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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1285270
審判番号 不服2013-21960  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-08 
確定日 2014-03-18 
事件の表示 特願2011-193912「半導体装置の作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月 9日出願公開、特開2012- 28793、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年6月28日(優先権主張平成11年6月29日及び平成12年6月22日)に出願した特願2000-194104号(以下「原出願」という。)の一部を平成23年9月6日に新たな特許出願としたものであって、平成25年8月30日付けで拒絶理由が通知され、同年9月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月28日付けで拒絶査定がなされた。
そして、同年11月8日に拒絶査定不服審判が請求された。

第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、平成25年9月13日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
絶縁表面上に半導体膜、及び前記半導体膜上にゲート絶縁膜を形成し、
タングステンを有するターゲットを用い且つスパッタガスとしてアルゴンを用い、スパッタ法によって、前記ゲート絶縁膜上に前記タングステンを有するゲート配線を形成し、
前記ゲート配線上に設けられ且つ開口部を有する第1の絶縁膜、及び前記第1の絶縁膜上に第2の絶縁膜を形成し、
前記開口部を介して前記半導体膜と電気的に接続し、且つ前記ゲート配線と重なるソース配線またはドレイン配線を形成し、
前記第2の絶縁膜は、前記ゲート配線と前記ソース配線またはドレイン配線とが重なる領域に選択的に形成されることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項2】
絶縁表面上に半導体膜、及び前記半導体膜上にゲート絶縁膜を形成し、
タングステンを有するターゲットを用い且つスパッタガスとしてアルゴンを用い、スパッタ法によって、前記ゲート絶縁膜上に前記タングステンを有するゲート配線を形成し、
加熱処理又はレーザ処理により、前記半導体膜に含まれる不純物元素の活性化を行うとともに、前記ゲート配線の表面に前記タングステンの窒化物を形成し、
前記ゲート配線上に設けられ且つ開口部を有する第1の絶縁膜、及び前記第1の絶縁膜上に第2の絶縁膜を形成し、
前記開口部を介して前記半導体膜と電気的に接続し、且つ前記ゲート配線と重なるソース配線またはドレイン配線を形成し、
前記第2の絶縁膜は、前記ゲート配線と前記ソース配線またはドレイン配線とが重なる領域に選択的に形成されることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記絶縁表面を有する基板の温度を300℃以下、前記スパッタガスの圧力を1.0Pa以上3.0Pa以下として、前記スパッタ法によって前記ゲート配線を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、
前記タングステンを有するターゲットは、純度が4N以上のタングステンターゲットであることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、
前記ゲート配線は、窒化タングステン膜と、タングステン膜と、を有することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、
前記第2の絶縁膜は、前記半導体膜が有するソース領域又はドレイン領域上で選択的に除去されることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項において、
前記配線は、前記第1の絶縁膜の側面に接することを特徴とする半導体装置の作製方法。」
(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明1」という。また、本願の請求項2?7に係る発明をそれぞれ「本願発明2」?「本願発明7」という。)

第3 原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

(請求項1,4,7-9)
引用文献1には、チャネル層として多結晶シリコン層を採用した薄膜トランジスタにおいて、ゲート電極としてタングステン等の高融点金属を用いること、ゲート電極をスパッタリングにより形成すること、ゲート電極上に絶縁膜を2層以上設けること、画素電極とゲート電極とを重ねることについて記載されている(特に、段落【0013】-【0016】、【0018】-【0020】、図1-2、5-6)。
引用文献2には、チャネル層として多結晶シリコン層を採用した薄膜トランジスタにおいて、第1層間絶縁膜56及び第2の層間絶縁膜62上に、薄膜トランジスタを選択的に被覆するようにプラズマ窒化膜を形成することにより、第1の層間絶縁膜56及び第2の層間絶縁膜62に含有される水素原子を薄膜トランジスタに導入し、特性を改善することについて記載されている(特に、段落【0007】-【0012】、図1,3)。
引用文献1において、薄膜トランジスタの特性改善のために、引用文献2に記載の技術を採用し、ゲート電極の上に、水素を含んだ第1の層間絶縁膜及び第2の層間絶縁膜と、薄膜トランジスタを選択的に被覆するように形成されたプラズマ窒化膜とを設ける構成とすることは当業者が適宜なし得る。

(請求項3,5,6)
引用文献1において、引用文献3に記載(段落【0028】、【0034】-【0055】)の、WN膜の上にW膜を形成してゲートに用いる技術を採用することは当業者が適宜なし得る。
また、引用文献1において、スパッタ条件のパラメータや、用いるスパッタターゲットの純度をどの程度とするかは当業者が適宜決めることにすぎない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平11-109414号公報
2.特開平7-183532号公報
3.特開平10-335652号公報

第4 当審の判断
1 引用例1、2の記載事項、及び、引用発明
(1)引用例1の記載事項
本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、平成25年8月30日付けで通知された拒絶理由において引用文献1として引用された刊行物である、特開平11-109414号公報(以下「引用例1」という。)には、「液晶表示装置の製造方法」(発明の名称)に関して、図1?6とともに、次の記載がある。(なお、下線は当合議体が付加したものである。以下同様。)

ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アクティブマトリクス方式の液晶表示装置の製造方法、特に、画素表示電極の形成方法に関する。」

イ 「【0013】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の第1の実施形態を説明する平面図であり、図2は、そのX-X線の断面図である。これらの図において、アクリル樹脂層13よりも下の部分の構造自体は、図7及び図8に示す構造と同一である。透明基板1の表面に、複数の行走査線2が配置され、この行走査線2に交差して複数の列信号線12が配置される。そして、行走査信号2と列信号線12との各交点に、ゲートが行走査線2に接続されてドレインが列信号線12に接続された薄膜トランジスタが配置される。この薄膜トランジスタは、行走査線22に連続するゲート電極23、ゲート電極23上にゲート絶縁膜を介して積層される多結晶シリコン膜6及び多結晶シリコン膜6を被う層間絶縁膜より構成される。この薄膜トランジスタは、行走査線2及び列信号線12と共にアクリル樹脂層13によって被われる。
【0014】本発明の特徴とするところは、アクリル樹脂層13上に画素表示電極15'を形成する際、エッチングマスクとなるレジストパターン27の端部を行走査線2または列信号線12に重なるように形成することにある。このとき、レジストパターン27と行走査線2または列信号線12とが重なる幅d1は、エッチング処理の際に画素表示電極15'の側壁がエッチングされて後退する幅d2よりも狭くなるように設定している。即ち、酸系のエッチング液によりITO膜をエッチングして画素表示電極15'を形成する場合、エッチングが等方的に進むため、エッチングマスクとなるレジストパターン27よりも画素表示電極15'は小さく形成される。この画素表示電極15'とレジストパターン27との差の分だけレジストパターン27を行選択線2または列信号線12に重なるように形成することで、画素表示電極15'と行選択線2または列信号線12との重なりをなくし、かつ、画素表示電極15'と行選択線2または列信号線12との間隙を最小にすることができる。
【0015】図3(a)?(c)及び図4(d)?(f)は、本発明の液晶表示装置の製造方法を説明する工程別の断面図である。これらの図においては、図2と同一部分を示している。
(a)第1工程
絶縁性の透明基板1上に、クロムやモリブデン等の高融点金属をスパッタ法により積層し、高融点金属膜21を形成する。この高融点金属膜21上に、所定の形状を有するレジスト層22を形成し、このレジスト層22をマスクとしてエッチングすることで、行走査線2と共にゲート電極3を形成する。このエッチング処理では、テーパーエッチングによって、ゲート電極3の両端部が透明基板1側で広くなるようなテーパー形状に形成される。
(・・・途中省略・・・)
(e)第5工程
多結晶シリコン膜6上にプラズマCVD法により酸化シリコンを積層し、連続して、窒化シリコンを積層する。これにより、酸化シリコン膜8及び窒化シリコン膜9の2層からなる層間絶縁膜が形成される。酸化シリコン膜8及び窒化シリコン膜9を形成した後、窒素雰囲気中で加熱し、窒化シリコン膜9内に含まれる水素を多結晶シリコン膜6へ導入する。これにより、多結晶シリコン膜6内の結晶欠陥が水素で埋められる。水素による多結晶シリコン膜6内の結晶欠陥の保障が完了した後には、ソース領域6s及びドレイン領域6dに対応して、酸化シリコン膜8及び窒化シリコン膜9を貫通するコンタクトホール10を形成し、このコンタクトホール10部分に、アルミニウム等の金属からなるソース電極11s及びドレイン電極11dを形成する。このソース電極11s及びドレイン電極11dの形成は、例えば、コンタクトホール10が形成された窒化シリコン膜9上にスパッタリングしたアルミニウムをパターニングすることで形成される。」

ウ 「【0018】以上の第1乃至第6工程により、図2に示す構造を有するボトムゲート型の薄膜トランジスタが形成される。図5は、本発明の第2の実施形態を説明する平面図であり、図6は、そのX-X線の断面図である。これらの図においては、薄膜トランジスタをトップゲート型とした場合を示している。
【0019】絶縁性の透明基板31の表面に、窒化シリコン膜32及び酸化シリコン膜33が積層される。窒化シリコン膜32は、透明基板31に含まれるナトリウム等の不純物イオンの析出を防止し、酸化シリコン膜33は、活性領域となる多結晶シリコン膜34の積層を可能にする。酸化シリコン膜33上の所定の領域に、薄膜トランジスタの活性領域となる半導体膜としての多結晶シリコン膜34が積層される。
【0020】多結晶シリコン膜34が積層された酸化シリコン膜33上に、ゲート絶縁膜となる酸化シリコン膜35が積層される。そして、酸化シリコン膜35上に、タングステンやクロム等の高融点金属からなる行走査線36が配置される。行走査線36は、多結晶シリコン膜34に隣接して行方向に延在し、複数本が一定の間隔で互いに平行に配置される。さらに、行走査線36に連続し、多結晶シリコン膜34と交差してゲート電極37が配置される。このゲート電極37に被われた多結晶シリコン膜34がチャネル領域34cとなり、その他の多結晶シリコン膜34がソース領域34s及びドレイン領域34dとなる。ゲート電極37が配置された酸化シリコン膜35上に、酸化シリコン膜38及び窒化シリコン膜39が積層される。この酸化シリコン膜38及び窒化シリコン膜39により、多結晶シリコン膜34を保護する層間絶縁膜が形成される。層間絶縁膜には、多結晶シリコン膜34に達するコンタクトホール40が設けられ、ソース領域34s及びドレイン領域34dに接続されるソース電極41s及びドレイン電極41dが配置される。この内、ドレイン電極41dは、行走査線36と交差する方向に延在し、列信号線42を構成する。
【0021】窒化シリコン膜39上に、ソース電極41s及びドレイン電極41dを被って表面を平坦にするアクリル樹脂層43が積層される。さらに、アクリル樹脂層41にソース電極41sに達するコンタクトホール44が設けられ、ソース電極41sに接続される画素表示電極45が、アクリル樹脂層43上に広がるように配置される。画素表示電極45の形成においては、図1及び図2の場合と同様に、端部が行走査線36または列信号線42に重なるように形成されるレジストパターン51をエッチングマスクとして形成される。このとき、レジストパターン51と行走査線36または列信号線42とが重なる幅d1は、エッチング処理の際に画素表示電極45の側壁がエッチングされて後退する幅d2よりも狭く設定される。従って、画素表示電極45と行選択線36または列信号線42との重なりをなくし、かつ、画素表示電極45と行選択線36または列信号線42との間隙を最小にすることができる。」

エ 摘記した上記段落【0020】の記載を参照すると、第2の実施形態を説明する平面図である図5から、行走査線36が図面下方に突出してゲート電極37を形成しており、当該ゲート電極37が多結晶シリコン膜34と交差するように配置されていることが見て取れる。つまり、ゲート電極37は行走査線36と一体に形成されている。また、行走査線36は「タングステンやクロム等の高融点金属からなる」ものであるから、ゲート電極37も同様に「タングステンやクロム等の高融点金属からなる」ものであるということができる。

オ 摘記した上記段落【0020】の記載を参照すると、第2の実施形態を説明する断面図である図6から、層間絶縁膜である窒化シリコン膜39及び酸化シリコン膜38を貫通し、ゲート絶縁膜である酸化シリコン膜35を貫通するように設けられたコンタクトホール40を介して、ソース電極41s及びドレイン電極41dが、それぞれ、多結晶シリコン膜34内に形成されたソース領域34s及びドレイン領域34dに接続されていることが見て取れる。

カ 摘記した上記段落【0020】の記載を参照すると、第2の実施形態を説明する断面図である図6から、多結晶シリコン膜34を保護する層間絶縁膜である、酸化シリコン膜38及び窒化シリコン膜39はいずれも、少なくとも、多結晶シリコン膜34の全面を覆う領域において形成されていることが見て取れる。

キ 摘記した上記段落【0020】の記載を参照すると、第2の実施形態を説明する平面図である図5と断面図である図6から、ソース領域34sに接続されるソース電極41sは、その平面形状が矩形状の導電体で、画素表示電極45と接続していることが見て取れる。また、ドレイン領域34dに接続されるドレイン電極41dは、列信号線42(図5の「12」は「42」の誤記と認められる。)として図5の紙面上下方向に延在しているので、配線の一部として形成されていることが見て取れる。

ク 摘記した上記段落【0020】では、ゲート電極37と一体に形成される行走査線36の製法について、「酸化シリコン膜35上に、タングステンやクロム等の高融点金属からなる行走査線36が配置される。」と記載されているのみで、その詳細は記載されていないが、摘記した上記段落【0015】では、第1の実施形態におけるゲート電極の製造方法について、「絶縁性の透明基板1上に、クロムやモリブデン等の高融点金属をスパッタ法により積層し、高融点金属膜21を形成する。この高融点金属膜21上に、所定の形状を有するレジスト層22を形成し、このレジスト層22をマスクとしてエッチングすることで、行走査線2と共にゲート電極3を形成する。」と記載されており、第1の実施形態と第2の実施形態のいずれにおいても、ゲート電極がクロム等の高融点金属から形成されていることから、第2の実施形態においても第1の実施形態と同様のスパッタ法が採用されているものと認められる。

(2)引用発明
以上、上記(1)のア?クの記載事項から、第2の実施形態について記載された部分に注目して総合すると、引用例1には、以下に示すアクティブマトリクス方式の液晶表示装置の製造方法(以下「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「絶縁性の透明基板31上に積層された窒化シリコン膜32及び酸化シリコン膜33の上に、多結晶シリコン膜34が積層され、
前記多結晶シリコン膜34が積層された前記酸化シリコン膜33上に、酸化シリコン膜35からなるゲート絶縁膜が積層され、
前記ゲート絶縁膜上に、スパッタ法によって、タングステンやクロム等の高融点金属からなるゲート電極37が、前記多結晶シリコン膜34と交差するように形成され、
前記ゲート電極37が形成された前記ゲート絶縁膜上に、層間絶縁膜である、酸化シリコン膜38及び窒化シリコン膜39が積層され、
前記層間絶縁膜と前記ゲート絶縁膜とを貫通するようにコンタクトホール40が設けられ、
前記コンタクトホール40を介して前記多結晶シリコン膜34内に形成されたソース領域34s及びドレイン領域34dのそれぞれに接続するソース電極41s及びドレイン電極41dを形成することを特徴とする、アクティブマトリクス方式の液晶表示装置の製造方法。」

(3)引用例2の記載事項
本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、平成25年8月30日付けで通知された拒絶理由において引用文献2として引用された刊行物である、特開平7-183532号公報(以下「引用例2」という。)には、「薄膜半導体装置の製造方法」(発明の名称)に関して、図2、3とともに、次の記載がある。

ア「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は薄膜半導体装置の製造方法に関する。より詳しくは、水素化処理による薄膜トランジスタの特性改善技術に関する。
【0002】
【従来の技術】図5を参照して、従来の水素化処理方法を簡潔に説明する。図示する様に、ガラス基板101の表面には多結晶シリコンからなる半導体薄膜102が所定の形状にパタニングされており素子領域を形成する。半導体薄膜102には不純物が高濃度に拡散されたソース領域Sとドレイン領域Dとが形成されており両者の間にチャネル領域Chが設けられる。チャネル領域Chの上方にはゲート酸化膜103及びゲート窒化膜104を介してゲート電極Gが形成されており、薄膜トランジスタ(TFT)を構成する。このTFTは第1層間絶縁膜105により被覆されている。この第1層間絶縁膜105に設けられた第1コンタクトホールを介して配線電極106がソース領域Sに電気接続されている。第1層間絶縁膜105の上にはさらに第2層間絶縁膜107が成膜される。この第2層間絶縁膜107の上にはITO等の透明導電膜からなる画素電極108がパタニング形成されており、第2コンタクトホールを介してTFTのドレイン領域Dに電気接続されている。第2層間絶縁膜107の表面にはオーバーパッシベーション膜としてP-SiN膜109がパタニング形成される。P-SiN膜109は比較的ポーラスな構造を有するとともに相当量の水素原子を含有しており水素供給源である。TFTを形成した後P-SiN膜109を成膜しフォーミングアニールを行なう事により、水素原子Hが拡散し第2層間絶縁膜107、第1層間絶縁膜105、ゲート酸化膜103等を通過して多結晶シリコンからなる半導体薄膜102中に導入できる。水素化処理によって導入された水素原子Hは多結晶シリコンの結晶粒界に拡散しダングリングボンドと結合する為、トラップ密度は小さくなり障壁ポテンシャルが低くなる。この為多結晶シリコンTFT内でのキャリア移動度が高くなりオン電流を増加できる。又トラップ準位が減少する事によりリーク電流を抑制できる。さらには、導入された水素原子の一部は半導体薄膜とゲート酸化膜の境界にある界面準位とも結合するので、トランジスタの閾値電圧を低くできる。」

イ「【0011】次に図2及び図3を参照して本発明にかかる薄膜半導体装置製造方法の具体例を詳細に説明する。先ず最初に図3に示した工程Aでガラス基板51を用意する。このガラス基板51の水素化処理を行ない予め欠陥準位を低減化しておく。水素化処理の具体的な方法は、前述した4通りのうちから1つを適宜選択すれば良い。本例では第3の方法を採用した。即ちCVD装置にガラス基板51を投入し、水素を含有する加圧ガス雰囲気下で加熱処理を行なった。次に工程Bで、引き続きCVD装置によりガラス基板51の表面に多結晶シリコンからなる半導体薄膜52を成膜した。さらに所定の形状にパタニングして素子領域とした。パタニングされた半導体薄膜52の上にゲート絶縁膜53を形成する。このゲート絶縁膜53はシリコン酸化膜及びシリコン窒化膜の2層構造からなる。ゲート絶縁膜53の上にゲート電極54をパタニング形成する。ゲート電極54は例えば低抵抗化された多結晶シリコンからなる。ゲート電極54をマスクとして例えばイオンインプランテーション等により不純物イオンを半導体薄膜52に注入しソース及びドレインとなる不純物領域を形成する。これにより薄膜トランジスタ55が得られる。次に工程Cで薄膜トランジスタ55を第1層間絶縁膜56で被覆する。第1層間絶縁膜56は例えばPSG等からなり、CVD法によりガラス基板51の全面に堆積される。PSGは吸湿性を有しており好適な水素供給源となる。さらに工程Dで第1層間絶縁膜56を選択的にエッチングし薄膜トランジスタ55のソース領域Sに連通するコンタクトホール57を開口する。
【0012】次に図3の工程Eに移り、第1層間絶縁膜56の上に全面的にアルミニウム等の金属膜を堆積する。この金属膜を所定の形状にパタニングし薄膜トランジスタ55のソース領域Sに導通する配線電極59を形成する。次に工程Fで、配線電極59を被覆する様に第2層間絶縁膜62を成膜する。この第2層間絶縁膜62は例えばPSGをCVD法等により堆積して得る。従ってこの第2層間絶縁膜62も好適な水素供給源となる。次に工程Gで第2層間絶縁膜62の上にプラズマ窒化膜(P-SiN)等からなるキャップ膜63を重ねて成膜する。このキャップ膜63を所定の形状にエッチングして薄膜トランジスタ55を選択的に被覆する様にする。この状態でフォーミングアニールを行なう事により、第1層間絶縁膜56及び第2層間絶縁膜62に含有された水素原子が薄膜トランジスタ55に導入されその特性が改善できる。この際ガラス基板51は予め欠陥準位が低減化されているので、薄膜トランジスタ55に導入された水素原子を吸収する割合を極めて低く抑える事が可能である。最後に工程Hで第2層間絶縁膜62及び第1層間絶縁膜56を連続的にエッチングし薄膜トランジスタ55のドレイン領域Dに連通するコンタクトホールを設ける。さらにITO等からなる透明導電膜を成膜し所定の形状にパタニングして画素電極64を形成する。この画素電極64はコンタクトホールを介して薄膜トランジスタ55のドレイン領域Dに電気接続する。」

以上、上記ア,イの記載事項を総合すると、引用例2には、ガラス基板51上に薄膜トランジス55を形成し、前記薄膜トランジスタ55が形成された前記ガラス基板を、ともに水素供給源となる第1層間絶縁膜56及び第2層間絶縁膜で被覆し、さらに、前記薄膜トランジスタ55を選択的に被覆するようにプラズマ窒化膜からなるキャップ膜63を形成し、フォーミングアニールを行うことにより上記薄膜トランジスタ55を水素化処理することを特徴とする、薄膜半導体装置の製造方法方法が記載されている。

2 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「絶縁性の透明基板31上に積層された窒化シリコン膜32及び酸化シリコン膜33」は、表面が酸化シリコンからなる絶縁表面となっているから、本願発明1の「絶縁表面」に相当している。

イ 引用発明の「多結晶シリコン膜34」、「酸化シリコン膜35からなるゲート絶縁膜」は、それぞれ、本願発明1の「半導体膜」、「ゲート絶縁膜」に相当している。

ウ 上記アとイの検討を勘案すると、引用発明の「絶縁性の透明基板31上に積層された窒化シリコン膜32及び酸化シリコン膜33の上に、多結晶シリコン膜34が積層され、
前記多結晶シリコン膜34が積層された前記酸化シリコン膜33上に、酸化シリコン膜35からなるゲート絶縁膜が積層され」ることは、本願発明1の「絶縁表面上に半導体膜、及び前記半導体膜上にゲート絶縁膜を形成」することに相当している。

エ 引用発明の「ゲート電極37」は、上記1(1)のエで検討したように、行走査線36という配線の一部として形成されているから、本願発明1の「ゲート配線」に相当しており、そのため、引用発明の「前記ゲート絶縁膜上に、スパッタ法によって、タングステンやクロム等の高融点金属からなるゲート電極37が、前記多結晶シリコン膜34と交差するように形成され」ることと、本願発明1の「タングステンを有するターゲットを用い且つスパッタガスとしてアルゴンを用い、スパッタ法によって、前記ゲート絶縁膜上に前記タングステンを有するゲート配線を形成」することとは、「スパッタ法によって、前記ゲート絶縁膜上にタングステンを有するゲート配線を形成」する点で共通している。

オ 引用発明の「層間絶縁膜」である「酸化シリコン膜38」及び「窒化シリコン膜39」は、いずれも、「前記ゲート電極37が形成された前記ゲート絶縁膜上」に形成されているから、それぞれ、本願発明1の「前記ゲート配線上に設けられ」た「第1の絶縁膜」及び「第2の絶縁膜」に相当している。また、引用発明の「前記層間絶縁膜」「を貫通するように」設けられた「コンタクトホール40」は、本願発明1の「第1の絶縁膜、及び前記第1の絶縁膜上に第2の絶縁膜」が有する「開口部」に相当している。

カ 上記1(1)のキで検討したように、引用発明の「ドレイン電極41d」は、列信号線42の一部として形成されているものであり、引用発明の「ソース電極41s」は、平面矩形状の導電体で、画素表示電極45と接続するためのものである。
一方、本願発明1の「ソース配線」と「ドレイン配線」は、本願明細書の段落【0130】の記載によれば、実施例8を開示した、図18の第2配線1854、1857のいずれかに対応するものと認められる。そして、図19(B)も参照すると、上記第2配線1854は図19(B)において紙面上下方向に延在する配線として形成されているものであり、上記第2配線1857は画素電極1862と接続するものである。ここで、第2配線1854、1857のいずれが、「ソース配線」と「ドレイン配線」であるかは、上記段落【0130】の記載からは明らかではない。しかしながら、実施例1を説明した図5において、画素TFTに接続する配線のうち、画素電極161に接続する配線がドレイン配線であり、他方の配線154がソース配線であることを勘案すれば、本願発明1の「ドレイン配線」は、画素電極1862と接続する第2配線1857に対応するものであり、本願発明1の「ソース配線」は、第2配線1854に対応するものと認められる。
また、本願明細書の段落【0030】には、「電極」とは「配線」の一部であり、「電極」という文言に「配線」は常に含められている、とも記載されているので、電極と配線には実質的な相違は無い。
以上の検討事項を総合すると、引用発明における、画素表示電極45に接続する「ソース電極41s」は、本願発明1における、画素電極に接続する「ドレイン配線」に相当するものであり、引用発明における「ドレイン電極41d」は、本願発明1の「ソース配線」に相当している。

キ 引用発明の「前記コンタクトホール40を介して前記多結晶シリコン膜34内に形成されたソース領域34s及びドレイン領域34dのそれぞれに接続するソース電極41s及びドレイン電極41dを形成する」ことと、本願発明1の「前記開口部を介して前記半導体膜と電気的に接続し、且つ前記ゲート配線と重なるソース配線またはドレイン配線を形成」することとは、上記イ、オ、カの検討事項を勘案すると、「前記開口部を介して前記半導体膜と電気的に接続するソース導電体またはドレイン配線を形成」する点で共通している。

キ 引用発明の「アクティブマトリクス方式の液晶表示装置」は、本願発明1の「半導体装置」に相当している。

そうすると、本願発明1と引用発明1の一致点と相違点は以下のとおりとなる。
≪一致点≫
絶縁表面上に半導体膜、及び前記半導体膜上にゲート絶縁膜を形成し、
スパッタ法によって、前記ゲート絶縁膜上にタングステンを有するゲート配線を形成し、
前記ゲート配線上に設けられ且つ開口部を有する第1の絶縁膜、及び前記第1の絶縁膜上に第2の絶縁膜を形成し、
前記開口部を介して前記半導体膜と電気的に接続するソース配線またはドレイン配線を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。

≪相違点≫
≪相違点1≫
本願発明1と引用発明は、いずれも、「ゲート配線」が「スパッタ法」で形成される点で共通しているものの、本願発明1の「スパッタ法」は、「タングステンを有するターゲットを用い且つスパッタガスとしてアルゴンを用い」るものであるのに対して、引用発明の「スパッタ法」は、その詳細が不明である点。

≪相違点2≫
本願発明1では、「ソース配線またはドレイン配線」は「前記ゲート配線と重なる」ように形成されるのに対して、引用発明では、「ソース電極41s」又は「ドレイン電極41d」のいずれかが、本願発明1の「ゲート配線」に相当する「ゲート電極37」と重なるように形成する点が特定されていない点。

≪相違点3≫
本願発明1においては、「前記第2の絶縁膜は、前記ゲート配線と前記ソース配線またはドレイン配線とが重なる領域に選択的に形成される」ものであるのに対して、引用発明においては、本願発明1の「第2の絶縁膜」に相当する「窒化シリコン膜39」は、「前記ゲート電極37が形成された前記ゲート絶縁膜上に」形成されており、特定の領域に選択的に形成されるものではない点。

3 判断
(1) 相違点2について
上記相違点のうち、相違点2及び相違点3について検討する。
最初に、相違点2について検討する。
アクティブマトリクス方式の液晶表示装置の技術分野において、画素領域のTFT(薄膜トランジスタ)のソース電極又はドレイン電極のうち、画素電極に接続されない側の電極を、当該TFTの少なくともゲート電極と重なるように形成することは、以下の周知例1、2に記載されているように、当業者には周知の事項である。

・本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、拒絶査定において周知の文献として引用された刊行物である、特開平10-301100号公報(以下「周知例1」という。)には、「液晶装置及びその製造方法、並びに投写型表示装置」(発明の名称)に関して、図4、5とともに、次の記載がある。

ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は液晶装置、投写型表示装置、及び液晶装置の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、薄膜トランジスタ(以下、TFTと称す。)を画素スイッチング用素子として用いた液晶装置における遮光構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、アクティブマトリクス駆動方式の液晶装置としては、ガラス基板上にマトリクス状に画素電極を形成するとともに、各画素電極に対応してアモルファスシリコン膜やポリシリコン膜を半導体層とした画素スイッチング用TFTを形成し、各画素電極にTFTを介して電圧を印加して、液晶を駆動する構成が実用化されている。画素スイッチング用にポリシリコンTFTを用いた液晶装置は、画面表示部を駆動、制御するためのシフトレジスタ回路等の周辺駆動回路を構成する駆動回路用のTFTを画素スイッチング用TFTとほぼ同一工程で形成することが可能なため、高集積化に適しているとして注目されている。
【0003】アクティブマトリクス駆動方式の液晶装置にあっては、表示の高精細化を図ることを目的に対向基板にブラックマトリクス(あるいはブラックストライプ)と呼ばれるクロム膜あるいはアルミニウム膜等で形成した遮光膜が形成されている。また、この遮光膜を画素スイッチング用TFTと重なるように形成し、対向基板側から入射される光が画素スイッチング用TFTのチャネル領域及びその接合領域に光が届いて画素スイッチング用TFTにリーク電流が流れないような構成をとっている。」

イ「【0048】図5は図4(B)のA-A’断面図である。
【0049】画素スイッチング用TFT102は、図4(B)及び図5からわかるように、走査線2(ゲート電極)と、走査線2からの電界によりチャネルが形成されるチャネル領域1cと、走査線2とチャネル領域1cとの間に形成されたゲート絶縁膜12と、データ線3(ソース電極)に第2層間絶縁膜13のコンタクトホール5を介して電気的に接続される高濃度ソース領域1aと画素電極14に第2層間絶縁膜13及び第3層間絶縁膜15に形成されたコンタクトホール4を介して電気的に接続された高濃度ドレイン領域1bとを備えている。さらに、画素スイッチング用TFT102は、チャネル領域1cと高濃度の不純物イオンを打ち込んだソース領域1aとの接合部、及びチャネル領域1cと高濃度の不純物イオンを打ち込んだドレイン領域1bとの接合部の各々に低濃度の不純物イオンを打ち込んだ低濃度ソース・ドレイン領域1d、1eが形成されたLDD(Lightly Doped Drain)構造で構成されている。
【0050】本形態において、TFT102はデータ線3の下方を利用して構成され、走査線2のうち少なくともゲート電極、すなわち画素スイッチング用TFT102のチャネル領域1c及び低濃度ソース・ドレイン領域1d、1eはデータ線3に覆われた状態にある。これにより、対向基板31側からの入射光が画素スイッチング用TFT102のチャネル領域1c及び低濃度ソース・ドレイン領域1d、1eに照射されることがないため、光によるTFTのリーク電流を低減できる。以下に述べる実施の形態や改良例の基本的な構成は、上述の構成と同様である。」

・本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、拒絶査定において周知の文献として引用された刊行物である、特開平11-84422号公報(以下「周知例2」という。)には、「液晶表示パネル」(発明の名称)に関して、図9とともに、次の記載がある。

ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、TFT(薄膜トランジスタ)駆動によるアクティブマトリクス駆動方式の液晶表示パネルの技術分野に属し、特に、液晶プロジェクタ等に用いられる、TFTの下側にブラックマトリクスを設けた形式の液晶表示パネルの技術分野に属する。」

イ【0038】ここで、一般には、チャネルが形成されるp-Si層32は、光が入射するとp-Siが有する光電変換効果により光電流が発生してしまいTFT30のトランジスタ特性が劣化するが、本実施の形態では、対向基板2には各TFT30に夫々対向する位置に複数のブラックマトリクス23が形成されているので、入射光が直接にp-Si層32に入射することが防止される。更にこれに加えて又は代えて、ゲート電極31を上側から覆うようにソース電極35(信号電極)をAl等の不透明な金属薄膜から形成すれば、ブラックマトリクス23と共に又は単独で、p-Si層32への入射光(即ち、図1で上側からの光)の入射を効果的に防ぐことが出来る。」

ウ「【0065】次に図9の工程(8)に示すように、第2層間絶縁層42の上に、スパッタリング処理等により、Al等の低抵抗金属や金属シリサイド等を、約1000?5000Åの厚さに堆積し、更にフォトリソグラフィ工程、ウエットエッチング工程等により、ソース電極35(信号電極)を形成する。
【0066】この場合、ソース電極35(信号電極)を、ブラックマトリクス23が覆う領域の一部又は全部に対応する遮光膜として配置すれば、Al等の金属膜や金属シリサイド膜の持つ遮光性により、ブラックマトリクス23の一部又は全部を省略することも可能となる。この場合特に、対向基板2とTFTアレイ基板1との貼り合わせずれによる画素開口率の低下を防ぐことが出来る利点がある。
【0067】次に図9の工程(9)に示すように、ソース電極35(信号電極)上を覆うように、例えば、常圧又は減圧CVD法やTEOSガス等を用いて、NSG、PSG、BSG、BPSGなどのシリケートガラス膜、窒化膜や酸化シリコン膜等からなる第3層間絶縁層43を形成する。第3層間絶縁層43の層厚は、約5000?15000Åが好ましい。或いは、このようなシリケートガラス膜に代えて又は重ねて、有機膜やSOG(スピンオンガラス)をスピンコートして平坦な膜を形成してもよく、又はCMP処理を施してもよい。
【0068】更に、画素電極11とドレイン領域36とを電気的接続するためのコンタクトホール38を、反応性エッチング、反応性イオンビームエッチング等のドライエッチングにより形成する。この際、反応性エッチング、反応性イオンビームエッチングのような異方性エッチングにより、コンタクトホール38を開口した方が、開口形状をマスク形状とほぼ同じにできるという利点が得られる。但し、ドライエッチングとウエットエッチングとを組み合わせて開口すれば、コンタクトホール38をテーパ状にできるので、配線接続時の断線を防止できるという利点が得られる。
【0069】次に図9の工程(10)に示すように、第3層間絶縁層43の上に、スパッタリング処理等により、ITO膜等の透明導電性薄膜を、約500?2000Åの厚さに堆積し、更にフォトリソグラフィ工程、ウエットエッチング工程等により、画素電極11を形成する。尚、当該液晶表示パネル100aを反射型の液晶表示装置に用いる場合には、Al等の反射率の高い不透明な材料から画素電極11を形成してもよい。」

したがって、アクティブマトリクス方式の液晶表示装置の技術分野において、画素領域のTFTに入射する光によって、TFTにリーク電流が発生したり、TFTの特性が劣化するという課題に対して、TFTのソース電極又はドレイン電極のうち、画素電極に接続されない側の電極をゲート電極に重ねるように形成するという技術は、上記周知例1,2に記載されているように周知の技術であり、引用発明も、アクティブマトリクス方式の液晶表示装置の画素領域のTFTについての発明であるから、引用発明が上記課題を有することは、当業者であれば直ちに察知し得たことである。
したがって、引用発明において、画素表示電極に接続されない側の電極である「ドレイン電極41d」を「ゲート電極37」と重なるように形成すること、即ち、相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2) 相違点3について
相違点2についての上記検討に基づいて、引用発明において、「ドレイン電極41d」を「ゲート電極37」と重なるように形成した場合において、仮に、本願発明1の「第2の絶縁膜」に相当する「窒化シリコン膜39」を、「ドレイン電極41d」と「ゲート電極37」が「重なる領域に選択的に形成される」ものとする。
このとき、「窒化シリコン膜39」は、「多結晶シリコン膜34」の全体を覆うものではなくなり、「多結晶シリコン膜34」一部のみを覆うものとなる。
しかしながら、上記1(1)イで摘記した引用例1の段落【0015】には、「(e)第5工程・・・酸化シリコン膜8及び窒化シリコン膜9を形成した後、窒素雰囲気中で加熱し、窒化シリコン膜9内に含まれる水素を多結晶シリコン膜6へ導入する。これにより、多結晶シリコン膜6内の結晶欠陥が水素で埋められる。」と記載されているように、第1の実施形態において層間絶縁膜として形成される「窒化シリコン膜9」は、単に層間絶縁膜として機能するのみならず、多結晶シリコン膜9内の結晶欠陥を埋めるための水素の供給源として機能しているものである。そして、引用例1の第2の実施形態の記載に基づいて認定された引用発明においても、「層間絶縁膜」として形成される「窒化シリコン膜39」は、上記「窒化シリコン膜9」と同様に、多結晶シリコンの結晶欠陥を埋めるために水素の供給源としての機能を有するものと認められる。
したがって、引用発明において、仮に、「窒化シリコン膜39」を、「ドレイン電極41d」と「ゲート電極37」が「重なる領域に選択的に形成される」ものとすると、「窒化シリコン膜39」は「多結晶シリコン膜34」の一部のみを覆うものとなるので、「多結晶シリコン膜34」のうち「窒化シリコン膜39」によって覆われなくなった箇所に含まれる結晶欠陥については、水素によって十分に埋めることができなくなってしまい、薄膜トランジスタの特性の十分な改善がなされないものとなる。
したがって、引用発明において、「窒化シリコン膜39」を、「ドレイン電極41d」と「ゲート電極37」が「重なる領域に選択的に形成される」ものとすることには、阻害要因が存在する。

以上から、引用発明において、「ドレイン電極41d」を「ゲート電極37」と重なるように形成した場合において、「窒化シリコン膜39」を「ドレイン電極41d」と「ゲート電極37」が「重なる領域に選択的に形成される」ものとすること、すなわち、上記相違点2及び相違点3に係る本願発明1の構成を同時に採用することが、当業者にとって容易になし得たことであるということはできない。

なお、引用例2には、上記1(3)に記載したように、「ガラス基板51上に薄膜トランジス55を形成し、前記薄膜トランジスタ55が形成された前記ガラス基板を、ともに水素供給源となる第1層間絶縁膜56及び第2層間絶縁膜で被覆し、さらに、薄膜トランジスタを選択的に被覆するようにプラズマ窒化膜からなるキャップ膜63を形成し、フォーミングアニールを行うことにより上記薄膜トランジスタ55を水素化処理することを特徴とする、薄膜半導体装置の製造方法方法」が記載されているところ、上記「薄膜トランジスタを選択的に被覆するように」形成された「キャップ層63」は、ゲート電極54とソース領域Sに導通する配線電極59の間、又は、ゲート電極54とドレイン領域Dに電気接続された画素電極64との間のいずれに形成されたものでもない。したがって、引用例2には、薄膜トランジスタのゲート配線(ゲート電極)上に形成された第1の絶縁膜の上に形成された第2の絶縁膜を、「前記ゲート配線と前記ソース配線またはドレイン配線とが重なる領域に選択的に形成される」ように形成することについては記載も示唆もされていないので、引用例2の記載を考慮したとしても、引用発明において、相違点3に係る本願発明1の構成を採用することが、当業者にとって容易になし得たことであるということはできない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3) 本願発明2?7について
本願請求項2は、本願発明1を特定する全ての記載である「絶縁表面上に半導体膜、及び前記半導体膜上にゲート絶縁膜を形成し、
タングステンを有するターゲットを用い且つスパッタガスとしてアルゴンを用い、スパッタ法によって、前記ゲート絶縁膜上に前記タングステンを有するゲート配線を形成し、」及び「前記ゲート配線上に設けられ且つ開口部を有する第1の絶縁膜、及び前記第1の絶縁膜上に第2の絶縁膜を形成し、
前記開口部を介して前記半導体膜と電気的に接続し、且つ前記ゲート配線と重なるソース配線またはドレイン配線を形成し、
前記第2の絶縁膜は、前記ゲート配線と前記ソース配線またはドレイン配線とが重なる領域に選択的に形成されることを特徴とする半導体装置の作製方法。」を含み、さらに、「加熱処理又はレーザ処理により、前記半導体膜に含まれる不純物元素の活性化を行うとともに、前記ゲート配線の表面に前記タングステンの窒化物を形成し、」なる形成工程を含むものであるところ、本願発明1が、上記のように、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本願発明2も、本願発明1と同様に、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

また、本願発明3?7は、請求項1又は請求項2を直接または間接に引用して、これをさらに限定する発明であるところ、本願発明1及び本願発明2が、上記のように、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本願発明3?7も、本願発明1及び本願発明2と同様に、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1?本願発明7はいずれも、引用例2と周知文献1、2の記載事項を勘案したとしても、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-06 
出願番号 特願2011-193912(P2011-193912)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大橋 達也  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 池渕 立
加藤 浩一
発明の名称 半導体装置の作製方法  

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