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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23K
管理番号 1286922
審判番号 不服2011-28276  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-28 
確定日 2014-04-14 
事件の表示 特願2006-518910号「コンパニオン動物における精神活動の加齢劣化を減少させる組成物及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月27日国際公開、WO2005/006877、平成19年 8月30日国内公表、特表2007-524402号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年7月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年7月3日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年8月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年12月28日に審判請求がなされ、当審において平成25年3月8日付けで拒絶理由を通知したところ、平成25年7月11日付けで意見書、及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明について
1.本願発明
本件出願の請求項1?10に係る発明は、平成25年7月11日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項5】
メチオニンとシステインの組み合わせ、少なくとも1つのオメガ-3脂肪酸、並びにビタミンE、ビタミンC、及びl-カルニチンを含む追加の抗酸化剤を含む、猫において精神能力の劣化を減少させるための猫用の食餌組成物において、メチオニンは乾物ベースで食餌組成物の1.0重量%?1.5重量%の量であり、システインは乾物ベースで食餌組成物の0.4重量%?0.7重量%の量であり、メチオニンとシステインの混合物は全量で、乾物ベースで食餌組成物の1.4重量%?2.2重量%であり、オメガ-3脂肪酸は少なくとも0.2ppmの量であり、ビタミンEは少なくとも300ppmの量であり、ビタミンCは少なくとも100ppmの量であり、l-カルニチンは少なくとも500ppmの量である、上記組成物。」

2.引用刊行物とその記載事項
(1)当審における平成25年3月8日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である国際公開第2002/45525号(以下「刊行物1」という。)には、コンパニオンペット用の食餌に関し、次の技術的事項が記載されている。
なお、刊行物1は英文であるため、そのパテントファミリーである特表2004-520022号公報を訳文として用いる。
(ア)「【請求項1】 高齢のペットの通常の栄養必要量を満たし、且つさらに高齢のコンパニオンペットの精神能力の低下を抑制するために、十分量の酸化防止剤またはその混合物を含む、コンパニオンペット用の食餌。
・・・
【請求項4】 前記ペットがネコである、請求項1に記載の食餌。
・・・
【請求項6】 前記食餌の少なくとも約100ppmでビタミンEが配合されている、請求項1に記載の食餌。
【請求項7】 ビタミンC、l-カルニチン、アルファ-リポ酸またはその混合物から選択される酸化防止剤が前記食餌に配合されている、請求項6に記載の食餌。」
(イ)「【請求項8】 ビタミンC、l-カルニチン、アルファ-リポ酸またはその混合物からなる群から選択される酸化防止剤が前記食餌に配合されている、請求項1に記載の食餌。
【請求項9】 前記食餌にビタミンCが少なくとも約50ppm配合されている、請求項8に記載の食餌。
・・・
【請求項11】 前記食餌にl-カルニチンが少なくとも約50ppm配合されている、請求項8に記載の食餌。」
(ウ)「【0012】
本目的を達成する食餌中の成分は、酸化防止剤またはその混合物である。・・・他の種々の物質、たとえば・・・S-アデノシルメチオニン、グルタチオン、タウリン、N-アセチルシステイン、ビタミンE、ビタミンC、アルファ-リポ酸、l-カルニチンなどが挙げられる。・・・
【0013】
全て食餌の重量%(乾燥物質ベース)として食餌中に投与する量は、それ自体活性物質として計算し、独立した物質として測定する。使用する最大量は、毒性を惹起するようであってはならない。少なくとも約100ppmまたは少なくとも約150ppmのビタミンEを使用することができる。約500ppm?約1,000ppmの好ましい範囲を使用することができる。必ずではないが、通常、約2000ppmまたは約1500ppmの最大量を超えない。ビタミンCに関しては少なくとも約50ppmを使用し、少なくとも約75ppmが望ましく、少なくとも約100ppmがより望ましい。非毒性の最大量を使用することができる。アルファ-リポ酸の量は、少なくとも約25ppmから変動することができ、少なくとも約50ppmが望ましく、約100ppmがより望ましい。最大量は約100ppm?約600ppmまたは、ペットに対して非毒性のままであるような量を変動することができる。好ましい範囲は約100ppm?約200ppmである。l-カルニチンに関しては約50ppm、望ましくは約200ppm、より望ましくは約300ppmが有用な最少量である。ネコに関しては、少々高い最少量のl-カルニチン、たとえば約100ppm、200ppm、及び500ppmを使用することができる。非毒性の最大量、たとえば約5,000ppm未満を使用することができる。イヌに関しては、少ない量、たとえば約5,000ppm未満の量を使用することができる。イヌに関しては、好ましい範囲は約200ppm?約400ppmである。ネコに関しては、好ましい範囲は約400ppm?約600ppmである。」
(エ)「【0016】・・・
実施例1
イヌは全てビーグル犬であり、7歳以上であった。対照食餌と試験食餌の栄養成分は、先の表1に開示した標準食餌とほぼ同じであった。しかしながら、対照食餌はビタミンE59ppmと、ビタミンC<32ppmとを含有していた。試験食餌は、ビタミンE900ppm、ビタミンC121ppm、l-カルニチン260ppmと、アルファ-リポ酸135ppmとを含有していた。」
(オ)「【0021】
実施例2
・・・ビタミンEの量が種々異なる3種類のドライフードのうちの1つをイヌにあてがい、ランドマーク弁別プロトコルで開始した。ビタミンE量と他の成分について、以下の表2に列記する。
【0022】
【表2】 表2
治療食番号 ビタミンE ビタミンC l-カルニチン リポ酸
1 799ppm 114ppm 294ppm 135ppm
2 172ppm <32ppm 42ppm 添加せず
3 57ppm <32ppm 42ppm 添加せず

・・・ランドマーク1+2対食餌のビタミンE量に関する間違いの総数の回帰分析から、ビタミンEが最も高い食餌のイヌは間違いが最も少なく(中間=65)、ビタミンEが最も低い食餌のイヌは間違いが最も多い(中間=170)という有意な(P<0.05)回帰直線の傾きが明らかになった。」

上記記載事項(ア)、特に「【請求項7】」に着目すると、刊行物1には、「ビタミンEを含み、さらにビタミンC、l-カルニチン、アルファ-リポ酸またはその混合物から選択される酸化防止剤とを含む、ネコにおいて精神能力の低下を抑制するためのネコ用の食餌。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)当審における平成25年3月8日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-166039号公報(以下「刊行物2」という。)には、ペットフードに関し、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「犬や猫は、生来、肉食性動物であることから、従来のペットフードは、陸産動物の屠場副産物や水産動物の加工廃物を主成分としたもの、あるいは、これに穀類や植物性繊維、魚粉骨粉を添加し混合、加熱しあるいは成形乾燥したものが一般的であり、組成は、犬の食餌では、粗たんぱく質10?32%、粗脂肪5?13%、粗繊維0.3?5%、粗灰分2?10%、猫の場合、粗たんぱく質22?33%、粗脂肪2?10%、粗繊維1?10%、粗灰分2?10%が一般的であった。」(第1頁右欄第1?11行)
(イ)「〔実 施 例〕
本発明によるペットフード(100g、375Kcal)の一例を下記に示す。
〔タンパク質〕
塩酸リジン:1100mg、・・・L-メチオニン:810mg・・・L-チロジン:138mg・・・
上記ペットフードを生後3才、体重9kg、体長60cmの小型犬に、朝夕2回80gずつ、連続10日間与え、糞便の発生状態を観察した。その結果、10日間で約5gの糞便しか出さず、体重も9kgのままであり、食欲も旺盛で、運動特性も活発であり、毛の艶も良好であった。」(第2頁右下欄第15行?第3頁左下欄第11行)

(3)当審における平成25年3月8日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特公平2-6498号公報(以下「刊行物3」という。)には、犬猫用食品補助物に関し、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「糖-アミノ酸反応物フレーバ物質は、前記食品補助物に対し、匂い(フレーバ)を付与するために添加される。このフレーバは犬猫の食欲を促進するようなものであるのが好ましいわけで、特に牛肉、豚肉、鳥肉等の肉系の匂いが好まれるようである。犬猫は匂いに特に敏感であり、このフレーバの選択は重要である。」(第3欄第32?38行)
(イ)「アミノ酸分としては、・・システイン、メチオニン等の一種以上を用いることができる。」(第3欄第44行?第4欄第2行)

(4)当審における平成25年3月8日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-217710号公報(以下「刊行物4」という。)には、ペットフードに関し、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、ペットの皮膚疾患の予防及び治療に有用なペットフードを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、高度不飽和脂肪酸及び/又はビオチンと整腸剤とを含有してなるペットフードに関する。本発明で用いられる高度不飽和脂肪酸としては、例えば、ω3系列及びω6系列の必須脂肪酸が挙げられるが、とくに、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸 (docosahexaenoic acid; 以下、DHAと略記する)等が好ましい。」
(イ)「【0009】本発明のペットフードを摂餌させるペットとしては、・・猫等・・が挙げられる。」

(5)当審における平成25年3月8日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-38063号公報(以下「刊行物5」という。)には、オメガ-6及びオメガ-3脂肪酸含有ペットフード製品及び炎症皮ふ反応を低減する方法に関し、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【0006】本発明のペットフード製品は、多様なタンパク源及び添加剤を含むことができ、・・・ネコ、・・・を処置し飼育するのに適している。本発明の重要な特徴は、オメガ-6及びオメガ-3の両方の脂肪酸が製品中に存在することである。これらの脂肪酸は、3:1ないし10:1のオメガ-6脂肪酸:オメガ-3脂肪酸の比で存在する。好ましい具体例においては、ペットフード製品は5:1ないし10:1、そして最も好ましくは5:1ないし7.5:1のオメガ-6脂肪酸:オメガ-3脂肪酸の比を有する。」
(イ)「【0008】本発明ではいずれのオメガ-3脂肪源も使用できる。しかし、魚油及び亜麻が好ましいオメガ-3脂肪源であり、魚油が最も好ましい。またいずれのn-3脂肪酸も使用しうるが、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸及びアルファ・リノレン酸が好ましい。最も好ましくは、3種の脂肪酸のすべてからなる組合せが用いられる。」

3.本願発明と引用発明との対比
(1)両発明の対応関係
(a)引用発明の「ネコ」及び「ネコ用の食餌」は、本願発明の「猫」及び「猫用の食餌組成物」に相当する。
(b)ビタミンEが抗酸化剤作用をもつことは、技術常識であり、また引用発明の「ビタミンE」及び酸化防止剤として配合される「ビタミンC」、「l-カルニチン」は、本願発明において「追加の抗酸化剤」として配合される「ビタミンE」、「ビタミンC」、「l-カルニチン」に相当する。


(2)両発明の一致点
「ビタミンEと、ビタミンC、l-カルニチンの少なくとも一方を含む抗酸化剤を含む、猫において精神能力の劣化を減少させるための猫用の食餌組成物。」

(3)両発明の相違点
(相違点1)
抗酸化剤について、本願発明は「ビタミンE、ビタミンC、及びl-カルニチンを含む」、すなわち、ビタミンE、ビタミンC、l-カルニチンを全て含むものであって、これらを「追加の抗酸化剤」として含むのに対して、引用発明は、ビタミンEを含むものの、ビタミンC、l-カルニチンについては両者を必ず含むかどうか明らかでない点、及びビタミンE、ビタミンC、l-カルニチンを「追加の抗酸化剤」として含むことが特定されていない点。
(相違点2)
本願発明は、「ビタミンEは少なくとも300ppmの量であり、ビタミンCは少なくとも100ppmの量であり、l-カルニチンは少なくとも500ppmの量」であるのに対して、引用発明は、そのような量か不明な点。
(相違点3)
本願発明は、「メチオニンとシステインの組み合わせ」を含む食餌組成物であって、「メチオニンは乾物ベースで食餌組成物の1.0重量%?1.5重量%の量であり、システインは乾物ベースで食餌組成物の0.4重量%?0.7重量%の量であり、メチオニンとシステインの混合物は全量で、乾物ベースで食餌組成物の1.4重量%?2.2重量%」であるのに対して、引用発明は、この点に関して明らかでない点。
(相違点4)
本願発明は、「少なくとも1つのオメガ-3脂肪酸」を含む食餌組成物であって、「オメガ-3脂肪酸は少なくとも0.2ppmの量」であるのに対して、引用発明では、この点に関して明らかでない点。

4.本願発明の容易推考性の検討
(1)相違点1について
食品、飼料の技術分野においては、抗酸化剤として様々な化合物が知られており、通常、必要に応じてそのような化合物を複数種併用することは、技術常識である。したがって、引用発明において、抗酸化剤として挙げられているものを複数種併用することは、当業者が適宜なし得ることであり、「ビタミンC、l-カルニチン、アルファ-リポ酸」の全てを含有させることも、当業者が容易になし得ることである。
また、刊行物1の記載事項(エ)には、「ビタミンE900ppm、ビタミンC121ppm、l-カルニチン260ppmと、アルファ-リポ酸135ppmとを含有」する実施例が、記載事項(オ)には、ビタミンE799ppm、ビタミンC114ppm、l-カルニチン294ppm、リポ酸135ppmを含むの試料(治療食番号1)が記載されており、つまり、ビタミンEと共にビタミンC、l-カルニチン、アルファ-リポ酸の全てを併用する例が具体的に示されている。これらの例は犬に対するものであるが、猫のための食餌においても同様に、全てを含有するものとすることは、当業者が容易になし得ることである。
さらに、配合される「ビタミンE、ビタミンC、l-カルニチン」について「追加の」酸化防止剤であることを特定することは、組成物に関する本願発明における実質的な限定であるとは認められないから、この「追加の」の記載の有無は、実質的な相違点とはいえない。

(2)相違点2について
(a)刊行物1には、引用発明のビタミンEの量に関して、刊行物1の記載事項(ウ)に「少なくとも約100ppmまたは少なくとも約150ppmのビタミンEを使用することができる。約500ppm?約1,000ppmの好ましい範囲を使用することができる。」と記載されており、本願発明で特定される範囲「少なくとも300ppm」と重複している。
また刊行物1の記載事項(エ)には、実施例として、「ビタミンE900ppm」を含有したものが記載され、記載事項(オ)には、「ビタミンEが最も高い食餌のイヌは間違いが最も少なく(中間=65)、ビタミンEが最も低い食餌のイヌは間違いが最も多い(中間=170)という有意な(P<0.05)回帰直線の傾きが明らかになった」という試験結果、及び、ビタミンEが最も高い食餌の試料として、ビタミンE799ppm、ビタミンC114ppm、l-カルニチン294ppm、リポ酸135ppmの試料が記載されており、これらの記載から、ビタミンEが多い方が良好な結果が得られたことが理解できる。
したがって、ビタミンEについて、間違いが少ないという良好な結果を期待してその量を多くすることや、適当な下限値、例えば300ppm以上を特定することは当業者が容易になし得たことである。
(b)刊行物1には、引用発明のビタミンCの量に関して、刊行物1の記載事項(ウ)に「ビタミンCに関しては少なくとも約50ppmを使用し、少なくとも約75ppmが望ましく、少なくとも約100ppmがより望ましい。非毒性の最大量を使用することができる。」と記載されており、本願発明で特定される「少なくとも100ppm」と重複している。
また、刊行物1の記載事項(エ)には、実施例として、「ビタミンC121ppm」を含有したものが記載され、記載事項(オ)には、「ビタミンC114ppm」の試料が記載されてている。
したがって、引用発明のビタミンCについて、適当な下限値、例えば100ppmを特定することは、当業者が容易になし得たことである。
(c)刊行物1には、引用発明のl-カルニチンの量に関して、刊行物1の記載事項(ウ)に「l-カルニチンに関しては約50ppm、望ましくは約200ppm、より望ましくは約300ppmが有用な最少量である。ネコに関しては、少々高い最少量のl-カルニチン、たとえば約100ppm、200ppm、及び500ppmを使用することができる。非毒性の最大量、たとえば約5,000ppm未満を使用することができる。・・・ネコに関しては、好ましい範囲は約400ppm?約600ppmである。」と記載されており、猫において、l-カルニチンを多く使用できることが記載されている。
したがって、l-カルニチンについて、適当な下限値、例えば500ppmを特定することは、当業者が容易になし得たことである。

(3)相違点3について
(a)刊行物1には、食餌組成物にメチオニン、システインが含有されていることは明記されていない。
(b)しかし、メチオニン、システインはタンパク質由来のアミノ酸であって、タンパク質を含む食品は通常の食餌原料として使用されるものであるから、引用発明のネコの食餌にも、もともとある程度のこれらアミノ酸が含有されていると考えられる。また、刊行物2、3に記載されている様に、ネコの食餌にメチオニン、システインを含有させることは公知であるから、引用発明の食餌組成物にこれらの成分を含有させること、その際に含有割合を検討することは、当業者が必要に応じて適宜になし得ることといえる。

(4)相違点4について
(a)刊行物1には、食餌組成物にドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、アルファ-リノレン酸のようなオメガ-3脂肪酸が含有されていることは明記されていない。
しかし、引用発明の「アルファ-リポ酸」はオメガ-3脂肪酸に該当するものであり、上記(1)で検討したとおり、引用発明において「アルファ-リポ酸」を必須成分として含有させることは、当業者が容易になし得ることである。
(b)また、 刊行物1の記載事項(ウ)には「アルファ-リポ酸の量は、少なくとも約25ppmから変動することができ、少なくとも約50ppmが望ましく、約100ppmがより望ましい。最大量は約100ppm?約600ppmまたは、ペットに対して非毒性のままであるような量を変動することができる。好ましい範囲は約100ppm?約200ppmである。」と記載されており、本願発明で特定する範囲と重複している。
さらに記載事項(エ)には、実施例として、「アルファ-リポ酸135ppm」を含有したものが記載され、記載事項(オ)には、「リポ酸135ppm」の試料が記載されている。
したがって、引用発明においてアルファ-リポ酸の含有割合の下限値、例えば0.2ppmを特定することも、当業者が容易になし得ることといえる。
(c)さらに、刊行物4,5に記載されている様に、ネコの食餌にドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、アルファ-リノレン酸等のオメガ-3脂肪酸を含有させることは公知であるから、引用発明の食餌組成物にこれらの成分を含有させること、その際に含有割合を検討することは、当業者が必要に応じて適宜になし得ることといえる。

(5)効果について
(a)本願発明は「精神能力の劣化を減少させる」ために、メチオニンとシステインやオメガ-3脂肪酸を必須成分とし、さらにビタミンEなどの各成分を特定の割合で含有させることを特定するものであるが、以下に述べるとおり、本願発明は、これらの点を特定することによって、格別の効果が奏されたとはいえないものである。
すなわち、本願明細書の実施例の表3には、「試験」(本願発明と認める)と「対照」(一般な食餌と認める)の食餌の成分の含有割合について記載されており、【0032】段落に、「対照」よりも「試験」の食餌を受けた群は活動の有意な増大という本願発明の所期の効果があった旨記載されている。
しかし、以下に述べるとおり、表3の記載を参酌しても、本願発明において顕著な効果が奏されたとはいえない。
「試験」と「対照」の比較は、メチオニン1.29+システイン1.61+ドコサヘキサエン酸0.123+エイコサペンタエン酸0.11+アルファ-リノレン酸0.279+ビタミンE1178IU+ビタミンC157ppm+カルニチン562ppm+他の成分の試験飼料と、メチオニン0.932+システイン0.475+ドコサヘキサエン酸0.026+エイコサペンタエン酸0.024+アルファ-リノレン酸0.119+ビタミンE114IU+ビタミンC10ppm未満+カルニチン15ppm+他の成分の対照飼料とを、2点で比較しただけのもの(例えば、各成分の分量を単独で変更して効果の対応関係を検討した様な比較ではない。)である。
一方、刊行物1には、記載事項(オ)のとおり、ビタミンEが多いほど、間違いが少ないこと、つまり、精神能力の低下が抑制できたことが示されている。
そうすると、「試験」が「対照」と比較して効果を有するとしても、それはビタミンEの量の違いによるものと推認できる。そして、上記(2)で検討したとおり、良好な結果を期待してビタミンEの量を多くすることは、当業者が容易になし得るのである。
したがって、表3に示される効果が本願発明においてメチオニン、システイン、オメガ-3脂肪酸、ビタミンE、ビタミンC、l-カルニチンそれぞれの含有割合を組み合わせたことに基づくものであるとはいえない。
(b)また、本願明細書の他の記載を見ても、本願発明がメチオニン、システインやオメガ-3脂肪酸を必須成分として特定し、また各成分の割合を特定したことによって、当業者が予測できないような効果を奏し得たともいえない。
(c)したがって、本願発明の作用効果は、引用発明、刊行物2?5記載の事項、及び当業者に周知の事項から当業者が予測できたものである。

(6)小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2?5記載の事項、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.平成25年7月11日付け手続補正書の補正事項に関する予備的見解
(a)請求人は、平成25年7月11日付け意見書において、同日付の手続補正書の補正事項に関して、
「(1)請求項1と請求項8(補正後の請求項5)の『メチオニン、システインまたはシステイン及びメチオニンの混合物からなる群から選択される少なくとも1つ含硫抗酸化剤』という記載を、『メチオニンとシステインの組み合わせ』と補正しました。『メチオニンとシステインの組み合わせ』という事項は、補正前の請求項1と請求項8の記載から自明です。
(2)請求項1と請求項8(補正後の請求項5)において、メチオニンの含量として『1.0重量%?1.5重量%』を、システインの含量として『0.4重量%?0.7重量%』を、システイン及びメチオニンの混合物の含量として『1.4重量%?2.2重量%』を規定しました。それらの事項は本願明細書の段落番号[0022]に記載されています。更に請求項1と請求項8(補正後の請求項5)において、オメガ-3脂肪酸の含量として『少なくとも0.2ppm』、ビタミンEの含量として『少なくとも300ppm』、ビタミンCの含量として『少なくとも100ppm』、l-カルニチンの含量として『少なくとも500ppm』を規定しました。それらの事項は本願明細書の段落番号[0026]、[0023]、[0024]および[0025]に記載されています。」と説明している。
(b)上記補正によって、文言上「メチオニン及びシステインの組合せ」の配合目的が「含硫抗酸化剤」であることはクレームに記載されないこととなった。しかし、「メチオニン及びシステインの組合せ」に関する願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲(国際出願翻訳文)をみると、「メチオニン及びシステインの組合せ」は含硫抗酸化剤として配合されることのみが記載されていると認められ、その他の目的をもって配合されることは記載されていない。
そうすると、仮に請求人が「メチオニン及びシステインの組合せ」の配合目的を含硫抗酸化剤として以外のものも含むことを主張する場合、この補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとなり、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてした補正とは認められないと考えられる。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-14 
結審通知日 2013-11-15 
審決日 2013-12-03 
出願番号 特願2006-518910(P2006-518910)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 中島 庸子
高橋 三成
発明の名称 コンパニオン動物における精神活動の加齢劣化を減少させる組成物及び方法  
代理人 小林 泰  
代理人 富田 博行  
代理人 辻本 典子  
代理人 小野 新次郎  
代理人 千葉 昭男  

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