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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1285348
審判番号 不服2013-10748  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-08 
確定日 2014-03-06 
事件の表示 特願2008-153969「中間転写記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月 5日出願公開、特開2009- 23341〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成20年6月12日(優先権主張平成19年6月21日)の出願であって、平成24年8月27日に手続補正がなされ、平成25年3月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、当審における平成25年8月9日付け審尋に対して同年9月26日に回答書を提出している。

2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成25年6月8日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、平成25年6月8日付けで補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの次のものと認める。

「基材シート上に剥離可能に、少なくとも染料受容層からなる転写層を設けた中間転写記録媒体において、前記転写層に蛍光色材を含有させ、かつ該蛍光色材を含有する層がパターン形状を有し、前記転写層に下記化学式1で表される蓚酸アニリド系紫外線吸収剤、下記化学式2または化学式3で表されるマロン酸エステル系紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする中間転写記録媒体。
【化1】

【化2】

【化3】

」(以下、「本願発明」という。)。

3 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-15939号公報(以下「引用例」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも基材フィルムと、当該基材フィルム上に剥離可能に設けられた転写部とからなり、当該転写部は画像が形成される受容層を少なくとも有し、画像が形成された後の前記転写部を被転写体に転写するために用いられる中間転写記録媒体において、
前記転写部には、マイクロ文字が形成されていることを特徴とする中間転写記録媒体。
【請求項2】 前記転写部は、ホログラム層を有し、当該ホログラム層に前記マイクロ文字が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の中間転写記録媒体。
【請求項3】 前記マイクロ文字が、エンボス加工によって形成されていることを特徴とする請求項2に記載の中間転写記録媒体。
【請求項4】 前記マイクロ文字が、0.2ポイント以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の中間転写記録媒体。
【請求項5】 前記転写部には、さらに、彩紋柄が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の中間転写記録媒体。
【請求項6】 前記転写部には、可視光領域以外の波長領域に吸収をもった材料によって蛍光潜像が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載の中間転写記録媒体。
【請求項7】 前記蛍光潜像が、マイクロ文字または彩紋柄であることを特徴する請求項6に記載の中間転写記録媒体。
【請求項8】 前記転写部が、紫外線吸収層を有し、該紫外線吸収層は、250?340nmの波長の紫外線吸収率が90%以上であり、340?370nmの波長の紫外線吸収率が50%未満であって、当該紫外線吸収層と前記受容層との間に前記蛍光潜像が設けられていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の中間転写記録媒体。
【請求項9】 請求項1乃至請求項8の何れかに記載の中間転写記録媒体から転写された前記転写部を有した印画物。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、画像を一旦受容層に記録し、その後、該受容層が被転写体に転写されて印画物を形成するのに用いられる中間転写記録媒体およびかかる中間転写記録媒体を用いて作成された印画物に関し、更に詳しくは、改ざん、偽造等がされにくい印画物を形成するための中間転写記録媒体およびその印画物に関する。
【0002】
【従来の技術】中間転写記録媒体は、画像を一旦受容層に記録し、その後その受容層が被転写体に転写されて印画物を形成するために従来より用いられている。この受容層には、色材層が設けられた熱転写シートを用いた熱転写記録方法によって画像が記録されるので、受容層の構成材料によっては、高画質の画像を形成できる。また、被転写体に対して優れた接着性を有する受容層とすることができたり、接着層を介することによって受容層を被転写体に接着性よく転写することもできるので、色材が移行しにくく高画質の画像を直接形成できない被転写体や、熱転写時に色材層と融着し易い被転写体などに対して好ましく用いられている。
【0003】図3は、典型的な中間転写記録媒体の一例の断面模式図を示したものである。中間転写記録媒体101は、基材フィルム102と、少なくとも受容層105を有する転写部112とから構成されている。受容層105には、色材層が設けられた熱転写シートを用いて熱転写することによって、画像106が形成される。受容層105に画像106が形成された転写部112は、基材フィルム102から剥離して被転写体上に転写され、被転写体上に目的の画像106を形成する。
【0004】このような中間転写記録媒体を用いることによって、高解像度で高品質な画像を被転写体上に転写形成することができる。また、あらかじめ中間転写記録媒体の転写部に必要とされる文字や顔写真等の画像を形成しておき、その後の転写によって被転写体に画像を形成することができるので、例えばパスポートの冊子やカード基材のような個別に存在する被転写体であっても簡単に画像が形成できる点で特に優れており、好ましく使用されている。また、あらかじめ被転写体上にサイン等の必要な事項を記入または印刷等し、その後に、中間転写記録媒体から文字や写真等の画像が形成された転写部を転写することによって作成することもできる。そのため、中間転写記録媒体は、パスポート等の身分証明書やクレジットカード・IDカード等の印画物の作成に対して好ましく用いることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述したようなパスポートやクレジットカード等の印画物には、セキュリティー、即ち偽造や改ざんされ難い高い信頼性・安全性が要求されている。そのため、複写による偽造や改ざん等がし難いように従来から種々の工夫がなされている。
【0006】例えば、複写による偽造を防止するために、パスポートの冊子やカード基材のような被転写体上に、マイクロ文字を印刷したり、可視光領域以外の波長領域(以下「非可視光領域」という。)に吸収をもったインキで文字を印刷することによって複写や改ざん等を防止することが行なわれれている。
【0007】しかしながら、このような文字は、何れも被転写体上に直接印刷して設けられたものであるため、転写部を破損しないように剥がして、被転写体上に直接印刷された文字を改ざん等されるおそれがある。
【0008】また、非可視光領域に吸収をもったインキを被転写体上に設ける場合には、そのインキが被転写体に染着し易いことが条件となるので、被転写体の材質や形状に制約があるという実際上の問題があり、改ざん等の防止に効果のあるインキを使用できない場合もある。
【0009】また、非可視光領域に吸収をもったインキを被転写体上に印刷して設けた場合、インキ材質によっては、転写部との接着性に劣る場合がある。この場合、被転写体に転写された転写部は、被転写体とは良好に接着しても、被転写体上に印刷されたインキとの接着性に劣ってインキ上に十分に接着することができず、その結果、転写部と被転写体との密着の弱い部分が生じ、改ざん等が容易となるおそれもある。
【0010】そこで、上記課題を解決するため、本発明の目的は、改ざん、偽造等がされにくい印画物を形成するための中間転写記録媒体の提供およびかかる中間転写記録媒体を用いて作成された印画物の提供にある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の中間転写記録媒体は、少なくとも基材フィルムと、当該基材フィルム上に剥離可能に設けられた転写部とからなり、当該転写部は画像が形成される受容層を少なくとも有し、画像が形成された後の前記転写部を被転写体に転写するために用いられる中間転写記録媒体において、前記転写部には、マイクロ文字が形成されていることに特徴を有する。この発明によれば、マイクロ文字が形成されているので、複写による偽造が困難となる。また、マイクロ文字が転写部に形成されているので、被転写体上に印刷された事項を改ざん等しようとして転写部を剥がすと、マイクロ文字が破損してしまい、改ざん等をより一層防止することができる。
【0012】このとき、前記転写部がホログラム層を有し、当該ホログラム層に前記マイクロ文字が形成されていることが好ましく、さらに、前記マイクロ文字がエンボス加工によって形成されていることが特に好ましい。ホログラム層にマイクロ文字が形成されているので、ホログラムとマイクロ文字によって偽造が極めて困難となり、さらに、マイクロ文字が印刷でなく、エンボス加工によって形成されているので、複写によってもマイクロ文字が現れることがなく、信頼性・安全性に優れた印画物とすることができる。
【0013】前記マイクロ文字を0.2ポイント以下の大きさとすることが好ましく、また、前記転写部に、さらに彩紋柄を形成することが好ましい。これにより、より一層改ざん等の防止に効果的となる。
【0014】前記転写部には、マイクロ文字や彩紋柄のほかに、赤外線や紫外線等の非可視光領域に吸収をもった材料、特に紫外光領域に吸収をもった材料によって蛍光潜像が形成されていることが好ましい。この発明によれば、複写による偽造が困難な蛍光潜像が、非可視光領域に吸収をもった材料によって転写部に形成されるので、蛍光潜像の形成が被転写体の材質や形状に制約されることがなく、また、被転写体上に印刷された事項を改ざん等しようとして転写部を剥がすと、蛍光潜像が破損してしまうので、改ざん等を防止できる。また、蛍光潜像を被転写体上に形成しないので、蛍光潜像が形成された部分と形成されない部分とで、転写部に対する接着性が相違しないので、転写不良や密着不良が起こるという従来の問題が起こらず、改ざん等をより一層防止できる。
【0015】また、前記転写部に、紫外線吸収層を設け、この紫外線吸収層が、250?340nmの波長の紫外線吸収率が90%以上であり、かつ、340?370nmの波長の紫外線吸収率が50%未満であって、当該紫外線吸収層と前記受容層との間に前記蛍光潜像を設けることが好ましい。これにより、転写部が被転写体に転写された後、受容層に形成された画像が紫外線吸収層によって紫外線から保護される。さらに、この紫外線吸収層は、250?340nmの波長を90%以上吸収するので、紫外線による画像の劣化が起こらない。また、340?370nmの波長の紫外線吸収率が50%未満であるので、この範囲の波長の紫外線を照射することにより、紫外線吸収層と受容層との間に形成した蛍光潜像を認識することができ、蛍光潜像の光劣化と改ざん防止の両面において効果がある。
【0016】また、上述の中間転写記録媒体から転写された前記転写部を有した印画物は、改ざん等が極めて困難であるため、その印画物は高い信頼性と安全性を有する。また、この印画物は、中間転写記録媒体から画像、マイクロ文字、彩紋柄、蛍光潜像等の設けられた転写部が転写されるので、パスポートのように既に冊子となった後の所定の欄であっても、容易に転写部を転写することができ、改ざん等がし難く、高い信頼性と安全性を有する印画物を提供することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の中間転写記録媒体の一例を示す断面図である。中間転写記録媒体1Aは、基材フィルム2と、基材フィルム2上に剥離可能に設けられた転写部12とから構成されている。転写部12は、画像が転写される受容層5を少なくとも有し、基材フィルム2側から剥離層3、保護層4、ホログラム層7、透明蒸着層8、アンカー層9、受容層5の順で積層されている。転写部12にはマイクロ文字10および彩紋柄11が形成されている。この中間転写記録媒体1Aは、画像6が形成された後の転写部12を、被転写体上に転写して印画物を得るために用いられる。
【0018】転写部12に設けられた層の内、剥離層3、保護層4、ホログラム層7、アンカー層9は必ずしも必須の層ではなく、被転写体の材質、印画物の用途および使用態様などにより適宜選択されて設けられるものであり、特に限定されるものではない。そのため、これらの層の代わりに、または、これらの層に加えて、紫外線吸収層などの特有の作用を有する層を適宜選択して設けることもできる。
・・・(略)・・・
【0031】図2は、本発明の中間転写記録媒体の他の一例を示す断面図である。この中間転写記録媒体1Bは、基材フィルム2と、基材フィルム2上に設けられた離型層13と、離型層13上に設けられた転写部12とから構成されている。転写部12は、画像6が転写される受容層5を少なくとも有し、基材フィルム2側から保護層4、紫外線吸収層15、ホログラム層7、透明蒸着層8、アンカー層9、受容層5の順で積層されている。転写部12にはマイクロ文字10および彩紋柄11が形成されている。また、蛍光潜像14が、保護層4の紫外線吸収層15側の表面に形成されている。この中間転写記録媒体1Bも、上述の中間転写記録媒体1Aと同様に、画像6が形成された後の転写部12を、被転写体上に転写して印画物を得るために用いられる。
【0032】この中間転写記録媒体1Bは、図1で示した中間転写記録媒体1Aと異なり、転写部12の基材フィルム2側の最表面に剥離層3を設ける代わりに、基材フィルム2の転写部12側の最表面に離型層13を設けている。このため、保護層4と離型層13との間で剥離して転写部12が被転写体上に転写される。なお、こうした転写部12の剥離を、図1の中間転写記録媒体1Aのように剥離層3を設けることによって行なうか離型層13を設けることによって行なうかは、適宜選択することができる。
【0033】転写部12に設けられた層の内、例えば保護層4、紫外線吸収層15、ホログラム層7、アンカー層9は必ずしも必須の層ではなく、被転写体の材質、印画物の用途および使用態様などにより適宜選択されて設けられるものであり、特に限定されるものではない。
【0034】蛍光潜像14は、得られた印画物の偽造を防止するために、中間転写記録媒体1Bの転写部12に設けられるものであり、非可視光領域、例えば赤外線、紫外線その他の放射線に吸収をもった材料によって形成される。中でも、紫外線領域に吸収をもった材料によって蛍光潜像14を形成することが好ましい。
【0035】蛍光潜像14は、非可視光領域に吸収をもった材料を印刷して形成した文字や模様等に紫外線または赤外線等を照射した際に、ある一定の蛍光波長を発することによって認識される。しかし、紫外線または赤外線等が照射されないときは、蛍光波長を発しない潜像として作用するものであるから、形成される文字や模様、その大きさおよび形成位置には特に限定されることはなく、被転写体の用途や使用態様によって適宜設定することができる。
【0036】紫外線領域に吸収をもった材料としては、ある一定の蛍光波長を発する物質が用いられ、無機蛍光体と有機蛍光体の何れであってもよい。蛍光潜像は、無機蛍光体や有機蛍光体を主成分とした蛍光顔料を含む蛍光潜像用インキを印刷することによって得ることができる。無機蛍光顔料としては、Ca、Ba、Mg、Zn、Cd等の酸化物、硫化物、ケイ酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩等の無機結晶蛍光体を主成分とし、Mn、Zn、Ag、Cu、Sb、Pb等の金属元素またはランタノイド類等の希土類元素を活性剤として添加して焼成したものが用いられる。好ましい無機蛍光顔料としては、ZnO:Zn、Br_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu、Zn_(2)GeO_(4):Mn、Y_(2)O_(3):Eu、Y(P、V)O_(4):Eu、Y_(2)O_(2)Si:Eu、Zn_(2)GeO_(4):Mn等を挙げることができる。有機蛍光顔料としては、ジアミノスチルベンジスルホン酸誘導体、イミダゾール誘導体、クマリン誘導体、トリアゾール、カルバゾール、ピリジン、ナフタル酸、イミダゾロン等の誘導体、フルオレセイン、エオシン等の色素、アントラセン等ベンゼン環を持つ化合物等を用いることができる。
【0037】無機蛍光顔料は耐久性および耐候性に優れており、有機蛍光顔料はインキのビヒクルのぬれ性がよく特に表面処理をしなくともインキ化適正に優れている。上記した各々の顔料の内、粒径が比較的大きくて輝度が大きい安定な酸化物系または酸素酸塩系の無機蛍光顔料は、耐久性、耐候性、特に耐光性や印刷適性の向上を図ることができるので好ましく使用できる。特に、ZnO:Znの無機蛍光顔料は、輝度および耐候性の点で優れている。なお、蛍光顔料として、希土類蛍光体を主成分とした蛍光顔料を使用することもできる。
【0038】輝度等の蛍光特性とインキの印刷特性の向上を図るために、蛍光顔料の粒径を調整することが好ましい。そのため、蛍光顔料の顔料粒子の平均径を0.7?4μmとすることが好ましく、更に好ましくは0.7?2μm、最も好ましくは1?2μmである。一般に、顔料粒径が小さいほどインキ特性が向上することが予想されるが、粒径が0.7μm未満では、かえって蛍光の輝度が著しく低下する現象が見られる。従って、0.7μm以上の粒径を有する蛍光顔料を用いることが好ましい。一方、粒径が4μmを超えると、認識される蛍光画像の透明性が低下する場合がある。
【0039】蛍光潜像用インキ中の蛍光顔料の含有量は、輝度と被印刷材への転写性(接着性)の双方の向上を図るため、15?80重量%とすることが好ましく、更に好ましくは20?50重量%である。蛍光顔料の含有量が18重量%未満では、蛍光顔料の種類によっては、蛍光潜像用インキのインキ組成物状態での蛍光輝度が極端に低下し、例えば12重量%程度では蛍光顔料自体の有する輝度に対して約1/10程度にまで減少する場合がある。蛍光潜像の厚さは、必要とされる蛍光輝度と蛍光顔料の含有量等によって適宜決定することができ、例えば1?10μmとすることができる。本発明では、透明性を確保するという観点から、前記のように比較的小さい粒子径の蛍光顔料を用いるが、粒子径が小さいことによる蛍光強度の不足は、形成する蛍光潜像の厚さを増すことにより補うことができる。
【0040】さらに、蛍光顔料の性質(隠蔽力、着色力、吸油性、耐久性等)を改善するために表面処理を行いことが好ましい。特に無機発光顔料を用いた場合、その表面が親水性であり、油性のポリマーとの親和性が乏しいため、表面処理を行うことによってポリマーとの親和性を改善することが好ましい。
【0041】蛍光潜像14の形成方法は、上記の材料を樹脂中に分散して、オフセット印刷、グラビア印刷、シルク印刷等することによって、転写部12を構成する何れかの層の表面に形成することができ、例えば上述したように、保護層4の紫外線吸収層15側の表面に設けることができる。
【0042】このような非可視光領域に吸収をもった材料を印刷して、マイクロ文字や彩紋柄を蛍光潜像14として形成することができる。このマイクロ文字の大きさを、上述した範囲と同程度とすることができ、その結果、改ざん等の防止により一層効果的となる。
【0043】また、蛍光潜像14を形成するための上記の材料を、全ベタで形成した蛍光潜層とすることもでき、また、他の層例えば受容層5やホログラム層7等の形成材料と混ぜて形成してもよい。
【0044】蛍光潜像14の認識は、蛍光潜像14を形成する材料によって異なる。すなわち、紫外線または赤外線等を使用した際に発する蛍光波長が可視光領域となるような材料によって蛍光潜像14を形成した場合には、目視によって認識することができるが、蛍光波長が紫外光領域または赤外光領域となるような材料によって蛍光潜像14を形成した場合には、発せられる蛍光波長を検知できるセンサーによって認識することができる。
【0045】蛍光潜像14が設けられた転写部12を、被転写体に転写することによって得られた印画物は、複写による偽造が困難となる。また、蛍光潜像14が、非可視光領域に吸収をもった材料によって転写部12に形成されるので、蛍光潜像14の形成が被転写体の材質や形状に制約されることがなく、また、被転写体上に印刷された事項を改ざん等しようとして転写部12を剥がすと、蛍光潜像14が破損してしまうので、改ざん等を防止することができる。また、蛍光潜像14を被転写体上に形成しないので、蛍光潜像14が形成された部分と形成されない部分とで、転写部12に対する密着性が相違し、転写部12を剥がすことも容易でなくなるので、改ざん等の防止に好ましい。
【0046】紫外線吸収層15は、転写部12が被転写体に転写された後、受容層5に形成された画像6を自然光中の紫外線から保護して劣化を防止する。それゆえ、紫外線吸収層15は、中間転写記録媒体1Bにおいて、受容層5の基材フィルム2側に位置するように転写部12に設けられる。
【0047】紫外線吸収層15は、転写部12に設けられた他の層等、例えばホログラム層7、マイクロ文字10、彩紋柄11、蛍光潜像14、受容層5等に対しても、自然光中の紫外線によってインキや樹脂の劣化を防止することができるので好ましく設けられる。それゆえ、紫外線吸収層15は、保護層4と同様に、得られた印画物の表面または表面付近に配置されるように中間転写記録媒体1Bの転写部12の所定の位置、即ち基材フィルム2側に近くて受容層5側から遠い位置に設けられる。
【0048】蛍光潜像14が紫外線領域に吸収をもった材料から形成されている場合、250?340nmの波長の紫外線吸収率が90%以上であり、340?370nmの波長の紫外線吸収率が50%未満である紫外線吸収層15を設けることが好ましい。このとき蛍光潜像14は、紫外線吸収層15と受容層5との間に設けられている。
【0049】この紫外線吸収層15は、250?340nmの波長を90%以上吸収するので、紫外線による画像6の劣化が起こらない。このときの紫外線吸収率が90%未満の場合は、画像6や他の層等を紫外線による劣化から防止することができない場合がある。
【0050】また、340?370nmの波長の紫外線吸収率が50%未満であるので、この範囲の波長の紫外線を照射することにより、紫外線吸収層15と受容層5との間に形成した蛍光潜像14が一定の蛍光を発することによって認識することができる。このときの紫外線吸収率が50%以上の場合は、紫外線吸収層15を通過する上記波長の紫外線が少なく、蛍光材料から蛍光が発しにくく、蛍光潜像を認識しにくい。
【0051】このように、波長によって紫外線吸収率の異なる紫外線吸収層15を設けることにより、得られた印画物の画像等の劣化を防止することができると共に、蛍光潜像14を設けることも可能となるので、偽造や改ざんを防止することができるという優れた効果がある。
【0052】紫外線吸収層15を形成するための材料は、例えば従来公知の有機系紫外線吸収剤であるサリシレート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、置換アクリロニトリル系、ニッケルキレート系、ヒンダートアミン系の非反応性紫外線吸収剤に、例えばビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の付加重合性二重結合を有するもの、またはアルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基等を導入したものを使用することができ、特に限定されない。また、その形成方法も、従来と同様の方法で形成することができる。
【0053】また、波長領域によって紫外線吸収率が上記のように調整された紫外線吸収層15は、上述の材料のうち、ベンゾフェノン系の材料を用いることが特に好ましい。また、形成方法は、従来と同様の方法で形成することができる。
・・・(略)・・・
【0062】受容層5は、中間転写記録媒体を構成する転写部12の一部として、基材フィルム2側とは反対側の最表面に位置するように設けられる。この受容層5上には、熱転写によって、色材層を有する熱転写シートから熱転写法によって画像6が形成される。そして、画像6が形成された中間転写記録媒体1A、1Bの転写部12は、被転写体16に転写され、その結果、印画物17が形成される。
【0063】このため、受容層5を形成するための材料としては、昇華性染料または熱溶融性インキ等の熱移行性色材を受容し易い従来公知の樹脂材料を使用することができる。例えば、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルもしくはポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体もしくはポリアクリル酸エステル等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレンもしくはプロピレン等のオレフィンと他のビニルポリマーとの共重合体系樹脂、アイオノマーもしくはセルロースジアスターゼ等のセルロース系樹脂、ポリカーボネイト等が挙げられ、特に、塩化ビニル系樹脂、アクリル-スチレン系樹脂またはポリエステル樹脂が好ましい。
【0064】受容層5が接着層を介して被転写体に転写される場合には、受容層5自体の接着性は必ずしも要求されない。しかし、受容層5が接着層を介さないで被転写体に転写される場合には、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂などの接着性を有する樹脂材料を用いて受容層5を形成することが好ましい。
【0065】受容層5は、上述の材料の中から選択された単独または複数の材料および必要に応じて各種添加剤等を加え、水または有機溶剤等の適当な溶剤に溶解または分散させて受容層用塗工液を調製し、これをグラビア印刷法、スクリーン印刷法またはグラビア版を用いたリバースコーティング法等の手段により、基材フィルム2上に、または、基材フィルム2上に保護層4等が設けられている場合にはその上に塗布、乾燥して形成することができる。その厚さは、乾燥状態で1?10μm程度である。
・・・(略)・・・
【0072】紫外線吸収層は、必要に応じて転写部12の一部として、受容層5と基材フィルム2の間の適当な位置に設けることもできる。この紫外線吸収層は、転写後の受容層5を覆って、自然光中の紫外線から印画物の画像6の劣化を防止する。この紫外線吸収層を形成するための材料は、従来公知のものを使用することができ、特に限定されない。また、その形成方法も、従来と同様の方法で形成することができる。」

ウ 「【0097】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の中間転写記録媒体によれば、マイクロ文字が形成されているので、複写による偽造が困難であると共に、転写部にマイクロ文字が形成されているため、被転写体上に印刷された事項を改ざん等しようとして転写部を剥がすと、マイクロ文字が破損してしまうので、改ざん等を防止できる。また、ホログラム層にマイクロ文字が形成されているので、ホログラムとマイクロ文字によって偽造が極めて困難となり、さらに、マイクロ文字が印刷でなく、エンボス加工によって形成されているので、複写によってもマイクロ文字が現れることがなく、信頼性・安全性に優れた印画物とすることができる。また、マイクロ文字を0.2ポイント以下の大きさとし、さらに、転写部に彩紋柄を形成することにより、より一層改ざん等の防止に効果的となる。
【0098】また、転写部には、マイクロ文字や彩紋柄のほかに、非可視光領域、特に紫外線領域に吸収をもった材料によって蛍光潜像を形成することにより、複写による偽造をより防止できると共に、被転写体の材質や形状に制約されることなく蛍光潜像を伴う印画物を形成することができる。また、紫外線から印画物を保護するために設けた紫外線吸収層の吸収波長と吸収率を調整することによって、形成された蛍光潜像を認識することができると共に、蛍光潜像の光劣化と改ざん防止の両面において効果がある。
【0099】本発明の印画物は、本発明の中間転写記録媒体の転写部を転写することによって得られるので、改ざん等が極めて困難であり、高い信頼性と安全性を有することができる。また、この印画物は、中間転写記録媒体から予め画像やマイクロ文字等が形成された転写部を転写することによって得られるので、パスポートのように既に冊子となった後の所定の欄であっても、容易に転写部を転写することができ、改ざん等がし難く、信頼性と安全性に優れた印画物を得ることができる。」

エ 上記アないしウから、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。
「少なくとも基材フィルムと、当該基材フィルム上に剥離可能に設けられた転写部とからなり、当該転写部は画像が形成される受容層を少なくとも有し、画像が形成された後の前記転写部を被転写体に転写して印画物を形成するために用いられる中間転写記録媒体であって、
前記受容層を形成するための材料として、昇華性染料を受容し易い樹脂材料を使用し、
前記転写部に、可視光領域以外の波長領域に吸収をもった材料、特に紫外光領域に吸収をもった材料によって文字や模様等の蛍光潜像が形成されており、
前記転写部は紫外線吸収層を有し、該紫外線吸収層は、250?340nmの波長の紫外線吸収率が90%以上であり、340?370nmの波長の紫外線吸収率が50%未満であって、当該紫外線吸収層と前記受容層との間に前記蛍光潜像が設けられており、
前記紫外線吸収層を形成するための材料として、例えば、有機系紫外線吸収剤であるサリシレート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、置換アクリロニトリル系、ニッケルキレート系、ヒンダートアミン系の非反応性紫外線吸収剤に、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の付加重合性二重結合を有するもの、またはアルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基等を導入したものを使用するものであり、
前記紫外線吸収層は、250?340nmの波長を90%以上吸収するので、紫外線による前記画像の劣化が起こらず、また、340?370nmの波長の紫外線吸収率が50%未満であるので、この範囲の波長の紫外線を照射することにより、前記紫外線吸収層と前記受容層との間に形成した前記蛍光潜像が一定の蛍光を発することによって認識することができ、
これにより、被転写体上に転写された蛍光潜像を認識することができ偽造を防止できると共に、被転写体上の印画物の光劣化と改ざんを防止することができる、
中間転写記録媒体。」(以下「引用発明」という。)

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「基材フィルム」、「昇華性染料」、「転写部」、「中間転写記録媒体」、「『蛍光潜像』を『形成』するための『紫外線領域に吸収をもった材料』」及び「『紫外線吸収層を形成するための材料』である『紫外線吸収剤』」は、それぞれ、本願発明の「基材シート」、「染料」、「転写層」、「中間転写記録媒体」、「蛍光色材」及び「紫外線吸収剤」に相当する。

イ 引用発明では、受容層を形成するための材料として昇華性染料を受容し易い樹脂材料を使用するのであるから、引用発明の「受容層」は、本願発明の「染料受容層」に相当する。

ウ 引用発明の「転写層(転写部)」は、「基材シート(基材フィルム)」上に剥離可能に設けられたものであり、また、画像が形成される「染料受容層(受容層)」を少なくとも有するものであるから、本願発明の「転写層」と、「基材シート上に剥離可能に」設けられた点、及び、「少なくとも染料受容層からなる」点で一致する。

エ 引用発明の「転写層(転写部)」は、「蛍光色材(紫外線領域に吸収をもった材料)」によって文字や模様等の蛍光潜像が形成されているのであるから、本願発明の「転写層」と、「蛍光色材を含有させ、かつ該蛍光色材を含有する層がパターン形状を有」する点で一致する。

オ 引用発明の「転写層(転写部)」は、紫外線吸収層を有し、紫外線吸収層を形成するための材料として、例えば、有機系「紫外線吸収剤(紫外線吸収剤)」であるサリシレート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、置換アクリロニトリル系、ニッケルキレート系、ヒンダートアミン系の非反応性「紫外線吸収剤(紫外線吸収剤)」に、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の付加重合性二重結合を有するもの、またはアルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基等を導入したもの使用するから、本願発明の「転写層」と、「紫外線吸収剤を含有する」点で一致する。

カ 上記アないしオから、本願発明と引用発明とは、
「基材シート上に剥離可能に、少なくとも染料受容層からなる転写層を設けた中間転写記録媒体において、前記転写層に蛍光色材を含有させ、かつ該蛍光色材を含有する層がパターン形状を有し、前記転写層に紫外線吸収剤を含有する中間転写記録媒体。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
前記「紫外線吸収剤」が、
本願発明では、「下記化学式1で表される蓚酸アニリド系紫外線吸収剤、下記化学式2または化学式3で表されるマロン酸エステル系紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも1種
【化1】

【化2】

【化3】


であるのに対して、
引用発明ではそのようなものかどうか不明である点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)クラリアント社製のSanduvor VSU等の蓚酸アニリド系紫外線吸収剤や同社製のHostavin PR-25、Hostavin B-CAP、Sanduvor PR25等のマロン酸エステル系紫外線吸収剤は、340nm未満の波長域に吸収ピークが存在し340?400nmの波長域に吸収ピークが存在しない紫外線吸収剤の好適な例であり、このことは本願の優先日前に周知である(例.特開2007-144097号公報(【0018】、【0019】、【0046】参照。)、特開2005-504159号公報(【0073】の「SANDUVOR(登録商標)VSU」及び「SANDUVOR(登録商標)PR25」参照。)、特開2003-327455号公報(【0011】、【0012】参照。))。

(2)Sanduvor VSUは本願の化学式1で表される蓚酸アニリド系紫外線吸収剤であり(クラリアント社のカタログ、http://www.siliconasyquimicos.com/fichas_tecnicas/Sanduvor.pdf、平成25年12月13日閲覧、2頁参照。)、Hostavin PR-25とSanduvor PR25は本願の化学式2で表されるマロン酸エステル系紫外線吸収剤であり(クラリアント社のカタログ、http://www.clariant.com/C12576850036A6E9/551A1EAE02D937BDC12579FF002EBD6F/$FILE/DA3194E.pdf、平成25年12月13日閲覧、13頁掲載のCAS番号7443-25-6参照。)、Hostavin B-CAPは本願の化学式3で表されるマロン酸エステル系紫外線吸収剤である(クラリアント社のカタログ、http://www.clariant.com/C12576850036A6E9/551A1EAE02D937BDC12579FF002EBD6F/$FILE/DA3194E.pdf、平成25年12月13日閲覧、13頁掲載のCAS番号6337-43-5参照。)。

(3)上記(1)及び(2)より、本願の化学式1で表される蓚酸アニリド系紫外線吸収剤及び本願の化学式2又は化学式3で表されるマロン酸エステル系紫外線吸収剤は、340nm未満の波長域に吸収ピークが存在し340?400nmの波長域に吸収ピークが存在しない紫外線吸収剤の好適な例であり、このことは本願の優先日前に周知である、といえる(以下「周知技術」という)。

(4)引用発明は、紫外線吸収層が、250?340nmの波長を90%以上吸収するので、紫外線による画像の劣化が起こらず、また、340?370nmの波長の紫外線吸収率が50%未満であるので、この範囲の波長の紫外線を照射することにより、紫外線吸収層と受容層との間に形成した蛍光潜像が一定の蛍光を発することによって認識することができるものであるから、引用発明の紫外線吸収層を形成するための材料として、本願の化学式1で表される蓚酸アニリド赤外線吸収剤又は本願の化学式2若しくは化学式3で表されるマロン酸エステル系紫外線吸収剤を用いること、すなわち、相違点に係る本願発明の構成となすことは、上記(3)からみて、当業者が周知技術に基づいて適宜なし得た程度のことである。

(5)本願発明の奏する効果は、当業者が引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測することができた程度のものである。

(6)したがって、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-27 
結審通知日 2014-01-07 
審決日 2014-01-20 
出願番号 特願2008-153969(P2008-153969)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 里村 利光  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 鉄 豊郎
清水 康司
発明の名称 中間転写記録媒体  
代理人 藤枡 裕実  
代理人 後藤 直樹  
代理人 立石 英之  
代理人 伊藤 裕介  
代理人 深町 圭子  
代理人 伊藤 英生  

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