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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1286358
審判番号 不服2012-21820  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-05 
確定日 2014-04-02 
事件の表示 特願2006-232004「容器包装内の細菌汚染の非破壊検知方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月13日出願公開、特開2008- 57998〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年8月29日の出願(特願2006-232004号)であって、平成23年6月17日付けで拒絶理由が通知され、同年9月9日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成24年4月25日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年7月13日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年7月30日付けで、同年7月13日付け手続補正書でした明細書、特許請求の範囲又は図面に対する補正の却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成25年8月27日付けで前置報告書の内容について請求人に事前に意見を求める審尋をなし、同年11月6日付けで回答書が提出された。

第2 平成24年11月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定について

[補正の却下の決定の結論]
平成24年11月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1ないし3については、平成23年9月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3の、

「【請求項1】
容器包装に入れられた食品、飲料、乳、乳製品、医薬品、医薬部外品、化粧品、保健機能食品、特別用途食品、卵に混入・汚染した細菌が生成する気体成分であって、容器包装を通過または拡散する気体成分を容器包装を開封することなく、または、破壊することなく、または、針をさすことなく、または、穴を開けることなく、または、切断することなく、検知することにより細菌の混入・汚染を検査する細菌汚染の非破壊検知方法であって、
検知対象の気体成分が水素であり、前記容器包装の包装材を通過・拡散して、その包装材の表面から出てくる水素をセンサで水素を検知し、前記センサが半導体式のガスセンサ、熱電変換式のガスセンサ、3電極電気化学センサ、弾性表面波を利用したセンサおよび接触燃焼式ガスセンサのうちのいずれかであることを特徴とする細菌汚染の非破壊検知方法。
【請求項2】
前記センサを容器に装填し、前記容器に検査対象をその包装容器ごと入れて、センサで水素を検知することを特徴とする請求項1に記載の細菌汚染の非破壊検知方法。
【請求項3】
検査対象が卵であり、卵殻内の卵黄または卵白を汚染しているサルモネラ菌または大腸菌が生成する水素であって、卵殻を通過、または拡散する水素を、卵を破壊することなくセンサで検知することにより、卵内のサルモネラ菌または大腸菌の汚染を検査することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の細菌汚染の非破壊検知方法。」が

「【請求項1】
容器包装に入れられた食品、飲料、乳、乳製品、医薬品、医薬部外品、化粧品、保健機能食品、特別用途食品、卵に混入・汚染した細菌が生成する気体成分であって、容器包装を通過または拡散する気体成分を容器包装を開封することなく、または、破壊することなく、または、針をさすことなく、または、穴を開けることなく、または、切断することなく、検知することにより細菌の混入・汚染を検査する細菌汚染の非破壊検知方法であって、
前記容器包装が、汎用樹脂素材で密封した袋であり、前記汎用樹脂素材が、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン‐ビニルアルコールの共重合体、ナイロン及びポリアクリロニトリル樹脂のうちのいずれか一つ以上であり、かつ、検知対象の気体成分が水素であり、前記容器包装の包装材を通過・拡散して、その包装材の表面から出てくる水素をセンサで水素を検知し、前記センサが半導体式のガスセンサ、熱電変換式のガスセンサ、3電極電気化学センサ、弾性表面波を利用したセンサおよび接触燃焼式ガスセンサのうちのいずれかであることを特徴とする細菌汚染の非破壊検知方法。
【請求項2】
前記汎用樹脂素材が、ポリエチレンとナイロンの複合フィルム又はポリエチレンシートで密封した袋であることを特徴とする請求項1に記載の細菌汚染の非破壊検知方法。
【請求項3】
前記センサを容器に装填し、前記容器に検査対象をその包装容器ごと入れて、センサで水素を検知することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の細菌汚染の非破壊検知方法。」
と補正されたものである。(下線は補正箇所を示す。)

2 新規事項追加の違反についての検討
(1)検討(考察)の対象とする特定事項について
上記の「1 本件補正について」の上記の補正によって「容器包装に入れられた食品、飲料、乳、乳製品、医薬品、医薬部外品、化粧品、保健機能食品、特別用途食品、卵に混入・汚染した細菌が生成する気体成分」を「検知する」「細菌汚染の非破壊検知方法」に関して「前記容器包装が、汎用樹脂素材で密封した袋」であると特定することが、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書の発明の詳細な説明及び図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるかについて検討する。
上記の検討にあたり、請求項1に係る発明は、細菌汚染の非破壊検知(検査)の対象物として請求項1に列記されたもの全てが「汎用樹脂素材で密封した袋」に入れられることを含むものとなるから、それらの対象物全てに関して「汎用樹脂素材で密封した袋」に入れられることが新規事項追加の違反の検討の対象となるが、考察を明確に(単純化)するために、一例として、上記対象物の内の「卵」が「汎用樹脂素材で密封した袋」に入れられることが新規事項追加の違反となるかについて検討する。

(2)当初明細書等の記載事項
包装容器に入れられた検査の対象物、並びに、包装容器の素材及び形態に関して、当初明細書等には次の事項が記載されている。

「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
食品、飲料、乳、乳製品、医薬品、医薬部外品、化粧品、保健機能食品、特別用途食品、卵を容器包装したものに混入・汚染した細菌を、容器包装または卵殻を破壊することなく検知する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、容器包装内に混入・汚染した細菌が生成する気体成分を対象として、容器包装を破壊することなく、容器包装を通過、拡散する気体成分を検知することにより、容器包装内に混入・汚染した細菌を検知する方法である。
【0012】
本発明は、図1に示すように、容器包装1に入れられた食品、または、飲料、または、乳、または、乳製品、または、医薬品、または、医薬部外品、または、化粧品、または、保健機能食品、または、特別用途食品(内容物2)内に混入・汚染した細菌3が生成する気体成分4であり、その包装材を通過・拡散して、その包装材の表面から出てくる気体成分4を、センサ5が検知し、信号6に変換することで構成される。
【0013】
容器包装1内の内容物2に混入・汚染した細菌3が生成する気体成分4を感度よく検知するためには、センサを容器包装に近接、あるいは、接触させる。
【0014】
あるいは、図2に示すように、容器包装7全体を検査対象として、センサ11を装填した容器12に、容器包装ごと入れて、容器包装から出てくる混入・汚染した細菌9が生成する気体成分10をセンサ11で検知し、信号13に変換する。」

「【0023】
容器包装に用いる材料としては、ポリエチレンやポリ塩化ビニリデンやポリビニルアルコールやエチレン-ビニルアルコールの共重合体やナイロンやポリアクリロニトリル樹脂など汎用樹脂素材、それらの複合素材や紙や、それらの組み合わせ、あるいは、多重多層のフィルムとしたものを用いることができ、また、ボトル形状加工できるペット樹脂などの素材を用いることもでき、また、ガラスや金属材料など素材を粒子状にして組み合わせたコンポジットなども用いることができる。
【0024】
本発明による細菌の検知方法は、細菌による変敗を防止または遅延させるために、内容物
の酸化防止も兼ねて、汎用されている容器包装内の酸素を除去する容器包装に対しても用
いることができる。
【0025】
本発明による細菌の検知方法は、容器包装の内容物が、
生鮮肉 、ハム・ソーセージ 、パン・菓子類、農産物、魚介類、生鮮魚介類などの食品や、冷凍食品、冷凍菓子、菓子、レトルト調理食品など食品工場で加工されたものや、スーパーでの惣菜、コンビニでのおにぎり・惣菜などの半調理した食品や、ハンバーガーなどセントラルキッチンで調理された外食・ファミリーレストラン用調理食品や、牛乳などの乳や、乳を原料として加工された乳製品や、果汁、ジュース、炭酸飲料、コーヒー、紅茶、日本茶、健康茶などの清涼飲料水や、ビールなどの醸造物や、医薬品や医薬部外品や、天然物の抽出物、天然エキス、香料などを含む化粧品や、サプリメントなどの健康食品や、保健機能食品や、特別用途食品や、卵および、調理加工した卵であってもよく、それら複合のものであってもよい。
【0026】
図3に示すように、卵については、卵の殻が内容物を包装していると見立ててもよく、生卵の卵黄や白身に混入・汚染しているサルモネラ類などの細菌を、本発明の方法により、卵を破壊することなく、検知することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、容器包装された、食品、飲料、乳、乳製品、医薬品、医薬部外品、化粧品、保健機能食品、特別用途食品、卵を、容器包装を破壊することなく、大腸菌やサルモネラ菌やビブリオ菌などの混入・汚染した細菌を検知できる。
【0028】
容器包装された食品・飲料・乳・乳製品・医薬品・医薬部外品・化粧品・保健機能食品・特別用途食品・卵の製品を出荷前に、破壊することなく、全品を細菌の混入・汚染について検査することができ、混入・汚染が認められたものは、出荷前に除外・廃棄することができ、それらを摂取することによる食中毒を起こすリスクを低くすることができる。
【0029】
生卵については、卵を破壊することなく、出荷する卵のすべてについて、大腸菌やサルモネラ菌やビブリオ菌などの混入・汚染した細菌を検知でき、生卵の摂食による食中毒を起こすリスクを低くすることができる。
【0030】
容器包装された食品・飲料の製品を破壊せず検査でき、従来の技術方法で必要な培養培地や抗体などの試薬反応が不要であり、従来技術の実験操作も不要となるので、検査費用が低減できる。

「【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の例示を以下に示すが、対象とする細菌の種類や、検知対象の気体成分は例示に示す成分に限定されるものではない。また、検査に用いる容器や操作方法や手順は、例示に示す方法に限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
容器包装内に混入・汚染した細菌が生成し、容器包装から拡散する水素を検知するため、図4に示した装置を作製し実験を行った。
【0033】
図4に示す装置は、水素に応答する半導体式センサ22を装填したガラス容器21、センサの応答信号である抵抗値変化を電気信号である周波数に変換するVF変換チップ23、変換チップが発生する周波数を計測する周波数カウンタ24、周波数カウンタの計測値を受信するパソコン25の構成とした。
【0034】
センサの水素への応答を確認するために、図4の装置に示したガラス容器に何も入れていない状態で、ガラス容器に水素ガスを注入した結果、図5に示しめす応答信号を確認でき、センサが水素に応答することが確認できた。
【0035】
容器包装に混入・汚染する細菌として、大腸菌HB101株を用いた。
【0036】
グルコース(ナカライテスク製)1g、酵母抽出物(ナカライテスク製)5g、トリプトン(ナカライテスク製)10g、塩化ナトリウム(ナカライテスク製)15gを1リットルの蒸留水に溶解し、pH7.0に調製し、高圧滅菌器で滅菌処理した溶液を容器包装の内容物として用いた。
【0037】
酸素に対するガスバリア性を有しており、脱酸素剤と組み合わせて容器包装に利用されているポリエチレンとナイロンの複合フィルムを切り取り、卓上ヒートシーラーで3辺をシールすることにより、1辺2cm程度の袋状とした。
【0038】
袋状のポリエチレンとナイロンの複合フィルムに、上記の滅菌処理した溶液を容器包装の内容物として1ml入れて、その溶液に大腸菌を混入させたうえで、卓上ヒートシーラーで、残りの1辺をシールし、密封した。
【0039】
大腸菌が混入した容器包装の内容物の溶液を含む密封したポリエチレンとナイロンの複合フィルムの袋を、水素に反応する半導体式センサを装着したガラス容器内に入れて、センサの応答信号を得た。
【0040】
センサが応答して得た信号を図6に示した。容器包装内の細菌の汚染を検査できることが示された。
【実施例2】
【0041】
実施例1で作製した、大腸菌の汚染をさせた容器包装を、4℃の冷蔵庫に、16時間、静置した後、実施例1と同様に、同じ装置で、センサの応答を見た。ガラス容器内に挿入し、20分経過した後、ガラス容器から袋を取り出した。
【0042】
図7に示すように、ガラス容器に袋を挿入すると、応答信号が得られ、ガラス容器から袋を取り出すと、応答信号がなくなった。ガラス容器内の袋の存在と、応答信号が対応していることが確認できた。また、冷蔵しておいたものでも、一度、細菌が混入・汚染した容器包装であれば、本発明の方法で検査できることを示した。
【実施例3】
【0043】
実施例1と同様に、ポリエチレンのシートを用いて、卓上ヒートシーラーで袋状の容器包装を作り、大腸菌を混入させた容器包装の内容物である溶液を入れ、卓上ヒートシーラーで封入して、図4で示した装置内に入れて、センサの応答をみた。
【0044】
図8に示すとおり、細菌が生成した水素に応答するセンサの応答信号が得られ、本発明の方法で、混入・汚染した細菌を検査できることが示された。」

(3)当審の判断
ア 上記記載から、検査の対象物、並びに、容器包装の素材及び形態のそれぞれに関して、(i)検査の対象物を「食品、飲料、乳、乳製品、医薬品、医薬部外品、化粧品、保健機能食品、特別用途食品、卵」とする点については、当初明細書等の【0010】【0012】【0025】に、(ii)容器包装の素材として「汎用樹脂素材」を用いる点については【0023】に、(iii)容器包装の形態として「密封された袋」とすることについては【0037】【0038】に、それぞれ、記載されているといえる。

イ しかしながら、それらの組合せについて、全ての組合せが記載されているものということはできない。すなわち、例えば、検査の対象物と容器包装の素材の組合せについて、【0025】で挙げられた「生鮮肉 、ハム・ソーセージ 、パン・菓子類、・・・・」の対象物のそれぞれ全てが、【0023】で挙げられた「汎用樹脂」「紙」「ボトル形状に加工できるペット樹脂」「ガラスや金属材料など素材を粒子状にして組み合わせたコンポジット」のそれぞれの容器包装に入れられることが記載されているとはいえない。
また、【0025】で挙げられた「生鮮肉 、ハム・ソーセージ 、パン・菓子類、・・・・」の対象物のそれぞれに対する、容器包装の形態については、明確に記載されていない。容器包装の形態に関して請求項1に特定されている「密封された袋」については、検査の実験例を示した実施例1において、【0036】に記載の「グルコース(ナカライテスク製)1g、酵母抽出物(ナカライテスク製)5g、トリプトン(ナカライテスク製)10g、塩化ナトリウム(ナカライテスク製)15gを1リットルの蒸留水に溶解し、pH7.0に調製し、高圧滅菌器で滅菌処理した溶液」を検査の対象物として入れる容器包装の形態として記載されているものに過ぎず、当該形態の容器包装に【0025】で挙げられた「生鮮肉 、ハム・ソーセージ 、パン・菓子類、・・・・」の対象物を入れることは当初明細書等のどこにも記載されていない。

ウ さらに、検査の対象物を卵とする場合につていは、【0026】等の記載から、卵の殻を内容物を包装していると見立て、卵殻を破壊することなく検知することが記載されている。
当該卵をさらに容器包装に入れることについては直接の記載はないものの、当該卵をさらに容器包装に入れることを排除するものということもできない。しかしながら、具体的にどのような素材及び形態の容器包装に入れるかについては記載されていない。

エ なお、「容器包装」については、当初明細書等の【0003】に「このような微生物の混入・汚染を防止するために製造設備・装置の清浄や衛生的な製造加工操作が行われ、容器に包装されて、製品出荷する努力が行われている。」と記載されていることや、当該「容器包装」を「非破壊」で検査する要請があることなどから、製品出荷や流通の過程で用いられる容器包装であるものと認められる。

オ 上記アないしウの考察事項から、検査の対象物を「卵」とする場合に、当初明細書等には、具体例としては、卵の殻を内容物を包装していると見立てることが記載されており、「卵」をその他の容器包装に入れることについては、記載されているのか否かは明確ではないが、例え、「卵」をその他の容器包装に入れることについて記載されているとしても、具体的にどのような素材及び形態の容器包装に入れるかについては記載されていない。
ましてや、「卵」を「汎用樹脂素材で密封した袋」に入れることについては、当初明細書等のどこにも一切記載されていない。
また、「卵」を「汎用樹脂素材で密封した袋」に入れること、すなわち、「卵」を「汎用樹脂素材で密封した袋」に入れて出荷し、流通することが技術常識に適合したものであるということもできないから、「卵」を「汎用樹脂素材で密封した袋」に入れることが、技術常識から自明の事項であるということもできない。

(4)以上のとおりであるから、上記の「1 本件補正について」の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の補正は、「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないもの」ということができないから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてした補正であるということはできない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下する。

3 特許請求の範囲の補正の目的に関する規定の違反について
本件補正前の請求項1ないし3に係る発明と、本件補正後の請求項1ないし3に係る発明との対応関係については、本件補正前の請求項1に対して、容器包装の形態と素材について限定したものが本件補正後の請求項1であり、さらに、容器包装の素材について限定したものが本件補正後の請求項2である。そして、本件補正前の請求項2の内容と本件補正後の請求項3の内容が対応し、本件補正前の請求項3に対応する本件補正後の請求項は存在しない。
そして、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下単に「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項、すなわち、いわゆる限定的減縮を目的とするためには、補正前の請求項と補正後の請求項の間には一対一の関係が必要である(平成17年(行ケ)10192号、平成15年(行ケ)230号の判決の判示事項参照)。
そうすると、本件補正前の請求項1を本件補正後の請求項1,2とする補正事項については、補正前の請求項と補正後の請求項の間に一対一の関係を保つものということができないから、同法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものということはできず、また、同法第17条の2第4項第1号、3号又は4号に掲げるいずれかの事項を目的とするものではないことも明らかである。
よって、本件補正は、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によって却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年11月5日付けの手続補正は上記のとおり却下され、また、同年7月13日付けの手続補正は、原審において、補正の却下の決定により既に却下されているので、本願の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年9月9日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
容器包装に入れられた食品、飲料、乳、乳製品、医薬品、医薬部外品、化粧品、保健機能食品、特別用途食品、卵に混入・汚染した細菌が生成する気体成分であって、容器包装を通過または拡散する気体成分を容器包装を開封することなく、または、破壊することなく、または、針をさすことなく、または、穴を開けることなく、または、切断することなく、検知することにより細菌の混入・汚染を検査する細菌汚染の非破壊検知方法であって、
検知対象の気体成分が水素であり、前記容器包装の包装材を通過・拡散して、その包装材の表面から出てくる水素をセンサで水素を検知し、前記センサが半導体式のガスセンサ、熱電変換式のガスセンサ、3電極電気化学センサ、弾性表面波を利用したセンサおよび接触燃焼式ガスセンサのうちのいずれかであることを特徴とする細菌汚染の非破壊検知方法。
【請求項3】
検査対象が卵であり、卵殻内の卵黄または卵白を汚染しているサルモネラ菌または大腸菌が生成する水素であって、卵殻を通過、または拡散する水素を、卵を破壊することなくセンサで検知することにより、卵内のサルモネラ菌または大腸菌の汚染を検査することを特徴とする請求項1に記載の細菌汚染の非破壊検知方法。」

2 引用例及びその記載事項
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-208746号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「(2)引用例1に記載された発明の認定」に直接関与する記載に下線を付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、特に卵による食中毒を防止する細菌検出手段に関するものである。」

「【0016】
【発明の実施の形態】請求項1に記載した発明は、個々の卵または卵を複数収容する容器に備えた検知手段によって細菌が放出する揮発性生成物あるいは代謝産物と接触すると変色反応するようにして、簡単に細菌の有無を検知できる細菌検出手段としている。
【0017】請求項2に記載した発明は、検知手段は、細菌が放出する揮発性生成物あるいは代謝物のうち、無機物またはアミン類またはアルコール類またはアルデヒド類またはメルカプタン類または有機酸を検知するようにして、卵の内部で増殖した細菌の有無を検知できる細菌検出手段としている。
【0018】請求項3に記載した発明は、無機物は、アンモニアまたは水素または二酸化炭素または硫化水素として、卵の内部で増殖した細菌の有無を検知できる細菌検出手段としている。
【0019】請求項4に記載した発明は、検知手段は、卵の卵殻の表面または食品衛生法に基づく賞味期限を表示するシートまたは卵を複数収容する容器に設けるようにして、卵殻から発生した揮発性生成物あるいは代謝産物を検知して、細菌の有無を検知できる細菌検出手段としている。
【0020】請求項5に記載した発明は、検知手段は、個々の卵または卵を複数個収容する容器に塗布した塗料または、賞味期限を表示するシートの印刷インク中に混練するようにして、非常に簡単な構成で細菌の有無を検知できる細菌検出手段としている。」

「【0026】このため、本実施例では、卵殻1の表面に検知手段10を貼りつけることによって、菌の有無、特にサルモネラ菌の有無を判別するようにしているものである。検知手段10は、図2に示しているように繊維6に金属塩7を担持させた構造となっている。金属塩7としては、銀あるいは鉛またはこれらの化合物が使用できるものである。
【0027】以下、本実施例の動作について説明する。サルモネラ菌は、親鳥の腸内細菌群のひとつとして親鳥の腸内に存在している。また、親鳥の糞便とともに排泄されるものである。この排泄時に卵殻1を汚染する。しかし、このような場合については、鶏卵を集荷選別場で、次亜塩素酸ソーダ水を使用して、ブラシで洗浄することによってサルモネラ菌を除去できるものである。
【0028】しかし卵が創られる過程で、親鳥の体内でサルモネラ菌が卵黄5を汚染する場合については、本実施例の検知手段10が有効に作用するものである。卵黄に存在するサルモネラ菌は上述したような栄養環境におかれるため、条件があえば、24時間で100000000個に増殖することが報告されている。健常人では一般的に100000個摂取すると、サルモネラ菌食中毒症状を呈すると言われているが、これよりも低い細菌数で発病したということもある。
【0029】サルモネラ菌はグラム染色陰性の桿菌で、その大きさは0.2?0.6μmである。卵の中にサルモネラ菌が存在すると自らの増殖のために、栄養源を消費する。細菌にとって最も利用しやすい栄養源は糖類である。糖類を摂取すると、サルモネラ菌は解糖系(TCAサイクル)に入って、代謝物としてエタノール等のアルコール類、あるいは酢酸等の有機酸と水素を生成し、硫化水素を放出するものである。また副反応経路では、アセトアルデヒド等のアルデヒド類を生成する。TCAサイクルの終末は水と二酸化炭素となる。糖類の次に利用するのはアミノ酸および、アミノ酸が数個連なったタンパク質である。これらが代謝されると、メルカプタン類やアンモニア、二酸化炭素、水素および硫化水素が生成される。
【0030】卵黄5あるいは卵白3に生息しているサルモネラ菌が排出する代謝物は、卵殻1が多孔質であるため、卵殻1の表面に滲み出る。この代謝物が検知手段10に接触すると、繊維6に担持されている金属塩7が変色反応を起こすものである。
【0031】すなわち、金属塩7として、銀あるいは銀化合物を使用している場合には、金属塩7が硫化水素ガスに接触すると褐色に変色するものである。
【0032】また金属塩7として、鉛または鉛化合物を使用した場合には、これらが硫化水素ガスの硫黄と反応して黒色の硫化鉛となるものである。
【0033】従って、使用者は検知手段10の変色の有無を見ることによって、卵がサルモネラ菌によって汚染されているかどうかを判断できるものである。なお本実施例では、繊維6に担持させているものを金属塩7としているが、バラアミノジメチルアニリンとしても使用できるものである。」

「【図1】



(2)引用例1に記載された発明の認定
上記記載(図面の記載も含む)を総合すれば、引用例1には、
「個々の卵または卵を複数収容する容器に備えた検知手段によって菌の有無、特にサルモネラ菌の有無を判別する細菌検知方法であって、
上記の検知手段は、細菌が放出し、卵殻1の表面に滲み出る揮発性生成物あるいは代謝物のうち、無機物またはアミン類またはアルコール類またはアルデヒド類またはメルカプタン類または有機酸を検知するようにして、卵の内部で増殖した細菌の有無を検知できる細菌検出手段であり、
上記の無機物は、アンモニアまたは水素または二酸化炭素または硫化水素である細菌検知方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3 本願発明と引用発明との対比
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比するに当たり、本願発明の「容器包装」について発明の詳細な説明の記載を参酌して解釈すると、上記の「第2 平成24年11月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 新規事項追加の違反についての検討」の「(2)当初明細書等の記載事項」において【0026】段落に記載されている事項として摘記したように、「卵については、卵の殻が内容物を包装していると見立て」るものと解するもの、すなわち、「容器包装」は「卵の殻」であると解することができるものであると認められる。
そうすると、本願発明(本願の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項3に係る発明)は、
「卵殻内の卵黄または卵白を汚染しているサルモネラ菌または大腸菌が生成する水素であって、卵殻を通過、または拡散する水素を、卵を破壊することなくセンサで検知することにより、卵内のサルモネラ菌または大腸菌の汚染を検査する細菌汚染の非破壊検知方法であって、
前記センサが半導体式のガスセンサ、熱電変換式のガスセンサ、3電極電気化学センサ、弾性表面波を利用したセンサおよび接触燃焼式ガスセンサのうちのいずれかである細菌汚染の非破壊検知方法。」
と特定されるものと認められ、上記に特定された発明を本願発明として対比する。

ア 引用発明の「検知手段」は、「細菌が放出し、卵殻1の表面に滲み出る揮発性生成物あるいは代謝物のうち、無機物またはアミン類またはアルコール類またはアルデヒド類またはメルカプタン類または有機酸を検知する」ものであり、「無機物は、アンモニアまたは水素または二酸化炭素または硫化水素である」ことから、引用発明において検知手段が検知する細菌の代謝物に「水素」が含まれている。よって、本願発明と引用発明とは、細菌の代謝物として「水素」を検知するものである点で共通している。

イ また、本願発明と引用発明において、検知対象の細菌として「サルモネラ菌」が含まれている点でも共通している。

ウ 引用発明の「細菌が放出し、卵殻1の表面に滲み出る揮発性生成物あるいは代謝物」を検知する「細菌検出手段」が、本願発明の「卵殻を通過、または拡散する」物質(水素)を、「卵を破壊することなくセンサで検知する」「細菌汚染の非破壊検知方法」に相当する。

(2)一致点
よって、本願発明と引用発明は、
「卵殻内の卵黄または卵白を汚染しているサルモネラ菌が生成する水素であって、卵殻を通過、または拡散する水素を、卵を破壊することなくセンサで検知することにより、卵内のサルモネラ菌の汚染を検査する細菌汚染の非破壊検知方法」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(3)相違点
水素を検知する検知手段が、本願発明においては「半導体式のガスセンサ、熱電変換式のガスセンサ、3電極電気化学センサ、弾性表面波を利用したセンサおよび接触燃焼式ガスセンサのうちのいずれかである」のに対して、引用発明においては、そのような特定がない点。

4 当審の判断
(1)上記相違点についての検討
水素の検知手段として種々の検知手段が周知であり、上記相違点に係る「半導体式のガスセンサ、熱電変換式のガスセンサ、3電極電気化学センサ、弾性表面波を利用したセンサおよび接触燃焼式ガスセンサ」についても、文献を挙げるまでもなく種々の技術分野で用いられている周知の検知手段である。
水素を検知するにあたり、どのような検知手段を用いるかは、必要とされる検知手段の感度や設置のしやすさ等を勘案して、当業者が適宜選択し得る事項にすぎないから、引用発明においても、当業者の選択により、上記の周知の検知手段を採用し、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)本願発明の奏する作用効果
そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用例1の記載から当業者が予測し得る程度のものである。

(3)まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-10 
結審通知日 2014-01-07 
審決日 2014-01-22 
出願番号 特願2006-232004(P2006-232004)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 571- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柏木 一浩  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 岡田 孝博
信田 昌男
発明の名称 容器包装内の細菌汚染の非破壊検知方法  

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