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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B32B
管理番号 1285895
審判番号 不服2013-8242  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-07 
確定日 2014-04-01 
事件の表示 特願2006-546086「防水蒸気透過性多層物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年7月14日国際公開、WO2005/063070、平成19年7月5日国内公表、特表2007-517683、請求項の数(24)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年12月27日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理、2003年12月30日、イタリア)を国際出願日とする出願であって、平成24年12月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年5月7日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に同日付けで特許請求の範囲を対象とする手続補正がなされたものである。

第2.平成25年5月7日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。(補正後の請求項1に係る発明を以下、「本願補正発明」という。)
《本願補正発明》
蒸気透過性および微孔性であり、少なくとも部分的に吸湿性であるか、または、時間が経つにつれて吸湿特性をおび得る材料で作られた少なくとも1つの第1層(311)と、防水性で蒸気透過性の少なくとも1つの第2層(312)と、防水性で蒸気透過性の少なくとも1つの第3層(312)とを備えてなり、
前記第2層(312)および前記第3層(312)が、プラズマ堆積処理により得られた薄膜により構成され、
前記第1層(311)が、前記第2層(312)および前記第3層(312)によりサンドイッチ状に挟まれ、
前記第1層(311)が、ポリオレフィンの基部と充填材の粒子とを備え、
前記ポリオレフィンが、アイソタクチックのポリプロピレンまたはポリエチレンから構成され、
前記充填材が、二酸化珪素SiO_(2)であり、
前記第1層(311)が、微孔性膜により構成されている
ことを特徴とする防水蒸気透過性多層物。

この補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定する事項である「防水蒸気透過性多層物」について、
補正前は、層構成として「少なくとも部分的に吸湿性であるか、または、時間が経つにつれて吸湿特性をおび得る材料で作られた少なくとも1つの第1層」と、「防水性で蒸気透過性の少なくとも1つの第2層」を備えることを特定していたものを、
補正後の層構成として、これら第1層及び第2層に加えて「防水性で蒸気透過性の少なくとも1つの第3層」を備え、「前記第1層が、前記第2層および前記第3層によりサンドイッチ状に挟まれ」る構成であるという限定を付加し、さらに、該第3層は「プラズマ堆積処理により得られた薄膜により構成され」るという限定を付加するものである。そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、平成18年改正前特許法第17条の2第3項に違反するところはない。
そこで、本願補正発明が平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。
(なお、本件補正は、上記「特許請求の範囲の減縮を目的とする」補正に伴って、請求項1、9、10、21?24における「第1層」、「第2層」及び「第3層」の参照符号に関する補正も行っているが、これらの補正は適法なものである。)

2.独立特許要件について
(1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2003-11302号公報(以下、「引用例4」という。)には、次の記載がある。
a「【請求項1】 少なくとも2枚の多孔性フィルムを重ね合わせて形成された吸水性物品用バックシートであって、各層の多孔性フィルムがポリオレフィン系樹脂25?60重量%及び無機充填材75?40重量%を含み、該無機充填材の平均粒子径が2.0μm未満であり、各層の多孔性フィルムのしみだし開始時間と前記バックシートのしみだし開始時間が数式(1)〔数1〕
【数1】

(式中、Tn:各層の多孔性フィルムのしみだし開始時間、T:バックシートのしみだし開始時間、m:重ね合わせ枚数を示し2?5の整数)の関係を満たし、且つ、バックシートのしみだし開始時間が少なくとも20分間である吸水性物品用バックシート。」
b「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、吸水性物品用バックシートに関する。詳しくは、使い捨てオムツ、生理用ナプキン等の吸水性物品用バックシートに関する。」
c「【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記問題に鑑み、バックシートの目付け(厚み)を増加することなしに、尿や経血等の体液の外部への洩れ防止性が改善された吸水性物品用バックシートを提供することにある。
【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記した課題を解決するために鋭意検討した結果、液不透過性のバックシートを少なくとも2枚の、特定の平均粒径を有する充填材を含む多孔性フィルムを重ね合わせて形成することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。」
d「【0017】【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明において、バックシートとは、吸水性物品の外側に位置し、吸収体に吸収・保持された尿や経血などの液体を外に漏らさない機能をもつシートである。
【0018】本発明に用いる多孔性フィルムの好ましい例として、例えば、ポリオレフィン系樹脂25?60重量%に対し、無機充填材75?40重量%を添加、混合して樹脂組成物となし、得られた樹脂組成物をフィルム成形し、更に、得られたフィルムを少なくとも1軸方向に延伸して得られる多孔性フィルムが挙げられる。
【0019】ポリオレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、線型低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンと他のα-エチレンとの共重合体、プロピレンと他のα-エチレンとの共重合体、等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上の混合物として用いられる。
【0020】無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、シリカ、タルク等が挙げられる。これらの内、炭酸カルシウム及び硫酸バリウムが好ましい。無機充填材の平均粒子径は2.0μm未満のものが好ましい。平均粒子径が2.0μm以上であると、少なくとも2枚重ね合わせてバックシートを形成しても、洩れ防止性の改善効果が低下するので好ましくない。」
e「【0027】上記のようにして製造される多孔性フィルムを吸水性物品のバックシートとして用いる場合、体液の漏れ防止性と蒸れ防止に関係する蒸気透過性、並びに薄肉化等を考慮すると、目付けが10?50g/m^(2)、透湿度が少なくとも1000?8000g/m^(2)・24hr、耐水度が少なくとも10000Pa、最大孔径が2.0μm未満であるものが好ましい。
【0028】本発明に係わる吸水性物品用バックシートは、上記の如き多孔性フィルムを用いる。その特徴は、少なくとも2枚を重ね合わせて使用することにある。重ね合わせる枚数の上限には特に制限はないが、通常、5枚程度であることが好ましい。更に好ましくは3枚である。」
f「【0039】実施例1
線形低密度ポリエチレン(三井化学(株)製、商品名:ウルトゼックスUZ2021L)38重量部、分岐状低密度ポリエチレン(三井化学(株)製、商品名:ミラソンF967)2重量部、炭酸カルシウム(同和カルファイン(株)製、商品名:SST-40、平均粒径1.1μm)60重量部、エチレンビスステアリン酸アミド(日本化成(株)製、商品名:スリバックスE)3重量部をタンブラーミキサーにて混合した後、タンデム型混練押出機を用いて、230℃において均一に混練し、ペレット状に加工した。このペレットをTダイが装着された押出成形機を用いて、240℃において溶融製膜した。このフィルムを70℃に加熱した予熱ロールと延伸ロールとの間で、2.0倍の延伸倍率で、ライン速度20m/minで機械方向に一軸延伸し、目付30g/m^(2)の多孔性フィルムを得た。このフィルムを2枚に重ね、目付け60g/m^(2)の吸水性物品用バックシートを形成した。多孔性フィルム及び吸水性物品用バックシートの物性を上記方法により測定した。得られた結果を〔表1〕に示す。
【0040】実施例2
多孔性フィルムの目付を20g/m^(2)として、吸水性物品用バックシートの目付を40g/m^(2)とした以外は、実施例1と同じ方法で吸水性物品用バックシートを作成した。得られた結果を〔表1〕に示す。
【0041】実施例3
目付20g/m^(2)の多孔性フィルムを3枚重ねて、目付60g/m^(2)の吸水性物品用バックシートとした以外は、実施例2と同じ方法で吸水性物品用バックシートを作成した。得られた結果を〔表1〕に示す。」

(2)引用発明
引用例4の上記記載から見て、引用例4には次の発明が記載されている。(以下、「引用発明」という。)
《引用発明》
ポリオレフィン系樹脂25?60重量%に対し、無機充填材75?40重量%を添加、混合して樹脂組成物となし、得られた樹脂組成物をフィルム成形し、更に、得られたフィルムを少なくとも1軸方向に延伸して得られる多孔性フィルムであり、
前記無機充填材が炭酸カルシウムであり、
透湿度が少なくとも1000?8000g/m^(2)・24hr、耐水度が少なくとも10000Paであるフィルムを
3枚重ねた吸水性物品用バックシート。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ポリオレフィン系樹脂25?60重量%に対し、無機充填材75?40重量%を添加、混合して樹脂組成物となし、得られた樹脂組成物をフィルム成形し、更に、得られたフィルムを少なくとも1軸方向に延伸して得られる多孔性フィルムであり」「透湿度が少なくとも1000?8000g/m^(2)・24hr、耐水度が少なくとも10000Paであるフィルム」は、本願補正発明の「蒸気透過性および微孔性」である「層」、「防水性で蒸気透過性の」「層」及び「微孔性膜」に相当する。
引用発明が、「多孔性フィルム」を「3枚重ねた」ものであることは、本願補正発明の「少なくとも1つの第1層(311)と」「少なくとも1つの第2層(312)と」「少なくとも1つの第3層(312)とを備えてなり」、及び「前記第1層(311)が、前記第2層(312)および前記第3層(312)によりサンドイッチ状に挟まれ」に相当する。
引用発明の「ポリオレフィン系樹脂25?60重量%に対し、無機充填材75?40重量%を添加、混合して樹脂組成物となし、得られた樹脂組成物をフィルム成形し」は、本願補正発明の「第1層(311)が、ポリオレフィンの基部と充填材の粒子とを備え」との要件を満たす。
引用発明の「吸水性物品用バックシート」は、本願補正発明の「防水蒸気透過性多層物」に相当する。

すると、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は、次のとおりである。
《一致点》
蒸気透過性および微孔性である材料で作られた少なくとも1つの第1層と、防水性で蒸気透過性の少なくとも1つの第2層と、防水性で蒸気透過性の少なくとも1つの第3層とを備えてなり、
前記第1層が、前記第2層および前記第3層によりサンドイッチ状に挟まれ、
前記第1層が、ポリオレフィンの基部と充填材の粒子とを備え、
前記第1層が、微孔性膜により構成されている防水蒸気透過性多層物。

《相違点1》
本願補正発明は、第1層が「少なくとも部分的に吸湿性であるか、または、時間が経つにつれて吸湿特性をおび得る材料で作られた」層であり、「充填剤が、二酸化珪素SiO_(2)」であるのに対し、引用発明は、第1層が「少なくとも部分的に吸湿性であるか、または、時間が経つにつれて吸湿特性をおび得る材料で作られた」層であるとは特定されておらず、かつ、「充填材が炭酸カルシウム」である点。

《相違点2》
本願補正発明は、第1層のポリオレフィンが、「アイソタクチックのポリプロピレンまたはポリエチレン」から構成されているのに対し、引用発明は、第1層のポリオレフィン系樹脂を「アイソタクチックのポリプロピレンまたはポリエチレン」から構成することに特定していない点。

《相違点3》
本願補正発明は、第2層及び第3層が、「プラズマ堆積処理により得られた薄膜」により構成されているのに対し、引用発明の第2層及び第3層は、第1層と同じ多孔性フィルムである点。

(4)相違点の検討
ア.事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特表平9-505104号公報(以下「引用例8」という。)及び特開昭57-81805号公報(以下、「引用例9」という。)には、プラズマ堆積処理により基材表面に薄膜を形成する技術が記載されている。

イ.しかし、引用例8の「プラズマ重合法によって製造したヒドロシクロシロキサン膜」(発明の名称、7頁2行)は、「本発明は、基材表面を被覆して、材料の大部分の性質に影響することなく該表面に低摩擦および疎水性の性質を付与するための組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、ガスもしくは液体バリアー、光学導波管、潤滑剤、絶縁層、保護被覆、生物適合性被覆、またはガス拡散膜に適した、特に、関する。」(7頁3?7行)ものである。引用例8が対象とする技術分野は、生物医学デバイスに関連して使用するのに適した膜被覆であり、引用発明(吸水性物品用バックシート)の技術分野とは全く異なる。また、引用発明は要するに、透湿耐水性のフィルムを3枚重ねた吸水性物品用バックシートであるところ、このバックシートの表面層、又は裏面層である透湿耐水性のフィルムは、引用例8の「プラズマ重合法によって製造したヒドロシクロシロキサン膜」とは、組成、構造、物性が大きく異なる。
引用発明の多孔性フィルム(バックシートの表面層、又は裏面層である透湿耐水性のフィルム)を、技術分野が全く異なり、組成、構造、物性も大きく異なる、引用例8の「プラズマ重合法によって製造したヒドロシクロシロキサン膜」に置換する動機付けがあるとはいえない。

ウ.引用例9の「ガス選択透過性複合膜およびその製造方法」(発明の名称)は、「本発明はプラズマ重合によって得られた架橋構造を有するガス選択透過性複合膜およびその製造方法に関するものである。近年流体混合物の分離・精製を蒸留・深冷等の相変化をともなうエネルギー多消費プロセスに代る選択透過性膜で行なうことが積極的に検討されている。本発明も上記目的を効率的に行なうためのガス選択透過性複合膜を提供せんとしてなされたものである。」(2頁左上欄2?10行)ものであり、「耐熱性多孔性高分子膜の該多孔性空間に架橋されたシロキサン化合物を設け、その上に1μ以下のプラズマ重合薄膜を積層した」(特許請求の範囲(1)項、1頁左下欄5?8行)ものである。引用例9が対象とする技術分野は、引用発明(吸水性物品用バックシート)の技術分野とは全く異なる。また、引用発明は要するに、透湿耐水性のフィルムを3枚重ねた吸水性物品用バックシートであるところ、このバックシートの表面層、又は裏面層である透湿耐水性のフィルムは、引用例9の「プラズマ重合によって得られた架橋構造を有するガス選択透過性複合膜」とは、組成、構造、物性が大きく異なる。
引用発明の多孔性フィルム(バックシートの表面層、又は裏面層である透湿耐水性のフィルム)を、技術分野が全く異なり、組成、構造、物性も大きく異なる、引用例9の「プラズマ重合によって得られた架橋構造を有するガス選択透過性複合膜」に置換する動機付けがあるとはいえない。

エ.原査定の拒絶の理由に引用されたその他の刊行物には、「プラズマ堆積処理により得られた薄膜」は、記載も示唆もされていない。
したがって、相違点3に係る本願補正発明の構成は、当業者が容易に想到することができたものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本願補正発明は、引用発明及び原査定の拒絶の理由に引用された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、他に、本願補正発明の独立特許要件を否定する理由を発見しない。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

3.まとめ
本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合する。

第3.本願発明について
本件補正は上記のとおり、平成18年改正前特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし24に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし24に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-18 
出願番号 特願2006-546086(P2006-546086)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平井 裕彰佐藤 健史  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 熊倉 強
紀本 孝
発明の名称 防水蒸気透過性多層物  
代理人 野河 信太郎  

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