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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B21B
管理番号 1287268
審判番号 不服2013-21239  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-31 
確定日 2014-05-27 
事件の表示 特願2012- 95434「穿孔プラグの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月12日出願公開、特開2013-248619、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年4月19日の出願であって、平成25年4月10日付けで拒絶理由が通知され、同年6月13日付けで意見書が提出されたが、同年8月8日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月31日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成24年4月19日付けの願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】
鉄と、鉄酸化物とを含有する溶射皮膜が表面に形成された穿孔プラグを準備する工程と、
前記穿孔プラグを、400?550℃で5?60分保持する熱処理工程とを備える、穿孔プラグの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の穿孔プラグの製造方法であってさらに、
前記穿孔プラグを準備する工程は、
プラグ本体を準備する工程と、
前記プラグ本体の表面に、鉄線材でアーク溶射を実施して前記溶射皮膜を形成する工程とを含む、穿孔プラグの製造方法。」

第3 拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。

この出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、公知となった下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:国際公開2009/057471号
引用文献2:特開平3-277764号公報
参考文献1:特開昭63-192504号公報
参考文献2:特開昭61-286077号公報

引用文献2には、熱処理の作用効果として金属母材とその表面に形成される溶射皮膜の密着力を向上させることが記載されており(第1頁左欄第17?19行,第2頁右上欄第5行?第2頁右下欄第16行参照)、このことは、本願に記載の「溶射皮膜のプラグ本体に対する密着性が向上し、剥離しにくくなる。」、「溶射皮膜が剥離しにくくなる」という作用効果(本願明細書段落【0013】【0014】参照)と共通しているものと認められる。
そして、接合性を向上させることを目的として溶射後に熱処理を行うことは周知の手法であり(引用文献2,参考文献1,2等参照)、熱処理の温度及び時間を具体的にどの程度とするかは、上記密着性を勘案しながら当業者が実験的に最適化し得たものである。

第4 引用例の記載事項(当審注:下線は当審が付与した。)
1 引用例1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の出願日前に外国において公知となった国際公開2009/057471号(以下、「引用例1」という。)には、「穿孔圧延用プラグ、その穿孔圧延用プラグの再生方法、およびその穿孔圧延用プラグの再生設備列」について、以下の記載がある。
「[0001] 本発明は、継目無鋼管の製造で用いられる穿孔圧延機で循環使用される穿孔圧延用プラグ(以下、単に「プラグ」ともいう)、そのプラグの再生方法、およびそのプラグの再生設備列に関する。」
「[0022] 本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、循環使用に際し、プラグ寿命に優れ、低コストで、かつ短時間に再生できる穿孔圧延用プラグ、およびその穿孔圧延用プラグの再生方法、並びに一連のプラグ循環使用のための設備列(オンライン)の中でプラグを再生できる穿孔圧延用プラグの再生設備列を提供することを目的としている。」
「[0035] 本発明の穿孔圧延用プラグは、プラグ母材の表面に被膜を形成するにあたり、アーク溶射装置を用い、Feを主成分とする鉄線材でプラグ母材の表面をアーク溶射することにより、プラグ母材の表面に、Fe_(3)O_(4)やFeO等の酸化物、およびFe(メタル)で構成される被膜を形成したことを特徴としている。
[0036] このような構成を採用することにより、従来の熱処理によるスケール被膜の形成に比べて極めて短時間に、アーク溶射により新規作製プラグおよび再生プラグの表面に被膜を形成することができる。しかも、アーク溶射の装置は、従来のプラズマ溶射の装置と比べてはるかに簡素な構成とすることができ、さらに、アーク溶射の溶射材料である鉄線材は、従来のプラズマ溶射の溶射材料である粉末と比べ安価に調達できる。」

2 引用例2
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願の出願日前に日本国内において公知となった特開平3-277764号公報(以下、「引用例2」という。)には、「溶射皮膜方法」について、以下の記載がある。
「2.特許請求の範囲
1 金属母材の表面に所定材料を溶射して溶射皮膜を形成した後に、溶射部に加熱処理を施すことを特徴とする溶射皮膜方法。」(1頁左欄4?7行)
「〔作用〕
金属母材の表面に通常の溶射、例えば大気中でのプラズマ溶射により溶射皮膜が形成された溶射部分を加熱することによって、溶射皮膜と金属母材表面との境界層に加熱処理を施すことができる。このときの加熱温度を、溶射した所定材料および金属母材の両者について加熱拡散される温度とすることにより前記境界層に拡散層が形成される。一般に加熱拡散処理は耐熱性または耐酸化性を向上させるために行われることが多いが、本発明方法においてはこの加熱処理によって溶射皮膜-金属母材間に拡散層が形成され、この拡散層が溶射皮膜および金属母材表面に微視的には食い込んで界面部を複雑に連繋した状態とし、その結果両者の密着力を著しく向上させる。」(2頁右上欄10行?同頁左下欄5行)
「-実施例1-
SS41鋼を用いて直径42mm、高さ25mmの金属母材をつくりだし、Niが80重量部、Crが20重量部とした粉末をプラズマ溶射して溶射皮膜を形成して機械部材を得た。この機械部材5個について、それぞれ高周波炉に納め700℃で30分間加熱しその後大気中で放冷した。」(2頁右下欄20行?3頁左上欄7行)

3 引用例3
原査定の拒絶の理由に参考文献1として引用され、本願の出願日前に日本国内において公知となった特開昭63-192504号公報(以下、「引用例3」という。)には、「継目無鋼管製造用プラグ」について、以下の記載がある。
「(2) 第2の方法は、下記からなつている。即ち、上述の方法により低圧プラズマ溶射を用いて芯材3の表面にMo合金層が被覆された予成形体に対し、無酸化雰囲気中で1200℃以上の温度によつて熱処理を施した後、機械加工によつて最終プラグ形状に仕上げる。」(3頁左上欄9?14行)(当審注:丸数字の2を(2)と表記した。)
「〔実施例1〕
上述した第1?第4の製造方法により、各々最大径部の直径が136mm、長さが245mmの弾頭型状の4個のプラグ1を製造した。第1の製造方法により製造したプラグ1を本発明の供試体No.1とし、第2の製造方法により製造したプラグ1を本発明の供試体No.2とし、第3の製造方法により製造したプラグ1を本発明の供試体No.3とし、第4の製造方法により製造したプラグ1を本発明の供試体No.4とした。」(4頁左上欄20行?同頁右上欄9行)
「本発明の供試体No.2は本発明の供試体No.1よりもさらに高い80回および50回以上の耐用度を示した。けだし、Mo合金層と芯材との界面において、熱処理による拡散が促進されて両者が金属学的な結合状態を示しているからである。」(4頁右下欄9?13行)

4 引用例4
原査定の拒絶の理由に参考文献2として引用され、本願の出願日前に日本国内において公知となった特開昭61-286077号公報(以下、「引用例3」という。)には、「鋼管圧延機用芯金」について、以下の記載がある。
「芯金表面に金属系粉末、たとえばMoなどを溶射しておき、該溶射皮膜を高温、高圧の雰囲気下で一定時間熱間等方圧加圧処理することにより溶射、皮膜層の緻密化をはかると同時に該皮膜層と芯金の接合界面における拡散性を促進させ接合性の極めて高い被覆層を得ることができる。」(2頁左上欄14?19行)
「実施例2
(単層溶射皮膜形成後熱間等方圧加圧処理の本発明例)
(1)被膜用芯金素材 S45C
(2)溶剤皮膜 単層;溶射材料Mo
(3)溶射皮膜厚さ 1.0m/m
(4)熱間等方圧加圧処理 温度 1100℃
圧力 1200kgf/cm^(2)
時間 到達温度、圧力雰囲気下
1時間」(2頁右下欄13行?3頁左上欄2行)

第5 当審の判断
1 引用発明
(1) 上記第4 1の記載から、引用例1には、継目無鋼管の製造で用いられる穿孔圧延機で循環使用される穿孔圧延用プラグ(以下、単に「プラグ」ともいう。)に関するものであって(段落[0001])、循環使用に際し、プラグ寿命に優れ、低コストで、かつ短時間に再生できる穿孔圧延用プラグを提供することを目的として(段落[0022])、プラグ母材の表面に被膜を形成するにあたり、アーク溶射装置を用い、Feを主成分とする線材でプラグ母材の表面をアーク溶射することにより、プラグ母材の表面に、Fe_(3)O_(4)やFeO等の酸化物、及びFe(メタル)で構成される被膜を形成することによって(段落[0035])、従来の熱処理によるスケール被膜の形成に比べて極めて短時間に、アーク溶射により新規作成プラグの表面に被膜を形成することができ、しかも、アーク溶射の装置は、従来のプラズマ溶射の装置と比べてはるかに簡素な構成とすることができ、さらに、アーク溶射の溶射材料である鉄線材は、従来のプラズマ溶射の溶射材料である粉末と比べて安価に調達できる(段落[0036])という効果を奏する発明が記載されているといえる。

(2) 以上から、引用例1には、
「プラグ母材の表面に被膜を形成するにあたり、アーク溶射装置を用い、Feを主成分とする線材でプラグ母材の表面をアーク溶射することにより、プラグ母材の表面に、Fe_(3)O_(4)やFeO等の酸化物、及びFe(メタル)で構成される被膜を形成する穿孔圧延用プラグの製造方法。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明の「穿孔圧延用プラグ」は、本願発明の「穿孔プラグ」に相当する。

(2) 引用発明の「Fe_(3)O_(4)やFeO等の酸化物、及びFe(メタル)で構成される被膜」は、「アーク溶射装置を用い、Feを主成分とする線材でプラグ母材の表面をアーク溶射することにより」形成されるものであるから、溶射皮膜であると認められる。
そして、引用発明の「Fe_(3)O_(4)やFeO等の酸化物」、「Fe(メタル)」は、本願発明の「鉄酸化物」、「鉄」に、それぞれ相当する。
したがって、引用発明の「Fe_(3)O_(4)やFeO等の酸化物、及びFe(メタル)で構成される被膜」は、本願発明の「鉄と、鉄酸化物とを含有する溶射皮膜」に相当する。

(3) 引用発明の「Fe_(3)O_(4)やFeO等の酸化物、及びFe(メタル)で構成される被膜」は、「プラグ母材の表面」に形成されるものであって、他方、本願発明の「鉄と、鉄酸化物とを含有する溶射皮膜」は、「穿孔プラグ」の「表面」に形成されるものであるから、引用発明の「プラグ母材の表面」は、本願発明の「表面」に相当する。

(4) そして、引用発明の「プラグ母材の表面に被膜を形成するにあたり、アーク溶射装置を用い、Feを主成分とする線材でプラグ母材の表面をアーク溶射することにより、プラグ母材の表面に、Fe_(3)O_(4)やFeO等の酸化物、及びFe(メタル)で構成される被膜を形成する」ことは、「Fe_(3)O_(4)やFeO等の酸化物、及びFe(メタル)で構成される被膜」が「プラグ母材の表面」に形成された「穿孔圧延用プラグ」を準備することといえる。

(5) 以上から、本願発明と引用発明との一致点と相違点は、以下のとおりである。
ア 一致点
「鉄と、鉄酸化物とを含有する溶射皮膜が表面に形成された穿孔プラグを準備する工程を備える、穿孔プラグの製造方法。」

イ 相違点
本願発明は、「前記穿孔プラグを、400?550℃で5?60分保持する熱処理工程とを備える」のに対し、引用発明は、そのような熱処理工程を備えていない点

3 相違点についての判断
(1) 引用例1には、溶射皮膜が表面に形成された穿孔圧延用プラグを、400?550℃で5?60分保持する熱処理を行うことについては、何ら記載も示唆もされていない。

(2) そこで、溶射被膜に熱処理を行うことについて引用例2ないし4の記載を見てみる。

(3) 上記第4 2ないし4の記載から、引用例2ないし4には、溶射被膜とプラグ母材との密着性を向上させるために、Ni-Crの溶射被膜を700℃以上で2時間熱処理すること、Mo合金の溶射被膜を1200℃以上で熱処理すること、Moの溶射被膜を1100℃で1時間熱処理することがそれぞれ記載されている。

(4) 仮に、溶射被膜とプラグ母材との密着性を向上させることが技術常識として、引用例2ないし4に記載されている熱処理を当業者が試みるとしても、引用例2ないし4に記載されている熱処理条件は、引用例1に記載されたFe_(3)O_(4)やFeO等の酸化物、及びFe(メタル)で構成される被膜とは異なる材料であるから、引用例2ないし4に記載された熱処理条件を単に適用しても、溶射被膜と母材との密着性を向上できるとはいえない。

(5) このことは、本願発明の熱処理工程は、溶射皮膜内のウスタイトをマグネタイトに変態させるためのものであって、それによって、溶射皮膜のプラグ本体に対する密着性を向上させているのに対して、引用例2ないし4の熱処理は、溶射被膜とプラグ母材の界面における拡散を促進させるためのものであって、それによって、溶射被膜のプラグ母材に対する密着性を向上させるという、密着性を向上させるための作用機序も異なることからも裏付けられることである。

(6) そして、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項が、周知技術であるという証拠は見当たらない。

(7) そうすると、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び引用例2ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に導き出せるとはいえない。

(8) よって、本願発明は、引用発明及び引用例2ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願請求項1を引用する本願請求項2に係る発明についても同様に、引用発明及び引用例2ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-05-14 
出願番号 特願2012-95434(P2012-95434)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B21B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 瀧澤 佳世  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 鈴木 正紀
河本 充雄
発明の名称 穿孔プラグの製造方法  
代理人 松山 隆夫  
代理人 川上 桂子  
代理人 坂根 剛  
代理人 吉永 元貴  
代理人 上羽 秀敏  

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