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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09K 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C09K |
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管理番号 | 1285323 |
審判番号 | 不服2012-22106 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-11-07 |
確定日 | 2014-03-05 |
事件の表示 | 特願2007-503929「性能が向上した白色有機発光デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月 6日国際公開、WO2005/093008、平成19年10月25日国内公表、特表2007-529597〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2005年3月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年3月16日,米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年11月14日に翻訳文が提出され、平成20年2月26日付けで手続補正書が提出され、平成23年8月23日付け拒絶理由通知に対して、平成24年2月29日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月7日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 原審の拒絶査定の概要 原審において、平成23年8月23日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。 <拒絶理由通知> 「…… IV. この出願は、明細書の記載が下記12)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 V. この出願は、明細書の記載が下記12)の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 …… 理由IV、Vについて 請求項1?20、発明の詳細な説明 12) 請求項1に記載された一般式(I)、及び請求項10に記載された一般式(III)は、非常に多くの種類の化学構造を包含しており、また、請求項13?14にも、多くの種類の化合物が列記されているが、一般に、化学物質の分野においては、化合物の化学構造の違いがその性質に予想外の変化をもたらすことが知られているから、一般式(I)、(III)の化合物及び請求項13?14の化合物は、様々な性質の化合物を包含するものである。これに対して、本願明細書において実際に白色発光デバイスの製造に用いられ、その発光特性の実験データが示されているのは、黄色発光ドーパントInv-1及びInv-2の2種類の化合物だけであり、これらの限定的な例に基づいて、本願の請求項1?17に相当する広範な範囲の化合物を用いる場合まで、同様の性質を有するものと理解することはできない。そして、Inv-1、Inv-2以外の化合物を用いて実施例と同様の発光性能を備えた実用的な白色発光デバイスを製造しようとすれば、当業者といえども、発光性化合物の化学構造の選択、相溶性やエネルギー移動に適したホスト化合物の探索、他の有機層の材料との相性、さらには製造条件の探索等のために過度の試行錯誤を強いられることになるものと認められる。よって、本願の請求項1?20は発明の詳細な説明に実質的に記載したものとすることができず、また、本願の発明の詳細な説明は当業者が請求項1?20に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」 <拒絶査定> 「この出願については、平成23年8月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由III?Vによって、拒絶をすべきものです。 なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 [備考] …… 理由IV、Vについて 請求項1?12、発明の詳細な説明 12) 請求項1に記載された一般式(I)、及び請求項3に記載された一般式(III)は、非常に多くの種類の化学構造を包含しており、また、請求項6?7にも、多くの種類の化合物が列記されているが、一般に、化学物質の分野においては、化合物の化学構造の違いがその性質に予想外の変化をもたらすことが知られているから、一般式(I)、(III)の化合物及び請求項6?7の化合物は、様々な性質の化合物を包含するものであり、その実際の性質は素子を製造し、実験により発光特性を確認してみなければ知ることができないものである。これに対して、本願明細書において実際に白色発光デバイスの製造に用いられ、その発光特性の実験データが示されているのは、黄色発光ドーパントInv-1及びInv-2の2種類の化合物だけであり、出願時の技術常識に照らしても、これらの限定的な例に基づいて、本願の請求項1?12に相当する広範な範囲の化合物を用いる場合まで、同様の性質を有するものと理解することはできない。そして、Inv-1、Inv-2以外の化合物を用いて実施例と同様の発光性能を備えた実用的な白色発光デバイスを製造しようとすれば、当業者といえども、発光性化合物の化学構造の選択、相溶性やエネルギー移動に適したホスト化合物の探索、他の有機層の材料との相性、さらには製造条件の探索等のために過度の試行錯誤を強いられることになるものと認められる。よって、本願の請求項1?12は発明の詳細な説明に実質的に記載したものとすることができず、また、本願の発明の詳細な説明は当業者が請求項1?12に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 出願人は平成24年2月29日付け意見書において、「式(1)で規定されるナフタセン化合物は、実施例で実証されたInv-1及びInv-2で十分にサポートされ・・・当業者であれば、式(1)に包含されるナフタセンはその共通する構造部分によって、Inv-1及びInv-2で実証された特性を再現するであろうことを予測することができます。」と主張しているが、式(1)は不特定の置換基を含むものであるし、2つの化合物の結果をもって、直ちに発光特性の再現上有用な「共通する構造部分」を認識できるものでもないから、出願人の主張を採用することはできない。 第3 当審の判断 平成24年2月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、原査定の拒絶理由(特に理由IV、V)が成立するか否かにつき、以下検討する。 1 理由IV (1)本願特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項 ア 特許請求の範囲に記載された発明 本願の特許請求の範囲には、その請求項1ないし12に項分け記載されて、そのうち、請求項3には、以下の発明(以下「本願発明」という。)が記載されている。 「【請求項3】 白色光を出す有機発光ダイオード(OLED)デバイスであって、 a)アノードと; b)このアノードの上に配置された正孔輸送層と; c)この正孔輸送層の上に配置された青色発光層と; d)この青色発光層の上に配置された電子輸送層と; e)この電子輸送層の上に配置されたカソードとを備え; f)上記正孔輸送層が、上記青色発光層の全体または一部と接触している層を備えていて、一般式(III)の発光ナフタセン化合物: 【化2】 (ただし、 i)上記ナフタセンは、少なくとも1個のフッ素基またはフッ素含有基を含み; ii)正確に2個のフッ素含有基が存在している場合には、その基がそれぞれ5位と12位に位置せず、それぞれ6位と11位にも位置していない)を含むことを特徴とするデバイス。」 イ 明細書に記載された事項 本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 本発明は、白色光を出す有機発光OLEDデバイスに関する。」 (イ)「【背景技術】 【0002】 OLEDデバイスは、基板と、アノードと、有機化合物からなる正孔輸送層と、適切な発光材料(ドーパントとしても知られる)を含む有機発光層と、有機電子輸送層と、カソードを備えている。OLEDデバイスが魅力的なのは、駆動電圧が低く、高輝度で、視角が広く、フル・カラーのフラット発光ディスプレイが可能だからである。Tangらは、この多層OLEDデバイスをアメリカ合衆国特許第4,769,292号と第4,885,211号に記載している。 【0003】 高効率の白色発光OLEDデバイスは、紙のように薄い光源、LCDディスプレイのバックライト、自動車の室内灯、オフィスの照明など、いろいろな用途における低コストの代替手段と考えられている。白色発光OLEDデバイスは、明るくて、高効率であり、しかも一般に国際照明委員会(CIE)の色度座標がほぼ(0.33, 0.33)である必要がある。いずれにせよ、この明細書では、白色光は、白い色を持つとユーザーが認識する光である。 【0004】 以下に示す特許明細書と刊行物には、一対の電極間に正孔輸送層と有機発光層を備えていて白色光を出すことのできる有機OLEDデバイスの製造方法が開示されている。 【0005】 白色発光OLEDデバイスは、以前にJ. Shi(アメリカ合衆国特許第5,683,823号)が報告している。このデバイスでは、発光層が、ホスト発光材料の中に均一に分散された赤色発光材料と青色発光材料を含んでいる。このデバイスは、優れた電場発光特性を有するが、赤色ドーパントと青色ドーパントの濃度が非常に小さい(例えばホスト材料の0.12%と0.25%)。このような濃度は、大規模生産において制御するのが難しい。Satoらは、日本国特開平7-142,169号に、正孔輸送層の隣に青色発光層を形成した後、赤色蛍光層を含む領域を有する緑色発光層を形成することによって白色光を出すことのできるOLEDデバイスを開示している。 【0006】 Kidoらは、Science、第267巻、1332ページ、1995年とAPL、第64巻、815ページ、1994年に、白色光OLEDデバイスを報告している。このデバイスでは、キャリア輸送特性が異なる3つの発光層(それぞれが青色光、緑色光、赤色光を出す)を使用して白色光を発生させている。Littmanらは、アメリカ合衆国特許第5,405,709号に、別の白色発光デバイスを開示している。このデバイスは、正孔-電子再結合に応答して白色光を出すことができ、可視光の青緑から赤の範囲の蛍光を含んでいる。最近、Deshpandeらは、Applied Physics Letters、第75巻、888ページ、1999年に、正孔阻止層によって互いに隔てられた赤発光層、青発光層、緑発光層を用いた白色光OLEDデバイスを発表した。」 (ウ)「【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしこれらのOLEDデバイスで必要なドーパントの濃度は非常に低いため、大規模生産において工程を制御することは難しい。また、ドーパント濃度のわずかな変化により、出る色が違ってくる。白色OLEDは、カラー・フィルタ・アレイを利用したフル・カラー・デバイスを作るのに使用される。しかしこのカラー・フィルタは、元の光の約30%しか透過させない。したがって、白色OLEDにおいて高い輝度効率と安定性が必要とされている。 【0008】 そこで本発明の1つの目的は、有効な白色光有機デバイスを製造することである。 【0009】 本発明の別の目的は、構造が簡単であり製造環境における再現性がある、高効率で安定な白色光OLEDデバイスを提供することである。 【0010】 本発明のさらに別の目的は、熱に対して安定な黄色発光材料を提供することである。」 (エ)「【課題を解決するための手段】 【0011】 まったく予想外なことに、輝度効率が高くて動作安定性のある白色光OLEDデバイスが、黄色発光ルブレン誘導体(黄色ドーパントとしても知られ、例えば2,8-ジ-t-ブチル-5,6,11,12-テトラ(p-t-ブチルフェニル)ナフタセン(Inv-1)や2,8-ジ-t-ブチル-5,11-ジ(p-t-ブチルフェニル)-6,12-ジ(p-フェニルフェニル)ナフタセン(Inv-2)がある)をNPB正孔輸送層にドーピングし、かつ、青色発光材料(青色ドーパントしても知られ、例えばジスチリルアミン誘導体やビス(アジニル)アミン誘導体がある)をTBADNホスト発光層にドーピングすることによって得られることがわかった。このような黄色発光材料は、予想外なことに、OLEDデバイスの製造プロセスにおいて熱に対して安定であることがわかった。ドーパントまたは発光材料は、正孔輸送層の中にホスト材料の0.01?50質量%を組み込むことができる。この値は、一般にホスト材料の0.01?30質量%であり、より一般的なのは0.01?15質量%である。 …… 【発明の効果】 【0013】 本発明の特徴と利点は以下の通りである。 【0014】 黄色発光ルブレンに由来するドーパントである2,8-ジ-t-ブチル-5,6,11,12-テトラ(p-t-ブチルフェニル)ナフタセン(Inv-1)または2,8-ジ-t-ブチル-5,11-ジ(p-t-ブチルフェニル)-6,12-ジ(p-フェニルフェニル)ナフタセン(Inv-2)を正孔輸送層と電子輸送層の一方または両方に含むことによって白色光を出す単純なOLEDデバイス。 【0015】 高効率の白色光OLEDを用い、チップ上のカラー・フィルタと集積された薄膜トランジスタを備えた基板を有するフル・カラー・デバイスを製造することができる。 【0016】 本発明に従って製造したOLEDデバイスでは、フル・カラーOLEDデバイスの発光層を形成するのにシャドウ・マスクを用いる必要がない。 【0017】 本発明に従って製造したOLEDデバイスは高い再現性で製造することができ、高い発光効率を常に提供することができる。 【0018】 本発明のOLEDデバイスは動作安定性が高く、しかも必要な駆動電圧が低い。 【0019】 本発明により、このようなデバイスを備えるディスプレイと、このようなデバイスを利用したイメージング法も提供される。 【0020】 このようなデバイスは、高純度の白色光を作る上で望ましい長波長のエレクトロルミネッセンスを出す。 【0021】 本発明の材料は熱に対して安定であるため、長期にわたって高温に加熱する材料を必要とするOLEDデバイスの製造に使用できる。」 (オ)「【発明を実施するための最良の形態】 【0022】 本発明は上にまとめた通りである。有機OLEDデバイスの従来の発光層は発光材料または蛍光材料を含んでおり、電子-正孔対が再結合する結果としてエレクトロルミネッセンス(EL)が生じる。 【0023】 OLEDの白色光を利用すると、赤色(R)フィルタ、緑色(G)フィルタ、青色(B)フィルタを用いてフル・カラー・デバイスを製造することができる。RGBフィルタは、基板の上に堆積させること、または基板の中に組み込むこと、または上部電極の上に堆積させること(光が上部電極を透過する場合)ができる。RGBフィルタ・アレイを上部電極の上に堆積させる場合には、適切な厚さ(例えば1?1000nm)の緩衝層を用いて上部電極を保護するとよい。緩衝層は、無機材料(例えばシリコン酸化物、窒化物)、または有機材料(例えばポリマー)、または無機材料と有機材料からなる多数の層を含むことができる。RGBフィルタ・アレイを設ける方法は従来技術でよく知られている。リソグラフィ法、インクジェット印刷法、レーザー熱転写法というのが、RGBフィルタを設ける方法のほんのいくつかの例である。 【0024】 白色光とRGBフィルタを用いたフル・カラー・ディスプレイをこのようにして製造する方法には、フル・カラーを出すのに用いる精密シャドウ・マスキング技術と比べていくつかの利点がある。この方法は、正確な位置揃えを必要とせず、低コストであり、製造が容易である。基板そのものが、個々の画素にアドレスするための薄膜トランジスタを備えている。ChingとHseihに付与されたアメリカ合衆国特許第5,550,066号と第5,684,365号に、TFT基板のアドレス法が記載されている。 【0025】 正孔輸送層は、少なくとも1つの正孔輸送化合物として芳香族第三級アミンなどを含んでいる。芳香族第三級アミンは、炭素原子(そのうちの少なくとも1つは芳香族環のメンバーである)だけに結合する少なくとも1つの3価窒素原子を含んでいる化合物であると理解されている。さらに、正孔輸送層を1つ以上の層で構成し、それぞれの層に同じか異なる発光材料をドープする、または発光材料をドープしないようにすることができる。正孔輸送層には、本発明のナフタセン誘導体に加え、他の安定化用ドーパント(例えばt-BuDPN)を同時にドープできることも理解すべきである。同様に、青色発光層は、青色発光ドーパントと、青色発光層のための色相変更材料であるNPBなどの補助ドーパントで構成することができる。補助ドーパントの濃度は0.5?30%の範囲であるが、5?20%であることが好ましい。 【0026】 正孔輸送層または電子輸送層で黄色発光材料または黄色発光ドーパントとして用いる材料は、 …… 【0035】 本発明の別の一実施態様は、白色光を出す有機発光ダイオード(OLED)デバイスであって、 a)アノードと; b)このアノードの上に配置された正孔輸送層と; c)この正孔輸送層の上に配置された青色発光層と; d)この青色発光層の上に配置された電子輸送層と; e)この電子輸送層の上に配置されたカソードとを備え; f)上記正孔輸送層が、上記青色発光層の全体または一部と接触している層を備えていて、一般式(III)の発光ナフタセン化合物: 【化4】(略) (ただし、 i)上記ナフタセンは、少なくとも1個のフッ素基またはフッ素含有基を含み; ii)正確に2個のフッ素含有基が存在している場合には、その基がそれぞれ5位と12位に位置せず、それぞれ6位と11位にも位置していないことを特徴とするデバイスである。 【0036】 本発明による一般式(III)の有用なナフタセン誘導体は、昇華温度が、フッ素またはフッ素含有基を含まないナフタセン誘導体よりも少なくとも5℃?20℃低いドーパントである。すなわち本発明の有用なナフタセン誘導体は昇華するのに対し、フッ素またはフッ素含有基を含まないナフタセン誘導体は融解する。昇華温度が低いほど、ドーパントが分解する可能性が小さくなる。ドーパントがデバイスの表面に堆積する前に融解すると、デバイスの品質が低くなる。フッ素基またはフッ素含有基を含む一般式(III)の有用な実施態様は、 a)上記ナフタセン誘導体の昇華温度が、フッ素基またはフッ素含有基を含まない誘導体よりも少なくとも5℃低い;あるいは b)上記ナフタセン誘導体が昇華し、フッ素基またはフッ素含有基を含まない誘導体が融解する実施態様である。 【0037】 フッ素またはフッ素含有基が一般式(II)のナフタセン上の特定の位置にある本発明の実施態様は、 a)上記ナフタセンが、5位と6位と11位と12位、または1位?4位、または7位?10位に位置するフェニル基上に少なくとも1個のフッ素基またはフッ素含有基を含み; b)正確に2個のフッ素基が存在している場合には、その基は、それぞれ5位と12位のフェニル基上に位置せず、それぞれ6位と11位のフェニル基上にも位置していない実施態様である。 【0038】 分岐したアルキル基が一般式(II)の2位と8位に存在している本発明の好ましい実施態様を以下の一般式(IV)と(V)に示す。 【0039】 【化5】(略) 【0040】 【化6】(略) 【0041】 本発明の具体例は以下の通りである。 【0042】 【化7】 【0043】 【化8】 【0044】 【化9】 【0045】 【化10】 【0046】 【化11】 【0047】 【化12】 【0048】 【化13】 【0049】 【化14】 【0050】 【化15】 【0051】 【化16】 【0052】 【化17】 【0053】 【化18】 【0054】 【化19】 【0055】 【化20】 【0056】 【化21】 【0057】 【化22】 【0058】 【化23】 【0059】 【化24】 【0060】 【化25】 【0061】 【化26】 【0062】 【化27】 【0063】 本発明の実施態様により、輝度効率が向上するだけでなく、熱に対する安定性も改善されるため、長期にわたって高温に加熱する材料を必要とするOLEDデバイスの製造に本発明の実施態様を使用できる。」 【0064】 特に断わらない限り、“置換された”または“置換基”という用語を使用する場合、水素以外のあらゆる基または原子を意味する。さらに、“基”という用語を使用する場合、置換基が置換可能な水素を含んでいるのであれば、その中には置換されていない形態が含まれるだけでなく、この明細書に記載した任意の1個または複数の置換基でさらに置換された形態も、その置換基が、デバイスが機能する上で必要な性質を失わせない限りは含まれるものとする。…… (カ)「【0066】 デバイスの一般的な構造 【0067】 本発明は、たいていのOLEDデバイス構造で利用できる。その中には、単一のアノードとカソードを持つ非常に単純な構造から、より複雑な構造(互いに直交するアノード・アレイとカソード・アレイが画素を形成しているアレイパッシブ・マトリックス・ディスプレイや、各画素が例えば薄膜トランジスタ(TFT)によって独立に制御されるアクティブ・マトリックス・ディスプレイ)までが含まれる。 【0068】 本発明をうまく実現できる有機層の構成は多数ある。不可欠な条件は、カソードと、アノードと、HTLと、LELが存在していることである。非常に一般的な構造を図1に示してあり、この構造は、基板101と、アノード103と、場合によっては存在する正孔注入層(HIL)105と、正孔輸送層(HTL)107と、発光層(LEL)109と、電子輸送層(ETL)111と、カソード113を備えている。これらの層について以下に詳しく説明する。基板はカソードの隣に位置していてもよいこと、または基板が実際にはアノードまたはカソードを構成していてもよいことに注意されたい。また、有機層を合計した厚さは500nm未満であることが好ましい。 【0069】 以下に白色ELデバイスの実施例を示すが、実施例がそれだけに限定されることはない。それぞれのデバイスは、一般式(I)で表わされる少なくとも1つの黄色発光材料を含んでいる。 【0070】 正孔輸送層107は発光材料を含んでいる。一実施態様では、正孔輸送層107は黄色発光材料を含んでおり、発光層109は、青色発光材料または青緑色発光材料を含んでいる。 【0071】 図2は、図1と同様の有機白色発光デバイスであるが、正孔輸送層107が2つのサブ層、すなわち層106と層108を含んでいる点が異なっている。 【0072】 望ましい一実施態様では、層108は黄色発光材料を含んでおり、発光層109は、青色発光材料または青緑色発光材料を含んでいる。 【0073】 図3は、図1と同様の有機白色発光デバイスであるが、電子輸送層111が2つのサブ層、すなわち層110と層112を含んでいる点が異なっている。 【0074】 望ましい一実施態様では、層110は黄色発光材料を含んでおり、発光層109は青色発光材料を含んでいる。 【0075】 望ましい別の一実施態様では、正孔輸送層107は黄色発光材料を含んでおり、層110も黄色発光材料を含んでいる。後者の黄色発光材料は、前者の黄色発光材料と同じでも異なっていてもよい。発光層109は青色発光材料を含んでいる。 【0076】 望ましい別の一実施態様では、層110は緑色発光材料を含んでおり、発光層109は青色発光材料を含んでおり、正孔輸送層107は黄色発光材料を含んでいる。 【0077】 図4は、図1と同様の有機白色発光デバイスであるが、正孔輸送層107が2つのサブ層、すなわち層106と層108を含んでいて、電子輸送層111が2つのサブ層、すなわち層110と層112を含んでいる点が異なっている。 【0078】 望ましい一実施態様では、層108は黄色発光材料を含んでおり、層110も黄色発光材料を含んでいる。後者の黄色発光材料は、前者の黄色発光材料と同じでも異なっていてもよい。発光層109は青色発光材料または青緑色発光材料を含んでいる。 【0079】 望ましい別の一実施態様では、層108は黄色発光材料を含んでおり、発光層109は青緑色発光材料を含んでおり、層110は緑色発光材料を含んでいる。 【0080】 図5は、図1と同様の有機白色発光デバイスであるが、電子輸送層111が3つのサブ層、すなわち層110、112、112bを含んでいる点が異なっている。 【0081】 望ましい一実施態様では、層112は緑色発光材料を含んでおり、層110は黄色発光材料を含んでおり、発光層109は青色発光材料または青緑色発光材料を含んでいる。正孔輸送層107は黄色発光材料を含んでいる。その黄色発光材料は、層110の黄色発光材料と同じでも異なっていてもよい。 【0082】 図6は、図1と同様の有機白色発光デバイスであるが、正孔輸送層107が2つのサブ層、すなわち層106と層108を含んでいて、電子輸送層111が3つのサブ層、すなわち層110、112、112bを含んでいる点が異なっている。 【0083】 望ましい一実施態様では、層112は緑色発光材料を含んでおり、層110は黄色発光材料を含んでおり、発光層109は青色発光材料または青緑色発光材料を含んでいる。層108は黄色発光材料を含んでいる。その黄色発光材料は、層110の黄色発光材料と同じでも異なっていてもよい。 【0084】 基板 …… 【0086】 アノード …… 【0088】 正孔注入層(HIL) …… 【0090】 正孔輸送層(HTL) 【0091】 有機ELデバイスの正孔輸送層107は、少なくとも1つの正孔輸送化合物(例えば芳香族第三級アミン)を含んでいる。…… …… 【0099】 発光層(LEL) 【0100】 アメリカ合衆国特許第4,769,292号、第5,935,721号により詳しく説明されているように、有機EL素子の発光層(LEL)109は、ルミネッセンス材料または蛍光材料を含んでおり、この領域で電子-正孔対の再結合が起こる結果としてエレクトロルミネッセンスが生じる。発光層は単一の材料で構成できるが、より一般的には、ゲスト発光材料をドープしたホスト材料からなる。光は主としてドーパントから発生し、任意の色が可能である。発光層内のホスト材料は、以下に示す電子輸送材料、または上記の正孔輸送材料、または正孔-電子再結合をサポートする別の単一の材料または組み合わせた材料にすることができる。ドーパントは通常は強い蛍光染料の中から選択されるが、リン光化合物(例えばWO 98/55561、WO 00/18851、WO 00/57676、WO 00/70655に記載されている遷移金属錯体)も有用である。ドーパントまたは発光材料は、0.01?50質量%の割合でホスト材料に組み込めるが、一般には0.01?30質量%、より一般には0.01?15質量%の割合でホスト材料に組み込まれる。LELの厚さは適切な任意の厚さにすることができ、0.1nm?100nmの範囲が可能である。 【0101】 ドーパントとして染料を選択する際の重要な関係は、分子の最高被占軌道と最低空軌道のエネルギー差として定義されるバンドギャップ電位の比較値である。ホストからドーパント分子にエネルギーが効率的に輸送されるための必要条件は、ドーパントのバンドギャップがホスト材料のバンドギャップよりも小さいことである。 …… 【0147】 電子輸送層(ETL) …… 【0151】 カソード …… 」 (キ)「【実施例】 【0160】 本発明とその利点を以下の特別な実施例によってさらに説明する。 【0161】 【化51】(略) 【0162】 例1 合成(スキーム1) 【0163】 化合物(3)の調製:…… 【0164】 本発明の化合物Inv-1の調製:…… 【0165】 本発明における比較用化合物は以下のものである。 【0166】 【化52】 【0167】 【化53】 【0168】 Comp-1は親ルブレンであり、本発明の範囲外である。この化合物は当業者によく知られており、ナフタセン核の端部にあるどの環にも、ナフタセンの中心部に位置する4つのどのフェニル環にも、2位と8位に置換基がない。Comp-2も本発明の範囲外である。この化合物は、フェニル基のパラ位置である5位と12位に複素環を備えている。 【0169】 例2 ELデバイスの製造 - 発明例 【0170】 本発明の条件を満たすELデバイスをサンプル1として以下のようにして構成した。 【0171】 アノードとしてインジウム-スズ酸化物(ITO)を85nmの厚さにコーティングしたガラス基板を、順番に、市販の洗剤の中で超音波処理し、脱イオン水の中でリンスし、トルエン蒸気の中で脱脂し、酸素プラズマに1分間にわたって曝露した。 【0172】 a)プラズマ支援CHF_(3)堆積により、ITOの上にフルオロカーボン(CFx)からなる正孔注入層(HIL)を1nm堆積させた。 【0173】 b)次に、N,N'-ジ-1-ナフタレニル-N,N'-ジフェニル-4,4'-ジアミノビフェニル(NPB)からなる厚さが130nmの正孔輸送層(HTL)を層a)の上に蒸着した。 【0174】 c)N,N'-ジ-1-ナフタレニル-N,N'-ジフェニル-4,4'-ジアミノビフェニル(NPB)からなる厚さが20nmの第2の正孔輸送層(HTL)と黄色発光ドーパント材料Inv-1(名目値2.5質量%、表1を参照)を層b)の上に堆積させた。 【0175】 d)次に、2-t-ブチル-9,10-ジ-(2-ナフチル)アントラセン(TBADN)と青色発光ドーパント材料L47(名目値2.5質量%、表1を参照)からなる厚さ20nmの青色発光層(LEL)を正孔輸送層の上に堆積させた。 【0176】 e)次に、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)(AlQ_(3))からなる厚さ35nmの電子輸送層(ETL)を層d)の上に堆積させた。 【0177】 f)ETL- AlQ_(3)層の上に、体積比が10:1のMgとAgで厚さが220nmのカソードを堆積させた。 【0178】 上記の一連の操作によってELデバイスの堆積が完了した。次にこのデバイスを乾燥グローブ・ボックスの中で気密包装して周囲の環境から保護した。 【0179】 例2の結果をサンプル1として表1に記録してある。表1のサンプル2と表2のサンプル6は、比較用化合物Comp-1を同じ名目値2.5質量%で組み込んで例2と同じようにして製造したELデバイスである。表1のサンプル3は、比較用化合物Comp-2をやはり同じ名目値2.5質量%で組み込んで例2と同じようにして製造したELデバイスである。表2のサンプル4と5は、Inv-2をそれぞれ名目値2質量%と3質量%で組み込んで例2と同じようにして製造したELデバイスである。表2のサンプル7と8は、Comp-2をやはりそれぞれ名目値2質量%と3質量%で組み込んで例2と同じようにして製造したELデバイスである。このようにして形成したセルを輝度収率と出力効率に関して調べた結果を表1と表2に示してある。 【0180】 【表1】 【0181】 【表2】 【0182】 表1と表2からわかるように、本発明のドーパントを組み込んだELデバイス(Inv-1に関してはホストの2.5質量%、Inv-2に関してはホストの2質量%と3質量%)は、どれをテストしても、比較用材料Comp-1およびComp-2を組み込んだELデバイスよりも効率が大きかった。 【0183】 【表3】 2:真空下で7日間にわたって材料の昇華温度よりも6%高い温度(単位はケルビン)に加熱した後に残ったドーパントの割合(%)。 【0184】 表3から、比較用材料Comp-1およびComp-2と比較したInv-1およびInv-2の熱に対する安定性がわかる。材料を真空下で個々の材料の昇華温度よりも6%高い温度(ケルビンを単位として計算)に加熱した後、7日間にわたってこの温度を維持した。この期間が経過した後、材料を分析し、残ったドーパントの量を、元の量に対する割合(%)として表示した。 【0185】 この条件下でサンプル12にはComp-2が残っていない。サンプル11にはComp-1が100%残っていたが、表1と表2から、Comp-1は輝度効率と出力効率が低いことがわかる。しかし本発明の化合物は両方とも、比較用化合物と比較して熱に対する安定性が優れており、輝度も大きい。 【0186】 例3 ELデバイスの製造 - 発明例 【0187】 本発明の条件を満たすELデバイスを、サンプル13、14、16、17として以下のようにして構成した。 【0188】 アノードとしてインジウム-スズ酸化物(ITO)を85nmの厚さにコーティングしたガラス基板を、順番に、市販の洗剤の中で超音波処理し、脱イオン水の中でリンスし、トルエン蒸気の中で脱脂し、酸素プラズマに1分間にわたって曝露した。 【0189】 a)プラズマ支援CHF_(3)堆積により、ITOの上にフルオロカーボン(CFx)からなる正孔注入層(HIL)を1nm堆積させた。 【0190】 b)次に、N,N'-ジ-1-ナフタレニル-N,N'-ジフェニル-4,4'-ジアミノビフェニル(NPB)からなる厚さが260nmの正孔輸送層(HTL)を層a)の上に蒸着した。 【0191】 c)N,N'-ジ-1-ナフタレニル-N,N'-ジフェニル-4,4'-ジアミノビフェニル(NPB)からなる厚さが20nmの第2の正孔輸送層(HTL)と黄色発光ドーパント材料Inv-1またはInv-2(3.5質量%)を正孔輸送層b)の上に堆積させた。 【0192】 d)次に、NPB(7質量%)と、補助青色発光ドーパント材料TBPまたはB-6(1質量%)とをドープした青色ホストH-1からなる厚さ45nmの青色発光層(LEL)を正孔輸送層の上に堆積させた。 【0193】 e)次に、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)(AlQ_(3))からなる厚さ10nmの電子輸送層(ETL)を青色発光層の上に堆積させた。 【0194】 f)ETL- AlQ_(3)層の上に、体積比が10:1のMgとAgで厚さが220nmのカソードを堆積させた。 【0195】 上記の一連の操作によってELデバイスの堆積が完了した。次にこのデバイスを乾燥グローブ・ボックスの中で気密包装して周囲の環境から保護した。 【0196】 例4 ELデバイスの製造 - 発明例 【0197】 本発明の条件を満たすELデバイスを、サンプル15および18として以下のようにして構成した。 【0198】 アノードとしてインジウム-スズ酸化物(ITO)を85nmの厚さにコーティングしたガラス基板を、順番に、市販の洗剤の中で超音波処理し、脱イオン水の中でリンスし、トルエン蒸気の中で脱脂し、酸素プラズマに1分間にわたって曝露した。 【0199】 a)プラズマ支援CHF_(3)堆積により、ITOの上にフルオロカーボン(CFx)からなる正孔注入層(HIL)を1nm堆積させた。 【0200】 b)次に、N,N'-ジ-1-ナフタレニル-N,N'-ジフェニル-4,4'-ジアミノビフェニル(NPB)からなる厚さが260nmの正孔輸送層(HTL)を層a)の上に蒸着した。 【0201】 c)黄色発光ドーパント材料Inv-1またはInv-2(3.5質量%)と、補助ドーパントt-BuDPN(10%)とをドープしたN,N'-ジ-1-ナフタレニル-N,N'-ジフェニル-4,4'-ジアミノビフェニル(NPB)からなる厚さが20nmの第2の正孔輸送層(HTL)を正孔輸送層b)の上に堆積させた。 【0202】 d)次に、NPB(7質量%)と、補助青色発光ドーパント材料B-6(1質量%)とをドープした青色ホストH-1からなる厚さ45nmの青色発光層(LEL)を正孔輸送層の上に堆積させた。 【0203】 e)次に、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)(AlQ_(3))からなる厚さ10nmの電子輸送層(ETL)を青色発光層の上に堆積させた。 【0204】 f)ETL- AlQ_(3)層の上に、体積比が10:1のMgとAgで厚さが220nmのカソードを堆積させた。 【0205】 上記の一連の操作によってELデバイスの堆積が完了した。次にこのデバイスを乾燥グローブ・ボックスの中で気密包装して周囲の環境から保護した。 【0206】 サンプル15と18からわかるように、正孔輸送層には、本発明のナフタセン誘導体に加えて他の安定化用ドーパント(例えばt-BuDPN)も同時にドープできることを理解する必要がある。同様に、サンプル13?18からわかるように、青色発光層は、補助ドーパント(例えば青色発光層の色相変更材料であるNPB)と青色発光ドーパントで構成することができる。これら補助ドーパントの濃度は0.5?30%であるが、5?20%であることが好ましい。 【0207】 【表4】 【0208】 【表5】 【0209】 表4と表5からわかるように、黄色ドーパントと青色ドーパントの割合がさまざまなサンプル13?18は、輝度収量と輝度効率、CIEx,y色座標、駆動電圧、動作安定性に関して優れた性能を示す。」 (2)検討 ア 前提 以下の本願発明のサポート要件の適合性についての検討を行うにあたり、前提となる事項につき整理を行う。 ・特許法第36条第6項第1号の規定に対する適否について 特許法第36条第6項には、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、同条同項第1号には、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定されている。 そして、特許請求の範囲の記載が、上記「第1号」に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するものであるか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)から、以下当該観点に基づいて検討する。 イ 検討 (ア)本願発明の解決課題について 本願発明の解決課題は、上記摘示(ウ)の記載からみて、「構造が簡単であり製造環境における再現性がある、高効率で安定な白色光を出す有機発光ダイオード(OLED)デバイス及びその製造方法並びに熱に対して安定な黄色発光材料」の提供にあるものと認められる。 (イ)本願明細書の発明の詳細な説明の記載について 本願明細書の発明の詳細な説明の記載につき、実施例(比較例)に関する部分以外の部分(【0001】?【0159】、上記摘示(ア)ないし(カ))及び実施例(比較例)に関する部分(【0160】?【0209】、上記摘示(キ))に分けてそれぞれ検討する。 a 実施例(比較例)に関する部分以外の部分について 本願明細書の発明の詳細な説明の記載における実施例(比較例)に関する部分以外の部分(上記摘示(ア)ないし(カ))の記載を検討する。 請求項3記載の一般式(III)の発光ナフタセン化合物は、 「【化2】 (ただし、 i)上記ナフタセンは、少なくとも1個のフッ素基またはフッ素含有基を含み; ii)正確に2個のフッ素含有基が存在している場合には、その基がそれぞれ5位と12位に位置せず、それぞれ6位と11位にも位置していない)」(以下「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」という。) と特定されているものであるところ、「フッ素又はフッ素含有基」以外の置換基を有することについては何ら特定されていないから、この一般式(III)の発光ナフタセン化合物はナフタセン骨格に「少なくとも1個のフッ素基またはフッ素含有基」以外にはいかなる置換基を有していないものと解することが素直である。 しかし、本願明細書の発明の詳細な説明に「本発明の具体例は以下の通りである。」(摘示(オ)【0041】参照)として列挙されたInv-1?Inv-41の化合物(摘示(オ)【0042】?【0062】参照)は、いずれもナフタセン骨格に「フッ素基またはフッ素含有基」以外の置換基を必ず有しているものであるから、一般式(III)の発光ナフタセン化合物に該当する具体例は記載されていない。 なお、仮に一般式(III)の発光ナフタセン化合物がナフタセン骨格に「フッ素基またはフッ素含有基」以外の置換基を有してもよいとした場合、上記具体例として挙げられたもののうち、Inv-3?Inv-6、Inv-9、Inv-10、Inv-13、Inv-18?Inv-27、Inv-30、Inv-31、Inv-33、Inv-34、Inv-36?Inv-39(摘示(オ)【0042】ないし【0062】参照)が一般式(III)の発光ナフタセン化合物に該当することになるが、これらの化合物が本願発明の解決課題である「熱に安定な黄色発光材料」(摘示(ウ)段落【0010】参照)であることについては本願明細書には具体的な裏付けをもって記載されていない。 ここで、発光特性や熱安定性は置換基の種類や数によって大きく異なるものであること(この点については実施例(ただし一般式(III)の発光ナフタセン化合物の実施例ではない。)として具体的に発光特性や熱安定性を評価されたInv-1やInv-2の化合物が、Inv-1やInv-2とは置換基が異なるだけのComp-1やComp-2の化合物とは異なる発光特性や熱安定性を有していることからも明らかである。)にかんがみれば、ナフタセン骨格に「少なくとも1個のフッ素基またはフッ素含有基」以外にはいかなる置換基を有していないものも含む「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」全体について、本願発明の解決課題である「熱に対して安定な黄色発光材料」を提供し得るか否かまったく不明である。 また、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」としたことによって、いかなる傾向を示し、いかなる作用機序により発明の効果が発現するかについても記載ないし示唆されていない。 そして、本願の優先日(2004年3月16日)前に、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」と拡張、一般化した発明について、上記本願発明の解決課題を解決することができる効果を奏するであろうと当業者が認識すべき技術常識が存するものとも認められない。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載における実施例(比較例)に関する部分以外の部分の記載に基づき、たとえ当業者の技術常識に照らしたとしても、本願発明が、実施例に開示されたもののほか、すべての場合につき請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」を具備することにより、上記本願発明の解決課題を解決することができるであろうと当業者が認識することができるとは認められない。 b 実施例(比較例)に関する部分について 本願明細書の発明の詳細な説明の記載における実施例(比較例)に関する部分(上記摘示(キ))の記載を検討すると、サンプル1?18において、具体的に使用されるドーパントは、Inv-1及びInv-2並びにComp-1及びComp-2のみであって(ただし、Inv-1及びInv-2は「少なくとも1個のフッ素基またはフッ素含有基」を有していないので、一般式(III)の発光ナフタセン化合物の実施例ではなく、また【0168】に記載されているように、Comp-1及びComp-2は本発明の範囲外である。)、請求項3記載の「一般式(III)における発光ナフタセン化合物」に関するドーパントの具体例は記載されていない。 そして、例えば、実施例として記載されたInv-1及びInv-2と同様のナフタセン骨格を有する化合物Comp-1及びComp-2でさえ、その発光特性は同様のものではないことからすると、そもそも本願発明に係る「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」につき、発光特性や熱安定性について、いかなる結果が得られるかは当業者であっても認識できるものではない。 なお、上記aで説示したとおり、本願の優先日(2004年3月16日)前に、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」とすることにより、上記本願発明の解決課題を解決することができる効果を奏するであろうと当業者が認識すべき技術常識が存するものとも認められない。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載における実施例(比較例)に関する部分の記載に基づき、たとえ当業者の技術常識に照らしたとしても、本願発明が、実施例に開示されたもののほか、すべての場合につき請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」を具備することにより、上記本願発明の解決課題を解決することができるであろうと当業者が認識することができるとは認められない。 ウ 小括 以上を総合すると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、たとえ技術常識に照らしても、本願発明が、すべての場合につき請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」を具備することにより、上記本願発明の解決課題を解決することができる、すなわち「構造が簡単であり製造環境における再現性がある、高効率で安定な白色光OLEDデバイス及びその製造方法並びに熱に対して安定な黄色発光材料」が提供できるであろうと当業者が認識することができるとはいえない。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、たとえ技術常識に照らしても、本願請求項3に記載された事項で特定される範囲まで、拡張ないし一般化することができるものではない。 したがって、本願請求項3に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明(本願発明)は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができない。 2 理由Vについて (1)本願特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項 ア 特許請求の範囲に記載された発明 上記1(1)アで示したとおりの発明が記載されている。 イ 明細書に記載された事項 本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明が属する技術分野(【0001】)、背景技術(【0002】?【0006】)、本願発明が解決しようとする課題(【0007】?【0010】)及び本願発明の課題を解決するための手段(【0011】?【0211】)に関する事項が種々記載されている。 そして、上記本願発明の課題を解決するための手段(【0041】?【0062】)の欄には、上記1(1)イで示したとおりの事項が記載され、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」は、上記1(2)イ(イ)a及びbで述べたとおりである。 (2)検討 ア 前提 以下の本願発明の実施可能要件適合性についての検討を行うにあたり、前提となる技術事項などの整理を行う。 ・発光方式について 半導体材料を使用する発光方式としては、大別して以下の2種が存することが当業者に周知である。 (ア)フォトルミネッセンス(PL) GaN素子などの励起光源が別途存在し、その励起光源からの励起光を蛍光体などの発光材料に照射し、励起光の励起エネルギーによる発光材料の分子軌道中での電子の励起と基底状態への帰還により発光させる方式である。照明用素子として使用されている。 (イ)電気発光(エレクトロルミネッセンス(EL)) 金属錯体、有機半導体材料などの発光材料を含む発光層を2つの電極間に挟持し、直流の電場を付加して、両電極からの電子及び正孔を発光層に送入し、発光材料分子中で電子と正孔とを結合させて励起子を形成させ、その励起子の励起エネルギーによる発光材料の分子軌道中での電子の励起と基底状態への帰還により発光させる方式である。 してみると、この方式の場合、電場が付加されることにより送入される電子及び正孔が両電極から発光層に達して結合することによって形成される励起子が、発光材料分子に十分に到達することを要求されることが当業者に自明であり、少なくとも、上記電子及び正孔がこの発光材料分子に十分に到達することを要求されることも、当業者に自明である。 イ 検討 上記アに示した前提を踏まえて検討する。 本願発明の「白色光を出す有機発光ダイオード(OLED)デバイス」は、請求項3、明細書の発明の詳細な説明(特に【0009】、【0035】?【0062】)及び【図1】?【図6】の記載からみて、正孔輸送層が、青色発光層の全体または一部と接触している層を備えていて、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」を含み、青色発光層を挟持するアノード及びカソードに直流電場を付加することにより発光する上記ア(イ)に示したEL方式による電界発光デバイスであるものと認められる。 しかるに、本願発明における「白色光を出す有機発光ダイオード(OLED)デバイス」は、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」が、極めて多種多岐にわたる組合せからなるものであり、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」の物性(導電性、電子及び正孔の受容性等)も極めて多種多岐にわたるものと認められる。 それに対して、EL方式による発光においては、「正孔輸送層が、青色発光層の全体または一部と接触している層を備えていて、一般式(III)の発光ナフタセン化合物を含む」につき有効に発光できる程度の電子、正孔又はそれらが結合した励起子が十分に到達する必要があるから、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」の物性によりEL発光の可否が分かれることが当業者に自明である。 また、上記1(2)イ(イ)a及びbで述べたとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」について、具体的な実施例の記載はなく、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」が発光するか不明であるから、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」につき、いかなる結果が得られるかについては当業者であっても認識できるものではない。 そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載をさらに検討しても、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」としたことによって、EL発光に作用するであろうと当業者が認識することができる作用機序などに係る事項につき記載又は示唆されておらず、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」を含むに関する具体的な発光実験例などについても記載されていない。 さらに、本願に係る優先日(2004年3月16日)における当業界において、「請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」がEL発光に作用するであろう」と当業者が認識することができる技術常識が存するものとも認められない。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、たとえ技術常識に照らしても、本願発明の「白色光を出す有機発光ダイオード(OLED)デバイス」を構成することを意図した請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」を選定するにあたり、多種多岐にわたる過度の試行錯誤を要するものと認められる。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、たとえ技術常識に照らしても、本願発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認めることができない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものではない。 3 審判請求人の主張について 審判請求人は、平成24年12月19日付け審判請求書(請求の理由)において、「式(1)で規定されるナフタセン化合物は、実施例で実証されたInv-1及びInv-2で十分にサポートされる範囲に限定されているものと思料します。 すなわち、当業者であれば、式(1)に包含されるナフタセンは、その共通する構造部分によって、Inv-1及びInv-2で実証された特性を再現するであろうことを予測することができます。 具体的には、特許請求の範囲は、黄色ドーパントの一種(ビスアジニルアミンホウ素)に限定されており、かつ、正孔輸送層は式(1)の置換ナフタセン誘導体を含有するものに限定されています。そして現特許請求の範囲は、式(1)に包含される2種の置換ナフタセン(Inv-1及びInv-2)と、式(1)から外れる2種のナフタセン(Comp-1、Comp-2)との対比において有利な効果が示された実施例によって、合理的かつ十分にサポートされているものと思料いたします。」と主張する。 しかるに、請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」は、依然として極めて多種多岐にわたる組合せからなるものであり、それらの請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」の物性(導電性、電子及び正孔の受容性等)も極めて多種多岐にわたる組合せからなるものであり、本願発明が、すべての場合につき請求項3記載の「一般式(III)の発光ナフタセン化合物」を具備することにより、上記本願発明の解決課題を解決することができる、すなわち「構造が簡単であり製造環境における再現性がある、高効率で安定な白色光OLEDデバイス及びその製造方法並びに熱に対して安定な黄色発光材料」が提供できるであろうと当業者が認識することができるとはいえず、また本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、たとえ技術常識に照らしても、本願発明の「白色光を出す有機発光ダイオード(OLED)デバイス」を構成することを意図した一般式(III)の発光ナフタセン化合物を選定するにあたり、多種多岐にわたる過度の試行錯誤を要するものと認められるから、本願は依然として上記1(2)及び2(2)で検討した原査定に係る拒絶の理由が解消されるものとは認められない。 4 まとめ 以上のとおりであるから、本願の請求項3に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明(本願発明)は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができないから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願請求項3の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではないのであって、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしているものではない。また本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているものではない。 5 むすび 以上のとおり、本願は、特許法第49条第4号の規定に該当するから、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-10-07 |
結審通知日 | 2013-10-08 |
審決日 | 2013-10-21 |
出願番号 | 特願2007-503929(P2007-503929) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(C09K)
P 1 8・ 537- Z (C09K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 天野 宏樹 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 新居田 知生 |
発明の名称 | 性能が向上した白色有機発光デバイス |
代理人 | 出野 知 |
代理人 | 南山 知広 |
代理人 | 永坂 友康 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 小林 良博 |