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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G05D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05D
管理番号 1287099
審判番号 不服2012-24354  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-07 
確定日 2014-04-21 
事件の表示 特願2008-551255「遠隔区画における圧力規制」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 1日国際公開、WO2007/123576、平成21年 6月25日国内公表、特表2009-524147〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2006年11月8日(パリ条約による優先権主張2006年1月17日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成23年9月21日付けで拒絶の理由が通知され、同24年3月23日に意見書とともに特許請求の範囲についての手続補正書が提出されたが、同24年8月3日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成24年12月7日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされるとともに特許請求の範囲についてさらに手続補正書が提出された。その後、当審から平成25年1月25日付け審尋に対して同25年7月26日に、回答書が提出されたものである。
なお、上記優先権主張に関連し、本件明細書に「本願は、2004年3月9日に出願され、・・・と題する同時係属中の米国特許出願第10/796,723号・・・の一部係属出願であり、その優先権を主張する。」と記載されているが(段落【0001】)、上記2004年3月9日は、本件国際出願日の1年超前であり、パリ条約による優先権主張の基礎となるものではない。

第2 平成24年12月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年12月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
平成24年12月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成24年3月23日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項10に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<補正前の請求項10>
「 【請求項10】
各測定チェンバiに対して流入および流出し、各導管iを介して各区画iに達する流体の流量を制御することによって、i個の測定チェンバに導管iを介してそれぞれ接続可能なi個の区画の各々の内部における圧力を遠隔的に制御する方法であって、i=1,...,Nであり、該方法は、
複数の測定チェンバiを提供するステップであって、各測定チェンバは、前記測定チェンバに接続された入口比例弁及び出口比例弁の作動により制御可能に閉鎖することができ、各出口比例弁は真空排気装置に接続され、前記複数の測定チェンバiは前記比例弁のそれぞれの出力において流量制約マニフォルドにより互いに接続されている、ステップと、
前記i個の測定チェンバの各々において、前記流体の圧力を測定するステップと、
前記区画内における推定圧力を、前記測定チェンバiにおける測定圧力の関数として、更に前記導管iおよび前記区画iの既知の特性の関数として、計算するステップと、
区画i毎に、前記測定チェンバiに流入する流体の入力流速、および前記測定チェンバiから流出する流体の出口流速を、前記区画iに対する圧力設定点と前記区画i内部における推定圧力との関数として制御するように、入口比例弁および出口比例弁を動作させることによって、前記各区画i内部の圧力を前記圧力設定点に応じて制御するステップと、を備えている、方法。」

(2)<補正後の請求項10>
「 【請求項10】
各測定チェンバiに対して流入および流出し、各導管iを介して各区画iに達する流体の流量を制御することによって、i個の測定チェンバに導管iを介してそれぞれ接続可能なi個の区画の各々の内部における圧力を遠隔的に制御する方法であって、i=1,...,Nであり、該方法は、
複数の測定チェンバiを提供するステップであって、各測定チェンバは、前記測定チェンバに接続された入口比例弁及び出口比例弁の作動により制御可能に閉鎖することができ、各出口比例弁は真空排気装置に接続され、前記複数の測定チェンバiは前記比例弁のそれぞれの出力において流量制約マニフォルドにより互いに接続されている、ステップと、
前記i個の測定チェンバの各々において、前記流体の圧力を測定するステップと、
前記区画内における推定圧力を、前記測定チェンバiにおける測定圧力の関数として、更に前記導管iおよび前記区画iの既知の特性の関数として、計算するステップと、
区画i毎に、前記測定チェンバiに流入する流体の入力流速、および前記測定チェンバiから流出する流体の出口流速を、前記区画iに対する圧力設定点と前記区画i内部における推定圧力との関数として制御するように、入口比例弁および出口比例弁を動作させることによって、前記各区画i内部の圧力を前記圧力設定点に応じて制御するステップと、
を備え、
前記複数の測定チェンバiについて、前記制御部は、更に、各測定チェンバの前記入力流速および前記出力力流速のPI(比例-積分)制御を実行するように構成されている、方法。」

2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項10についてする補正は、補正前の請求項10の「制御するステップ」について、「複数の測定チェンバiについて、前記制御部は、更に、各測定チェンバの前記入力流速および前記出力力流速のPI(比例-積分)制御を実行するように構成され」と限定的に減縮するものである。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項10に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち独立特許要件について検討する。

(1)補正発明
本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項10の記載は上記1(2)で示したように、「・・・(前略)前記複数の測定チェンバiについて、前記制御部は、更に、各測定チェンバの前記入力流速および前記出力力流速のPI(比例-積分)制御を実行するように構成されている、方法。」というものであるところ(下線は、理解の便のため当審にて付与した)、このうち、(ア)「前記制御部」については、補正後の請求項10の「前記制御部」よりも文頭側に、「制御するステップ」と記載されている一方で「制御部」という用語はなく、また(類似した発明を異なる発明カテゴリーで表現した)補正後の請求項1の表現と合理的に見比べて、「前記制御するステップ」の誤記と認め、さらに(イ)「出力力流速」については、「出力流速」の明らかな誤記と認めて、補正発明を以下のように認定することとする。

「各測定チェンバiに対して流入および流出し、各導管iを介して各区画iに達する流体の流量を制御することによって、i個の測定チェンバに導管iを介してそれぞれ接続可能なi個の区画の各々の内部における圧力を遠隔的に制御する方法であって、i=1,...,Nであり、該方法は、
複数の測定チェンバiを提供するステップであって、各測定チェンバは、前記測定チェンバに接続された入口比例弁及び出口比例弁の作動により制御可能に閉鎖することができ、各出口比例弁は真空排気装置に接続され、前記複数の測定チェンバiは前記比例弁のそれぞれの出力において流量制約マニフォルドにより互いに接続されている、ステップと、
前記i個の測定チェンバの各々において、前記流体の圧力を測定するステップと、
前記区画内における推定圧力を、前記測定チェンバiにおける測定圧力の関数として、更に前記導管iおよび前記区画iの既知の特性の関数として、計算するステップと、
区画i毎に、前記測定チェンバiに流入する流体の入力流速、および前記測定チェンバiから流出する流体の出口流速を、前記区画iに対する圧力設定点と前記区画i内部における推定圧力との関数として制御するように、入口比例弁および出口比例弁を動作させることによって、前記各区画i内部の圧力を前記圧力設定点に応じて制御するステップと、
を備え、
前記複数の測定チェンバiについて、前記制御するステップは、更に、各測定チェンバの前記入力流速および前記出力流速のPI(比例-積分)制御を実行するように構成されている、方法。」

(2)刊行物
これに対して、原審の平成23年9月21日付け拒絶の理由にも引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である以下の文献には、以下の発明が記載されていると認められる。

刊行物1:米国特許出願公開第2005/0199287号明細書(原審 の引用文献1)

ア 刊行物1記載の事項
刊行物1には、「SYSTEM AND METHOD FOR CONTROLLING PRESSURE IN REMOTE ZONES」(遠隔区域における圧力を制御するシステム及び方法)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、括弧内の日本語は、刊行物1に対応する日本国特許公表公報(特表2007-528556号公報)における翻訳文に準じた仮訳であり、その下線部は理解の便のため、当審で付したものである。

(ア)特許請求の範囲の請求項35
「35 A method of remotely controlling pressure within each of i zones by controlling corresponding pressure within each of i flow lines respectively connectable to the i zones, wherein i=1, 2, . . . , N, comprising:

controlling the flow of fluid through each line with at least one control valve;

measuring the pressure in each line;

calculating an estimated pressure within the zone i as a function of predetermined characteristics of the system and the measured pressure in the corresponding flow line i; and

operating the valve so as to control the flow of fluid in the corresponding flow line i as a function of a set point and the estimated pressure within the zone i.」

(【請求項35】
iを1からNまでの整数として、i個の区域にそれぞれが接続可能なi個のフロー・ラインのそれぞれにおける対応する圧力を制御することによって、i個の区域のそれぞれの中の圧力を制御する方法であって、
少なくとも1つの制御弁を有するそれぞれのラインを通過する流体フローを制御するステップと、
それぞれのラインにおける圧力を測定するステップと、
前記区域iの中の評価された圧力を、このシステムの所定の特性と対応するフロー・ラインiにおける測定された圧力との関数として計算するステップと、
前記弁を動作させて、前記対応するフロー・ラインiにおける流体フローを、設定点と前記区域iの中の評価された圧力との関数として制御するステップと、
を含むことを特徴とする方法。)

(イ)明細書段落[0022]?[0023]
「[0022] FIG.1 shows an exemplary embodiment of a system 100, constructed in accordance with the present disclosure, for controlling a pneumatic manifold 110 connecting a vacuum source 30 and a pressure source 40 to remote zones Z_(i) of a machine, such as a chemical-mechanical planarization (CMP) machine 10, where i=1 to N. The zones Z_(i )may possess rigid or flexible walls, and the zones Z_(i) may be coupled or non-coupled.
[0023] In addition to the manifold 110, the system 100 of FIG.1 includes a zone pressure estimator 120, and a control device 130.・・・(後略)」

([0022]図1は、本発明に従って構築されたシステム100の実施例を示しており、このシステム100は、化学的機械的平坦化(CMP)機械10などの機械の遠隔的な区域Z_(i)に真空源30と圧力源40とを接続する気圧マニホルド110を制御する。ここで、iは1からNまでの整数である。これら複数の区域Z_(i)は、硬質の又は可撓性の壁を有し、結合型又は非結合型である。
[0023]マニホルド110に加えて、図1のシステム100は、区域圧力評価計120と制御装置130とを含む。・・・(後略))

(ウ)明細書段落[0024]
「[0024] As shown in FIG. 2, the system manifold 110 includes flow control lines “b_(i)”where i=1 to N and corresponds to the number of remote zones Z_(i). The flow control lines b_(i) are connected between an inlet manifold “L” and a manifold “man” having a venturi, and connect the vacuum source 30 and the pressure source 40 to the remote zones Z_(i). Each flow control line b_(i) includes an inlet valve 112 for connecting the pressure source 40 to the remote zones Z_(i), a pressure transducer 114 for measuring the pressure in the flow control lines b_(i), and an outlet valve 116 for connecting the remote zones Z_(i) to the vacuum source 30.」

([0024]図2に示されているように、システム・マニホルド110は、フロー制御ライン「b_(i)」を含む。ここでiは1からNまでの整数であり、遠隔区域Z_(i)の数と対応している。フロー制御ラインb_(i)は、入口マニホルド「L」とベンチュリを有するマニホルド「man」との間に接続されていて、真空源30と圧力源40とを遠隔区域Z_(i)に接続する。それぞれのフロー制御ラインb_(i)は、圧力源40を遠隔区域Z_(i)に接続する入口弁112と、フロー制御ラインb_(i)における圧力を測定する圧力トランスデューサ114と、遠隔区域Z_(i)を真空源30に接続する出口弁116とを含む。)

(エ)明細書段落[0026]
「[0026] The system control device 130 of FIG. 1 is programmed to receive the zone pressure estimates from the zone pressure estimator 120, and receive pressure set points for each of the remote zones Z_(i), and use the zone pressure estimates and the pressure set points to control the valves 112, 116 of the system manifold 110, as shown in FIG. 2. The pressure set points can be entered by an operator using a second input device (or the first input device) and/or can be entered by a control device 20 of the processing machine 10, as shown in FIG. 1.」

([0026]図1のシステム制御装置130は、図2に示されているように、区域圧力評価計120から区域圧力評価を受け取り、遠隔区域Z_(i)のそれぞれに対する圧力設定点を受け取り、これらの区域圧力評価と圧力設定点とを用いてシステム・マニホルド110の弁112及び116を制御する。圧力設定点は、第2の入力装置(又は、上述した第1の入力装置)を用いてオペレータによって入力されるが、図1に示されているように、処理機械10の制御装置20によって入力されることもある。)

(オ)明細書段落[0036]
「[0036] The zone pressure estimator 120 is used to estimate the pressure in each of the zones Z_(i) by using the pressure measurements of the transducers 114 in the system manifold 110, the physical parameters of the system 100, and a model-based algorithm to accurately estimate the pressure of the zones Z_(i). As a direct consequence, a control system 100 that uses the zone pressure estimator 120 in a closed loop for controlling the pressure in the zones Z_(i) overcomes localized pressure transients in the system manifold 110 that may not occur in the zones Z_(i) themselves and, therefore, has significantly improved closed-loop control performance.」

([0036]区域圧力評価計120は、システム・マニホルド110におけるトランスデューサ114の圧力測定値とシステム100の物理パラメータとモデル・ベースのアルゴリズムとを用いて区域Z_(i)の圧力を正確に評価することによって、区域Z_(i)のそれぞれにおける圧力を評価するのに用いられる。直接的な結果として、閉ループにおいて区域圧力評価計120を用い区域Z_(i)における圧力を制御する制御システム100は、区域Z_(i)において生じないシステム・マニホルド110における局所化された圧力過渡現象を克服し、従って、閉ループの制御性能を著しく向上させる。)

(カ)明細書段落[0044]?[0046]
「[0044] Zone Dynamics and Volumetric Coupling
[0045] The flow to each zone Z_(i) can be described by the following dynamic equation (derived from the Navier-Stokes equations):


[0046] where Q_(z,i) and P_(z,i) denote the inlet flow to and the pressure in the i^(th) zone, respectively, and C_(tube,i) and τ_(tube,i) are constants associated with the tubing from the measurement flow line b to the zone Z_(i).」

([0044]区域力学及び体積結合:
[0045]それぞれの区域へのフローは、次の力学方程式によって記述することができる(ナビエ・ストークス(Navier-Stokes)方程式から導かれる)。
(式3)
[0046]ここで、Q_(z,i)及びP_(z,i)はi番目の区域への入口フローとi番目の区域における圧力とをそれぞれ表し、C_(tube,i)及びτ_(tube,i)は測定フロー・ラインbから区域Z_(i)への管と関連する定数である。)

(キ)明細書段落[0050]?[0051]
「[0050] Zone Pressure Estimator
[0051] The control objective is to regulate the pressures within the remote zones Z_(i). However, the pressure transducer 114 is housed in the flow line b of the system manifold 110 (as opposed to the zone). As seen in FIG.1, the system manifold 110 is separated from the remote zones Z_(i )by long tubes F_(i).」

([0050]区域圧力評価計:
[0051]制御の目的は、遠隔区域Z_(i)の中の圧力を調整することである。しかし、圧力トランスデューサ114は、システム・マニホルド110のフロー・ラインbの中に囲われている(区域Z_(i)とは逆である)。図1に示されるように、システム・マニホルド110は、長い管F_(i)によって遠隔区域Z_(i)から隔てられている。)

イ 刊行物1に記載の発明
上記摘記事項(ア)に「区域iの中の評価された圧力を、このシステムの所定の特性と対応するフロー・ラインiにおける測定された圧力との関数として計算するステップ」とあるところ、摘記事項(オ)の「区域圧力評価計120は、・・・トランスデューサ114の圧力測定値と・・・とモデル・ベースのアルゴリズムとを用いて区域Z_(i)の圧力を正確に評価する」なる記載、及び摘記事項(カ)において、式(3)が「測定フロー・ラインbから区域Z_(i)への管と関連する定数」たる「C_(tube,i)及びτ_(tube,i)」を用いていること等を技術常識を踏まえ合理的に解釈すれば、該ステップは、補正発明の表現に倣って、
「区域内における推定圧力を、フロー制御ラインb_(i)における測定圧力の関数として、更に管F_(i)および前記区域Z_(i)の既知の特性の関数として、計算するステップ」、ということができる。

また、上記摘記事項(ア)に「前記弁を動作させて、前記対応するフロー・ラインiにおける流体フローを、設定点と前記区域iの中の評価された圧力との関数として制御するステップ」とあるところ、摘記事項(エ)の「システム制御装置130は、・・・区域圧力評価計120から区域圧力評価を受け取り、遠隔区域Z_(i)のそれぞれに対する圧力設定点を受け取り、これらの区域圧力評価と圧力設定点とを用いて・・・弁112及び116を制御する。」なる記載を、一般に弁を制御すると流入・流出する流体の流速が制御されることは技術常識であることも踏まえ合理的に解釈すれば、該ステップは、補正発明の表現に倣って、
「区域Z_(i)に、前記フロー制御ラインb_(i)に流入する流体の入力流速、および前記フロー制御ラインb_(i)から流出する流体の出口流速を、前記区域Z_(i)に対する圧力設定点と前記区域Z_(i)内部における推定圧力との関数として制御するように、入口弁112および出口弁116を動作させることによって、前記各区域Z_(i)内部の圧力を前記圧力設定点に応じて制御するステップ」、ということができる。

そこで、上記摘記事項(ア)ないし(キ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて補正発明に照らして整理すると刊行物1には以下の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。
「各フロー制御ラインb_(i)に対して流入および流出し、各管F_(i)を介して各区域Ziに達する流体の流量を制御することによって、i個のフロー制御ラインb_(i)に管F_(i)を介してそれぞれ接続可能なi個の区域の各々の内部における圧力を遠隔的に制御する方法であって、i=1,...,Nであり、該方法は、
複数のフロー制御ラインb_(i)を提供するステップであって、各フロー制御ラインb_(i)は、前記フロー制御ラインb_(i)に接続された入口弁112及び出口弁116の作動により制御可能に閉鎖することができ、各出口弁116は真空排気装置に接続され、前記複数のフロー制御ラインb_(i)は前記出口弁116のそれぞれの出力においてベンチュリを有するマニホルド『man』により互いに接続されている、ステップと、
前記i個のフロー制御ラインb_(i)の各々において、前記流体の圧力を測定するステップと、
前記区域内における推定圧力を、前記フロー制御ラインb_(i)における測定圧力の関数として、更に前記管F_(i)および前記区域Z_(i)の既知の特性の関数として、計算するステップと、
区域Z_(i)毎に、前記フロー制御ラインb_(i)に流入する流体の入力流速、および前記フロー制御ラインb_(i)から流出する流体の出口流速を、前記区域Z_(i)に対する圧力設定点と前記区域Z_(i)内部における推定圧力との関数として制御するように、入口弁112および出口弁116を動作させることによって、前記各区域Z_(i)内部の圧力を前記圧力設定点に応じて制御するステップと、を備えている、方法。」

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1発明の「フロー制御ラインb_(i)」は、補正発明の「測定チェンバi」に相当することは、その機能に照らして明らかであり、以下同様にそれぞれの機能及び技術常識を踏まえれば、「管F_(i)」は「導管i」に、「区域Z_(i)」は「区画i」に、「ベンチュリを有するマニホルド『man』」は「流量制約マニフォルド」に、相当することも明らかである。
また、刊行物1発明の「入口弁112」と補正発明の「入口比例弁」とは、入口弁、である限りにおいて共通し、刊行物1発明の「出口弁116」と補正発明の「出口比例弁」とは、出口弁、である限りにおいて共通し、刊行物1発明の「出口弁116のそれぞれの出力において」と補正発明の「比例弁のそれぞれの出力において」とは、本件の図2と刊行物1の図2とを見比べて合理的に考えれば、出口弁のそれぞれの出力において、という限りにおいて共通する。

したがって、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「各測定チェンバiに対して流入および流出し、各導管iを介して各区画iに達する流体の流量を制御することによって、i個の測定チェンバに導管iを介してそれぞれ接続可能なi個の区画の各々の内部における圧力を遠隔的に制御する方法であって、i=1,...,Nであり、該方法は、
複数の測定チェンバiを提供するステップであって、各測定チェンバは、前記測定チェンバに接続された入口弁及び出口弁の作動により制御可能に閉鎖することができ、各出口弁は真空排気装置に接続され、前記複数の測定チェンバiは前記出口弁のそれぞれの出力において流量制約マニフォルドにより互いに接続されている、ステップと、
前記i個の測定チェンバの各々において、前記流体の圧力を測定するステップと、
前記区画内における推定圧力を、前記測定チェンバiにおける測定圧力の関数として、更に前記導管iおよび前記区画iの既知の特性の関数として、計算するステップと、
区画i毎に、前記測定チェンバiに流入する流体の入力流速、および前記測定チェンバiから流出する流体の出口流速を、前記区画iに対する圧力設定点と前記区画i内部における推定圧力との関数として制御するように、入口弁および出口弁を動作させることによって、前記各区画i内部の圧力を前記圧力設定点に応じて制御するステップと、を備えている、方法。」

そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の2点で相違している。
<相違点1>
入口弁及び出口弁に関し、補正発明においては、それぞれ入口比例弁及び出口比例弁を用いているのに対し、刊行物1発明においては、「比例」弁であるか否か明らかでない点。
<相違点2>
補正発明においては、流体の入力流速および出口流速を制御するステップは、各測定チェンバの入力流速および出力流速のPI(比例-積分)制御を実行するように構成されているのに対し、刊行物1発明においては、制御するステップがそのようなものか不明である点。

(4)相違点の検討
上記各相違点について検討する。
ア <相違点1>について
刊行物1には、入口弁112及び出口弁116は、「比例」弁である旨の明記はないが、圧力を(連続的に)制御するための弁であるから(上記摘記事項(エ)、比例弁である蓋然性が高く、相違点1は実質的な差異ではないといえる。仮に、「比例」弁でないとしても、圧力を制御するための弁を比例弁とすることは、例えば、特開2002-132354号公報(段落【0012】等参照)に示されるように従来周知の事項であり、かかる従来周知の事項を刊行物1発明に適用することは、何ら困難なことではない。

イ <相違点2>について
圧力制御の技術分野において、制御手法としてPI(比例-積分)制御を用いることは、例えば、特開平6-250741公報(段落【0007】の従来の技術に関する記載等参照)や、当審の審尋で示した特開2006-9749号公報(段落【0048】等参照)に示されるように、従来周知の事項にすぎないところ、これを同じ圧力制御の技術分野である刊行物1発明に適用することは、格別困難なことではない。
また、本件明細書には、「【0016】・・・本制御システムおよび方法は、比例および積分(PI)型制御システムならびに方法として説明するが、他の多くの形式の制御システムおよび方法も用いることができ、限定ではなく、比例、積分、比例および微分(PD)、ならびに比例および積分および部分(PID)型のフィードバック制御システムおよび方法を含む。」と記載されている一方で、PI制御が他の比例制御やPID制御よりも適している旨の記載はなく、補正発明が様々な従来周知の制御システムのうち、「PI(比例-積分)制御」を用いることの技術的意義は乏しいもの、といわざるを得ない。
よって、刊行物1発明に上記従来周知の技術事項を適用して、制御するステップを、入力流速および出力流速のPI(比例-積分)制御を実行するように構成して相違点2に係る補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものというのが相当である。
請求人は、上記平成25年7月26日提出の回答書において、補正発明は推定圧力に特に基づいてPI制御を行う点で、刊行物1発明及び従来周知のPI制御と異なる旨主張する。しかしながら、「推定圧力との関数として制御する」刊行物1発明に、上記従来周知のPI(比例-積分)制御を適用すれば、推定圧力に基づいてPI制御を行うこともごく自然に導かれるのであり、請求人の主張には理由がない。

エ 補正発明の効果について
上記相違点1及び相違点2を総合的に勘案しても、刊行物1発明及び上記従来周知の事項から予測できない格別な効果が生じるとは考えられない。

オ 小括
したがって、補正発明は、刊行物1発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、平成24年3月23日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項10に係る発明(以下「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項10に記載されたとおりの「圧力を遠隔的に制御する方法」である。

2 刊行物
これに対して、原審の拒絶の理由に引用された刊行物は、上記第2の2(2)に示した刊行物1であり、その記載事項は上記第2の2(2)のとおりである。

3 対比・検討
本件出願の発明は、上記第2の2で検討した補正発明から、実質的に、「制御するステップ」について、「複数の測定チェンバiについて、前記制御するステップは、更に、各測定チェンバの前記入力流速および前記出力流速のPI(比例-積分)制御を実行するように構成され」という限定を削除したものである。
そうすると、本件出願の発明と刊行物1発明とは、上記第2の2(3)で示した一致点を有し、上記第2の2(3)で示した相違点1において相違する。
そして、相違点1については、上記第2の2(4)で検討したとおりである。したがって、本件出願の発明は、刊行物1発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということになる。

4 むすび
以上により、本件出願の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願のその余の請求項1ないし9に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-26 
結審通知日 2013-11-27 
審決日 2013-12-10 
出願番号 特願2008-551255(P2008-551255)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G05D)
P 1 8・ 121- Z (G05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 一浩  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 長屋 陽二郎
栗田 雅弘
発明の名称 遠隔区画における圧力規制  
代理人 小野 新次郎  
代理人 星野 修  
代理人 富田 博行  
代理人 上田 忠  
代理人 小林 泰  

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