• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04Q
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04Q
管理番号 1285220
審判番号 不服2012-18456  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-21 
確定日 2014-02-26 
事件の表示 特願2009-550632「無線ネットワークでの移動プラットフォームの追跡」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月 4日国際公開、WO2008/106390、平成22年 6月 3日国内公表、特表2010-519831〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2008(平成20)年2月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年2月28日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年5月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年9月21日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

第2.平成24年9月21日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年9月21日付けの手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、補正前の請求項17に対応する補正後の請求項14に係る次の補正事項を含むものである。

(補正事項)
補正前の請求項17の
「複数の電力状態が可能であり、節電間隔中に低電力状態に入る処理構成要素と、
無線インタフェースと、
前記処理構成要素に起動するように命令し、節電間隔毎に定期的なフレームを送信するように前記無線インタフェースに命令し、前記節電間隔は、装置が静止しているか移動しているかについての関数である構成要素と
を有する装置。」
とあるのを、補正後の請求項14の
「複数の電力状態が可能であり、節電間隔中に低電力状態に入る処理構成要素と、
無線インタフェースと、
前記処理構成要素に起動するように命令し、節電間隔毎に定期的なフレームを送信するように前記無線インタフェースに命令し、前記節電間隔は、装置が静止しているか移動しているかについての関数である構成要素と、
資産保護レベルに基づいて前記節電間隔を決定する節電間隔決定構成要素と
を有する装置。」
とする補正である。

2.補正の適否
この補正は、補正前の請求項17について、「資産保護レベルに基づいて前記節電間隔を決定する節電間隔決定構成要素」という構成を加え、補正後の請求項14とする補正を行うものであるが、これは、補正前の請求項17に記載される「節電間隔」について、「節電間隔」を定める要素を、「装置が静止しているか移動しているかについての関数」のほかに、更に「資産保護レベルに基づいて前記節電間隔を決定する節電間隔決定構成要素」という要素を追加し、「節電間隔」についての特定を限定するものである。
したがって、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、補正後の請求項14に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定された特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記第2.1.の補正後の請求項14に記載した事項により特定されるとおりのものである。

(2)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1である特開平9-331571号公報(以下「引用例」という)には、次に掲げる事項が記載されている。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はセル方式移動通信システムのセル構造を利用して、被探端末の位置をセル単位で探索するシステムの分野に属し、特に継続的に監視すると共に、被探端末の状態に応じシステムを適応させる技術に拘る。
【0002】具体的には、人や物の所在をセル方式の携帯電話やPHSのシステムにより、遠隔的に探索したり、捕捉する分野である。次の2分野に大別できる。
a)被探端末携行者が通話可能で通話が有効な場合。
1.タクシ-配車、トラック配車、パトロール配員(保安、自然保護、等)
2.集配業務(宅配、レンタ鉢植え、レンタ絵画)、運送業務、
3.修理サービス業
4.レンタ業、(カー、ボート、サイクル、等)
5.土木工事、山林業、広域作業
6.巡回員(独居老人、病人等)
【0003】b)被探端末携行者(物、動物)が通話不能か通話不要の場合。
1.徘徊老人、幼児、愛玩動物、要監視者
2.盗難貴重品、盗難美術品、盗難車、現金輸送車
3.被誘拐者、急患者、遭難者
b)の1.の徘徊老人、愛玩動物、については社会問題となっており、しばしば新聞に報じられている。」

イ.「【0007】被探端末の如き携帯機器では電池寿命を長くするため特定の時間パタ-ンで間欠的に動作され省電力化する技術は公知である。」

ウ.「【0037】PHSはそのセルサイズは半径100?300mで、各セル局は特定の時間間隔で自らのIDコ-ド名を送信し、各端末はそれを受けて、既に記憶している所在セルIDコ-ドと比較し、同じであれば無反応であるが、異なれば位置登録の更新を局に要求し、局の位置デ-タと端末の位置デ-タの登録が更新される。従ってPHSは動作している限り常にその所在をセル単位で把握されている。被探体にPHS端末を装着しておけば、被探体の所在はセル単位で知る事ができる。 本発明はこの原理に基ずく。」

エ.「【0039】1.被探端末
上記応用例「a)被探端末携行者が通話可能で通話が有効な場合」では被探端末は従来のPHS端末のソフトを改造することで実現できる。以下a型被探端末と呼ぶ。
【0040】上記応用例「b)被探端末携行者(物、動物)が通話不能か通話不要の場合」ではLCD表示、キー群、マイク等を除き、大電力部を含む大部分の回路を電源間欠ON型とし、電池はLi電池の如き小型大容量の品種でその容量を従来品より小とし、形状の小型かをはかる。ソフトは同じく改造する。以下b型被探端末と呼ぶ。
【0041】このb型被探端末では全回路を電源が常時ON部分と間欠的にONとされる部分とに2分し、タイマー部、要給電記憶部等を常時ON部とし、その他の回路特に電力を必要とする無線送信部を含め間欠ON部とする。a型では被探体が電池残量管理が可能故、この必要性は少ないがこの様にすることが望ましい。」

オ.「【0044】一般的には内蔵電池で動作させる事になる。上述した様にb型の幼児、愛玩動物等ではその寸法・重量は小型・軽量を必要とする。誘拐など犯罪関係では犯人に発見されないように特に小型が要求される。又その電池寿命は犬猫や犯罪が絡む場合等では数か月程度は欲しい。従来公知の電源を間欠的にON,OFFする省電力化を、必要機能の低下無く、即応性を失わぬ様にさらに改良してつぎのようにする。」

カ.「【0045】内蔵タイマーから複数の緩モード、急モード、低活動モード、連続モード等の電源ONタイムパターンを作り、他からの指令により選択可能とされる。間欠ON部はこの選択されたONタイムパターンで電源がON,OFFされる電源ONタイムの時間幅はその間に被探端末とセル局との通信で被探端末の位置確認、変更時の位置登録がされる周期の少なくとも一つを含む長さとされ、一回の電源ONタイムに少なくとも一回の測位がされ、変更があった場合にはその時間内に局側登録位置データと被探端末内自位置セルの記憶が更新される。電源ONタイム時間幅の内の上記の測位に関する部分を測位ONタイムと呼ぶ。また必要な時に自位置セル名(コード)を探索側に通報する時間即ち通報ONタイムが引き続き含まれるようにするとシステムは簡単になる。
【0046】電源ONタイムパターンは被探索体の歩行速度や車両走行速度に応じ最適に選択、設定可能とし、又時間帯の概念を導入し被探索体の低活動時間帯にはONタイムの周期を長くして、電力を節約する(請求項3)
例えば歩行速度を4km毎時としセル径を200?600mとすると横断タイムは3?6分となるが、上記応用例b)1では低緊急性からみて電源測位ONタイムを10秒、間欠周期を10分程度とすれば良いと考えられる。デユ-テイは1/60となり、現行PHSの待ち受け時間が1週間であることから換算すると、電池容積を1/6にかつ寿命を10週間とすることができる。」

(3)引用発明
a.引用例の前掲アの記載によると、引用例には、携帯電話やPHSのセル方式移動通信システムのセル構造を利用して、人や物に携行された被探端末の位置をセル単位で探索するシステムに関する発明が記載されている。

b.引用例の前掲イ,オの記載によると、引用例には、被探端末は、電池寿命を長くするために特定の時間パターンで電源を間欠的にON,OFFする動作を行い、省電力化を図ることが記載されている。

c.引用例の前掲ウの記載によると、引用例には、各端末はセル局から特定の時間間隔でセルIDコードを受信し、記憶している所在セルIDコードと同じであれば無反応とし、異なれば位置登録の更新を局に要求して局の位置データと端末の位置データの登録を更新することが記載されている。

d.引用例の前掲エの記載によると、引用例には、被探端末の一例として、全回路を電源が常時ON部分と間欠的にONとされる部分とに2分し、タイマー部、要給電記憶部等を常時ON部とし、その他の回路、特に電力を必要とする無線送信部を含め間欠ON部とするものが記載されている。

e.引用例の前掲カの記載によると、引用例には、電源ONタイムパターンは、複数の緩モード、急モード、低活動モード、連続モード等の複数の電源ONタイムパターンが有り、例えば低緊急性の場合、電源測位ONタイムを10秒、間欠周期を10分程度とするものであり、複数の電源ONタイムパターンは、他からの指令により選択可能とされ、被探索体の歩行速度や車両走行速度に応じ最適に選択、設定可能であることが記載されている。

f.引用例の前掲カの記載によると、引用例には、電源ONタイムパターンの電源ONタイムの時間幅は、その間に被探端末とセル局との通信で被探端末の位置確認、変更時の位置登録がされる周期の少なくとも一つを含む長さとされ、変更があった場合にはその電源ONタイムの時間内に局側登録位置データと被探端末内自位置セルの記憶が更新されることが記載されている。

g.上記a,b,eの摘示事項から、引用例には、セル方式移動通信システムのセル構造を利用して人や物に携行された被探端末の位置をセル単位で探索するシステムにおける被探端末であり、被探端末は、複数の緩モード、急モード、低活動モード、連続モード等の複数の電源ONタイムパターンで電源を間欠的にON,OFFする動作を行い、省電力化を図るものであることが記載されているといえる。

h.上記b,d,eの摘示事項から、引用例には、電源ONタイムパターンに従って電源を間欠的にON,OFFする動作は、一例として電源ONタイムを10秒、間欠周期を10分程度とするものであり、ON時には全回路をONとし、OFF時にはタイマー部等の一部の回路をONとし、特に電力を必要とする無線送信部等のその他の部分の回路をOFFとすることが記載されているといえる。

i.上記eの摘示事項から、引用例には、複数の電源ONタイムパターンは、他からの指令により選択可能とされ、被探索体の歩行速度や車両走行速度に応じ最適に選択、設定可能であることが記載されているといえる。

j.上記c,fの摘示事項から、引用例には、電源ONタイムパターンの電源ONタイムの間に、被探端末とセル局との通信で被探端末の位置確認、変更時の位置登録が行われ、位置確認及び位置登録は、被探端末がセル局からセルIDコードを受信し、被探端末内に記憶している所在セルIDコードと同じであれば無反応とし、異なれば位置登録の更新を局に要求して局の位置データと端末の位置データの登録を更新するという動作を行うものであることが記載されているといえる。

k.以上によれば、引用例には、下記の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。

記(引用発明)
セル方式移動通信システムのセル構造を利用して人や物に携行された被探端末の位置をセル単位で探索するシステムにおける被探端末であり、
被探端末は、複数の緩モード、急モード、低活動モード、連続モード等の複数の電源ONタイムパターンで電源を間欠的にON,OFFする動作を行い、省電力化を図るものであって、
電源ONタイムパターンに従って電源を間欠的にON,OFFする動作は、一例として電源ONタイムを10秒、間欠周期を10分程度とするものであり、ON時には全回路をONとし、OFF時にはタイマー部等の一部の回路をONとし、特に電力を必要とする無線送信部等のその他の部分の回路をOFFとすること、
複数の電源ONタイムパターンは、他からの指令により選択可能とされ、被探索体の歩行速度や車両走行速度に応じ最適に選択、設定可能であること、
電源ONタイムパターンの電源ONタイムの間に、被探端末とセル局との通信で被探端末の位置確認、変更時の位置登録が行われ、位置確認及び位置登録は、被探端末がセル局からセルIDコードを受信し、被探端末内に記憶している所在セルIDコードと同じであれば無反応とし、異なれば位置登録の更新を局に要求して局の位置データと端末の位置データの登録を更新するという動作を行うものであること、
を備える人や物に携行された被探端末。

(4)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると次のことが認められる。

(a)本願補正発明の「複数の電力状態が可能であり、節電間隔中に低電力状態に入る処理構成要素」について

引用発明の被探端末は、複数の緩モード、急モード、低活動モード、連続モード等の複数の電源ONタイムパターンで電源を間欠的にON,OFFする動作を行い、省電力化を図るものであって、電源ONタイムパターンに従って電源を間欠的にON,OFFする動作は、一例として電源ONタイムを10秒、間欠周期を10分程度とするものであり、ON時には全回路をONとし、OFF時にはタイマー部等の一部の回路をONとし、特に電力を必要とする無線送信部等のその他の部分の回路をOFFとするものである。
引用発明は、全回路をONとする状態と、タイマー部等の一部の回路をONとし、特に電力を必要とする無線送信部等のその他の部分の回路をOFFとする状態との2つの電力消費状態を有しているので、本願補正発明と同様に「複数の電力状態が可能」であるものといえる。
また、引用発明は、電源ONタイムパターンに従って電源を間欠的にON,OFFする動作し、電源を間欠的にOFFする期間に、一部の回路を残して、特に電力を必要とする無線送信部等のその他の部分の回路をOFFとしており、この電源ONタイムパターンは本願補正発明の「節電間隔」を規定するものであるといえ、電源を間欠的にOFFする期間は、本願補正発明の「節電間隔中」であって、回路が「低電力状態に入る」期間であるといえる。
そして、引用発明の回路は上記のように動作することから、本願補正発明の「処理構成要素」に相当するといえる。
したがって、引用発明は、「複数の電力状態が可能であり、節電間隔中に低電力状態に入る処理構成要素」を備えている点において本願補正発明と一致する。

(b)本願補正発明の「無線インタフェース」について

引用発明の被探端末は、少なくとも無線送信部を有しており、位置確認及び位置登録のためにセル局と通信を行うものであるから、本願補正発明と同様に「無線インタフェース」を有しているものといえる。

(c)本願補正発明の「前記処理構成要素に起動するように命令し、節電間隔毎に定期的なフレームを送信するように前記無線インタフェースに命令する構成要素」について

引用発明の被探端末は、電源ONタイムパターンの電源ONタイムには、間欠的にOFFとされる期間に電源がOFFとされていた回路も含め全回路がONとされることから、本願補正発明と同様に「前記処理構成要素に起動するように命令」がなされているものといえる。

また、引用発明は、電源ONタイムパターンの電源ONタイムの間に、被探端末とセル局との通信で被探端末の位置確認、変更時の位置登録が行われ、位置確認及び位置登録は、被探端末がセル局からセルIDコードを受信し、被探端末内に記憶している所在セルIDコードと同じであれば無反応とし、異なれば位置登録の更新を局に要求して局の位置データと端末の位置データの登録を更新するという動作を行うものである。
ここで、本願補正発明の「節電間隔毎に定期的なフレームを送信する」について検討すると、本願明細書の段落【0021】,【0022】には、「或る実施例では、局は、局が現在アクセスポイントに関連付けられているか否かに基づいて、ユニキャスト又はマルチキャスト存在指示を提供してもよい。例えば、移動局が関連付けられた状態にある場合、局は、現在のチャネルでユニキャスト存在指示を現在のアクセスポイントに送信してもよい。また、例えば、移動局が関連付けられていない状態にある場合、局は、前の存在構成要求から受信したときの1つ以上のチャネルでブロードキャスト存在指示を送信してもよい。」、「図2は、240及び250において、2つの存在指示の送信を示している。移動局が静止している場合、送信240と送信250との間の時間は静止中節電間隔であり、移動局が移動している場合、送信240と送信250との間の時間は移動中節電間隔である。或る実施例では、存在指示は、ヌルフレーム(空のフレーム)又は最小の情報を含む。例えば、存在指示フレームは、予め設定された送信電力情報のみを含んでもよい。或る実施例では、局が節電状態にある間に測定は行われない。このことにより、移動局は、上位のMAC動作に関与せずに、また、測定を行わずに、その存在指示を返信することが可能になる。この特徴は、局が節電状態にあるときに、ほとんどの計算及び測定をアクセスポイント側に任せる。」と記載されていることから、本願補正発明は、移動局が節電間隔毎に存在指示のためのフレームをアクセスポイントへ送信するものであり、その存在指示により移動局がアクセスポイントに関連付けられるものである。
一方、引用発明は、上記(a)で検討したように、電源ONタイムパターンは本願補正発明の「節電間隔」を規定するものであるので、電源ONタイムは本願補正発明の「節電間隔毎」に生じるものといえる。
そして、引用発明の被探端末は、電源ONタイムに、セル局との通信で位置確認を行い位置に変更があれば位置登録を行うものであるので、節電間隔毎に位置確認を行い位置に変更があれば位置登録を行うように前記無線インタフェースに命令するものといえる。
ただし、引用発明の被探端末は、位置確認の結果、位置に変更がなければ無反応であるので、節電間隔毎に定期的なフレームを送信するように前記無線インタフェースに命令するものではない。
しかしながら、本願補正発明の存在指示のためのフレームの送信を行うことと、引用発明の位置確認を行い位置に変更があれば位置登録を行うことは、移動局をアクセスポイントに登録するための通信を行うものである点で一致するものである。
したがって、引用発明の被探端末は、「前記処理構成要素に起動するように命令し、節電間隔毎に移動局をアクセスポイントに登録するための通信を行うように前記無線インタフェースに命令する構成要素」を備えるものである点で本願補正発明と一致するが、移動局をアクセスポイントに登録するための通信の具体的手段が、本願補正発明は、節電間隔毎に「定期的なフレームを送信する」ことであるのに対し、引用発明は、節電間隔毎に「位置確認を行い位置に変更があれば位置登録を行う」ことである点において、両者は相違する。

(d)本願補正発明の「前記節電間隔は、装置が静止しているか移動しているかについての関数である構成要素」について

引用発明の被探端末は、複数の緩モード、急モード、低活動モード、連続モード等の複数の電源ONタイムパターンで電源を間欠的にON,OFFする動作を行い、その複数の電源ONタイムパターンは、他からの指令により選択可能とされ、被探索体の歩行速度や車両走行速度に応じ最適に選択、設定可能である。
すなわち、引用発明の電源ONタイムパターンは、被探端末の移動速度に応じて複数のモードが選択される関数であるといえ、上記(a)で検討したように、電源ONタイムパターンは、本願補正発明の「節電間隔」を規定するものであるので、引用発明は、「前記節電間隔は、被探端末の移動速度に応じて複数のモードが選択される関数である構成要素」を備えるものといえる。
本願補正発明の「装置が静止しているか移動しているかについての関数」について検討すると、静止を移動速度が0であるのものと捉えると、この関数は、装置の移動速度が0であるか所定の値であるかについての関数であるといえる。
そして、引用発明の被探端末は、下記(f)で後述するように、本願補正発明の「装置」に相当するといえるので、本願補正発明と引用発明は、「前記節電間隔は、装置の移動速度についての関数である構成要素」を備えるという点において一致する。
ただし、本願補正発明の「移動速度についての関数」は、具体的には「静止しているか移動しているかについての関数」であるのに対し、引用発明は、「移動速度に応じて複数のモードが選択される関数」である点で両者は相違する。

(e)本願補正発明の「資産保護レベルに基づいて前記節電間隔を決定する節電間隔決定構成要素」について

引用発明は、「資産保護レベルに基づいて前記節電間隔を決定する節電間隔決定構成要素」を備えていない点で、本願補正発明と相違する。

(f)本願補正発明の「装置」について

引用発明の被探端末は、人や物に携行された被探端末であり、上記(c),(d),(e)で摘示したような相違はあるものの、節電間隔中に低電力状態に入り、節電間隔毎に移動局をアクセスポイントに登録するための通信を行うものである点では一致するものであるので、本願補正発明の「装置」に相当するものといえる。

(5)一致点・相違点
上記(4)(a)ないし(f)での対比結果をまとめると、本願補正発明と引用発明との[一致点]と[相違点]は以下のとおりである。

[一致点]
複数の電力状態が可能であり、節電間隔中に低電力状態に入る処理構成要素と、
無線インタフェースと、
前記処理構成要素に起動するように命令し、節電間隔毎に移動局をアクセスポイントに登録するための通信を行うように前記無線インタフェースに命令し、前記節電間隔は、装置の移動速度についての関数である構成要素と、
を有する装置。

[相違点1]
移動局をアクセスポイントに登録するための通信の具体的手段が、本願補正発明は、節電間隔毎に「定期的なフレームを送信する」ことであるのに対し、引用発明は、節電間隔毎に「位置確認を行い位置に変更があれば位置登録を行う」ことである点。

[相違点2]
本願補正発明の「移動速度についての関数」は、具体的には「静止しているか移動しているかについての関数」であるのに対し、引用発明は、「移動速度に応じて複数のモードが選択される関数」である点。

[相違点3]
引用発明は、「資産保護レベルに基づいて前記節電間隔を決定する節電間隔決定構成要素」を備えていない点。

(6)相違点の判断
[相違点1]について
引用発明は、節電間隔毎に「位置確認を行い位置に変更があれば位置登録を行う」ものであり、位置に変更がない場合には位置登録は行なわないものではあるが、節電間隔毎に移動局をアクセスポイントに登録するための通信を行うものである。
すなわち、引用発明における節電間隔毎とは、移動局をアクセスポイントに登録しようとするタイミングであり、そのようなタイミングにおいては単純に毎回位置登録を行うこととすることは、自然に想到し得ることである。
よって、引用発明において、節電間隔毎に移動局を登録するためのフレームを送信するようにし、本願補正発明のような節電間隔毎に「定期的なフレームを送信する」ものとすることは、当業者が容易になし得ることである。
[相違点2]について
引用発明は、節電間隔が装置の移動速度に応じて複数の節電間隔が選択されるものである。
装置の移動速度としては、前記第2.2.(2)ア.に摘示する引用例の段落【0002】に例示されるような物、例えば盗難貴重品、盗難美術品、現金輸送車などのおかれている状況により速度が0である静止状態と乗り物による所定の速度で移動する状態が想定されるので、引用発明において、節電間隔を決定する装置の移動速度として、静止状態と所定の速度で移動する状態を選択し、本願補正発明のような「静止しているか移動しているかについての関数」とすることは、当業者が容易になし得ることである。

[相違点3]について
原査定の平成23年12月9日付けの拒絶理由に引用された特開2006-153695号公報(以下、「刊行物2」という)には、以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話網などの移動体通信網を通じて、GPS測位した結果を送信するようにした位置検出装置およびそれにおける位置検出方法に関する。」
「【0026】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の一形態に係る位置検出装置1を用いた位置情報サービスシステムの概要を示す図である。位置検出装置1は、利用者が携帯し、または車両などに搭載されており、予め定める第1の周期でGPS測位を行い、その測位結果を、携帯電話網2およびインターネット網等の固定通信網3などの位置情報サービス網4を通じて、管理センターに設置されたセンター装置5へ送信する。前記送信は、測位の都度行われてもよく、或いは所定サンプル数だけデータが得られたり(一定期間毎)、設定されたエリアから出るなどの変化があった時点で行われてもよい。また、保護者の要望などによる前記センター装置5からの指示によって、任意に測位およびその結果の送信が行われる。このような動作によって、子供や老人の行方を確認したり、盗難車両の追跡を行ったりすることができるようになっている。」
「【0041】
このように構成することで、該位置検出装置1の移動判定を行い、静止状態である場合に、多大な電力を消費するGPS受信機13による測位間隔を長くし、或いは停止して省電力化を実現するにあたって、その移動判定にGPS測位結果自体を使用するのではなく、格段に消費電力が小さい携帯電話の基地局位置情報を利用することで、消費電力を一層削減することができる。たとえば、GPS受信機13の消費電流は約60mAであり、無線通信モジュール15の消費電流は約2mAである。
【0042】
また、図5および図6の説明では、一連の処理であるので、通常モードにおけるGPS測位間隔(GPSの起動間隔)である第1の周期と、基地局測位の第2の周期とは、相互に等しくなるけれども、セーブモードや停止モードでは、前記GPSの起動間隔の整数倍でGPS測位処理が間引かれるので、GPS測位間隔の第1の周期よりも、基地局測位の第2の周期の方が短く、移動状態となると、速やかにGPS測位を行うことができる。」
「【0044】
[実施の形態2]
図7は、本発明の実施の他の形態に係る位置検出装置1aを用いた位置情報サービスシステムの概要を示す図である。このシステムは、前述の図1で示すシステムに類似し、位置検出装置1aおよびセンター装置5aは、それぞれ図1の位置検出装置1およびセンター装置5と同様の構成で実現することができる。注目すべきは、本実施の形態では、前述のように統計処理パラメータを含むGPS測位の周期である前記第1の周期、基地局との通信の周期である第2の周期、移動したかどうかの判定期間である監視時間および現在位置からの移動判定の半径などの動作パラメータのうち、少なくとも1つを、センター装置5aから設定可能にしたことである。」
「【0051】
一方、定期測位動作中に、管理センター側から動作パラメータ設定変更指示電文を保守通信制御部15bが受信すると、電文に指定されたGPS動作モードを制御するために必要な各種統計処理パラメータで内部設定値を更新する。更新完了後、パラメータが更新されたことを管理センターに通知する。
【0052】
このように構成することによって、たとえばセキュリティを高めたい場合には、前記第1の周期、第2の周期、判定期間を短くしたり、前記半径を狭くしたりすることで対応することができ、一層の省電力化を進めたい場合には、前記第1の周期、第2の周期、判定期間を長くしたり、前記半径を広くしたりすることで対応することができる。こうして、必要に応じて、セキュリティと省電力化との加減を、任意に変更することができる。」

これらの記載から、刊行物2には、「利用者が携帯し、または車両などに搭載される位置検出装置であって、GPS測位を行った測位結果を移動体通信網を通じてセンター装置へ送信し、消費電力の削減のために、位置検出装置の移動判定の結果によりGPS測位の周期と基地局との通信の周期を変更し、さらに、セキュリティを高める必要がある場合などに、センター装置から動作パラメータ設定変更指示を送信して、GPS測位の周期と基地局との通信の周期を変更する位置検出装置」が記載されている。

ここで、本願補正発明の「資産保護レベル」についてその技術的意味を検討すると、本願明細書には以下の記載がある。

「本発明は、資産追跡(アセット・トラッキング:asset tracking)に関し、特に無線ネットワークでの資産追跡に関する。」(段落【0001】)
「情報技術(IT)の資産追跡は、企業で重要になってきている。無線ネットワークの移動局は、ネットワーク内のその位置に基づいて、資産として追跡可能である。」(段落【0002】)
「例えば、移動局は、コンピュータ、携帯情報端末、無線可能セルラ電話等でもよい。」(段落【0006】)
「移動局110は、ネットワークインタフェースカード(NIC)114を含む。或る実施例では、移動局110は、NIC114を含むコンピュータ(ノートブックコンピュータ又はデスクトップコンピュータ等)でもよい。」(段落【0008】)
「以下に詳細に説明するように、高い資産保護レベルを有する局又は移動中の局に短い節電間隔が選択されてもよく、低い資産保護レベルを有する局又は静止中の局に長い節電間隔が選択されてもよい。」(段落【0012】)
「或る実施例では、これは、資産保護レベルを移動局に提供することに対応してもよい。例えば、或る実施例では、ユーザは、ハードディスクに格納された機密情報を有するラップトップに高い資産保護レベルを提供してもよい。」(段落【0014】)

これらの記載によれば、本願補正発明の「資産保護レベル」は、一実施例として、ハードディスクに機密情報が格納されたラップトップコンピュータに設定されるものであり、本願補正発明の「装置」に「資産保護レベル」が設定されるものと認められる。
ただし、その資産的価値は、ネットワークインタフェースカード(NIC)などの「装置」の無線ネットワークの移動局として動作する部分に存在するのではなく、ネットワークインタフェースカード(NIC)が装着される物品(コンピュータ)に資産的価値が存在するものと捉えることができる。

引用発明と刊行物2に記載される位置検出装置を比較すると、移動局の位置の検出方法が、引用発明では基地局への位置登録であるのに対して、刊行物2記載の方法はGPS測位であることで相違するものの、どちらも人や物に携行される移動通信システムの移動局の位置を検出する技術であり、移動局の移動速度に応じて位置検出の間隔を変更するという同じ技術分野に属するものである。
そして、刊行物2には、「位置検出装置のセキュリティを高める必要がある場合などに、センター装置から動作パラメータ設定変更指示を送信して、GPS測位の周期と基地局との通信の周期を変更する」技術思想が記載されている。
刊行物1には、上記の第2.2.(2)ア.に摘示したように、被探端末を盗難貴重品、盗難美術品、現金輸送車などに携行させることが記載されており、これらの物品には資産価値が存在し高いセキュリティが必要であることは容易に想定されることである。
よって、引用発明に刊行物2に記載されるセキュリティに応じて位置を通知する周期を変更するという技術思想を適用し、その具体的方法として、被探端末にセキュリティのレベルを設定し、そのレベルに応じて電源ONタイムパターンを変更する手段を設けることは当業者が容易に想到し得ることであり、被探端末にセキュリティのレベルを設定することは、被探端末を携行する物品の資産価値に応じて設定されるものであるので、その物品に携行された被探端末に資産保護レベルを設定することに相当するから、引用発明に上記相違点3に係る「資産保護レベルに基づいて前記節電間隔を決定する節電間隔決定構成要素」を設けることは、当業者が容易になし得ることである。

(7)効果等について
本願補正発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願補正発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものではない。

(8)まとめ
以上のように、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成24年9月21日付けの手続補正は上記の通り却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成24年4月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載した事項により特定されるものであるところ、その請求項17に係る発明(以下「本願発明」という)は、前記第2.1.の補正前の請求項17に記載した事項により特定されるとおりのものである。

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、及び、その記載事項は、前記第2.2.(2)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.2.で検討した本願補正発明における「資産保護レベルに基づいて前記節電間隔を決定する節電間隔決定構成要素」という発明の限定事項を省いたものである。
そうすると、本願補正発明と引用発明との[一致点]と[相違点]は、前記第2.2.(5)に示した[一致点]と[相違点1]及び[相違点2]となる。
[相違点1]及び[相違点2]については、前記第2.2.(6)で検討したように、当業者が容易になし得たものであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものではない。

第4.むすび
以上のとおり、本願の請求項17に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-26 
結審通知日 2013-10-01 
審決日 2013-10-15 
出願番号 特願2009-550632(P2009-550632)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04Q)
P 1 8・ 572- Z (H04Q)
P 1 8・ 575- Z (H04Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 聡史國分 直樹  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 奥村 元宏
江口 能弘
発明の名称 無線ネットワークでの移動プラットフォームの追跡  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ