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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 C30B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C30B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C30B
管理番号 1286216
審判番号 不服2013-4439  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-06 
確定日 2014-04-15 
事件の表示 特願2001-567830「III-V族窒化物基板ボウル、並びにIII-V族窒化物基板ボウル製造法及び使用法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月20日国際公開、WO01/68955、平成15年 9月16日国内公表、特表2003-527296、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年3月12日(パリ条約による優先権主張:2000年3月13日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年3月10日付けで手続補正がされ、平成23年4月28日付けで拒絶理由が通知され、同年10月6日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年10月27日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成24年2月1日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年10月31日付けで、平成24年2月1日付けの手続補正が却下され、同日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年3月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がされ、同年7月8日付けで前置報告書を利用した審尋がされ、同年10月4日付けで回答書が提出され、同年10月25日付けで当審により拒絶理由が通知され、平成26年2月20日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成26年2月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、これらの請求項に係る発明を項番号に対応して、「本願発明1」などといい、これらをまとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
(Al,Ga,In)Nのみからなる独立したシード材料及びその上に4mm以上の長さまで成長したブール材料を含み、前記(Al,Ga,In)Nシード材料と前記ブール材料との間にパターン化されたSi_(3)N_(4)、WまたはSiO_(2)で構成された中間層を有する(Al,Ga,In)Nブールであって、前記(Al,Ga,In)Nシード材料より大きい横断面積の端を有する(Al,Ga,In)Nブール。
【請求項2】
前記ブール材料がウエハー源材料を含んでおり、前記中間層の材料は、ウエハー源材料の歪の軽減もしくは適応、ウエハー源材料の電気特性の変換、ウエハー源材料の欠陥密度の軽減、ウエハー源材料の(Al,Ga,In)Nシード材料からの分離促進及びウエハー源材料の核形成成長の促進のうちの少なくとも1つの機能性を有する請求項1に記載のブール。
【請求項3】
前記中間層が、気相エピタクシー、化学的蒸着、物理的蒸着、分子線エピタクシー、有機金属化学気相エピタクシー及びハイドライド気相エピタクシーからなる群から選択された堆積プロセスにより堆積された請求項1又は2に記載のブール。
【請求項4】
前記中間層のパターン化がエッチングによってなされた請求項1?3のいずれか1項に記載のブール。
【請求項5】
前記中間層が単層である請求項1?4のいずれか1項に記載のブール。
【請求項6】
表面欠陥密度が1cm^(2)あたり10^(6)未満である請求項1?5のいずれか1項に記載のブール。
【請求項7】
表面欠陥密度が1cm^(2)あたり10^(4)未満である請求項1?5のいずれか1項に記載のブール。
【請求項8】
1cmを超える直径を有し、実質的に無亀裂である請求項1?7のいずれか1項に記載のブール。
【請求項9】
c-軸、a-軸、m-軸及びr-軸からなる群から選択された配向を有するシード結晶上で成長し、該選択された配向である第一結晶軸から1?10度の範囲内の角度で切断された結晶配向を有する請求項1?8のいずれか1項に記載のブール。
【請求項10】
第一結晶軸から1?10度の範囲内の角度で切断された結晶配向を有するシード結晶上で成長した請求項1?8のいずれか1項に記載のブール。
【請求項11】
前記(Al,Ga,In)窒化物がGaNを含む請求項1?10のいずれか1項に記載のブール。」

第3 拒絶理由の概要
1.原査定の拒絶理由の概要
(1)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:国際公開第99/23693号
刊行物2:特開平7-94784号公報
刊行物3:特開平10-312971号公報

(2)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



請求項1に記載の「中間層」に関して、その材料は任意である。一方、発明の詳細な説明(特に【0035】【0036】)には、「かかる中間層は、限定しないが、(Al、Ga、In)-Nまたは,他のIII-V族窒化物、SiC、(ボウルの欠陥密度を減らすための1つの好ましい中間層材料である)SiN及び酸化物をはじめとするいかなる適合材料で形成してもよい。」との記載が見受けられるが、上記適合材料を用いた実施例などの具体的な説明は見当たらず、任意の中間層とした場合に、本願の課題であるブールの低欠陥密度を達成できることを当業者が認識できるように記載されていると解することはできない。
よって、請求項1、及びこれを引用する他の請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(3)本件出願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


請求項1に記載の「横断積」は、日本語としてその意味が不明である。
よって、請求項1、9に係る発明は明確でない。
なお、請求項9に記載の「第一結晶軸」についても、どの軸を指すのかが不明確である。

2.当審の拒絶理由の概要
(1)請求項4について
請求項4には、「前記中間層が、前記シード結晶の改質、エッチング又はパターン化によって形成された請求項1?3のいずれか1項に記載のブール。」という記載において、中間層を形成する「シード結晶の改質」とは、どのような「シード結晶の改質」を意味するのか技術的に不明であり、請求項4の記載は明確ではない。

(2)請求項5について
請求項5には、「前記中間層が単層又は多重層であるか、単一又は複数の材料を含む請求項1?4のいずれか1項に記載のブール。」と記載されているが、この記載では、中間層がどのようなものであるか明確ではない。

(3)補正前の請求項11、12について
ブールをシード結晶の、「(In,Al,Ga)面上に成長」させること(請求項11)、「N-面上に成長」させること(請求項12)が記載されているが、技術的にどのようなことを意味するのか不明であり、請求項11、12の記載は明確とはいえない。

(4)補正前の請求項14について
請求項14は、「ブールにソーイング、スライシング又はその別の分割技法を行うことにより得られるウエハ」に関する発明であり、独立したシード材料、ブール材料及び中間層を有するものではなく、発明の構成が明確であるとはいえない。

第4 当審の判断
1.原査定の拒絶理由(1)について
(1)刊行物1の記載事項
刊行物1には、「GaN単結晶基板及びその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある(当審注:下線は当審により付与。以下、同じ。)。
ア 「技術分野
本発明は、窒化ガリウム(GaN)等の窒化物系化合物半導体を用いた、発光ダイオード、半導体レーザ等の発光デバイスや、電界効果トランジスタ等の電子デバイス用の基板及びその製造方法に関するものである。」(明細書1頁3?6行)

イ 「本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、転位等の結晶欠陥が低減されたGaN単結晶基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係るGaN単結晶基板の製造方法は、GaAs基板上に、互いに離隔配置された複数の開口窓を有するマスク層を形成するマスク層形成工程と、前記マスク層上に、GaNからなるエピタキシャル層を成長させるエピタキシャル層成長工程と、を備えることを特徴とする。
本発明のGaN単結晶基板の製造方法によれば、マスク層の各開口窓内でGaN核が形成され、このGaN核が次第にマスク層上の横方向、すなわちマスク層の開口窓が形成されていないマスク部の上方に向かって何の障害物もなく自由にラテラル成長する。そして、GaN核がラテラル成長するときに、GaN核内の欠陥は広がらないため、結晶欠陥が大幅に低減されたGaN単結晶基板を形成することができる。」(明細書2頁18行?3頁3行)

ウ 「[第1実施形態]
第1実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法を、図1A?図1Dの製造工程図を用いて説明する。
まず、図1Aに示す第1の工程で、GaAs基板2を気相成長装置の反応容器内に設置する。・・・
GaAs基板2を気相成長装置の反応容器内に設置した後、当該GaAs基板2上にGaNからなるバッファ層4を形成する。・・・
以上がバッファ層4を形成する気相成長法である。バッファ層4を形成した後、当該バッファ層4上にGaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6を成長させる。・・・
続いて、図1Bに示す第2の工程を説明する。図1Bに示す第2の工程では、製造途中のウエハを成長装置から取り出して、エピタキシャル層6上にSiN又はSiO_(2)から成るマスク層8を形成する。マスク層8は、厚さ約100nm?約500nmのSiN膜又はSiO_(2)膜をプラズマCVD等により形成し、このSiN膜又はSiO_(2)膜をフォトリソグラフィ技術でパターンニングすることにより形成される。
図4は、図1Bに示す第2の工程におけるウエハの平面図である。図1B及び図4に示されているように、本実施形態のマスク層8には、複数のストライプ状のストライプ窓10が形成されている。・・・マスク層8を形成した後、図1Cに示す第3の工程に進む。第3の工程では、マスク層8を形成したウエハを再び気相成長装置の反応容器内に設置する。そして、マスク層8と第1のエピタキシャル層6のストライプ窓10から露出している部分との上に第2のエピタキシャル層12を成長させる。第2のエピタキシャル層12の成長方法としては、第1のエピタキシャル層6の成長方法と同様に、HVPE法、有機金属塩化物気相成長法、MOCVD法等がある。尚、第2のエピタキシャル層12の厚さは、約150μm?約1000μmにすることが好ましい。
・・・GaNからなる第2のエピタキシャル層12の成長初期においては、第2のエピタキシャル層12はマスク層8上には成長せず、GaN核としてストライプ窓10内における第1のエピタキシャル層6上にのみ成長する。そして、成長が進むに従って、第2のエピタキシャル層12の厚みが増し、この厚みの増加に伴って、図5Bのように、マスク層8上において、第2のエピタキシャル層12のラテラル成長(lateral growth)が生じる。・・・
以上のように第2のエピタキシャル層12を形成した後、図1Dに示す第4の工程に進む。第4の工程では、・・・アンモニア系エッチング液でGaAs基板2を完全に除去する。さらに、GaAs基板2を除去した後、GaAs基板2の除去面、すなわちバッファ層4の下面に研磨処理を施して本実施形態に係るGaN単結晶基板13が完成する。」(明細書7頁末行?14頁15行)

エ 図1A?図1D「


オ 図4「


カ 図5A?図5D「



(2)刊行物1に記載された発明の認定
上記イによれば、刊行物1には、GaN単結晶基板について、その製造方法は、GaAs基板上に、互いに離隔配置された複数の開口窓を有するマスク層を形成するマスク層形成工程と、前記マスク層上に、GaNからなるエピタキシャル層を成長させるエピタキシャル層成長工程と、を備えることが記載されている。
そして、上記ウによれば、その製造方法の具体例である実施形態では、GaAs基板2上にGaNからなるバッファ層4を形成し、当該バッファ層4上にGaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6を成長させ、エピタキシャル層6上に、パターンニングにより、ストライプ窓10が形成されたSiN又はSiO_(2)から成るマスク層8を形成し、マスク層8と第1のエピタキシャル層6のストライプ窓10から露出している部分との上に、約150μm?約1000μmのGaNの第2のエピタキシャル層12を成長させたもの(図1C)から、GaAs基板2を除去して、バッファ層4の下面に研磨処理を施して、GaN単結晶基板13(図1D)を完成させることが記載されている。

そうすると、刊行物1には、「GaNからなるバッファ層4、GaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6、パターンニングにより、ストライプ窓10が形成されたSiN又はSiO_(2)から成るマスク層8、マスク層8と第1のエピタキシャル層6のストライプ窓10から露出している部分との上の、約150μm?約1000μmのGaNの第2のエピタキシャル層12を、順に備えたGaN単結晶基板13」に関する発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(3)対比
(本願発明1について)
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明では、「GaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6」の上に「パターンニングにより、ストライプ窓10が形成されたSiN又はSiO_(2)から成るマスク層8」があり、その上に「GaNの第2のエピタキシャル層」を成長させているから、「GaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6」は、「GaNの第2のエピタキシャル層」に対するシード材料ということができる。
ここで、本願発明1の「(Al,Ga,In)N」は、本願明細書【0027】の記載を参酌すれば、「Al」、「Ga」、「In」の1?3成分の窒化物を表すことは明らかであるから、上記「GaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6」は、本願発明1の「(Al,Ga,In)のみからなるシード材料」に相当するといえる。
そして、引用発明の「パターンニングにより、ストライプ窓10が形成されたSiN又はSiO_(2)から成るマスク層8」及び「GaN単結晶基板13」は、本願発明1の、「パターン化されたSiO_(2)で構成された中間層」及び「(Al,Ga,In)ブール」にそれぞれ相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「(Al,Ga,In)Nのみからなるシード材料及びその上に成長したブール材料を含み、前記(Al,Ga,In)Nシード材料と前記ブール材料との間にパターン化されたSi_(3)N_(4)、WまたはSiO_(2)で構成された中間層を有する(Al,Ga,In)Nブールである(Al,Ga,In)Nブール。」である点で一致し、次の相違点1、2で相違する。

(相違点1)
シード材料について、本願発明1では、独立しているのに対し、引用発明では、図1Dにも示されるように、「GaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6」は、「GaNからなるバッファ層4」の上にあって、独立していない点。

(相違点2)
ブール材料について、本願発明1では、4mm以上の長さまで成長していて、シード材料より大きい横断面積の端を有するのに対し、引用発明1では、「GaN単結晶基板13」について、4mm以上の長さまで成長させるかどうか不明であり、「GaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6」より大きい横断面積の端を有するかどうかも不明な点。

(相違点1についての判断)
刊行物1には、図1Cに示されたものに対し、「アンモニア系エッチング液でGaAs基板2を完全に除去する。さらに、GaAs基板2を除去した後、GaAs基板2の除去面、すなわちバッファ層4の下面に研磨処理を施して本実施形態に係るGaN単結晶基板13が完成する。」(上記(2)ウ、14頁13?15行)と記載されているように、図1Cに示されたものにおいて、「GaAs基板2」はエッチングされ、「GaN」はエッチングされないようなアンモニアエッチング液を用いて、「GaAs基板2」を除去した後に、残った「GaNからなるバッファ層4」の下面に研磨処理を施してGaN単結晶基板13を完成させていることから、引用発明では、「GaNからなるバッファ層4」をあえて残した上で、「GaN単結晶基板13」を完成させているものと解される。
そして、刊行物1には、「GaN単結晶基板13」から「GaNからなるバッファ層4」を除去することは、記載も示唆も見いだすことができないことから、引用発明において、「GaNからなるバッファ層4」と「GaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6」とは不可分のものであり、「GaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6」を、本願発明1のような独立したシード材料として用いることは、想定されていないというべきである。

そうすると、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、引用発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(相違点2についての判断)
刊行物1には、「GaN単結晶基板13」を「マスク層」を備えた「GaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6」より大きい横断面積の端を有するようにすることについての明確な記載は見当たらない。
そして、本願発明の相違点2に係る発明特定事項である「シード材料より大きい横断面積の端を有する」ことについての技術的意義を検討すると、「成長温度を高温にしたり、NH_(3)/GaNの比率を大にしたり、低圧にしたり、所望の温度勾配にしたり、流量を不均一にしたりして」「横方向への複製を促進」させて、「シードに垂直な方向とシードに平行な方向との両方向に成長」させることで、「GaNブールの単結晶面積は大きくな」り、「大きな単結晶面積のGaNウエハーは、さらに大きなブールを作製するために、再びシードとして使用可能」(【0049】)としたものであることがわかる。

これに対し、原審の平成23年10月27日付けの拒絶理由通知において、「引用文献1には、外径50mm及び20?30mmのGaN単結晶基板を用いて、それぞれ外径55mm及び35mmのエピタキシャル層を成長させたもの、インゴットから基板にする方法は、内周歯のスライサーや劈開による切断であること、について記載されている(特に、実施例6、7、9、10、28頁24行?29頁2行)。ここで、上記エピタキシャル層は基板よりも大きい表面積を有するといえる。」(1頁下から4行?2頁2行)と記載されているので、「実施例6、7、9、10、28頁24行?29頁2行」の記載について検討する。

まず、該拒絶理由通知で引用された刊行物1の明細書28頁24行?29頁2行には、次の記載がある。
「図16Fに示す第6の工程では、GaN単結晶のインゴット64を複数枚のGaN単結晶基板66にする。インゴット64を複数枚のGaN単結晶基板にする方法としては、インゴット64を内周歯のスライサー等により切断する方法とGaN単結晶の実開面に沿ってインゴット64を劈開する方法とがある。尚、切断処理と劈開処理の両方を用いてもよい。」
この記載からは、GaN単結晶のインゴット64を、切断や劈開によって、複数枚のGaN単結晶基板66を得ることが記載されていると認められる。

次に、実施例6について、次の記載がある。
「実施例6 次に、第8実施形態の実施例である実施例6について、図16A?図16Fを参照して説明する。
本実施例では、GaAs基板2としてGaAs(111)A基板を使用した。また、バッファ層24、エピタキシャル層26、及びエピタキシャル層62は、全て図2に示す気相成長装置を用いてHVPE法によって形成した。
まず、図16Aに示す第1の工程で、GaAs基板2上にマスク層8を形成した。この際、ストライプ窓10の長手方向をGaAs基板2の[11-2]に向け、マスク層8の厚さを約300nm、マスク部の幅Pを約5μm、窓幅Qを約3μmとした。
次に、図16Bに示す第2の工程で、GaAs基板2の温度を約500℃にした状態で、ストライプ窓10内のGaAs基板2上にバッファ層24をHVPE法によって形成した。尚、バッファ層24の厚さは、約800オングストロームにした。
次に、図16Cに示す第3の工程で、GaAs基板2の温度を約950℃にした状態で、バッファ層24上にHVPE法によってエピタキシャル層26を約200μm成長させた。
次に、図16Dに示す第4の工程で、GaAs基板2を王水でエッチング除去した。
図16Eに示す第5の工程では、反応チャンバ59内の温度を1020℃にした状態で、エピタキシャル層26上にHVPE法によってエピタキシャル層62をさらに厚付けし、GaN単結晶のインゴット64を形成した。インゴット64は、上面の中央部が少し窪んだ形状で、底から上面中央部までの高さは約2cm、外径は約55mmであった。
続いて、図16Fに示す第6の工程で、内周歯のスライサーによってインゴット64を切断し、外径約50mm、厚さ約350μmのGaN単結晶基板66を20枚得た。」(明細書41頁8行?42頁9行)

この記載からは、インゴット64の外径は約55mmであることが記載され、該インゴット64を切断することで、外径約50mm、厚さ約350μmのGaN単結晶基板66を20枚得たことから、該インゴットの厚さは、少なくとも、20枚×350μm、すなわち、7000μm(=7mm)であることがわかる。
しかしながら、「GaAs基板2」や「バッファ層24」の外径や断面積は不明であり、インゴット64の断面積が、「GaAs基板2」や「バッファ層24」の断面積より大きいかどうかは判然としない。

そして、実施例7(明細書43頁4行?44頁16行)について、「本実施例では、GaAs基板2としてGaAs(111)A基板を使用した。また、バッファ層24、エピタキシャル層26、及びエピタキシャル層62は、全て図3に示す気相成長装置を用いて有機金属塩化物気相成長法によって形成した。・・・エピタキシャル層26上にHVPE法によってエピタキシャル層62をさらに厚付けし、GaN単結晶のインゴット64を形成した。インゴット64は、上面の中央部が少し窪んだ形状で、底から上面中央部までの高さは約3cm、外径は約30mmであった。
続いて、図16Fに示す第6の工程で、内周歯のスライサーによってインゴット64を切断し、外径約20?約30mm、厚さ約400μmのGaN単結晶基板66を25枚得た。」という記載がある。
この記載からは、実施例6と同様に、「GaAs基板2」や「バッファ層24」の外径や断面積は不明であり、インゴット64の断面積が、「GaAs基板2」や「バッファ層24」の断面積より大きいかどうかは判然としない。

そして、実施例9(明細書45頁下から4行?46頁16行)について、「実施例6で製造されたGaN単結晶基板上にエピタキシャル層74を成長させて、GaN単結晶のインゴット76を形成した。この際、エピタキシャル層74は、HVPE法により、GaAs基板2の温度を約1010℃にした状態で成長させた。また、インゴット76は、上面の中央部が少し窪んだ形状で、底から上面中央部までの高さは約2.5cmで、外径は約55mmであった。
次に、図18Bに示す第2の工程では、内周歯のスライサーによってインゴット76を切断し、外径約50mm、厚さ約600μmのGaN単結晶基板78を15枚得た。」と記載されており、実施例6で得られた「外径約50mm、厚さ約350μmのGaN単結晶基板」に対して、高さは約2.5cmで、外径は約55mmのインゴット76を成長させ、外径約50mmのGaN単結晶基板78を得たことは記載されている。

また、実施例10(明細書46頁18行?47頁4行)について、「実施例7で製造されたGaN単結晶基板上にエピタキシャル層74を成長させて、GaN単結晶のインゴット76を形成した。この際、エピタキシャル層74は、図22に示した成長装置を用いて、昇華法により、GaAs基板2の温度を約1200℃にした状態で成長させた。尚、反応容器内に流し込んだアンモニアは、20sccmであった。また、インゴット76は、実施例6?実施例9のインゴットと比べると平坦で、底から上面までの高さは約0.9cmで、外径は約35mmであった。
次に、図18Bに示す第2の工程では、内周歯のスライサーによってインゴット76を切断し、外径約35mm、厚さ約500μmのGaN単結晶基板78を5枚得た。」と記載されており、実施例7で得られた、外径約20?約30mm、厚さ約400μmのGaN単結晶基板66に、高さ約0.9cm、外径約35mmのインゴット76を成長させ、外径約35mmのGaN単結晶基板78を得たことは記載されている。

しかしながら、引用発明の「GaN単結晶基板13」は、「窒化ガリウム(GaN)等の窒化物系化合物半導体を用いた、発光ダイオード、半導体レーザ等の発光デバイスや、電界効果トランジスタ等の電子デバイス用の基板」(上記1.(1)ア)として用いることを前提としたものであって、得られた「GaN単結晶基板」をシードとして使用し、より面積の大きい「GaN単結晶基板」を成長させることを意図するものではないことから、引用発明において、成長条件によっては「GaN単結晶基板13」が「GaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6」より大きい横断面積の端を有することがあるとしても、そのことは、本願発明1の相違点2に係る発明特定事項を容易に想到し得ることを意味するものではない。

また、刊行物2には、「青色発光素子」(発明の名称)について記載され、刊行物3には、「III-V族化合物半導体膜とその成長方法、GaN系半導体膜とその形成方法、GaN系半導体積層構造とその形成方法、GaN系半導体素子とその製造方法」(発明の名称)について記載されているものの、マスク層を備えたGaN層の上に、当該GaN層より大きい横断面積の端を有するGaN層を成長させることについては、記載も示唆もない。

したがって、引用発明及び刊行物1?3の記載に基いて、上記相違点2に係る発明特定事項を当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(相違点1、2についての判断のまとめ)
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明及び刊行物1?3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(本願発明2?11について)
本願発明2?11は、本願発明1を引用し、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1同様な理由から、引用発明及び刊行物1?3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2.原査定の拒絶理由(2)について
中間層がSi_(3)N_(4)、WまたはSiO_(2)で構成された点が限定されたので、拒絶理由(2)は解消した。

3.原査定の拒絶理由(2)について
「横断積」及び「第一結晶軸」という用語は、削除されたので、拒絶理由(3)は解消した。

4.当審拒絶理由について
(1)「シード結晶の改質」という記載は削除されたので、拒絶理由(1)は解消した。

(2)「前記中間層が単層」であると補正されたので、拒絶理由(2)は解消した。

(3)補正前の請求項11、12は削除されたので、拒絶理由(3)は解消した。

(4)補正前の請求項14は削除されたので、拒絶理由(4)は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-04-02 
出願番号 特願2001-567830(P2001-567830)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C30B)
P 1 8・ 536- WY (C30B)
P 1 8・ 537- WY (C30B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 中澤 登
吉水 純子
発明の名称 III-V族窒化物基板ボウル、並びにIII-V族窒化物基板ボウル製造法及び使用法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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