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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C11C
管理番号 1286255
審判番号 不服2012-16666  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-27 
確定日 2014-03-24 
事件の表示 特願2007-535022「脂肪組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月13日国際公開、WO2006/037341、平成20年 5月15日国内公表、特表2008-516018〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成17年10月7日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理平成16年10月8日、デンマーク国)を国際出願日とする出願であって、平成20年8月11日に手続補正書が提出され、平成23年9月22日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成24年1月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明

本願請求項1?30に係る発明は、平成24年1月27日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?30に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
構成脂肪酸が
a)パルミチン酸、ステアリン酸、及びアラキン酸残基40?70重量%と、
b)最大15重量%がC18-トランス不飽和脂肪酸残基であるオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びC18-トランス不飽和脂肪酸残基25?60重量%と、
c)最大3重量%がベヘン酸残基である他の脂肪酸残基0?5重量%とから構成され、
S_(2)Uタイプのトリグリセリドの全含有量が35?90重量%であり、SSU/SUSタイプのトリグリセリドの比が>1であり、S_(3)タイプのトリグリセリドの全含有量が最大15重量%である(S=飽和脂肪酸及びU=不飽和脂肪酸)トリグリセリド混合物を含み、
i)C18-トランス不飽和脂肪酸残基を含む1つ又は複数のトリグリセリド
ii)S_(3)タイプのトリグリセリド又は
iii)ソルビタントリステアレート
からなる群から選択される1つ又は複数の高融点脂肪成分を最小1重量%含有する脂肪組成物であって、該脂肪組成物は、前記高融点脂肪成分を含まない対応する組成物と比較して、35℃での固体脂肪含有量(SFC)の増加の2倍より大きい20℃でのSFCの増加を示し、即ちΔSFC_(20℃)/ΔSFC_(35℃)比が最小2であり、
SFCがIUPAC 2.150aによって決定される、上記脂肪組成物。」

3.引用刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平2-269199号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。
(a)「2.特許請求の範囲
(1) β位に、遊離脂肪酸としての融点が40℃以上の脂肪酸の残基(以下Gと略す)が結合し、α位に、G又は遊離脂肪酸としての融点が20℃以下の脂肪酸の残基(以下Uと略す)が結合するトリグリセリド(GGG/GGU/UGU)を実質的な成分とし、該トリグリセリド中、GGUの成分が30?50%である油脂。」(1頁左下欄3?10行)
(b)「〔問題点を解決するための手段〕
この発明は、GGG/GGU/UGUを実質的な成分とし、該トリグリセリド中、GGUの成分が30?50%である油脂であり、該油脂は、ハードバター、マーガリン、ショートニングなどの加工油脂原料に有用な油脂である。
上記「実質的」は、β位に、遊離脂肪酸としての融点が40℃未満の脂肪酸の残基が結合するトリグリセリドをも含めた全トリグリセリド中に占めるGGG/GGU/UGUの比率が70%以上より好ましくは80%以上占めるのがよい。
G又はUの脂肪酸は、飽和酸、モノエン酸、多エン酸などの別を問わず、またGまたはUが各々単一種類の脂肪酸である必要もない。例えば、オクタデカン酸やヘキサデカン酸等の直鎖脂肪酸はGの典型例であるけれども、ヘキサン酸はUの例として挙げることができる。又、シス-9-オクタデセン酸、シス-9,シス-12-オクタデカジエン酸、シス-9,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸はUの典型例であるけれども、トランス-9-オクタデセン酸はGの例として挙げることができる。」(2頁右上欄14行?左下欄14行)
(c)「〔作用〕
トリグリセリド中に占めるGGG/GGU/UGUの比率が低いと、GGUと分離し難いGUG成分が多く含まれ、ブルーミングやグレーニング等のの多形現象乃至結晶成長の問題を解決できる加工油脂を得難い。
また遊離脂肪酸としてのG及びUの融点が40℃以上及び20℃以下であることにより、グリセリド中に異なる脂肪酸が導入されて「三重鎖長」構造のβ-型結晶形態をとりにくくさせ、上記GGG/GGU/UGUの比率が高いことと相俟って安定な結晶形態を速やかにとることができる。
GGG/GGU/UGUトリグリセリド中、GGUの成分が30?50%であることにより、収率よくGGUに富んだ区分を得ることができる。30%未満では、収率が悪く、50%は、脂肪酸の再配列上の技術的上限である。
本発明油脂の利用に際しての高融点区分の除去は、GGG含量を低下させ口溶けを改善し、低融点部の除去はUGUの含量を低下させ、常温での硬さを増す。従って、高融点区分及び低融点部の除去は、融解性状の優れた(常温付近の温度領域で硬く、体温付近の温度領域で急に融解する)ハードバターを得ることができる。このハードバターは、テンパリング不要の油脂として使用することができ、Gとして、トランス-9-オクタデセン酸やドデカン酸を殆ど含まない油脂を調製できるので、特異臭やソーピー臭のない或いは生じないテンパリング不要油脂としても極めて有用である。マーガリン用油脂を目的とする場合は低融点部の除去は必要ではない。」(3頁右上欄3行?左下欄13行)
(d)「実施例1
下表の組成(特にことわらないものは重量比率で示す。以下同じ)(表中例えばC18F1は、炭素数18、不飽和結合数1の脂肪酸残基であることを示す)を有する菜種油の極度硬化油(IV 0.48)及び、脂肪酸のエチルエステルを、4:6の重量比率で混合し、ヘキサンを溶媒とし、リゾープスデレマーの固定化リパーゼを用い、系中水分200乃至300ppm、温度43℃で、グリセリドのα-位とエチルエステルの脂肪酸をランダム化する再配列をした(反応率93.1%)。

脱溶剤及び蒸溜による脱エチルエステルにより反応油脂を回収し、これをヘキサンを用いて高融点部分(収率17.7%)及び、低融点部(収率43.3%)を除去し、中融点部(収率38.9%)を得た。
上記反応油及びそれから得た中融点画分の組成は次表の通りであった。

表中S3,S2U,SU2等の記号及びその分析方法は「油化学」34(1)36-41(1985)に準じた。S2U中のSOSとSSOの比率を、硝酸銀処理TLCにより分離してデンシトメーターにより分析したところいずれの画分も前者5%以下後者95%以上であった。尚、HPLC分析(高速液体クロマト)では、SSO区分63.7%、PSO,SLS,SOO区分22.8%、SSS,ASO区分4.0%、PPO,POO区分3.1%、PPS区分2.3%であり(但し、S,O,P,L及びAは各々、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸及びアラキジン酸の残基を示す)、GGU成分は全トリグリセリド中75%を越えていた。
尚、反応油から高融点部を除去したもののS3,S2U,SU2以上の不飽和の比率は、各々0.73%,42.4%,56.9%であり、マーガリン原料として使用できるものであった。また、中融点画分をシリカゲルカラムに通して精製したもののSFI(固体脂指数)曲線はハードバターとして好ましい融解性状であった。」(3頁左下欄16行?4頁右上欄11行)

4.当審の判断

(1)引用発明
引用刊行物の上記摘記事項(d)の2つ目の表には、反応油脂から得た中融点画分の「脂肪酸組成」及び「トリグリ組成」が示されている(「トリグリ組成」については、以下、「トリグリセリド組成」という。)。
該中融点画分の脂肪酸組成を仔細にみると、C16(パルミチン酸残基)3.5%、C18(ステアリン酸残基)59.4%、C20(アラキン酸残基)1.1%であって、それらの合計は64.0重量%であること、C18F1(オレイン酸残基)31.3%、C18F2(リノール酸残基)1.9%、C18F3(リノレン酸残基)0.3%であって、それらの合計は33.5重量%であること、及び、C16F1(パルミトレイン酸残基)2.0%、C17(マルガリン酸残基)0.5%であって、それらの合計は3.5重量%であること(脂肪酸組成全体の総計は100.0%)が読み取れる。
また、同表中の中融点画分のトリグリセリド組成については、S3:1.6%、S2U:80.6%、SU2以上の不飽和:17.9%(トリグリセリド組成全体の総計は100.1%)となっており、当該S2U中のSOSとSSO(S:ステアリン酸、O:オレイン酸)の比率は、前者5%以下、後者95%以上と説明されている。ここで、SSOは、S(飽和脂肪酸)とU(不飽和脂肪酸)を用いると、SSUタイプと表記されるトリグリセリドであることから、当該S2U中には、SSUタイプのトリグリセリドが、95%以上存在することが理解できる。
これらの点をふまえ、上記摘記事項(a)?(d)を総合すると、引用刊行物には、
「構成脂肪酸が、
パルミチン酸残基3.5%、ステアリン酸残基59.4%、アラキン酸残基1.1%であって、それらの合計が64.0重量%と、
オレイン酸残基31.3%、リノール酸残基1.9%、リノレン酸残基0.3%であって、それらの合計が33.5重量%と、
その他の脂肪酸残基として、パルミトレイン酸残基2.0%、マルガリン酸残基0.5%であって、それらの合計が3.5重量%とから構成され、
トリグリセリド組成が、
S_(3)タイプのトリグリセリド:1.6%、S_(2)Uタイプのトリグリセリド:80.6%であって、S_(2)Uタイプのトリグリセリド中、SSUタイプのトリグリセリドが95%以上を占める、油脂組成物。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本願発明と引用発明との対比・検討
そこで、本願発明と引用発明を対比すると、引用発明における構成脂肪酸の組成は、本願発明におけるa)?c)をいずれも満たすものである。また、S_(2)Uタイプのトリグリセリドは、SSUタイプとSUSタイプの2つのトリグリセリドから構成されるところ、引用発明においてはS_(2)Uタイプのトリグリセリド中、既にSSUタイプのトリグリセリドが95%以上を占めているのであるから、SSU/SUS>1であることは明らかであるし、引用発明におけるS_(3)タイプのトリグリセリドは、本願発明における高融点脂肪成分に相当することは明らかであるから、両者は、
「構成脂肪酸が
a)パルミチン酸、ステアリン酸、及びアラキン酸残基40?70重量%と、
b)最大15重量%がC18-トランス不飽和脂肪酸残基であるオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びC18-トランス不飽和脂肪酸残基25?60重量%と、
c)最大3重量%がベヘン酸残基である他の脂肪酸残基0?5重量%とから構成され、
S_(2)Uタイプのトリグリセリドの全含有量が35?90重量%であり、SSU/SUSタイプのトリグリセリドの比が>1であり、S_(3)タイプのトリグリセリドの全含有量が最大15重量%である(S=飽和脂肪酸及びU=不飽和脂肪酸)トリグリセリド混合物を含み、
S_(3)タイプのトリグリセリド
からなる高融点脂肪成分を最小1重量%含有する脂肪組成物」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。
相違点:本願発明では、脂肪組成物が、高融点脂肪成分を含まない対応する組成物と比較して、35℃での固体脂肪含有量(SFC)の増加の2倍より大きい20℃でのSFCの増加を示し、即ちΔSFC_(20℃)/ΔSFC_(35℃)比が最小2であり、SFCがIUPAC 2.150aによって決定されると特定されているのに対して、引用発明ではそのように特定されていない点。
しかしながら、本願発明における上記相違点に係る特定事項は、脂肪組成物中に高融点脂肪成分を含む場合の性状と、含まない場合の性状とを比較した結果を数値表現したものであって、単に高融点脂肪成分の作用効果を特定したにすぎないから、当該特定事項は、本願発明に係る物の発明、すなわち、高融点脂肪成分を含んだ形態の脂肪組成物に対して、成分組成等の構成要素に関連する何らかの限定を与えるわけではない。
したがって、当該特定事項の有無は、物の発明としてみたときの実質的な相違点とはいえないから、上述のとおり、本願発明は、脂肪組成物自体の構成要素を同じくする引用発明と何ら区別し得ない。

ところで、審判請求人は、審判請求書において、引用発明の構成脂肪酸は、「最大15重量%のC18-トランス不飽和脂肪酸残基の存在」という本願発明の特徴点を有しない旨主張している。確かに、本願発明は、構成脂肪酸b)として「最大15重量%がC18-トランス不飽和脂肪酸残基であるオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びC18-トランス不飽和脂肪酸残基25?60重量%」を具備するものであるが、各残基、すなわち、「オレイン酸残基」、「リノール酸残基」、「リノレン酸残基」、及び「C18-トランス不飽和脂肪酸残基」各々の上下限量については、「C18-トランス不飽和脂肪酸残基」の上限量のみが規定され、それらの下限量については何ら規定されていないし、本願明細書全体を俯瞰しても、各残基が必ず存在しなければならないとする理由は見当たらず、特に、各実施例においては各残基の存在を確認するに足る記載すらない。このような状況を考え合わせると、上記構成脂肪酸b)に関する事項は、「C18-トランス不飽和脂肪酸残基」の上限量と、各残基の合計量を規定するものであって、各残基の下限量(なお、下限量がゼロのときは、その残基自体が存在しない)までを特定するものではないと解するのが相当である(構成脂肪酸a)やc)についても同様)。
また、仮に、当該構成脂肪酸b)に関する事項が、各残基の存在を前提とするものであって、「C18-トランス不飽和脂肪酸残基」を必ず含むものであるとしても、引用発明の原料である菜種油の極度硬化油は、IV(ヨウ素価)0.48であって、水添後も少なからず不飽和結合が残存していることや(摘記事項(d)参照)、摘記事項(c)には、「従って、高融点区分及び低融点部の除去は、融解性状の優れた(常温付近の温度領域で硬く、体温付近の温度領域で急に融解する)ハードバターを得ることができる。このハードバターは、テンパリング不要の油脂として使用することができ、Gとして、トランス-9-オクタデセン酸やドデカン酸を殆ど含まない油脂を調製できる」と記載されていることから、引用発明においても、不可避的に残存する「C18-トランス不飽和脂肪酸残基」を微量程度含むと考えるのが妥当である。加えて、摘記事項(b)には、「トランス-9-オクタデセン酸はGの例として挙げることができる。」と記載されていることから、引用発明において、許容範囲程度の「C18-トランス不飽和脂肪酸残基」を含有させて調製することにも特段の創意は見い出せないから、審判請求人の主張を加味しても、本願発明は特許性を有しない。

5.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-29 
結審通知日 2013-11-01 
審決日 2013-11-12 
出願番号 特願2007-535022(P2007-535022)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C11C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 橋本 栄和
日比野 隆治
発明の名称 脂肪組成物  
代理人 井上 洋一  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  
代理人 弓削 麻理  

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