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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1285299
審判番号 不服2011-16777  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-04 
確定日 2014-03-05 
事件の表示 特願2009- 1591「二本鎖RNA阻害を用いる遺伝子機能の評価」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月28日出願公開、特開2009-112311〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、1999(平成11年)7月2日(パリ条約による優先権主張1998年7月3日 英国、1998年12月9日 英国)を国際出願日とする特願2000-558236号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成21年1月7日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明は、平成25年9月9日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
非ヒト生物中にdsRNAまたはdsRNAを産生できるDNAを導入する方法であって、適当な転写因子がプロモーターまたはプロモーター類に結合した場合にDNA配列の二本鎖RNAへの転写が開始できるように該DNA配列に対して配向した該プロモーターまたはプロモーター類を含む発現ベクターを含む適当な微生物を該生物に摂取させるか、または該発現ベクターを直接、該生物に摂取させることを特徴とする方法。」(以下、「本願発明」という。)

2.当審における拒絶の理由
当審において、平成25年5月1日付けで通知した拒絶の理由の1つは、本願の発明の詳細な説明には、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、この出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものである。

3.本願明細書の記載
本願明細書には、dsRNAまたはdsRNAを産生できるDNAの導入に関して、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付与した。

ア.「 本発明のさらなる態様には、植物害虫の蔓延を軽減する方法であって、a)該害虫から、その生存、生長、増殖に臨界的なDNA配列を同定し、b)工程a)からの配列またはそのフラグメントを適当なベクター中、プロモーターに対して、該プロモーターに適当な転写因子が結合すると、プロモーターが該DNA配列のRNAまたはdsRNAへの転写を開始できるような配向にクローニングし、該ベクターを植物に導入することを特徴とする方法を提供する。
かくして、有利には、この本発明の方法は、植物害虫蔓延軽減のための特に選択的なメカニズムを提供し、植物害虫が植物を餌とするような、植物の寄生的蔓延のような場合には、その害虫がその植物を摂食すると、害虫は植物中で発現したdsRNAを消化し、害虫の生長、生存、増殖または再生に臨界的な害虫内のDNAの発現を阻害する。」(段落【0011】)

イ.「dsRNA産生ベクターのT7RNAポリメラーゼ産生虫のゲノムへの安定な組み込み
以下の特徴を内蔵するイー・コリベクターを構築できる:相互に対抗する2つのT7プロモーターと、その間にクローンされた制限部位または多クローニング部位。さらに、このベクターは、シー・エレガンスsup35ゲノムDNAを含むことができ、図8に示すごとく、種々の間隔で幾つかの終止コドンを含み、該sup35ゲノムDNAフラグメントから完全長のタンパク質が発現できないように操作することができる。いずれのcDNAまたはDNAフラグメントも2つのT7プロモーター間の多クローニング部位にクローンすることができる。このベクターを、T7RNAポリメラーゼを発現するシー・エレガンス株に導入すると、2つのT7プロモーターの間にクローンされたcDNAまたはDNAフラグメントが転写され、クローンされたフラグメントからdsRNAが生成する。・・・さらにまた、得られた虫は、2つのプロモーターの間にクローンされたDNAフラグメントから二本鎖RNAを安定に産生することができる。この虫は、遺伝子の機能の減少した、2つのT7プロモーターの間にフラグメントがクローンされた安定なトランスジェニク虫系統と考えることができる。
DNAは、注射、衝撃(ballistic)形質転換、DNA溶液への浸漬、細菌での飼育を含む幾つかの技術によって虫にデリバリー(delivery)できる。」(段落【0025】)

ウ.「実施例AおよびBで記載した2つのT7プロモーターの間にクローンされたシー・エレガンスのcDNAまたはcDNAの一部あるいはESTまたはPCRフラグメントを内蔵するプラスミドDNAを、標準的な技術でT7RNAポリメラーゼ虫に導入する。・・・ 新しい方法でDNAを虫に導入できる。その1つは、イー・コリによるDNAのデリバリーである。この場合、階層的にプールされたライブラリーを動物に与える。線虫の内臓におけるイー・コリDNAの消化を防止するため、好ましくは、nuc-1(e1392)のようなDNAse欠損シー・エレガンスを使用する。この操作は、他の技術の形質転換効率と独立しており、一般に、より迅速で手間がかからないので、最も好ましいものの1つである。」(段落【0028】)

エ.「実施例2
シー・エレガンス筋肉組織におけるT7RNAポリメラーゼ発現用ベクターの構築
・・・
SERCAプロモーターの調節下のシー・エレガンスにおけるT7RNAポリメラーゼの発現および機能をテストするため、SERCAプロモーターの制御下でT7RNAポリメラーゼをコードするpGN108をシー・エレガンスに注射した。テストベクターを共注射した。このテストベクターは、T7プロモーターの制御下、GFPをコードする(図13のpGN401)。プラスミドpGN401は、T7プロモーターを生成するSacI/AgeI開裂FireベクターpPD97.82に2つのオーバーラップ・オリゴoGN41(CCCGGGATTAATACGACTCACTATA)およびoCN42(CCGGTATAGTGAGTCGTATTAATCCCGGGAGCT)を挿入することにより構築した。さらに、選択マーカーを共注射して形質転換体を選択した(rol6、pRF4)。後者の選択ベクターpRF4は当業者によく知られている。トランスジェニックF1はrol6表現型を示すので、容易に単離できた。これらのトランスジェニック・シー・エレガンスは全て、咽頭、陰門筋肉、尾および体壁筋肉でGFPを発現した。このデータは、明らかに、T7RNAポリメラーゼがSERCAプロモーターの調節下で機能的に発現され、発現されたT7RNAポリメラーゼがpGN401に存在するT7プロモーターに結合し、GFP遺伝子の転写を開始し、ついで、機能的に発現し、SERCがT7RNAポリメラーゼの発現を誘導した筋肉組織に蛍光をもたらすことを示す。」(段落【0034】)

オ.「実施例4
・・・
RNA妨害によるunc-22発現の阻害は「ひきつり(twitching)」表現型をもたらす。
unc22cDNA(エクソン22)を、全ての組織でRNA配列を発現できるlet858プロモーターを含むpPD103.05(Fire nrL2865)中にセンスおよびアンチセンス配向にクローンした。得られたプラスミドをpGN205(図19a)oyobipGN207(図19b)と命名した。これらの構築物を選択マーカー(rol-6、GFP)と共にシー・エレガンスに導入した。トランスジェニックF1個体(rol-6またはGFPを発現)は「ひきつり」表現型を示し、RNAiがトランスジェニックDNAからのRNAの内因性転写によって介在できることが示された。このRNAi表現型は選択マーカーと共にさらなる子孫に共に分離した。これは、恒久的RNAi表現型を有するシー・エレガンス系統をもたらした。」(段落【0038】)

4.当審の判断
(1)本願発明について
審判請求人は、審判請求時の補正により「与える」を「摂取」と補正した上で、審判請求書の請求の理由において、『「摂取」とは、「食物等を嚥下や吸収により取り込むことを意味し、典型的には、消化器官(例えば、胃や腸)を介して体内に取り込むことである』と述べていることから、本願発明における「摂取」は、食物等を嚥下や吸収により取り込むことであると解することができる。
また、本願発明において、dsRNAまたはdsRNAを産生できるDNAを導入する「非ヒト生物」は、ヒト以外のあらゆる生物を包含するものである。

(2)判断
本願明細書には、dsRNAまたはdsRNAを産生できるDNAの導入について、dsRNAを発現した植物を虫に摂食させる方法(記載事項ア)、発現ベクターを含む微生物中で虫を飼育する方法、すなわち、発現ベクターを含む微生物を虫に「摂取」させる方法(記載事項イ及びウ)が導入方法として記載はされているものの、dsRNAを産生できるDNAが導入され、ひいては、RNAiが生じたことを確認した唯一の実施例である実施例4では、単に発現ベクターをシー・エレガンスに導入したと記載されているのみであって、具体的な導入方法は記載されていない(記載事項オ)。
また、実施例2には、dsRNAではなく、ポリメラーゼを発現できるベクターの導入ではあるが、注射により発現ベクターをシー・エレガンスへ導入したことが具体的に記載されているが、「摂取」による導入は記載されていない(記載事項エ)。

このように、発明の詳細な説明には、dsRNAを発現するベクターを含む微生物を「摂取」することにより、または、当該発現ベクターを直接「摂取」することにより、dsRNAまたはdsRNAを産生できるDNAが非ヒト生物に導入されることを確認した実施例等の具体的な記載は存在しない。

そして、dsRNAを発現するベクターを含む微生物を「摂取」した、ヒト以外のあらゆる生物において、dsRNAまたはdsRNAを産生できるDNAが導入され、ひいてはRNAiが生じること、及び、dsRNAを発現するベクターを直接「摂取」した、ヒト以外のあらゆる生物において、dsRNAまたはdsRNAを産生できるDNAが導入され、ひいてはRNAiが生じることは本願出願時における技術常識であったとは認められない。
そうすると、「摂取」によるdsRNAまたはdsRNAを産生できるDNAの導入について具体的に確認された記載が存在しない本願の発明の詳細な説明に接した当業者は、本願発明を実施することができるように記載されているとは認識しないものである。
よって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

(2)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成25年9月9日付け意見書において、発現ベクターを含む微生物を非ヒト生物に「摂取」させる実施の形態については、本願明細書の【0020】等に記載されているから、発明の詳細な説明は、本願発明を使用できるように記載されていることを主張する。

審判請求人が当該主張の根拠として挙げた段落【0020】には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「 イー・コリまたはDNAライブラリーの適応
T7RNA産生株:
標準的な株はBL21(DE3):F-omoT[lon]hsds(r-m-;およびE. coli B株)λ(DE3)である。最終的に、BL21(DE3)の変異体が使用できるが、BL21(DE3)pLysSを使用する。
他のいずれかのT7RNAポリメラ-ゼ産生イー・コリも、入手できれば、構築する必要がある。これは、商業的に入手できるファージを用いて容易に形成でき、この場合は、λCE6ベクター(PROMEGAより提供される)を用いる。ほとんど全てのイー・コリ株が、このファージでトランスフェクトでき、T7RNAポリメラ-ゼを産生する。
RNAseIII突然変異体イー・コリ:
種々の株が原理的に入手でき、我々は、第1の実験に使用するため、AB301-105株:rna-19、suc-11、bio-3、gdhA2、his95、rnc-105、relA1、spoT1、metB1(Kinder et al. 1973, Mol. Gen. Genet, 126:53)を選択した。しかし、他の株もより適当でありうる。この株をλCE6で感染し、T7産生変異体を構築する。
野生型シー・エレガンス虫は細菌プールで生長できる。細菌はT7RNAポリメラ-ゼを発現している。これにより、シー・エレガンスの内臓に大量のdsRNAをもたらし、該生物中に拡散し、発現の阻害をする。このライブラリーを幾つかの表現型のスクリーニングに用いることができる。この技術は、ある経路における適切な遺伝子を、公知のシー・エレガンス技術より、より迅速に検出できる利点を有する。さらに、興味ある表現型を見出したら、原因する遺伝子を容易にクローンすることができる。
階層的プールを使用することにより、プールの適切なクローンを第2のスクリーニングにおいて容易に見出すことができる。このクローンに挿入したDNAを、ついで、配列決定できる。この実験は、1工程で遺伝的および生化学的データをもたらす。
野生型シー・エレガンスは、表現型、薬物耐性および薬物感受性をスクリーニングするために化合物と組み合わせることができる。シー・エレガンス株は、突然変異株でよく、増強された表現型、減少した表現型または新しい表現型についてスクリーニングされる。シー・エレガンス株は突然変異株でよく、ライブラリースクリーニングを化合物と組み合わせることができる。したがって、薬剤耐性、薬剤安定性、増強された表現型、減少した表現型または新しい表現型についてスクリーニングできる。イー・コリ株はBL21(DE3)のようなT7RNAポリメラーゼ発現株のいずれでもよいが、例えば、RNAseIII陰性のうような特別なイー・コリ株を使用することにより、二本鎖RNAの形成が促進されうる。RNAseIIIはdsRNAの特異的なループを認識する。結局、RNAseIII以外のRNAseを欠失したイー・コリまたは1つ以上のRNAseを欠失したイー・コリを使用できる。T7RNAポリメラーゼ産生イー・コリ株に利用できる大部分の公知のイー・コリ株および構築物は、一般に、誘導的プロモーターを含む。このようにして、T7RNAポリメラーゼの産生、すなわち、dsRNAの産生が調節される。有利には、この特徴は生長の特定の段階でシー・エレガンス虫に「パルス」摂取させるために使用できる。これらの虫は非誘導イー・コリ株で生長する。虫が目的の段階に達したら、該細菌におけるT7RNA産生が誘導される。これにより該動物のライフサイクルのいずれか点におけるいずれの遺伝子の機能も研究できる。」

当該段落の記載において、シー・エレガンスへの遺伝子導入に関し、「有利には、この特徴は生長の特定の段階でシー・エレガンス虫に「パルス」摂取させるために使用できる。」と記載されているが、「パルス」摂取とは、本願出願時の技術常識からみて、電気パルスにより細胞膜に穴を空け、遺伝子を導入するエレクトロポレーションのことであると解され、「摂取」、すなわち、嚥下や吸収による導入であるとは読み取れない。
また、当該段落における「野生型シー・エレガンス虫は細菌プールで生長できる。細菌はT7RNAポリメラ-ゼを発現している。これにより、シー・エレガンスの内臓に大量のdsRNAをもたらし、該生物中に拡散し、発現の阻害をする。」という記載は、T7RNAポリメラーゼを発現している細菌をシー・エレガンスが摂食し、その内臓においてT7RNAポリメラーゼが機能して、dsRNAが産生されることを記載したものと解されるが、dsRNAを発現するベクターをシー・エレガンスに導入する方法は記載されておらず、当該ベクターが「摂取」により導入されたものであるとは認められない。
そもそも、当該段落は現在形で各種手法を記載したものであって、dsRNAまたはdsRNAを産生できるDNAを「摂取」により導入できることを具体的に示したものではない。
以上のことから、発明の詳細な説明の段落【0020】を根拠にして、本願発明を使用できるように記載されているという審判請求人の主張は採用できない。

5.まとめ
以上のとおり、請求項1に関して、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-01 
結審通知日 2013-10-08 
審決日 2013-10-21 
出願番号 特願2009-1591(P2009-1591)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福澤 洋光  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 田中 晴絵
冨永 みどり
発明の名称 二本鎖RNA阻害を用いる遺伝子機能の評価  
代理人 冨田 憲史  
代理人 山崎 宏  
代理人 稲井 史生  
代理人 田中 光雄  
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