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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1286263
審判番号 不服2013-8415  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-08 
確定日 2014-03-24 
事件の表示 特願2009-107923「有機EL素子、有機EL素子用のキャップ基材およびキャップ基材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月11日出願公開、特開2010-257830〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年4月27日の出願であって、平成24年10月19日及び平成25年1月4日に手続補正がなされたが、同年2月4日付けで上記平成25年1月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、同年5月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、同年9月5日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年11月5日に回答書が提出された。

第2 平成25年5月8日付けの手続補正の補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年5月8日付けの手続補正を却下する。

[理由1]
1.補正後の請求項に記載された発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)は、本件補正により、特許請求の範囲の減縮を目的として、以下のとおりのものに補正された。
「ガラス基板と、
ガラス基板上に設けられ、陽極と、陰極と、陽極と陰極の間に設けられた有機発光層とを有する有機EL層と、
ガラス基板上に設けられ、有機EL層を収納するキャビティを形成するとともに、天板と周縁枠体とを有するキャップ基材と、を備え、
キャップ基材の周縁枠体とガラス基板との間に接着剤を介在させ、
キャップ基材の周縁枠体のうちガラス基板との当接面に、周縁枠体全周に延びて接着剤を収納する接着剤用の収納溝が形成されており、
前記収納溝は、少なくとも2重に形成されており、
前記収納溝の深さは、前記収納溝の幅以上になっていることを特徴とする有機EL素子。」

そこで、補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2.引用刊行物
引用文献1:特開2001-189191号公報

(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、上記引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は有機EL表示素子の製造方法に関し、特に有機材料を含む積層構造体を気密にする封止工程で、基板と封止板を接着する際の接着剤のはみ出しを抑える封止板および封止方法に関する。
【0002】
【従来の技術】有機EL表示素子の構成例を図8に示す。ガラス等の透明或いは半透明基板5に正孔注入電極10である錫ドープ酸化インジウム(ITO)などの透明導電膜を形成する。その上に有機薄膜発光層11として、テトラフェニルジアミン(TPD)などの正孔輸送層とアルミキノリノール錯体(Alq3)などの電子輸送層を順次積層する。この正孔輸送層および電子輸送層はそれぞれ50nm程の厚さの薄膜で、真空蒸着法などで成膜される。有機薄膜発光層11の上には電子注入電極12としてアルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)などの仕事関数の小さな金属電極を形成する。この正孔注入電極10と電子注入電極12に直流電源18を接続し電流を流すことで、有機薄膜発光層11が発光する。
【0003】この積層構造体13は酸素や水分により、変質や剥離を起こし、輝度の低下やダークスポット等を招くことから、封止板1で積層構造体13を大気から隔離する必要がある。通常、真空あるいは非酸化・低湿度雰囲気環境下の容器内に積層構造体13を備えた基板5と接着剤を塗布した封止板1を対向させ配置し、封止板1を保持した治具の昇降により、基板5と封止板1を接触させ接着する。接着剤には硬化時の温度上昇が小さい紫外線硬化型接着剤が多く用いられ、基板5と封止板1を接触した状態で紫外線を照射し硬化する。これにより基板5と封止板1に囲まれた空間14は真空あるいは非酸化・低湿度雰囲気に気密され、積層構造体13は大気と隔離され、高品質で長寿命な有機EL表示素子16が得られる。」
(b)「【0014】図1は第1の発明の実施例の説明図で、封止板1の接着剤塗布領域3の外側と内側の両方に溝2を設けた例である。封止板1は積層構造体13を内部に配置するため、中央が窪んだ形状となり、基板5との接着部4は窪みの周囲に基板5と平行な面である。その接着部4に接着剤塗布領域3を挟んで2本の溝2を有する。封止板1の大きさは、例えば横35mm、縦45mm、高さ1mmで、そのうち接着部4の幅は5mmである。封止板1は厚さ0.3mmのステンレス鋼材を絞り加工にて製作した。封止板1の材質は、ガス放出が少なく、加工性に富むステンレス鋼などが好ましいが、セラミックス材料や樹脂材料などでも良い。封止板1および溝2の加工は絞り加工の他、切削加工などでも製作できる。
【0015】図2は図1のA-A垂直断面の拡大図である。接着部4には2mm幅の接着剤塗布領域3の両側に、半径0.5mmの半円型の溝2がある。この接着剤塗布領域3および溝2の寸法は、接着時に接着剤が溝からはみ出さない大きさに設定され、上記寸法に限ったものではない。また溝の断面形状は半円型の他、角型の溝でもよい。」
(c)「【0020】図4は本発明の封止板1を用いた場合の接着過程を示す。接着部4の接着剤塗布領域3に接着剤6を塗布し、基板5と張り合わせる。接着時に接着剤6は封止板1の外側と内側に広がるが、接着剤6は溝2に流れ込み、溝2より外側あるいは内側にはみ出すことはない。これにより封止板1を保持した治具7に接着剤6が接触することはなく、接着後の有機EL表示素子16は容易に治具7から取り出せる。封止工程を停止させることがなくなり、生産性を低下することはない。また封止板1の内部への接着剤6のはみ出しが無くなり、積層構造体13を劣化することなく、長寿命で高品質な有機EL表示素子16を製造することができる。」
(d)「【図4】本発明の実施例を示す封止板による有機EL表示素子の接着過程の説明図であり、(a)は接着直前を、また(b)は接着時を示す。」
(e)「【図1】


(f)「【図2】


(g)「【図4】


(h)「【図8】



これらの記載事項を含む引用文献1全体の記載及び当業者の技術常識を総合すれば、引用文献1には、以下の発明が記載されているものと認める。
「ガラス基板(5)に正孔注入電極(10)を形成し、その上に有機薄膜発光層(11)を積層し、有機薄膜発光層の上には電子注入電極(12)を形成した積層構造体(13)を備えたガラス基板と接着剤を塗布した封止板(1)を対向させ配置し接着した有機EL表示素子において、
封止板は積層構造体を内部に配置するため、中央が窪んだ形状となり、ガラス基板との接着部(4)は窪みの周囲にガラス基板と平行な面であり、その接着部に接着剤塗布領域(3)を挟んで2本の溝(2)を有する、
有機EL表示素子。」(以下「引用発明」という。)

3.対比
補正発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「ガラス基板」、「正孔注入電極」、「電子注入電極」、「有機薄膜発光層」、「積層構造体」及び「封止板」は、それぞれ補正発明の「ガラス基板」、「陽極」、「陰極」、「有機発光層」、「有機EL層」及び「キャップ基材」に相当する。
(2)同様に、引用発明の封止板の「積層構造体を内部に配置するため」の「中央が窪んだ形状」及び「窪みの周囲にガラス基板と平行な面であ」る「ガラス基板との接着部」は、それぞれ補正発明の「有機EL層を収納するキャビティ」及び「周縁枠体」に相当する。
引用発明の「封止板」が補正発明の「天板」に相当する構成を有することは明らかである。
(3)引用発明の「ガラス基板と接着剤を塗布した封止板を対向させ配置し接着した」構成は、補正発明の「キャップ基材の周縁枠体とガラス基板との間に接着剤を介在させ」た構成に相当する。
引用発明の接着部に設けられた「溝」は補正発明の「接着剤を収納する接着剤用の収納溝」に相当し、当該溝を2本有する構成は、「収納溝は、少なくとも2重に形成されて」いる構成に相当する。
また、引用発明の「接着部は窪みの周囲に」あるから、引用発明の当該「溝」は「接着部(補正発明の「周縁枠体」に相当)全周に延びて」いる。
(4)引用発明の「有機EL表示素子」は補正発明の「有機EL素子」に相当する。

してみると両者は、
「ガラス基板と、
ガラス基板上に設けられ、陽極と、陰極と、陽極と陰極の間に設けられた有機発光層とを有する有機EL層と、
ガラス基板上に設けられ、有機EL層を収納するキャビティを形成するとともに、天板と周縁枠体とを有するキャップ基材と、を備え、
キャップ基材の周縁枠体とガラス基板との間に接着剤を介在させ、
キャップ基材の周縁枠体のうちガラス基板との当接面に、周縁枠体全周に延びて接着剤を収納する接着剤用の収納溝が形成されており、
前記収納溝は、少なくとも2重に形成されている有機EL素子。」
の点で一致し、次の点で相違している。

(相違点)
補正発明が「収納溝の深さは、前記収納溝の幅以上になっている」のに対して、引用発明がそのような構成を有するかどうか不明な点。

4.判断
上記相違点について検討する。
引用発明の溝の形状及び寸法は接着時に接着剤が溝からはみ出さない大きさに設定され、角型の溝でもよい(上記摘記事項(b)参照)。
また、本願明細書及び図面の記載を参酌する限りにおいて、収納溝の深さが収納溝の幅以上になっていることに、そうでない場合と比べて格別の技術的意味があるとはいえない。
そして、引用発明の目的に照らせば、溝を相違点のような構成とすることに格別の阻害要因も技術的困難性もない。
してみると、引用発明に上記相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易になしうる事項である。

そして、補正発明全体の効果も、引用発明から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

したがって、補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

[理由2]
1.補正発明の特定事項
補正発明は、「前記収納溝の深さは、前記収納溝の幅以上になっている」(以下「特定事項」という。)という事項を含む。
請求人は、上記特定事項を付加する補正は、本願の願書に最初に添付した図面(とりわけ、図1,図2,図5(a)(b),図8)に基づくものであり、上記特定事項は本願の出願当初に開示されている事項である(審判請求書参照)と主張している。
(1)本願明細書等の記載
本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書又は図面、両者を総称して当初明細書等」という。)の特定事項に関する記載は以下のとおりである。
(a)当初明細書には、収納溝の深さと幅を対比する記載は認められない。
(b)当初図面には、収納溝の寸法及び形状を示唆する記載は認められるものの、請求人の主張する上記各図面を含め、収納溝の深さと幅を明示的に対比した図面は認められない。
(2)判断
願書に添付の図面は、明細書に開示した技術的思想であるところの発明を補足的に説明するためのものであるから、明示的な記載がない限り、設計図面などのように実際の寸法や形状を正確に表示するものではないと解するのが相当である。
そして、当初図面に収納溝の深さと幅の関係に関する明示的な記載がないことは上記のとおりである。
してみると、請求人の主張する上記各図面が、一見、収納溝の深さが収納溝の幅以上になっているように見えたとしても、そのことのみをもって上記特定事項が技術的思想として当初明細書等に記載されているとすることはできない。
また、上記各図面が、一見、収納溝の深さが収納溝の幅以上になっているように見えたとしても、そのことの技術的意義が当初明細書に記載されていない以上、当該構成とその技術的意義が本願の出願時点において当業者にとって自明な事項でない限り、その技術的意義が当初明細書等に記載されているとはいえない。
そして、請求人が主張する「収納溝の深さが収納溝の幅未満である場合に比べて、ガラス基板とキャップ基材との間の強固な接着を保ちながら、収納溝以外の部分でキャップ基材とガラス基板との間に介在される接着剤の厚さを小さくすることができる」(回答書参照)という上記特定事項の技術的意義が本願の出願時点に当業者にとって自明な事項であるとする根拠はない。
したがって、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。

以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明について
平成25年5月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成24年10月19日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「ガラス基板と、
ガラス基板上に設けられ、陽極と、陰極と、陽極と陰極の間に設けられた有機発光層とを有する有機EL層と、
ガラス基板上に設けられ、有機EL層を収納するキャビティを形成するとともに、天板と周縁枠体とを有するキャップ基材と、を備え、
キャップ基材の周縁枠体とガラス基板との間に接着剤を介在させ、
キャップ基材の周縁枠体のうちガラス基板との当接面に、周縁枠体全周に延びて接着剤を収納する接着剤用の収納溝が形成されており、
前記収納溝は、少なくとも2重に形成されていることを特徴とする有機EL素子。」(以下「本願発明」という。)

1.引用刊行物
原査定に引用され、本願出願前に頒布された刊行物及びその記載内容は、前記「第2」の「[理由1]」の「2.」に記載したとおりである。

2.対比
本願発明は、前記「第2」で検討した補正発明から「前記収納溝の深さは、前記収納溝の幅以上になっている」という事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に限定したものに相当する補正発明が、前記「第2」の「[理由1]」の「4.」に記載したとおり、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-27 
結審通知日 2014-01-28 
審決日 2014-02-10 
出願番号 特願2009-107923(P2009-107923)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 561- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西岡 貴央大森 伸一  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 北川 清伸
田部 元史
発明の名称 有機EL素子、有機EL素子用のキャップ基材およびキャップ基材の製造方法  
代理人 磯貝 克臣  
代理人 永井 浩之  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 岡村 和郎  
代理人 堀田 幸裕  

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