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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1285325
審判番号 不服2012-23505  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-28 
確定日 2014-03-05 
事件の表示 特願2008-552629「液体展開用シート」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月12日国際公開、WO2009/031484〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年9月7日に出願された特願2007-232349号を先の出願として優先権主張して平成20年9月1日を国際出願日としてなされた国際出願(特願2008-552629号)であって、平成24年1月4日付けで拒絶理由が通知された後、同年3月12日付けで意見書と手続補正書の提出がなされ、更に同年6月4日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年7月9日付けで意見書と手続補正書の提出がなされたが、同年8月31日付けで同年7月9日付けの手続補正に対して補正の却下の決定がなされるとともに、同日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
平成24年7月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されているので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成24年3月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであって、その請求項1は以下のとおりのものである。(以下、「本願発明」という)
「 【請求項1】
空気逃げ孔を有するカバーフィルムと、吸引口と空気逃げ孔に対応する位置の間に電極および試薬層を有する絶縁基板とを、吸引口から空気逃げ孔に連通する切り欠きを有するスペーサーを介して貼り合わせてなる、キャビティを具備したバイオセンサーの、カバーフィルムに用いる基材であって、前記基材の少なくとも片面に液体受容層が配され、該液体受容層が、バインダーおよび、エチレンオキサイド単位からなるブロックと炭素数が3以上のアルキレンオキサイド単位からなるブロックとを含むブロック共重合体を含有する液体展開用シート。」

3.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、優先日前に頒布された刊行物1(特開2002-214187号公報)には、バイオセンサに関して、次の事項が図面とともに記載されている。
(1a)特許請求の範囲
「【請求項1】 液体試料が毛細管現象にて導入されるキャビティを具備し、導入された前記液体試料と試薬の反応により液体試料中の成分を分析可能なバイオセンサにおいて、前記キャビティが、少なくとも作用極、対極からなる電極部が配置された絶縁性基板、切欠部を有するスペーサおよび液体吸引性を有するカバーとの貼り合わせにより形成されていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項2】 液体吸引性を有するカバーの表面に液体吸引層が設けられ、該液体吸引層がバインダーと界面活性剤および/または導電性樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載のバイオセンサ。」
(1b)第2頁左欄?右欄
「【0003】図1はそのような従来の血糖値測定用のバイオセンサを示す分解斜視図である。なお、図1に示すバイオセンサの主要構成は、本発明に係るバイオセンサにおいても同等であり、本発明においては各部に改良や変更が施される。図1において、ポリエチレンテレフタレート等からなる絶縁基板5上には、スクリーン印刷等により作用極1と対極2からなる電極が形成されており、これら電極上には酵素であるグルコースオキシダーゼ、電子伝達体であるフェリシアン化カリウム及び親水性高分子であるカルボキシメチルセルロースなどを含む試薬層10が形成されている。
【0004】そしてある量の血液を採取し、採取した血液と試薬層10との反応で生じる電流値を上記電極で検出するためのキャビティ11を形成するため、電極および試薬上の部分を細長く切り欠いたスペーサ7と、空気逃げ孔9を形成したカバー6とを絶縁性基板5上に貼り合わせている。
【0005】このような構成のバイオセンサにおいて、血液は吸引口8から毛細管現象によりキャビティ11内に導入され、電極と試薬のある位置まで導かれる。そして、電極上での血液と試薬との反応により生じる電流値は、リード3、4を通じて図示しない外部の測定装置に接続して読みとられる。
【0006】しかし、上述の様な毛細管現象だけでは、血液をキャビティ11内にスムーズに導入することは難しく、より素早く且つ正確に血液を導入するためには、試薬層10を覆うようにその上から卵黄レシチンなどの界面活性剤層12を展開するなどの工夫がなされていた。」
そして、図1にはバイオセンサの各構成部材を離間させた形で上記記載に対応した図が示されている。
(1c)第3頁左欄
「【0011】
【発明の実施の形態】以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。本発明のバイオセンサにおいては、液体試料が毛細管現象にて導入されるキャビティを具備し、導入された液体試料と試薬の反応により液体試料中の成分を分析可能なバイオセンサにおいて、キャビティが少なくとも作用極、対極からなる電極部が配置された絶縁性基板、切欠部を有するスペーサおよび液体吸引性を有するカバーとの貼り合わせにより形成されている。すなわち、全体の主要構成は図1に示したものと同等の構成であるが、とくに液体吸引層を有するカバーを用いる点に特徴がある。」
(1d)第4頁右欄?5頁左欄
「【0035】(2)カバーA
東レ(株)製ポリエチレンテレフタレートフィルム“ルミラー”(タイプ100T60)を基材とし、また、塗布液として、ポリエステル樹脂/リン酸エステル系アニオン界面活性剤/アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物非イオン界面活性剤を、100/5/5の割合で調合し、トルエン/MEK=1/1で15%に希釈したものを用意した。15%に希釈した塗布液をグラビアコータにて基材に塗布し、120℃で30秒間乾燥して液体吸引層を有するカバーフィルムを得た。液体吸引層の付着量は1.5g/m2であった。
【0036】(3)カバーB
東レ(株)製ポリエチレンテレフタレートフィルム“ルミラー”(タイプ100T60)を基材とし、また、塗布液として、ポリエステル樹脂/ポリオキシエチレントリアルキルアンモニウム塩系カチオン界面活性剤を100/5の割合で調合し、トルエン/MEK=1/1で15%に希釈したものを用意した。15%に希釈した塗布液をグラビアコータにて基材に塗布し、120℃で30秒間乾燥して液体吸引層を有するカバーフィルムを得た。液体吸引層の付着量は1.0g/m2であった。
【0037】(4)カバーC
東レ(株)製ポリエチレンテレフタレートフィルム“ルミラー”(タイプ100T60)を基材とし、また、塗布液として、ポリエステル樹脂/高級脂肪酸アミド系非イオン系界面活性剤を100/10の割合で調合し、トルエン/MEK=1/1で15%に希釈したものを用意した。15%に希釈した塗布液をグラビアコータにて基材に塗布し、120℃で30秒間乾燥して液体吸引層を有するカバーフィルムを得た。液体吸引層の付着量は1.0g/m2であった。
【0038】〔バイオセンサ(血糖センサ)の作製方法〕東レ(株)製ポリエチレンテレフタレートフィルム“ルミラー”(タイプ250H10)上に、スクリーン印刷法により作用極及び対極からなる電極を設け、その上に酵素(グルコースオキシダーゼ)、電子伝達体(フェリシアン化カリウム)および親水性高分子(カルボキシメチルセルロース)などを含む試薬層を形成し、その上から、前記各部材の作製方法(1)の手順で作製した切り欠け部を有するスペーサと、前記各部材の作製方法(2)または(3)または(4)の手順で作製した液体吸引層を有するカバーAまたはカバーBまたはカバーCとを接着することで、血液が導かれるキャビティを備えた血糖センサを作製した。
【0039】表1はヘマトクリットを45%に調整した血液を液体吸引層上に10μL滴下した際の血液の拡がりを比較したものである。表1から明らかなように、各部材の作製方法(2)、(3)、(4)の手順でそれぞれ作製した液体吸引層を有するカバーA、B、Cを用いた場合にも、従来の界面活性剤(卵黄レシチン)を試薬層上に形成した従来のものと同等の血液の拡がりが得られた。これは、本実施例の液体吸引層が従来の界面活性剤層と同等の血液に対する塗れ性を持つことを示すものである。」

「【図1】



これらの記載(図面の記載も含む)から、上記刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「空気逃げ孔9を有するカバー6と、吸引口8と空気逃げ孔9に対応する位置の間に作用極1及び対極2並びに試薬層10を有する絶縁基板5とを、吸引口8から空気逃げ孔9に連通するキャビティ11を有するスペーサー7を介して貼り合わせてなるシー状のバイオセンサーであって、
カバー6に用いる基材の表面に液体吸引層が配され、該液体吸引層が、バインダーおよび界面活性剤を含有するシート状のバイオセンサ。」(以下、この発明を「刊行物1発明」という。)

(2)刊行物2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用され、優先日前に頒布された刊行物2(特開2003-116821号公報)には、生物学的サンプルのとりわけグルコースの濃度測定における(2頁左欄段落【0001】【発明の属する技術分野】の項参照)生物学的サンプルの収集に関して、次の事項が図面とともに記載されている。
(2a)特許請求の範囲
「【請求項1】 皮膚を孔あけするための皮膚穿孔要素において、少なくとも1個の流体通路を備えており、当該少なくとも1個の流体通路の先端部における少なくとも実質的な部分が外部環境に対して開口している皮膚穿孔要素。
【請求項2】 生理学的サンプルにおける少なくとも1種類の目的の分析物の濃度を決定するための試験片において、請求項1に記載の少なくとも1個の皮膚穿孔要素を備えている試験片。」
(2b)5頁右欄
「【0024】上記本発明の流体通路は生理学的サンプルに対して毛細管力または毛細管作用を及ぼすように寸法付けることが可能であり、このような毛細管力により、生理学的サンプルを上記皮膚穿孔要素の中に、さらに多くの場合において、後に詳述するような付随の試験片の中に吸引して保持できる。」
(2c)6頁左欄
「【0025】特定の実施形態において、上記流体通路はサンプル収集を容易にするために1種類以上の物質を含むことができる。例えば、1種類以上の親水性の物質がこの流体通路内に存在可能であり、このような物質はMESA、Triton、Macol、Tetronic、Silwet、ZonylおよびPluronic等の界面活性剤の類を含むがこれらに限らない。」
(2d)10頁左欄
「【0056】各図面に戻って、これらの図面において同一の参照番号または符号は同一の構成部品を示しており、図10は付随している複数の皮膚穿孔要素を有する本発明による代表的な試験片300を示している。この試験片300は付随の不活性な支持体304を伴う第1の電極302および付随の支持体311を伴う第2の電極308を備えている。既に説明したように、この試験片300はスペーサー層306を有しており、この実施形態において、このスペーサー層306は、上記各電極302および308に沿って、一定の反応領域312を定めている。この試験片300は一定の計器の中に挿入されるように構成および適合されている。特に、この試験片は第1の端部および第2の端部を有しており、複数の皮膚穿孔要素が少なくとも当該第1の端部に付随していて、第2の端部は、図12において示されているような、計器9の中に挿入するために構成されている。
【0057】上記試験片300はさらに複数の皮膚穿孔要素314も備えており、これらの皮膚穿孔要素は上記スペーサー層306と同一の材料またはこれと異なる材料により作成できる。上記試験片300が任意数の皮膚穿孔要素を備え得ることは明らかになると考えられ、この場合の数は約1個乃至50個、通常的に約1個乃至25個の範囲にできる。これらの皮膚穿孔要素314は流体通路またはチャンネル316をそれぞれ有しており、これらの流体通路316は第1の側面部分317および第2の側面部分319に沿って外部環境に対して開口している。また、これらの流体通路316は各先端部分320よりも基端側に延在している。各皮膚穿孔要素314の侵入の長さまたは先端側部分はその基部321と先端部分320との間の距離として示されている。
【0058】各流体通路316の基端側部分337は上記2個の電極302および308の間に配置されており、図10において、破線により示されていて、上記試験片が各流体通路をその間に閉じ込めていることを示している。従って、この試験片の各電極は上記各流体通路の一部分に対してそれぞれ境界部分または壁部を形成しており、これらの流体通路の中に流れるサンプルは当該通路の中に存在している間に各電極に対して接触するようになっている。」

3.対比、検討
(3.1)本願発明と刊行物1発明との対比
上記(1b)、(1c)に記載されている図1のバイオセンサにおける「カバー」は、上記(1d)に記載されているように、「カバーフィルム」として調製されている部材であるから、刊行物1発明の「カバー6」は、本願発明の「カバーフィルム」に相当する。
刊行物1発明の「作用極1及び対極2」が、本願発明の「電極」に相当する。
刊行物1発明の「キャビティ」が、本願発明の「切り欠き」に相当する。
刊行物1発明の「キャビティ11を有するスペーサー7を介して貼り合わせてなるシート状のバイオセンサー」が、本願発明の「キャビティを具備したバイオセンサーの」「液体展開シート」に相当する。
液体吸収層すなわち液体を吸収する層という層は、液体を受容する層の形態の一つに他ならないから、刊行物1発明の「液体吸引層」は、本願発明の「液体受容層」に相当する。よって、刊行物1発明の「カバー6に用いる基材の表面に液体吸引層が配され」ることが、本願発明の「前記基材の少なくとも片面に液体受容層が配され」ることに相当する。
本願発明の「エチレンオキサイド単位からなるブロックと炭素数が3以上のアルキレンオキサイド単位からなるブロックとを含むブロック共重合体」は、界面活性剤の一種であるから、刊行物1発明の「バインダーおよび界面活性剤を含有する」ことと、本願発明の「バインダーおよび、エチレンオキサイド単位からなるブロックと炭素数が3以上のアルキレンオキサイド単位からなるブロックとを含むブロック共重合体を含有する」こととは、「バインダーおよび界面活性剤を含有する」点で共通する。

そうすると、両者は、
(一致点)
「空気逃げ孔を有するカバーフィルムと、吸引口と空気逃げ孔に対応する位置の間に電極および試薬層を有する絶縁基板とを、吸引口から空気逃げ孔に連通する切り欠きを有するスペーサーを介して貼り合わせてなる、キャビティを具備したバイオセンサーの、カバーフィルムに用いる基材であって、前記基材の少なくとも片面に液体受容層が配され、該液体吸引層が、バインダーおよび界面活性剤を含有する液体展開用シート。」
である点で一致し、下記の点で相違する。
(相違点)
液体受容層が含有する界面活性剤が、本願発明では、「エチレンオキサイド単位からなるブロックと炭素数が3以上のアルキレンオキサイド単位からなるブロックとを含むブロック共重合体を含有する」ものであるのに対し、刊行物1発明では、その点の特定がない点。

(3.2)相違点についての検討
刊行物2には、上記記載(2a)、(2b)、(2c)のように、本願発明と同様、生理学的サンプルを毛細管作用で試験片が具備する電極に対して接触するように、流体流路に吸引して収集する場合に、サンプル収集を容易化するために、親水性の物質である、エチレンオキサイド単位からなるブロックと炭素数が3であるプロピレンオキサイド単位からなるブロックとを含むブロック共重合体である界面活性剤のPluronic(プルロニック)を流体流路内に存在させることが、上記記載(2c)に記載されている。
そうすると、刊行物1発明においても、液体流路であるキャビティを構成するカバーフィルムに用いる基材の少なくとも片面に配する液体受容層(液体吸収層)が含有する界面活性剤として、「エチレンオキサイド単位からなるブロックと炭素数が3以上のアルキレンオキサイド単位からなるブロックとを含むブロック共重合体」である「プルロニック」を選択することは、当業者であれば容易になし得る範囲内の事項である。
そして、それによる効果も格別のものとは認められない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-06 
結審通知日 2013-12-17 
審決日 2014-01-10 
出願番号 特願2008-552629(P2008-552629)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大竹 秀紀  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 三崎 仁
岡田 孝博
発明の名称 液体展開用シート  

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