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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1285356
審判番号 不服2013-7884  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-30 
確定日 2014-03-27 
事件の表示 特願2010- 36065「実行制御方法及び実行制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 1日出願公開、特開2011-170759、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成22年2月22日の出願であって,平成22年5月31日付けで審査請求がなされ,平成24年1月31日付けで拒絶理由通知(同年2月7日発送)がなされ,これに対して同年4月3日付けで意見書が提出されると共に手続補正書が提出され,同年10月4日付けで拒絶理由通知(同年10月9日発送)がなされ,これに対して同年12月7日付けで意見書が提出されると共に手続補正書が提出されたが,平成25年1月31日付けで拒絶査定(同年2月5日謄本送達)がなされた。
これに対して,「原査定を取り消す。本願の発明は特許すべきものとする,との審決を求める。」ことを請求の趣旨として,平成25年4月30日付けで審判請求がなされた。


第2 本願発明

本願の特許請求の範囲の請求項1-2に係る発明(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は,上記平成24年12月7日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-2に記載された以下のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
複数のバッファそれぞれで非同期に受信するデータの数をカウントして単位時間毎に集計するステップと,
前記複数のバッファそれぞれについて過去の複数の単位時間で受信したデータ数を求め,当該データ数を合計してデータ数の総和を求めるステップと,
前記複数のバッファそれぞれについて,前記データ数の総和に対する過去の複数の単位時間で受信したデータ数の比率を求めるステップと,
前記比率に基づいて前記複数のバッファそれぞれに対する処理能率を振り分ける際に,前記比率が高いバッファほど,振り分ける処理能率を高くするステップと,
前記処理能率に従って前記複数のバッファそれぞれからデータを取得して処理するステップと,
を有することを特徴とする実行制御方法。

【請求項2】
データを非同期に受信する複数のバッファと,
前記バッファで受信するデータの数をカウントして単位時間毎に集計する複数のカウント手段と,
前記複数のカウント手段それぞれから過去の複数の単位時間で受信したデータ数を取得し,当該データ数を合計してデータ数の総和を求める集計手段と,
前記複数のバッファそれぞれについて,前記データ数の総和に対する過去の複数の単位時間で受信したデータ数の比率を求める比率算出手段と,
前記比率に基づいて前記複数のバッファそれぞれに対する処理能率を振り分ける際に,前記比率が高いバッファほど,振り分ける処理能率を高くする振分手段と,
前記処理能率に従って前記複数のバッファそれぞれからデータを取得して処理する刈取処理手段と,
を有することを特徴とする実行制御装置。」


第3 原査定の理由の概要

1.平成24年1月31日付け拒絶理由通知

平成24年1月31日付けで拒絶理由が通知されたが,その内容は下記のとおりである。

『この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項:1,3
引用文献:1
備考:
引用文献1には
「複数の先入れ先出しの記憶手段を備え,
先入れ先出しの記憶手段に毎にパケットの数をカウントするカウンタと,
カウンタの値をもとにより大きなカウンタの値をもつ先入れ先出しの記憶手段に格納されたパケットほど大きな確率で処理の機会を与えるシステム。」
の発明が記載されている。

したがって,本願発明と引用文献1に記載された発明に格別の差違はない。

請求項:2,4
引用文献:1,2
備考:
引用文献2に示されるように,リクエストの到着頻度(所定時間毎のリクエストの到着数)をもとに,処理の優先度を決定することは周知であって,引用文献1に記載された発明に上記周知技術を適用して,本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到しうることである。

拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開昭63-214046号公報
2.特開平2-83629号公報 』

2.平成24年10月4日付け拒絶理由通知

平成24年10月4日付けで拒絶理由が通知されたが,その内容は下記のとおりである。

『この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項:1,2
引用文献:1-4
備考:

引用文献1には
「複数の先入れ先出しの記憶手段を備え,
先入れ先出しの記憶手段毎にパケットの数をカウントするカウンタと,
カウンタの値をもとに,より大きなカウンタの値をもつ先入れ先出しの記憶手段に格納されたパケットほど大きな確率で処理の機会を与えるシステム。」
の発明が記載されている。

引用文献2に示されるように,リクエストの到着頻度(所定時間毎のリクエストの到着数)をもとに,処理の優先度を決定することは周知であって,引用文献1に記載された発明に上記周知技術を適用して,リクエストの到着頻度をもとに処理を振り分けることは当業者が容易に想到しうることである。
また,引用文献3,4に示されるように,頻度計算の方法として,データの数をカウントし,単位時間毎に集計し,当該データ数を合計してデータ数の総和を求めることにより,データの頻度計算を行うことは周知であるから,引用文献1に記載された発明に,引用文献2に記載の技術を適用する際に,データの数をカウントし,リクエストの到着数を単位時間毎に集計し,当該データ数を合計してデータ数の総和を求めることによりリクエストの到着頻度を計算する程度のことは,当業者が適宜なしうることである。

拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開昭63-214046号公報
2.特開平2-83629号公報
3.特開2006-295674号公報
4.特開2004-178363号公報 』

3.平成25年1月31日付け拒絶査定

平成25年1月31日付けで拒絶査定がなされたが,その内容は下記のとおりである。

『この出願については,平成24年10月 4日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものです。
なお,意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

請求項1,2について
出願人は,補正前の請求項1に記載された「処理能率の振り分け」に関して,
「前記比率が高いバッファほど,振り分ける処理能率を高くする」点で限定し,補正後の請求項1とする補正を行うとともに,意見書で「引用文献1は,処理待ちパケット数が大きな記憶手段のパケットほど大きな確立で処理の機会を与えるのに対し,引用文献2は,データ到着頻度の低い入力データストリームを優先するもので,引用文献1と引用文献2における処理優先度の考え方は相反します。
したがって,引用文献1,2を組み合わせたとしても,本願発明の「前記比率が高いバッファほど,振り分ける処理能率を高くする」ことに容易に想到するとは考えられません。」と主張している。
上記出願人の主張について検討する。
引用文献2には,リクエストの到着頻度(所定時間毎のリクエストの到着数)をもとに,処理の優先度を決定することが記載されている。リクエストの到着頻度に応じて到着頻度の多い方を優先するか,少ない方を優先するかは,システムの利用目的等に応じて設計者が適宜選択しうることである。
したがって,引用文献1に記載された,データ量の多いバッファほど振り分ける処理能率を高くする発明に,引用文献2に記載の,データ量の多さをリクエストの到着頻度で測定する技術を適用して,本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到しうることである。 』


第4 当審の判断

1.引用文献

(1-1)引用文献1に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

本願の出願日前に頒布され,原審の平成24年1月31日付けの拒絶理由通知において引用された,特開昭63-214046号公報(昭和63年9月6日出願公開,以下,「引用文献1」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「本発明は複数のポートから到着する伝送パケットに対して処理優先度を割当て,その順番に処理を施す通信制御装置に関する。」(1ページ左下欄18行?同20行)

B 「本発明はこのような従来の問題を解決するものであり,一部のパケットの処理遅延の極端な増大を防止し,全てのパケットに均一な処理遅延を保証するような最適な処理分配が動的に実現できる優れた通信制御装置を提供することを目的とするものである。」(2ページ右上欄2行?同7行)

C 「次に上記実施例の動作について説明する。上記実施例に於て入力ポート16から伝送パケットAが到着すると,先入れ先出しの記憶手段14に格納される。カウンタ15は記憶手段14内の未処理パケット数を常時計数している。中央処理ブロックでの通信制御処理の実行に先立ち,ランダムプロセス発生ブロック13では各入力ポート16のカウンタ15の値を比較し,カウンタ値(すなわち通信制御処理待ちパケット数)の大きな入力ポート16程,より大きな機会を得るような確率的に重みづけをしたランダムプロセスを発生し,次に通信制御処理を受けるポートを決定する。これによりタスク起動ブロック12では該当ポートの通信制御処理タスクを起動し,該当ポートの記憶手段14の先頭の1パケットが通信制御処理を受け出力ポート17より退去する。」(2ページ右下欄15行?3ページ左上欄10行)

ここで,上記引用文献1に記載されている事項を検討する。

(ア)上記Aの「本発明は複数のポートから到着する伝送パケットに対して処理優先度を割当て,その順番に処理を施す通信制御装置に関する。」との記載,上記Bの「一部のパケットの処理遅延の極端な増大を防止し,全てのパケットに均一な処理遅延を保証するような最適な処理分配が動的に実現できる優れた通信制御装置を提供することを目的とする」との記載からすると,通信制御装置における最適な伝送パケット処理分配を目的とした制御方法が記載されていると解されるから,引用文献1には,
「通信制御装置における制御方法」
が記載されていると解される。

(イ)上記Cの「上記実施例に於て入力ポート16から伝送パケットAが到着すると,先入れ先出しの記憶手段14に格納される。カウンタ15は記憶手段14内の未処理パケット数を常時計数している。中央処理ブロックでの通信制御処理の実行に先立ち,ランダムプロセス発生ブロック13では各入力ポート16のカウンタ15の値を比較し,カウンタ値(すなわち通信制御処理待ちパケット数)の大きな入力ポート16程,より大きな機会を得るような確率的に重みづけをしたランダムプロセスを発生し,次に通信制御処理を受けるポートを決定する。」との記載からすると,「入力ポート」は「先入れ先出しの記憶手段」に対応して複数設置されていることは明らかであり,また,「カウンタ値(すなわち通信制御処理待ちパケット数)の大きな入力ポート16程,より大きな機会を得る」とは,カウンタ値の大きな入力ポート程,より大きな確率で通信制御処理を実行することであると解されるから,引用文献1には,
「複数の入力ポートから伝送パケットが到着すると,先入れ先出しの記憶手段に格納され,カウンタが記憶手段内の未処理パケット数を常時計数し,
中央処理ブロックでの通信制御処理の実行に先立ち,ランダムプロセス発生ブロックで各入力ポートのカウンタの値を比較し,
通信制御処理待ちパケット数のカウンタ値の大きな入力ポート程,より大きな確率で通信制御処理を実行するよう確率的に重みづけをしたランダムプロセスを発生し,次に通信制御処理を受けるポートを決定する」
旨が記載されていると解される。

以上,(ア)乃至(イ)で指摘した事項から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「複数の入力ポートから伝送パケットが到着すると,先入れ先出しの記憶手段に格納され,カウンタが記憶手段内の未処理パケット数を常時計数し,
中央処理ブロックでの通信制御処理の実行に先立ち,ランダムプロセス発生ブロックで各入力ポートのカウンタの値を比較し,
通信制御処理待ちパケット数のカウンタ値の大きな入力ポート程,より大きな確率で通信制御処理を実行するよう確率的に重みづけをしたランダムプロセスを発生し,次に通信制御処理を受けるポートを決定する
ことを特徴とする通信制御装置における制御方法。」


(1-2)引用文献2に記載されている技術的事項

本願の出願日前に頒布され,原審の平成24年1月31日付けの拒絶理由通知において引用された,特開平2-83629号公報(平成2年3月23日出願公開,以下,「引用文献2」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

D 「〔概 要〕
本発明はデータストリームの多重化における処理優先度の動的決定方式に関し,
到着頻度の低いデータストリームへのサービス性を改善することを目的とし,
複数種別の入力データストリームを一旦保留し1組の出力データストリームとして多重化処理する多重化処理装置において,入力データストリームの単位時間当たりのデータ到着件数をそれぞれ計数するカウンタと,前記単位時間経過するごとに該カウンタ計数値を比較し,該計数値の小さい順より該入力データストリームの処理優先度を高く設定する優先度決定部とを設け,データ到着頻度の低い入力データストリームを優先度を高く設定して処理するように構成する。」(1ページ右下欄2行?同16行)

E 「このようにファイル転送とデータエントリとが同時に行われる場合,ファイル読出し処理が速いため,第7図に示す状態は常に発生し,エントリデータの送信,従って上位装置からの応答が遅れてオペレータの操作性が悪くなる。
本発明は,上記課題に鑑み,到達頻度の遅いデータの処理速度を改善するデータストリームの多重化における処理優先度の動的決定方式を提供することを目的とする。

〔課題を解決するための手段〕
上記目的を達成するため,本発明のデータストリームの多重化における処理優先度の動的決定方式は,第1図本発明の原理図に示すように,
入力データストリーム(a,b)の単位時間当たりのデータ到着件数をそれぞれ計数するカウンタ(5)と,
前記単位時間経過するごとに該カウンタ計数値を比較し,該計数値の小さい順より該入力データストリーム(a,b)の処理優先度を高く設定する優先度決定部(4)とを設ける。」(2ページ左下欄4行?右下欄4行)


2.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(2-1)引用発明では,通信制御処理を実行するための「通信制御装置における制御方法」であることは明らかであるから,引用発明の「通信制御装置における制御方法」と,本願発明の「実行制御方法」は,ともに,“実行制御方法”である点で共通するといえる。

(2-2)引用発明の「先入れ先出しの記憶手段」は,本願発明の「バッファ」に相当する。
また,引用発明の「伝送パケット」は通信制御装置の処理対象であることから,本願発明の「データ」に相当するといえる。
そうすると,引用発明の「複数の入力ポートから伝送パケットが到着すると,先入れ先出しの記憶手段に格納され,カウンタが記憶手段内の未処理パケット数を常時計数し」と,本願発明の「複数のバッファそれぞれで非同期に受信するデータの数をカウントして単位時間毎に集計するステップ」は,ともに,“複数のバッファそれぞれでデータの数をカウントして集計するステップ”である点で共通するといえる。

(2-3)引用発明における「カウンタの値」は,各入力ポートの先入れ先出しの記憶手段内の未処理パケットを計数した値であることから,本願発明の複数のバッファそれぞれの「データ数」に文言上対応する値であるといえる。
また,本願発明では,データ数の総和に対する過去の複数の単位時間で受信したデータ数の比率を求めており,全体として複数のバッファそれぞれのデータ数を比較しているといえるから,引用発明の「中央処理ブロックでの通信制御処理の実行に先立ち,ランダムプロセス発生ブロックで各入力ポートのカウンタの値を比較し」と,本願発明の「前記複数のバッファそれぞれについて,前記データ数の総和に対する過去の複数の単位時間で受信したデータ数の比率を求めるステップ」は,ともに,“複数のバッファそれぞれについて,データ数を比較するステップ”である点で共通するといえる。

(2-4)引用発明における「通信制御処理待ちパケット数のカウンタ値の大きな入力ポート程,より大きな確率で通信制御処理を実行するよう確率的に重みづけをした」とは,複数の先入れ先出しの記憶手段それぞれに対するパケットの処理数を振り分ける際に,パケット数のカウンタ値の大きな入力ポート程,振り分ける確率(比率)を高くすることを意味していると解される。
そうすると,引用発明の「通信制御処理待ちパケット数のカウンタ値の大きな入力ポート程,より大きな確率で通信制御処理を実行するよう確率的に重みづけをしたランダムプロセスを発生し,次に通信制御処理を受けるポートを決定する」と,本願発明の「前記比率に基づいて前記複数のバッファそれぞれに対する処理能率を振り分ける際に,前記比率が高いバッファほど,振り分ける処理能率を高くするステップと,前記処理能率に従って前記複数のバッファそれぞれからデータを取得して処理するステップ」は,ともに,“比較結果に基づいて複数のバッファそれぞれに対する処理数を振り分ける際に,データ数のカウント値が大きいバッファほど,振り分ける比率を高くするステップと,前記比率に従って前記複数のバッファそれぞれからデータを取得して処理するステップ”である点で共通するといえる。

以上から,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

(一致点)

「複数のバッファそれぞれでデータの数をカウントして集計するステップと,
前記複数のバッファそれぞれについて,データ数を比較するステップと,
前記比較結果に基づいて前記複数のバッファそれぞれに対する処理数を振り分ける際に,前記データ数のカウント値が大きいバッファほど,振り分ける比率を高くするステップと,
前記比率に従って前記複数のバッファそれぞれからデータを取得して処理するステップと,
を有することを特徴とする実行制御方法。」

(相違点1)

カウント対象に関して,本願発明では,「複数のバッファそれぞれで非同期に受信するデータの数をカウントして単位時間毎に集計する」のに対して,引用発明では,「複数の入力ポートから伝送パケットが到着すると,先入れ先出しの記憶手段に格納され,カウンタが記憶手段内の未処理パケット数を常時計数」する点。

(相違点2)

カウント値の比較方法に関して,本願発明では,「複数のバッファそれぞれについて過去の複数の単位時間で受信したデータ数を求め,当該データ数を合計してデータ数の総和を求め」,「複数のバッファそれぞれについて,前記データ数の総和に対する過去の複数の単位時間で受信したデータ数の比率を求める」のに対して,引用発明では,「ランダムプロセス発生ブロックで各入力ポートのカウンタの値を比較」する点。

(相違点3)

比較結果の実行制御への反映に関して,本願発明では,「比率に基づいて前記複数のバッファそれぞれに対する処理能率を振り分ける際に,前記比率が高いバッファほど,振り分ける処理能率を高く」し,「前記処理能率に従って前記複数のバッファそれぞれからデータを取得して処理する」のに対して,引用発明では,「通信制御処理待ちパケット数のカウンタ値の大きな入力ポート程,より大きな確率で通信制御処理を実行するよう確率的に重みづけをしたランダムプロセスを発生し,次に通信制御処理を受けるポートを決定する」点。


3.判断

上記相違点1乃至相違点3について検討する。

引用発明では,各入力ポートに対応する先入れ先出しの記憶手段に格納された未処理パケット数をカウントして,次に通信制御処理を受けるポートを決定しているが,カウント対象,カウント方法のいずれについても本願発明と相違することは上記のとおりである。
これに対して,原審において引用された引用文献2には,上記Dの「入力データストリームの単位時間当たりのデータ到着件数をそれぞれ計数するカウンタと,前記単位時間経過するごとに該カウンタ計数値を比較し,該計数値の小さい順より該入力データストリームの処理優先度を高く設定する優先度決定部とを設け,データ到着頻度の低い入力データストリームを優先度を高く設定して処理する」との記載,上記Eの「入力データストリーム(a,b)の単位時間当たりのデータ到着件数をそれぞれ計数するカウンタ(5)と,前記単位時間経過するごとに該カウンタ計数値を比較し,該計数値の小さい順より該入力データストリーム(a,b)の処理優先度を高く設定する優先度決定部(4)とを設ける。」との記載からすると,入力データストリームの単位時間当たりのデータ到着件数をカウント対象として,該入力データストリームの処理優先度を決定する旨の技術,すなわち,受信したデータ数を利用した処理優先制御の技術が記載されていると解されるが,引用文献2には,受信したデータ数のカウンタの計数値が小さい入力データストリームの処理優先度を高く設定する旨についても記載されていると解されることから,引用文献2記載の技術を引用発明のような,処理待ちパケット数のカウンタ値の大きな入力ポート程,より大きな確率で処理を実行する発明にそのまま適用することはできず,当業者が適宜なし得たものであるとすることはできない。
また,カウント方法についても,原審において引用された特開2006-295674号公報(以下,「引用文献3」という。)や特開2004-178363号公報(以下,「引用文献4」という。)に記載されているような,視聴頻度の履歴やメニュー項目の使用頻度の履歴についてのカウント方法を,引用発明のような,単位時間で計数されない処理待ちパケット数の大きさに基づき処理を実行する発明に適用することも容易に想到し得たものとすることはできない。
してみると,引用発明に引用文献2乃至4に記載の技術を適用することは,当業者が適宜なし得たものであるとすることはできず,本願発明の相違点1乃至3に係る構成とすることはできないものである。


4.まとめ

以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明は,引用発明,引用文献2乃至4に記載の技術的事項及び当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないものである。


5.請求項2に係る発明について

請求項2は請求項1をそのまま装置発明として記載したものであるから,上記3.?4.で示した理由により当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないものである。


第5 むすび

以上のとおり,本願の請求項1乃至2に係る発明は,引用発明,引用文献2乃至4に記載の技術的事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-13 
出願番号 特願2010-36065(P2010-36065)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 漆原 孝治  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 山崎 達也
田中 秀人
発明の名称 実行制御方法及び実行制御装置  
代理人 豊田 義元  
代理人 渡部 比呂志  

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