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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D06N
管理番号 1287035
審判番号 不服2013-2758  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-13 
確定日 2014-04-24 
事件の表示 特願2009-105213「積層壁紙の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月19日出願公開、特開2010-180521〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成21年4月23日(優先権主張平成21年1月7日)の出願であって、平成24年11月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年2月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審において平成25年11月25日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月16日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年1月16日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「紙質基材表面に熱分解型の発泡剤を含む塩化ビニル樹脂層(ただし、EVA共重合体を含まない)を発泡剤の熱分解温度以下で形成し、その上に水性ウレタン樹脂組成物を塗布して発泡剤の熱分解温度以下で加熱乾燥した後、発泡剤の熱分解温度以上で加熱して熱分解型の発泡剤を発泡させることを特徴とする積層壁紙の製造方法。」

第3 引用文献
1.当審の拒絶の理由に引用した特開2007-92223号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
基材シート上に表面保護フィルムが積層される壁紙であって、基材シートが基材上に発泡剤及び無機充填剤を含む熱可塑性樹脂からなる発泡樹脂層と、絵柄層とが順に積層され、表面保護フィルムがオレフィン系熱可塑性樹脂からなるフィルム層上に表面保護層が積層され、該表面保護層側から該発泡樹脂層にかけて凹凸模様が施され、表面保護層が1乃至2官能シリコーン(メタ)アクリレートを含有する電離放射線硬化性樹脂を架橋硬化した層であることを特徴とする壁紙。」

「【請求項4】
前記発泡樹脂層を構成する熱可塑性樹脂が塩化ビニル樹脂である請求項1?3のいずれかに記載の壁紙。」

「【背景技術】
【0002】
壁紙等の建築内装材としては、火災に対する安全性の面から、難燃性が要求され、建築基準法で一定の難燃性が義務づけられている場合も多い。また、建築内装材には、室内の居住空間としての快適性を高める為に高い意匠性が求められ、特に立体的な意匠を持たせる為には、柔軟性のみでなく高度に発泡させ得る材料が有利となる。こうした要求に応える材料として、塩化ビニル樹脂層上に印刷などして絵柄層を設けたもの、あるいは、さらに前記塩化ビニル樹脂層を発泡させると共にエンボス加工を施すなどして凹凸模様を施したものが広く用いられている。しかし、これらの壁紙は耐汚染性及び表面強度が十分ではないといった問題がある。これは前記壁紙が、汚染性等に問題がある塩化ビニル樹脂から構成され、また、施工性や意匠性を高めることを目的に、発泡や凹凸模様を形成する加工を行うことにより壁紙の表面に微細な凹凸や空隙が生じるためである。
【0003】
前記問題を解決するために、壁紙の表面に表面保護層を設けて耐汚染性等の表面物性を向上させる方法、例えば、壁紙の表面に、ウレタンやアクリル系樹脂等を塗工して表面保護層とする方法がとられている。しかし、このようにして設けた表面保護層は、発泡や凹凸模様を形成する加工を行うと発泡や凹凸模様に追従できずに表面保護層の厚さにむらが生じ、部分的に表面保護層に亀裂が入り、発泡層が露出するといった製造安定上の問題が発生する。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況の下で、エンボス加工による凹凸追従性に優れ、かつ耐汚染性に優れた、電離放射線硬化性樹脂を表面保護層に有する壁紙及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂中に、特定のシリコーン(メタ)アクリレートを添加することにより、エンボス加工による凹凸追従性に優れ、かつ耐汚染性に優れるという、本来であれば相殺し合う傾向にある特性を高いレベルで維持する壁紙を得ることができた。」

「【0039】
実施例1
基材2として、米秤量60g/m^(2)の壁紙用裏打紙(興人(株)製、WK-FKKD)を用い、該基材上に下記の組成で発泡樹脂組成物を作製し、該組成物をコンマコート法によりコーティングし、さらにアクリル系樹脂をバインダーとし、カーボンブラックと弁柄を着色剤とするインキを用いて、塗工量3g/m^(2)のグラビア印刷にて施して絵柄層4を形成した。
上記とは別に、フィルム層6として予め接着剤が塗工されたエチレンービニルアルコール共重合体樹脂((株)クラレ製、エバールフィルムHF-ME(厚み:12μm)、エチレン含有量44mol%)を用い、該フィルム層6の上面(接着剤が塗工されていない側)にウレタンーアクリル共重合体樹脂を塗工量2.0g/m^(2)でグラビア印刷してプライマー層7を形成し、その上に下記組成の電離放射線硬化性樹脂を塗工量2.0g/m^(2)でグラビアオフセットコータ法により塗工した。塗工後、加圧電圧125kV、照射線量30kGy(3Mrad)の電子線を照射して、電離放射線硬化性樹脂を硬化させて表面保護層5を形成し、表面保護シートを得た。
上記の絵柄層4を施し、発泡樹脂組成物をコーティングして得られた基材を、加熱発泡炉を用いて230℃で発泡樹脂組成物を発泡させて発泡樹脂層3を形成させて基材シートを得た後、上記で得られた表面保護シートと同時にエンボス型が形成された冷却ロールと加圧ロールの間を通し、エンボス賦型をしながら熱圧着させることにより、表面に凹凸模様を有する壁紙を得た。
発泡樹脂組成物組成
塩ビレジン(東ソー製、商品名:R-720):100質量部
炭酸カルシウム(白石工業製、商品名:ホワイトンH):100質量部
発泡剤(大塚化学製、商品名:ユニフォームAZウルトラ):3質量部
防カビ剤(タイショウテクノス製、商品名:ビオサイト7663DS):0.2質量部
光安定剤(アデカアーガス化学製、商品名:O-1305):5質量部
希釈剤(シェル石油製、商品名:シェルゾールS):20質量部
可塑剤(フタル酸ジイソノニル):38質量部
電離放射線硬化性樹脂組成
6官能ウレタンアクリレート:80質量部
3官能ウレタンアクリレート:20質量部
シリカ(粒径約3μm):20質量部
2官能シリコーンメタクリレート:2質量部」

これらの記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「壁紙用裏打紙の基材上に、塩ビレジン、炭酸カルシウム、発泡剤、防カビ剤、光安定剤、希釈剤、可塑剤からなる発泡樹脂組成物をコーティングし、
上記とは別に、表面保護シートを得、
上記発泡樹脂組成物をコーティングして得られた基材を、230℃で発泡樹脂組成物を発泡させて発泡樹脂層を形成させて基材シートを得た後、上記で得られた表面保護シートと同時に冷却ロールと加圧ロールの間を通し、エンボス賦型をしながら熱圧着させる壁紙の製造方法。」

2.当審の拒絶の理由に引用した特開平8-281854号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項5】 難燃性裏打紙の上に、発泡剤とその他添加剤を含有する水性エマルジョンを塗布し乾燥して水性エマルジョン樹脂層を形成し、更にその水性エマルジョン樹脂層の上に水性樹脂を塗布し乾燥して水性樹脂トップ層を形成した後、発泡させたことを特徴とする内装用化粧材の製造方法。
・・・(中略)・・・
【請求項7】 前記水性樹脂トップ層は水性ウレタン樹脂を用いて形成されることを特徴とする請求項5記載の内装用化粧材の製造方法。
【請求項8】 化粧材の表面にエンボスを施すことを特徴とする請求項5記載の内装用化粧材の製造方法。」

「【0004】これらの問題を解決する、すなわち汚れ防止対策としてポリ塩化ビニル樹脂で出来た壁紙の表面にウレタン樹脂層を設けることが提案されている(実開昭64-14199号、実公平3-51360号、特公平4-28840号等)が、ウレタン樹脂の溶液を塗布する方法では、高い濃度の溶液が高粘度のために使用困難であること、溶媒としてトルエン-イソプロパノール等の有機溶剤を使用するため、被膜形成過程において有機溶剤の拡散による作業環境の悪化及び有機溶剤の回収のための装置が必要になるなど、経済的にも不利なことなどの問題がある。」

「【0040】また、本発明によると、水性エマルジョン樹脂層及び水性樹脂トップ層はいずれも水性樹脂を用いて形成されるため、作業するときの有機溶媒の発生がなく、環境的にもコスト的にも優れている。」

「【0043】実施例-1
裏打紙TT-120(特種製紙社製)にコンマコーターを用いて、下記に示す配合の水性エマルジョン樹脂を150g/m^(2)の塗布量で塗布し、温度90℃の乾燥炉を経由して乾燥した。
【0044】
水性樹脂エマルジョンの配合(単位は重量部)
・・・(中略)・・・
こうして形成した水性エマルジョン樹脂層の上に、水性インキを用いてグラビア印刷により絵柄を施した後、アクリル系水性エマルジョン(n-ブチルアクリレート95部及びメチルメタクリレート5部から得られた共重合体55部と、メチルメタクリレート70部及びメチルアクリレート30部から得られた共重合体45部との混合物)をグラビアコーターを用いて5g/m^(2)の塗布量で塗布して水性樹脂トップ層を形成し、先と同様に90℃の乾燥炉を経由して乾燥した。
【0045】さらに、150℃の乾燥炉で加熱発泡させて、同時に表面にはエンボスを施して、本発明の発泡壁紙を得た。
【0046】実施例-2
上記実施例-1のアクリル系水性エマルジョンの代わりに、水性ウレタン樹脂(分子量2000のポリオキシプロピレングリコール、分子量425のポリオキシプロピレントリオール及びトリレンジイソシアネートから得られる遊離のイソシアネート基を持ったウレタンプレポリマーを乳化剤水溶液中で水で鎖延長して得られたもの)を使用して水性樹脂トップ層を形成したことを除いては実施例-1と全く同様にして作製し、本発明の発泡壁紙を得た。」

第4 対比
引用発明の「壁紙用裏打紙の基材」、「基材上」は、それぞれ、本願発明の「紙質基材」、「基材表面」に相当する。
引用発明の「塩ビレジン、炭酸カルシウム、発泡剤、防カビ剤、光安定剤、希釈剤、可塑剤からなる発泡樹脂組成物をコーティング」して形成される層は、本願発明の「発泡剤を含む塩化ビニル樹脂層(ただし、EVA共重合体を含まない)」に相当する。
引用発明の「230℃で発泡樹脂組成物を発泡させ」ることは、本願発明の「発泡剤を発泡させる」ことに相当する。
引用発明の「壁紙」は、積層構造を備えているから、本願発明の「積層壁紙」に相当する。
よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「紙質基材表面に発泡剤を含む塩化ビニル樹脂層(ただし、EVA共重合体を含まない)を形成し、発泡剤を発泡させる積層壁紙の製造方法。」

[相違点1]
本願発明は、発泡剤が「熱分解型」と特定され、塩化ビニル樹脂層を「発泡剤の熱分解温度以下」で形成し、発泡剤を「発泡剤の熱分解温度以上で加熱して」発泡させることが特定されているのに対し、引用発明は、そのように明示的に特定されていない点。

[相違点2]
本願発明は、塩化ビニル樹脂層の上に水性ウレタン樹脂組成物を塗布して発泡剤の熱分解温度以下で加熱乾燥した後に、発泡剤を発泡させるのに対し、引用発明は、発泡させた後に表面保護シートを熱圧着させる点。

第5 判断
(1)相違点1について
引用文献1に「熱分解型」についての明記はないものの、230℃で発泡樹脂組成物を発泡させていることから、引用発明の発泡剤も「熱分解型」であると認められる。
仮にそのように認定できないとしても、熱分解型の発泡剤は周知である(例えば、当審の拒絶の理由に引用した特開2003-53903号公報の【0018】、同じく引用した特開昭54-125715号公報の2ページ右上欄13行参照。)から、230℃で発泡樹脂組成物を発泡させている引用発明において、発泡剤として熱分解型のものを選択することは、当業者が容易に想到し得た設計事項である。
熱分解型の発泡剤を含む層の形成を「発泡剤の熱分解温度以下」で行い、熱分解型の発泡剤の発泡を「発泡剤の熱分解温度以上で加熱して」行うことは、当然である。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。仮にそのようにいえないとしても、相違点1に係る本願発明の構成は、周知技術を考慮して、当業者が容易に想到し得たものである。

(2)相違点2について
引用文献1の【0002】?【0003】には、引用文献1の背景技術として、塩化ビニル樹脂層を発泡させて凹凸模様を施した壁紙が広く用いられていること、そのような壁紙は耐汚染性及び表面強度が十分ではないといった問題があること、この問題を解決するために、壁紙の表面に、ウレタン樹脂等を塗工して表面保護層とする方法がとられていること、が記載されている。
さらに、引用文献2の従来技術(【0004】)や、当審の拒絶の理由に引用した実願昭58-53620号(実開昭59-172797号)のマイクロフィルム(2ページ5行?3ページ8行)には、塩化ビニル樹脂層の表面にウレタン樹脂層を設けることにより耐汚染性や表面強度を改善することが記載されている。
以上によれば、塩化ビニル樹脂層の表面にウレタン樹脂の表面保護層を設けることが周知技術であったと認められる。
ところで、引用文献1には、背景技術の表面保護層は、凹凸模様に追従できないという製造安定上の問題が発生することが記載され(【0003】)、そのような問題を解決する手段が記載されている(【0006】、【0007】)。しかし、背景技術についての問題とその解決手段が示されているからといって、該背景技術を採用することができないというものではない。凹凸模様に追従できないという問題の重要性が低い場合等には、該問題の解決手段を採用するまでもなく、背景技術であるウレタン樹脂の表面保護層を採用できるというべきである。引用文献1には、塩化ビニル樹脂層を発泡させた壁紙の耐汚染性が十分ではないという問題は示されているのであるから(【0002】)、壁紙の表面を保護する構成として、周知のウレタン樹脂の表面保護層を採用する動機付けは認められる。
そうすると、引用発明の表面保護シートは、壁紙の表面を保護するためのものであるから、該表面保護シートに代えて、同じく壁紙の表面を保護するウレタン樹脂の表面保護層を採用することは、上記周知技術を考慮して、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、引用文献2には、ウレタン樹脂層を設けるに際し、有機溶剤を使用することの問題が指摘され(【0004】)、水性ウレタン樹脂を用いると、そのような問題を生じないことが示され(【請求項7】、【0040】)、水性ウレタン樹脂を表面保護層とする壁紙の製造方法として、裏打紙に、発泡剤を含有する水性エマルジョンを塗布し乾燥して水性エマルジョン樹脂層を形成し、その上に、水性ウレタン樹脂を塗布し乾燥して水性樹脂トップ層を形成した後、加熱発泡させる方法が記載されている(【請求項5】、【請求項7】、【0043】?【0046】)。
してみれば、引用発明の表面保護シートに代えて、ウレタン樹脂の表面保護層を設けるに際し、引用文献2に示された技術事項を考慮して水性ウレタン樹脂の表面保護層を設けること、すなわち、発泡樹脂組成物をコーティングして形成される層(発泡剤を含む塩化ビニル樹脂層)の上に、水性ウレタン樹脂を塗布し乾燥して水性樹脂トップ層を形成した後、加熱発泡させることは、当業者が容易に想到し得たことである。このとき、水性ウレタン樹脂の乾燥を、発泡剤が発泡しないように発泡剤の熱分解温度以下で行うことは当然である。
なお、引用発明はエンボス賦型をしているが、引用文献2にもエンボスを施すことが記載され(【請求項8】、【0043】)、本願発明もエンボス加工を施す例を含んでいる(本願請求項4)のであるから、上記エンボス賦型をしていることは、引用発明に引用文献2の技術事項を適用する妨げとなるものではない。

したがって、相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明、周知技術及び引用文献2の技術事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明が、引用発明、周知技術及び引用文献2の技術事項から予測できない格別顕著な効果を奏するとは認められず、相違点1及び2について総合判断しても、本願発明は、引用発明、周知技術及び引用文献2の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知技術及び引用文献2の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-21 
結審通知日 2014-02-25 
審決日 2014-03-10 
出願番号 特願2009-105213(P2009-105213)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (D06N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊地 則義  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 紀本 孝
渡邊 真
発明の名称 積層壁紙の製造方法  
代理人 岸田 正行  
代理人 高野 弘晋  
代理人 水野 勝文  

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