が、本願発明のものとは相違する。
また、引用文献2記載の発明におけるキャビティ4は、その底面の形状が、引用文献1記載の発明における燃焼ボウル30の底面の形状とは相違するものであり、引用文献2記載の発明における突起部の窪み角と燃料噴霧の開き角との関係をそのまま引用文献1記載の発明に適用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
また、引用文献3記載の発明には、本願発明における「最大窪み直径(DM)に対するピストン直径(DK)の比率(DK/DM)」に対応する「キャビティ開口部の直径に対するピストン直径の比」が1.18程度であることが示されている。しかし、引用文献3記載の発明におけるキャビティ(窪み)は、外周壁の傾斜角αが130ないし140度であるのに対し、引用文献1記載の発明における外周ボウル部分48は上部が垂直に近い角度であり、その形状においても相違するものであり、引用文献3記載の発明における数値範囲をそのまま引用文献1記載の発明に適用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
また、引用文献4記載の発明には、本願発明における「最大窪み深さ(TM)に対する圧縮スペース(H)の比率(H/TM)」に対応する「(突起の高さをHとしたときの)窪みの深さLに対するL-Hの比率」が0.6よりも小さいことが示されている。しかし、引用文献4記載の発明は、発明の目的が「非常に多様な噴射状態を可能にする」というものであって、その窪みの形状は側壁が垂直面に対してa_(3)の角度をなすものであり、引用文献1記載の発明の目的(エンジンの潤滑油に混入される煤煙の量を低減させ、同時にエミッションの増加を防ぐ)及び窪みの形状(外周ボウル部分48の上部が垂直に近い)とはかなり異なるものであり、引用文献4記載の発明における数値範囲をそのまま引用文献1記載の発明に適用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
すなわち、引用文献2ないし4記載の発明を引用文献1記載の発明に適用する動機はきわめて弱いといわざるを得ない。

そして、本願明細書の記載によれば、本願発明は、上記(a)の発明特定事項により、「十分な酸素の割合が自己着火プロセスの前又は途中の燃焼に利用できるように、利用可能なピストンの窪み体積における燃料の質量分布に関して、燃焼室の最適な設計を提供する。煤の粒子形成はそれにより最小化され、もしくは大幅に妨げられる。本発明により提供される寸法もしくは比率は窪み内部の適応した全体表面を形成し、それによって本発明による窪み体積内の燃料リッチ領域の形成は殆ど完全に回避され、もしくは大幅に減少する。本発明による比率によって驚くほど得られる効果は、燃料粒子の強い拡散と、特に窪み体積での燃料液滴の得られる混合の深さとの好ましいバランスの結果として主に得られる。」(段落【0006】)という作用効果を奏し、上記(b)の発明特定事項により、「ピストンの窪み内における燃料質量の非常に速い伝播と、従って燃料と空気の急速な混合を生じる。ピストン直径にマッチした燃料粒子の分布が得られ、本発明によれば、該燃料粒子の分布は燃料の平均を超える伝播と、従って窪みの中で燃焼空気との多量の混合を可能にする。燃焼室内での限界点における燃料リッチ領域の形成は従って最小限に減少する。」(段落【0007】)という作用効果を奏し、上記(c)の発明特定事項により、「噴射された燃料質量はそれゆえピストンの窪み内で均一に拡散し、燃料の燃焼空気との混合は強化される。従って、与えられた比率もしくは燃料円錐角と窪み角の適合は、窪みの輪郭形状と噴射ノズルから噴射される燃料質量との間の、ピストンの窪み内における適合した相互作用を生み出す燃焼室の構成を提供する。該突起が円錐形の設計である場合、円錐角は窪み角とされ、一方で該突起は他の形状、例えば球形の設計を有することが出来る。対応する傾斜角度を有して突起に接している接線は、そのとき窪み角を決定するために導き出されることができる。」(段落【0008】)という作用効果を奏し、上記(d)の発明特定事項により、「ピストン直径に適応する流れの条件は、該流れの条件が、より低い窪み領域において燃料噴霧と燃焼空気との急速で十分な混合を可能にする、提案された範囲内で形成される。従って、より低い領域における燃料リッチ領域の形成を大部分防止する乱流運動が得られる。」(段落【0010】)という作用効果を奏し、上記(e)の発明特定事項により、「ピストンの窪みの基底に沿った均一で制御された燃料粒子の案内を確実にする。これはその時、目標とされたやり方で、より強力な燃料と燃焼空気の混合をもたらす。更に、燃焼空気と窪みの基底上を滑る燃料噴霧との間に、ピストンのサイズに適応した十分な接触面が備えられる。」(段落【0011】)という作用効果を奏し、上記(f)の発明特定事項により、「窪みの基底に衝突する燃料粒子は、窪みの基底区域内の望ましくない燃料リッチ領域の集中を防止するために、燃料粒子が酸素に富んだ領域へと導かれるような方法で加速される。」(段落【0012】)という作用効果を奏し、上記(g)の発明特定事項により、「窪み深さに適応した空きスペースが、これにより噴射ノズルと圧縮突起部の間に備えられ、該空きスペースは圧縮突起部の領域における燃料リッチ領域の形成を最小化するために役立つ。本発明に従って提案された、互いに対して調整された比率は、圧縮突起部領域及びピストンの窪みの基底領域における、燃料リッチ領域へ必要とされる空気もしくは酸素の供給を許す、好ましい流れの条件を提供する。」(段落【0013】)という作用効果を奏するものである。
そうすると、これらの作用効果を全て考慮して、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、引用文献1ないし4記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるとまでいうことはできない。

(4)請求項1に係る判断についてのまとめ
したがって、請求項1に係る発明である本願発明は、引用文献1ないし4記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)請求項2ないし5に係る発明について
また、請求項2ないし5に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項を全て有しているので、同様に容易に発明できたものではない。


第5 むすび
本件出願については、原査定の拒絶の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-02-24 
出願番号 特願2007-531690(P2007-531690)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
久島 弘太郎
発明の名称 内燃機関  
代理人 山口 栄一  

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