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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1286317
審判番号 不服2010-6832  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-01 
確定日 2014-04-04 
事件の表示 特願2004-532594号「高速凝結性セメント組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年3月11日国際公開、WO2004/020359、平成17年12月8日国内公表、特表2005-537208号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年7月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年8月29日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成21年5月21日付けの拒絶理由の通知に対して同年9月4日付けで意見書および手続補正書が提出され、同年11月30日付けで拒絶査定され、平成22年4月1日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正書が提出されたものであり、その後、特許法第164条第3項に基づく報告を引用した平成23年12月28日付けの審尋が通知され、平成24年4月10日付けで回答書が提出されたものであって、その請求項19に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年4月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項19に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「以下の(a)?(e)を含むセメントボードを作製するための組成物:
(a)ポルトランドセメント;
(b)鉱物性添加物;
(c)骨材;
(d)(a)および(b)成分の促進剤としてのアルカノールアミン;
(e)下記スラリーを作製するのに十分な量の水;
前記組成物を作るために成分(a)?(e)を混合する時、少なくとも90°Fの温度を有するスラリー。」

以下、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するかどうかについての検討は、上記請求項19の記載と平成21年9月4日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項19の記載とが同じであることから行わなかった。

2.引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由において引用例1として引用された特開2000-233959号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、クリンカ粉砕物、およびこれを含む早強性セメント組成物、コンクリート並びにコンクリート製品に関する。より詳しくは、良好なワーカビリテイと早強性を有する早強性セメント組成物とそのコンクリート及びコンクリート製品、並びにそのためのクリンカ粉砕物に関する。」

(イ)「【0010】
【発明の実施の形態】本発明に係るクリンカ粉砕物は、主要鉱物組成が3CaO・SiO_(2)-2CaO・SiO_(2)-CaO-間隙物質系クリンカ組成物、主要鉱物組成が3CaO・SiO_(2)-CaO-間隙物質系クリンカ組成物、主要鉱物組成が2CaO・SiO_(2)-CaO-間隙物質系クリンカ組成物、あるいは主要鉱物組成がCaO-間隙物質系クリンカ組成物の何れか1種または2種以上の粉砕物であって、CaO結晶を50?92重量%含有することを特徴とするものである。すなわち、本発明の上記クリンカ粉砕物は主要鉱物組成として少なくともCaO結晶と間隙物質を含み、エーライト(3CaO・SiO_(2))および/またはビーライト(2CaO・SiO_(2))を含んでも又は含まなくてもよいクリンカ組成物を粉砕したものであって、CaO結晶を50?92重量%含むものである。
【0011】上記間隙物質はセメントクリンカー鉱物中のエーライトやビーライトの間を埋める鉱物に類するものであり、具体的には、例えば、2CaO・Fe_(2)O_(3)等のカルシウムフェライト鉱物、3CaO・Al_(2)O_(3)等のカルシウムアルミネート鉱物、あるいは、6CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)、4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)、6CaO・2Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)等のカルシウムアルミノフェライト鉱物である。主要鉱物組成として、少なくともCaO結晶と上記間隙物質とを含むことにより、CaOは水和時の発熱及び水和生成物のセメント硬化促進の役割を果たし、また、上記間隙物質はCaOのフラックスとして作用し、CaOの水和速度を抑制する役割を果たし、両者が共存することによって初めてワーカビリティを大幅に損なわずにセメント硬化を促進する効果が得られる。」

(ウ)「【0035】実施例2[硬化促進物質添加試験]
本発明のクリンカ粉砕物(実施例1のクリンカNo.5)、普通ポルトランドセメント、セメント硬化促進物質、砂、水、減水剤を表6に示す割合で配合してモルタルを調製した(No.21?25)。また、比較例として上記クリンカ粉砕物およびセメント硬化促進物質を添加しないモルタルを調製した(No.26)。セメント硬化促進物質としては硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄、トリエタノールアミンをそれぞれ用いた。減水剤には市販のナフタレンスルホン酸塩系高性能減水剤を使用した。なお、セメント硬化促進物質として硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄を用いたものは、これを予めセメントに添加し、十分に混合を行ってから混練を行った。トリエタノールアミンの場合は、これを水および減水剤と予め混合した後にセメントに添加した。混練手順は次の通りである。練り混ぜ機を使用し、セメントと砂を15秒間練り混ぜる。さらに15秒間かけて練り混ぜを続けながら水と減水剤を練り鉢に入れ、引き続き60秒間練り混ぜる。次に、一旦、練り混ぜを停止して20秒間掻き落としを行い、再び練り混ぜを開始して120秒間練り混ぜて試験体のモルタルを調製した。
【0036】強度試験は次の手順で行った。まず、モルタル(No.21?26)を型枠(4cm×4cm×16cm)に打設し、約2時間後にキャッピングを行い、湿空箱中で1日養生した後に脱型し、この脱型直後に圧縮強度を測定した。圧縮強度の測定はJIS R5201に準じて行った。この結果を表6にまとめて示した。この試験結果から明らかなように、本発明に係る試料は比較試料(モルタルNo.26)よりも圧縮強度が大きく、早強性に優れていることが判る。」

(エ)「【0043】なお、以上の実施例では減水剤としてナフタレン系高性能減水剤を使用しているが、これに限らず、セメントコンクリート分野で一般的に使用される混和剤、メラミン系、リグニン系、ポリカルボン酸系減水剤、流動化剤、AE剤を使用することができる。また、高炉スラグ、石灰石微粉末、フライアッシュ、シリカヒュームなどの混和材を併用することも可能である。」

(オ)【表6】には、「モルタルNo25、セメント675g、粉砕物54g、セメントに対する重量%が0.2%であるセメント硬化促進物質としてのトリエタノールアミン、砂1350g、水263g、セメントに対する重量%が1.3%である減水剤、圧縮強度28.0N/mm^(2)」が表示されている。

(カ)上記(ア)の「・・・早強性セメント組成物とそのコンクリート及びコンクリート製品・・・」との記載からして、引用例には、「コンクリート製品を作製するための早強性セメント組成物」が記載されているということができる。

(キ)上記(イ)の記載からして、引用例には、「クリンカ粉砕物は、CaO結晶を50?92重量%含むものであって、セメント原料になるものである」ことが記載されているということができる。

(ク)上記(ウ)の「・・・混練手順は次の通りである。練り混ぜ機を使用し、セメントと砂を15秒間練り混ぜる。さらに15秒間かけて練り混ぜを続けながら水と減水剤を練り鉢に入れ、引き続き60秒間練り混ぜる。次に、一旦、練り混ぜを停止して20秒間掻き落としを行い、再び練り混ぜを開始して120秒間練り混ぜて試験体のモルタルを調製した。・・・」との記載からして、モルタル(スラリー)を調整するのに十分な水が用意されており、また、外気温度で混合が行われているということができるので、引用例には、「スラリーを調整するのに十分な量の水」および「外気温度」が記載されているということができる。

(ケ)上記(オ)の表示内容からして、引用例には、「トリエタノールアミンの重量を算出すると13.5gである」こと、「セメントおよび粉砕物の総重量を算出すると729gである」こと、「セメントおよび粉砕物の総重量に対するトリエタノールアミンの重量%を算出すると0.185%である」ことが記載されているということができる。

上記(ア)ないし(オ)の記載事項・表示内容、同(カ)ないし(ケ)の検討事項より、引用例には、
「以下の(a')、(c')ないし(f')を含むコンクリート製品を作製するための早強性セメント組成物:
(a')ポルトランドセメントおよびクリンカ粉砕物;
(c')砂;
(d')(a')のセメント硬化促進物質としてのトリエタノールアミン;
(e')下記スラリーを調整するのに十分な量の水;
(f')ナフタレンスルホン酸塩系高性能減水剤;
早強性セメント組成物を作るために成分(a')、(c')ないし(f')を混合する時、外気温度を有するスラリー。」の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が開示されている。
なお、上記(a')、(c')、(d')、(e')、(f')については、当審において便宜上付与した。

3.対比・判断
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。
○引用例記載の発明の「早強性セメント組成物」、「(c')砂」、「セメント硬化促進物質」、「トリエタノールアミン」、「(e')下記スラリーを調整するのに十分な量の水」は、本願発明の「組成物」、「(c)骨材」、「促進剤」、「アルカノールアミン」、「(e)下記スラリーを作製するのに十分な量の水」にそれぞれ相当する。

○引用例の上記2.(イ)で示した記載と、本願明細書の「【0028】
ポルトランドセメントに関するASTM C150標準仕様書ではポルトランドセメントを、実質的に水硬性ケイ酸カルシウムからなり、通常1あるいはそれ以上の形の硫酸カルシウムをインターグラウンド添加物(inter-ground addition)として含む、クリンカを粉砕することによって作られる水硬性セメントとして定義している。より一般的には、ポルトランドセメントの代わりに、例えばスルホアルミン酸カルシウムをベースとしたセメントのような、他の水硬性セメントを用いることもできる。
【0029】
ポルトランドセメント製造のため、ポルトランドセメントクリンカを形成するために、石灰石と粘土の混合物がキルン中で焼成される。クリンカ中には、以下の4つの主要な相のポルトランドセメントが存在する-ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO_(2)、C_(3)Sとも呼ばれる)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO_(2)、C_(2)Sと呼ばれる)、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al_(2)O_(3)、あるいはC_(3)A)、鉄アルミン酸四カルシウム(4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)、あるいはC_(4)AF)。」との記載からして、引用例記載の発明の「(a')ポルトランドセメントおよびクリンカ粉砕物」は、本願発明の「(a)ポルトランドセメント」に相当する。

○引用例記載の発明の「コンクリート製品」と本願発明の「セメントボード」とは、「セメント製品」という点で共通する。

○引用例記載の発明の「(d')(a')のセメント硬化促進物質(促進剤)としてのトリエタノールアミン(アルカノールアミン)」と本願発明の「(d)(a)および(b)成分の促進剤としてのアルカノールアミン」とは、「(d'')(a)の促進剤としてのアルカノールアミン」という点で共通する。

○引用例記載の発明の「以下の(a')、(c')ないし(f')を含む」および「成分(a')、(c')ないし(f')を混合する時、外気温度を有する」ことと、本願発明の「以下の(a)?(e)を含む」および「成分(a)?(e)を混合する時、少なくとも90°Fの温度を有する」こととは、「以下の(a)、(c)、(d'')、(e)を含む」および「成分(a)、(c)、(d'')、(e)を混合する時、所定温度を有する」という点で共通する。

上記より、本願発明と引用例記載の発明とは、
「以下の(a)、(c)、(d'')、(e)を含むセメント製品を作製するための組成物:
(a)ポルトランドセメント;
(c)骨材;
(d'')(a)成分の促進剤としてのアルカノールアミン;
(e)下記スラリーを作製するのに十分な量の水;
前記組成物を作るために成分(a)、(c)、(d'')、(e)を混合する時、所定温度を有するスラリー。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明では、組成物から作製されるセメント製品が「セメントボード」であるのに対して、引用例記載の発明では、早強性セメント組成物から作製されるセメント製品が「コンクリート製品」であるものの、「セメントボード」であるかどうか明らかでない点。

<相違点2>
本願発明では、「(b)鉱物性添加物」を用いているのに対して、引用例記載の発明では、「(b)鉱物性添加物」を用いていない点。

<相違点3>
本願発明では、「(d)(a)および(b)成分の促進剤としてのアルカノールアミン」であるのに対して,引用例記載の発明では、「(d')(a')のセメント硬化促進物質(促進剤)としてのトリエタノールアミン(アルカノールアミン)」である点。

<相違点4>
本願発明では、「減水剤」を用いるかどうか明らかでないのに対して、引用例記載の発明では、「(f')ナフタレンスルホン酸塩系高性能減水剤」を用いている点。

<相違点5>
本願発明では、「以下の(a)?(e)を含む」および「組成物を作るために成分(a)?(e)を混合する時、少なくとも90°Fの温度を有する」のに対して、引用例記載の発明では、「以下の(a')、(c')ないし(f')を含む」および「早強性セメント組成物を作るために成分(a')、(c')ないし(f')を混合する時、外気温度を有する」点。

上記各相違点について検討する。
<相違点1>について
一般に、早強性セメント組成物から作製されるセメント製品として「セメントボード」があることは、先行技術文献を示すまでもなく、本願優先権主張日前に周知の事項であることから、引用例記載の発明の「早強性セメント組成物から作製されるコンクリート製品(セメント製品)」を「セメントボード」にすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、引用例記載の発明および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

<相違点2>について
引用例には、上記2.(エ)で示したように「・・・また、高炉スラグ、石灰石微粉末、フライアッシュ、シリカヒュームなどの混和材を併用することも可能である。」との記載があり、これからして、高炉スラグ、フライアッシュなどの鉱物性添加物を用い得ることの開示がある。
そうすると、引用例記載の発明において、「(b)鉱物性添加物」を用いることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、引用例記載の発明および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

<相違点3>について
一般に、高炉スラグ、フライアッシュなどの鉱物性添加物がセメント組成物の反応性成分であることは、セメント技術分野における技術常識であるということができるので、硬化促進剤としてのアルカノールアミンは、(a)ポルトランドセメントに対してだけでなく、(b)鉱物性添加物に対しても硬化促進に関して考慮すべきものであるとみるのが妥当である。
そうすると、引用例記載の発明において、上記「<相違点2>について」で検討したように、「(b)鉱物性添加物」を用いる際、「(d')(a')のセメント硬化促進物質(促進剤)としてのトリエタノールアミン(アルカノールアミン)」即ち「(d'')(a)成分の促進剤としてのトリエタノールアミン(アルカノールアミン)」を「(d)(a)および(b)成分の促進剤としてのトリエタノールアミン(アルカノールアミン)」にすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、引用例記載の発明および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

<相違点4>について
本願明細書には、全ての実施例(1ないし18)において減水剤を使用すること、また、
「【0057】
<他の添加剤および成分>
減水剤(高性能AE減水剤)のような添加剤が本発明の組成物に含まれていてもよい。それらは乾燥状態で、あるいは溶液の状態で添加される。高性能AE減水剤は、混合物に必要な水の量を減少させるのに役立つ。高性能AE減水剤の例としては、ポリナフタレンスルホネート、ポリアクリレート、ポリカルボキシレート、リグノスルホネート、メラミンスルホネートなどが挙げられる。使用される高性能AE減水剤の種類にもよるが、高性能AE減水剤の反応性混合粉末に対する質量比(乾燥粉末基準)は、通常約2.0質量%かそれ未満であり、好ましくは約0.1?1.0質量%である。」および
「【0071】
インディアナ州、ブルックリンのハイドローリックブリックプレスから入手した、ハイダイト膨張頁岩骨材。
テキサス州、TXIアグリゲートから入手した、リッジライト膨張粘土骨材。
コネチカット州、ダンブリーのユニオンカーバイドコーポレーションから入手した、トリエタノールアミン(TEA)。
ペンシルバニア州、フィラデルフィアのFMCワイオミングコーポレーションから入手した、炭酸ナトリウム(SA)。
ペンシルバニア州、フィラデルフィアのFMCワイオミングコーポレーションから入手した、クエン酸ナトリウム。
ジョージア州、シダータウンのジオスペシャルティケミカルズ株式会社から入手した、スルホン化ナフタレン縮合物の高性能AE減水剤。」との記載があり、これらからして、本願発明は、減水剤を用いるものであり、その例として示されている「ポリナフタレンスルホネート(高性能AE減水剤)」または「スルホン化ナフタレン縮合物(高性能AE減水剤)」は、引用例記載の発明の「(f')ナフタレンスルホン酸塩系高性能減水剤」に相当することから、相違点4は、実質的な相違ではない。

<相違点5>について
上記「<相違点2>について」ないし「<相違点4>について」の検討からして、相違点5は、「本願発明では、組成物を作るために成分(a)?(e)を混合する時、少なくとも90゜Fの温度を有するのに対して、引用例記載の発明では、早強性セメント組成物を作るために成分(a)?(e)を混合する時、外気温度を有するものの、少なくとも90゜Fの温度であるかどうか明らかでない点」になるというべきである。
ここで、一般に、セメント組成物を作るために成分を混合する時、硬化促進のために練上げ(混合)温度を高くすることは、本願優先権主張日前に周知の事項(例えば、原査定の拒絶の理由において引用例2として引用された「仕入豊和 他,コンクリートの凝結・硬化におよぼす温度条件(20?90℃)の影響:プロクター貫入抵抗値の経時変化からの考察,日本建築学会論文報告集,1982年3月30日,No.313,p.1-11」の特に第5頁左欄の図-7および第8頁左欄の(b)、特開平10-45441号公報の特に【0020】ないし【0022】、特開昭56-164055号公報の特に第2頁左上欄第17行?同右上欄12行参照)である。
一方、引用例記載の発明の「早強性セメント組成物を作るために成分(a)?(e)を混合する」ことは、早い硬化、つまり、硬化促進を目的の一つにするものであって、この点で、引用例記載の発明と上記周知の事項とは共通している。
そうすると、引用例記載の発明において、早強性セメント組成物を作るために成分(a)?(e)を混合する時、上記で示した目的の一つである硬化促進のために、上記周知の「硬化促進のために練上げ(混合)温度を高くする」という事項を適用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、この際に、練上げ(混合)温度をどれくらい(例えば40℃程度)に調整するかは、セメント組成物スラリーの流動性やこれが硬化したときの強度などとの兼ね合いの観点より、当業者であれば適宜決定する設計的事項(試行錯誤の範囲内の事項)であるということができる。
したがって、相違点5に係る本願発明の発明特定事項とすることは、引用例記載の発明および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

また、本願発明の高速凝結性等の作用効果は、引用例記載の発明および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者であれば十分に予測し得るものである。

よって、本願発明は、引用例記載の発明および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

次に、回答書において示されている補正案の以下の請求項17に係る発明(以下、「本願補正案発明」という。)の特許性について検討する。
「(a)ポルトランドセメント、
(b)鉱物性添加物、
(c)骨材、
(d)トリエタノールアミン、
(e)スラリーを作製するのに十分な量の水、
からなるセメントボードを作製するための組成物であって、
前記トリエタノールアミンの量が、ポルトランドセメントを基準に0.03?4.0質量%であり、かつ、
前記組成物を作るために成分(a)?(d)を混合する時、
少なくとも32.2℃(90°F)より高い温度に調整し混合することを特徴とする高速凝結性セメント組成物。」

引用例には、上記2.および上記3.の本願発明と引用例記載の発明との対比からして、
「(a)ポルトランドセメント、
(c)骨材、
(d)トリエタノールアミン、
(e)スラリーを作製するのに十分な量の水、
(f')ナフタレンスルホン酸塩系高性能減水剤、
を含むコンクリート製品を作製するための組成物であって、
トリエタノールアミンの量が、ポルトランドセメントを基準にモルタルNo25では0.185重量%であり、かつ、
早強性組成物を作るために成分(a)、(c)ないし(f')を混合する時、
外気温度で混合する、早強性セメント組成物(高速凝結性セメント組成物)。」の発明(以下、「引用例記載の発明2」という。)が開示されている。

ここで、本願補正案発明と引用例記載の発明2とを対比すると、実質的に上記<相違点1>、<相違点2>、以下<相違点A>ないし<相違点C>で相違し、その余の点で両者は一致している。
<相違点A>
本願補正案発明では、「減水剤」を用いていないのに対して、引用例記載の発明では、「(f')ナフタレンスルホン酸塩系高性能減水剤」を用いている点。

<相違点B>
本願補正案発明では、「組成物を作るために成分(a)?(d)を混合する時、少なくとも32.2℃(90°F)より高い温度に調整し混合する」のに対して、引用例記載の発明2では、「早強性セメント組成物を作るために成分(a)、(c)ないし(f')を混合する時、外気温度で混合する」点。

<相違点C>
仮に、本願補正案発明が「トリエタノールアミンの量が、ポルトランドセメントおよび鉱物性添加物を基準に0.03?4.0質量%であ」ることを発明特定事項にするのであれば、本願補正案発明では、「トリエタノールアミンの量が、ポルトランドセメントおよび鉱物性添加物を基準に0.03?4.0質量%であ」るのに対して、引用例記載の発明2では、「トリエタノールアミンの量が、ポルトランドセメントを基準にモルタルNo25では0.185重量%であ」る点。

各相違点について検討する。
<相違点1>、<相違点2>について
これらの相違点についての検討は、上記「<相違点1>について」、「<相違点2>について」で示したとおりである。

<相違点A>について
引用例記載の発明2において、「減水剤」を用いるかどうかは、作業性、製品特性などが良好になる若しくは維持されること等を条件にして、当業者であれば適宜決定する選択的事項であるということができる。
したがって、相違点Aに係る本願補正案発明の発明特定事項とすることは、引用例記載の発明2および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。
なお、上記「<相違点4>について」で検討したように、本願明細書には、全ての実施例(1ないし18)において減水剤を使用することの記載があることから、相違点Aは、実質的な相違ではないとみるべきである。

<相違点B>について
上記「<相違点2>について」および「<相違点A>について」の検討からして、相違点Bは、「本願補正案発明では、組成物を作るために成分(a)?(d)を混合する時、少なくとも32.2℃(90°F)より高い温度に調整し混合するのに対して、引用例記載の発明2では、早強性セメント組成物を作るために成分(a)?(d)を混合する時、外気温度で混合するものの、少なくとも32.2℃(90°F)より高い温度に調整し混合するかどうか明らかでない点」になるというべきである。
ここで、一般に、セメント組成物を作るために成分を混合する時、硬化促進のために練上げ(混合)温度を高くすることは、本願優先権主張日前に周知の事項(例えば、原査定の拒絶の理由において引用例2として引用された「仕入豊和 他,コンクリートの凝結・硬化におよぼす温度条件(20?90℃)の影響:プロクター貫入抵抗値の経時変化からの考察,日本建築学会論文報告集,1982年3月30日,No.313,p.1-11」の特に第5頁左欄の図-7および第8頁左欄の(b)、特開平10-45441号公報の特に【0020】ないし【0022】、特開昭56-164055号公報の特に第2頁左上欄第17行?同右上欄12行参照)である。
一方、引用例記載の発明2の「早強性セメント組成物を作るために成分(a)?(d)を混合する」ことは、早い硬化、つまり、硬化促進を目的の一つにするものであって、この点で、引用例記載の発明2と上記周知の事項とは共通している。
そうすると、引用例記載の発明2において、早強性セメント組成物を作るために成分(a)?(d)を混合する時、上記で示した目的の一つである硬化促進のために、上記周知の「硬化促進のために練上げ(混合)温度を高くする」という事項を適用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、この際に、練上げ(混合)温度をどれくらい(例えば40℃程度)に調整するかは、セメント組成物スラリーの流動性やこれが硬化したときの強度などとの兼ね合いの観点より、当業者であれば適宜決定する設計的事項(試行錯誤の範囲内の事項)であるということができる。
したがって、相違点Bに係る本願補正案発明の発明特定事項とすることは、引用例記載の発明2および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

<相違点C>について
引用例記載の発明2において、上記「<相違点2>について」で検討したように、「(b)鉱物性添加物」を用いる際、ポルトランドセメントおよび鉱物性添加物に対するトリエタノールアミンの割合をどれくらにするかは、ポルトランドセメントに対する割合がモルタルNo25では0.185重量%であることを考慮した上で、セメント組成物スラリーの流動性やこれが硬化したときの強度などとの兼ね合いの観点より、当業者であれば適宜決定する設計的事項(試行錯誤の範囲内の事項)であるということができる。
したがって、相違点Cに係る本願補正案発明の発明特定事項とすることは、引用例記載の発明2および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

よって、本願補正案発明は、引用例記載の発明2および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、補正案を採用することはできない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-28 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-20 
出願番号 特願2004-532594(P2004-532594)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 武正 知晃  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 國方 恭子
斉藤 信人
発明の名称 高速凝結性セメント組成物  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  

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